小仏 凪／試練の三送会編

　イロドリミドリのキーボード担当。

　普段はおとなしい性格だけど、脱線しがちなメンバーを厳しい一言で軌道修正する、実質的なサブリーダー！

　小さな頃からクラシックピアノをやっていて、音感が良く音楽理論にも詳しいため、あーりんと並んでバンドサウンドのまとめ役になっている。

　成績優秀・品行方正なしっかり者の女の子だが、なずなに誘われたのをきっかけにバンドを組んでからは、個性的なメンバーやその無茶振りに時折戸惑いながらも、楽しい音楽生活を続けている。

　こう見えてゲームやネットにやたら詳しく、演奏動画の有名投稿者だった那知の大ファンだったり、ブラウザゲームから将棋・ジャンケンに至るまで、およそ苦手なゲームはないというほどの猛者だったりする。

　前期の学園フェスや後期の卒業公演など、お祭り騒ぎばかりやっている印象のある舞ヶ原高校だが、その卒業後の進路においては、進学率が割合高い。

　音大の付属高校である為、主な進学先はもちろん舞ヶ原音楽大学。

　キャンパスも高校の近くにあって多くの生徒が進学先とする上、部活であれば卒業生がひょっこり訪れたりすることも多いため、生徒にとっては最も身近な進学先であるよう。

　成績が要件を満たしていれば推薦で一部試験を免除されるケースもあるため、高校生活の大詰めを余すことなく音楽に費やす生徒も少なくない。

　もちろん、その他にも外部の一般及び音楽系大学、各種専門学校、就職、中には留学などを選択する生徒もおり、卒業生の進路は多岐に渡る。

　鋭い感性や型にはまらない性格のパーソナリティが集う舞ヶ原高校のこと、自分の道を決めるのに苦悩や葛藤を経験する３年生も多いが、そんな生徒ほど、卒業後もそれぞれの道を迷いなく邁進していくようだ。

　表題の通り、なずなせんぱいにバンドに誘われ、早半年ほどが経った。

　短期間ではあるが、２回のライブを経て、それぞれの演奏の反響も上々。（クラスの子に話しかけられたりもした…ちょっと恥ずかしい）

　オリジナル曲のレパートリー曲も増え、もちろん油断は禁物だが、順調に前へ進んでいる実感がある。

　私自身もバンドでの響き作りに慣れてきたのか、楽譜を読み解くだけでないこの感覚を、以前より楽しめている気がするし…

　メンバーの先輩各位にも改めて、感謝したい。

　レッスンも続けているけど、先生のもとでは得られなさそうな経験もたくさんあって、なんというか…

　まさかなっち先輩と、一緒に演奏できる日が来るとは思っていなかった。

　次の目標となるライブも、先日出演が決定。

　なんとなっち先輩の卒業を祝う、祝賀会での演奏だ。

　きっと今回も、一筋縄ではいかないと思うけど…

　しっかり演奏を作って、笑顔で送り出してあげよう。

　本日も３年生のなっち先輩に対し、授業。

　先日「一筋縄ではいかない」ということを書いたが、まさか早くもここまで一筋縄でいかないことになるとは思わなかった…

　もちろん先輩に教えるために私も（一から）勉強しているのだが、今やっているのも、なっち先輩なら恐らく絶対取らなさそうな科目。とらないと単位が足りず卒業できない状況になっているのだろう。

　なにしろ私自身、一体何をしているのか混乱しているところもあるけど…

　２年後の予習をしたと思えば無駄もない、のかな…

　ところで先輩、卒業後はなんと大学ではなく、一人で海外に行かれるとのこと。

　それも留学というのではなく、長期の演奏旅行？というか放浪？？　のような形で考えているようで…

　正直、目が点になってしまった。

　普段お会いする時もあまり自分のことを語られる人ではないし、家族にすら話してないみたいだし。

　なっち先輩、私のような凡人には計り知れない…

　なっち先輩に授業するところを予習していて、つい昔のことを思い出していた。先輩の動画を見始めた頃。

　…そんなに昔のことじゃないかもだけど、動画ごとに何かと変なことを始めたと思えば、びっくりする程上手なヴァイオリンを、ケラケラ笑いながら弾いて。

　私はそれを見ながら、どうやったらこんなに笑いながら、素敵に弾けるかな、って…

　確かあの頃は、表情と表現の関係性、みたいな小難しいことを考えてた気がする…ちょっと的外れだけど。

　初めてバンド誘われて、スタジオで偶然芹菜先輩となるちゃんと一緒に合わせた時…その時は気づかなかったけど、あの時、私はやっと少し、なっちさんの演奏に近づくきっかけが掴めたのかも。

　…あ、もしかすると芹菜先輩となっち先輩、私の中でちょっと似てるって思ってるのかな。

　片方は気難しいし、片方はずーっと笑ってるけど…

　なんだか、そんな二人と同じ学校で演奏してるって、偶然ってすごいな。

　それとも…偶然じゃなかったり、するのかな。