「漂流遊ぶ青蒼」レスティエナ

主人公「なあ、レスティエナ。」

レスティエナ「なに、主人公。」

主人公「そろそろ紹介所に戻らないか？いつまでも水に浸かってたら、風邪引くぞ。」

レスティエナ「そんなこといわれても。水の中にいなくちゃ、わたし、干からびちゃうんだもの。」

主人公「干からびる……？」

レスティエナ「そうよ。干からびるというのは怖いこと。」

レスティエナ「だから、水に浸かることで、心を潤わせて、色々な考えを頭の中にめぐらせているの。」

主人公「な、なるほど……？」

レスティエナ「ふふふ、いいのよ、主人公。無理に理解しようとしなくても。」

レスティエナ「それに、いつも浮遊してるわたしのことなんて、きっと誰も理解できないわ。」

主人公「浮遊してる？いや、レスティエナじゃ浮遊魔法を使えないだろ。」

レスティエナ「違うわ。わたし、普段から少しばかり地面から浮いているの。そう、例えるなら、ホシノオトシゴくらいの浮遊。」

主人公「ホシノオトシゴ。」

レスティエナ「ええ、そうよ。ホシノオトシゴは、ここから離れた、常夏の国の海にいる生き物。」

レスティエナ「わたしの小指ほどの大きさね。星の綺麗な晩にしか見られない、とても可愛い生き物。わたしのお気に入りリストに入っているのよ。」

主人公「な、なんだか混乱してきたぞ……？」

主人公「えっと、ホシノオトシゴくらいレスティエナは浮遊していて、なにか困ることはないのか。」

主人公「例えば、そう、食事するときとか、眠るときとか。」

レスティエナ「なにも困ることなんてないわ。だって、もともと人間って浮遊する生き物だったんだもの。」

レスティエナ「わたしの現在の研究ではそういうことになっているの。まだ仮説だけどね。」

レスティエナ「もともとそうで、今はわたししか浮遊してないだけ。ただ、それだけのことよ、主人公。わたししか浮遊していないというのも、怖い話だけど。」

主人公「……うーん、レスティエナの言ってることは難しいな。じゃあ俺も、もともと浮いてたってことか。」

レスティエナ「そうよ。浮き方を忘れているだけでね。思い出したらきっと、わたしみたいに浮遊できるわ。」

主人公「そう、なのか。」

レスティエナ「そうなのよ。……ずいぶんと長く、おしゃべりにつき合わせちゃったわね。」

レスティエナ「さすがのわたしも、これだけ長く水に浸かっていたら風邪をひいちゃうかも。主人公の言う通り、紹介所に戻りましょうか。」

（場面切り替え・夜の紹介所）

レスティエナ「うん、あの川辺はなかなか良い水だったわ。わたしのお気に入りリストの上から３６番目くらいに入れてあげてもいいくらい。」

主人公「良い水だったのは何よりだけど、髪から水が滴ってるぞ。ほら、拭くものを持ってきたから。」

レスティエナ「あら、ありがとう、主人公。優しいのね。」

レスティエナ「主人公はわたしの旅の仲間だから、お気に入りリストの、そうね……、上から２２番目くらいには入るかも。」

主人公「えっと、レスティエナ。さっきから言ってる、そのお気に入りリストってなんなんだ？」

レスティエナ「名前の通りの代物よ。わたしが気に入ったものを、頭の中にあるメモ帳に書き込んでいるの。」

レスティエナ「ちゃんと、順序もつけてね。」

主人公「そうなのか。でも２２番目って……。低いのか高いのかわからないな。」

レスティエナ「少なくともホシノオトシゴよりは上よ。」

主人公「あ、ありがとな……？」

レスティエナ「どういたしまして。でも、１番じゃ研究所のみんなだから。こればっかりは譲れないわ。」

主人公「じゃあ、レスティエナにとって、研究所の人たちは宝物なんだな。」

レスティエナ「そうよ。研究所のみんなは、友人であり、家族であり、よきライバル。」

レスティエナ「わたしが世界から浮いていても笑顔でついてきてくれる、優しい人たち。かけがえのない存在。」

レスティエナ「大切にしなくちゃいけないって、わたし、ちゃんとわかってるわ。」

レスティエナ「これでもわたし、トコナツシマクジラのように思慮深いんだから。」

主人公「ああ、レスティエナが科学の国で天才って言われてるのは紹介所のお姉さんから聞いてるよ。科学の国で有名な大学を、史上最年少で卒業したんだろ？」

レスティエナ「……それは事実だけど。そんなの、ただの記録でしかないわ。わたしのお気に入りリストには一切入らない代物。」

主人公「そうなのか？すごいことなのに……。」

レスティエナ「いったでしょう、主人公。わたし、トコナツシマクジラのように思慮深いって。」

レスティエナ「それに、主人公は大きな誤解をしているわ。天才と思慮深い生き物はまた別物なの。」

レスティエナ「わたしは、浮遊する、思慮深い生き物でありたいの、ただの天才という記録だけ残るのは、怖いことだわ。」

レスティエナ「でも、まだ浮遊が足りないの。もっと、もっと浮遊していかなくては。ホシノオトシゴくらいじゃ全然足りない。」

レスティエナ「もっともっと自由自在に浮遊したら、いつか空にだって行けるかもしれないわね。」

主人公「……あのさ、レスティエナ。」

レスティエナ「なに、主人公。」

主人公「レスティエナは、それでいいのかもしれないけど。レスティエナがどんどん浮遊していったら、研究所のみんなが困るんじゃないか？」

レスティエナ「……そうね。でも、わたしにもどうしようもないの。」

主人公「うーん、それだと、これから一緒に旅に出る俺もどうしたらいいかわからなくなるな……。」

主人公「あっ、でもそうか。」

主人公「レスティエナがどんどん浮遊して空にいきそうになっても、俺が手をつかめばいいのか。」

レスティエナ「え？」

主人公「そしたらレスティエナはどこかにいかないし……、なんだ、意外と簡単なことだったな。」

レスティエナ「……ふふふ。」

主人公「どうした？」

レスティエナ「面白いことを言うのね、主人公って。」

主人公「ん？　そうか？」

レスティエナ「ええ、面白いわ。それに、興味深くさえある。」

レスティエナ「今の言葉を聞いて、主人公は私のお気に入りリストの上から１０番以内に入ったわ。」

主人公「あ、ありがとな……？」

レスティエナ「主人公が浮遊するわたしの手を握ってくれるというのなら。」

レスティエナ「わたし、この世に怖いものなんて何ひとつないって、勘違いしちゃいそう。」