「熱燈魂の檄手」ナディエイド

ナディエイド「初めまして、主人公さん。雪の国から参りました、ナディエイドと申します。以後お見知りおきを。」

主人公「ああ、これからよろしくな。」

主人公「って、そんなにかしこまらなくてもいいんだぞ？」

ナディエイド「しかし、これは坊ちゃんの……、僕のご主人様に言いつけられたことですので。」

ナディエイド「家の外であっても、名家に仕える者らしく気品ある振る舞いをせよと。」

主人公「そ、そうか。」

主人公「ナディエイドって、雪の国では名家の人を鍛えていたんだっけ。すごいな……。」

ナディエイド「お褒めにあずかり、光栄です。」

主人公「武術指南役、だっけ。インストラクターみたいな仕事なのか？」

ナディエイド「そうですね。今は坊ちゃんのお傍を離れているので、体がなまっていないか少々心配です。」

主人公「……なあ、ナディエイド。もしよかったら、俺にも鍛錬をつけてくれないか……？」

主人公「俺もプロの人に教わって、筋肉を……、ムキムキボディを手に入れたいんだ！」

ナディエイド「なるほど……。承りました。志が高いことはよいことです！」

ナディエイド「それでは主人公さん、まず……、」

主人公「何だ？」

ナディエイド「夕日を追いかけましょう。」

（暗転）

ナディエイド「うおおおおおおお！」

ナディエイド「遅いッ！遅い遅い遅い！それで本当に夕日に追いつけると思っているんですかァ！」

主人公「無理でーす！無理だと思いまーす！」

ナディエイド「諦めるのはまだ早いッ！」

ナディエイド「いけるいける！まだまだいけます！」

ナディエイド「もっと速く！もっとアツく！」

ナディエイド「夕日に追いついてッ！夕日をッ！突っ切るんですよォッ！」

主人公「ええええええ！？」

ノーズホーン「グルルルルルル！」

主人公「ナ、ナディエイド！前からモンスターが！」

ナディエイド「邪魔だァ！」

ノーズホーン「グルルッ！？」

ナディエイド「チッ、外したか。やっぱ動きがなまってんなァ……。」

主人公「……。」

ノーズホーン「グ、グルルルル……！」

ノーズホーン「グルアアァァッ！」

ナディエイド「仕方ねェ。ここはアンタと俺、種族は違うが、正々堂々拳で語り合うかァ！？」

主人公「ま、待って、待ってくれー！い、今、癒術をかけるからぁー！」

主人公「はあ……はあ……。」

主人公「か、帰ってこれた……。紹介所に……。も、もうダメだ……、動けない……。」

ナディエイド「お疲れ様でした、主人公さん。あなたのおかげで、大き被害も出ずにすみました！本当にありがとうございます！」

主人公「……。」

ナディエイド「おや、ずいぶんお疲れのようですね。僕が紅茶を淹れて差し上げましょうか？」

主人公「……。なあ、ナディエイド……。さっきから思ってたんだけど……。」

主人公「無理しなくていいぞ。」

ナディエイド「……。」

ナディエイド「やっぱ俺、素が出てた？」

主人公「全開だったけど。」

ナディエイド「だーっ！そうかー！やっちまったー！」

ナディエイド「強ェやつに出くわしたからって、つい逸っちまった。まだまだ修行が足りねェな……。」

ナディエイド「最低限、言葉遣いがなってねェと執事になれねェって言われちまったしなァ。もちっと頑張るか……。」

主人公「し、執事って、今仕えてるお屋敷のか？」

ナディエイド「ああ。将来は一人前の執事として、きっちり自分で身を立ててェんだ。」

ナディエイド「そもそも、俺が今こうして生活できてるのも、坊ちゃんのお情けでお屋敷に置いてもらえたおかげだからなァ。」

ナディエイド「いつか立派な執事になって、恩を返してェんだ。」

主人公「恩？ナディエイドは今、指南役としてちゃんと仕事をしてるんだろ？」

ナディエイド「それだけじゃ、俺が坊ちゃんから受けた恩を返すには足りねェよ。」

ナディエイド「兄貴に戦い方を教えてもらったように、坊ちゃんには生き方を教えてもらったからなァ。その恩には、一生かけて報いてェんだよ。」

主人公「そう、なのか……。ナディエイドは、すごくご主人様思いなんだな。」

主人公「なぁ。ナディエイドのご主人様って、一体どんな人なんだ？」

ナディエイド「生きづらそうなタイプ。」

主人公「ええ！？さ、さっきまであんなにいいこと言ってたのに……。」

ナディエイド「しょうがねェじゃん。あの人、本当に不器用なんだからよー。」

ナディエイド「うちの坊ちゃんってさー、基本的にツンケンしてて、すげェプライドが高ェんだ。」

ナディエイド「うちのお嬢様やご友人に対しても、やれ『こいつとは付き合うな』だの、『将来は自分が雇ってやる』だの……、」

ナディエイド「過保護っつーか、過干渉？束縛系？その上、意地っ張りで頑固なんだよなー。」

主人公「的確なダメ出ししかない……。」

ナディエイド「うちの坊ちゃんってダメなところが多すぎるんだよなー。間違っても悪い人じゃねェんだけどさー。」

ナディエイド「自分の大切な人との付き合い方が、いまいちよく分かってねェみたいなんだよなー。そういうの、俺が教えてやれりゃよかったんだが。」

ナディエイド「そのくせ、食い扶持なくて行き倒れたやつには居場所と役目までくれてやるんだから、とんでもねェ不器用男だよなー、うちの坊ちゃんは。」

ナディエイド「……っと、ほら。できたぞ。」

主人公「え？できたって何か……、」

ナディエイド「じゃーん。」

主人公「わっ。いい香りだ……！」

ナディエイド「忘れたのかよ、主人公。頑張ったお前に、紅茶を淹れてやるっつっただろ？俺だって、ただ世間話してたわけじゃねェんだぜ。」

主人公「えっ、俺のために淹れてくれたのか？ありがとう……！」

ナディエイド「味はどうよ。坊ちゃんに厳しく仕込まれたからなァ、美味くねェと困るってもんだ。」

主人公「ううっ、お、おいひい……！疲れた体に染み渡る……！」

主人公「ふわあ……、紅茶を飲んだら、何か気が抜けて眠くなってきた……。」

主人公「今日は全力で走って、癒術も使ったからなあ……。眠くなるのも当然か……。」

ナディエイド「お、寝るか？じゃあ、体は冷やさないようにしろよ。ほら、毛布。」

主人公「あっ、悪い……。うう……、でも、宿屋に戻るまでは踏ん張らないと……、」

主人公「わっ！？ナ、ナディエイド！？」

ナディエイド「主人公、今日はめいっぱい頑張ったもんなァ。あとは俺に任せて、しっかり寝な！宿屋までなら、俺が運んでやるからよ。」

主人公「えっ！い、いいのか……？」

ナディエイド「お前1人背負ったって、どうってこたねェよ。」

主人公「……すごいなあ、ナディエイド。俺から見たら、もう立派な執事だよ。」

主人公「じゃあ……、お休み、ナディエイド。」

ナディエイド「お休み、主人公。」

ナディエイド「また明日な。」

（暗転）

ナディエイド「うおおおおおおお！」

ナディエイド「遅い！遅い遅い！遅すぎるッ！それじゃ朝日の向こうに辿り着けねェぞッ！」

主人公「ごめん、ナディエイド！やっぱり無理！俺には無理ー！」

主人公「ま、また明日なって、こういうことだったのか……！」

ナディエイド「諦めるな、主人公ッ！昨日の自分を超えるんだよォ！」

主人公「うっ……！」

主人公「そ、そうだよな……。ナディエイドも、執事になるために一生懸命頑張ってるんだよな……！」

主人公「う、うおおお！俺も頑張る！憧れのムキムキボディを目指して……！」

ナディエイド「その意気だッ、主人公！」

ナディエイド「そんなお前のために！今日は！特別メニューを用意した！」

主人公「えっ？」

ノーズホーン「ぐるるるる～！」

ナディエイド「こいつが今から、俺たちを全力で追いかけてくる！癒されちゃァいるが、手加減してくれるとは思うなよ！」

主人公「……。」

ナディエイド「走れ、主人公！お前の……、いや、俺たちの望む明日へ向かってッ！」

主人公「う……、」

主人公「うおおおおお！」