メギド・ゴグ
通常 | ソルブレイカー |
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Illustrator:danciao
名前 | メギド・ゴグ |
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年齢 | 製造年不明 |
職業 | 殲滅用焦土兵器 |
- 2021年11月4日追加
- NEW ep.I - Side.Bマップ9(進行度1/NEW時点で325マス/累計1115マス*1)課題曲「UltraNeon」クリアで入手。
- トランスフォーム*2することにより「メギド・ゴグ/ソルブレイカー」へと名前とグラフィックが変化する。
生き延びた旧人類を駆逐するべくメインフレームによって開発された殲滅用焦土兵器。
帰還種の未来の為に長き時を経て、今、動き出す──。
スキル
1 | 道化師の狂気 | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
include:共通スキル(NEW)
スキルinclude:道化師の狂気(NEW)
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
――目覚めたばかりなのに振り回されて、傷ついて。次にあなたが目を覚ます時は、ちがう未来を見せてあげたい――
電子の楽園『メタヴァース』。
そこは、時代の終端に立たされた地上が再生するまでの間、人類を保管する揺りかごであった。
だが、そこにすべての人類が行ける訳ではない。
選定された優秀な人類のみが、楽園への切符を手にできたのである。
当然、不適合の烙印を押され選ばれなかった者たちは反発した。
そして、不適合者たちは手を取り合い楽園を管理する者たちに戦いを挑んでいく。
だが――結果は、火を見るよりも明らかであった。
楽園の管理者――メインフレームが有する機械仕掛けの神々は、不適合者たちを容赦なく断絶したのだ。
そして、彼らの放った機械たちは人々を焼き、世界の形を変えていく。
その日から、人類にとって地上は地獄と化した。
楽園に渡ることもできなかった人々は、地下都市を転々としながら生きざるを得なかった。
仲間を失いながらも逃げ延びた人々は、地上を闊歩する機械の群れから奪還するため、レジスタンスを結成していく。
各地で抵抗を開始したレジスタンスに対する、管理者の回答――
それが、殲滅用焦土兵器『メギド・ゴグ』である。
その巨大な人型兵器は、単機で都市ひとつを殲滅できる程の装備を持つ、人類にとっての破壊神であった。
ただ、その殆どは実際に起動することはなく、人知れず廃墟と化した基地の中で静かに眠りにつくだけだった。
それから――長き時を経て。
眠りについたメギド・ゴグの炉心に火を灯そうとする男が、ゼーレキアの地を目指していた。
メギド・ゴグが眠りにつくゼーレキアの遺跡。
その深奥にレナたちはたどり着いた。
仄かな灯りに照らされた扉が重々しい音を立てて徐々に開いていく。
開かれた扉の奥は、一寸先も見えない暗闇。
その暗闇の中を、ブルースタインは躊躇なく進む。
しばらくすると、暗闇の中から声が返ってきた。
「無事は確認できた。入って来たまえ」
安全なのは理解できても、やはり先の見えぬ深淵の中を進むのは勇気がいる。レナとヨナは恐る恐る部屋へ入っていった。
レナが中程まで進んだその時。
腰に下げていた「デイブレイカー」が、突如光り出したのだ。
「え? 何が……?」
『――楽園<メタヴァース>との接続を承認』
無機質な声が響くと同時、自動的にシステムが起動し、室内の中心から円筒形のホログラムが立ち上がる。
緑色のホログラムには、武装した人型の『何か』が、映し出されていた。
「デイブレイカーが……勝手に?」
「強制的にシステムが立ち上がるとは。その銃は……いや、今はメギド・ゴグの起動が最優先――」
「――きゃあぁぁぁッ!!」
ブルースタインの話を遮るようにヨナの悲鳴が響く。
その声に振り向くと、ホログラムの光に照らされたパネルや何かの計器が大量に並ぶ棚から、巨大な顔のようなものがこちらを見ていたのだ。
「な、何なのこれ!?」
「それこそがメギド・ゴグ。機械の神による審判から生き延びた旧人類種を殲滅するために造られた72機の内の1機」
「じゃ、じゃあ……そこに映ってるのが、メギドって兵器なの?」
「その通りだ」
「これなら、イノベイターの追手を振り切れる」
ヨナは一人つぶやくと、戦う姿勢を露わにした。
それを見て、ブルースタインは改めてレナの気持ちを確かめる。
「この力を使うことは、世界の半分の敵意に対して、より強い力をもって対抗することを意味する。その者たちに向かって、君は引き金を引けるのか?」
レナはゆっくりと口を開いた。
「わたしは、この戦いを通して世界を知りました。その中で、わたしは自分の答えを見つけたんです」
「ほう?」
「わたしは戦う。でも、それは命を奪いたいからじゃない、分かり合いたいから! だからわたしは、誰とだって戦うの! それが機械種でも、人間でも!」
「その選択によって、世界から疎まれ、憎まれることになってもか?」
「はい。わたしの気持ちは変わらない。きっと、その先に未来があるから――!」
幾多の苦難を乗り越えてきたレナの眼差しに、もう迷いの色はなかった。
「だからヨナ。わたしと“一緒”に戦おう!」
「うん――! 私も一緒に戦うよ!」
「フッ、その選択……実に素晴らしいッ! やはり君は、私という存在を賭けるに値する人間だッ!」
万雷の喝采を送るブルースタイン。
決意を新たにした青き隠者は、旧き記憶に想いを馳せていく。
――かつて私が地上で目覚めた時。
汚染された地上には、半人半機のような歪な改造を施された人間と、大地の再生に身を捧げた真人が闊歩していた。
彼らはいずれも遺伝子的な欠陥があったり、耐用年数が極端に短く、長く生きることができない設計になっていたのだ。
そんな彼らにとって、私は異分子である。
機械を移植された旧人類種にとっては、機械の身を持つ私は仇敵として映った。
また、真人たちからしてみれば、私の存在は機械種による支配に変調を来たしかねない存在として映る。
どちらから狙われるのも自明の理だった。
最初は対話を試みたが、彼らは憎悪に満ちていた。私を破壊しようと何度も襲いかかってくる有様だった。
機械のように何度も、何度も。
その光景を見て、私は神の選択に誤りがあったのではないかと判断した。
その時を生きる命を、奪う必要があったのか。
こんなことをするために、神は揺り籠の中に人々を押し込める必要があったのか、と――
飽きる程に長い月日を生きてきた私でも、世界の趨勢には今も大した変化を起こせていない。
このままでは世界は争いを続け、やがて滅びに至る。
だが――彼女ならば。
レナ・イシュメイルならば。
違う未来を見出せるかもしれない。
――いつか分かり合うために。
彼女が言ったあの言葉を、信じてみたくなったのだ。
ならば、私は私の役目を全うするまでのこと。
この私にも……護りたいモノができるとはな。
そういえば、人類種にはこんな時に言う、決まり文句があったのを思い出したよ。
――長く生きると、何があるか分からないものだ。
メギド・ゴグの起動準備が始まった。
ブルースタインは、室内に設置された機器を次々と起動させていく。
徐々に光の数が増えていく中、メギド・ゴグが眠るドックにも明かりが灯された。
端から順に勢いよく明かりが点灯していく。
室内から見られるドックからでは、全体像を見通すことすらできない程に、メギド・ゴグの威容は圧倒的だった。
「どこまで続いてるんだろう……」
「ピーコッド号の10倍? ううん、もっと大きいかも?」
ブルースタインがメギド・ゴグの起動システムを確認する。
メギド・ゴグの状態を確認できるモニターには、起動に必要なエネルギーが徐々に溜まっていくのが見えた。
だが、順調に溜まっていくかに見えた数値は、一定の段階で上がらなくなってしまったのだ。
「足りない……起動には少しだけエネルギーが足りない」
「メギドが、動かないってこと?」
「内臓されている武器を封印すれば、起動させることは可能だろう。だが、それでは満足に動かすこともできん」
「そんな状態で大丈夫なの?」
「大丈夫だ、問題ない。足りない分は補えばいい」
思ってもいない返答だったのか、ヨナは狐につままれたようにキョトンとした目でブルースタインを見ている。
「えっと……補う? 何を?」
「私だ」
「――え?」
「メギド・ゴグは、この私が直接コントロールするッ!」
「ハァッ!」
メギド・ゴグの炉心部に飛び移ったブルースタインは、自身の体とメギド・ゴグから延びるケーブルとを接続していく。
本来であれば、外部から操作することで起動するメギド・ゴグであったが、機械の身であり元最古でもあるブルースタインだからこそ可能な奥の手であった。
流れ込むメギド・ゴグのAIとブルースタインの意識が混ざり合っていく。
「こんな制御系で! 直ちにすべての権限を移譲せよッ!」
次々と立ち上がっていくエラーメッセージ。
だが、そんなものお構いなしと言わんばかりに、腕の一振りで強引にねじ伏せてしまう。
「エネルギーバイパスを構築、制御モジュールを直結しろ! 運動ルーチン再設定――」
高速で組み上げたプログラムをメギド・ゴグへと流し込む。感覚は同調し、ブルースタインが指を動かす指令を送れば、それに追随するようにメギド・ゴグの指が動く。
「この感覚……普段の体では味わえぬ喜び……ッ! これが、メギド・ゴグかッ!」
――今ここに、同一化は果たされた。
「システムオールグリーン、メギド・ゴグ起動ッ! これが一体となった私の体かッ! 実に素晴らしいィィィィッ!!」
「ブルースタイン、この状況を楽しんでるみたい」
「あはは……そうかも……」
メギド・ゴグ内に投影されたゼーレキアの空域図には、イノベイターの船団と思しき飛行船の一団が示されている。
敵はもう間近まで迫っていた。
「時間がない。君たちはゼーレキアを脱出しろッ!」
「分かったわ!」
「ブルースタインさんっ! 絶対に帰ってきてくださいっ!」
「フッ、この私を誰だと思っているッ!」
同一化が安定したのを見計らって、メギド・ゴグのスラスターが高らかに唸りを上げる。
あまりにも巨大な体躯が、緩やかに上昇していく。
開かれた上部ハッチをくぐり、ポッカリと空いた遺跡を抜ける。
ピーコッド号が見えなくなる程の高度に位置すると、メギド・ゴグの視線の遥か先に、イノベイターの武装船団が展開していた。
旗艦と思われる船を中心に、二列に並列した複縦陣の陣形を取る船団は、メギド・ゴグの姿を見るやいなや、即座に陣形を変換していく。
並列していた艦隊が左右に別れると、砲塔がメギド・ゴグへと向けられる。
そして――轟音が、ゼーレキアの上空に鳴り響いた。
「馬鹿な……!?」
スクリーンに映し出された青い大型機動兵器を前に、エイハヴは釘付けになっていた。
ゼーレキアにそびえ立つ構造体を遥かに上回る、超大な質量を誇る圧倒的な存在。
突如出現した『ソレ』に恐怖を抱かない者などいるはずがなかった。
「よもや、機械種の遺物に遭遇するとはな……」
目の前の機動兵器は、手に持った剣を水平に構えエイハヴの船団に対して敵対行動を取っている。
「ど、どう致しましょう、エイハヴ様……!」
「全艦、一斉回頭! 集中砲火を浴びせ、先手を取るのだ!」
陣形を横陣に変換したエイハヴの船団は、直ちに持てる火力のすべてをメギド・ゴグへと叩き込む。
しかし、その砲撃のほとんどは、メギド・ゴグが眼前に構えた大型の盾によって遮られてしまった。
その間隙をついて、メギド・ゴグは空に向かって更に上昇していく。
「上昇するだと? まさか……全艦に告ぐ! 直ちに距離を取り回避せよ!」
メギド・ゴグは船団を眼下に捉えたと思いきや、一気に降下すると鋼鉄の剣を左に展開していた船団へと叩きつけた。
メギド・ゴグから繰り出される斬撃は、小さな颶風を生み、巻き込まれた船は次々に衝突してひしゃげ、砕け散っていく。
立て続けに巻き起こった爆発が、無機質なゼーレキアの都市を彩った。
「これが機動兵器の力だというのか……!?」
いかに大型機動兵器といえど、何か弱点があるはず。
打開策を見つけようと思考を巡らせていたエイハヴは、メギド・ゴグからわずかに立ち上った煙を見逃さなかった。
「あの兵器、既に内側から壊れ始めているのではないか? 全艦に通達! 砲撃を加えつつ、奴が朽ち果てるまで耐え凌ぐのだ!」
武装船団と大型機動兵器の激突。
その趨勢は、エイハヴの艦隊の5割が沈んだところで徐々にエイハヴの側へと傾き始めていた。
時は少し遡り、ピーコッド号の甲板上。
ミリアムは身体の痛みさえ忘れて、無慈悲な力を振るう超大型機動兵器を前に乾いた笑みを浮かべていた。
「はは……スケールが違いすぎるねぇ。これがあいつの切札って訳かい」
遥か上空で繰り広げられる戦い。
その余波がこちらへと到達する可能性を考慮すると、ミリアムとしては今すぐこの場を離れたいところだった。
いつでも脱出できるよう、エンジンは起動したままになっているが、レナとヨナがまだ地下から戻ってきていない。
「あんたたち、早く戻って――」
言い終わらぬ内に、船体に衝撃が走る。
「うっ……今のは!?」
「見つけたアァァァァッ!!」
空気をビリビリと震わせる程の叫び声。その声に、ミリアムは聞き覚えがあった。
だが、その声の主は確かに自身の手で葬ったはず。答えを確かめるように、声を追うと――
「は……冗談だろ? あれで生きてたってのかい! しぶといったらないよ!」
「ああッ! 会いたかったぜェ……テメェの命だけはァァッ! 俺がもらっていくッッ!!」
憎しみに突き動かされたサウルには、もはや帰還種などどうでもよく。自身の部下と盟友イゼヴェルの仇を取ることだけがすべてだった。
サウルの体は既に死へと向かいつつある。
この地にたどり着くために、相当な負荷を掛けてきたことが見て取れた。
「ハッハーッ! 俺の勘も捨てたもんじゃねぇなァッ!」
「ッハ! あんたの体は使いモンになんないけどねェッ!」
「口だけは達者だなァッ! さぁ、始めようぜェッ! 最後の殺し合いをよォォォッ!!」
天空で繰り広げられる戦闘に彩られる中。
ゼーレキアコロニーを舞台にした最期の戦いが、始まろうとしていた。
機械の残骸が無数に散らばる地帯で、断続的に砲火が瞬く。
「滾る、滾るぜェェッ! これが、限界を超えた命のやり取りってヤツだァァッ!」
「あんたの下らない思想に付き合ってる暇は無いんだよッ!」
ミリアムはピーコッド号から離れ、荒地にサウルを誘き出した。
ミリアムにとって幸いだったのは、サウルが彼女の身体の異変に気づいていないことだった。
ミリアムは痛みに堪えながら、携行しているアサルトライフルで応戦する。
撃つ度に身体の節々が悲鳴を上げるが、今はそれに構っている場合ではなかった。
「――グゥゥッ!! これぐらいじゃ、俺は倒せねぇぞォォォッ!?」
「嘘だろッ!?」
対するサウルは、銃弾が手足に直撃しても止まる気配を見せない。憎悪の想念を断ち切るだけの致命打となる一撃が必要だった。
「ハァ……ハァ……、このままじゃ、拉致があかないねぇ。体が動く間に決めないと……」
「どうしたァ! キレがねぇなァ! 俺より先にくたばっちまうんじゃねぇのかァッ!?」
「チッ……こうも体格に差があると、さすがに恨み言のひとつも言いたくなるさね。でも、まだ立ち止まる訳にはいかないよッ!」
ミリアムが一歩前に踏み出したその時。
上空で戦闘している船団とメギド・ゴグの戦いに変化があった。イノベイターの船団の集中砲火により、メギド・ゴグの装甲が次々と剥がれ落ちていく。
そして、砲撃によって砕けた破片の一部が、ミリアムたちの頭上に降り注いだのだ。
「――なっ!?」
轟音と衝撃。
辺り一面に舞い上がった砂埃が、容赦なく視界を奪う。そんな中、どうにか機械の残骸の影に身を隠したミリアムは、無傷でやり過ごすことができていた。
だが、サウルは――
「……グッ……、ガハ……ッ」
その大柄な体が仇となったのか、破片を完全に躱すことはできなかったのだ。
腹部と左肩を貫いた破片が、全身から容赦なく血液と体力を奪っていく。
その姿は、神の審判が下り磔にされた咎人のようであった。
「ふざけんな……俺は……まだ、殺し合いを楽しみてぇんだ。邪魔、すんじゃ、ねェ……」
苦悶の色を浮かべるサウルの前に、砂埃の中からミリアムが姿を現す。
それと同時に、マシンピストルを握っているサウルの手と胸を瞬時に撃ち抜いた。
「こんな形で幕切れとは思わなかったけど。まぁ、これが戦争って奴さね。今度こそあんたの負けだよ」
「は……違い、ねぇ……。だが……」
ゴトっと、何かが落ちる音がした。
金属質の音を響かせたそれは――機械仕掛けのサウルの義手。
見れば、その接続部には赤く縁取られた数字が時間を刻んでいて――
「これで――引き分けだ」
そう言って、サウルは狂気的な笑みを浮かべた。
「はん、そういうことかい」
ミリアムは、満足したような諦めたような、どちらとも言えない笑みを浮かべ――
「後は……頼むよ……」
閃光が、二人を引き裂いた。
劣勢に追い込まれていたエイハヴの船団は、メギド・ゴグの力が徐々に衰えていったことで息を吹き返しつつあった。
「くっ……ッ、機体の限界が近いかッ!」
ブルースタインの意思とは裏腹に、制御を失い始め被弾が増えていくメギド・ゴグ。
敵対する船団の被害は甚大だが、旗艦であるエイハヴの船は未だ健在であった。
「損傷は既に危険域<レッドゾーン>を超えている。だがッ! この身が保つ限り、私は戦えるッ!」
ブルースタインの意志に応えるように、メギド・ゴグは天高く剣を掲げて咆哮を上げる。
その様子を眺めるエイハヴは、拳を震わせながら歯噛みした。
「ぬう……あの機動兵器だけは……古の遺物だけはなんとしてでも排除せねばならん」
振り上げた拳と共に、エイハヴは指示を飛ばす。
すべての砲門が、メギド・ゴグへと向けられた。
「後に続く我が子らのためにも!」
空を埋め尽くす程の砲弾が、メギド・ゴグへ降り注ぐ。
既に機動力を失っていたメギド・ゴグはなす術もなく攻撃を浴び、装甲板は剥がれ落ち、機体のフレーム部分を露出させ始めていた。
内部から操っていたブルースタインには、急速に力を失っていくメギド・ゴグの状態が手に取るように分かる。
そして、次の攻撃でメギド・ゴグは停止する、と。
「あの頃の力があれば、いくらでも対処できたかもしれないが。この地上では、私も一人の機械種に過ぎないという訳か。だが、私にも意地はあるッ!」
メギド・ゴグが剣を上段に構え直した。
「太古の青<オールドブルー>の名において、神の裁きを下すッ!」
それに呼応するように、エイハヴもまた右腕を振り払う。
この一撃で、全てが決する――
「斬り捨てるッ!!」
「全砲門、一斉発射ッ!!」
船団の砲撃によって、メギド・ゴグは身体の多くを失った。
だが、メギド・ゴグの鋼鉄の剣はエイハヴの旗艦を捉えていたのだ。
両者は爆発を伴いながらゼーレキアの地へと沈む。
わずかに残された船団は、旗艦を失ったことで空域から離脱することを選んだ。
イノベイターの脅威は去り、再びゼーレキアの都市に静寂が訪れようとしていたその時。
大地に伏し、沈黙していたはずのメギド・ゴグが、突如赤黒い光を放ち始めたのだ。
ピーコッド号へと戻ったレナとヨナは、船内にミリアムがいないことに気付いた。
「どこへ行ったの……ミリアム……」
不安を募らせるヨナ。レナもまた、内から湧き上がる得体の知れない感情に、必死に抗おうとしていた。
そこへ、唐突に鳴り響いた爆発音。
「今のは!?」
「行ってみよう、レナ」
急ぎ、二人は音のした方へと駆け出していく。
程なくして、何かが爆発したような痕が広がる荒地にたどり着くと、その中心部に転がる“何か”に気が付いた。
「あ、あぁ……やだ……」
「ミリアムーッ!」
それは――半身を焼かれ、身体を動かすこともままならない無残な姿となったミリアムだった。
「…………その、声……レナ、かい……」
「イヤよ……なんで、こんな……」
「……っ……ヨナも、いたんだ、ね……」
「い、今、治療するからっ、死なないで! ミリアム……!」
伝う涙も拭わずに、レナはミリアムを起こそうと手を伸ばす。しかし、その焼けただれた身体は未だ高熱を伴い、触れたレナの手に火傷を負わせてしまう。
それでも構わずに、レナはミリアムを救おうと必死にしがみつく。
「……いいんだ。あた、しは、助からない」
尚も引き下がらないレナだったが、その肩に乗せられたヨナの手の重みが、悔しさに満ちたヨナの顔が、覆りようのない“事実”を告げていた。
「あ、あぁ……っ…………」
「……本当に、優しい子、だね。あたし、は……あんた……希望だ……と、思ったから……護ってきた」
辛うじて動かせた右手が泳ぎ、空を切る。
ヨナはそっとその手を取り、手を重ね合わせた。
二人はミリアムの最期の言葉に耳を傾ける。
「レナ、を……頼んだよ…………」
「……っ……うんっ……」
力強くうなずいたヨナを見て、ミリアムは安心したように微笑み、言った。
「二人で……生き――――」
ミリアムからわずかに感じていた鼓動は、小さく、細く、微々たるものになり。やがて――停止した。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
残酷な現実に訴えかけるように響くレナの叫び。
それは戦火の怒号に紛れて、掻き消されていった。
「――行こう、レナ」
「うん、でもその前に、少しだけ……」
レナは、投げ出されていたミリアムの両手を、彼女の胸の上で組む。そして、開かれたままだった瞼を、そっと閉じてあげた。
「さようなら、ミリアム。この世界が平和になった時、また会いに来るね……」
ミリアムとの別れを済ませた二人はピーコッド号へと向かう。
二人の眼には、“必ず生き残る”という確かな決意が充ち満ちていた。
都市の端にまで届く程の赤黒い光。
メギド・ゴグから発せられたその光は、終末をもたらす凶兆のようであった。
「鎮まれッ! メギド・ゴグッ! 一体どこからエネルギーを……!?」
メギド・ゴグが焦土モードに移行したことで意識を取り戻したブルースタインは、残された力を振り絞って焦土兵器の制御を試みた。
即興で組み上げたプログラムを投じてみても、原因を特定できていなければ意味がない。
焦土モードがどれ程の被害をもたらすかが不明な今、ブルースタインはあらゆる可能性を模索し試していく。
しかし、いずれも決定打には至らなかった。
「くッ……このままでは……」
万策尽きかけたかに見えたその時。
まるで何事もなかったかのように、メギド・ゴグは沈黙した。
機能停止を確認し、ブルースタインはメギド・ゴグと接続したケーブルを引きちぎり、大地に降り立つ。
「ぐ……さすがに消耗が激しいか」
大地に俯くようにして沈黙したメギド・ゴグを見上げながら、ブルースタインは思案にふける。
「暴走の予兆があったとは思えない。しかし、メギド・ゴグの不可解な挙動が意味するものが、私の予測通りだとしたら――」
「貴様が、あの遺物を動かしていたのか」
ブルースタインの背後から、不気味な機械音声が響いた。
その声に振り返ったブルースタインは、得心したように笑みを作る。
「そうか。お前がイノベイターの指導者か」
旗艦の爆発に巻き込まれ、死んだかに見えたエイハヴは生きながらえていたのだ。
しかし、生命維持のために取り付けられた装置は砕け、機械で継ぎはぎされた体の損傷も著しい。
耐久年数をとうに越えた体は、緩やかに死へと向かっている。
だが、憎き機械種へと向けられる激しい憎悪は、一切の陰りを見せてはいなかった。
「いかにも。よもや、かような道化の如き機械種に、我が悲願を阻まれるとはな」
対するブルースタインは、「やれやれ」と両手を力なく掲げてみせる。
「こんな道化一人倒せないようでは、機械種を滅ぼすだなどと、烏滸がましいにも程がある」
「忌々しい機械種が。貴様と交わす言葉など持ち合わせてはおらん」
エイハヴは長剣を構え、ブルースタインを睨みつける。
「お前たちが進む先に待つのは滅びへの道だ。沈むと分かっている船に、この世界を託す訳にはいかん」
その視線の先で、ブルースタインは軋みをあげる身体を奮い立たせ、憎しみに染まったイノベイターの首魁と対峙した。
機械と人間。
言葉を理解しつつも、手を取り合えない者たち。
今ここに――審判が下されようとしていた。