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冬虫夏草・エピソード

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冬虫夏草のエピソード

自由すぎの青年、周りのことに無関心。他人の憐憫を招きやすいが、彼にとって大事な人は彼の妹しかいない。妹への罪悪感は強い保護欲になった。体は木になるため、感覚が喪失中。痛みでも温度でも、極端な刺激が好き。


Ⅰ.夢

(※違和感のある日本語等を編集者の判断で変更しています)


「ねえ、兄上。あたしたちのこんな日常はずっと続く?」

「もちろん」


目の前で指先の胡蝶を観察している虫茶を見ると、またあの時のバカな自分を罵りたい。


これは僕の夢。

――夢の中でだけ、虫茶はこのように笑う。

全ては夢だが、また我慢できず、目の前へ手を伸ばした。


目が覚めた時に、目の前の全ては消えるものだから。



強い痛みのせいで夢が破られた。虫茶が目から赤い涙を流している、そして僕に何かを叫んでいるようだ。


苦し紛れになんとかして彼女の傍に行きたいが、自分の意志と関わらず、足が動かない。





虫茶!」


急に目を見開いた。


あの悪夢の場面はまだ覚えているが、目の前に黒いローブを着ている奴がいる。


「もう起きたか?では早速始めよう」



痛い、体を刺す木の根茎も、内臓を乱す薬も。


しかし僕がこの痛みを受けなければ、虫茶が僕の代わりになるんだ。


力が足りない、役に立たない兄だが、せめてこの痛みは僕が……




あの時の僕は、こんなことをしてもただの自己満足だということに気づかなかった。




なぜ僕はそこまでバカになった?

なぜあの連中は僕の犠牲のため、虫茶を見逃すと考えた?


一度も虫茶と会ったことがない、約束した自由がいつ実現するかもわからない。


僕は小さな窓から季節の移り変わりを感じることしかできなかった。淡い梅の香りと浅い雪花とともにこの永遠の闇に舞い降り、次の刹那に消えた。


唯一の好事は、本来我慢できないはずの痛みに、ますます耐えられるようになったということだ。


血と骨の蔓が体中に広がる。僕の命を吸っているんだろう。


寒さや暑さを感じるはずの体が、冴えた感度を失いつつあることを感じた。もう麻痺している。


昔の希望、渇き、全て失った。

愚かな自分を嘲りたい……本当に甘すぎだ。


実際、この主張は妄想だとすでに感じていた。


あれは……僕にとって最後の光……


続けなければならない。虫茶を見逃してくれるかもしれない。


あの時にこれは僕を騙す手段だとわかった、でも……


この希望さえ失ったら、僕……僕の我慢は……誰のため?



靴音が伝わってくる。実は耳も鈍くなったが……体中の植物の葉は耳の役に立っているようだ。彼らの音が「聞こえる」、昔聞こえなかった音さえ「聞こえる」。


「この実験体は最も適合性が高い奴でしょう?」

「そうだよ。融合はなかなかうまく行った。これできっと聖主さまからたくさんご褒美がもらえる」

「ご褒美はどうでもいい。聖主さまからもっと実験材料が欲しい。なんと言っても……食霊の捕獲はあまり易しいことではないね」

「ふふ、しょせん化物だ、捕まえるのはそんなにちょろいことではないが当然だ」


しょせん化物だ?


なるほど……貴様たちは僕たちのことをそう思っている?


命を賭けて守る対象は、僕たちのことをそう思っている?


そうだよな……さもないと……荷物のように……こいつらに売られることなんてありえない……

――幾度も貴様たちを救った僕たちを荷物としてこれらの本物の化物に売った。


「まあまあ、これ以上は言いたくない。この実験体の実験は既に終わった。記録石で最後のテストデータを記録したらすぐ処分しよう。彼の力が強すぎて、今はまだ制御できない。でもデータさえあれば、何度も作れる」


実験が……終わった?


「というかこの実験体の強い根性のお陰で、実験が成功した。もう一つの実験体は少しの量しか受けられない。僅かな外部改造しか実施されない。本来は二つ完全体があるはず」


……もう一つ……実験体?


「そうだな、御侍が同じなのに、ろくでなしの奴だ」


……御侍が……同じ?


Ⅱ.目醒め

僕は目を醒ました。あのおかしい、自己満足の夢から醒めた。

あの瞬間、体から無数の藤蔓が出た。そしてこの憎たらしい獄舎の壁を破壊した。あの二人も高く吊り上げられた。

「彼女はどこにいる?」
「おおおお前は何が望みだ?は!早く人を呼べ!!」
「彼女はどこにいる──!?」
「彼女とはだだだ誰ですか???お願い、僕を殺さないで、お願い!僕、……あなたを連れて逃げられますよ!僕……」
「彼女はど!こ!に!い!る──?!」
「やめろ──ああああ──」

もう一人はまだ血に染まらない。

「教えろよ、彼女のいる場所を」

傍らの「養分」を見つめながらガタガタと震える様子は、実験をしに来た時の普段の表情とは全く違っていて、少し笑えてしまうほどだった。

「ぼぼ僕は……」
「もう一人の実験体、一体どこにいる?!」
「わかったわかった、すぐ案内します!」

虫茶!お願い!どうか無事でいてくれ!

本当に卑怯な考え方だ。

本来、食霊同士はお互い助け合うはずだ。だがこの時、僕はずっと祈っていた。実際の状況は、自分の想定と違っていますようにと祈っていた。酷い怪我をしたのは他の食霊でありますようにと祈っていた。


獄舎の扉が開いた。
あのバカな夢が、いよいよ破れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……虫茶ごめんなさい……兄さんのせいだ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

僕は虫茶を抱き寄せる。彼女の体は温もりがない、冬の雪花より寒い、そして枯れ木より軽い。

絶望の涙が虫茶の傷口に滴り落ちた。

虫茶はおしゃれな女の子で、いつも毎日綺麗でいたいと思っていた。

僕は自分の手で虫茶の顔の血を拭き取りたいが、逆にもっと汚くなった。

虫茶は全然怒らなかった、相変わらず僕の手を繋ぐ。

「兄上……だい……大丈夫だよ……」

激しく燃える猛火が多くの人類を喰ったと同時に、自分の体の一部である藤蔓も燃えている。この痛みは最後の人間への思いを押し切った。

貴様たち……貴様たちこそ化物だ……

あの阿鼻叫喚の夜で、僕はあれらの「化物」たちをあの世に送った。

そしてだらけた食霊も一緒に送った。

暗く狭い獄舎には、大小問わず数え切れないほどの檻があった。 ~僕と同じように木の枝や蔓を生やした者もいる。

弱気な"仲間たち"の目を見ていると、逃げられなくてもこの不潔な世界には残りたくないと感じていることがわかった。

あの全てを喰う業火をつけた時……

「──ありがとう」と聞こえた。

獄舎の正門が開いた後、「毛玉」がずっと僕のそばにいた。

一匹の、名前がわからない角が折れた巨獣が、僕と虫茶の代わりに人間の攻撃を受けた。彼の最後な姿が僕に止めない痛みをあげた。

死ぬぞ……
彼の名前さえ知らないのに。


周りの火のですか勢いがさらに猛烈になる。僕は「毛玉」たちに、

「逃げろ。あいつらの目的は僕だ、君たち早く逃げろ」
「早く、あの大きなやつのどころに彼を助けて」
「早く──!」

「毛玉」たちが離れた後、あの不幸な息吹が立ち込めている地獄をじろじろ見る。虫茶への詫びが再び湧き出た。

結局、彼女の望む生活を戻せないのか。

だが、あの化物たちに捕まるのはもっといけない。

ここから消え去るまで捕まりたくない。

虫茶、絶対に自由を掴んでみせるから、兄と一緒に帰らないか?」
「是非とも!」

虫茶の笑顔は、世界で一番美しいものだ。
行き先は冥府ではなく、花が咲いているところがいい。

ごめんなさい、全ては兄のせいだ。

Ⅲ.獣

奴らは追ってこない。僕は自分の中にまだ死にたくない気持ちがあることに驚いた。

このまま死にたくない。
このまま虫茶を死なせたくない。

このまま……あの外道どもを許したくない。

皮肉なことに、昔の僕は、こんなに危険な状況で生きる可能性が、殆どなかった。

奴らの実験によって強い力を得た。

それでも、虫茶と一緒にあの地下宮殿に落ちた時は、もう限界に達していた。

全ての霊力で思い石扉を開け、後の堕神を無視し、未知の地下宮殿に足を踏み入れた。

万死一生。

自分の想像と違う。地下宮殿の奥は……凶悪な堕神がいない、

どころか奥に進んだ瞬間、藤蔓で外の堕神たちが怯えて逃げることを感じた。

そこは何も見えない闇で、僕は自分の枝を引き剥がし、火をつけた。小さな光で、虫茶を平たいところに安置した。

心臓の躍動はまだ速い、あの音はこの静寂に広がる唯一の音。

前へ進む。

火のお陰で、闇の中の朱で彫られた呪文が見えた。

難解な呪文はある影を囲む。影は地下宮殿中心部の棺の隣に跪いている。影の手は暗い鎖に吊るされている。

静かに……まるで死んでるような……

その瞬間、影は僕の存在に気付いた。彼の頭が緩慢的に上げた。

僕を……或いは、僕の手元の火を見ている……

「ああ……ああ……」

なんと嗄れた声だろう。

久しぶりに声を出したという感じだ。彼の目には一つの光もないが、ずっと手元の火を見ている。

動きとともに鎖が音を立て、僕は鎖の下の傷に気付いた。

たぶん足掻きの……痕……

彼は食霊。

改造された僕は彼の霊力を感じた、また……狂って、絶望して、最後静かになったテンションを感じた。

君も……あの「化物」たちにここで……拘禁されたのか……


過去の経験で他人を信じることが難しくなった。

食霊の中にも……奴らと一緒に同類を迫害する者もいる。

「ああ──ああ──」

彼は僕を見て、最初は無気力で、必死に手中の火を、瞬きもせずに見ていた。彼が引っ張った鎖が塵の雲を降らせた。

これが……欲しい……?

手元の枝はもうすぐ限界。

光が消えた、全てが静かな闇に戻った。

「あああああ──────────────────」

急に獣の叫びのような声が出た。藤蔓から感じられたのは、鎖の音と血生臭い匂い。

「あああああああああ──────────────」
「あああああ──────」

まるで耳の鼓膜を劈く大きな声は地下宮殿で反響している。

「光……光……」

「望んでいるのは……光……?」

再び枝を一本引き剥がし、火を付けた。

狂った獣は小さい光に慰められたが、僕はまだあの強い霊力に圧迫されている。

「バァン──」

後の石扉から大きな音が出た。

「バァン──バァン──」

「聖女様がここにいて本当によかった。俺たちだけなら絶対ここに入れる勇気がありません」
「まあいいでしょう早くあの二人を出して。さもないと聖主さまへ返事できません」
「おっしゃる通りでございます。」

結局追って来た……

……近くの堕神が全て僕にやられた、ここに来たのは……あまり難しいことではない……

石扉の機関も破壊された……
ここに来たただ時間の問題……

僕の霊力も限界に近く……

この獣、そうだ!

それなら、一緒にここで死のう!

Ⅳ.刃

「おい!ピータン、離れろ!虫茶から離れろ!君は男!男だ!!!!」
「承知しました」
「…………虫茶!!」
「うるさいよ!兄上のバカ!」

虫茶は木屋を飛び出した。

ピータンは無表情で、彼の目からは呆然とした何かを感じた。

僕は購入書をピータンの手に投げつけた。

「行け。購入書の材料を買って来い。そして虫茶を見守って。彼女に接触する人がいる場合、直接抹殺しろ」
「承知しました。」

ピータンも木屋から出た。

僕は溜息をつく。外の屋根は真っ白。

また雪が降ったのか。


ピータンはあの地下宮殿に拘束されていた獣だ。

僕は彼を解放し、そして彼は僕の最も鋭い刃になった。

一つの許諾からもらった永遠に裏切らない刃。


再び目覚めた時、狭い地下宮殿には不快な匂いが溢れていた。

あの獣みたいな奴は、まだあの小さい光を慎重に守っている。

その姿は、先の「毛玉」と似てる。

「ほう……」

僕の声が彼の注意を招いた。

彼は僕の方を向くが、目が悪い様子だ。

「なぜ?」

なぜ僕を殺さない?

「うん。」

彼の目から茫然しか見えない。

彼は僕の前に跪いた。

「主、死んだ、僕、捨てられ、ここ封印。あなた様、僕、助け、恩返し」

言葉が少し乱れてるけど、気持ちはわかった。

周りにはこの人形みたいな奴の死体しか何もない。この荒唐無稽の場所を見ている僕はゲラゲラ笑い転げた。

もう終わったと思ったが、まさに新たな希望が来た。

さらに、この鋭い刃を磨き上げる。

「君の全てを僕に捧げろ。僕は君の新たな主になる。それなら、僕が死ぬ前に必ず君を殺す、君が死ぬ前に僕を殺すのも良し。そして生死を問わず僕は決して君を捨てない。どうだ?」

彼の目にどんどん光が集まっていき、僕に誓う。

「はい、主様」

Ⅴ.冬虫夏草

冬虫夏草が地下宮殿から脱出した時、元々堕神の瘴気に覆われている空には淡く、暗い闇が滲んでいた。そして彼の背後にはもう一人の食霊がいる。

冬虫夏草の、入り口にいる錦紗の服を着ている妖しい女性に対する態度は、もう初見時のように優しくない。

彼は鋭い刃のように、チキンスープに皮肉を言う。

「これは珍しい。聖女さまはもしかして僕を待っていたのですか?」
「その通りでございます」
「本当に?聖女さまは中の死体になりたい?」
「貴方はそんな酷いことをするつもりはございません。妾は貴方に望んでいるものがあります」

チキンスープは微笑んでいるのに、冬虫夏草は寒気を感じる。

「貴方と妹さんが受けた苦しみは、聖主さまの本意ではございません。聖主さまはただ食霊の霊力を高めることを祈ります」
この連中本当に……
「貴方と妹さんの木霊の力は、身体を蝕んでいるでしょう?」
「……だから?」
「数え切れない人を癒した貴方にとって、自分を癒したまでただ時間の問題。しかし、世に始めて出たばかりの貴方には、必ず人力や金など世俗的なものが必要でしょう。ですから貴方へのお詫びとして、ご希望を満たしたいのです。つまらないものですが、何卒宜しくお願い致します」
「ふふっ聖女さまはまだ僕を騙して、聖教に連れ戻したいのですか?」
「貴方は本当に気の利いた方ですね。今回のことは、本当に聖主さまと関係がありません。先ほどの提案もこちらの好意でございます。貴方との友情を大切にするから受け取ってお願い……あらあら、その顔、拒否したいのですか」

チキンスープが言った通り、あの力は冬虫夏草の体を喰っている。冷たい目で彼女を見るけど、冷静に考えなければならない。

全ての部下が自分に殺されたのに、この女の目から少しも動揺が見られない。
演技が上手いのか?さもないと彼女の心は闇より黒いものだ。

不本意だが……

チキンスープの予想が正しい。冬虫夏草は彼女の提案を拒否する余裕がない。

完全に聖教を敵に回せば、安全な場所を見出したまでどのぐらい時間がかかるがわからない。

これは彼の望みではない。

昔の甘さは愚かなものではない。医書が読める冬虫夏草は多い人より頭がいい。甘い自分を捨てた彼は、チキンスープの笑顔を見ながら、自分に問う。

なぜ村人の欲張りと嫌悪に気付かなかった?

しょせんあの甘さと信頼は自分の目を覆った。

彼が嘲りたい対象は昔の自分か?村人たちか?彼にもわからない。

「なるほど、全ては誤解だ。これからもよろしくお願いします」

その後、三人はチキンスープに用意されたところに住む。兄妹の昔の夢と同じ、きれいな木造一戸建てだ。村からそう遠くはない。静かで、そして寂しくない。

まるで何もなかった頃に戻った。


何て穏やか、何て美しい。
すべてが平和で何者にも壊されないように思える。しかし、現実に蓋をした浅はかな幻想というのは、誰かが突き刺すと、一瞬で消えてしまうほど脆い。

白い雪花がゆらりと舞い降りる。もう真冬の季節だ。大地は既に真っ白になった。

全ては何も起こらなかったみたいだ。冬虫夏草は自分のきれいな肌を見ながら笑う。

そうだ、この雪と綺麗な外見の下で潜んでいるのは、腐敗や穢れなど汚いものばかりだ。


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