レナ・イシュメイル
通常 | 正統なる大地の後継者 |
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Illustrator:コダマ
名前 | レナ・イシュメイル |
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年齢 | 16歳 |
職業 | メタヴァースからの帰還者 |
- 2021年9月16日追加
- PARADISE ep.VIマップ1(PARADISE LOST時点で135マス)課題曲「月詠に鳴る」クリアで入手。
イベントinclude:開催日(オリジナルNEW+)
- 専用スキル「崩壊のレディアント」を装備することで「正統なる大地の後継者 レナ」へと名前とグラフィックが変化する。
メタヴァースからの帰還者である『帰還種』の少女。
自身に課せられた使命を果たすため、彼女は東の地を目指す。
スキル
RANK | スキル |
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1 | コンボエクステンド |
5 | |
10 | 崩壊のレディアント |
15 |
include:共通スキル
スキルinclude:コンボエクステンド
GRADE | 効果 |
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初期値 | ゲージ上昇UP (150%) ALL JUSTICEを達成した場合 ゲーム終了時にボーナス +50000 MISS判定10回で強制終了 |
+1 | 〃 (160%) 〃 +70000 〃 |
理論値:166000(8本+14000/28k) |
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | Ep.1 | Ep.2 | Ep.3 | スキル | |
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
Ep.4 | Ep.5 | Ep.6 | Ep.7 | スキル | |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
Ep.8 | Ep.9 | Ep.10 | Ep.11 | スキル | |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
――誰かを想うこと、ほんの少しの優しさ……。
積み重ねてきた先にある未来を願って、わたしは――
じゃり、じゃりと擦ったような足音が響く。
今にも倒れてしまいそうなくらいにボロボロな身体を動かして、エイハヴが銃口をわたしに向けた。
「我らの理想を叶えんがため……我らが未来の前に立ち塞がる貴様は……ここで、処分する」
「そんなこと、絶対にさせない。わたしは、みんなと約束したの」
照準の定まらない小さな銃を、エイハヴに向ける。
――これは、憎しみを断ち切る弾丸だ。
悲しい過去に縛られて、わたしを滅ぼそうとするエイハヴとの、決別の弾丸だ。
だからわたしは、トリガーを引く。
大切な人を護るために。
否定する人たちと戦うために。
最後の最後まで、わたしは抗ってみせる!
わたしが決めた! わたしが選んだ!
だから、絶対に諦めない!
「ヨナ、ギデオン、ミリアム――」
みんなの想いを、この銃口に込めて。
憎しみに支配されたあの人を、撃ち抜いてみせる!
わたしたちの未来を決めるのは、わたしたちだ!
超大陸エマーグ。
いくつもの世界を内包した電子の楽園が、新たな世界へと再編を果たした大陸のひとつである。
永い時と幾多もの争いを乗り越えて、人々は手に手を取り合い、平和への道を歩み始めた。
そして、彼らの願いに同調するように、かつて世界の果てに顕現した光の塔『リザレクションゲート』は、再び彼らの前へと姿を現したのだ。
その塔の中を、12人の少年少女たちが歩いている。
足取りはどこか重く、皆緊張した面持ちを隠せていない。
だが、そんな中、レナ・イシュメイルだけは誰もが夢見た外の世界へ向かえることに、心を弾ませているのだった。
ゲートの端に辿りついた一行。
開かれた扉の中には、まばゆい程に煌めく光の渦が揺らめいている。
『この先の光をくぐり抜ければ、この世界での君たちの体は消滅する』
『ですが、それと同時に皆さんは真実の世界で新たな体を得ることになるのです』
どこからともなく響く無機質な声。
声の主は、基幹システムの一部となった楽園の管理者たち。
12人の少年少女たちは、皆、緊張した面持ちでシステムの声に耳を傾けている。
向こう側へ渡るのを楽しみにしていたレナも、実際に光を目の当たりにしたことで、強張った顔つきになっていた。
『恐れる必要はない』
『次に目を覚ます時には、緑の大地と青く美しい空が皆さんを迎え入れてくれるでしょう』
その言葉に突き動かされ、彼らは一人、また一人と光に触れてはこの世界から消失していく。
最後の一人になったレナは、こくりと頷くと、ゆっくりと光の中に手を伸ばした。
光に触れた指先は掠れて粒子となり、光の一部へと同化していく。そして。
「――えいっ!」
意を決したレナは、光の渦に飛び込んだ。
やがて、真っ白な光の中に意識は溶けていき――。
――
――――
――――――
「――んっ、ここ、は……」
視線の先では、プロペラがカラカラと鳴っている。
「わたし……またあの夢を見てたんだ」
目が覚めると同時に感じる、身体の重み。
自身がいた世界とは少しだけ違う身体の間隔に慣れるには、まだ時間が必要だった。
「ふあ……どれくらい寝てたのかな……」
隣で寝ていたはずのヨナの姿はなかったが、わずかに感じられた温もりが、先程までいたことを教えてくれていた。
微睡みたくなる気持ちを抑えていると、不意に仄かな香りがレナの鼻孔をくすぐる。
「わぁ……すごく良い匂い……」
「レナー! そろそろ朝ご飯の時間だよー?」
元気なヨナの声に導かれ、レナの意識ははっきりと覚醒した。
「うん! 今行くね!」
レナは自前のローブを羽織り、ヨナが待つ食卓へと向かうのだった。
朝食を済ませたわたしは、イオニアコロニーの市外にある展望台へ向かうことにした。
穏やかな朝の陽差しを浴びながら小鳥のさえずりを聞いていると、自然と足取りが軽くなるのを感じる。
青く澄みきった空を見ていると、わたしがいたエマーグと比べてどっちが青いのかな、なんて考えてもみたり。
地面の感触は……慣れるまでには時間がかかっちゃうかも。
そうやって、この街の豊かな自然に触れながら歩いていると、背後から誰かの声が聞こえてきた。
「――い、おーいレナッ! 待ってくれ!」
「あ、ギデオン。おはよう!」
声の正体は、ギデオンだった。
朝食の時には居なかったけど、訓練に出てたのかな?
「ああ、おはよう……じゃなくて。フラっと居なくなるから姉ちゃん焦ってたんだぜ?」
「ごめんなさい……外の景色を見てたら、居てもたってもいられなくなっちゃって、つい」
「あ~~もうっ、そんな風に言われたらなんて返せばいいんだよ? ったく、ピュアすぎるぜ」
「……ギデオンも一緒にお散歩する?」
「する。するする! こうなったら、俺がこの街の絶景スポットを案内してやるぜ!」
「ありがとう、ギデオン!」
嬉しくて笑いかけると、ギデオンは何故かあさっての方を向いていて、目を合わせてくれなかった。
心なしか、耳が赤くなっていた気がする。
それからわたしは、ギデオンに連れられてイオニアコロニーの街を散策することになった。
彼が紹介してくれる景色は、街を知り尽くすギデオンにしか分からないような場所ばかりで、時間も忘れて夢中になってしまう。
そして、最後に見せてくれたのは、街外れの丘から眺められる海と、遠くの荒野にそびえ立つ何本もの塔だった。
「ここの景色が、一番好きなんだ」
地平の果てに広がる荒野と海。
この丘は、まだ再生が完了していない地域を一目で見渡せる場所だった。
あの寂しそうにポツンと立っている塔は、役目がくるのを待ち続けていた、エマーグのリザレクションゲートを思い出させる。
夕暮れに佇むその姿が、わたしの心をキュッと掴んで離さなかった。
どれくらいそうしていたのか分からない。
すると、冷たい風がわたしの頬をくすぐって……。
「くしゅんっ!」
「っと、大丈夫か? 大分涼しくなってきたし、そろそろ家に戻ろう」
「うん、そうだね。今日はギデオンのおかげで、素敵な景色をたくさん見られたよ。ありがとう」
「へへ、そうか? そう言ってもらえると、案内した甲斐があったな」
わたしたちは散々笑い合って、帰路についた。
わたし、この世界に来て良かった。
これからも色々な景色を、この胸に刻んでいきたいな。
ギデオンと一緒に家へと帰る際中、わたしはギデオンの言葉を思い返していた。
――レナはどうやって、この世界にやって来たんだ?
そうギデオンに聞かれたけど、実はわたしの記憶はもやがかかったように曖昧になっている。
エマーグでの記憶はどこか混濁とした状態で、何故かわたしが経験したことのないような昔の出来事も、急にイメージとして浮かんでくる状態だった。
だから、この記憶が本当に全部自分のものであり、正しいものなのかどうかが、わたしには分からない。
わたしは、この世界で何をすればいいのだろう。目的は? 本当に東の地に向かえば、何かが変えられるの……?
「おーい、レナ。真剣な顔して立ち止まってどうしたんだ?」
「あ……ごめんね、ギデオン」
そう言うと、ギデオンはわたしの隣に戻って来た。
「何か悩んでるなら、いつでも俺を頼ってくれよ? そのために俺とヨナはいるんだしさ」
「……うん、そうするね」
微笑み返すと、ギデオンは顔に手を当てて、何度も頷いている。
「そうそう、やっぱレナは笑ってる姿が一番だぜ。へへ、後でヨナに自慢してやろっと」
――うん。
このまま一人で考えこんでも、しょうがないんだ。
迷ったり、答えが分からなくなった時は、素直にギデオンやレナを頼ればいい。
それから数日が経った。
ヨナのお母さまとも打ち解けたわたしは、穏やかな生活を送っていた。
このまま、ここでみんなと暮らせたら、どんなに幸せだろう。
できることなら、これからもずっとここにいたい。
この陽だまりのような場所に。
でも、お別れの日は唐突にやって来た。
わたしを受け入れてくれた穏健派に敵対している真人たちの勢力――強硬派<イノベイター>が、この街を襲撃しようと画策しているらしい。
そして、それを予測した機械種の監督官さんが、わたしを別のコロニーに移送する準備を始めたとヨナから聞いた。
この時のわたしは、それがどれだけ重大なことなのかをまだ理解できていなかったんだ。
わたしたちが監督官さんから移送の説明を受けに来た時に、それは起こった。
強硬派<イノベイター>の襲撃。
それが何を意味するのか、何が起きるのかを、この目にするまで想像できていなかったんだ。
「まさか、もう防衛網が突破されたのか!?」
「急ぐわよ、みんな!!」
――塔を出て最初に飛び込んできたのは。
一面に広がる、真っ赤な真っ赤な炎だった。
突然の襲撃に街の人たちは怯え、泣きわめき、中には怪我をして悲痛な叫びを上げる人もいた。
脚に力が入らない。
視界が突然ガクンと下がって、ぼやけていく。
わたしの中で、何かが崩れていく音がした。
「ひどい……ひどすぎるよ……どうして? どうしてこんなことができるのっ!?」
ヨナにとって大事な街なのに。
ギデオンの大好きな景色があったのに。
なんで、そんな簡単に壊せるの?
こんなひどいことをする気持ちが、わたしには理解できない……。
「ぅぇ……うぅ、あぁぁ、あっ、ぁぁぁ……」
「レナ……辛い気持ちは分かるよ。でも今はこらえて私についてきて」
その時、わたしを柔らかな感触が包み込んだ。
それだけで、わたしの心の中に温かな光が灯っていく。
「ぁ……ヨナ……ヨナ……」
「ギデオン! レナを背負ってくれる!?」
「任せろ! ……って、ええぇぇ!?」
「早くして!」
見上げると、ちょっとだけギデオンと視線が合った。
「わあったよ! レナ、少し我慢しててくれよ!」
「え? きゃあっ!?」
「よし! しっかり捕まってろよ、レナ!」
「う、うんっ」
「ギデオン! 駆け抜けるわよ!」
「ああ!」
街中を素早く通り抜けていくヨナとギデオン。
悲鳴と銃声を後ろに感じながら、わたしはただギデオンの背中に顔をうずめて、これ以上恐ろしいことが起きないよう、祈るばかりだった。
どうかお願い。
二人の大切な場所を、奪わないで――
「あと……あと少しよ! ほら! あの角を、曲がれば――」
ヨナの声が掠れて小さくなっていく。
脚は次第に止まり、棒きれのように一歩も動けなくなっていた。
それは、わたしの祈りも、ヨナの希望さえもあっさりと打ち砕いてしまう光景。
「そん、な……」
ほんの少し前まで、わたしたちがいた家は。
ごうごうと音を立てて、赤く燃えていた。
視界のすべてが赤に染まる。
悲鳴と銃声、肌に感じる熱。
それらすべてが現実のものとは思えなくて。
これは、もしかしたらわたしが見ている悪い夢なんじゃないか。
そんな風に思えてならなかった。
「――俺はッ! 母さんの仇を討ちたい! 少しでも多く、あいつらを道連れにしてやるんだッ!」
突然響いた声がわたしを現実に引き戻す。
声のする方へ視線を向けると、ヨナとギデオンの口論する姿が見えた。
「離せよ」
「離さない」
「姉ちゃんはあいつらが憎くないのか!? 母さんを殺したあいつらが!」
「憎いわよ! でも、闇雲に突っ込んで死のうとしてるあんたを黙って行かせられない!」
だめだ。
このまま二人を行かせてしまったら、二人はもう二度と一緒にいられなくなる。
そんな予感めいた感情が、わたしの中に生まれていた。
わたしにとっても、二人は大切な存在になっている。
二人のために、わたしができることをしなくちゃ。
だったら、今わたしにできることってーー。
「じゃあ! 姉ちゃんも――」
考えるよりも前に、わたしの体は動き出していた。
伝わる衝撃と、二人の温もり。
「レ、レナ?」
「二人とも……落ち着いて……」
わたしの気持ちを伝えなくちゃ!
「今行ったら、絶対に後悔する。二人が永遠に離れ離れになるなんて、わたし、イヤだよ……。お母さまだって、生きていて欲しいって、きっとそう願ってるよ……」
絶対に離さない。
離してなるものか。
「一緒に生きよう? 死ぬなんて……絶対、絶対、許さないから……!」
気づけば、わたしは幼子のように泣きじゃくっていた。
「レナ……泣くなって……」
「もう分かったでしょ、ギデオン。貴方が今すべきことは何なのか」
「ああ……でも、これだけは言わせてくれ。言わずにはいられねえ」
ギデオンは、震えるような声でつぶやくと、
「畜生……畜生畜生畜生ッ! 俺たちだけじゃ何もできない! それが、悔しくて悔しくて堪らねえッ!! 畜生オォォォッ!!」
赤く燃えるような空に向かって、力一杯に叫んだ。
「――取り乱して悪かったな」
「ギデオン、もう、大丈夫?」
「ああ。ありがとな、レナ。とりあえず……、ここから脱出する方法を考えよう」
ヨナとギデオンは街から脱出する方法を模索し始めた。すると、ヨナは思い出したように、腰のポケットから何かの機械を取り出して叫ぶ。
――その直後。
ゴアァァァンッ! と、辺りを震わせるくらいの激しい音が響き渡った。
音のした方には、ポキリとへし折れていく塔の姿があった。
わたしたちに残されていた希望が、またひとつ、音を立てて崩れ落ちてゆく。
「そ、そんな……」
「どうしよう、ヨナ?」
状況が、わたしたちから考える力を奪っていく。
このままじゃ、いずれわたしたちも……。
「居たぞ! 帰還種だ!」
突然響いた声。
その声は、わたしたちを殺そうとしているイノベイターから発せられたものだった。
「姉ちゃん! もう腹を括って戦うしかない!」
「でも、私たちじゃどうしようも……」
「姉ちゃんは優秀だ! じゃなきゃレナの衛士になんて抜擢されない! その銃は飾りかよ!」
「ヨナなら大丈夫だよ。自分を信じてっ」
「二人とも……うん、そうだよね」
ヨナは強く頷くと、わたしたちの一歩前へ力強く踏み出した。
「ギデオン! 少しの間だけ、耐えられる?」
「ああ! バリケードなら幾つもあるからな」
ギデオンも、戦う覚悟を決めている。
なら……わたしも……。
「さあ、来なさい! イノベイター!」
その時、どこからともなく銃声が轟いた。
銃声の数だけ、敵がバタバタと倒れていく。
「救援か!? これなら戦える!」
ギデオンもヨナに続いて、動揺する敵兵に攻撃を仕掛けていく。
みんなが生き残るために戦ってる。
だったら。わたしも戦わなくちゃ。
わたしだけただ見ていることなんて、できない。
……そうだ、銃、銃だよ。
わたしも銃の使い方は教わったことがある。
銃を、探さないと……。
――こつん。
ふと、わたしの手に硬い物が触れた。
今の今まで記憶からすっかり抜け落ちていた。
それは、わたしがエマーグからこちらの世界に渡る時に渡された――
真っ黒で、小さな銃だった。
――あれは、リザレクションゲートを通ってこの世界に渡る前のこと。
『君たちの出発の門出に、これを贈ろう』
『皆さん、手を掲げてください』
どこからともなく響く管理者の声。
言われるままに、手をかざしてみると、手の平の上で淡く輝く光が見えた。
そして、ゆっくりと形をなしていく。
「これは……銃、ですか?」
それは、わたしでも手軽に扱えそうなくらいに小振りで、光をほとんど反射しない不思議な銃だった。
まるで……黒い箱のよう。
『これは第九音素臨界加速装置。又の名を、デイブレイカー』
『起動には皆さんの生体情報が必要になる特別な銃です』
わたしの隣で銃をいじっていた眼鏡の男の子が手を上げた。
「セーフティや弾倉が見当たらないのですが、どう使えばいいのでしょうか?」
『君たちが本当にそれを必要とした時、それは応えてくれる』
本当に必要な時って、なんなのだろう。
向こうの世界は、この銃を使わなくちゃいけないくらい、危険な場所なのかな……?
――あの時のわたしは、向こうの世界を冒険したい気持ちの方が強くて、その意味を深く考えようともしなかった。
でも、きっと、今がその時に違いない。
わたしも戦わなくちゃ!
ホルスターから銃を取り出し、グリップを握る。
あとは、敵に銃口を向けて……。
落ち着いて狙いを定めて、トリガーを……引く。
――カチ。
あれ? 動かない?
――カチ。カチカチカチ。
どうして? 何回引いてもびくともしないよ?
何がいけないの?
ここでなければ、いつこの銃を使えばいいの?
お願い……動いて……!
「レナ! 大丈夫!? 怪我はない!?」
「う、うん……」
――もたついているわたしをよそに、いつの間にか戦闘は終わっていた。
結局、デイブレイカーは一度も起動していない。
呼び掛けた所で何も起きないのは分かってる。
ただ、この銃が動かなかったことよりも、わたしにはこの銃を扱う資格がないと言われてるような気がして。
それが何よりも悲しかった。
わたしたちを助けてくれたスナイパーさんは、ミリアムという名前の、小さな女の子だった。
彼女は、監督官さんの要請を受けて、隣のコロニーから連絡艇でやって来たという。
その連絡艇でここから脱出することになったわたしたちは、森の奥へと急いでいた。
「ヨナ……大丈夫かな……」
ヨナはわたしたちが無事に連絡艇までたどり着けるように、時間を稼いでくれていた。
「この辺りは、姉ちゃんにとっては庭みたいなもんだ。敵を足止めしたら、絶対に戻って来る」
ギデオンはそう言ってわたしを安心させてくれる。
でも、言い知れない不安が、わたしの胸の中でぐるぐると渦巻いていた。
「ギデオン! あれがあたしの船だよ!」
薄暗い森の中を抜けて、開けた場所に飛び出す。
目の前には、銀色で小型の飛行船が持ち主の帰りを待つように、鎮座していた。
「へえ! 中々イカした船じゃん!」
「そこの梯子からブリッジに上がってくれ! あたしはヨナの様子を――」
その言葉を遮るように、複数の銃声が鳴り響いた。
ヨナが近くまで来てるんだ!
「このままじゃ分が悪い。ギデオン、あたしはヨナを回収してくる。アンタたちはここで待っててくれ!」
「了解! 死ぬんじゃねえぞ!」
「ハッ! あたしを誰だと思ってんだい!」
ミリアムが颯爽と森の中へ戻っていく。
戦う力のないわたしには、ここでただ祈ることしかできない。
「大丈夫だよレナ。まだ会って間もないけど、あいつの腕は確かだ。だから必ずここに戻って来るよ」
ギデオンに手を引かれて、船の真下まで来たわたしは、梯子に手をかけようと手を伸ばした。
その時、視界の隅で何かがチカチカと光った。
「伏せろ!」
素早く伸びて来たギデオンの手が、わたしを突き飛ばす。
「え……な、何が……?」
「レナ、物陰に隠れてろ! 敵だ!」
その瞬間、船が揺れた。
そして、地鳴りのような音と共に現れたのは、巨大なバイクに乗った赤髪の男。
「ハッハーッ! ついに見つけたぜェッ!」
そのバイクにも負けない位の大きな声が響いた。
右手に持った大砲みたいに大きな銃が鈍い光を放っている。
「まさか、視界の悪い森の中を全速力で突っ込んで来るなんてな……イカれてるぜ、オッサン!」
「それが俺の専売特許って奴だ」
ギデオンはゆっくりとわたしが隠れてる場所から距離を取っていく。
ギデオンは……こんな恐ろしい人と戦う気なんだ。
「へえ、そうかよ。じゃあそれも今日で終いだな。お前は、この俺がぶっ殺してやるんだからなぁ!」
「は、言ってくれるぜ。威勢のいいガキは嫌いじゃねえが……悪いな、早速死んでもらうぜ」
――銃口が、火を吹いた。
激しい銃声が、薄暗い森に木霊する。
薙ぎ払わんばかりに飛び交う弾丸が、木々を、岩肌を容赦なく削り取っていく。
「チッ! 手当たり次第かよ!」
「生きてようが死んでようがなぁ! 関係ねぇのさァッ!」
ギデオンは、船体を傷つけないように男を軸に弧を描きながら走り抜け、射線をずらしていく。
隙を見つけては攻撃を叩き込んでみるものの、
「クソ、流石にあれだけ連射されると、近寄るのは難しいな……」
あの巨大な回転式機関砲を封じること。
それがこの戦いでギデオンが勝つための絶対条件だった。
「俺の獲物は、これしかない」
両手に握られた、二丁の拳銃――相棒である
「ヴァンブレイズ」と「ブリガンダイン」。
近接戦を得意とするギデオンが、最大限に力を発揮できる代物だが、有効射程距離が極端に短いのが欠点だった。
対する赤毛の男の回転式機関砲は、優に倍以上はある。
ギデオンが男の射程距離に入るまでに、蜂の巣にされることは明らかだった。
「チッ! このままじゃ、殺られるだけだ!」
「どうした小僧ォッ! 隠れてるだけじゃ、俺の命<タマ>は、取れねえぞォォッ!?」
容赦のない掃射で、隠れミノにしていた木も軒並み倒されていく。
隠れる場所がなくなれば、一巻の終わりだ。
「どうする? 考えろ、考えるんだギデオン。姉ちゃんもミリアムも向こうで戦ってんだ、ここで俺が負けたら全部ご破算だ!」
「――銃を下ろしてくださいっ!」
命を奪い合う戦場に、場違いな声が響く。
ギデオンは隠れている木から顔を出すと、震える手で赤毛の男にデイブレイカーを向けるレナの姿を目撃した。
「ほお? 自ら殺されに出てくるなんてなぁ……」
「な……に、やってんだ! レナァァッ!!」
「き、聞こえないんですか? 撃ちますよっ!」
「そんな小物で、俺が止まるとでも思ってんのかァッ!?」
「う、撃ちますからっ! ――っ!?」
目を瞑り、トリガーを引いたレナだったが、銃はうんともすんとも言わず、沈黙したまま。
あの時と同じように、何度引いても反応がなかった。
「何で、どうして撃てないの!?」
「ハハハッ! とんだポンコツを掴まされたなァ!? さぁ、これで終いだァァッ!」
男が回転式機関砲をレナへ向けようとした、そのひと刹那。
「オオォォォッ!!!」
ギデオンが男へ向かって一直線に駆け出した。
「馬鹿がッ! その距離で間に合うとでも、思ってんのかァッ!?」
「今だ! ミリアムッ! 撃てえェェッ!!」
ギデオンの咆哮と共に、ガサリと茂みから聞こえた金属音。
ギデオンは駆け出す直前に、男の背後へヴァンブレイズを投げ飛ばしていたのだ。
ギデオンから90度違う方角から発せられたソレに向かって、男は素早く反応し発砲した。
だが、そこには誰もいない。
「なッ、囮だとッ!?」
再び男がギデオンに銃口を向けようと身をよじるが、もう既にギデオンは射程圏内に入っていた。
「レナ! 伏せろ!」
「は、はいっ!」
レナが伏せるのと同時、ブリガンダインを構えたギデオンが、回転式機関砲を狙い撃つ。
連射。――連射連射連射。
ありったけの弾丸を叩き込む!
「ぐ、ぉぉぉぉぉぉ!?」
持ち手ごと右手を狙い撃たれた男は、ついにその回転式機関砲を手放してしまった。
「チッ、弾切れか!」
「クソガキがァァァッ!」
ギデオンは苦し紛れに伸びてきた男の手をかい潜り、背後へ跳躍。そして、振り向いた男の顔面に、勢いをつけた回し蹴りを叩き込んだ。
「片目はいただいたぜ、オッサン!」
「グ……フフ……惜しい、実に惜しいなぁ」
「な……!?」
赤毛の男は、顔面に脚が突き刺さったにも関わらず不敵な笑みを浮かべていた。
「命掛けで突っ込んでフェイントかましてきたそのクソ度胸は褒めてやるが、それだけじゃ俺を殺るにはちと足りねぇなぁ」
「この……野郎ッ!」
何度蹴っても、突いても、赤毛の男の頑丈な体はビクともしていない。
「もう少し場数を踏んでれば、俺と良い勝負ができただろうによぉ!」
「しまっ――!?」
軌道が見え見えの足を掴まれ、態勢を崩したところに、男の拳がギデオンの顔面を撃ち抜いた。
「ギデオンッ!」
地面を派手に転がっていったギデオンに、レナがしがみつく。
「レ……ナ……」
「戦場では力が強いものが勝つ! それが絶対にして唯一の掟だ! 勉強になったか小僧ォォ!? まぁ、それを活かす場所はもうねえがなァッ!!」
男の高笑いを子守唄に聞きながら、ギデオンの意識はゆっくりと微睡んでいく。
「ギデオンッ! ギデオンッ!」
「さぁ、後はお前をくびり殺して終わりだ」
わざとらしく指の骨を鳴らした男が、ゆっくりと歩み寄る。
もはやレナたちに戦う術は残されていない。
刻一刻と迫る死を前に、無残に命を散らすこと。
それ以外に道はなかった。
「さぁ、後はお前をくびり殺して終わりだ」
「こ、来ないでっ! 今度こそ絶対に撃ちますっ! ほ、本当ですからっ!」
「ハハ、まだそのポンコツにすがろうって言うのか? 笑えるぜ」
怖い。怖くて仕方がない。
両手でしっかり銃を握ってるはずのに、それをしっかりあの人に向けることもままならない。
「どうせ撃てないんだろ? 俺が殺してやった眼鏡のガキも同じだったぜ?」
「……そん、な……」
あの時、わたしの隣にいた男の子。
その子も、この世界にはもういない……。
「なぁ、お前ら帰還種は、本当に切り札なのか? 俺にはただの捨て駒にしか見えねえぞ?」
「わ、わたしたちは、この世界の未来を……」
「その動かねえポンコツで変えるってか? 笑わせるぜ! お前らのしてることを、この世界の言葉でなんて言うか知ってるか!? 余計なお世話って言うんだよッ! お前らは、俺たちの理想の邪魔でしかねえのさァッ!」
……余計なお世話?
じゃあ、わたしたちは何のためにこの世界にやって来たの?
ただ、殺されるために?
ただ、争いの口実を与えるために?
ううん、違うよ。絶対に違う。
――地上へ出たら、たくさんの世界を見て回ろう。
――そして、自分たちの目で見た世界のことを、いつかみんなで語り明かそうよ。
あの時、みんなと約束したんだ。
わたしたちは、この世界を知るためにやって来た。
わたしは、この世界を知らなくちゃいけない。
ギデオンにヨナ、ううん、それだけじゃない。
これから出会う、もっと沢山の人たちのことも。
わたしは知らなくちゃいけないんだ。
なのに、何もできないまま、死にたくないっ!
だから! わたしは生きるんだっ!
例え。例え、あなたを!
殺してでもッ!!
『――認証。レナ・イシュメイルの精神波長との同期を確認』
「……え?」
「何ぃ?」
それは、突然の変化だった。
わたしの手に握られていたデイブレイカーが、聞き慣れない声と共に白く光り輝いていく。
「コケおどしがァァァッ!!」
「わあァァァァァァァァァッ!!」
「死ねェェェッ!!」
わたしの世界が、白に包まれた。
一瞬の閃光に世界が呑み込まれると同時に、わたしの記憶は曖昧なものになっていく。
覚えているのは、目の前の敵への強い憎しみと。
この世界への、深く強い悲しみ。
そして、自分の意思で相手を殺したいと願い、トリガーを引いたことだった。
ここは、どこだろう。
何も見えないし、何も感じられない。
ふわふわと真っ暗な空間を浮いている。
『レナ』
わたしを呼ぶ声がした。
その声に導かれるように体を動かすと、
『レナ』
別の方からもわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
どうしよう。どちらの声に応えればいいのかな?
片方の声は、どこか懐かしい。
片方の声は、なんだか暖かい。
迷ったわたしは、懐かしさを選ぼうとした。
『レナ。キミはボクたちの方に来てはいけないよ』
すると、ゲートで別れたみんなの顔が、淡い光を帯びて暗闇から浮かび上がって来た。
「どうして? どうしてわたしはそっちに行ってはいけないの? わたしだけ仲間外れなんて、イヤだよ」
『キミなら大丈夫だよ』
「でも、みんなと別れたくない」
『それはもうできないんだ。もうすぐ僕たちは君の世界から消えて無くなってしまうから』
「そんな! それじゃ、わたしはどうすれば……どうやって生きていけばいいの?」
『キミは、前に進まなくちゃいけない』
「前に?」
『そう。前に進み続けて、キミは見つけるんだ。キミが護りたいものを。これからキミが愛するものを』
「でも、わたし一人じゃ……」
『大丈夫、キミは一人じゃないよ』
その瞬間。
暖かな声が、強く光り輝いた。
『――ナ! 起きてくれ! レナ!』
知っている。
わたしを呼ぶこの声を、わたしは知っている。
「――ギデオン!」
『時間だね。ボクたちは、この止まった世界でキミが未来を切り開いていくことを願っているよ』
「みんな、待って! 約束する! わたし、絶対に諦めない。どんな困難が訪れても、未来を切り開くって!」
『うん。約束だよ。さようなら、レナ――』
「……うん、さようなら」
その言葉を皮切りに、わたしはギデオンの声がする光の方へと引き寄せられていく。
気付けば、ギデオンの輪郭をした暖かな光に、包まれていた。
「――ギ、デオン……?」
「レナ!? うおおお! 無事か!? 怪我はないか!? レナ!!」
「も、もう大丈夫だからっ。そんな、揺らさないで……」
「ああっ、わ、悪ぃ!」
ギデオンはバッとわたしから離れた。
そして、わたしはその先に広がっていた光景を目の当たりにした。
「え、何、これ……」
生い茂っていた木々は消え失せ、巨大なスプーンで丸ごと大地を削り取ったような大きすぎる爪痕が、どこまでも続いている。
ここは……本当にイオニアコロニーなの?
「まさか、わたしが、これを……」
震えが止まらない。
わたしの引いた引き金が、すべてを壊してしまった。
恐怖が身体を伝って、握ったままだった銃をカタカタ鳴らす。
小さな銃は、ただ黒く、のし掛かってくるように重たかった。
「――レナ! ギデオン!」
「ミリアム! ヨナも! 無事だったんだな!」
「まったく、何が起きたのかサッパリだよ」
「ああ、それなんだけどさ……」
「話はあとだよ! 脱出だ!」
船に乗り込んだわたしは、そのまま床に尻餅をつく。
力なく、ただミリアムとギデオンを眺めているとふと頭を撫でる感触に気が付いた。
「レナ。無事で良かった」
「あ……、……?」
ゆっくり視線を上に向けると。
ボロボロに傷ついたヨナが、笑顔を見せていた。
穏やかに笑うヨナは、なんだかとても暖かくて。
その途端、わたしの世界は雨が降ったようににじんでしまって――
「ナ……ヨナ、ヨナァ……!」
「もう、泣かないの」
ヨナの体を確かめるように、無我夢中で抱きついた。
生きている。わたしも、ヨナも。
今ここに、生きているんだ。
「ギデオンもこっちに来る?」
「や、俺は別に……」
「いいから。来なさい?」
恥ずかしそうにしていたギデオンも、わたしの前までやって来る。
「私たちがこうして生きていられるなんて。まるで……奇跡みたい」
「ああ……本当にな……」
わたしたちは、肩を寄せ合って泣いた。
小さな振動を体に感じたのは、それからすぐだった。
船が、上昇していく。
「さあ脱出するよ! しっかりしがみついてな!」
わたしたちの喜びも、悲しみも、憎しみも。
あらゆる感情を乗せて、船は東の空へと飛び発った。
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
122021年11月25日 14:00 ID:nfnco6kdマジでいつ見ても可愛すぎる
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匿名
112021年10月17日 20:00 ID:qhhxryyp銀髪ロングじゃん 好き
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
92021年10月11日 22:58 ID:l7gzp3uiイシュメイルといいエイハヴといい、『白鯨』がモチーフのような、普通に旧約聖書からとっただけのような……どっちなんだろう
でも旧約聖書が元なら、普通はアハブやイシュマエルって表記になると思うんだよな
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チュウニズムな名無し
82021年09月27日 11:59 ID:nkgljsfvかわヨ
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名前がある人
72021年09月26日 12:31 ID:k88qjd73二次元の中でも四天王に入るくらい可愛すぎる
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チュウニズムな名無し
62021年09月20日 20:46 ID:m44xumlu進化イラストのもちもち感すこ
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チュウニズムな名無し
52021年09月20日 02:19 ID:kfbc4qvh袖がかわいい
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チュウニズムな名無し
42021年09月18日 02:58 ID:h3k4aolrコンボエクステンド+11
推定値通りです
又、+10も推定値通りでした