【黒ウィズ】オペレーション・サンタ【クリスマス 大魔道杯】
開催期間:2018/12/20 |
目次
story1
「まったく。ガーディアン使いが荒いガーディアンだな、アサギは。」
ヒミカは任務から戻るなり、すぐさま次の任務を言い渡されることになった。
ひと息つく間もなくアサギのもとを訪れると、ウシュガが踏みつけられている。
「ああごめんなさいアサギ先生! もうわがまま言いません! 任務には真面目に取り組む所存です!」
「ならば私が言ったことを復唱しろ。」
「人間とガーディアンの未来がかかったこの任務は決して遊びではない――ウシュガ・ハイガド、ばっちりがっちり承知いたしました!」
「ばっちりがっちり承知? 本当だろうな? このやりとりを今までに何度もやっている気がするのだが。」
「あがあああっ背骨が折れるゥウ!」
「私は何を見せられているんだ……。」
「戻ったか、ヒミカ・ミナミデ。さっそくで悪いが、次の任務に行ってもらう。」
「……まさか、これを連れてか?」
「タモン・ジャズとトキモリ・ウガイヤも一緒だ。彼らには既に内容を伝えてある。
目的地は124号ロッド。人間とガーディアンの共生が始まって間もない小ロッドだ。
先日、カリュブス分身体の襲撃を受けたそうだ。幸い目立った被害はなかったものの――」
人間たちが恐怖心を抱いてしまったのだ。カリュプス分身体にではなく、苛烈で厳しい態度のガーディアンに。
ありがちな話だった。ガーディアンが人命だけを考えていて、それ以外の全てを軽んじているケースだ。
「カリュプス分身体から人間を守ればそれで共生が成り立つと思っているタイプのガーディアンなんだろう。
人間同士、ガーディアン同士でも共に暮らせば衝突が絶えないんだ。
人間とガーディアンが共に生きるためには、互いの信頼が必要だし、そのためには気遣いや愛想なんかもいる。」
「それヒミカさんが言う? もっと愛想よくしたほうがいいと僕は思うなー。」
「黙れ。」
「人間とガーディアンの間に生じてしまった溝を埋める。それが今回の任務だ。任務遂行に必要な衣装はこちらで用意した。」
「必要な……衣装?」
「もうすぐクリスマスだが……。124号ロッドには子どもが多く居住している。その多くは孤児だ。」
子どもたちにプレゼントを贈り、交流することによって溝を埋めろということらしい。
「そして、今回の任務はタモン・ジャズの荒療治でもある。」
「んんー? タモンさんのどこが悪いっていうんだい?」
「私の部下となってから5年……。タモン・ジャズはある1点を除いて、信頼の置けるガーディアンとなった。
今回の任務は、その1点を克服してもらいたいという期待も込められている。」
用意された衣装を見て、ヒミカはおおよそのことを察した。
「……あいつ、こっちのサンも駄目なのか?」
「んんー、たぶんこっちのサンも駄目だと思うよ。」
***
「いやァ、忙しいねーまったく忙しい。正月の準備で大忙しだ。」
「お正月の前に言い渡された任務がありますよね?」
「スザクロッドの伝統といったら正月の餅つきだ。失敗するわけにはいかねえ。今のうちから周到な準備が必要ってわけだ。」
「ですから、その前にクリスマスがありますよ。」
「トキモリちゃんは餅に何つける派?」
「我々は任務を与えられました。124号ロットに向かわなければなりません。」
「俺は王道の醤油だね。他にはきなことか、おっ、C資源をつけて食べるのもありかもしれねえってオイ! C資源はいかんだろーつってなァ!」
「……サンタさん。」
「……っ!」
「サンタさん。」
「黙れ……何回同じこと言いやがる……。」
「3回です。サンタさん。」
「うるせえええええええええええええ!」
「サンタさん。」
「4回言ってんじゃねえか!
俺の前でサンタさんって言うんじゃねえ。いくらトキモリちゃんでも手ェ出るぞおい!」
「嫌がらせで言っているわけではありません。今のうちに慣れておかないと。
現地に着いたら、子どもたちから言われるわけですから。サンタさん、サンタさん、サンタさんって。」
「あああああメリィイイイクリスマァアアアアス!」
story2
「落ち着けェ、これはサンタ帽じゃねえ。単なる赤い帽子だ。
いや、赤ですらねえ。心頭滅却すれば赤もまた青し。これは青い帽子だ。」
「タモン様。これは、赤い、サンタ帽です。」
「あああああメリィイイイクリスマァアアアアス!」
「なぜメリークリスマスと叫ぶ。どういう感情なんだ。」
「俺だって大人なわけよ。本当はきたねえ言葉で叫びたいところを、ぐっとこらえてメリークリスマスって言ってんだ。」
「妙なところで大人の分別があるな……。」
スザクロッドから124号ロッドヘ移り住んだ人々は多分に漏れず貧困層が多く、集落の雰囲気も決して明るくなかった。
漂う雰囲気の暗さは、人間とガーディアンの関係がうまくいっていないという点も大きく影響しているのだろう。
mさあ、任務の時間です。みなさん、準備はよろしいですか?
h本当にこの男を人間の子どもの前に出していいのか?
今からでも、このロッドにいるガーディアンと入れ替えたほうが……。
tはァ? ヒミカちゃんはおバカちゃんですかー? ここのガーディアンが人間とうまくいってないから俺らが派遣されたんでしょうが。
赤い衣装に身を包んだ一同は、子どもたちが集まる広場へとやってきた。
U良い子のみんなー、元気かなー? 超天才ガーディアンのウシュガお兄様と遊ぼうねー!
案の定、ガーディアンと聞いて、子どもたちは竦んでしまう。
Uんんー? みんな元気ないのかな? 一番元気な子には、一番んっんー! なプレゼントをあげちゃうぞー?
今までのガーディアンとは違う――そんなふうに思ったのか、数人の子どもがウシュガを囲む。
U誰が一番クリスマスツリーに似てるか勝負だ! ウシュガ・ツリー!
h頭に星つけて……自分が勝つ気満々だな……。
Uおっ、ウシュガお兄様ほどじゃないけど、みんなツリーのモノマネがうまいね!
太陽の光を浴びると踊り出すウシュガ様人形をあげよう!
え、いらない? じゃあこっちのスザクロッけん玉は……ってけん玉の人気すごっ!ウシュガ様人形人気なさすぎ!?
ウシュガは早くも何人かの子どもの気持ちを掴んだようだ。
U痛い痛い、蹴らないで! うわああ頭の星をもぎ取らないでおくれえええ!
もみくちゃにされているウシュガを見て、遠巻きに見ていただけの子どもも近寄りだす。
t滑り出しは上々。この流れに乗りたいところですね。ヒミカさん。
hはあ……どうして私がこんなことを。
ぼやいても始まらない。ヒミカは腹をくくって笑顔を作る。
hみ、みんなー。お、お姉さんと一緒に、あ、遊びましょうねー。
ウシュガをもみくちゃにするという活発な遊びに入れない物静かな子どもたちが、ヒミカのもとに寄ってくる。
t……。
hな、なんだその目は。
t硬いな、と思いました。
お、お前はどうなんだ。こういうのできない口だろ。
tどんな汚れ仕事もこなしてきたのです。これくらい、わけないですよ。
h汚れ仕事を引き合いに出すな。
うつむいていたトキモリが顔を上げると、柔らかな笑みをたたえていた。
tみんなー、お腹は空いてないかなー? トキモリお姉さんが作ったケーキはいかが?とーってもおいしいわよー♪
ヒミカは完膚なきまでに打ちのめされた。
tさあ、この流れに乗ってタモン様も!
乱れた呼吸を整えたタモンが、プレゼントの袋を掲げてニコリと笑う。
tメリークリスマス、少年少女たち!サ、サ、サンタのおじさんが、素敵なプレゼントをあげよう。
「うちは3人きょうだいだから、プレゼントは3個ちょうだい。
t3個!? タモン様……どうかご辛抱を……!
t……ぐっ、ううっ、プレゼントは4個あげよう。ひとつは予備に取っておくといい。
Uおおっ、さすがタモンさん! 冴えてる冴えてる!
「えー予備はいらないよ。3個ちょうだい。
t……3個ォ!? おじさんが4個あげるって言ってるのに3個でいいだとォ!?
tボク、予備は大事よ。プレゼントは4個もらっておきなさい。
hプレゼントの予備ってなんなんだ……。
「じゃあうちはふたりきょうだいだから、予備も入れて3個ちょうだい、サンタさん!
tあああああメリィイイイクリスマァアアアアス!
おかしなおじさんが大絶叫しながらクリスマスを盛り上げている――子どもたちはそう捉えているようで、雰囲気は悪くなかった。
h(……ん? あの子……)
そんな中、つまらなそうな顔をしてひとりでぽつんと立っていた少年が、集落の外に駆け出していった。
story 心を込めて
(タモンとトキモリに向かってもらったが……あの子……何もなければいいが……)
「さっきの子が気になるのかい? 気持ちはわかるけど、タモンさんとトキモリ女史に任せよう。
僕たちが今やるべき仕事は、子どもたちを楽しませ、ガーディアンってス・テ・キって思わせることだ!
ほら、ヒミカさんも僕みたいに! ヒミカ・ツリーつて!ほら! ほらほら!
「……ウシュガ・ツリー、飾りつけがちょっと足りないな。彩りを添えてやる。
ヒミカは子どもたちをウシュガから離し、鞭を手にする。
「ヒミカさんの鞭……一見きらびやかだけどっ!そんなもの巻き付けたら……ぎゃあああああ痺れるぅううう!
少年は苛立ちをぶつけるように、枯れ木に向かって枝を振るっていた。
mボク、こんなところにひとりでいたら危ないわよ。一緒に帰りましょう。
「うるさい。こっちくるな。
tおやおやご機嫌斜めだねえ。なんだか気になるよなあ、ハッピー。
「ウン、キニナル。ボクチャン、ドウシタンダイ?」
「聞いたぞ。ガーディアンは人間と違って、歳をとらないんだろ?
tまあ、例外もいるが、基本的にはそうだな。「ハッピーハズットハッピーノママダヨ!」
「そんなのずるいや。僕だって今のままがいいよ!
mボクは大きくなるのが嫌なの?
「もうお兄ちゃんなんだからがまんしなさいって、なんでもかんでもがまんがまん!
どうして僕のおもちゃを小さい子にあげなくちゃいけないんだ!
tなるほどねえ。確かにそりゃあ嫌な気持ちになるなぁ。
でも、お兄ちゃんもなかなかいいもんだぜ?だってよォ、ガキんちょなんかより、お兄ちゃんのがかっこいいからなぁ!
男ならちょーっと我慢が必要でも、かっこいいを目指すべきだぜ。
「うーん、でも……。
mタモン様! 北北西よりカリュブス分身体が接近しています!
t空気の読めねえクソツたれの分身体ちゃんだ。……いや、空気を読んだのかもしれねえ。
坊主、お兄ちゃんよりもかっこいい大人っていうものを見せて――
m分身体は……3体です!
t3体だと? ……オイオイオイ、よく見りや俺たちも3人じゃねえか。
さすがにこいつはクソの中のクソだ。3は……3だけは……!
mタモン様、ここは私にお任せを。この子を連れて――
タモンは分身体を迎え撃とうとするトキモリを手で制した。
t……いいや、この坊主に見せにゃならん。大人の男ってものをなァ!
見よ、我が影は立ち上がる、尽く征し喰らえと!
”アドヴェリタアアアアアス”!!
(いつまでも、3に振り回される俺じゃねえ)
見とけ坊主! これがウルトラかっちょいい大人の男の戦いだア!
アドヴェリタスが正面から迫る1体を両腕で潰すと、双頭が残りの2体に喰らいつく。
そして、潰しておいた1体を奪い合うようにふたつの大口が喰らい尽くした。
tどうだ、坊主。これが大人ってもんだ。大きくなるのも、悪くねえだろ?
mタモン様、この子が怯えているので、ハッピーちゃんをお願いします。
タモンはアドヴェリタスをハッピーヘと戻す。
「ドウダイボクチャン、オトナハカッコイイデショ?」
「僕も……かっこよくなりたいかも……。
少年の頭をわしわしと乱暴に撫でたタモンは、目を細める。
tそれに、大人は楽しい。クリスマスプレゼントをもらうのもいいが…………あげるのはもっといい。
***
現地のガーディアンと人間たちが触れ合う様子を遠巻きに眺めながら、タモンは疲労感たっぷりのため息をついた。
t俺たちの奮闘もあって、ここの小ロッドはいい方向に進みそうじゃねえの。
mそうですね。……ウシュガ。例のものを。
Uはいっ、トキモリ女史! タモンさーん、メリークリスマス!
tなんだこりゃ……マフラーか?
私たち3人が、交代しながら編んだのです。
tハッ。誰がどこ編んだか、なんとなくわかるな。網目がぴっちりしてるここはトキモリちゃん、この辺りの荒っぽいのはヒミカちゃんだ。
で、この、焼きそばみてえになってるとこは、ウシュガちゃんだろ。
Uんんー! 大正解! 僕も手先は器用なんですけど編み物はしたことなくて、焼きそばみたいになっちゃいました!
実はこのマフラーに使っている毛糸には、精神に害を及ぼさないよう精製したC資源が含まれているんです!
だから微弱な熱エネルギーが発せられていて、この実験がうまくいけば、様々な――
t上司を実験台に使ってんじゃねえ!
Uぎょああああああああっ!
タモンはウシュガを蹴り飛ばし、マフラーを投げ捨てた。
h安心しろ。毛糸の安全性は保証済みだ。私たちも身をもって確かめた。
mタモン様、そう邪険にしないでください。
トキモリがマフラーを拾い、タモンに手渡す。
m私たちが心を込めて(・・・・・)編んだことに変わりはないのですから。
t心を込めて(・・・・・)、ねえ。
タモンは顔をしかめながらマフラーを巻く。
mどうです? 通常のマフラーと比べて、温もりを感じますか?
t……どうだかな。俺にゃわかんねえよ。
h少しは喜んだらどうだ。部下からのブレゼントなんだぞ。
Uいやこれ喜んでるよ……喜びを隠してるタモンさんだよ!
mいいクリスマスになりましたね。タモン様も、3を克服されたようですし。
h3を克服!? う、嘘だろ……!?
Uサンタさんサンタさんサンタさんサンタさん――
tあああああうるせえええええええ
メリィイイイクリスマァアアアアス!
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