葛葉 銀
通常 | 幼少期 | 事故後 |
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Illustrator:バチ子
名前 | 葛葉 銀(くずのは ぎん) |
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年齢 | 17歳 |
職業 | 言ノ葉使い |
特技 | 言ノ葉の力で様々な奇跡を起こすこと |
苦手 | 自分自身 |
- 言ノ葉Projectマップ5(STAR PLUS時点で55マス/推定累計275マス?、AMAZON PLUSでも同様?)完走で入手。
イベントinclude:開催日(オリジナルAMAZON+)
- 対応楽曲は「相思創愛」。
- 専用スキル「母との思い出」を装備することで「葛葉 銀/幼少期」へと名前とグラフィックが変化する。
- 専用スキル「失った心」を装備することで「葛葉 銀/事故後」へと名前とグラフィックが変化する。
- 通常とほとんど変わらないが、髪型が微妙に変わっている。
言ノ葉使い。とある事情により、座敷牢に幽閉されている。
分からないのPVの最後に、第五章への伏線として少しだけ登場している。
スキル
RANK | スキル |
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1 | 母との思い出 |
5 | |
10 | 失った心 |
15 |
include:共通スキル
- 母との思い出 [TECHNICAL] ※専用スキル
- 同じGRADEのコンボエクステンドと全く同じ性能。+1止まりなので、基本的にはキャラグラ用と割り切るしかないだろう。
- 後にその母親がキャラクターとして追加されるとは誰が予想しただろうか。
GRADE | 効果 |
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初期値 | 100コンボごとにボーナス +3000 |
+1 | 〃 +3100 |
ゲージ10本必要条件:4900ノーツ |
- 水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。
GRADE | 5本 | 6本 | 7本 | 8本 | 9本 | 10本 |
---|---|---|---|---|---|---|
初期値 | 7 | 14 | 22 | 31 | 40 | 50 |
+1 | 7 | 14 | 22 | 30 | 39 | 49 |
- 失った心 [TECHNICAL] ※専用スキル
- こちらはコンボエッジ・シャープと全く同じ性能。+3止まりで、入手や育成面で格段に有利というわけでもないため、やはりキャラグラ用と割り切るべき。
- ちなみに、このスキルを取得する近辺のRANKから解放されるSTORYがちょうど「事故後」の事故の内容になっている。
GRADE | 効果 |
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初期値 | 500コンボを達成した場合 ゲーム終了時にボーナス +43000 |
+1 | 〃 +45000 |
理論値:105000(6本+3000/24k) |
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | Ep.1 | Ep.2 | Ep.3 | スキル | |
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
Ep.4 | Ep.5 | Ep.6 | Ep.7 | スキル | |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
Ep.8 | Ep.9 | Ep.10 | Ep.11 | スキル | |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
? | ? | ? | ? | ? | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
? | ? | ? | ? | スキル | |
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
この国の都が京にあった頃、平安の御代から存在していたと言われている『葛葉一族』。
神狐――『お狐様』を真祖に持ち、それを崇めることで特別な力を得てるという彼らの当主は、代々人の言葉や感情を読む力に長けており、そこから『タテマエ』と呼ばれる化け物を呼び出したり、『ホンネ』と呼ばれる妖怪を使役することができるという。
葛葉一族は、その不可思議な力を見込まれ、古くから時の為政者たちと密接な関係にあり、影の実力者として栄華を極めてきた。
時代が移り現代になると、文明の光に消されるようにして、影の存在である葛葉一族の影響力も薄れてきたのだが……。
数10年前に『大奥様』と呼ばれる存在が当主の座につくと、葛葉一族は過去の栄光を凄まじい勢いで取り戻すようになったのである。
それは大奥様の政治的手腕だけではなく、どうやら『お狐様』と崇められる、1人の少年の力が関係しているようなのだが……?
僕は格子の嵌った小さな窓を見上げた。空には大きな金色の満月が輝いている。その冷たいが、どんな暗闇を照らす透明で美しい光を浴びると、少しだけ自分という存在が清められるような気がした。
(……ただの都合のいい錯覚だな。僕の穢れがこんなことで払われるわけはないのに)
僕――『葛葉 銀』は蝋燭の炎が微かに灯った暗い座敷牢の中で溜息をついた。
この座敷牢は表向きは『お狐様』――つまりは僕を祀る祭壇ということになっている。
だが、祭壇というのはあまりに武骨な格子で囲まれたこの奥座敷はそのまま僕の境遇を示しているだろう。
僕は幼い頃から葛葉一族の当主である『大奥様』、つまりは僕の祖母の手によってここに幽閉されている。
もっとも葛葉一族の真祖であり、神でもある『お狐様』と並ぶと称される僕の言ノ葉の力を持ってすれば、こんな牢はすぐにでも逃げ出すことができるだろう。
でも僕はここを出る気はない……恐らく一生。
ここで祖母と葛葉一族のためだけに己の力を使い、そして死んでいく……そんな生活を僕は受け入れている。
なぜならこれは僕に課せられた罰、そして贖罪なのだ。
そう……一見僕を敬うようで、忌避し、憎み、嫌悪している一族からの負の眼差しを受けるのも、実の祖母から便利な『道具』としてしか感情を向けられないのも……何もかも僕の罪が原因なのだから。
僕は……何も望まない。
……僕は元からこの葛葉一族の本家で生まれ育ったわけではない。僕の両親は一族から決別していたからだ。
僕の父の名前は『葛葉 保名(くずのは やすな)』、母の名前は『葛葉 芒蘭(くずのは のぎらん)』。両親から愛情を十分に注がれて育った僕は、今とは比べものにならないほど生気に溢れる子供だったと思う。
特に3つ年下の妹『空(そら)』が生まれて、僕の家族は太陽の光が照らすように明るい毎日を過ごしていた。
……最も、僕の家族の生活が一般的なそれとは違うということは幼いながらに感じていた。
僕の両親は1つの場所にとどまる生活を極力避けていた。今なら分かるが、恐らく父は母親である大奥様、そして葛葉一族の魔の手から僕たちを守るために、身を隠していたんだろう。
当然、両親はまともな職業に就くことも難しく、家族の暮らしは決して豊かとは言えなかったが、僕は優しい両親と可愛い妹に囲まれてとても幸せだった。
……恐らく、僕の人生で最も幸せな時期だっただろう。
葛葉一族から逃げていた父だったが、僕は幼い頃から言ノ葉使いとしての作法と力の使い方を教えられていた。
父はいつもこう言った。
「力というのは、人を守ることも傷つけることもできる。そして人は力に簡単に溺れるものだ。そうならぬよう、しっかり制御できるようにならないといけないよ」
幼い頃から僕には不思議な力があって、その力がどうやら父のものと比較しても異質であるということは、僕自身理解ができていた。
だから僕は父の教えを必死で学ぼうと努力したのだ。
ある日、僕がいつものように学童保育で母の迎えを待っていると、知らないおばあさんが僕を訪ねてきた。
「私はお前のおばあさんだよ。私と一緒においで」
いきなり祖母だと名乗られてびっくりしたが、彼女の笑顔は優しく、悪い人には見えなかった。何よりの祖母は僕の不思議な力のことを知っていたのだ。だから僕は、彼女の手を取りついていくことにした。
初めて葛葉一族の本家に連れられた僕は、その大きさに目を丸くした。そこで祖母は『大奥様』と呼ばれ、一族の頂点に立っているらしい。僕も『銀様』と呼ばれ使用人たちからまるで宝物のように丁寧な扱いを受けた。
今まで見たこともないような豪華な食事に綺麗な服を与えられ、僕は嬉しさと同時に居心地の悪さを覚えた。
「……ねえ、おばあちゃん。お父さんとお母さんはどこに行ったの?」
「2人はお仕事で遠くに行ったんだよ」
祖母の言葉に僕は衝撃を受けた。
「えっ? ぼ、僕、置いて行かれちゃったの!?」
「そうだね。でもそれは銀のためなんだよ」
祖母は泣き出しそうな僕を優しく諭した。
「……銀、お前には特別な力があるだろう? その力を制御できないうちはお父さんとお母さんの迷惑になるんだよ。だからここでしっかりとお勉強をしなさい。銀が良い子にして、おばあちゃんの言うことを聞いていればきっとお前の両親は迎えに来てくれるはずさ」
『僕の力が迷惑になる』そう言われ悲しかったが、同時に納得もした僕は、この日から葛葉一族として生活することになった。
僕が葛葉一族で生活するようになってから数年が経った頃、僕は言ノ葉使いとして様々な術を行使することができるようになっていた。
それは祖母の教育もあったが、彼女に言ノ葉使いとしての力はなかったので、やはり僕の中に眠る潜在的な才能によるところが大きいだろう。
一族の皆は僕のことを『天才』と呼び、真祖以来の力の持ち主として現代の『お狐様』と称えるようになった。
僕は一族の人間からからもてはやされ、崇められながらも、彼らが本当は透明な壁越しに僕と接しているのではないかということに気がついていた。
(……この人たちは、本当は僕のことが嫌いなのかもしれない)
僕にありのままの心で接してくれるのは、厳しくも優しく僕を見守る祖母と、同じ年の少年『光栄(みつよし)』とその母親だけだった。
光栄親子は、葛葉一族の使用人として住み込みで働いていた。使用人と主人の孫という関係で、身分は違っていたものの、葛葉一族には幼い子供は少なく、僕と光栄はすぐに親友になった。また光栄の母親も僕に主人に対する敬意だけではない愛情を注いでくれていた。
2人は僕が葛葉一族の中で心を開ける数少ない存在だった。
光栄親子はとても仲が良く、2人が一緒にいる姿は僕に両親との生活を思い出させ、胸を切なくさせることもあったが、僕は『いつか僕が一人前になれば家族と一緒に暮らせる』と思ってその度にぐっと耐えたのだった。
その日の夜、僕は騒がしい物音で目が覚めた。
どうやら祖母の元に何者かが訪れているらしい。
(……こんな夜遅くに誰だろう?)
僕は眠い目をこすって声に集中してみた。
「……この声は! お父さんだ!」
会いたくて仕方がなかった父の声を聞いて、思わず僕は祖母の部屋に飛び込みそうになった。
だが、微かに聞こえてくる父の声には僕を思いとどまらせるだけの緊迫感と怒りが満ちていた。
(2人は一体何を話しているのかな?)
……僕は今でも『あの時大人しく自分の部屋に戻っていれば』とうっすらと思うことがある。そうすれば、今頃違った未来が待っていたかもしれないと愚かな想像を巡らしてしまうことがある。
……だがもしそうだったとしても遅かれ早かれ僕は今の僕と同じ道を辿ることになっただろう。真実は変えられないのだから……。
そっと祖母の部屋のふすまに耳をつけて2人の様子を伺っていた僕は知ってしまった……残酷な真実を。
「……銀も殺すのか! あの子の母親のように!」
僕は父の思わぬ発言を聞いて、愕然とした。
「お父さん……お母さんが殺されたって……なに?」
「ぎ、銀!? どうしてここに!?」
「教えて! お母さん、殺されたの!? 誰に!?」
「それは……」
父の重い沈黙は、僕に母を殺した犯人を悟らせた。
「まさか……お婆様が?」
祖母は僕の言葉を否定しなかった。
僕は突然大好きだった母の死と、同じく心から慕っていた祖母の裏切りを知って絶叫した。
母の死を知った僕は祖母に詰め寄った。
「どうして!? どうしてお婆様がお母さんを!?」
……そこで僕は初めて知った。自分の出生の秘密を。
僕の母は人間ではなく、狐が変化した存在だった。
父は母と出会って恋に落ちたが、祖母を始めとした葛葉一族は母の存在を決して許さなかった。
そこで2人は駆け落ちし、僕と空が生まれた。
両親は葛葉一族の力と母の妖力を受け継いだ僕と空の存在が一族にばれないように隠れて生活していたのだ。
「で、でも……なんで、お母さんを……? 何も殺さなくったっていいじゃないかッ!」
「……あの女狐は銀、お前を引き渡すのを拒んだんだよ。まったく畜生の分際で、私の邪魔をするとは、思い上がりも甚だしい」
……そう母は僕が葛葉一族に引き取られる前に既に命を奪われていたのだ。
祖母や一族の人間は、母を殺しておきながらそれを黙っていて、ずっと僕の想いを利用していたのだ。
僕の心は憎しみでドロドロになり、葛葉一族に対して呪いの叫びをあげる。
「……みんな嫌いだッ! 嫌いだッ! 死んじゃえばいいんだッ!」
すると……僕の身体に変化が起こった。髪の色は凍てついた心を写し取ったような銀色に、瞳の色は紅蓮の炎を宿したように真っ赤に染まった。
そして……僕の中からとてつもなく大きな力が沸き上がったのだ。その力はやがて巨大な大狐へと変化した。
「……行けッ! 僕のホンネ、大狐! 全てを壊して、喰らい尽くせッ!」
僕の言葉に呼応して大狐は咆哮を上げた。
大狐は咆哮すると葛葉本家の屋敷を壊して、目についたものから次々に襲い掛かっていった。
「化け物めッ! 皆ッ! 奴を仕留めるんだよッ!」
流石の祖母もこの大狐には手も足も出なかったらしい。葛葉一族全員を呼びつけ、大狐を掃討しようとする。
だが、それは全くの徒労でいたずらに犠牲者を増やしただけに過ぎなかった。
「……みんな死んじゃえッ!」
僕の叫びに応えて、大狐は全てを攻撃する。
「……止めなさいッ! 銀ッ! このホンネを消しなさいッ!」
……お父さんが何か叫んでいるけれど、憎悪に支配された僕には届かない。大狐にとって彼も攻撃対象だった。
(お母さんを殺して、今まで僕を欺いていた葛葉一族……絶対に許さないッ! 復讐してやるッ!)
大狐に襤褸雑巾のように喰い散らかされていく葛葉一族の姿を見て、僕は心の底から喜んだ。
(いい気味だッ! 全部殺してやるッ!)
だが……大狐の爪牙が光栄親子に迫ったとき、僕はハッと我に返った。
「あっ! だ、だめだっ! その人たちはっ!」
……だが時は既に遅かった。大狐は光栄の母親の身体を簡単に切り裂いてしまった。
光栄は咄嗟に庇った僕の父のおかげで、難を逃れたが、父の制止を振り切って母親の亡骸に縋りついた。
その隙を大狐の牙は見逃さなかった。
「や、止めてぇーーッ! いやぁだーーッ!!」
……僕の唯一の親友は、無残にも喰い殺されてしまった。僕の目の前で僕の生み出したホンネによって……。
親友の無残な姿を見た僕は大狐を止めようとした。
「お願いッ! もうやめてッ! 僕は……もう、こんなことは望んではいないんだッ!」
だが、大狐の破壊は止まらない。
生きとし生けるもの、地上にあるすべての命を壊すまで、その怒りは収まりそうになかった。
大狐は僕のホンネだ。『彼』の怒りは僕の心の叫び、それはよく分かっていた。
(でも……! もうこんなことを『彼』にさせたくないッ! それも僕のホンネなんだッ!)
僕はなんとか大狐を止めようと、懐からマフラーを取り出して『彼』の身体に括り付ける。
……そのマフラーは母の手編みのマフラーで、葛葉一族にやってきた時に身に着けていたものだった。
祖母は何かと理由をつけてこのマフラーを始末したがったが、僕は大事にいつも隠し持っていたのだ。
僕はマフラーを握りしめ、大狐に縋りついて叫んだ。
「……お願いだッ! もう止めてッ! 僕はホンネの『君』にこんな辛いことをさせたくないッ!」
すると……そのとき奇跡が起こった。
荒ぶる神として脅威を見せつけていた大狐が柔らかな光に包まれて、みるみる姿を変えていく。
やがて……大狐は空に浮かぶ満月の光を掬い取ったような黄金色の髪と、神秘的な紫の瞳をした僕と同じ年くらいの男の子に変化したんだ。
生まれたばかりで真っ白な状態の男の子は、きょとんとした様子で僕を見つめている。
僕は泣きながら彼の身体を抱きしめた。
「ごめんね……君にこんなことをさせちゃって」
暴虐の限りを尽くした大狐はいなくなったが、葛葉一族は極度の混乱状態に陥っていた。
大勢いたはずの使用人は息絶えているか、傷つき地に伏せている。大奥様である祖母もまだ姿を現していない。父はこの機をチャンスだと感じた。
「……さあ銀ッ! お父さんと一緒に逃げようッ!」
だけど僕は泣きながら首を振った。
「……僕は行けない。ここに残る」
父は驚き、僕を説得しようとしたが、僕の心は変わらなかった。大狐の攻撃で大怪我を負った父の痛ましい姿を見ながら僕は懺悔した。
「お父さん……ごめんなさい。僕は……とんでもないことをしちゃった」
「銀……これはお前の責任じゃない」
「ううん……僕がいけないんだ。僕はお父さんに『力』について教えてもらっていたのに、それを守れなかった悪い子だから。ちゃんと罪は償わなくちゃ……」
僕は幼い頃から自分の不思議な力を知っていた。そして父から『人は力に簡単に溺れる』と教えを受けていた……それなのに親友を死に至らしめ、多くの悲劇を生み出した僕の罪は弁解の余地がない。
僕は自分の代わりに金色のもう一人の僕を連れていくよう父に頼んだ。
「……僕はもう、ここから逃げられない。でも君は自由だ。君は僕の代わりに僕が過ごしたかった日常を過ごして……幸せになって」
僕はもう一人の自分に向かって今生の別れを告げた。
「……もう悪い力に捕らわれないで。自分の力を全て司るような存在になって……『ツカサ』」
……全てを知って、全てを失った夜、あの日も今日と同じような満月だった。
全てを凍てつかせるような美しい月の光を浴びて、僕はもう1人の僕に想いを馳せる。
(ツカサ……君は今頃何をしているだろうか?)
かつて神話では、パンドラという女性が『決して開けてはいけない』と言われた箱を開けたため、世にあらゆる災厄が飛び出したという。だが箱の底には最後『希望』だけが残ったらしい。
……僕はまさにパンドラの箱だ。己の憎悪を世に放ち、その結果多くの人を傷つけた。
そして最後に生まれたツカ サは僕の希望そのものだ。
(ツカサ……この永遠に等しい孤独の中で、君だけが僕の希望なんだ……君がこの同じ空の下で幸せでいることだけが僕の闇を照らすささやかな灯りなんだ)
でもパンドラの神話と僕は、ある一点で決定的に異なる。僕は自分の希望すら解き放ったのだ。
今、ここでこうしている僕は空っぽの箱、葛葉一族のための伽藍の堂だ。
僕は大奥様に言われるまま、ここに囚われ、力を振るい続ける。
この身は人々の願いを叶える万能の装置。だけどこの身が叶える願いは何もない……。
伽藍の堂のこの心は、自分に群がる欲も、嫉妬も、怨嗟の声も全てを受け入れていく……だがこれでいいんだ。
僕は何も望まない……僕の望みはツカサに預けた。罪深きこの身に赦されているのは贖罪だけなのだ。