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金華ハム・エピソード

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金華ハムのエピソード

好戦的な青年、刺激な生活を求めている。自分の欲求に対してとても忠誠である。自由気まま、他人の目を気にしない。自分なりのこだわりがある。日常生活上の強迫観念があって、物事を行う順序とタイミングに対してとても重視している。


Ⅰ.交渉

 暗闇が月を覆い隠す夜……まさに賊虐を尽くすに相応しい時。この話は嘘ではない。


***


 ――深夜。緩い警備と微弱な灯火の下での守衛など、ただの装飾品でしかない。闇夜の援護を借りて、俺はうまく目的地である邸宅へと忍び込んだ。


 ここには暗殺するためにやって来た。静寂の中、目の前にはそれに相応しい情景が広がっている。



 『暗殺』なんて単語は、俺にはまるで関係ないものだと思っていた。



(無防備な相手に不意打ちをかける行為に、どんな賞賛を与えろと?)


 俺はそんな卑怯者を心の奥底では軽蔑していた。だが、数年を経て、自分の腕がどんどん巧みになっていく。


 ――これは全部『承天会』の功労だ。


 心の中で小さく舌打ちをし、足音を忍ばせて、ゆっくりと廊下の突き当りにあるターゲットが眠る部屋へと近づいた。


 物音一つしない静寂に包まれ、ただ自分の呼吸だけが耳元に響く。


(落ち着け……俺)


 息をついた次の瞬間のことだった。何かが暗がりで動いた様子を目の端に捉えた。


(誰かいるのか?)


 俺はすぐに手を上げて武器のクロスボウを構える。物音がする方向へと体を向けた。


 だが、時は既に遅し――


 気づいたときには、冷たい金属の先端が俺の額に突きつけられていた。


(俺に銃を向けてやがるのは一体誰だ?)


 しかし、それを見抜くことはできない。そいつと目が合った瞬間に、矢の先端に閃光が突き抜けた。


 そいつが前に伸ばした腕を目に捉える。


(あの腕を掴んで、反対側からあいつの関節に一撃を与えれば、ヤツを脱臼させることができるのではないか?)


 だがあいつはそんな俺の考えを読み切ったかのように、俺の拳を空振りさせた。あまつさえヤツは俺の腕を捕まえて、後ろにねじられてしまう。


 カタッと音がして、体を回転させられた。その瞬間、腕が痺れていた俺は、武器のクロスボウを地面に落としてしまう。


(……まずい!)


 それを拾おうと手を伸ばしたとき、ヤツは手にした銃を俺の後頭部に突きつけた。


 それでわかった。これは人間じゃない。それを上回る力の持ち主だ。こいつは食霊で、相当な腕前を持っている!


(こんな強い相手に会うのは、久しぶりだ!)


 俺はその事実に興奮して血が騒ぐ。背中も久々に熱くなってきた。


(俺は、こいつに勝てるのか……? いや、今はそんなこと、どうでもいい!)


 こいつには顔を見られたんだ。生かしてはおけない!


 ――とりあえず、ぶん殴る!!


***


 暫しの時間が経って。


 あいつは少しだけ息を切らし、さっき俺に一発殴られたせいで顔立ちが変わっていた。その面は少々滑稽だが、ボロボロになった俺よりはずっとマシだろう。


 俺は全身傷だらけで、どれほどあがこうと無駄だった。


(こいつには……勝てない)


もしあいつにとどめを刺されたら、俺はきっと死ぬだろう――


金華ハム

 ヤツの胸が微かに起伏する。


「あ……?」

 全身の血管がしきりに動き、喉には生臭い味が沁みる。俺は力を振り絞って答えた。


(あいつはどうやって俺の技を見破った?)


 もう一度さっきのことを思い返すも、その答えを俺は見つけられなかった。


「お前は、金華ハムだろう?」

 そう言われて俺は、ようやく我に返った。


「……俺のことを知ってるのか?」

「以前調べた。お前の御侍のことも一緒に」

「なんでそんなこと調べた?」

「うちの者が今『武館』にいる」

「……」


 彼が口にした場所は、御侍の家族がいる場所であった。

 承天会は、彼らの安全を保証する取引材料として、御侍を――或いは俺のことを、そこに閉じ込めていた。


「それで?」


こいつは妙なヤツだ。俺と御侍はその辺のどこにでもいる、ちっぽけな駒だ。そう……小物に過ぎなかった。


 そんな俺たちのことを詳しく調べて、武館まで行って、一体何の得があるだろうか?


「二つの件について、交渉させてほしい」

 慎重な声で、男は言った。


「まず一つ目。この後俺たちは偽の死体と、この邸宅の主人が死亡したニュースを用意する。お前は今からここから離れ、任務は成功したと承天会に報告する」

 事務的に感情の乗らぬ声で男は続ける。

「二つ目今後何かおかしなことがあったときは、俺たちが承天会の手から武館の者を守ると約束しよう。その代わりお前は、俺たちを助けてくれないか?」

「……俺は、何をしたらいい?」


「承天会を潰せ」

Ⅱ.顛末

 茶館に入ると、男と女がふたり、舞台上で評弾を繰り広げていた。

 これはこの地方独特の講談で、正直俺は苦手だった。この独特な『唱腔』と呼ばれる節回しは理解できないし、茶も好んでまで飲みたいとは思わない。


 そんな中、俺はひとり黙々と椅子に座って新聞を読んでいると、今日の新聞の一面トップが目に留まった。


 ――『承天会、没落』。


 見出しには、そう書かれていた。

 これは、現在の最新情報だ。


 内容に一通り目を通してから、俺は新聞をテーブルの上に投げ捨てた。


 帝京に住む百姓は解放された。彼らはもう二度と、貴族名門の奴らから迫害されるようなことがなくなったらしい。


『砕霄(さいしょう)』と呼ばれる組織が決起し、名門だけの天下である現状を憂いて、百姓が安心して暮らせるよう、悪の元凶である『承天会』を討ち取った。


 俺はチラリと視線を右に向ける。

 この記事に出てきた『砕霄』の首領は今、俺の右隣に座っている。


 俺が奴――武昌魚と手を組んで、承天会の内部情報を伝達してから数年が経っていた。


 今頃になって、俺たちはようやく承天会というクソでけぇ組織を倒したのだ……と実感している。


 想定内ではあるが、制裁から逃れた承天会の残党が再起のチャンスを狙っている。先日も、御侍が食霊を召喚していたせいで、脅迫されて奴らに加担したのだ。


 御侍は俺と『砕霄』との関わりについて、一切知らない。あいつはまだ自分の家族の命が承天会の手中にあると思っている。


あいつが承天会の言いなりになることに、俺はとっくにうんざりしていたし、俺ももうあいつらの指図を聞きたくない。そのために俺は武昌魚に聞いた。

 『いつ残党を殲滅するんだ?』

何度となく繰り返した問いに奴は「まだその時期ではない」としか返さなかった。


 ――じゃあ、その『時期』って奴は、一体いつ来るんだ?


 俺が焦り過ぎなのは認める。けれどそれは武昌魚が切り出せばいいだけの問題だ。


(なんで未だにその『時期』は来ないんだよ!?)


「武昌魚」

 俺は低い声で、奴の名を呼んだ。


「もういいだろ?いい加減、承天会の残党どもを叩こう。奴らは新たな後ろ盾を作るために、放浪していた食霊を捕まえて謎の組織に捧げたっていうじゃねぇか」

「それは前に聞いた」

 武昌魚は冷静にそう答えた。その態度に俺はイライラして立ち上がる。


「いつまで奴らを放っておく気だ!?もう新たな情報もないだろうが!承天会の件はもう終わらせるべきだ!!」

「『時期』を待て」


だがやはり武昌魚は首を横に振った。眉を寄せて、まだ戦いの真っ只中にいるかのような、そんなピリピリした空気を辺りに漂わせる。


「むしろ、これからが『始まり』だ」

「あ?何が始まるって?」


 承天会の残党をぶっ潰せば、奴らは完全に帝京から消え失せる。帝京の百姓も真に長い束縛から解き放たれるだろう。


(もしかして『砕霄』と承天会が長い間戦っていた目的は百姓の解放じゃ、ないのか?)


 俺は、目を見開いて武昌魚を見た。

 彼は落ち着いた澄んだ瞳でまっすぐに俺を見据えて、小さく嘆息する。


「その『謎の組織』に接触した残党共から着手しようか。その『謎の組織』の調査もしたいしな」


「……何故だ?」

「承天会は氷山の一角に過ぎないかもしれないからだ」


 抑揚のこもらない声でそう告げ、武昌魚は舞台で演奏している者に視線を向けた。だが、その目は、もっと先を見据えているように映った。


「奴らの背後にいる者たちを調べなければ、残党どもをどれだけ調べてもきりがない」

「氷山の一角……だから、か」


 俺は、力なく椅子にその身を落とした。


 もしやここ数年で俺が見ていたのは、真の敵ではなく、その尻尾にすぎない――水面上に浮かび上がる僅かな残像にすぎなかった。


(真の敵は水中に潜んでいる……)


 武昌魚みたいな変わり者でなけりゃ、誰がそんな奴らに立ち向かうと言うのか……


(それは一体、どんな深淵猛獣なんだ?)


 俺は焦る気持ちを貧乏ゆすりで誤魔化しながら、武昌魚に言った。


「待て。っつーことは、つまり……その謎の組織こそが、承天会の後ろ盾だって?」

「ただの推測だ」

「推測だと?回りくどい言い方するな!承天会の背後にいる組織が何者なのか、お前なら知ることができるだろ!」


 こいつはまだ何かを隠している……そう確信して俺は強いまなざしで武昌魚を睨む。


「牢屋に閉じ込めている名家の野郎どもに尋問すればすぐわかるだろう!」


「彼らは……死んだ」

「は?ふざけるなよ……すげぇ沢山いただろ。あの人数、全員牢屋で死んだのか!?」


「奴等は口封じを始めたようだ」

肯定、ということか。

「……チッ」


「とにかく。謎の組織に接触した残党どもは現在唯一の手掛かりだ。彼らを調べてその先にいる連中を炙り出すつもりだ。もしお前が協力を拒むなら、俺は別の方法を考える。だがどちらにしろ、暫し時間が必要だ」


武昌魚の揺るぎがない言葉が、俺の脳内に強くこだまする。


「俺たちは全力を尽くしてお前と仲間たちの安全を保証する。この件が無事終わったら、今後どうするかは任せよう」


 そこまで一気に話して、武昌魚は口を閉ざした。俺の返事を待っているようだ。


(どうする……?)


 正直、俺は悩んだ。どうするべきか――どうしたらいいのか?


 こいつは本気で承天会の後ろ盾になっている謎の組織に立ち向かおうとしている。その暗黒面に迷わず突き進む男であると、俺はこれまでの付き合いでとうにわかっていた。


 そしてこいつは、俺の志はここにはないと、わかっているのだ。


 だからこんな状況でも、敢えて俺の意見を求めるのだ。


 武昌魚はいい奴だ。僅か数年だがこうして連れ添っていたら十分にわかっている。


(俺は、こいつに手を貸したい……)


 だがこいつと一緒に今回の事件を解決するのはまだしも、その後はどうする……?


 武昌魚の目指す理想は、先の見えない遠い場所にある。俺とはまるでずれている。


 そうなれば、もう答えはひとつだ。


「手貸してやる。けど、これが最後だ」


俺は武昌魚の肩を強く抱き寄せて、その耳元にそう告げた。


Ⅲ.取引

 薄暗い倉庫は、陰気で黴の臭いが漂っていた。風が当たって、換気扇がギシギシと回転している。そんな中、明るい光点が断続的に地面を横切った。


 ここは『承天会の残党』と『謎の組織』が取引場所として約束した廃棄倉庫である。


 今現在、残党は指名手配されている。だから当然、派手な行動をするほど軽率でもないし、勇気もない。奴らの人数は多くない、殆どの者が室外で待機中だろう。倉庫内に残っているのは、俺と御侍の二人だけだ。


 御侍は俺の横でブルブルと震えている。今回の貨物――『俺』が椅子に固定されて、手枷と足枷をつけられて動けないからだ。


 これらは奴らが食霊を束縛する際に用いる特注品であり、普通の枷と比べて、とても堅牢にできている。

 たぶん俺がとても大事な『貨物』だから、些細なミスも犯したくないのだろう。道中、反抗しなくとも、残党たちはまるで安心していない。御侍に俺を見張るよう、命令した。


二重の枷は万全に見えるが、残念なことに、俺は大人しく差し出されるつもりはない。


 ――この『取引』も、計画の一環だ。


 計画と言っても、これもまた奴らを炙り出すための小芝居にすぎない。

 俺は景安商会と手を組み、前回残党連中が差し出す筈だった食霊――牛乳プリンを逃がした。『謎の組織』との取引期限も間近に迫っており、奴らの手元にいる唯一の食霊として、奴らが俺を差し出そうとしていることは、考えなくてもわかる。


 だから餌として、俺が武昌魚たちに時間と場所を説明した。あいつらは近くで待ち伏せして『謎の組織』の出現を待てばいい。


 俺は既に景安商会からもらった装置を奴らの目を盗んで起動した。この装置は霊力で動かし、道案内することができる。もう随分と長い時間が過ぎているので、想定外のことが起こらなければ、武昌魚はもう近くで待機している筈だ。


 ――これからやることは、只待つのみ。




(『待つ』ってーのは、とても退屈だ)


 俺は退屈になって怠そうにあくびをした。すると、御侍が急に声を出す。


「……あ、あの、ごめん……私……」


 御侍は後ろめたそうに俯いた。その様子は『穴を掘って入りたい』とでも言っているように見えた。


「俺に謝ってんのか?ハハ、恐れ入るね」


 何を言い出すのかと思えば、まさか謝るとは思っておらず、思わず笑ってしまった。

 御侍は承天会に屈したのだ。どう引っ張ってもそこから抜け出せない。俺では御侍を説得できなかった。その結果、俺は御侍と共に何年も悪事に手を染める日々を送ることとなった。

 俺はいつでも、御侍と奴らとの枷を断ち切る剣になることができる。けど御侍は枷に囚われ、俺を他人に捧ぐと決めたのだ。


(今更『ごめん』と謝られて許されるとでも思ってるのか?乾いた笑いしか出てこないぜ)


『ごめん……』

 御侍は更に深く頭を下げた。


「もういい、何も言うな。俺の度量は広くねぇし、お前の謝罪なんか受け入れねぇから。お前の話を聞くのも、もう鬱陶しいんだよ」

「……」

 御侍は漸く大人しくなった。


 もっと何か言ってやろうと思ったが、言葉は喉元で止まってしまう。結局そのまま全部飲み込んでしまった。

 奴のように、すべての選択権を他人に委ねるなんて、どうしたって理解できない。だから、どんな言葉も意味をなさない。


 沈黙は長い時間続いた。外から差し込む光の色が、時間の経過で少しずつ黄金色へと変貌していく。御侍はじっとしていられない様子で、あちこち歩き回っている。時々懐中時計を取り出し、チラッと視線を向けて、ため息をついた。


 御侍が俺の目の前をうろうろしだして、俺は苛立ちが募っていく。


「おい、今何時だ?」

「も、もうすぐ六時四十分になるよ……」


 俺が沈黙を破るとは思わなかったのだろう、御侍は少し怪訝そうに俺を見るも、すぐに素直にそう答えた。


 ――六時四十分、か。


 約束の時間は十分前のはずだ。けど、誰も来ていない。


 この後の成り行きに、俺は慎重に注意を払うことにした。


Ⅳ.解錠

「どうしよう……」

 御侍が震えた声で呟いた。


 この、後悔の含まれた言葉を、俺は嫌というほど聞かされてきた。最初は承天会に脅されたとき、次は初めて任務を受けたとき、任務でやらかしてしまったとき……御侍は、いつだってこう言った。


「どうしよう。助けて、金華ハム」――と。


(今、それを口にするのか。こんな状況で、俺に「どうしよう」って縋られてもなぁ)


 俺はいっそその言葉を無視した。

 奴は顔を上げて、チラリと視線を俺の手足についた枷へと向ける。それで改めて理解できたようだ。下唇を噛んで、黙りこんだ。


 だが今回の沈黙は、対して続きはしなかった――室外から、突然騒音が響いたからだ。


「食霊の襲撃だ!周りを警戒しろ!!」

 外で人が叫ぶ声が聞こえる。その声に御侍は悲鳴を上げ、頭を抱えてしゃがみ込んだ。その場で小刻みに震えている。


 だが俺の心中は、喜びで沸いていた。


(『砕霄』が来たようだな?どうやら計画はうまく進んでいるみたいだ)


 暫くして、外の音が静かになった。同時に倉庫の扉は強引に破られる。侵入者は砕霄のマークを付けていた。そして素早く手にした鍵で俺の枷を解く。そして言った。


「急げ!」

 侵入者の両手は冷たかった。冷や汗を掻き、唇も震えている。

(どうも、計画がうまくいっているわけじゃなさそうだな)


「何かあったのか?」

 驚きのあまり気絶してしまった御侍を担ぎながら、並んで走る砕霄の男に訊ねた。


 室内から飛び出して外に出る。そこには、地面いっぱいに横たわる残党の者たちの姿しかなさそうだ。砕霄の男は注意深く奴らを避けて、震えながら説明をし始める。


「この残党たちは全部捨て駒だ!奴らの組織は口封じをしに来たんだ……俺らが駆けつけたときには、外にいた承天会の奴らは既に大半が死んでいた!!」

「何だと?じゃあお前の仲間は?」

「武昌魚は仲間を連れて組織の奴らを追いかけていった」

「どこへ?」

「わからない」

「は??」


(わからないってなんだよ?)


「撤退するのが速くて、ばらばらに逃げられたから、どこまで奴らを追いかけていったかわからないんだ。とにかくお前に武昌魚からの伝言を伝える。『承天会の件は終わりました。道場はもう安全です。御侍を連れて帰ると良い』だとさ」

「……」


俺は一呼吸して、今後のことを考えて軽い眩暈を覚えつつ、低い声で返事をした。


「わかったよ」


Ⅴ.金華ハム

 ――一週間後、帝京。


 あの後、承天会の残党は殲滅された。これで、一件落着……と言っていいだろう。

 その残党の背後にあった謎の組織が、倉庫付近に現れたが、『砕霄』の手から逃れてしまったため、手がかりはまったく残っていなかった。


 ともあれ、今後の展開については、もう金華ハムとは関係がない。

 彼は御侍を道場へ送り、独り立ち去った。


 金華ハムは帝京の外に行ってみたいと願った。次の目的地はまだ決まってなかったが、それでも彼はすぐにこの地から旅立った。


 彼は『戦闘』を欲していた。強者との戦いは、彼にとっての『生きる意味』だった。契約は彼を長く縛っていた。


 金華ハムは、こうした苦難を経験し、紆余曲折を経て、ようやく自分の道を歩み始めた。


 金華ハムは手帳をめくりながら、ブツブツ独り言を呟きながら帝京の城門を出た。


佛跳牆のヤツは逃げ足が速ぇし、武昌魚も忙しいってしょっちゅう言ってやがるし。とにかくこの二人については後回しにするか」


 手にした万年筆はなかなか仕舞えない。金華ハムは己の髪をぐしゃぐしゃと搔き乱す。


「それ以外に戦える奴なんて、誰もいねぇじゃんか!!あーっ!どこに行きゃいいんだよ?どこに行けば、あいつらみたいな実力のある奴と出会える?」


「……じっくり探すしかねーな、チッ」


 彼は手帳とペンをしまって、頭を振った。そして、悲し気に空を見上げる。


「そういう奴が自分から出てきてくれたらいいのになぁ」


 そのとき、謎の熱風が金華ハムの顔を掠めた。

 彼はその風に向かい、必死に目を見開く。赤い光が烈風と共に空から降り立った。そして、一直線にこちらに向かって走ってきた。


――何だ、あれ?


 金華ハムは反射的にクロスボウを掲げて矢を放つ。すると肩に乗ったまんまるの生き物に当たった。驚いた生き物は「チィッ」と鳴き、こちらへ目掛けてよろよろと飛んできて、すぐ傍に落ちた。


 一瞬の静けさの中、焦げたように黒い球形の物体が、体に刺さった一本の矢と共にくるくると足元まで転がってくる。


「何だこれ……」


 金華ハムはその長い毛の生き物を掴み、持ち上げた。その謎の物体を揺さぶると、埃がパラパラと落ちる。暫しくしてようやく彼はそれが鳥の形をしていることを理解した。


 そこで金華ハムは言い方を変える。


「何だこの『変な鳥』は……」


 次の瞬間、球形の物体がぎゃあぎゃあと泣き喚きながらもがき始めた。金華ハムの額を嘴で狂ったように突っつく。


「誰が変な鳥だって?!」


 喋る鳥と視線の先にはその飼い主と思われる男が一人、こちらの様子を伺っている。


 ――ちょっとアイツを、試してやっか。


(骨のある奴なら、いいんだけどな)

 そう思って、金華ハムはニヤリと笑い、戦闘態勢に入るのだった。



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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