【百鬼異聞録】「蓬莱幻境」ストーリーまとめ【イベントストーリー】
目次 (蓬莱幻境ストーリー)
启
蓬莱幻境・起
異世とぶつかったことで蜃気楼は確かに新しいお客さんを迎えたが、同時に船の修繕でやむを得ず数日間休航することにもなった。 今回の旅の目的は依然あの妖怪たちが目にした不思議な時空だ。滞在している場所が不安定だったこともあり、数日経った後蜃気楼は航行を再開した。 それにしても、あの船と異世界の客人を会わせる時空から離れたら、方向がだいぶ安定してきた。 道の先を指し示す赤い糸を手繰り寄せる縁結神は、目的地はすぐそこだと確信している。 夢や占い、あるいは時空を超える能力を持つ妖怪たちが見た幻もだんだんはっきり見えてきた。どうやら気のせいではないようだ。 ある星がきれいな夜、ようやく赤い糸の先に小さな島が微かに見えた。 船首にいた三つ目は興奮のあまり、商店街の店舗を端から端まで回り、妖怪に会うたびにこのことを話した。 しかし、そこは期待に反してごく普通の島だった。 周りを見渡しても草木と石、虫の姿さえ見えない。 想像していた幻の場所とはひと欠片も似ていない。 三つ目 『あれ……もしかしてここじゃない?』 縁結神 『そんな訳ないぞ!』 縁結神 『されど強いて言えば……』 縁結神は自分が縁結びに使う赤い糸をじっと見つめた。 赤い糸は確かにこの島を指し示しているように見えるが、何かに断ち切られたかのように、ポカっと宙を浮いているだけだった。 出会えたが、縁は結べず。 縁結神 『空回りだったのか……』 夜風が海面を駆け巡り、波は砂浜に寄り返す。 みんながこのまま帰るのか、島でとりあえず探検してみるか、それとももっと遠くを目指して船を出すかを相談していたら、 いつの間にか島は白い靄に包まれていた。 すると靄の奥から誰かが歩いて来た。 白沢 『やっと会えた。』 白沢 『いや、はじめまして、会えてうれしい、か。』 女は妖怪たちとまったく違う衣を身に纏い、久しぶりに会う親友と話しているような口調で喋り出した。 藤姫 『あなたは……?』 白沢 『我の名は白沢。』 白沢 『ここは我の居場所であり、我を閉じ込める法陣でもある。』 彼女がそう言って、靄が少し晴れた。すると目の前に広がる景色はだだっ広い島ではなく、 島の各所からいくつもの封印が延々と伸び、島の中心にある小屋を囲んでいる。 呪術に詳しい妖怪はすぐに気づいた。彼らが今立っている島そのものが一種の封印であることに。 幻像を見た妖怪もすぐに封印の中心にあるのが今まで見た空間だと分かった。 縁結神 『それで、お主がわれらをここに呼び寄せたのじゃな?』 白沢は申し訳なさそうに一礼をした。 白沢 『そなたたちを巻き込んでしまい申し訳ない。』 白沢 『けど我をここから連れ出せるのはそなたたちしかいない。頼む、我を助けてくれ。』 白沢 『我にできることなら、お礼はなんでもしよう。』 化け狸 『うーん……なんっちゅうか……』 磁器蛙 『謝礼とかケロ……』 猫又 『そんなこと、終わってから考えるのじゃ!』 猫又 『どっちにしても面白半分でここまで来たのじゃ。』 猫又 『それで、一体何があって、どうやって助けたらいいのじゃ?』 化け狸 『ここで出会えたのも何かの縁だ。どうだ、船に上がろうぜ?』 化け狸 『わしの居酒屋のおつまみは絶品だぜ!』 |
数え切れないほどの客が訪れたタヌキ居酒屋に、これはまた尋常ではない客が訪れた。 好奇心旺盛な妖怪たちは白沢の周りにぎっしり集まって、彼女を中心に囲んだ。 白沢 『ここは「蓬莱仙境」と呼ばれ、我はもう何千年もここに囚われている。』 白沢 『事情があって、我はどんなに力を振り絞ってもここの封印を破ることができん。』 白沢 『見ての通り、ここはどことも繋がっていないし、外部からの影響を受けることもない。』 白沢 『しかし蜃気楼は違う。』 白沢 『この船はもともと三界六道の間を行き来し、此方と彼方の狭間に存在する……』 白沢 『蜃気楼の力を借りれば、我はこの場所から抜け出せるのかもしれん。』 藤姫 『つまり、白沢さんは私たちに救助信号を送ったということでしょうか……?』 白沢 『ああ。「我はここにいる」と大声で叫んでいるかのようにな。』 白沢 『しかしこの信号をそなたたちに届くまで時間がかかりすぎた。それにこの信号自体、曖昧すぎる。』 白沢 『だからここまでたどり着けない可能性も考えた。』 白沢 『時空の乱流に巻き込まれたのを見て、正直心配した……』 藤姫 『無事ここにたどり着いてよかったと思います。』 藤姫 『蜃気楼はもともと困っている妖怪たちの前に現れるものです。』 藤姫 『心に未練を抱いている妖怪、望むものがある妖怪、願いを叶えたい妖怪、みんないつの間にか蜃気楼の乗船券を受け取っているかもしれません。』 藤姫 『乗船券は何かの手違いで白沢さんのお手元に届かなかったかもしれませんが、白沢さんと蜃気楼の縁はすでに結ばれていたのでしょう。』 縁結神 『うんうん!なにせ、縁の赤い糸をたどってここまで来たのじゃ。こうして縁結びを……』 縁結神はそう言って白沢の手を取って、その小指に赤い糸を巻こうとしたその時だった。 まるで白沢はここに実在するものではないかのように、糸は彼女の手をぽっとすり抜けた。 縁結神 『えぇ!?何事なのじゃ!?』 何度試しても、赤い糸は白沢の手には留まらない。 白沢 『我の本体は未だに封印されている。封印を破らなければ、恐らく我もこれ以上外部と関わりを持つことができなくなる。』 白沢はそう言って、手で赤い糸を追ってみたが、その手は何も掴めなかった。 白沢 『因果とは、由緒があっても、働きがなければ結果に繋がるとは限らん。』 白沢 『因果は続かなかったが、幸い思いだけは残されている。』 白沢は静かにため息をつき、羅盤を何枚か取り出した。 白沢 『封印には、実・理・術がある。』 白沢 『実はつまり形のこと。封印を破るカギとなるものはこの島の数箇所に散在している。それに力を加え破壊すればよい。』 白沢 『理は長い夢を産む。もし夢に入れる妖怪がいれば、我の夢に入り、夢の中で我と蜃気楼の縁を結ばせることができるかもしれん。』 白沢 『術はこの島の生きとし生けるものすべてに存在する。結界の弱いところを探せば妖力で呪術に対抗できるだろう。』 白沢 『この羅盤は道しるべとなる。』 白沢 『手間をかけるが、別行動で封印を逐一解いてもらうしかない。』 白沢 『お願いだ。』 |
胡蝶の精・一
対戦:夜叉
夢に入ることに関しては、胡蝶の精の右に出るものはいない。 藤姫も胡蝶の精と一緒に行きたいと申し出たが、縁結神と一緒に蜃気楼と蓬莱仙境の繋がりを維持する人手が必要だった。 縁結神は胡蝶の精を赤い糸で丁寧に結んだ。そうすれば帰り道に迷うことはない。 藤姫も藤の花を彼女の髪飾りにして、無茶は禁物だと忠告した。 心配性のかぐや姫や金魚姫たちも彼女に無理をしないようにと伝えた。そして胡蝶の精はようやく島へ向かった。 みんなが別行動をとったあと、「仙境」と呼ばれる封印の結界はより一層ただっ広く見える。 胡蝶の精はそっと羽根を広げ、手に持つ鈴太鼓を鳴らしながら羅盤の指し示す方向へ進む。 胡蝶の精 『とりあえず夢の世界の白沢お姉ちゃんを見つけよう……』 胡蝶の精は目を閉じて夢の世界に入り、白沢が示した道をただただ進んでいた。 儚い夢の始まりは、無限に広がる虚無だった。 無数の光が漂い、白銀の糸に繋がれて線となった。 目を細めてじっくり見ると、その一つ一つの光にはそれぞれの世界が映っていた。 ほんのりした光は窓のように、遥か彼方の時空で起きる出会いも別れも映っていた。 窓と窓を繋ぐ細い糸が断片的な記憶を結びつき、一つの物語を作り出す。 始まっては終わり、因果が廻る。 夢の奥へ進めば進むほど、光は乱雑となり、白銀の糸もだんだん少なくなっていく。 一番奥にたどり着いた頃、光はただただ自由に動いては舞い散るだけの、互いに繋がりを持たない蛍の光に成り果てていた。 白沢 『来たか、蝶々よ。』 虚無の中で座っている白沢は胡蝶の精に微笑んだ。 白沢 『一緒に散歩でもしよう。』 胡蝶の精は白沢が差し出した手を取り、ふたりで夢の世界を散歩していた。 虚無の世界とはいえ、足元は水面を歩くように、一歩踏み出すたびに波が広がっていく。 飛び散る光もかすかに揺れて、まるで星の海を彷徨っているみたいだ。 胡蝶の精 『きれい……』 白沢 『ああ。何度見ても見飽きない景色だ。』 胡蝶の精 『けどただ見ているだけじゃ、ちょっと寂しいよね……』 胡蝶の精 『自分だけが無関係の傍観者みたいで。』 胡蝶の精はそう言って、白沢の手を少し強く握った。 胡蝶の精 『白沢お姉ちゃんがあたしを夢に誘ったのは、対局してほしいからかな?』 胡蝶の精 『けどここにかるた机はないよ?』 白沢 『確かに我は百聞かるたがここを抜け出すことの手助けになれると言ったが、どうやらそなたたちと対局したところで何の意味もないようだ。』 白沢 『何せ、我の物語はまだそなたたちと繋がっていないからだ。』 白沢 『どの物語にも存在しない我が、かたる机の傍らに座ったところで、退屈な対局でしかない。』 胡蝶の精 『えっ?ならあたしはここに……』 白沢は笑って、前へ手をかざすと、古い屋敷がふたりの目の前に現れた。 胡蝶の精 『この前みんなが肝試し大会を開いた場所!』 白沢 『あれはいい行事だったな。見ているだけで我も楽しくなった。』 白沢 『だから……』 白沢 『一度我を入れてくれないか?』 白沢は胡蝶の精に振り向き、笑った。 時間の概念が夢の中で薄れていく。 過去は本来変えられない事実。しかし白沢の夢の中でなら、胡蝶の精の力でなんとかなるかもしれない。 本来その場にいない妖怪を混じることで蜃気楼と繋がりを持つ。 そうすれば、虚無の世界でただ見ていた彼女も「体験者」となり、みんなとの絆が生まれる。 胡蝶の精はうなずいた。白沢の考えることを理解したからだ。 胡蝶の精 『やってみるね!』 庭の静寂を破った琴の音。 花火が上がり、呪錐が響いた。屋敷の中から足音が聞こえ、いくつもの影が見えた。 するとふたりの前で扉が開き、カラスたちが飛び去った。 |
胡蝶の精・二
対戦:胡蝶の精・幻像
白沢 『なるほど、なるほど。』 白沢 『どうやら思ってたよりも面白いようだ。』 屋敷の影たちは消え去って、再び一つの光になった。 しかし虚無の中には百聞かるたが浮いていた。 胡蝶の精 『ふふ、あたしも気に入っている。』 胡蝶の精 『蜃気楼には面白いことがまだまだあるよ!』 胡蝶の精 『賑やかなお祭り、面白い見聞、あと妖怪のみんな……』 胡蝶の精が語り、白沢はその言葉を元に一つ一つの情景を作り出す。 楽しい談笑が絶え間ない、ふたりきりだった虚無も少しは活気を持つようになった。 時々、白沢は自分の過去や見聞を語り、胡蝶の精を連れて様々な時空を見回った。 夢のような、夢じゃないような、鈴太鼓の音と胡蝶の精の歌声が響く。 ふたりの妖怪は互いの物語に入り、様々な夢を体験していた。 |
白沢 『胡蝶は夢を呼び、胡蝶の夢を見る……』 白沢 『そなたのお姉さんたちに会ったことないが、胡蝶に関する物語なら我も聞いたことがある……』 白沢 『昔々、自分が蝶になった夢を見た賢者がいる。賢者が目覚めたら、蝶が自分になったのか、自分が蝶になったのか分からなくなったという……』 白沢 『そしていつかの時代に、遥か彼方の時空に僧侶の足跡を追って故郷から遠い東の国に訪れた蝶がいた。』 白沢 『その蝶は故国の衣装を身に纏い、美しい声と美麗な姿を持っていた。』 白沢 『美しい蝶はそれで一番立派な宮殿にいることが許され、花の間を自由に舞うことができた。』 白沢 『その後蝶は陰陽師と縁を結び、陰陽師の式神となり、いつもそばにいた。蝶は陰陽師とその友人が妖怪と戦い、人々の生活を守るのを見届けていた……』 |
胡蝶の精・三
あなたは私の夢に入った小さな蝶ですか、それとも私の夢から生まれた小さな蝶ですか?
幻が消え、百聞かるたの勝負もついていた。 胡蝶の精は無人の椅子を前に、目を瞬いた。 しかし鈴太鼓の横には、さっきまでなかったうちわが横たわっていた。 胡蝶の精 『今のは……』 白沢 『ん……?』 今度は白沢まで驚いた。 幻境で蓬莱仙境と外部を繋いでいるとはいえ、こうして物語の中のものが現れるのは初めてのことだ。 彼女は興味津々に胡蝶の精が手に持つうちわを見る。 白沢 『もしかすると、そなたは物語に出てくる蝶と共鳴したから……』 白沢 『あるいは、これは我の夢だが、妖力の影響で、物語がそなたの過去の一部となった……』 白沢 『どうやら違う道を進んでいたのは、我だけではないようだな。』 白沢 『しかしこうなれば……』 白沢は微笑んで、指先で机をトントンしながらこう言った。 白沢 『そなたは果たして我の夢に入った蝶なのか、それとも我の夢が生み出した蝶なのか?』 |
胡蝶の精・四
対戦:かぐや姫
物語は続く、見聞も尽きることない。 けど夢から覚める時はやってくる。 白沢 『異世の刃、肝試しの琴の音、藤の花の芝居、炎を呼ぶ舞姫……』 白沢 『もう一つ、見聞を聞かせてくれ。』 白沢 『そなたと友人の話が聞きたい。そうすればそなたも彼女たちとの絆をたどってここから出ることができるだろう。』 胡蝶の精 『白沢お姉ちゃんも目覚めるの?』 胡蝶の精 『これで「縁結び」になるの?』 胡蝶の精は心配を隠せなかった。彼女は再び手首の赤い糸を白沢の手に巻こうとした。 しかし今度も糸がすり抜けて、繋げることができなかった。 胡蝶の精 『そんな……』 白沢 『夢一つで我と外部が繋がるのなら、こんなに時間はかからんであろう。』 白沢は平気な顔をして、唇の笑みも消えることはなかった。 白沢 『でも、進捗はあった。』 彼女は手に持っている百聞かるたを振ってみせた。 本来光だけが漂う虚無の世界に、色鮮やかな百聞かるたが確かにある。 胡蝶の精が心配する顔を見て、白沢は白銀の糸をひとつ引いて、胡蝶の精が幻境から持ち出したうちわに結びついた。 白沢 『これで少し安心だろう?』 白沢 『我に話してみよう。奇妙な幻境のことや、そなたと友人たちの物語を。』 胡蝶の精は語りながら白沢と最後の幻境に足を踏み入れた。 星空のような虚無の世界はいつの間にか普通の景色に戻った。 耳元から聞きなれた妖怪たちのはしゃぎ声が聞こえる。 胡蝶の精は朦朧とする意識で近くの蜃気楼や、甲板で自分に手を振る友人たちの姿が見えたような気がした。 しかし、白沢の姿はもうどこにもなかった。 いつも後ろで観戦し、時にはうなずき、時には質問をしかけてくる妖怪は、夢から覚めたように跡形もなく消えていた。 いろんな夢の間を行き来する胡蝶の精さえも複雑な気持ちになった。 しかし、かるた机の上の対局は途中のままだ。そして、あのうちわも横たわっている。 うちわの柄は繊細な刺繍、どう見ても蜃気楼の妖怪が作れる出来ではない。 胡蝶の精はうちわを胸に抱いて、封印された結界のほうを眺めた。 本来交わることのない縁が、確かに結ばれた。 |
一条・一
対戦:一条・幻像
法陣を壊すということで、何名かの妖怪は我こそはと自分から名乗り出た。 初めて蜃気楼に訪れた妖怪への道案内、そして蜃気楼で困っている妖怪を助ける。これもまた猫給仕の仕事だ。 お客さんの対応はいつも思いやりのある二瞳か、気が利く四餅の仕事だが…… 今回の目的が法陣を破ることとなると、結局猫妖怪の中で一番戦力になる一条が白沢と共に行動することになる。 同行者はサボりたいだけの三つ目、そしてどうしても大好きな一条兄ちゃんについて行きたい、冒険に出たい五丸。 こんな突拍子なもふもふ一行になるとは思わなかったようで、白沢は興味津々に猫ちゃんたちの後ろについて、彼らが羅盤をいじるのを見ていた。 三つ目 『うーん……次はこっちかな?』 五丸 『違う!こっちだってば!五丸の勘は外れないもん。』 一条 『ゴホン、こっちだ。』 一条は三つ目が逆さまに持っていた羅盤を手に取り、弟と妹たちに道案内した。 三つ目 『あれ……でも霧がすごいよ?大丈夫か?』 一条 『羅盤が正しければな。』 一条 『白沢さんはどう思う?』 いつのまにか五丸を抱いて、あごを撫でてゴロゴロさせていた白沢はうなずいた。 白沢 『ああ。間違いない。』 白沢 『さすがみんなのお兄ちゃん、頼もしいな。』 一条は照れくさそうに頭を引っ掻いて、先へ進んだ。 五丸 『白沢お姉ちゃんはどうして五丸たちに手伝ってほしいの?今ここにいるじゃん?』 白沢の胸で気持ちよさそうにくつろぐ五丸は目を細めながら聞いた。 白沢 『ここにいるのは我の幻像だ。本物の我はまだあの小屋の中に閉じ込められている。』 白沢 『それに、ここにいても、我の力は限られている。』 白沢 『そなたたちの前に現れるか、自分の夢を操るぐらいが限界だ。』 白沢 『あとは……そなたたちに道を指し示し、陣法の鍵を探ることだ。』 白沢 『しかし法陣の中にいる我は封印を破ることができん。そこも手伝ってもらうしかない。』 五丸 『おう!お姫様を助け出すおとぎ話みたいだね!』 五丸の無邪気な言葉を聞いて、白沢もくりす笑った。 白沢 『なら、我を助け出した暁には、どうやって感謝すればいい?』 五丸 『忍者猫師匠が持ってる苦無と手裏剣がほしい!』 三つ目 『こら、お客さんに謝礼を要求するのは良くないぞ!』 白沢 『助けてくれたのだから、当然のことだ。』 白沢 『茶トラさんは何がほしい?』 三つ目 『うーん……箒を動かせる呪文かなぁ……』 さっきまで妹の説教をしていた三つ目だったが、白沢に撫でられたら気持ちよくなって、ゴロゴロ言いながら本音をこぼしてしまった。 一条 『……』 一条 『すみません、お客さん。兄弟たちが失礼いたしました……』 白沢 『ふふふ、そなたもまだ子猫ではないか?』 一条 『それでもみんなの世話をしなくっちゃ。』 一条 『立派な猫給仕になって、猫又さんの力になって、犬神先生を手伝って……返さなければいけない恩が山ほどあるんだ。』 白沢 『それで疲れないのか?』 一条 『とんでもない。だって蜃気楼は俺の家だから。』 兄弟よりだいぶ大人っぽい猫妖怪が真顔でそう言った。 一条 『家族のためなら、何だってできる。』 白沢 『家……か。』 一条 『白沢さんも自分の帰る場所が見つかるといいな。』 一条 『自分の帰りを出迎えてくれる家族がいることは、何よりも幸せなことだ。』 白沢は返事をせずただ笑って胸に抱いている五丸のあごを撫でた。 島を包む靄は濃かったり薄かったりするが、晴れることはなかった。 白沢によると、この靄も島の封印の一部であり、目的は島に人を近づけさせないことだ。 三つ目 『にしても、靄が濃すぎるよ……足元もろくに見えない……』 一条 『!?』 道案内していた一条が突然立ち止まり、尻尾の毛が総立ちした。 一条 『あれは誰だ!?』 話している間、その素早い影はすでに目の前まで来て、五丸に襲い掛かってきた。 妹を守ろうと、一条は木刀を持って妹の前に立つ。 同時に彼は敵の顔をはっきりと見た。 全身にヒョウのような模様が入って、長い耳は先端にいけばいくほど毛が長くなっている。そして顔には左の眉から斜め下へ伸びる傷跡がある…… もうひとりの一条だ。 三つ目 『えっ!?一条兄さんがふたり!?』 白沢 『封印が産んだ幻像だ。』 白沢 『子猫ちゃん、ここは一度帰って、他の妖怪たちの力を借りよう。』 一条 『大丈夫だ。』 一条 『お客さんのご要望に必ず応える。それが猫又屋の接客対応だ。』 一条はしっかり立って、木刀を構え直した。 一条 『猫又屋、一条。参上!』 |
一条・二
それでは、次の場所に行きましょう。
五丸 『一条兄ちゃんすごい!』 五丸 『三つ目兄ちゃんの5倍ぐらいすごい!』 三つ目 『待って、一条兄さんを褒めるのはいいけど、なんで僕が比較対象なんだ……』 三つ目 『僕は戦闘力を測る単位かよ!?』 一条は呼吸を整えた。 幻像が消え去った後、辺りで漂う靄も晴れて、呪符が張られた石が見えてきた。 白沢がくれた羅盤は真っすぐ石のほうを指している。どうやら破壊しなければいけないものはこの石で間違いないようだ。 あの呪符は猫妖怪たちが知っているものとは違う。一見陰陽師が使いそうな呪符だが、呪符の書き方が少し変わっている。 呪符に包まれた石にも奇妙な、八方へ伸びる模様がある。 三つ目 『こいつを壊せばいいんだね?よーし、これでいっぱいサボれる……』 白沢 『同じものがまだ8箇所もあるよ。』 白沢はニッコリ笑って言った。 三つ目 『えっ?8箇所?』 白沢 『8箇所。』 三つ目 『全部壊すんですか?』 白沢 『全部。』 白沢は笑って、さっきみたいに五丸を胸に抱いて撫でた。 一条 『じゃあ、次の場所に向かって出発だ。』 五丸 『五丸たちの戦いはこれからだ!』 三つ目 『えっ???』 |
一条・三
対戦:白狼
三つ目 『今……何個目に……向かってる?』 三つ目は小さな木刀を杖代わりに、かろうじて一条のペースについて行った。 一条 『6個目。』 一条 『三つ目、ちょっと運動不足じゃない?』 五丸 『五丸もまだまだいけるよ。三つ目兄ちゃんよわすぎ。』 五丸は白沢の肩に乗って、大きくため息をついて首を横に振った。 息継ぎができない三つ目はツッコミを入れる気力なんてある訳もなく、ただ前を見て、棒になった両足を頑張って動かしていた。 来る者を断念させるためなのか、封印の場所にたどり着くたびに強敵と出くわす。 ずっと一条が応戦していたが、敵が1体だけじゃない時も実際にあった。 子猫ちゃんたちについていた白沢はただの幻像で、戦うことができない。五丸を危険にさらすような真似は当然兄たちはしない…… こういう時、一条と共に戦うのは当然自称「蜃気楼第一武士」の三つ目になった。 三つ目 『ま……まだかな……』 白沢 『我が抱いて歩こうか、茶トラちゃん?』 三つ目 『いいんですか?……じゃなくて!』 三つ目 『ご安心ください、お客さん!この三つ目、これでも猫給仕です!』 三つ目 『これぐらい、どうってことは……』 一条 『三つ目!来たぞ!』 三つ目 『ひぇ……』 バタバタして、いやいやだったが、三つ目はそれでも全身全霊一条と共に戦っていた。 白沢 『ふたりともよく頑張ってるな……』 五丸 『だって兄ちゃんたち、猫又屋の猫給仕だよ?』 小さなひとりごとでも五丸はしっかり聞き取れた。 白沢 『猫給仕だからできるものか?』 五丸 『うん……だって家族と蜃気楼のお客さんたち、どっちも大事だもの。』 五丸 『猫又さんも、化け狸さんも、蛙さんも、あと他の大将さん、みんな口では言わないけど……』 五丸 『みんな自分なりに蜃気楼のためにすごく頑張ってると思うの。』 五丸 『だってみんなに楽しい時間を過ごさせたから。』 五丸 『みんなでわちゃわちゃおしゃべりして、百聞かるたやって、おいしいものを食べて……』 五丸 『ひと休みでも、旅行の帰りでも、蜃気楼に住み着いても……みんなが笑顔を見せてくれる。』 五丸 『白沢お姉ちゃんも蜃気楼に来たらきっと分かるよ。』 |
一条・四
対戦:五丸
三つ目 『これで!最後だ!!』 三つ目 『やった!!!』 最後の呪符が張られた石の横で、三つ目はもうくたくただった。 白沢 本当にお疲れ様。』 一条 『他のことは分かりませんが、こういう力仕事だけなら、お客さんのご要望に全力で応えられますよ。』 五丸 『平気だよ。五丸全然疲れてないもん!』 白沢は笑いながらしゃがんで、子猫ちゃんたちの頭を撫でてあげた。 白沢 『偉いね。』 五丸 『で、これで白沢お姉ちゃんは助かるの?』 白沢 『今はまだダメだが……できることは全部やったはずだ。』 白沢 『あとは待つだけだ。』 一条 『蜃気楼のお客さんはみんなそれぞれ特技があってすごいです。』 一条 『だから心配する必要はありません。』 三つ目 『こういう時はタヌキ居酒屋で前祝いをして、しっかり休んで精を養うべき!』 三つ目 『ちゃんと仕事はしてるから、これはサボりじゃないよ?』 五丸 『まだ時間があるね。白沢お姉ちゃん、蜃気楼に遊びに来ない?』 五丸 『面白いものがいっぱいあるよ!』 一条 『二瞳に案内できるかどうか頼んでみます。他に俺ができることなら何でも言ってください。』 白沢が返事するよりも先に、親切な猫給仕たちは白沢を引っ張って船のほうへ走り出した。 子猫たちにもっと力があったらきっと担いで船まで運んでいたのであろう。 五丸は見学ルートを組み立てて、三つ目はおいしいものが食べられる場所や景色がいい場所を端から全部紹介した。 騒いだ後、結局兄の一条の提案で、まずはタヌキ居酒屋で食事、その後百聞かるたをやってから次を考えることになった。 いつも何かしらのお祭りで賑わう蜃気楼、歌と踊りが絶えない蜃気楼…… 今日もまた、お客さんが来ている。 |
不見岳・一
対戦:山兎
術に長けている妖怪も少なくない。白沢が残した羅盤も術の弱い場所を指し示しているが、この古の法術を破るのは決して簡単なことではない。 かぐや姫 『うーん……ここは確か……』 金魚姬 『そんなに面倒なの?』 山兎 『そうだよ……力ずくで「ババンッ!」って解決できないの?「ババンッ!」って。』 かぐや姫 『そんな乱暴な方法を使ったら術に呪われちゃいますよ?』 かぐや姫 『やっぱり慎重にしたほうが……』 孟婆 『なんでも力ずくで解決しようとするのはダメよ!』 孟婆 『何か役に立つ薬はないかな……』 騒がしい四人組からちょっと離れたところに、蜃気楼に来たばかりの不見岳が島を眺めながら考え込んでいる。 山兎 『あれ?ひとりで何してるの?』 山兎 『みんなで相談したほうがいい案が出やすいよ。君も強そうだし、一緒に話そうよ!』 不見岳 『えっ?僕は……』 不見岳が答えるよりも先に、山兎はすでに彼を妖怪仲間に取り入れた。 山兎 『みんなで相談しよう!』 山兎 『最終的には……もちろん勝ったほうに従う!』 不見岳 『それ、たぶん相談とは言わないよ?』 |
不見岳・二
対戦:不見岳・幻像
「勝ったほうに従う」であっても結論は出ないだろう。 百聞かるたで勝った不見岳はその場からこっそり抜け出した。 妖怪のみんなと一緒にいるのが苦手なわけではない。ただどうしてもあの島が気になる。 もともと山の精だった彼は他の妖怪よりも草木に鋭い。 不見岳 『ここの草木や山石はどんなに本物に似ていてもただの幻。』 不見岳 『それどころか……この島全体が術で作られたようなものだ。』 不見岳 『昔何かあったんだね。』 不見岳 『白沢さんは、数千万の輪廻を見てきたような目をしている。』 不見岳 『最初に船に乗った時、こんな見聞に出会うとは思わなかった。』 白沢 『景色はどう?』 白沢はいつの間にか不見岳のそばに来て、一緒に島を眺めていた。 不見岳は一瞬ぽかんとしたが、改めてこの「蓬莱仙境」と呼ばれる場所を見つめ、特に何も言わなかった。 白沢も何も言わず、ただ佇んで見ていた。近くで騒ぐ山兎たち、遠くの波、そして果てしない天と地を。 しばらく経って、不見岳はようやく唇を開いた。 不見岳 『あなたは、ここに何千年もいると言った。』 不見岳 『この数千年で、一体何を眺め、何を守っているのか?』 白沢は少し黙り込んだ。 白沢 『世は長き、因果に返る。しかしこの世は無常なり。』 白沢 『我は幾度か人間を守り、この世の因果を守っていたが……』 白沢 『今となっては、我が守っていた人間たちはとっくに輪廻から外れたのだろう。』 白沢 『そしてこの世の因果は自ら融合し、もはや外部から干渉する必要はなくなった。』 白沢 『幸か不幸か、我はそなたと違って、絆も未練もない。』 白沢 『しかし……もし時間を持て余しているのなら、手伝ってくれないか?』 白沢 『ここの法術は複雑で、しかも我自身も力の一部になっている。彼女たちだけでは破れないのかもしれん。』 不見岳 『やっぱりこの島は法術で作られたんだ。』 不見岳 『けど、それで呪術を解いたら、あなたの力も取り戻せないかもしれない。』 白沢 『守りたいものがなければ、力なんてもうどうだっていい。』 白沢は笑いながら砂を手に取り、それが風に攫われていくのをただ見ていた。 白沢 『我もまた運命の流れ、定められた因果の中の一粒の砂に過ぎぬ。』 白沢 『ここからの未来は自分が描く。それも悪くない気がする。』 不見岳 『そういうことなら……』 重なり合う山々が不見岳の足元から島全体を覆う。 聳え立つ山々は、雲を貫く。 |
不見岳・三
強迫的な愛情、それは痛いですが、手放すのも耐えられません。
幻境の中で、法術を解くのもだいぶ容易になった。 眉をひそめていた妖怪たちも動き出し、封印が弱い場所を探して、一気に解いた。 不見岳 『この先はどうする?』 白沢 『ここを出たあとは、片道の旅に出るのだろう。』 白沢 『世の因果を修正し、かつて我をこの場所に閉じ込めた者を探す。』 白沢 『それか……どこかでひと休みして、何気ない春夏秋冬に身を任せるのも悪くない。』 白沢は遥か彼方を見つめ、深くため息をついた。 白沢 『この世に万全な策なんてものは一度だってない。』 白沢 『それについては山の神さまのほうが詳しいのでは?』 不見岳 『僕を知っているのか?』 白沢 『蓬莱はどことも繋がってはいないが、世界を見渡すことができる。』 白沢 『我は世間万物を知っている。』 不見岳は言葉を発する代わりにうなずいた。 白沢 『山の神さまは蜃気楼を出たらどこへ向かうのか?』 不見岳 『まだ果たしていない約束がある。』 白沢 『約束?』 不見岳 『山の亀千歳の世話をしないといけない。そして来年の春に咲く桜を見たい。面倒を見なきゃいけない人もいる……』 不見岳 『執念や未練は人を苦しませるが、切っても切れないものだ。』 不見岳 『いつか、あなたにも手放せないものができるだろ。』 |
不見岳・四
対戦:八岐大蛇
妖怪たちはさっきの短い会話を知らない。 何もかもお祭りにしたがる妖怪は楽しみを見つけることだけは得意。 蜃気楼に戻ったら、不見岳も妖怪たちに誘われて一件落着を祝う宴に参加した。 盃が交わり、宴は続く。 まるでここの平和はどこまでも続くみたいだ。 酒呑童子と火取魔にとって羽根のある飲み仲間が一名増えた。 母を探している鯨は少し内気な妖怪と友達になって、梅ジュースを一緒に飲んでいる。 不見岳は自分に清酒を一杯注いだ。 世が平和で、万物が平穏なら、一緒に飲む者も増えるのだろうか? 彼は盃をあげて、何もない宙に乾杯した。 新しい対局が始まった。いつも新しい仲間に親切な妖怪たちはいつものように不見岳を誘った。 彼が振り返ると、今下ろした盃に誰かがぶつけたのか、清酒に小さな波を呼んだ。 「チーン」 |
白沢
対戦:白沢・幻像
島の奥、白沢は自分の小屋の前で、扉に手を当てた。 過去の思い出は目の前ですり抜け、周りの靄も彼女の思いに察したかのように、集まっては彼女と同じ幻像となった。 幻像は喜びも悲しみも見せず、ただ扉の前に立っていた。 白沢 『もう行くわ。』 白沢 『良いことも悪いことも、過去にどんな怒りや不満があったとしても……』 白沢 『もう過ぎたことだ。』 白沢 『蜃気楼に行ってみたい。あそこの妖怪たちはみんな面白そうだ。』 白沢 『世のすべての因果を操る力はもはやない。一度ここを離れたら、全知全能で世を観察することも二度とできないであろう。』 白沢 『それでも行ってみたい。』 白沢 『それに、今回は大丈夫な気がする。』 白沢 『最後の封印は、我自身が解こう。』 |
終わり
初対面。というか、やっと会えた。
幻が破れ、封印の中心にあった小屋はもうすぐ目の前だ。 「ギィー」 古い扉がきしみ音を立てて、中から歩いて来たのは白沢だった。 白沢は長い夢から覚めたばかりかのようなおぼろな目をしていた。 彼女は目の前の妖怪をひとりずつ見て、そして遠くで停泊している船に目をやった。 その後、彼女は目を細め、大きな笑顔を見せた。 扉が開いた瞬間から、白沢はきっとこれまでとは違う道を歩むであろう。 そばには友がいる。帰る場所がある。 きっとそれは千年の孤独とは違い、賑やかで心温まる一日が迎えに来るのであろう。 白沢 『はじめまして。』 白沢 『いや、やっと会えたね。』 |
過去の断片
その1
天地が開かれた時、万物ははじめて天命と理を知り、生き生きとしていた。 誰も知らない場所に、白沢という名の異獣がいた。 彼女がいる場所は他の妖怪と違い、どの時空にも繋がっているように見えるが、どこにも属していない。 彼女が見る世界は、万物と違い、天命と理それぞれ独立し、散らばっている。 前後の順番もなければ、上下の関係も存在しない。 白沢がそれをすべてを繋ぎ合わせたその時、因果は生まれ、独立していた理が完全なものに変わった。 お互いに発展し、干渉し合う。 |
その2
そして因果を紡ぎ出した白沢はすべてを見届け、すべてを知っている。 彼女の手で物語が生まれ、歴史が生まれた。 彼女は外部と関わりを持たない傍観者として、ただ人々の出会いや別れを見届けるだけでも喜びを感じていた。 彼女は因果に手を加え、理に逆らおうとしたこともある。 時間と精力を要するが、それも不可能ではなかった。 |
その3
世間万物において、関わりがもっとも複雑で物語がもっとも波瀾万丈なのはもちろん人間だ。 人間は日が出れば働き、日が沈めば休む。同時に自然と外部の規律を学び、学識と知恵で強くなろうとする。 しかし人間の学識には到底限界がある。 ある偶然の機会で、人間は白沢の居場所に入った。 運命かどうかは分からないが、白沢は長年の観察で知らぬ間に人間と繋がりを持つようになった。 いずれにせよ、人間は白沢の生活に入り、彼女から様々な知識を学び、技術を教えてもらった。 人間は彼女に助けられることをとても喜び、彼女を神獣として祀り、時には穀物や家畜を生贄として捧げ、敬う気持ちを表していた。 |
その4
しかし学識や知恵を得ても、人間の生活は依然様々なことに脅かされていた。 人間には牙も羽根もない。山の妖怪は簡単に人間を殺し、人間の肉を食し血を飲むことができる。 白沢は大好きな人間がひどい目に遭うのが耐えられず、自分の力を駆使し妖獣を追い払ったり、人間の力になっていた。 白沢に守られた人々はますます彼女を敬った。 白沢は人間の帝王に頼まれ、彼らの未来を予言することもあった。 時には自分が学んだ知識を書にまとめ、後世に残そうとした。 人々はだんだん彼女の好みが分かり、機会があれば人間が作った新しいものを差し上げたり、あるいは彼女のそばで歌って踊って喜ばせようとしていた。 白沢は人間に知識と庇護を与え、人間は貢物と歌や踊りを捧げる。 こうして、白沢が万物を知り、妖魔を退治し、未来を予言できることが人間界で広まった。 |
その5
しかし、ある帝王は違うことを考えていた。 彼は術師を招き、こう言った。 「我々は神獣の庇護を受けたおかげで、人々が幸せにくらしていて、繋栄している。しかし心配することが二つある。 一つ、神獣はどんなに人間を愛しても、所詮は人間ではない。もしこの力を手に入れられたら、後世に恵を与えるのは私になる」 「二つ、私は帝王の身分ではあるが、肉体は一般の人間と変わらず、神獣のような寿命がなければ、どうやってこの国のために尽くせるのだろうか?」 帝王の言葉を聞いて、術師はこう答えた。 「神獣の力を掌握するのは極めて難しいと思います。しかし陛下のためならばわたくしは試してみたい所存です」 「わたくしは仙丹道術を日々研究し、神獣の力も学んでいます」 「そのため、正しい方法を使えば、人間でも神獣の力を手に入れられると断言できます」 「そして、神獣が万物を知っているのは、彼女が因果を繋げているからです。陛下がもし因果を操ることができれば、寿命を延ばすことも不可能ではありません」 帝王は大喜びで術師に計画を立てるように命じた。 術師は白沢を騙し、帝王が海で快適な住まいを用意したと言い、彼女を連れて行った。 白沢は長年人間と生活していたので、特に疑わなかった。 海に到着すると、術師は呪文と唱え、事前に島に仕掛けた法陣を呼び覚ました。 入念に作られた法陣は規模が大きく、さすがの白沢もすぐに抗うことができなかった。 しかし白沢は神獣、やがて術師と戦った。 海が鳴り、波が高まり、一瞬天地ですら驚かされた。 結局、術師の法陣は白沢に破られ、神獣の力を奪うことは叶わなかった。 しかし白沢も法陣に囚われ、やむを得ず自分の神獣の力を障壁に変え、術師を止めるのと同時に自分を封印した。 |
その6
法陣に囚われた白沢は数年を費やして、陣を解く方法を探していた。 しかし法陣はすでに完成され、しかも彼女自身の力も混ざっている。 自分の左手で右手と戦えないのと同じ、白沢もこの檻から抜け出せずにいた。 彼女の外部との繋がりは再び断ち切られた。自ら経験することができず、眺めることしかできなくなった。 外部と隔離されてから、世の因果は自然のままぶつかり合っていた。 そして白沢がいる場所は、後世の伝説で「蓬莱仙境」と呼ばれるようになった。 人間は仙境にたどり着けない、仙境も外部と関わりを持つことができない。 伝説は幾度も変わるが、所詮すぐ忘れられるような物語に過ぎない。 仙境にいる白沢は、ある日一隻の船を見た。 船は神に作られ、妖怪たちが乗っていて、独自の規則がある。 船の乗客は毎日歌って踊り、数え切れないほどのお祭りがある。どこに行っても賑やかで、様々な異聞が流れている。 白沢は船を眺めるたびに、憧れの気持ちが生まれてくる。 未来のある日に、船は自分がいる場所にもたどり着けるのだろうか。 |
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