土瓶蒸し・エピソード
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土瓶蒸しのエピソード
機会を見極めるのに長けており、商売などに天賦の才を持つ一方、詩などを読むことには天賦を感じられず、未だに賞賛にたる詩を産み出せないでいる。
おせちとは知り合い。
Ⅰ 私塾
商人になる前、私——土瓶蒸しは、田舎のとある私塾で暮らしていました。松茸狩りで生計を立てている小さな村です。
松茸はとても貴重な食材だったが、彼らの取り分はさほど高くはありませんでした。けれど、村人たちの生活を保証できる程度には安定していました。
村人は国の変化にあまり関心がなく、松茸を適度に採って生活すればよいと考えていました。
けれどある年に、 松茸を多く採って売りたいと考えました。
村人は、松茸を買う人たちがどんな人たちなのか知りませんでした。
同時に、どうしたら自分たちの村の松茸が高く売れるかわかりませんでした。
どうやったら松茸は高く売れるのか、皆頭を捻りました。
穏やかでおっとりした村人はそれ以外の心配はしていませんでした。
けれど、私の御侍はんは違いました。
村には小さな本塾があります。
私の御侍はその私塾の主人です。
私の御侍はんは、いつも国家と未来を心配しています。
彼は王都に務めた立派な官吏でした。その後、官職を辞して故郷に戻ってきました。そんな御侍はんを、村人たちはとても尊敬しています。
御侍はんは、村人たちが松茸を採ること以外で生計が立てられるようにしたいと願いました。そして、子どもたちがこの土地を出られるように、私塾を作りました。
村人たちは子どもたちに、彼の私塾で勉強を学ばせました。
御侍はんは、現在の村人たちのような素朴な生活が悪いとは思っていません。彼らの生き方を変える必要はないと考えています。
けれどこれから先の未来を憂いて、この私塾を経営することにしました。
御侍はんのそうした行動で、未来を担う子どもたちは、現在の生産物に頼る以外の道を選べるようになりました。私はとても良いことだと思いました。
私は常々、村人たちのような生活は退屈で不安があるものだと感じていましたので。
私塾の評判はとても良かったです。御侍はんが名声の高い方だったからかもしれませんが……近隣の村からも、地位が高く、 お金がある者は、子どもを私塾で学ばせました。
御侍はんは、私塾が終わったら近隣の村から通う子どもたちを家に送ります。そのついでに、この村では手に入らないものを買って帰ります。
私はそんな御侍はんについていき、松茸を売りました。「原価」に維持費を加え、最近の新作の詩を添えます。
「原価」は商い相手の彼らも知っている価格です。この価格交渉の過程は、私にとってとても面白いものでした。
また購入時には、店長と価格交渉をしました。購入するときは、できるだけ安い価格で手に入れたいでしょう?
しかし、御侍はんはこうした駆け引きが好きではありません。彼はこのような駆け引きは良くないと考えていたようでした。
しかし、御侍はんが住むような田舎で生き延びるためには、 賢く生きねばなりません。
他人を出し抜き、うまく立ち回らずに、どうやって商売を大きくすることができるでしょうか?
それから暫くして。
御侍はんはもっと遠い都市へ行くと言いました。
私は、御侍はんの傍を離れてはいけないと思いました。大切な御侍はんが、誰かに騙されたりしないように。
Ⅱ チャンス
御侍はんの教え子が、時折私塾にやってくる。ここで教えを乞う者もいれば、御侍はんに以前のように街まで教えに来て欲しいと懇願する者もいた。
御侍はんはここでなら教えられるが、街まで出向くことはできないと言った。その場は大人しく帰っていったが、その後も頻繁に私塾ヘやってきた。
私塾で学ぶ者もいれば、やはり街まで来てほしいと望む者たちもいる。その者の中には商人や朝廷の官僚の子らもいた。皆、この国を将来を大切に思っていた。
彼らが御侍はんの元を訪れる時、度々王都から物珍しい土産物を持ってくる。
それらは、この辺境の集落では決して手に入らないような貴重な代物ばかりだった。
これらの珍しい物品の数々は、私の好奇心を引き立たせる。私は土産物を通して、王都への関心を一層高めた。そして好奇心は時間とともに渇望へと変化していった。
御侍はんは私が魅せられたそれらのものを反対にひどく卑しんでいた。
だから余計に興味が湧いた——これらは、王都でどのような価値があるのだろうか?
それから暫くして、御侍はんが病に伏せってしまった。
彼の看病をしながら私は、口にこそしなかったが、王都への好奇心は増していった。
それから間もなくなった。御侍はんが亡くなったのは。
御侍はんは、大切にしていた私塾を私にではなく、私塾の生徒だった者に引き継いだ。
私の志は私塾には向いていないと分かっていたのだろう。それは正しい選択だったと思う。
私塾を引き継いだ者は、御侍はんの意思も引き継いで、貧しい子ども達がいつか国のために出仕できるよう教養を与え続けた。
それはまるで生前の御侍はんを見ているようでーー彼は正しい選択をしたな、としみじみと私は思った。
私は御侍はんの葬儀の手配をしながら、彼がが亡くなる前にかけてくれた言葉を思い出した。
『チャンスは持つものではない。自分で創造するものですよ』
その言葉は、伏せった御侍はんの傍で、彼の手を握り締めていた時に告げられた。
「やはり、御侍はんは全てお見通しだったのですね……」
何かあれば御侍はんのぬくもりと共にそのことを思い出すだろうと私は思った。
御侍はんの葬儀を済ませた後、私は私塾でゆったりと松茸の時期を待っていた。
王都では多くの貴族が好んで松茸を食すことを私は知っていた。
わざわざこの村まで来て、松茸を仕入れていく商人たちは皆、その貴族の舌を満足させるために来ているに違いない。
ーー暫くして。
松茸の時期が訪れ、私は自ら山へと松茸を取りに行った。
私は御侍はんが自分のために残してくれた遺産を、全て松茸を仕入れるために使った。
私塾へのお金は別途用意されていたので、私は遠慮なくそのお金を使うことができた。
村人の皆は、私が王都へ行きたいのだと知ると、松茸を商人たちよリも安く売ると申し出てくれた。
ありがたいことだったが、私はあえて通常の販売額よりも高い価格で松茸を仕入れたいと申し出た。
その代わり、支払いを少し遅らせてほしいと頼んだ。王都でお金を貯めた後、販売額との差額を村の皆に支払うと約束した。
そうすれば、彼らはもう商人たちに松茸を売る必要はなくなる。その分、皆の生活が楽になるだろうと考えたのだ。
それは素晴らしい考えだと自賛して、私は思わず詩まで詠んでしまった。
『秋霜に 金銀松茸包まれて 君と手を取り 肩を並べん』
どうです?
なかなかに良い詩でしょう?
Ⅲ.名利
世の中は中々思い通りにならない。私が持ってきた松茸は王都では売れなかった。
値段は他の商人より低いが、綺麗な化粧箱に入っていない松茸は王公貴族から目を掛けられる事がない上に、不良品をもって彼らを騙しているのではと疑われてすらいる。
王都の商売は既に貴族のご機嫌取りをする商人らに独占されている。
彼らは貴族の生活習慣を知り尽くしていて、取り入れる術を分かっている。
一人で王都に来た私は、何も知らないため、自然にあちこちで壁にぶつかる。
一時は怒りを覚えたが、怒っても仕方がなかった。
チャンスがないなら、チャンスを自ら作って、それを掴むしかない。
幸い、私はまだ少しの蓄えがあった。
私は貯蓄を全て使い切り、必死の覚悟で貴族たちの情報を集め、木箱に寝かせていただけの松茸を一新させました。
王都にいる御侍の学生を見つけ、彼らに道を開いてもらった。
これらの松茸を自分で売りさばくことが出来るように。
それからはすべてが順調だった。
精巧な包装、高価な価格、巧みな言葉遣い、山林について生き生きと説明し、この松茸は山の上で最も雨が降り、栄養が豊富な土地で育った物だと謳い信じさせた。
これは他の人からは買えない、最も貴重で、最も栄養のある松茸だと。
私が初めて王都に来た時は、ここの壮大さと喧騒に目を奪われたが、今は「王都と言えどこの程度か」としか思えなかった。
初めに感じていた新鮮さと好奇心は少しずつ消えていったが、この旅で新しい方向性を見つけた。
どうすればもっと多くのお金を儲ける事が出来るか?
松茸以外に、どんな商売が出来るか?
王都以外に、どこに行けるのか?
同じ品を違う場所で売ったら、どのような価格で売れるのか?
次の目的地では、もっと稼げるのか?
その過程で、私はどれだけの楽しみが得られるのか?
桜の島を走破したいという欲求が心に沸き上がってきた。
至るところを歩き回って、その土地ごとの特産品を知って、私の商売を各地で繁盛させたい。
違う地域の住民に、彼らに手の中の商品を通じて、他の土地で起こっている出来事や、彼らとは全く違った風土や人情を感じさせたい。
御侍が惜しまない名利というのは、王都で上流社会に入るための通行証として、色んな人がこぞって欲しがっている。
私はただこのような名利を利用して、自分の目的を達成したい。
まして、この実現の過程には、きっと興味や楽しさが満ち溢れているだろう。
Ⅳ.遊郭
王都を離れる前の夜、私は王都で一番有名だが、日の目を浴びてはいけない場所に行きました。
そこは夜だけの幻の郷で、男と女が愛を紡ぐ夢の場所、楽しみをもたらす遊郭です。
雑踏の多い通りを歩き、視線を左右に向けていますが、足を止めさせてくれる花は一人もいません。
前方から突然、歓声が聞こえてきました。そして、人をよけさせるための鈴の音が聞こえました。
傘の下には華やかな衣装をまとった美人がいました。
高い下駄を履き、金魚のような足取りでゆっくりと歩み、おしとやかだが艶めかしくもある……
彼女は花魁でした。
私は他の人と同じように立ち止まり、この華麗な花魁道中を静かに見守ることに。
私はそばの男に向かって尋ねました。
「彼女が誰か知ってはりますか?」
「彼女はこの街で一番美しい花魁でありんす。」
「どうやったら彼女に会えますか?」
男は私の質問に答えず、笑って、手の中のパイプを持ち上げてゆっくりと煙を吸いました。
その時初めて、彼が身につけている物は後ろの柵の中にいる遊女たちと大差がないことに気づきました。
白い煙が彼の周りを漂い、彼は白い煙を通って私の前に近づいてきて、そっと私に言ってくれました。
「ぬしが彼女を手に入れるのは、難しい。名無しの者に月を取る事が出来ない。もしぬしが愛情を欲しているだけなら、この遊郭のどこにでもありんす。その子も、あの子も、彼女全員ぬしに愛の喜びをもたらすことが出来るだろう」
なぜか、男の距離が近いほど、口調が軽いほど、彼が何かを隠しているような気がしました。
私は思わず、笑いながら顔を上げ、暗い月光の下で彼の両目を捉えて。
「じゃあ、あなたは?」
これが純米大吟醸との出会いです。
その日私が見た花魁は、彼の御侍でした。
最初は、大吟醸もこの遊郭の他の人と同じように、彼の一言一句は彼らの「愛情」を売るためにあるものだと思っていました。
しかし、大吟醸と長く付き合ううちに、彼の御侍ととある武士の間の感情を知って、その時の彼を誤解したような気がします。
彼はその時、将来を約束した人がいる彼の御侍のためにできるだけ負担を減らそうと考えていただけかもしれません。
私が大吟醸の下で得たいのは彼が言った愛情ではないが、何かと聞かれると、彼に秘められた本心に対する興味だけです。
その後、私は大吟醸の「お客さん」となり、彼と親密な関係を維持し、彼を通して遊屋と定期的に商売を始めました。
私は故郷に帰って、村民に私の約束を果たしました。
再び出発する時、私はもう旅商人になっていました。
私は松茸で故郷と王都の間に橋を架けました。
十分な資金を蓄えた後、新しい商品で新しいビジネスを始めて、さらに遠くまで行くことに。
しかし、どの商道を行っても、最後には王都にたどりついてしまう。
王都内には私の興味のある名利があります、私の興味のある人もいます。
Ⅴ.土瓶蒸し
土瓶蒸しは誕生以来、彼の御侍のように国のために尽くしたいと願った事は一度もありませんでした。
これは彼が山野の間で召喚されたからかもしれません。
彼の心の中には自分と、御侍と、その土地とその土地に住んでいる人しかいません。
土瓶蒸しは世俗的な食霊だと自負しています。
でも実際彼の名利に対する追求は彼の欲望というより、むしろ彼の楽しみです。
何をするにも、実現の過程が困難であればあるほど、彼はより興味を持ち、やる気が出てきます。
彼の作詩に対する執着は、もしかしたら誰もが彼の詩を良い詩として認めないからかもしれません。
もし土瓶蒸しの商売の才能は生まれつきだとしたら、他人の気持ちを洞察する力は彼の御侍から来ているのかもしれません。
土瓶蒸しの御侍は彼の食霊をよく理解しています。
彼が学生一人一人の事をよく理解し、彼らに一番適している道を分かるように。
彼は土瓶蒸しの小細工などを明確に反対していないのは、彼は土瓶蒸しがもっと大きな事を、もっと上手に成し遂げられる事を知っていて、彼がまだいる限り、土瓶蒸しはこの狭い範囲で小さな商売をするしかありません。
彼が商売をする際きっぱりと取捨選択出来るのに対し、本人は自覚していませんが土瓶蒸しは彼が気にかけている人を放っておけないでいます。
彼は「御侍はんに対する想いは、彼が御霊としての責任から来ている」と、
「純米大吟醸はんへの関心は、純米大吟醸はんが偽りの仮面の下に隠した正体への興味から来ている」と、思っています。
長期にわたる好奇心が渇望に変わるように、経年の友情が親愛に変わることもあります。
このように気持ちはいつも思いがけない変化を遂げますが、それは唐突で意外なことではありません。
ただ当事者がいつの日かそれに気づけるか、その人次第です。
残念なことに、時が過ぎて、国が移り変わり、
土瓶蒸しが桜の島の隅々まで回り終えた時、彼はやっと自分の心を知ることができました。
でも、その時、全ては既に決まってました。
結局、土瓶蒸しはどこかに留まることはありませんでした。時たま王都に寄ることはあります。
遊郭が火災で取り壊された後、彼は出資して歌舞伎町を再建しました。
居場所を無くした人や食霊のために新しい居場所を提供し、王都での名声を新たに高めました。
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