【黒ウィズ】アッカ編(Christmas stories 2016)Story3
story
g我が心のしもべよ、夢を喰らいて立ち上がれ!”セルウス″!
私とカムラナでサジエに干渉し、暴走を止めます。それまでの間、アッカを守ってください、みなさん。
「させないよ! させることを私は許さないんだよ!!
分身体が次々に生み出され、廊下を埋め尽くしながら走り来る。
対して、タモンたちもガーディアンを展開した。
q見よ、我が影は立ち上がる、尽く征し喰らえと!”アドヴェリタアアアアアズ!!
m影よ立て、我が身とともに彼の敵を討ち果たさん!”ネヴィアム”!
hなにひとつなき夢のあと、ただひとつだけ影は立つ!”アドミローラ″!
U孤高の道をゆく我は、ただ影のみを友とする!“ウィアノーヴァ”!
互いの力が、真っ向から激突した。
qハッピーな日だなあ、ええ!?
アドヴェリタスはご機嫌だ。分身体どもの突撃をものともせず、大きな口で片っ端から喰らって砕く。
m少々姑息な手を使わせていただきます。
分身体たちの身体が、いっせいに裂ける。恐るべき切れ昧を誇る糸が絡みついていた。態勢を崩したところをネヴィアムが襲う。
h効かないんだよっ!
アドミローラの翼が強い輝きを放った。その輝きは絶対の障壁となって、向かい来る敵を逆方向に吹き飛ばす。
U僕はキレると何するかわかんないぞォォオー!
ウィアノーヴァに乗ったウシュガが、巨大なメスを振り回す。その刃は、異常なぽどの鋭さで敵を切り刻んだ。
かつて世界に戦いを挑んだ者たちの奮迅だ。分身体など敵ではない。
だが、数だけは多かった。
q潰しても潰しても沸いて来やがるなあ、おい!
mここはガーディアン製造施設ですからね。材料には事欠かない。
hコインを使っていた頃とは違うんだ。いつまでもこんなことを続けてはいられないぞ。
Uんひいいいいい、アサギ先生、早くしてぇ~!!
gもうしばらく持ちこたえろ! こちらも簡単にすむものではない!
「やだよ、やだよ、私はやだよ! 私は私でいたいだけ! 私が私でなくなるのって、とってもやだよ!
zあなたが消えるわけではありません、サジェ。私たちはみな同じ、みなひとつなのです。
「やだよ! やだよ! 私は私! サジェ・カムラナだよ!!
戦いの音が止まない。
そんな空間にあって、アッカはひとり、静寂のなかに取り残されている。
いや――ひとりではない。いつだってそうだった。
いつだって、自分には彼女がいた。
Rギシシ。どうする、アッカ?
問いかけてくるロッカの瞳を見つめ――アッカは不意にあることに気づき、そっと笑った。
Aわかってるんでしょ、ロッカ。
自分の鏡。鏡の鏡。
鏡と鏡が向き合えば、そこにあるのは無限の世界。
A(鏡の私に何が映るか――いつもロッカが教えてくれる!)
ならば、迷うことなど何もない。
戦場を見据え、アッカは叫ぶ。
A私たちも行くよ――ロッカ!!
***
A鏡写しの我が心、ゆらめく姿をここに示せ――”トイポア”!
アッカの詠唱に応え、ロッカがトイポアに変わる。
ギシ! やられたいヤツ、寄っといで!
戦陣に加わり、その剛腕を振り回す。高純度C資源のパワーで敵を叩きのめし、ついでに爆弾を放り投げて吹き飛ばしていく。
qノってるねえ、アッカちゃん! やっぱこうでなくっちゃなァ!
タモンが、ニヤリと笑みを寄越してきた。
その笑みを見て、不意に気づいたことがあった。
Aねえ、タモン。ずっと思ってたことがあるんだ。
qああン? いきなり何よ。
A私。どうしてあなたたちのところから逃げたんだと思う?
カリュプスをコピーし、ロッドを破壊する。そのために造られたアッカ。
しかし彼女は自らの意志で脱走した。それが、収穫者の誤算の始まりだった。
qそんなの、アレだろ? トキモリちゃんが厳しくしすぎたんじゃないのォ?
m戦闘狂の上司が嫌になったのでは?
hその両方なんじゃないのか。
U他のガーディアンと違っで守る、ってベースプログラムを搭載してなかったから、ルール無用のフリーダムっ子になったのかも?
A……なんかそれでいいやって気がしてきた。
qいやいやいやいや言えよアッカちゃん! 気になって仕事に集中できねェだろうが!
はあ、と嘆息してから、アッカは言った。
Aきっとね。あなたたちの心を映したからだよ。
歪んだ心の、ほんとの願い。ロッドを折りたくなんかないっていう、裏の気持ち。
あっけに取られたように、タモンたちが一様に驚きの顔を見せる。
してやったりの顔を返しながら、アッカは続けた。
Aそうだよ。私はずっとそうだった。誰かの鏡であり続けたの。
だから、わからなかった。自分の心――そんなのほんとにあるのかなって。わからなくって、怖かった。でも……。
みんなの心を映した鏡。そんなの、私しかいない。だったら、それが私! 私の心って言っていいんだ!
ロッカが見せてくれたもの。自分のなかに映る、大切な人たちの姿。そのすべてが、今の自分を形作っているのなら。
A私の心は――みんなの気持ちでできている!
その証として――心の底から湧き上がる名を、アッカは唱える。高らかに。
A我が心の化身よ、共に進もう、我と共に挑め――”アウデアムス″!
おっでましぃーーーーっ!!
トイボアの身体から、黒の流星が馳せた。
圧倒的な力と驚異的な速度を兼ね備えた獣が敵陣を駆け抜けながら躊蹟していく。
qは……?
瞳目するタモンたちに構わず、アッカは続ける。
A花開け、我が心に咲く赤い果実よ――“インフローレ″!
黒獣の傍らに艶やかに微笑む美女が現れ、桜散る魔力の結界を構築して、敵の動きを一挙に止めた。
A我が心を貫き出でよ、雷牙の機神――”エクスマキナ”!
電光をまとう機械の翼が空を裂き、精確な射撃で敵を撃ち抜きながら、味方にエネルギーを充填していく。
A我が心から這い出でよ、月白の蛇骨――”エクスアルバ”!
エネルギー障壁を展開している敵の背後に多頭の骨蛇が忍び寄り、絡め取るように巻きついて、障壁ごと噛み砕いた。
A鎖をちぎれ、砕け伽、我が道塞ぐものを断て――”リベルタズ!
蒼き鉄腕が、堅固な肉体で攻撃を防ぎつつ、強烈な一撃を叩き込んで敵を黙らせれば、
A一ツ目射るは我が心、穿ち貫き敵を討て――”エクサエクオ″!
弓のような翼を持つ魔鳥が、矢の雨を降らせるとともに爆弾を設置、味方の攻撃に合わせて詐裂させていく。
A我が心のしもべよ、夢を喰らいて立ち上がれ――”セルウス″!
異様な怪物が出現、一点突破で暴れ回り、さらには特殊な器官を伸ばして他のアバターの傷を治療する。
Aとってもヤムヤム、″レベリオー“……ていうかミュール!
黒い魔獣と白い少女。にこりと笑って両手を広げ、見よう見まねで仲間たちの動きに追随していく。
A見よ、我が影は立ち上がる、尽く征し喰らえと――”アドヴェリタズ!!
黒牙が無数の眼で敵の弱点を見破っては無慈悲にそこへ喰らいつき、
A影よ立て、我が身とともに彼の敵を討ち果たさん――”ネヴィアム”!
巨漢が囮となって敵の攻撃を引きつけ、
Aなにひとつなき夢のあと、ただひとつだけ影は立つ――”アドミローラ″!
翼持つ魔人が障壁を攻撃に転用して魔物たちを叩き潰し、
A孤高の道をゆく我は、ただ影のみを友とする――”ウィアノーヴア”!
巨蛇が体液をまき散らして味方のダミーを作り出す。
入り乱れるガーディアンたちの猛戦に、分身体たちはすさまじい速度で数を減らされていく。
mガーディアンの複製召喚……!? それも、これだけの数を!?
hそうか。鏡であるがゆえに、おまえは知っているんだな。私たちの心を――その名と姿を。
Uんひょー! さすがプレミアム体! これだけのガーディアンを同時に展開するなんて、僕ぁもう興奮して鼻血噴いちゃうよ! んんー!
Aさあ、行くよ、みんな!
我と共に挑めえーーーーっ!!
少女の声に、すべてのガーディアンが雄叫びで応えた。
***
「やだ……やだ……。
どれだけ魔物を生み出しても、片っ端から喰い潰されていく。その惨状に、サジエはうめいた。
「こんなのやだ……! 消えたくない! 消えたくないよ!
A消えないよ。
アッカは微笑む。
Aあなたには、もう自分の心があるんだから。消えたりなんかしない。そうでしょ、カムラナ?
zはい。この戦いで、彼女はがーディアンアバターの使い方にずいぶんと慣れたはずですから。
g我々アサギと違って、カムラナのリンクは精神ではなく記憶のみの共有を目的としています。確固たる心があれば消えることはありません。
Aだと思った。そうでなかったら、そこのカムラナの心だって消えてるはずだしね。
アッカは、じろりとカムラナを見やる。
カムラナは、しれっとした笑顔で応じた。
z助かりました、アッカ。
彼女の心は、まだあまりにも幼い。他者の心とのふれあいと衝突を経なければ、リンクに耐えられるレベルに達しなかった。
A要するに、〝夕日の見える丘で殴り合ったら友情が芽生える理論〟?
z似たようなものではあります。攻撃と痛みは、自己の独自的尊厳を浮き彫りにし、自我の確立に大きく寄与する要素ですから。
z……記憶共有リンクの構築が完了しました。データのフィードバックには時間がかかります。サジエ、しばらくは眠っていてください。
「起きたら、遊んでくれる?
Aうん、いいよ。この施設の今後について相談したらね。
「もしここがなくなっても、遊んでくれる?
Aもちろんだよ。新しい生き方も、いっしょに探してあげる。
「わあい!
喜びの声を残し、サジエのアバターが消える。
zディープ・ワン、スリープに入りました。
カムラナの報告を聞いて、アッカは大きく吐息した。
Aひとまず、これで一段落だね。はあ、疲れた……。
qお疲れのところ悪いんだがねェ、アッカちゃん。
肩のハッピーをなでながら、タモンがにやにやと笑みを向けてくる。
q実は、俺たちからプレゼントがあんのよ。
Aプレゼント?
q見てみな。
タモンは、通路の脇――無限に広がる星の海を指差す。
そこに、ちかりと光るものを、アッカは見た。
Aあれって――移送用ロッド!?
sおーい、アッカ! 聞こえるか?
tボディができたって聞いたんでな。約束通り、みんなで迎えに来たぞ。
yお菓子やジュースもいっぱい持ってきたから! 着いたらそっちでパーティよ!
kもう少しで着陸する。待ってろよ、アッカ!
Aみんな……。
もう会えない。そう覚悟した仲間たち。
そのあたたかな声が、生身の耳に流れ込んでくる。
q今日は聖夜だからな。ろくでなしとはいえ、親としちゃ、プレゼントをやらずにやいられんわけよ。
Aタモン……。
驚きに見開かれたままの瞳から、涙がこぼれた。
頬を流れる熱にびっくりして、アッカは思わず、それを指ですくう。
Aこれ……私……。
たぶん、初めてのことだった。
何があっても泣かないのだろうと思っていた――自分は。鏡の心に涙などないのだろうと。
だから、うれしかった。涙を流しながら、アッカは思わず笑っていた。
Aあは……私……自分の心で、泣けるんだ……。
q当然だ。アッカ・フロレンテ。
不意に、タモンが真剣な口調で言った。
qおまえが脱走を望んだのは、俺たちの心を映したせいだと言ってたが――
だとしても、実際に脱走を〝決意〟したのは、おまえ自身だ。どれだけ心を映したところで、〝決める〟おまえがいなけりゃ話にならん。
――てなわけだからさ、アッカちゃん。連中を迎えに行って、遊んできな。心おきなくな。
Aうん。
うなずき、アッカは傍らを振り返る。
限りなく見慣れた相棒が、まったくいつも通りで何も変わりはありません、という風情で歩いてくる。
だから、アッカもいつも通りに微笑んだ。
Aそれじゃあ――行こうか、ロッカ。
Rそうだね、アッカ。
心が望む、その場所へ。
アッカ編(Christmas stories 2016)-END-
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