No.13_サジ
Illustrator:モゲラッタ
名前 | 佐治 光人(さじ みつと) |
---|---|
年齢 | 14歳 |
職業 | 中学2年生 |
趣味 | VRMMOFPS『アルカディス』 |
- 2019年10月24日追加
- CRYSTAL ep.Iマップ1完走で入手。<終了済>
- 入手方法:2021/9/2~10/6開催の「「ハイスクールセカンドシンドローム」ガチャ」<終了済>
- 対応楽曲は「サヴァイバル・キリング・メーカー」。
世界的に大流行しているMMOFPSに熱中する少年。
No.13_サジ【 通常 / パステルウォーカー 】
いつしか大切な人の記憶もなくし、ゲームの世界へと迷い込んでいた。
スキル
RANK | スキル |
---|---|
1 | オールガード |
5 | |
10 | |
15 |
スキルinclude:オールガード
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
スキル | Ep.1 | Ep.2 | Ep.3 | スキル |
6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
Ep.4 | Ep.5 | Ep.6 | Ep.7 | スキル |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
Ep.8 | Ep.9 | Ep.10 | Ep.11 | スキル |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
スキル |
STORY
──『No.13_サジ』。
それがこの『アルカディス』というゲームの世界で与えられたオレの名前だ。
他のプレイヤーからは『サジ』って呼ばれてる。
気がついたらオレはこの世界に居て、それまでの記憶はモヤがかかったように曖昧でハッキリしない。
おぼろげな記憶の中に、忘れたくない、忘れてはいけない人が居たような気がした。
ずっとオレのことを気にかけてくれていて、オレを守ってくれていたとても強くて優しい人。
オレはその人のことを大切に想っていた。
それなのに、今はその人の顔も、声も、上手く思い出すことはできない。
元居た場所に戻ることができれば、全てを思い出せるんだろうか?
なら、元の場所に帰りたい。そんな決意を秘めて、オレは戦場を駆け抜ける。
この世界のルールは単純明快。
やるか、やられるか。その2つしかない。
フィールドを走り回ってトリガーを引き、敵を撃つ。
敵を倒すことができれば嬉しいし、逆に自分が撃たれればすっげえ悔しい。
たったそれだけのことが無性に楽しくて、最高で、戦場を走り回るその瞬間だけは、記憶がない不安を忘れて何もかもが楽しい気持ちに塗りつぶされる。
たとえ戦場で撃たれて死んだとしても、次の瞬間には何事もなかったかのように傷一つ無い状態で生き返って、何度でもやり直すことができるんだ。
この世界での死とはそんなもので、それが当たり前のように受け入れられていた。
何度死んでも何度でも生き返ることができるゲームの世界。
そんな世界を一瞬でも楽しんでいるオレも、もしかしたら狂っているのかもしれない。
この世界に来る以前の記憶が曖昧なのは、オレだけじゃなくて他のプレイヤーたちも同じだった。
「いつまでこんなことをしないといけないんだろう……?」
記憶がないことに不安を覚え、それでも戦い続けるプレイヤーが震えながら言う。
「今回は10KILLもできたぜ~!」
「くっそー、負けた! あと少しでレベル上がるってのに!」
反対に、記憶がないことをほとんど気にせずに、ミッションのクリアに喜ぶプレイヤーや、負けた悔しさを吐き出すプレイヤーも多くいる。
オレを含めてどちらの傾向のプレイヤーにも言えることは、戦場を駆け抜けているその瞬間は、みんな不安を忘れて戦いを楽しんでいるということだ。
ゲーム内に用意されたミッション。対人戦および、特定の兵器を破壊することを目的としたNPC戦、物資の収集といった内容の様々なミッションをクリアしてレベルを上げれば、今よりももっと楽しい世界に行くことができる。
この世界に降り立ったオレたちプレイヤーは、誰に教えられたわけでもないがそれだけは知っていた。
だから、この世界を楽しみたいプレイヤーは勝って新たな世界を目指すために、この世界から抜け出したいプレイヤーはレベルを上げれば解放されると願いながら、日々ミッションを繰り返す。
「撃ち合って、やるか、やられるかのスリル! たまんねぇよな~! ずっと戦っていたいぜ! なぁ、サジもそう思うだろ?」
「え、うん。オレは……」
問いかけられたオレは言葉を詰まらせた。
戦場を駆け抜ける日々は確かに楽しい。いろんな景色を見てみたいし、敵をかっこよく倒したいという願望もある。
けど、ミッションが終わる度に脳裏を過るおぼろげな大切な記憶。大切な人の存在。
このまま戦い続けたらその記憶が本当になくなってしまうんじゃないかと思うと怖くて、ハッキリと答えることはできなかった。
解放されたいのか、このまま戦い続けたいのか。
答えは出ないままミッションを繰り返し、レベルAへと到達してホームである街に転送されるのと同時に、あるメッセージが届いた。
「おめでとう、『レベル:A』へ到達したようだね。『レベル:S』で私が用意した3つのミッションへ挑むまでに、しっかりと力をつけてくれたまえよ。ここまで来た君になら、『レベル:S』まで辿り着けることを信じている。『レベル:HEAVEN』と『レベル:REAL』に至る権利を得るまで、諦めず進むことを期待している」
「うおぉー! 『レベル:HEAVEN』! まだまだ先があるってのかよ!」
「これ、『レベル:REAL』って……ここに辿り着くことができれば、この世界から解放されるのかな?」
近くに居た、オレと同じようにメッセージを受け取ったらしいプレイヤーたちから声が上がる。
『レベル:HEAVEN』と『レベル:REAL』。
そのどちらかに辿り着けば、この世界から解放されるんだろう。
今までミッションを繰り返し戦い抜くだけだったけど、明確に目指す場所ができて、ようやくすがるものを見つけられた気がする。
この世界から解放される手段を見つけられてホッとしたのと同時に、戦いの日々が終わってしまうことが少し残念に思えた。
レベルAのミッションで向かうフィールドは、どれもオレにとって初めて見る景色ばかりだった。
雪が舞う白銀のステージや焼けるような暑さの砂漠ステージ。
かと思えばバカンスにちょうど良さそうな常夏の島なんてステージもあった。
「すごい……こんな景色、初めて見た……!」
戦場に降り立つ度に、まだ知らない新しい世界の扉が開かれていく。
早く解放を願っていた他の仲間でさえも、次々に現れる見たこともないような景色に、次第に魅了されていった。
それはオレも同じで、次はどんな世界が待っているんだろう?
いつしかそればかりを考えるようになり、新しい世界を求めてミッションに飛び込んでいく。
いろんな景色を目の当たりにして、オレの気持ちは元の世界に帰って記憶を取り戻すことよりも、新たな世界に触れたい気持ちの方が次第に大きくなっていた。
新しい世界を見たい。
その想いのままにレベルAのミッションをクリアし続けていたオレは、いつの間にかレベルSへと到達していた。
このレベルまできたプレイヤーたちは歴戦の猛者ばかりで、銃の撃ち方やリロードの仕方といった基本的な動作は、体に染み付いているのか流れるように完璧だ。
銃撃戦の知識も戦場での動き方もオレとは比べ物にならなくて、力の差を実感する。
そのプレイヤーたちは、この世界を心の底から楽しんで、この世界で生き続けることを真に望んでいるような
人たちばかりで、この世界から解放されたいと願うプレイヤーは少ない。
そんなプレイヤーたちに囲まれてなんとか食らいついていけてるのは、まだ見たことのない世界を体感したいという想いがあるからだろうか。
レベルSのフィールドは、これまでの難易度のフィールドに加えて、漫画の中でしか見たことがないような未来都市や巨大な月面基地の中で撃ち合うなんてものもあった。
現実では確実に訪れることができない舞台が目の前に広がっているんだ。興奮しない人なんて居ないだろう。
少なくともオレは、一瞬戦うことを忘れてその光景に見惚れてしまったほどだ。
フィールドを駆け回り、戦っていく度に新しいものに触れることができるこの世界で生き続けることは、この世界に身を委ねてしまうことは、本当にいけないことなんだろうか?
この世界から解放されたい。
それは確かにある気持ちだけど、見たことのない景色の中で戦い続ける日々は本当に楽しくて、それがずっと続いてほしい。
レベルSの世界を体験してから、そう思う気持ちの方が強くなっていた。
レベルSに用意された3つのミッション。
その難易度は今までとは比べ物にならないくらい高難易度のものだった。
と言っても今選べるのは3つの内2つだけ。
選択できる2つをクリアしたプレイヤーだけが、最後の3つ目のミッションへと挑戦できるんだ。
選べるミッションの1つは殲滅戦。
敵を全滅させることができればいいんだけど、敵の数が多くて位置取りを間違えてしまうとすぐに殺されてしまう。
もう1つは防衛戦。
拠点となる場所を一定時間守りきればクリアになる。
こちらも言うのは簡単だけど、一定時間ごとにポップする敵の数が増え続けるから、処理が間に合わなくなるんだ。
難易度に苦しませられながら、でも難しいミッションは楽しくて、次こそはと挑戦を続ける。
序盤は順調に敵を撃ち倒していたが、徐々に敵の攻撃が激しくなってきて対応が間に合わず、他のプレイヤーが次々と撃破されていく。
なんとか持ちこたえようとするけど、弾切れとリロードのタイミングで敵に狙われてしまい、オレは思わず力強く目を瞑る。
だけど、いつになっても撃たれた感覚はこない。
おそるおそる目を開いてみると、オレを狙っていた敵が光の粒子になって消え去るのが見えた。
同時に、一人の少女がオレの前に現れた。
鋭い視線を向けられて、オレは警戒して銃を構える。
敵……?
いや、オレを助けてくれたってことは、味方か?
でもこの人、どこかで会ったことがあるような気がする……。
「光人、ようやく会えた……」
「み、つと……? キミはいったい……?」
その少女は知らない名前でオレを呼んだ。
でもオレは、その名前を知っているような気がする。
目の前に居る少女に、何度も呼ばれたことがあるような……。
思い出そうとした途端、頭に鈍い痛みが走る。
「あたしは、あんたを助けに──」
何かを言おうとしたその直後、少女が体を仰け反らせた。
「お姉ちゃん!」
少女が倒れ込み光の粒子となって消え去っていく。
どうしてそんな言葉が出てきたのかはわからない。
けれど、異様に悲しくて、悔しくて、しばらくの間その場から動くことができなかった。
オレのことを知る少女がKILLされてしまった後、呆然と立ち尽くしていたオレもすぐにKILLされてしまい、ホームの街へと戻されてしまっていた。
撃破される直前のことを思い返す。
あの少女はオレのことを知っているようで、言葉は途中だったけど「助けにきた」と言いたかったんじゃないか?
そしてオレは、あの少女が撃破された時に「お姉ちゃん」となぜだかわからないけど叫んでいた。
きっとあの人は現実でオレと関わりがあるんだろう。
家族だとか……ハッキリとは思い出せないけど、きっとそんな気がする。
「オレを助けにきた、か……」
レベルSになっていろんな景色を目の当たりにして、戦場を駆け抜ける日々は楽しかった。
その気持ちに嘘はない。
だけど、あの少女を見て、声を聞いた瞬間、おぼろげな記憶がオレの脳裏を過った。
記憶の中に居る大切な人。
それはもしかしたら、オレが覚えていないオレの名前を呼んだあの人のことなのかもしれない。
「もう一度会って、ちゃんと話がしたい……!」
あの少女が誰なのか、オレの何を知っているのか。
それを知るために、オレはまたレベルSのミッションへと出撃した。
オレのことを知る少女を捜すために何度も同じミッションに繰り出す。
結局少女を見つけることはできずに、オレはレベルSの2つのミッションをクリアして、3つ目のミッションに参加する資格を得ていた。
そうしてホームタウンに戻ってくると、目の前に3つ目のミッションに出撃するか、確認のポップアップが表示される。
100人のプレイヤーが2人一組の50組に分かれて行われるバトルロイヤル。
あの少女もこのミッションに参加しているだろうか?
それを確認するためにも、オレはミッション参加のボタンを押した。
フィールドに降り立つとすぐに近くの装備を回収。
ハンドガンとグレネード、スモークが数個。
加えて回復アイテムを数個を見つけられた。
メイン武器がハンドガンだけなのは心もとないけど、そうも言ってられないか。
そうこうしていると、いたるところから銃声が聞こえてきた。
もう始まったのか!
焦るオレの頬を銃弾が掠める。
考えるよりも先に物陰へと飛び込んで身を隠す。
すぐに隠れながら敵を探してみると、少し離れたところにチラリと人影を発見した。
初撃のヘッドショットが外れたのは運が良かった。
けど、オレの武器はハンドガンとグレネードだけで、圧倒的不利な状況は変わっていない。
くそっ! こんなところで終われないってのにっ!
こうして悩んでいる間にも、今の銃声を聞きつけて別の敵が近づいてきているかもしれない。
いや、こんなところで諦めるわけにはいかない。
諦めてたまるかっ!
なんとしてもあのプレイヤーに会って、話を聞かなきゃならないんだから。
一度大きく深呼吸をして、思考を巡らせる。
手持ちの装備で距離の離れた場所に居る敵を倒すのは難しい。
一か八か、ここは逃げるしかない。
幸いにも手持ちにはスモークがある。
確実ではないけど、逃げられる可能性は十分あるはずなんだ。
そうと決まれば時間は少しでも惜しい。
オレは敵が見えた方向に思い切りスモークグレネードをぶん投げた。
放物線を描いたそれが地面に落ちると、灰色の煙が辺りに吹き出す。
続けて2つほどそれぞれ別のところにも投げて、辺りに灰色の煙を充満させる。
あとは運に任せて走るしかない。
オレが走り出したのと、どこからともなく銃声が聞こえてきたのは、ほとんど同時だった。
が、オレに弾が当たることはなく、ただひたすらに煙の中を走り続けた。
煙を抜けて逃げ切れたと思った矢先、目の前に別の敵プレイヤーが現れた。
あちらもオレが現れたことに驚いていたが、すぐにライフルをオレに向けたのだから、さすがレベルSプレイヤーだ。
引き金を引かれる前にライフルを蹴り上げる。
直後にライフルは空に向かって火を噴く。
その一瞬の隙を突いて、ハンドガンで敵プレイヤーの眉間にゼロ距離で3発ほど撃ち込む。
KILLしたプレイヤーが持っていたライフル、他のアイテムを自分のものにしてから、ようやくオレは一息ついた。
装備を奪ったことでなんとか敵と戦えるようになったオレは、辺りを警戒しつつ銃声の聞こえる方へと向かっていく。
スコープを使って遠距離からの奇襲や、グレネードで敵を誘導してKILLを稼ぐ。
ここは偽りの世界の中なのかもしれない。
だけどこうしているこの瞬間は、やっぱり楽しいものだった。
この世界の楽しさにまた飲み込まれそうになっていたその時、あの少女の姿を発見することができた。
物陰に隠れた少女に近づくと、少女の方から体を出して銃を向けてきた。
咄嗟にオレも銃を向けてしまう。
「キミは、誰なの?」
震える声を絞り出すと、少女が目を見開いたのがわかった。
オレがそう問いかけると、少女は一瞬目を見開いた。
悲しそうな表情を浮かべた少女は、一度辺りを見回してオレに駆け寄ってくると、突然オレを抱きしめた。
いきなりのことに頭が追いつかない。
けれどどうしてだろう。
この人に抱きしめられるのは、とても懐かしい感じがした。
「あたしは『ニナ』。あんたのお姉ちゃんで、大切な弟を助けに来たんだよ」
その名前を聞いた瞬間、また鈍い頭の痛みに襲われる。
そして脳裏を過ぎるのは、おぼろげに覚えているここではないどこかの記憶。
記憶の中で1人の少女が、オレに向かって笑いかけてくれた。
頬を膨らませて怒ってくれた。
優しく抱きしめてくれた。
顔もよく思い出せない。声だって何も聞こえない。
けど、その人がオレにとって、とても大切な人だということはわかる。
この世界での戦いの日々が楽しくて忘れかけていた。
オレは、その人のことを思い出したいんだ。
「ちょっと、こっち来な」
ニナと名乗るプレイヤーが、急にオレの手を引いて近くの物陰へと隠れた。
「これで涙拭いて」
渡されたのは一枚の布。
いつの間にかオレは泣いてしまっていたようで、恥ずかしさを覚えながら、それを隠すように布で目元を拭いた。
「ごめん、ありがとう」
「あたしの方こそ……こんな辛い目に遭わせちゃって……」
目の前のニナも泣きそうになりながらも、必死に堪えているようだった。
そして、オレを安心させるかのように、優しく手を包む。
「あんたは少し前から、このゲームの世界に閉じ込められているの。あたしは、そんなあんたを助けるためにここまできた」
「助けるって……そんな、どうやって……?」
「3つのミッションをクリアすることができたプレイヤーには『レベル:HEAVEN』と『レベル:REAL』に至る権利が与えられる」
「それって……」
「開発者からのメッセージよ。このミッションをクリアすることができれば、元の世界に帰ることができると思うの。だからあたしは、あんたをどうしても勝たせたいの」
レベルが上がった時に来たメッセージを思い出す。
読んだ時は帰る唯一の手掛かりと思っていたけど、最近はあまり気にしていなかった気がする。
「今はあたしのことはお姉ちゃんだなんて思わなくていい。けど、あたしはあんたの、光人の味方だから。それだけはわかって、ほしいな……」
「……キミがオレのお姉ちゃんだとかは……突然過ぎて正直よくわからないよ。けど、オレの記憶の中に、忘れたくない大切な人の記憶があるんだ。ぼやけてしまってそれが誰なのかわからないけど、きっと元の世界に戻れば思い出せるはず……。だから、今はニナに協力するよ」
ニナのことを信用してしまっていいのか、本当のところはよくわからない。
もしかしたら騙されていて、後ろから殺されてしまうかもしれない。
けど、オレはニナのことを疑うんじゃなくて信じたい。
なぜだかそんな気持ちがあった。
ニナが最後のプレイヤーを撃破すると、少し間を置いて目の前に『ミッションクリア』の文字が現れた。
「やったんだ、ニナ! オレたち、勝ったんだ!」
開発者が用意した3つの高難易度のミッション。
それをオレたちはクリアできたんだ!
そう言うと、ニナも嬉しいみたいで笑顔を返してくれる。
勝ったことに喜んでいると、真っ白な兎がオレたちの前に現れた。
「追うわよっ!」
「う、うん!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて行く兎。
ニナはオレの手を掴むと兎を追って走り出して、オレも慌てて足を動かす。
無我夢中で走っていると、いつの間にか誰かの家の中にオレたちは居た。
「ここは?」
随分と古風な家を見回すと、美術館でしか見ないような美術品が並んでいる。
「ようこそ、私の空間へ」
いきなりオレでもニナでもない声がして、驚いて体を震わせる。
声を発したのは、深く椅子に腰かけた白衣を着た老人。
会ったことも見たこともなかったけど、この人がこのゲームの開発者なんだろうと、なぜかそう思った。
「まずはおめでとう! 君たちは私が用意したレベルSの3つのミッションをクリアした! もっとも、1人は招かれざる客だがね」
「挑発してここに入れたのはあんたでしょ。あたしはそのルールの中で戦って勝ったんだから、問題ないはずよ」
「それもそうだが、まぁいい。さて、それでは君たちに……いや、君に最後の選択の時間だ。あまり長ったらしく話すこともないだろう?」
まるでニナを無視するように、開発者はオレに向かってそう言ってきた。
「選択?」
「私の遺産を持って辛く苦しい現実世界に帰るのか、それとも夢のような楽園の世界を永遠に楽しむのか。君はどっちを選ぶ?」
『レベル:REAL』と『レベル:HEAVEN』。
きっとその選択のことを言っているんだろう。
「あたしを無視して話を進めないでくれる?」
「君を招いたのは確かに私だ。弟を助けたいというその一心で、どれだけのことができるのか。私はただそれが見たかっただけなのだ。結果、君は弟を勝利に導いた。それで君の役割は終わったのだ。イリーガルな存在である君には回答する権利はない」
ニナが何かを叫ぼうとして、だけどそこでニナの動きが止まる。
開発者が何かをしたんだろうと睨むけど、何が楽しいのか笑みを浮かべていた。
それが不気味に感じて、オレは視線を逸らした。
ニナがオレに視線を向けていることに気づいて、オレは安心させるために笑いかける。
「さぁ、少年。選びたまえ」
「その前に、聞きたいことがあるんですけど」
「なぜこの世界に取り込まれたのか、かな?」
「……はい」
聞こうと思っていたことを先に言われてしまい、居心地の悪さを感じた。
「簡単だよ。君はこの世界をもう1つの現実として楽しんでくれた。ただそれだけさ」
「は?」
よくわからない。
確かにこの世界はとてもリアルで、現実にもないものもたくさんあって楽しかった。
けれど、もう1つの現実なんて思ったことは……。
「心のどこかではそう感じていたはずだ。もちろん、君以外のプレイヤーもね。だから招待したのさ、この楽園に!」
そう言われてしまうと、そうだったのかもしれない。
完全には否定できなくなる。
「ちなみに、君がどちらの選択をしようとも、君たちの言う『未帰還者』は全員現実の世界へと戻る。そのことに関して、君が気に留める必要はない。だから自由に選ぶといい。君が本当に生きたい世界を!」
オレの選択で他のプレイヤーが現実に帰れなくなる。
なんてことはないらしい。
本当にオレが生きたい世界。
それはもう、心に決まっていた。
「確かにこの世界はとても楽しかった。戦場を駆け抜けるスリルとか、いろんな風景を目の当たりにできて、最高だった。でも、オレは思い出したいんだ。記憶の中に居る、優しくて、強くて、カッコいい人に、オレは会いたい。だからオレは、現実の世界に帰りたい!」
オレの答えに、開発者は大きくため息をついた。
直後、ニナがオレを抱きしめてきた。
「良かった……光人、良かった……」
涙を流しているニナの背中に、オレも腕を回す。
これで現実の世界に帰ることができて、そこでニナとも会えるんだよな。
そう思うと無性に嬉しく感じた。
「現実に帰るという選択、後悔しないようにしてくれたまえよ」
「最後に1つ、聞いてもいいですか?」
「なんだね?」
「どうして、現実の世界かこの世界で生きるのか、選ばせてくれたんですか?」
視界が光に包まれる中、オレは開発者にそう問いかけていた。
「ゲームが好き。だが、現実を捨てられんやつもいるということだ」
「それって、自分のことですか?」
その質問には答えはなくて、別の言葉が返ってきた。
「ここは確かに楽園だが何を食べても腹は膨れない。それだけが唯一の欠点だ」
最後に、開発者の老人がニヤリと笑ったような気がした。
現実は辛く苦しい。
だけど、この人は決して、現実世界を嫌っているわけじゃないんだ。
そう感じながら、オレの意識は薄れていった。
チュウニズム大戦
レーベル | 難易度 | スコア | |
---|---|---|---|
スキル名/効果/備考 | |||
●リレイ | ADVANCED | 0 / 180 / 360 | |
ロウクラッシュ(前回点数コンボミス+) | |||
次とその次のプレイヤーは、 前回より低い点数のCOMBOは、MISSとなる。 |