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天の原照る月・ストーリー

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天の原 照る月

プロローグ

末芽十三日  朝

――――――――――――

忘憂舎


 時は中秋節――十五夜の今日、朝露が冷たく澄み渡り、キンモクセイの香りが漂っている。

 スノースキン月餅はいつものように忘憂舎へと習字と絵を描きにやって来た。だが舎内にはワンタンの姿しかなかった。


スノースキン月餅:皆さんは……いずこへ……

ワンタン:いらっしゃい、スノースキン月餅。今夜は十五夜だからね、月餅の材料を買いに出かけたよ。

スノースキン月餅:十五夜って……なに……

ワンタン:君はずっとお寺に住んでいたから知らなかいのかもね。十五夜──もしくは中秋節。これはここ光耀大陸では伝統的なお祭りだよ。皆、十五夜になると月餅を食べながら月を見る。また、花灯──飾り灯篭を空に飛ばして、 灯篭の謎を解いたりするんだ

スノースキン月餅:へぇ……月餅……美味しい……御侍様に作ってもらった事ある……

ワンタン:君はここで療養していた。快復してから日も浅い。もし興味が出たなら、町中へ出かけてみるといいよ。何か発見があるかもしれない。

スノースキン月餅:うん……

スノースキン月餅:(面白い発見が……あったらいいな……)


ストーリー 1-2

末芽十三日  朝

――――――――――――

町中


緑豆スープバター茶!すっごく賑やかだね!見て見て、あそこのあの子、うさぎの灯篭を持ってるよ!

バター茶:そうだね、今日は十五夜だからね。

緑豆スープ:十五夜って月餅を食べるんだっけ!あそこのお店で売ってるみたい!


 緑豆スープは興奮しながらバター茶を振り返った。だがすぐに「アッ」と声をあげて、罰悪そうに俯いて、軽食の屋台を指さしていた手を引っ込めた。


緑豆スープ:ご……ごめんなさい……私たち、手掛かりを探してたんだった……はしゃいでる場合じゃなかったね……

バター茶:気にしなくていい。愚僧に付き合って貴女まで苦労する必要はない。

バター茶:そうそうない行事でもある。もし見たいなら、共に町を見てまわろう。

緑豆スープ:本当……?えへへ、バター茶大好き―!じゃあまずあのお店で一緒に月餅を食べよう~♪


 

 スノースキン月餅は賑やかな町中を歩いていた。時々、町を行く人々の会話を、手にした小さなメモ帳に記録している。

 すると、道端に一軒の本屋があるのが目についた。店頭には沢山の本が並べてあり、お客が集って賑わっていた。

 その中に「蓮」という作者の本が一列に山積みにされていた。周りには空いたスペースが何箇所もあり、「売切れ」と書かれた書き札が置かれている。

 店内から何人かの客の熱い議論が聞こえる。


町人A:や、やったわ、最後の一冊の「桃源」が買えた!

町人B:うわーん、一足遅かった…もうこれで二度目よ!再販してくれないかしら……しくしく

町人C:私も買いそびれた……もう町中の書店は全部回ったのに……一番好きな物語なのに……

町人A:私は廬さん酢っちゃんが一番好き!

町人B:ワンくん苓くんの方がいいに決まってるわ!

町人C:一生「蓮」の新作を買い続ける!

町人A:あんなに素敵な物語を書くなんて、「蓮」はきっと絶世の大美人に違いないわ!


 スノースキン月餅は静かに店頭の看板から彼女たちの会話を隠れ聞く。そして、その内容に、たまらず頬を赤らめてしまった。


 ドンドンドン――!


本屋の店主:寄ってらっしゃい見てらっしゃい!「蓮」の新刊「桃源II」が発売したよ!購入額の高い20名に、作者の直筆サインをプレゼント!このチャンスを逃すな!光耀大陸の書店で、うちだけのとっておきの特典だよ!


 書店の前で切れの良い太鼓の音をさせながら、店の店主が叫び出した。その声に周囲が騒然となり、人だかりがさらに大きくなった。


緑豆スープバター茶!あの人、今なんて言ってた?『蓮』の新刊って言わなかった?聞き間違いかなぁ……?

バター茶:あぁ……君が好きな作家だっけ?確かに今、店主は『蓮』と言って――あ、緑豆スープ


 バター茶が言い終える前に、緑豆スープはすでに書店へと走り出していた。小さく嘆息した後、彼は少女の向かう先へと向かう。

 看板の後ろに隠れていたスノースキン月餅は、急に増えた雑踏に揉まれた。彼女はよろよろと立ち上げり、店主が手にしている新刊を見て、違和感を覚えた。

 スノースキン月餅は更に近づいて詳細を確認しようと本屋に近づこうとするも、絶えず押し寄せる客に飲まれ、人混みから弾かれてしまう。仕方なく彼女は、か細い声で訴えた。


スノースキン月餅:あの本……本物じゃない……買わないで……

スノースキン月餅:偽物……買っちゃダメ……


 しかし、そんな声は誰にも届かない。どうしようかと振り返ったスノースキン月餅は、横から突然押された。その衝撃で、足元が揺らつき倒れそうになる。すると小さな手がそんな彼女の体をそっと支えた。

 ゆっくりと顔を上げたスノースキン月餅の目に入ってきたのは、青い服を着た可愛らしい少女である。


緑豆スープ:ふぅっ――間に合って良かった!あなた、大丈夫?


 こくんと頷いたスノースキン月餅に、その少女は彼女の小さな声に気が付いたようで、困惑した様子で質問を投げかける。


緑豆スープ:ねぇあなた、この本が偽物って言ってなかった? どうしてそんなこと知ってるの?


───

……

・<選択肢・上>「……本当。」

・<選択肢・中>「う、嘘じゃない……」

・<選択肢・下>「『蓮』の本……全部持ってるから……」

───


緑豆スープ:えっ……?!

スノースキン月餅:私と……一緒に来て……

緑豆スープ:分かった、一緒に行こ!私は緑豆スープ、彼はバター茶だよ。あなたのお名前は?

スノースキン月餅スノースキン月餅……


 大きな声を上げて倒れそうになった緑豆スープバター茶が支えた。そうして三人は知り合いとなり、スノースキン月餅緑豆スープバター茶と共に、忘憂舎へと向かった。


ストーリー 1-4

末芽十三日  昼間

――――――――――――

忘憂舎


 忘憂舎にある泉水は清らかで、ほのかに桃の香りがする。庭には小さくて精巧な花灯がびっしりと飾られており、お祭りの雰囲気に満ちていた。


緑豆スープ:わぁっ……!すごいー!綺麗-っ!!


 緑豆スープは静かな庭園を興味津々に眺めていた。スノースキン月餅はそっとその場を離れ、自分の部屋へ本を取りに向かった。


緑豆スープ:緑豆っち!これ見て、そのまま食べれる薬草だよ!あとこっちも!この辺のは全部癒しの効果がある薬草みたい!……あれ、緑豆っち?どこ行っちゃったの……?


 バサバサバサッ——と、背後の建物の中から何かが落ちる音がした。慌てて振り返った緑豆スープの前で、扉が勢いよく開かれる。

 そして、緑豆っちが室内から墨汁まみれで、転がり出てきた。どうやら何かイタズラをしでかしたようだ。


緑豆スープ:緑豆っち?!ちょ、ちょっと何してるの!?


 緑豆スープは慌てて扉に向かって走る。その様子に気が付いて、バター茶も彼女のあとを追いかけた。

 そこは書斎のようで、至る所に原稿や巻物が散らかっていた。そのうちのひとつを手に取った緑豆スープは首を傾げる。そこには、ヘンテコな記号や文字が描かれていた。

 更にお経が書いてある紙が何枚か、バター茶の足元に舞い落ちた。バター茶はそれらを拾い上げる。


緑豆スープ:こ、こんなにしちゃって……ごめんなさいっ!あ、あの緑豆っちのことは、ちゃんと叱っておくから!

スノースキン月餅:大丈夫……


 緑豆スープバター茶はその場にしゃがみ込み、散らばった書類の整理を手伝った。そのとき、緑豆スープは原稿の内容に気が付く。


緑豆スープ:あれ?この原稿のお話、私読んだことがある……これも……こっちも……!


 緑豆スープはそう言いながら、困惑した様子で顔を上げ、周囲の本棚を見た。そしてそこに並ぶ書籍のタイトルを見て、唖然として振り返る。


緑豆スープ:あの……スノースキン月餅、あなた……もしかして『蓮』!?

スノースキン月餅:えっ……ち、ちがう……わ、私も……彼女が好きで……

緑豆スープ:そんな訳ないよ!だって、この本!これもこれも!限定版で流通してる数が全然ない、すっごい貴重な本なんだよ!?あと、この不思議な記号……全部本に描かれてたのと一緒じゃない!?

スノースキン月餅:わ、私……は。

緑豆スープ:ねぇ、あなた、本当に『蓮』なの!?


───

……

・<選択肢・上>「う、うん……」

・<選択肢・中>スノースキン月餅は黙り込む。

・<選択肢・下>「……ば、バレちゃった……」

───


 スノースキン月餅は狼狽えた様子で視線を泳がせている。頬が赤らんで明らかに様子がおかしい。その様子が、すべてを物語っていた。


緑豆スープ:ああああー!あのねっ!私、あなたの書くお話の大ファンなの!


 緑豆スープはいつもより幾分か高いトーンでそう叫んで、スノースキン月餅に抱きついた。

 それから、緑豆スープは床に散らばった原稿をすべて拾ってまとめる。そこでするとそこには読んだ事がない物語が書いてあったので、じっくりと読んだ。


緑豆スープ:あうぅっ……ねぇスノースキン月餅、この仏教寺院の話って本当の話?印空法師は本当にいい人だよねぇ。邪教なんて大ッ嫌い!

バター茶:(……邪教?)


 バター茶緑豆スープの言葉に反応し、緑豆スープが読んでいた原稿を覗き込んだ。そこには蓮華蔵に由来する山号を持った寺の話が記されている。

 スノースキン月餅緑豆スープに暫く考えてから言った。


スノースキン月餅:ううん……知り合いのおばあさんから……聞いたの……

緑豆スープ:創作ならいいんだけどさ……。でも、この石碑とか灯篭の話がすっごいリアリティあって……んんん。


 低く唸った彼女からその本を受け取り、バター茶は読み始める。そして、難しい顔をして何やら考え込んでいる。その様子を緊張した面持ちでスノースキン月餅は見守っていた。


ストーリー 1-6

末芽十三日  昼間

――――――――――――

忘憂舎


緑豆スープ:こ、これ!先月買えなかったハードカバー版!本当にくれるの!?

スノースキン月餅:うん……読んでくれて、ありがとう……


 緑豆スープスノースキン月餅がくれた本を見て、目を輝かせている。目を線のように細めて、満面の笑みを浮かべていた。

 そんなふたりの傍にバター茶が近づいてきて、スノースキン月餅に言った。


───

スノースキン月餅……

・<選択肢・上>「面倒をかけたね、申し訳ない」

・<選択肢・中>「いろいろとありがとう」

・<選択肢・下>「君の書斎を乱したのはわざとじゃないんだ。許してくれ」

───


スノースキン月餅:喜んでもらえるなら……良かったです……

バター茶:貴方に、一つお聞きしたいことがあります。あの……


 そう切り出した言葉は、近づいてくる足音で中断される。見ると、そこには買い出しから戻ってきた廬山雲霧茶西湖酢魚の姿があった。二人共、手に小包を抱えていた。


西湖酢魚スノースキン月餅、ここにいたのね。……あら、お客様だったの……?

バター茶:愚僧はバター茶という者です。彼女、緑豆スープと共に光耀大陸にやってきました。邪魔をしてしまい申し訳ない。

西湖酢魚:妾は西湖酢魚(シー・フー・ツゥ・ユゥ)、以後、お見知り置きを。お客様が来てくださるのはとても嬉しいです。

廬山雲霧茶廬山雲霧茶です。客人が来られるとは知らなかったもので……おもてなしが行き届かず、申し訳ありません。

バター茶:滅相もありません、こちらも予定になかったことです。お構いなく。

廬山雲霧茶:丁度良いところにいらしましたね。今日は中秋の節分……十五夜です。良かったら、ここ――忘憂舎でお過ごしください。

西湖酢魚:そうですね、食材も沢山買ってきましたから。妾たちは貴方たちを

バター茶:では、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます。


 廬山雲霧茶は、綺麗に包装された小包をスノースキン月餅に手渡す。そして、開けてみるように彼女を促した。

 言われるままにスノースキン月餅が小包を丁寧に開くと、刺繍が施された衣が入っていた。裳裾(もすそ)の横についた紗で作った帯が芙蓉のように薄く透き通っている。

 その衣装は温かくて柔らかな印象を与える薄紅色だった。スノースキン月餅の表情がいつもの冷たいものから柔らかなものへと変わった。


廬山雲霧茶スノースキン月餅、これはわたくしと西湖酢魚(シー・フー・ツゥ・ユゥ)からのプレゼント。あと、ワンタン亀苓膏からの毛筆もある。ささやかではあるけれど、私たちからの送別品よ。

西湖酢魚:あなたが大好きな蓮花酥もあるわよ。あなたが今日来るって廬山雲霧茶から聞いて、買っておいたの。

スノースキン月餅:ありがとう……とても嬉しい……この揚げパイ、とっても美味しいの……

緑豆スープ:い、今『送別品』って言った……!?スノースキン月餅、どっかに行っちゃうの……?


 本の世界にどっぷりと浸かっていた緑豆スープが、ハッとして顔をあげる。


スノースキン月餅:もっと世界を見てみたいと思って……グルイラオ……桜の島……いろんなところに行ってみたい……

緑豆スープ:じゃあもう会えなくなっちゃうんだね……。


 緑豆スープはしょんぼりとして呟いた。だがしばらくするとまた元気を取り戻したように笑顔を浮かべる。


緑豆スープ:だったら今夜の十五夜は、楽しいパーティにしなきゃね!スノースキン月餅、早く新しい衣装に着替えよう!


 緑豆スープスノースキン月餅に着替えるように促した。そのときやっと彼女は廬山雲霧茶西湖酢魚がいることに気が付いた。


緑豆スープ:あれっ——お姉さんたち、廬さんと酢っちゃんにそっくり!ううん、そのものだよ!あの物語を初めて読んだとき、すごく泣いちゃって……何度も読み返してるんだ……!!

廬山雲霧茶:廬さん……?

西湖酢魚:酢っちゃん……?あの、なんの事でしょうか……?

緑豆スープ:あ、そうなんだ!?お姉さんたちをモデルにして書いたものなんだね!えへへ……ねぇ、お姉さんたち!良かったらこのあと一緒におでかけしませんか?

西湖酢魚:ありがとう。けれど廬山雲霧茶と妾は今晩の準備が残っています。一緒に行けなくて残念です……。

廬山雲霧茶:わたくしたちのことは気にせず、楽しんで遊んできてください。夜に、またお会いしましょう。

緑豆スープ:は、はい……じゃあ帰ってきたらお手伝します!そのとき、いろいろお話できたら嬉しいです……!


ストーリー 2-2

末芽十三日  昼間

――――――――――――

町中


 町に出るとそこは騒然としている。人々は賑やかに話しており、屋台はどれも繁盛しているようだった。

 緑豆スープは屋台で売っている月餅や果物に目を奪われている。嬉しそうにスノースキン月餅の手を引いて、一軒一軒回ってはいろんな物を食べたがった。バター茶はそんなふたりを和やかな表情で見つめながら、淡々とお金の支払いをする。


スノースキン月餅のスキン:うさぎさん……


 スノースキン月餅が不意に足を止め、対面にある花灯の屋台に振り返った。小さくて可愛いらしいうさぎの花灯は生き生きとしている。


うさぎ灯屋の店主:お嬢さんたち、うちでやってる行事に参加してみないかい?自分でうさぎ灯を作る事ができるよ。

緑豆スープ:あっ、これ。今朝見たうさぎ灯だ!ねぇねぇ!スノースキン月餅、一緒に作ろう!

スノースキン月餅のスキン:……うん。


 ふたりが椅子に座って、うさぎ灯を作り始める。バター茶は楽しそうな彼女たちに後で戻ってくることを告げ、しばしひとりで市場を回ることにした。

 小道を曲がると、道端の屋台で蓮花酥を揚げているのが目に入る。スノースキン月餅の好物だったな、とバター茶は足を止める。

 花びらのように六つに割られた生地が油の中で咲いている。透き通った薄紅の花びらと花蕊がクッキリと浮き出ていた。バター茶は感心した様子でまじまじとその様子を見つめる。


蓮花のショートケーキ屋の店主:おや……あなた、印空法師という方によく似てらっしゃる。彼はよく自分が召喚した食霊にと、この店の蓮花酥を買ってくださいました。もしかして、お知り合いですか?


 店主は穏やかな口調でそう聞いた。バター茶はその言葉に恭しく手を合わせてお辞儀をした。


バター茶:愚僧は名もなき仏門の弟子です。法師と並んで語られるほどの者ではございません。

蓮花のショートケーキ屋の店主:ご謙遜を。ああ、顔ではなく雰囲気が似ています。あなたのように、仏教に身を委ねていらっしゃったからかしら。でも……あの方は邪教の犠牲になってしまわれた。あの事件がなければ、あの寺から香火が途絶える事もなかったのにねぇ。

バター茶:邪教……?愚僧に良かったらその寺のことを教えてもらえませんか?煩わしいお願いをしてしまい、申し訳ないのですが……。


 店主は柔らかく微笑んで、新しい生地を鍋に落とし、感慨深げに息をつき、ゆっくりと語り始めた。


蓮花のショートケーキ屋の店主:あの当時、邪教は野寺を拠点にしていました。邪神の名で人々を騙してはお金や食べ物、最後は生きた人間にまで手を出し始めてね、ひどいもんでしたよ。

蓮花のショートケーキ屋の店主:そこで、印空法師がその件について調査をし始めました。すると、邪教の頭主が寺の住持だったんです。ですがこの住持もまた、他の者の指示を受けていたらしくてね。

蓮花のショートケーキ屋の店主:その寺に奇妙な異郷の女性を見たという者もいます。歌と踊りに長けた食霊だという噂です。


───

あの……

・<選択肢・上>邪教の者たちは、今はどうしているのでしょう?

・<選択肢・中>その異郷の女子はどうなりましたか?

・<選択肢・下>その野寺は今どうなりましたか?

───


蓮花のショートケーキ屋の店主:そうですね……逃げた者もいたようですし、死ぬ者もいたようです。誰がどうだったか、詳しいことはわかりません。寺は今、荒地になっています。

蓮花のショートケーキ屋の店主:その後、この町から邪教の姿は見なくなりました。印空法師のおかげですかね。おかげで、平和を取り戻せましたよ。


 店主は語りながら、蓮花酥を揚げ続けた。あっという間に、三つの揚げたての蓮花酥が出来上がる。


バター茶:……お話くださり、ありがとうございます。


 バター茶が神妙な表情をしていると、赤い糸で包まれた三つの油紙を差し出された。きょとんとしてバター茶が店主を見ると、店主は目を細めて微笑んだ。


蓮花のショートケーキ屋の店主:あなた、その身なりからすると、異郷の方でしょう?粗末なものですが、この蓮花酥をどうぞ。楽しい十五夜を過ごされますように。懐かしい思い出を思い出させてくれて、ありがとう。


ストーリー 2-4

末芽十三日 夕暮れ

―――――――――――――

町中


 気付けば空がだんだんと暗くなってくる。町中の灯りが点き始め、宴の合図が響いた。キンモクセイとお酒の匂いが、町を包み込んだ。


緑豆スープ:ふぅ――バター茶、遅いねぇ。


 緑豆スープは既に出来上がったうさぎ灯を手に、椅子から立ち上がり、大きなあくびをする。スノースキン月餅は、そんな彼女の横で真剣にうさぎ灯の上に記号を書いている。


 ――数時間前、昼の書店。


 真剣に本棚を見ていた長い精霊の耳の長弓を手にした男が、目の前に置いてある本を指さしてこう言った。


???:『蓮』の本とそこにある本を全部包んでください。ここにある本を全部買えば、作者の居場所を教えてくれるんですよね?


 店主はまさかそのような暴挙に出られるとは思わず、引きつった表情で頷いて、歯切れ悪く言った。


本屋の店主:そ、そうだね。街から出て東にある麦畑を越えて、山を二つ越えれば、会える……

???:……見え透いた嘘ですね。とてもじゃないが信じられない。『蓮』の本だけいただいて帰ります。では、失礼。


 男はそう告げて、店から出ていく。すると、店の前でうさぎ灯を持ったスノースキン月餅緑豆スープと鉢合わせた。


???:(この記号は――まさか!?)

???:そこの可愛いお嬢さんがた、お伺いしたいのですが……その灯篭に書いてある文字はなんでしょうか?


 スノースキン月餅緑豆スープは突然声をかけてきた耳の長い男性に目を白黒させる。その男はスノースキン月餅が書いた記号を指していた。突然で驚いたが、彼から悪意は感じられない。


緑豆スープ:な、なんで突然そんなことを聞くの?

???:スノースキン月餅緑豆スープとは、あなたがたふたりのお名前ですか?

緑豆スープ:え!?どうして知ってるの!?

スノースキン月餅:あなた……この文字が読めるの……?

緑豆スープ:えっ!?これ、絵じゃなくて、文字なの!?

???:この文字について、教えてもらってもいいかな? 君が書いたの?

スノースキン月餅:私が書きました……

???:どうやら君が『蓮』のようですね


 その男は興味深そうに言った。満足げな表情で、まっすぐにスノースキン月餅の顔を覗き込んだ。


スノースキン月餅:あなた……どうして……この文字のことを知ってるの?

???:これは私の種族が使っている特殊な文字だからね。それなのに、どうして君がこの文字を知っているのか……もしかして、君は……。

スノースキン月餅:私……分からない……

???:ん? 分からない……?それなのにこの文字を書けるのか……


 男は腕を組み、思案している。緑豆スープはハラハラとした表情で二人を見守る。スノースキン月餅は居心地悪そうに俯いてしまった。

 そのとき、緑豆スープの頭に乗っていた緑豆っちがぴょんと飛び上がる。その勢いで、スノースキン月餅が手にしていた原稿が数枚、地面にはらりと舞い落ちた。


緑豆スープ:緑豆っちーっ!何やってるの!ごめんね、スノースキン月餅


 緑豆スープは慌てて地面に落ちた原稿を拾い、付いた埃を手で払い落す。そして、そこに描かれている奇妙な記号を食い入るように見つめる。


緑豆スープ:うむむ……ふたりとも、この絵が読めるの……? 私には全然わかんない……


 スノースキン月餅はゆっくりと緑豆スープを見る。そして手を伸ばして原稿を受け取ろうとすると、男性がサッとそれを取ってしまった。


マティーニ:自己紹介がまだでしたね。私はマティーニと申します。この原稿、私が読んでみましょう。どれどれ……ふむ……ふむ……?


 長耳の男は真剣にその原稿を読み進めた。緑豆スープは期待に満ちた表情で、男の言葉を待っている。その隣でスノースキン月餅は硬直して、険しい表情を浮かべていた。


???:うん……これは……子供は知らないほうがいい。言葉にするには少々難しい内容だ。


 男は原稿に、神妙な微笑みを浮かべた。そしてスノースキン月餅に原稿を返す。


緑豆スープ:えっ?どういうこと……?って、わぁあーっ!?スノースキン月餅、なになに!?どうしたの!?


 スノースキン月餅緑豆スープの手を握り、そのまま強く引っ張っていく。そんな彼女の背中に向かって、マティーニが声をかける。


マティーニ:蓮、その文字が読める君は、私にとって特別な存在だ。何かあったら、いつでもナイフラストの法王庁に来てほしい!またどこかで、君と会いたい……!私の名はマティーニ、どうか覚えておいてほしい!

緑豆スープ:これ、何が書いてあるの……?なんで教えてくれなかったのかなぁ……


───

……

・<選択肢・上>気にしないで‥…。

・<選択肢・中>つまらないことだよ……。

・<選択肢・下>言えない……。

───


 緑豆スープは、それ以上の追及をやめた。何か言えない事情があるようなら、無理に聞き出したくないと思ったからだ。そうしてふたりが歩いていると、前からバター茶が歩いてくるのが見える。彼は両手にたくさんのお菓子を持っていた。


緑豆スープ:あっバター茶!お菓子を買いに行ってたんだね!えへへ、これだけあればもう十分だよね。じゃあ、帰ろうか!廬さんと酢っちゃんともいろいろ話したいしね!


ストーリー 2-6

末芽十三日  夜

―――――――――――――

忘憂舎


 スノースキン月餅緑豆スープバター茶たちは忘憂舎へと戻った。廬山雲霧茶西湖酢魚のふたりが、ちょうど月餅を焼いているところに遭遇する。緑豆スープは自分も手伝うと言って、厨房へ向かった。

 バター茶は、緑豆スープについていこうとしたスノースキン月餅を呼び止める。そして、目を伏せて、ゆっくりと首を横に振った。


バター茶スノースキン月餅、あなたの書いた仏教寺院の物語は、あなたと御侍の話だったんですね……実は愚僧、印空法師の境界(きょうがい)に敬意を抱いています。

スノースキン月餅:そう……なの。


 スノースキン月餅の表情は少し暗くなった。自分の発言で少女を悲しい気分にさせたのだろうと、バター茶は慈しみの表情を浮かべた。


バター茶:悲しませたなら申し訳ありません。愚僧は貴方を悲しませたい訳ではないです。けれど……愚僧にとって深刻な問題で……どうか、教えていただけないでしょうか?

バター茶:当時、貴方は御侍と共に邪教について調査していましたね?その頃、教養があって、歌と踊りに長けた食霊と会った事はありますか?

バター茶:彼女の名は、董糖……と言います。


 スノースキン月餅は低く唸って考え込むも、すぐに首を横に振った。


スノースキン月餅:ごめんなさい……分からないの……忘れてしまったのかもしれない……


───

……

・<選択肢・上>黙り込む。

・<選択肢・中>お礼を言う。

・<選択肢・下>もう一度たずねる。

───


スノースキン月餅:彼女は……あなたのお友だちですか?

バター茶:えぇ、旧知の友です。

スノースキン月餅:御侍さまは言ってました……万法縁生――全てはご縁だと。

スノースキン月餅:彼女……今きっと……同じ月を……見てる……


 バター茶は顔を上げ、空を見上げる。彼の瞳には、一輪の月が映った。


バター茶:今日は十五夜……彼女もこの月を見ていたらいいのですが。

スノースキン月餅:私……もしその方にお会いできたら……記録します……必ず……

スノースキン月餅納豆が……三年後……お茶会があるって言ってたから……光耀大陸で……

スノースキン月餅:もしかしたら……他の人の物語にいるかも……手がかりが見つかるかも……

バター茶:ありがとうございます、スノースキン月餅。どこかの物語に……彼女がいますように。いたら教えてくださいね。あなたの新しい物語にも、楽しみにしています。



バター茶√宝箱

末芽十三日 夜

―――――――――――

忘憂舎


 緑豆スープ廬山雲霧茶西湖酢魚のふたりと月餅を焼き終えた時、遠くでバター茶スノースキン月餅が見えた。緑豆スープは、月餅を手に、ひょこひょこと二人のところへと移動する。


緑豆スープ:こんなところにいたんだね!えへへ、月餅が焼けたよ~♪一緒に味見してみよっ!


 緑豆スープスノースキン月餅の手を取った。そうしてふたりは先に歩き出す。いつもならこの後ろをついていくバター茶だったが、彼はその場に残り、立ち去る二人を見送った。

 そして一人残ったバター茶はそっと夜空を見上げる。星が輝き、風がそよぐ音が聞こえる。その音に身を委ね、そっと目を閉じる。

 ここの時間は穏やかだ。バター茶は小さく溜息する。そのとき、背後から足音が聞こえてきた。

 ゆっくりと振り返ったバター茶の目に、亀苓膏カニみそ小籠包の姿が映った。


亀苓膏緑豆スープから君の話を聞いた。今回の旅は順調だろうか?

バター茶:僅かな手がかりを手に入れることができました。ですが、この道はとてつもなく長い。私はそのことを十分に理解しています故……

亀苓膏:君の願いが、早く叶うことを私も願っている。

カニみそ小籠包:オレは尊敬するよ。結果が出る前に、やっておくべきことは確かにある……

カニみそ小籠包:執念は、必ずしも悪だとは限らないよな。ただ、無理したらダメだぜ?

バター茶:……ふふ、ご心配頂き、ありがたく思います。

小籠包:あ、やっと見つけたぞ!こんなとこで何をしている?みんな、涼亭で待っているぞ!早くいこうぞ!


 途中酒を持ったワンタンと合流し、四人で涼亭へと向かう。傍に行くと、賑やかな声が響いてきた。

 ワンタンが、手にしたとっておきのお酒を皆に注いでまわる。そして、乾杯の音頭を取り、それぞれの紹介を済ませて、改まってワンタンに告げる。


ワンタンバター茶緑豆スープが、十五夜の日に訪れてくれたのは何かの縁だ。もし今後、酒の友が欲しくなったら、いつでも遊びに来てください。

バター茶:ありがとうございます。機会を作って、ぜひまた遊びにきます。


 そうしてバター茶ワンタンのとっておきであるお酒をしみじみと味わって呑む。これは良いお酒だ、と僅かに頬を赤らめて笑みを浮かべる。


緑豆スープバター茶!お酒ばっか呑んでないで、私が作った薬草月餅も食べてよー!この緑色の艶が鮮やかな月餅がそうよ!ワンタン亀苓膏達も食べて食べて~♪


 山盛りの月餅の中心に置かれた月餅を「ビシッ」と緑豆スープが指差した。それは、ほかの月餅と比べて、明らかに異彩を放っている。


ワンタン:う……これは……ゴホンッ!ああ、私は亀苓膏の作ったスープを取ってこようか。きっと月餅には合うと思うからな。バター茶、私のことは気にせず、先に食べていてくれたまえ。

亀苓膏:スープ?私は月餅に合うスープを作ってはいないが……まぁいい。スープは火加減が大事だからな。ワンタンには任せておけぬ。私も見てこよう。バター茶、私のことも気にせず、どうぞ先に食べていてくれたまえ。

バター茶:これは――薬草……月餅、と言いましたか?確かに個性的な匂いを放っていますね……。ふむ、これはスープが来るまで待っていましょう。せっかくならよりおいしく食べたいですしね。

小籠包:見てみい!あっちに孔明灯がたくさんあるぞ!なんと綺麗なのじゃ!


 小籠包が不意に叫んだ。その場にいた者たちは一斉に彼の示した方向を見る。そこに見える景色は思わず息を呑むほどに、美しい光景であった。

 バター茶は思わず立ち上がった。この光景は、これから彼を待ち受ける出来事に立ち向かえるだけの勇気を存分に与えてくれた。

 今宵の月は麗らかで、満開のキンモクセイはまるで玉石のように優しい輝きを放っていた。天に舞う華灯は、果てしない星河を作り出している。この忘憂舎で見た景色を、皆忘れることはないだろう――この偶然の出会いに、彼らは深く感謝したのであった。


スノースキン月餅√宝箱

末芽十三日 夜

―――――――――――

忘憂舎


 緑豆スープ廬山雲霧茶西湖酢魚のふたりと月餅を焼き終えたとき、遠くでバター茶スノースキン月餅が見えた。緑豆スープは、月餅を手に、ひょこひょことふたりのところへと移動する。


緑豆スープ:こんなとこにいたんだね!えへへ、月餅が焼けたよ~♪一緒に味見してみよっ!


 緑豆スープスノースキン月餅の手を取った。そうしてふたりは先に歩き出す。いつもならこの後をついていくバター茶だったが、彼はその場に残り、立ち去るふたりを見送った。

 そうしてふたりは、湖の縁にある涼亭までやってきた。そこには、廬山雲霧茶西湖酢魚が座っていた。テーブルの上に、色んな大きさの月餅が並んでいる。まだ他の者が来ていない。祭りを始まるのはもう少し後になりそうだ。

 緑豆スープは、お皿に盛ってある艶々した緑色が鮮やかな月餅を取り、興奮しながらそれをスノースキン月餅に渡す。


緑豆スープ:ねぇねぇ、この月餅、私が作ったんだよ!スノースキン月餅に食べてほしいな~!


 少し照れた様子でそう告げる緑豆スープにこくんと頷いて、スノースキン月餅は、手渡された月餅にぱくっとかぶりつく。それを見て、西湖酢魚が気まずそうな表情で唸った。


西湖酢魚スノースキン月餅……それは……。


 スノースキン月餅は無表情でそれを飲み込む。そんな彼女に、緑豆スープは期待に溢れたまなざしを向けた。


緑豆スープ:ねぇ、どうかな!お、美味しい……かな?

スノースキン月餅:うぅん……個性的な……味……

緑豆スープ:えへへ……薬草を月餅に入れたら絶対美味しいと思ったんだ~!やっぱり入れてよかったぁ♪

スノースキン月餅:……

緑豆スープ:廬さんと酢っちゃんも、良かったら食べて~♪

廬山雲霧茶:ありがとう……けれどもうお腹がいっぱいで……申し訳ない。

緑豆スープ:そっかぁ……さっき作りながら、味見がてら食べちゃったしね!私もお腹いっぱいだ~!残りはバター茶たちにあげよっと!あ、緑豆っちにはまだ食べさせてなかった!美味しいよー!あ~んっ♪


 緑豆スープが緑豆っちの口に薬草入り月餅を強引に押し付けたそのとき。楽しそうに談笑する声が聞こえてきた。バター茶亀苓膏ワンタンが歩いてくる。その後ろには小籠包カニみそ小籠包の姿もあった。

 瞬く間に涼亭の席は埋まってしまった。そして、ワンタンが皆に酒をついでくれる。そのグラスを手に取り祝杯を挙げた。互いに紹介し合い、楽しそうに笑い合う。


小籠包:見てみい!あっちに孔明灯がたくさんあるぞ!なんと綺麗なのじゃ!


 小籠包が不意に叫んだ。その場にいた者たちは一斉に彼の示した方向を見る。そこに見える景色は思わず息を呑むほどに、美しい光景であった。


緑豆スープ:わぁっ、ホントだーっ!すっごい綺麗ー♪


 緑豆スープの嬉しそうな声に、スノースキン月餅は自然と口元に笑みが浮かぶ。こうして皆と過ごす時間は、彼女にとって楽しい以上に、創作意欲を刺激するのだ。


スノースキン月餅:(今日……また新しい物語が書ける……この光景を――楽しさを物語として綴りたい)


 今宵の月は麗らかで、満開のキンモクセイはまるで玉石のように優しい輝きを放っていた。天に舞う華灯は、果てしない星河を作り出している。この忘憂舎で見た景色を、皆忘れることはないだろう――この偶然の出会いに、彼らは深く感謝したのだった。



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