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オシドリ粥・エピソード

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オシドリ粥のエピソード

外見は上品で美しいが、実際は思慮深く、人の心を洞察するのに長け、自分は捉えどころがない。高い文学の才能を持つ放浪作家。彼の過去を知る者はいない。今は弦春劇場に住んでいる。劇場の本当の支配者。

Ⅰ.序幕


「おやおや、先生、もう行くのですか……もう少し滞在されては?」


春のはじめ、午後の木漏れ日が揺れる柳とともにかすかに動かされている。目の前のふくよかな体型の男性が残念そうに私に挨拶し、目には別れを惜しむ気持ちが溢れていた。

しかし、その熱い視線は、終始私の背負った鞄いっぱいの台本に注がれていた。


「黎さん、先日はお世話になりましたね」


「いえいえ、礼を言われるまでのことではございません!先生のおかげで、梨雲園の今があるのですから!しかし先生、いつまたいらっしゃってくれます?」


「ふふ……縁があれば、また会えるでしょう」


「縁はあります!台本にも書かれているように、梨雲園と先生にはきっと前世で結ばれた縁があるはず!なので先生、戻ってきたいと思えば、梨雲園はいつでも歓迎しますよ」


私は微笑みで応え、それ以上言葉を出さなかった。


少し離れたところで、緑の琉璃瓦と朱色の屋根の劇場は人集りで賑わっている。記憶にあった場所とは大違いだ。

あの一世、私とこの場所はすれ違いの縁しかなかった。


その時、私はあちこちを旅し、偶々玉京に隣接するこの繁華な小さな町に立ち寄った。そして、激しい夜風と共に襲ってきたのは、天に届く猛火だった。


朱色と墨色が混ざり合い、建物は残骸となった。そして一人の老人が庭先の高い梨の木に首を吊っていた。


「ああ、可哀想に、黎の旦那もこの年だし……劇場のみんなは助かったのかしら?」

「昔から黎の旦那は借金を抱えていて、妻子もむりやり連れて行かれたと聞いたことがあるけど、もしかしてこれって……借金取りの仕業なのか?」

「さぁ……梨雲園は経営も厳しいし、店主は貪欲だし、次第に大きな借金を抱えるようになったそうだ。今回はもう手に負えないから、いっそうのこと火を放ってしまおうってなったのかもしれない……」


議論の声がまるで燃えさかる火のように終わりが知らない。崩れ落ちた看板にある「梨雲」の二文字が、すでに煙で曇っていた。


ふっと我にかえって、太陽の下で、黎の旦那の表情は意気揚々としていた。


「先生、ではこの先はお控えさせていただきます」


「ええ、ではまた」

私は軽く頷き、少し立ち止まって、また楽器の音が絶えない劇場に目を向けた。


「また会いましょう……今回の『縁』は、きっと違う結果をもたらすでしょう」


……


台本は創意工夫で勝つ。ありきたりなことは嫌うと、人々は言う。


しかし、物語を影響する要素は数多く。人であったり、物であったり、天気であったり、微細なところでも新鮮さを生み出すことが可能だ。

まるで見えない手が筆を持ち、紙に点と線を描くかのように。


この変化は大したことはない。ほとんどの場合、私はその形のない手に喜んで付き合っていた。

──例えば今、夜雨が突然降り出す野外に、明かりのついた茶屋がちょうど目の前に現れたとき。


パ――ン

そこにはいるなり、びっくりするぐらいの物音が響いた。


舞台上の白髪の老人が茶碗を下ろし、わざとらしく喉を鳴らした。

「おっほん!皆さん、本日は前回続きの……」


「ちょっとちょっと、おじいちゃん、今日もまた玄武帝と山河陣の話?もうこっちが語り部になれるぐらい何回も聞いたよ!」

「そうだそうだ!町の劇場は毎日新しい劇を上演してるし、私たちも新しい話が聞きたい!」

「それ、梨雲園でしょう?『文曲星』が降りてきて、ちょうど彼らに当たったってよ!だからあそこは次から次へと新しい舞台が上演されるんだって!」

「それ聞いた!かの有名な『暁夢生』先生だろ?でも、私に言わせると、どこの劇場も玉京の弦春劇場にはかなわないな!そっちの台柱はまさに仙人みたいな人物だよ!」


客席で皆が騒ぎ、盃もチリリンと交わし、一瞬の間賑わいが広がった。

壇上の老人が何十回も驚堂木を叩き、顔を赤らめた時、人々はようやく少し静かになった。


「おっほん!……ならば、我々も今日は新しい話をしましょう。ちょうど、先程皆さんが口にした『弦春劇場』と、そこの隠れ仙人とされる人物――羊散丹の物語です!」


窓の外、雨がしりりと音を奏で、室内の老人はゆっくりと物語を語り出した。気がつくと、語り部の声と灯る明かりの火花が飛び散る音しか残らない。

私が一口熱いお茶を飲み、そのなじみ深い名前を噛み締めた。


弦春劇場……

次の舞台はそこにしよう。


Ⅱ.登場


玉京は繁華で豊かな土地であり、享楽な場所が至る所にあり、華麗な音楽が絶え間なく耳に入る。

その中、一番有名の「弦春」という名の劇場の観劇券は、千金を費やしても手に入らないほどのものだった。


しかし、遥かなる前世で、この劇場は早くも官府に財産を没収されて潰されたのでは?

明らかに、これはもう以前のような無害な「お遊戯」ではなくなっている。何かが密かに変化している……


「お客様、劇を観にいらっしゃったのですか?でも今日はお休みですよ、別の日にお越し下さい!」

幼い声が低いところから聞こえ、琵琶を抱えた少年が「本日休業」の札の前に立ち、私を見上げている。


「私は劇場の主人を訪ねて来たのです。少年、知らせてくれますか?」


「王のおじさんのお客様ですか!もちろんです!でも……お客様のお名前は?」


「王さんに、『暁夢生』が訪ねてきたと伝えればわかると思います」


少年はおとなしく頷くと、一目散に庭へ走り出した。その半開きの赤い扉から、微かに霊力が漂っているようだった。

どうやら弦春劇場には、その少年以外にもまだ、たくさんの食霊を隠しているようだ。


物語の展開の変化は、彼らと関わっているのだろうか……?


「まさか噂の『暁夢生』先生が、うちの劇場にいらっしゃったとは!大変失礼しました!先生、どうぞどうぞ!」

瞬く間に、笑顔いっぱいの王の旦那が急ぎ足で出迎えてきた。

「そうそう、シアオディアオリータン、先生にお茶をお出ししなさい」


「はい!先生、こちらにどうぞ。はい、お茶です!」

王の旦那の言葉が終わると同時に、シアオディアオリータンと呼ばれる機転の利く少年が既にお茶を淹れてきた。


「ふふ……ありがとう。弦春劇場の名前は以前から聞いていました。今回は旅で偶々こちらに立ち寄って、ご迷惑をおかけしました」


「それはまさに運命です!先生、ここで数日滞在されるのはいかがですか?うちの西の部屋は山々に近く、とても静かで、台本を書くのに最適ですよ!」


私は頭を下に向き、一口お茶を啜り、考えるふりをし、笑みを浮かべながら王の旦那の期待に満ちた顔を見て言った。


「では、お言葉に甘えて」


……


弦春劇場の西の部屋は確かに清らかで静かな場所だ。前庭には千本の竹があり、風に揺れられると、涼しさが広がる。

しかしなぜか、ここには妙な気配が混在しているように感じる。


少し考え込んでいたら、広げた白い紙に墨の染みが広がっていた。

私は眉をひそめ、砕けた記憶の中で、別の馴染みのある黒が脳裏に浮かんできた……


オシドリ粥――これがお前の名前だよな?あっそうそう、俺がお前の御侍だ!」


そのぼやけた顔は私の目の前にあるのに、私はその顔がはっきりと見えず、あの時抱いた感情も再び思い出すことができなかった。

幾度の転生の中で、彼はすでにその古びた部屋の壁のようにぼろぼろになってしまった。


オシドリ粥、食霊は食べ物を霊力で作れないの?でも市場の焼き鳥、すっごいいい匂い……何?店主を気絶させたら焼き鳥を持っていけるかな?そんなのだめだめ!」

オシドリ粥、今日はこっそり学校の外で授業を聞いてきたよ!いっぱい文字覚えた、教えてあげるよ!」

オシドリ粥、占い師が俺の将来は衣食住に困らず、子孫がいっぱいいるって言ったよ!俺、小さい時から親はいないけど……でもお前を呼び出したから、お前が俺の家族だ!」


少年の声が積み重なり、ついに墨がおちる時に突然止んだ。


まるで舞台上の照明が一斉に消されたかのように、幕の後ろの無形の手がついに伸ばしてきた。生を持つものすべてが、即座に絞め殺される。


――しかし、それは終わりではなく、まだまだ序盤に過ぎなかった。


どれくらい経ったのか、虚無の中を彷徨っていた私が再び目を開けると、元の場所に戻っていた。


オシドリ粥――これがお前の名前だよな?あっそうそう、俺がお前の御侍だ!」

オシドリ粥――これがお前の名前だよな?」

オシドリ粥――」

……


何度も繰り返され、暗闇の大波のように、断片的な記憶を洗い流す。

しかし残念なことに、私は彼の命を、一度も救うことはできなかった。


無形の手によって演出された台本に、私はもう飽きた。

他人の劇中の手駒より、筆を執る者になる方がよほどましだ。


何回前の人生から、私は四方を旅し、未完成の物語の境界線に墨を落とすことを選んだ。

もしかしたら、夢が覚めたとき、一羽の蝶が、迷い込んだ障壁を飛び越えられるかもしれない……


「……暁の夢が蝶を惑う場所、煙雲春秋尽く、此の身は終いにして向かう身にあらず」


風が立ち、優雅な歌声が竹林の奥から聞こえ、緑をすり抜けて窓の中へ。いかにも素晴らしい趣だ。

私は心を落ち着かせてしばらく聞いた。そして、曲の終わりが近づくと、私は身を起こして竹林の中へ向かった。


弦春劇場にはやはり、ただならぬ人物が隠していた。


Ⅲ.変調


「『蝶の暁の夢』をこんなにも魅力的に演じられるとは……ひょっとして羊散丹ですか?お会いできて光栄です。」


竹林の奥の青年は声に振り返った。燃えるような紅の舞台衣装と反比例のきれいな顔立ちだった。


「お前は……?」


「ふふ、梨園の中では『暁夢生』という名で通しています」


「『暁夢生』……先生?」

彼は無表情のままだが、清らかな瞳は少し見開いた。どうやら無邪気な人のようだ。


「そんなに固くならないでください。オシドリ粥と本名で呼んでいただいて構いませんよ」

私は思わず微笑んだ。清風が千本の竹を揺らし、心地のいい音を奏でている。

一枚の葉っぱが蝶のように舞い降り、私は手を差し伸べてそれを受け止めた。


「『蝶の暁の夢』は私が書いた最初の台本です。三千世界、一瞬にして過ぎ去り、もしかしたら、人々は夢の中の蝶と何ら変わりはないかも知れません……あなたはどう思いますか?」


「蝶も……悪くはないと思う」

彼が風に舞う竹の葉を見て、しばらく真剣に考え込んでいたようだった。

「夢であっても、彼らは行きたい場所へ飛んでいける、力が尽きるまで」


「もしそれが永遠に繰り返される悪夢で、逃れられない……『輪廻』だとしたら?」


「『輪廻』?」

彼は私に首をかしげて私に目を向けた。その透き通るような瞳に何の秘密も隠されていない。


私は竹の葉を手から放し、それが風に舞い落ちるのを見つめて、一瞬、言葉が出なかった。

彼は「輪廻」を知らない。弦春劇場の変化も、もしかしたら人為的なものではないかもしれない……


「実は『蝶の暁の夢』以外、劇場で最も人気なのは『山河祭』だ。それも先生の代表作だよね」


「そうですか……玄武の昔話で作ったので、分かりやすいからでしょう」


彼の肩掛けを飾る麗しい流蘇が風に揺られ、踊る竹の葉と楽しげな雰囲気を醸し出し、私の気分も軽やかになった。


「せっかく台本で気が合う人に出会ったので、機会があれば、ぜひあなたのために台本を書かせてください」


「本当ですか……?」


「約束します」


……


この数日、弦春劇場は『暁夢生』が劇場に来たと大々的宣伝し、大掛かりの劇が連続して上演された。

第十三回公演の『山河祭』が上演される最中、思いがけない客が訪れた。


「先生、聖女様はお部屋でお待ちです」

黒衣の男が幕を開けてくれた。ろうそくの光が薄暗い部屋の中で、微笑みを浮かべた女性が台本を手にしてゆっくり頭を上げた。


「『暁夢生』先生……それとも、オシドリ粥と呼ぶべきかしら?ご高名はかねてから伺っています」


「ふふ、聖女様、お好きな方を呼んでいただいて結構です。それでは、夜分に何のご用でしょうか?」


「ここ数日、先生が書かれた台本を読んでいて、ちょっとわからないところがあるので、ご教示ねがいますか?」

彼女が示したのは、最近何度も上演された『山河祭』の台本だった。


「先生、ここに書かれている『悪念』や『世界を崩壊する力』とは、一体何を指しているのでしょう?」


揺れるろうそくの影が蛇のように壁に蠢く。私は無表情のままあの人と向かい合った。そして、彼女の瞳から一瞬、威厳のようなものを感じた。


言い伝えでは、玄武は不老不死のために「山河陣」を築いたと言われているが、おそらく本当の目的は他にある。

何度目かの人生で、私は玉京で天幕が破れ、妖魔が横行するのを目撃したことがある……、そして、それは「聖教」と呼ばれる組織と何らかの関係があるようだった。


「ふふ、それは私が街角での言い伝えを元に作った話に過ぎません。特に深い意味はありません」


「そう……」

彼女は探るように私に近づいて、見つめてきた。


「実は、作り話だろうと、何かを知っていようとどうでもいいの……今日は答えを求めに来たのではなく、盟友が欲しくて来たの」


「聖女様……それはどういう意味ですか?」


「先生、聖教に協力していただけないかしら?」


「協力とおっしゃるなら、私にもなにかメリットがあるのでしょうか?」


「この世界の『秘密』について……」


「……?」


「聖主様が降臨なさることができれば、先生がずっと追い求めている答えを教えてくださるかもしれない……」


Ⅳ.伏線


この世界の真相について、私はいろいろ考えた。


それは一体どこから始まり、なぜ消え、そしてなぜ繰り返すのか?

長い年月が潮のように満ち引き、なのに秘密は常に深海に隠されている。


その無形の手による遊戯は今も続いているが、真の物語は今ようやく始まった。


「先生、入ってもいいですか?」

扉を軽く叩く音がして、私は手元の作業を止めた。


「どうぞ」


「先生、料理人たちが白キクラゲのスープを作ったので、持ってきました!」


「ありがとう」


シアオディアオリータンは慎重に熱いお椀を私の机に運んだが、山のように積み上げられた招待状と帳簿に驚いた。


「先生……これ、こんなにたくさん、全部今日届いたのですか?」


「ふふ、もう2時間あれば全部見終えるでしょう」


「えっ、速い!さすがは先生ですね……この間は本当にお疲れ様でした。王おじさんの体調がずっと優れなくて、劇場のことは先生に助けられてばかりで……」


「構いません。ここに長く滞在すると王さんと約束した以上、これぐらい手伝うのは当然のことです」


私は彼の頭を軽く撫で、笑いながら重箱から飴をいくつか取り出して彼に渡した。

「スープ、とても美味しかったです。わざわざありがとう。王さんの方で何か手伝うことがあれば、いつでも声をかけてください」


仲春の午後、日影が窓際でたわむれ、金色の光を床に散りばめている。

シアオディアオリータンを送り出した後、私は書籍の山に埋もれた手紙を取り上げ、一行の文字が日光の照らしとともに浮かび上がった。


「子の刻、お待ちしている」


……


「先生、順調かしら?」


薄暗い茶室、持ち込まれた夜風がろうそくの火を揺らし、ゆらゆらとその影が席に座っている人物の顔に舞い踊る。


「ふふ、聖女様のほしい情報はすべてここにあります」


チキンスープは密書を受け取り、素早く目を通すと笑顔が浮かんだ。


「さすが……妾が見込んだ方ですわ。もしあの日、先生を聖教に入るのを説得できなかったら、我々の一大損失だわ」


「恐れ入ります、聖女様。ただ……聖教に入る、という言い方は、すこし言い過ぎだったのではないでしょうか?私たちは単なる協力関係です」


「ふふ……言い方はどうであれ、さほど重要ではありませんよ。聖教が重視するのは実績のみです……」

チキンスープは密書をしまい、茶を一口飲んだ。

「しかし、この弦春劇場は素晴らしい場所ですね……先生の言う通り、百川を受け入れ、万声を秘めている」


「弦春劇場は玉京という繁華な地に位置する上に名が広い、四方から人が集まるのは当たり前、情報集めはさほど難しいことではありません」


「こんなよい場所、先生、早く手の中に収めないと。いっそのこと、王の旦那を……」


「すでにこれまで待ったので、もう急ぐ必要はありません」


……


夜が深まり、劇場に戻ったときには、すでに夜が明け始めた。


深い竹林が風に揺れ、一筋の赤が長い間待ったかのように、緑をかき分けて出てきた。


オシドリ粥、やっと帰ったね……」


「ずっと待っていたのですか……?」


「うん、王おじさんの具合がまた悪化して、今日はもう実家に連れて帰るって息子さんが言った」


「そうですか……王さんの病は痛みも苦しみもないが、一日中眠気に襲われるのも大変なので、家で休んでもらうのはいいことです」


私は軽く頷いた。それがいい……チキンスープとの付き合いは疲れる。

聖教の「薬」は命を奪うものではないが、無害な人を苦しめ続けることは長い目で見れば絶対に正しいやり方ではない。


「……あとお前、最近いつも夜中に出かけているようだけど、何か厄介なことに巻き込まれたのか?」

羊散丹は数歩前に出てきて、心配そうにこちらを見ている。


「私のことは心配する必要はありません。ただ用事を処理に行っているだけです」


「用事……?僕にできることがあれば、教えてください」


「いいえ、複雑で心身共に疲れるようなことにあなたを巻き込みたくありません。私一人で十分です」

私は首を振り、彼をなだめるように微笑みを投げかけた。


「あなたが好きなことをしていればいいのです。あなたのために書くと約束した新しい台本、もう執筆を始めていますよ」


Ⅴ.オシドリ粥


初冬、白い雪が竹林を覆い隠す。


珠玉のような琵琶の音は、甘泉のように軽やかに流れ、赤を纏う絶世の美青年は水袖を振り、美しい唇を軽く開くと、琵琶の音色をも劣らせた。

一方、向かいの青を纏う男性は、派手な椅子にもたれてくつろぎ、笑みを浮かべながら、雪原の中に凛と咲く紅梅のような彼を見つめている。


プチン!

琵琶の弦が突然切れ、歌声も途絶えた。


「あっ!す、すみません!つい、力んでしまって……」

男の子が慌てて琵琶を抱え上げ、小さな顔が寒さで真っ赤になっている。


「ううん、お前のせいじゃない。寒すぎて、弦が切れやすくなっただけだ」

羊散丹は首を横に振り、いつものように表情は変わらないが、口調はずうぶん温和になった。


「うぅ、でも……ボクのばか、つい数ヶ月前に新しく買った琵琶なのに……」


「なぁに。明日、琴月坊に行って、いい琵琶を新調しましょう。」

男の子が悶々としているのを見て、オシドリ粥は彼の頭を撫で、やさしく笑いかけた。


「え、いいんですか!」


「もちろんです。空が暗くなってきましたし、もうすぐ雪が降りそうです。部屋に戻って暖を取りましょう」


「はい!ボク、ここに来る前に厨房にお願いして甘水を作ってもらいました!帰ったら一緒に飲みましょう!一つは少し甘さ控えめにしてもらったから、羊散丹も喉を痛めずに飲めますね!」


「ふふ、あなたは本当に気の利く人ですね。でも、ルージューホーシャオはまた剣の修行に行っちゃったみたいで、今日もあなたの甘水は飲めないようです」


ほんの少しの時間しか経たないうち、空には暗雲が広がり、三人が廊下を抜ける前に、空から大雪が舞い降りた。

突如、吹雪になり、施錠されていない扉がガタガタと音を立て出した。


一人の老人が荷物を担いで院内に急いで入ってきた。彼は蓑の雪を振り落としながら、挨拶をした。

「すみません、ご主人、外で急に雪になって、しばらくここで雪宿りをさせてもらえませんか?」


「構いませんよ、おじいさん、中に入って一緒に暖を取りましょう」


「本当に感謝します!はは、普段よくこの劇場の前を通るが、今日は初めて中に入りました、やっぱり立派ですね!」

「お二人も、仙人様のような顔立ちで、こちらの子供もまた可愛らしい、はては皆さん、ご兄弟ですか?」

老人は三人に続いて部屋に入り、荷物をおろして早速褒め言葉を放った。


しかし、赤い服の青年はただ火を見つめて、青い服の男性はなんとも言えない笑みを浮かべ、男の子は甘水を次から次へと飲むだけだった。


老人は気まずそうに笑って、すぐに話題を変え、荷物の中身を全部取り出して見せてきた。

「ご主人、面白いものがたくさんありますよ、骨董品、玉石、書画、なんでもあります!ご覧になってみませんか?」

「ご主人が手に持っているのは台本ですね?きっと本を愛する方でしょう、この古書を見てみませんか?これを手に入れるのに苦労しましたよ……」


老人は荷物の一番底からぼろぼろの本を取り出した。本の表紙は半分しか残ってなくて、なにやら奇妙な龍の模様が描かれている。

「古書ですか……?見させていただけますか?」

オシドリ粥は眉を上げ、興味が湧いたようだ。


「もちろんもちろん、どうぞご自由に!」


オシドリ粥はその埃まみれの本を受け取り、ざっくりと目を通した。

老人は期待に満ちた顔で、この謎の店主の一挙手一投足を観察していたが、一切の感情の変化が見られないことに落胆した。


「載っているのは普通の俚俗の話ばかりですが、暇つぶしにはなります」

オシドリ粥は淡々と笑みを浮かべ、本を横の机に置いた。

「おじいさん、ここで出会ったのも一つの縁、この本を買いましょう」


……


光陰矢の如し、瞬く間に年末が近づいた。

数日にわたる大雪の後、弦春劇場は久しぶりの晴れた日に再び開店した。


人々が余暇の時の話題が、また梨園の面白い話や、隠れ仙人のような羊散丹、そして神秘的な「暁夢生」になった。


「ねえねえ、聞いた?最近隣の町にある梨雲園が大繁盛しているらしいよ。しかも玉京に新しい劇場も開くって話よ、弦春劇場と勝負するつもりみたいだよ!」

「梨雲園が駄目になるところを、『暁夢生』先生のおかげで再起できたんだろう?今『暁夢生』はもう弦春劇場の支配人になったんだから、梨雲園はなにを持って弦春劇場と張り合うつもり?」

「そうそう!でも、変な話、『暁夢生』先生はずっと四方を旅してたそうじゃん?なぜ急に弦春劇場で落ち着いたのかな?」

「それがね、本当に面白いんだよ……へへ、俺も聞いた話なんだけど、羊散丹と関係があるそうだぜ。まあ、ああいう仙人みたいな人物、誰が見ても惹かれるよな……」

「そうそう!しかも『暁夢生』先生ときたら、一擲千金で劇場の後ろの広い荒地を買って、羊散丹のために黄金の家を建てるって話だ!」


此の時、弦春劇場にて。

積もった雪が残る竹林の中、オシドリ粥は手を背に回し、一人で遠くの険しい山を眺めている。


「混雑した気配の原因はそれですか……」

彼は指で玉の指輪を回し、瞳には山々の雪景色が映し出された。


「新しい劇の始まりです」



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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018年10月11日
    • Android
    • リリース日:2018年10月11日
カテゴリ
  • カテゴリー
  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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