武夷大紅袍・エピソード
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武夷大紅袍のエピソード
人々に忘れられた神様。人間を愛していて、助けを求められれば全力を尽くして助けてくれる。だが、ある事情で浮世との接触を避けている。
Ⅰ山間部
山いっぱいの紅葉が山全体を赤く染め、そよ風が吹き、雲が青空を泳いでいます。
閑雲野鶴の生活は、いつも小さなハプニングに破られる。
歓声をあげて山から駆けてきた子供たちが吾の小屋に慣れたように駆け込んできた。
猟師と薬草農家は、この山奥の生活で、一番よく見かける人たちです。
他の山と違って、この山は吾と西湖龍井のために、神がほとんどいなくなりました。
人間たちも、薬草や獲物を探すのに慣れてきました。
吾は薬農家の者から荷物を受け取り、彼にお礼を伝えます。
「先生、これはご注文の調味料と普段使える調味料です。よかったらどうぞ」
「ありがとうございます、ありがたくいただきます」
山奥に長く住んでいて思うことは、生活は快適ですが、特別なものが欲しいとき、なかなか面倒がかかることでしょうか。
そこで、いつも来る薬草農家と漁師たちに必要な用品を持ってきてくれるようにお願いしました。
そんなある日、薬草農家の子どもが、吾の着物の袖を掴み、話しかけてきた。
「先生はどうして私たちの村に住まないですか?そうしたら毎日いろんな話ができますよ」
「そうですよ!先生、もしかして住むところがないのですか?だったら、先生は私の家に住んだらどうです!」
「あっ、狡い!だったら私の家に来てくださいよ!」
「先生はうちに住みます!」
「いいえ、うちですよね!?」
子どもたちが騒ぎだしたので、彼らの親は子どもたちのおでこを指でピンと弾いた。
「先生が煩がってますよ、静かにしなさい!これから薬を買いに行きます。夕方迎えに来ますから、いい子にしているように」
「はーい!」
日の光が薄紅のオレンジ色に変わり、さっきまで元気よく遊んでいた子どもたちが、寄り添っていつのまにか寝ていました。
部屋の中の薄いタオルを彼らにかけて、吾は子どもたちが眠っている顔をそっと見つめています。
すると不意に服の袖が引っ張られました。
振り返ると、そこには一匹の赤い子狐が頭を上げて、青い瞳で吾を見ていました。
吾と視線が交わると、子狐は歩き出した。
吾はそれについて行きました。連れてこられた場所は、そう遠くない場所です。
子狐が立ち止まり、吾を見上げる。吾はそこまで軽い足取りで近づいた。
するとそこには、子狐が草の中で縮こまって震えていました。足にはとても酷い傷があります。
吾は子狐たちをそっと抱き上げ、吾の小屋まで連れてきて、傷の治療をしました。
薬の臼の中に薬草を入れ、止血の薬を作りました。そして、怪我をした狐の傷口に薬草をつけてから、綺麗に洗ったガーゼで覆っておきました。
吾は元気な方の子狐を抱きあげました。その体はとても柔らかく、ふわふわとした長い尾を振っています。
そんな子狐を撫でながら吾は、軒下に座って夕日の景色を鑑賞しています。するとどこからかお茶の香りが漂ってきます。
このような生活を吾はずっと過ごしています。それは昔から変わりません。
――どうかこれからも、変わらない日常であってほしいです。
Ⅱ.離山
空の色が暗くなり、最後の陽ざしが雲によって遮られる前に、薬草農家と猟師たちは吾の小屋まで戻り、寝入っていた彼らの子どもを起こした。
子どもたちと別れ、振り返ると、裏口からこっそりと入ってきた馴染み深い者が小屋の中に座っていた。
「龍井茶、お茶を淹れてきます」
吾は柔らかい子狐を龍井茶の懐に押し付けた。彼は明らかに小動物との接し方をわかっていない様子だった。
彼は戸惑いながら彼の膝の上に丸まった子狐を見ていた。吾は彼に背を向け、思わず笑ってしまった。
西湖龍井、彼との付き合いは長い。
あの湖畔の小舎が出来る前、吾は既にこの湖の底に沈んで、静かに世間を観察している者とは知り合っていた。
この世に神はいない、しかし人々は自分たちの願いを叶えるために神を創造した。
そして彼は人々の希望に沿い、雨風から人々を守る龍神となった。
あの子狐は彼に慣れたのか、彼の掌にすり寄っていった。西湖龍井のいつもの冷たい表情も、これによって少し柔らかくなっていた。
「可愛らしいでしょう?」
吾はお盆を下ろし、まだ湯気が立っている湯飲みを彼の前に差し出した。その時、彼は子狐の体に置いた自分の手を戻し、一つ咳払いをした。
「どうして吾のような暇人の元へ来たのですか?」
「大紅袍、共に山を下りて欲しい」
「うん?」
「また疫病が流行り始めた。雄黄酒によってある程度状況は落ちついているけれど共に来て欲しい。彼一人では手が回らない」
吾は多くは言わず、すぐに行動を始めた。薬箱を片付け、彼と共に長らく離れる事のなかった深山から下りた。
Ⅲ.小舎
光耀大陸のとある町には鏡のような湖があった。そして、その湖の畔にいつの間にかある小舎が建てられていた。
伝説の龍神――西湖龍井はそこに住んでいた。
初めは彼しかいなかった。彼も小舎より、湖底にある彼しか入れない小さな空間に住む事を好んだ。
しかし、彼を祀る人々が増えていくにつれ、湖畔には元からあった龍神像以外に、花園のような小舎が建てられる事になった。
人々の「龍神様」はこの小舎に住まわれていると、全ての人が知っていた。
最初の子推饅、その後のロンシュースー、ロンフォンフイ、そして最近住み始めたのは雄黄酒。
小舎に着いた時、庭は薬草の匂いで充満していた。雄黄酒は額に玉の汗を浮かべていて、ロンフォンフイは彼の背後で薬箱を持って手伝っていた。ロンシュースーも袖を捲って病人たちの額に浮かぶ冷や汗を拭き、冷たい手ぬぐいを乗せていた。
まだ行列に並んでいる病人たちを見て、吾は急いで自らの薬箱を持って雄黄酒たちの輪に加わった。
吾と雄黄酒たちの努力の元、やっと全ての病人に処置を施す事が出来た。
吾は自分の額に浮かんでいた汗を拭って、一息ついた。
「近頃、疫病が多くなっていますね」
「先生、もし人々の安否が心配なら、しばらくこちらに留まりませんか?」
吾は頭を横に振った。かつて経験したあの全てをもう一度経験したくはなかった、そして彼らにも経験して欲しくなかった。
しかし、彼らが努力している様子を見ていたら、自分の気持ちをうまく言葉にする事ができなかった。
彼らは人間を好いている、人間の善良な心を信じ、心から彼らを助けようとしている。
龍井茶は吾の躊躇いを見抜いた。彼は雄黄酒に他の事をさせて、慰めるように吾の肩を叩いて言った。
「あまり考えすぎるな」
彼の掌の温度が伝わり、吾の心の中にあった不安は抑えられ、長い溜息をついた。
夜になると、柳の木の輪郭は夜色の中で見え隠れし、細長い枝は風に乗って舞っていた。
湖畔の町に温かい明かりが灯っていく。
吾は小舎の窓辺に座った。そよ風は各家々で薬草を煎じている匂いを運んできた。足音の後、お盆が茶机の上に置かれた。
振り返ると、子推饅がお茶を淹れていた。少し肌寒い日だったため、白い茶碗からゆらゆらと白い湯気が舞った。
「何を心配しているんですか?」
吾は茶碗を持ち上げる手を止め、苦笑いを浮かべて子推饅の方を見た。
「そこまであからさまな顔をしていましたか?」
「龍井が心配しています」
子推饅は微笑みながら窓の外を指さした。そこには湖の畔に立ち、湖をボーっと眺めている龍井茶の姿があった。
「……」
「言いたくないのならいいですよ。そうでした、貴方には感謝しなければなりません」
「うん?吾に?」
「あの時、龍井に薬を渡してくださって、ありがとうございました」
「あぁ、あの時龍井茶が必死で助けようとしていたのはあなただったのですね」
「命の恩人である先生には感謝しかありません」
「大した事はしていない」
窓の外から騒がしい声が届き、吾らの注意を引いた。声がした方向を見てみると、思わず笑ってしまった。
飲みすぎたロンフォンフイが、杯を掲げながら龍井茶に絡んでいたのだ。彼は音が外れた唄を歌いながら楽しそうにしていたが、絡まれた龍井は酒臭さから逃げようとしていたが、彼の情熱から逃げられず結局飲まされる事に。
窓の外に見えた平穏だけど少し騒がしい日々。心の中に湧き上がっていた不安と焦燥は、彼らの笑い声によってかき消されていった。
Ⅳ.異変
町での疫病問題を解決した後、吾はまた自らの小屋に戻った。
山での生活は世間が思うより退屈ではなかった。薬草農家や猟師たちは時々子供らを連れて、読み聞かせのお願いをしてくる。
たまに吾に診察して欲しいと、最後の望みをかけて遥々遠方からやってくる人もいる。
山中の小動物も吾のもとにやってくる。先日助けた子狐は時々吾に甘い果実を届けてくれる。
吾はこのような平穏な生活を好んでいる。
しかし、友人らが傷つくのも見たくはない。
あの日、猟師は子推饅を背負って慌てて山を登ってきた。意識不明になっていた子推饅の真っ白な服は血で真っ赤に染まっていた。彼は眉をひそめてうなされていた。
「先生!彼は麓に倒れて、ずっと先生の名前を呼んでいたので、連れてきました!聞けば、龍井様の小舎で何かあったみたいです!」
吾は急いで彼の手当を行った。気が付いた子推饅はガバっと起き上がり、傷口が開くのも構わず吾の手を握った。
「先生!早く龍井たちを助けてください!」
子推饅を吾の小屋に安置し、月の下猟師と共に小舎へ向かった。
小舎では、見た事もない人たちがいた。
片眼鏡を付けた男が戸の外に立ち、眉間に皺を寄せていた。
吾の到着を見て、彼らは驚いた顔をした。
「そなたは?」
「吾は龍井茶らの友人、薬師です。子推饅から救援を求められて来ました。一体何が起きたのですか?」
「彼らは敵の罠に嵌められました。吾が辿り着いた時には、既に救出する事しか出来ませんでした。子推饅はその時そなたのもとへ行ったのでしょう。彼は無事ですか?」
「問題ない!」
男は煙管を握り締めた。彼の服の裾には埃がついていて、顔に付いた傷もまだ処理をしていない様子だった。
「一先ず、酸梅湯の手伝いをお願いします。彼らの傷は深い」
部屋に入った瞬間、濃い薬草の匂いと血生臭い匂いが混ざった匂いが部屋に充満していた。龍井茶とロンフォンフイは目を覚ましているが、傷のせいで起き上がる事すらできない様子だった。
「大紅袍ですね!早くこちらに!血が止まりません!」
吾は雄黄酒の傍に近づいた。彼の腰には貫通したような痛々しい傷口があった。強い回復能力を持つ食霊ですら簡単に元に戻せないような酷い傷だった。
朝日が昇ると共に、雄黄酒の状態はやっと安定した。吾と酸梅湯は床に座り込んで息を上げていた。魚香肉糸は吾らの傍に立ち、汗を拭ってくれた。
ロンフォンフイは力を振り絞って寝台から降り、自分の傷口を抑えながら雄黄酒の様子を見た。
「こいつ大丈夫か!」
「大丈夫です。あとは吾らの霊力を使い、回復の速度を上げていくだけです」
顔面蒼白の雄黄酒を見てから、ロンフォンフイと龍井茶の方を見た。吾が知っている限り、彼らがいる時、彼らは決して小舎の仲間を傷つける事を許さないと。
「彼は……私を助けるために」
龍井茶は拳を握り締め、眉間に深い皺を刻んだ。少しの動きで傷口に障ったのか、吐血してしまった。吾は急いで彼を寝台に寝かせた。
全員が食霊だったため、身体の傷口さえ抑える事が出来れば、健康な状態まで回復できる。この期間中、吾は小舎に留まった。
そしてこの時、吾はあの片眼鏡を掛けていた北京ダックという者と親しくなった。
賢い彼は吾の正体に気付いたようだった。あの日、彼の表情は少し険しかった。
「大紅袍、そなたは過去の出来事から、今の世の中に手出ししたくないと考えているのでしょう」
「……」
「しかし、今吾らと同じような存在が、この世間の平穏に干渉しています。そなた、吾らと共にこの世界を救いませんか?かつてそなたが彼を助けたように」
Ⅴ.武夷大紅袍
風流な少年、これは若い状元を見た全ての人が思い浮かんだ言葉だ。
赤い衣を身に纏った彼の胸元には状元にしか許されない深紅の花が付けられていた。彼は意気揚々とした笑顔を浮かべ、傍には彼と同じく赤い衣を身に纏った食霊がいた。
あの日、天にも轟く銅鑼の音が鳴り、無敵の赤い紙吹雪が空を舞った。王城全ての人々が彼の出世を祝っていたのだ。
彼は眉目良く、知識も武術も人並み以上、胆力も持ち得ている上に医術にも精通していた。
誰も彼がどこから来たのかは知らない。彼はまるで天からの贈り物のようだった。
少年は意気揚々としていて、艱難辛苦も魑魅魍魎も恐れない。
彼は人々の英雄であった、そして全ての女子の理想の殿方でもあった。
もちろん、万人の上に立つ公主殿下も例外ではなかった。
少年と少女は宴の時、裏庭で出会った。
社交辞令や一触即発の雰囲気が苦手だった少年は、口実を作って裏庭まで逃げた。
同じく公主の姿を維持するのに疲れた少女は裏庭で息抜きをしていた。出会った瞬間、消えていた筈の酒気を帯びてきたように頬が熱くなっていた。
意地悪な老官からも褒めたたえられるほど言葉が巧みな少年は、突然何も話せなくなった。
求婚してきた殿方を冷静にあしらってきた公主殿下も、突然冷静さを失った。
少年と少女の出会いはまるで絵画の一幕のようだった。この一幕は、そよ風に吹かれ、舞い上がった紅葉によって彩られた。
豪華絢爛。
天より定められし出会いを果たした両人が、幸せになるのは当然であった。
再度御侍の胸に深紅の花を付けた武夷大紅袍は、相変わらずの笑みを浮かべていた。
かつての風流な少年は頼りがいのある青年に成長していた。彼は自分の頭を掻きながら、照れた様子で笑った。
少女も母となった。どうしていいかわからない様子で自分の子どもを抱き上げた青年は、まだ子どもの名前を考えていた。その時前線から届いた命令は、全員に落胆させた。
文武両道の青年、兵書にも精通していたため、自ずと出陣最有力の候補として選ばれた。
「武夷大紅袍、私の代わりに彼の事を頼みましたよ。彼は少しぼんやりしている所があるので。もし……将校らの前で……粗相をしてしまったら……恥をかいてしまいますわ」
子どもを抱いた少女は優しく笑っていたが、目には涙が溜まっていた。言葉の最後には嗚咽も混ざっていた。彼女は知っていた、彼女の夫が行かなければ、彼女らが失うのはこのささやかな家族の時間だけではないと。
戦争は、書物に書かれたような数行だけで表せられる物ではない。無数の血肉によって勝敗が決まる。英雄の誕生は数えきれない屍の上に成り立つ。
計略、権力、財力、この時代ではもうこれらが勝敗を左右していない。
食霊は人間のような見た目をしていながら、天から授かった人間には決して敵わない大きな力を持っていた。
戦争、双方の実力が均衡である時だけ、それは戦争と呼べる。
一方が絶対的な力を持っていた時、それは虐殺としか呼べない。
絶望した時、全ての人間の視線はいつも静かに青年の背後についていた武夷大紅袍に向けられた。
死傷者を見ながら、青年は歯を食いしばって、背後の武夷大紅袍を庇った。
「彼は私の友人だ!私の兄弟だ!彼は戦争の道具ではない!私は彼がしたくない事をさせたくはない!」
彼の真っ赤になった目を見て、武夷大紅袍は自主的に先頭に立った。
「大紅袍!お前!」
「問題ありません。亡くなったのは、吾の兄弟でもあります」
人間の鮮血が彼の赤い衣を濡らした、武夷大紅袍の深紅の衣は更に深い赤へと変わっていった。
乾くと真っ黒になってしまうその液体は、洗っても洗い流せない匂いを持っていた。
青年は天幕の外で、月光のもと悲しく両手を見つめる武夷大紅袍を見た。
良かったのは、彼の協力のもと、戦局は以前のような凄惨さからは遠ざかった。
敵国も大量の兵力を失うのを懸念し、双方は人間以外の力を使わないと協定を結んだ。
ただ、どちらも食霊を完全に戦場から離す事には同意しなかった。
気温は一層暑くなり、疫病は王都全体に蔓延った。国内からの伝令を聞いた前線の者たちは、薬神の食霊、そして弟子であった武夷大紅袍の事を思い浮かんだ。
薬神が亡くなった後、武夷大紅袍は薬神のただ一人の子孫である孫と共に、彼らが憧れ続けていた世界に向かった。ただ薬神の孫は勉強や武術の方を好み、医術にはどうしても関心が向かなかった。
薬神も仕方なく、起死回生をも実現させる医術を武夷大紅袍に伝授した。
ただ止めどなく出現する敵影、そして虎視眈々とこちらを見つめ離れない敵の食霊を見て、青年は迷った。
敵の思い付き一つで、せっかく明るくなったこの局面がまたひっくり返される事になりかねなかった。
――彼らは、食霊と対峙した時に感じた何もできない絶望感をもう味わいたくなかったのだ。
遂に戦争がひと段落した際、双方とも戦争で多く失ったため、二度と食霊の力を行使しない誓約書を交わした。
やっと家に戻って、妻と子どもをこの手に抱き締められると思った青年に、青天の霹靂のような情報が舞い込んだ。
花のように笑う妻と家を出た時まだ目も開けられない子どもが、国中に蔓延った疫病によって命を落としていたのだ。
心臓が刺されたような痛みを味わった青年は、妻の墓の前に跪いて言った。
「お爺様はいつも言っていた、この世界に来るなと。この世界には、数えきれない苦しみがあり、人の心はいつだって陰険であると。あの時の私達には、理解できなかった。ただただ、この世界を見てみたかった……」
「……」
「今更わかっても……遅すぎだ……私はお爺様に誓った、大紅袍のしたくない事をさせないと。私がこの誓いを破り、兄弟の手を血に染めても、最愛の人を救う事ができなかった……」
武夷大紅袍は知っていた、青年はいつだって彼自身のせいで武夷大紅袍が血で染められたと自責していると。
意気揚々としていた少年は、一夜の内に髪が真っ白になってしまっていた。
あの日、公主宅には王城全体を赤く照らすような大きな炎が上がった。その赤は、戦場の炎よりも凄惨だった。炎の中に立つ青年は、彼が馬に乗って町を通った日の事を思い出していた。高座に座り、すだれによって隠されていたが、彼の視線によって真っ赤に染まったあの頬を。
「武夷大紅袍、ここから離れろ。過ごしたいように過ごすと良い……それと……すまなかった……あの時、あそこから離れなければ、どれだけよかったのだろう」
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