メイン・ストーリー・101視線の交流~110耳打ち
101.視線の交流
一夜の牢屋生活をなんとか耐え抜き、あなたは釈放された。そうして再び、仲間の元へと帰っていく。
ミッドガル皇宮外にて――
ミスラ:○○が囚われて一日が過ぎたけど、どうなっている?まさか危険な目に晒されているのでは……?
イキ:もう待てねぇ!正面突破で○○を救い出してやるぞ!
オリビア:落ち着け。ほら、あそこを見てみろ。○○だ。
主人公:うわっ!みんな、待っててくれたの!?
イキ:○○!良かったぜ!もう会えないかと思ったよ!
主人公:私は肇始之神の恵みを得た者だからね。皇宮の牢屋に私を閉じこめておくことはできないよ。それより、ライスは……?
ミスラ:○○、こっち。
ライス:………………
主人公:ライス……!
ライス:お、御侍さ……
ライス:えっ!
ライスが名を呼び終える前に○○は彼女を強く抱きしめた。その力に御侍の心配が感じられ、ライスはこれまで必死に堪えていたものが溢れ出してしまう。
ライス:御侍さま!御侍さまぁ!ライスは、もう御侍さまと一緒にいることができないかもと思いましたっ……!
主人公:そんなこと、ある筈ないだろう……。
ミスラ:うっ、なんだか私も泣きそう……。
イキ:なら、そんなに凝視しなきゃいいんじゃ……?
ミスラ:あなたとは関係ないわ!
オリビア:さて、感動の再会はその辺にしてもらおう……○○、いったい中で何があった?
主人公:あ、ああ……ごめん。えっと、中ではいろんなことがあって……アハハッ!でも楽しかったよ!
***
○○は皇宮で起きたことを手短に説明した。
ミスラ:……そんなことがあったなんて。
イキ:そのローレンスって人、結構頼りになるんじゃん。ラッキーだったな!
主人公:あはは、そうかもね。
オリビア:○○、喜んでる場合ではない。
主人公:え?どうして?
オリビア:冤罪で捕まった件については仕方がないが、皇宮内部と関わってしまうとは……やはりよい兆しではない。
オリビア:そのローレンスという人物は、グルイラオ建国以来、国王陛下の次に権力を有するクレメンスファミリーのメンバーだ。
主人公:クレメンスファミリー?……どこかで聞いたような。
ミスラ:○○、そのファミリーはこの国の影の王だよ。
主人公:は?
オリビア:簡単に言うと、グルイラオの支配権は国王陛下の手にあるものの、実際にこの国の様々な政務はこのファミリーによって管理されているんだ。たとえ王家の料理ギルドであろうと、彼らの管理下に置かれる。
オリビア:……だから、できるだけ彼らとは距離を保って――可能なら、一生関わらない方がいい。
主人公:ちょっと待って!それほどの権力者のメンバーと知り合ったってことは、ここでの太いパイプを得たってことじゃない?
主人公:これから商売とか色々なことで助けてくれるかもしれない……想像するだけで心躍るなぁ~!
オリビア:○○、自分の立場をよく理解した方がいい!
主人公:……え?急に怒鳴ってどうしたの?
オリビア:なんでもない。
ライス:あ、あの……港……使用許可……下りたんですよね?だったら……もう、行きませんか?
ライスの言葉に、気まずいムードを払しょくしようと○○たちは出航することにした――そのとき。
オリビア:……!
???(ローレンス):なんだ?
馬車に乗ろうとしていたローレンスがその声に反応する。ローレンスはオリビアに向かって意味ありげな笑みを浮かべた。それを見て、オリビアは鋭い目つきで彼を睨み返す。
オリビア:すまない、ちょっと用事ができた。先に行っててくれ。
オリビアは、その場の者たちの返事を待たずに、立ち去っていってしまう。残された者たちは茫然とそんな彼女の背中を見送った。
イキ:○○、さっき本気でオリビアは怒ったのかな?あんなオリビア、初めて見たよ。
主人公:影の王と言われるファミリーに軽口聞いたのは、良くなかったかな……。
イキ:ま、いいさ。オリビアも謝ってたし。さっさと出発しよーぜ!
ミスラ:あのさ○○、私の考えすぎかもしれないけれど……オリビア、なにか悩み事がある気がするんだ……。
主人公:うん、そうだね。でも、ここはひとまず出航しちゃおうか。ここで二日間も無駄にしちゃったからさ。船に乗ってからゆっくり話そう。
102.成長
オリビアは苛立った様子で、突然その場を去った。疑問を浮かべつつ、一行は先にレストランに戻ることにしたのだった……
碧空27日
レストラン
ティラミス:○○様、お戻りになられたのですね。
主人公:ティラミス……あのさ、オリビアはいるかな?
ティラミス:オリビア様なら、わたくしに、ここで○○様のお帰りを待つようにと言いつけて、荷造りに戻られました。
ティラミス:……あの、オリビア様はご気分が優れないご様子でした。何かあったのですか?
主人公:そのことなんだけどさ。ティラミス、彼女が私たちに何か隠しごとをしてたりしない?
ティラミス:え……?
主人公:ティラミスはいつも彼女と一緒だから、何か知らないかなって。
ティラミス:すみません、わたくしはなんのことだか……
ミスラ:○○、それに関しては直接本人に聞いたほうがいいよ。
主人公:それはそうだね……あ、そうだ!気になってたことがあったんだ……あのさ、ライスをどうやって助けてくれたの?
ミスラ:ああ、ミッドガルで学院の教員と会ってね。その人がいつも持ってる薬の研究資料を使って、一晩かけて治療薬を作って、ライスを助けたんだよ。
主人公:まさかそれって……あの完璧主義者の教員じゃないよね?ま、誰であれ、ライスは堕神にならずに済んだんだし、感謝しなくちゃね。
ライス:ありがとうございます!
ミスラ:でも薬のおかげだけではないよ。一番はライス自身の精神力のおかげ。堕化薬の効果を自力で抑えるなんて、本当なら考えられないことだからね。だからこれだけは言える、彼女は本当に強い食霊だって。
ティラミス:あと……僅かだけど、ライスから霊力反応があったの。つまり……彼女は抜け殻状態から脱却した。
主人公:そ……そうなの!?
ライス:御侍さま、そうなんです!これでライスも……御侍さまの力になれるんです……堕神退治の役に立てます!
主人公:堕神退治かあ……その件もまた考える必要があるよね。
主人公:いろいろ話したいことは船に乗ってから話そうか。まずは出航の準備をしないとね。
イキ:そっか……だったらぼくたちも荷物の準備をしないとね。船に乗るなら、やっぱり食べ物が必要だよな!うん、食べ物は何より大事だ!
主人公:そうだね。今回の目的地はかなり遠いから、家の備蓄を使うわけにもいかない……いっそ、明日ミッドガル近くまで調達に行こっか。
103.等価交換
一行は各々の準備を終え、これからの旅に必要な物資を集めることにした。しかし、事はあまり順調にはいかないようだ。
碧空28日
ミッドガル周辺
主人公:イキ、どうだった?
イキ:余裕!でも、なにもないぞ?
ライス:御侍さま……ここにも……食材、ありませんです。
主人公:ライス、体の方はどう?
ライス:はい、元気です……それに……もう……ルビーなんて、怖くないです!
主人公:すごいね、いい子いい子~!
ライス:えへへ~!
イキ:なんかさ、ゆっくり育てていけば、ライスはもっと強くなるんじゃないか?
主人公:そうだったらいいな……っていうか、この辺り、結構な数の堕神がいるのに野生の食材がまるでないよね?
ミスラ:ほかの料理御侍に回収されちゃったんじゃない?
イキ:そんな食欲魔人がいたら、ギルドから怒られるだろ?
ミスラ:ギルドってそんなことで怒らないと思うけどなぁ?
商人:おや。そこの若人さん、なにか困ったことでもあったのかい?
主人公:貴方は……?
商人:ほほ、私はこのあたりで商売やっている者さ。何やら揉めてるように見えてな、困ってることでもあったのかと声をかけさせてもらったよ。
主人公:困ってるというか……少し気になっていることはあります。なんでこのあたりには食材が見当たらないのかなって。
商人:ふむ……お前さんたち、もしやこの土地が王家の所有物だと知らないのかね?
主人公:え?
商人:ここの食材は全部、回収されて隠されてしまうんだよ。王家の者が使者を派遣して採集しているんだよ。
商人:もともとこの区域の食材は産出量が豊富じゃないからね。だから私みたいな商人が、食材をミッドガルに売りに行くんだ。
主人公:なるほど……ってことは、馬車に乗っているのは食材?
商人:そうだね。これだけ集めるのはなかなか大変だけどね。
主人公:ほうほう。おじさん、私と取引しませんか?この馬車の食材を全部売ってほしい。
商人:全部……?これほどの食材が必要とは……さてはお前さんたち、料理御侍だね?売ってやってもいいが、ちょっと頼みたいことがある。
商人:アボカドを商売にしてるんだが、採集場所にはいつも堕神がうろうろしていやがる。私みたいな一介の商人じゃ、取りに行けないんだよ。
商人:そこまで行って、アボカドを取ってきてくれないか?
イキ:へへ、お安い御用だぜ!
主人公:お任せあれ!報酬の食材は全部、ヴァルキリ港まで送ってもらえる?用事が済んだら会いにいくから!
商人:わかったよ。それじゃ、よろしく頼むね。
104.新しい敵と古い恨み
商人の依頼を済ませた一行は、再び嫌な相手と遭遇した。
イキ:よっしゃーっ!たくさん戦ったし、結構強くなった気がするぜ!へへへ!
ミスラ:堕神を退治したら、この道も再び通れるようになるわ。そうすれば、商人たちも助かるでしょ。
主人公:あとは今回の件をギルドに報告して……ええと、これまではオリビアの仕事だったけど……
ミスラ:オリビアはまだ来ていないわ。先にミッドガルへ出発したのかしら?
主人公:そうかもなぁ。じゃあ、おじさんのところに行こうか……うん?
○○は顔を顰める。視線の先に見つけてしまったのだ。ライスを傷つけ、己を牢屋に入れた張本人を。
???:まだ牢屋にいると思っていたが、いつのまに釈放された?
主人公:やぁやぁ。ミッドガルでは随分お世話になりまして。いろいろ勉強させてもらいましたよ。
???:それそれは……どういたしまして――うん?そいつは確か……まさか薬の効果を抑えたか?……フフフ、あいつは結局無駄死にになったってことか。
???:お前たちにとっては無価値な存在だ。だが、こちらにとっては非常に必要なもの……おとなしくこちらに渡したらどうだ?
主人公:またウチのライスに手を出すつもりか。今度こそ返り討ちにしてやる!
???:口の利き方が悪いな。ペッパーシャコ、あとは任せた。
主人公:ペッパーシャコ?
ペッパーシャコ:………………
イキ:こいつ、砂漠にいたやつじゃね?!
ミスラ:なぜ、ここに?
主人公:今そのことを言っても仕方ない!とにかく、あいつを倒すんだ!
***
ペッパーシャコ:……ゴホッ!
???:うん?どうやらペッパーシャコじゃ相手にならないようだな。
主人公:相手が誰だろうと、結果は同じだ!
???:フフフ、いつまでそうやって強がっていられるかな?今日はこの辺にしておいてやろう。これで終わりだと思うなよ、まだ手段はいくらでもある。
ペッパーシャコ:………………
主人公:待てっ、また逃げるのか?!
ミスラ:○○、万が一に備えて、ここは一旦引きましょう。海に出るのが先決かと。
イキ:すっげえムカつくけど、ここはぼくもミスラに賛成。
ライス:御侍さま……ここは急いで、用事を……済ませましょう?
主人公:ううぅ……私はさぁ、あいつを逃がしたせいで牢屋に入れられちゃったんだよー?……とはいえ、確かにみんなの言う通りだな。
ミスラ:ライスが欲しい理由は恐らく、私たちが堕化症状の治療に成功したからだと思う。いずれにせよ、堕化薬を抑えただけでも、ライスには研究対象として価値があるんでしょう。
主人公:ということは、これからさらに私たちを追いかけ回してくるってこと?
イキ:ライスは心配すんな。ぼくたちがついてるから、あんな奴なんか全然怖くないさ!
ライス:うん!
105.再び出航へ
ペッパーシャコがなぜこの場に現れたのかは分からないが、面倒事はなんとか解決した。すべての準備が完了し、やっと再出発できる。
安全確保のため、○○たちは再びミッドガルに戻った。そして暴食を退治した件を商人に伝え、ようやく食材を確保した。
イキ:やっと枕を高くして寝られるぜ!
主人公:あとはオリビアを待つだけだね……
オリビア:すまない、遅くなった。
主人公:おお、噂をすれば影……
イキ:オリビア、前話した黒いローブの女がまた喧嘩を売ってきたけど、ぼくたちがボコボコにしてやったぜ!
オリビア:ふむ、よくやった。
ミスラ:ねぇ、○○……
主人公:あ、うん。オリビア、昨日のことは私の考えが甘かったよ、ごめん。
オリビア:……いや、私の方も少し焦ってしまった。けれどおぬしの考えについて、私の考えは今でも変わらない。
ミスラ:オリビア、昨日はどうして急に帰っちゃったの?何か用事でもあった?
オリビア:それについては、いつかちゃんと説明しよう。だが今はその時期じゃない。
主人公:そっか、なら気が向いたらいつか話して。とにかく今日は待ちに待った出発日だ。ここでみんなにちょっと一言……こほん!
主人公:食霊は私たち人間と一体何が違うのか……御侍になって、周りに食霊がたくさんいてくれるようになって、ますますこのことについて考えるようになった。
主人公:でも、今日までライスやみんなと過ごしてきて、人間と食霊は基本的には変わらないなって思うようになった。互いを区別するより、私は食霊のみんなと家族のようになりたい。
主人公:でも、あの黒いローブやサイモンみたいに、そう思わない人もいる。食霊を傷つけようとする理由はわからないけど、一つ確信できた。
主人公:それは……食霊のみんなが、自分たちが守るべき人間によって傷つく世界になるのは絶対に嫌だ。それじゃあ、この堕神だらけの世界じゃ生きていけないだろ?
主人公:良い未来を手に入れるため、一緒に頑張ってほしい!
ライス:おぉーっ!
ライスが感無量といった様子で、拳を強く握って腕を振り上げた。しかし、他の者はみな静かにしている。
主人公:えっ、まさかの無反応?
オリビア:どんな反応を期待していたんだ……拍手でもすればよかったか?
ミスラ:ちょっと引いたな……
イキ:そんなこと今更改まって言わなくてもわかってるよ……誰かと死闘をするわけでもないしさぁ?
主人公:あのね、せっかく燃えあがってるのに、そのリアクションはないよねぇ……
主人公:ま、いいや。早く船を出そう。みんな、とにかく無事に、生きて戻ってこようね。
イキ:○○、不吉なこと言って、フラグ立てるような発言やめてくれ。縁起が悪いぜ。
主人公:え!?フラグ!?なんの話!?
106.海上遭難
一行がソルサヴィス島へと向かう途中で、大きな問題が発生した。
そうして一行は未知なる土地へと新たに旅立った。目指すは――ソルサヴィス。
食霊を守り、魔導学院に関する真相を突き止めるため……そして、桜の島での悲劇を二度と起こさないために、諸悪の根源――サイモンを見つけなければならない。
それはまさしく、船に乗る全員にとっての現実的に受け止めなければならない問題だった……
イキ:なあ○○、この方向で合ってるのか?
主人公:私は船乗りじゃないし……オリビアはわかる?
オリビア:進行方向はともかく、出発時間から推測するに、もうソルサヴィス島が見える範囲に入っているはずだ。やはり方向を間違えたか?
主人公:……ミスラ、私たちって今どこにいるのかな?
ミスラ:ちょっと待ってね、今航海図を見ているところだから……
ライス:おかしいです……桜の島やパラータに……行ったときは……こんな風に迷子に……なりませんでした。
オリビア:前の航海では海岸沿いに進んだが、今回は完全に陸地から遠ざかっている。迷ってしまってもおかしくはない。
イキ:羅針盤とかないのか?
ミスラ:うーん……なぜかはわからないけど、東へ進行すればするほど、羅針盤の動きが悪くなるの。今じゃすっかり使いものにならない状態よ。
主人公:そっか、でも前回みたいに全員が気絶して離れ離れになっていないだけでも、不幸中の幸いかなあ……
――ドカーンッ!
○○が話し終えたその瞬間、雷に似た音が響いた。その場にいた全員に緊張が走る。その後、船の右舷側が急に爆発し、船体を激しく揺らした。
ライス:御侍さま!気をつけて!!
主人公:ライス、こっちにおいで!みんなは無事?
イキ:な、なんだ?堕神か?
オリビア:いや、違う。大砲だ!
ミスラ:○○、あっちよ!
ミスラが指さした方向から、この船よりも何倍も大きな船がこちらへと向かってきているのが見えた。マストに掲げられた黒い髑髏の旗が、全員の視線に飛び込んでくる。
オリビア:まさか海賊か?!
107.海底の待ち伏せ
一般の通行が禁じられている久遠海域には、なんと海賊の姿があった。全面武装の海賊船相手に、一行は大ピンチに。
ラム酒:おい――そこの船、よく聞け!我々はベルーガ海賊団だ!今すぐに投降しろ!船にある宝を全部寄越せば、この船の船長として、命だけは見逃してやろう!
バクテー:皆さん、急にすみませんね。俺は肉骨茶、こっちは我らが船長・ラム酒だ。ちっとワガママな船長だが、言われた通り、積み荷さえ渡せば危害は与えないんで。
主人公:なんだ?ふたりだけの海賊団か?
ライス:御侍さま……あの気配……彼らは、食霊です!
主人公:食霊?食霊も海賊になれるの?
イキ:なんだ。すごい海賊団かと思ったけど、ハッタリかよ?
ラム酒:口を慎みたまえ。さもなきゃ次の一発は君の口に撃ってやるぞ。
バクテー:みなさんご安心を。ウチの船長はこんなこと言ってる割に、存外、心根の優しい女性なんで。
ラム酒:余計なことを言うな、どけ!……うん?
そのとき、肉骨茶に怒鳴ったラム酒が○○たちの背後を見て硬直する。次の瞬間、ライスの悲鳴が響き渡った。慌てて○○が振り返ると、ライスがペッパーシャコに捉えられている。
ペッパーシャコ:動くな!
ライス:は、放して……!助けて、御侍さま!!
イキ:なんであいつがここに?!
オリビア:あの黒ローブ女の仕業に違いない。
主人公:本当にしつこい……あのさ、ちょっと話をしたいんだけど……
ペッパーシャコ:……今すぐ船をグルイラオに向かわせろ。さもなくば、こいつを殺す。
ミスラ:どうしよう?……○○?
バクテー:……仲間割れか?
ラム酒:それはチャンスだ。すぐに舵を……ん?こいつは……!
この隙にラム酒は攻撃を仕掛けようとするが、急に海面に波が押し寄せた。そして、波は怪物へと変貌し、まるで全てのものを食い尽くすかのように荒れ狂う。
ペッパーシャコ:………………!!
主人公:うわっ、なんで急に攻撃を……こっちの状況を汲んでくれよっ! 優しい女性じゃなかったんかーいっ!?
ラム酒:それとこれとは話が別だ……おっと!厄介な海皇族がまたくるぞ!
主人公:海皇族……って、うあああっ!
波の猛撃に誰ひとりまともに対応できない。特別頑丈ではない船は残念なことに容赦なく沈み始める。甲板の上はあっという間に混乱の渦に巻き込まれていく。
船は、○○の想像を超える早さで沈んでいく。まるで巨大な生物が船ごと海へと引きずり込もうとしているかのようだ。全員がまだ逃げ出せていないまま、船ごと水面から姿を消した。
主人公:ぷっはあ!なに?これも堕神の仕業?
ライス:お、御侍さまぁ!
主人公:ライス、大丈夫か?みんなは……うあぁ!?
○○は浮遊感に襲われた。それと同時に船は海底へと沈んでいく。かろうじて見えた光景は、水面が遠ざかっていく様であった。
わずかに吸い込んだ空気も無くなり、意識が途絶えそうになった瞬間、○○は海に差し込む屈折した光の先に黒い影が見えた。その影はゆっくりと自分に近づいてくる……
***
主人公:……ゴホッ!ゲフ、ゲフッ!!!
意識を取り戻した○○はひどく苦しげにしながら、口の中に残る海の辛く渋い味に眉をひそめた。それでも、新鮮な空気に何よりの贅沢感を覚えた。
ライス:御侍さま!御侍さま!
主人公:うん……?ゴホッ!ゲフゲフ……わ、私、海に沈んだんじゃなかったっけ?
バクテー:やっと目覚めたか。お前さんを助けるのは大変だったぞ。
主人公:肉骨茶?貴方が私を……いや、それよりほかのみんなは!?
オリビア:私たちのことより、まずは自分のことを心配してくれ。
主人公:オリビア?それにみんなも……ふう、無事でよかったぁ……
ミスラ:みんなが海に落ちた時、貴方だけがカナヅチみたいに沈んでいったんだけど、肉骨茶のおかげで助かったわ。
主人公:はは……ありがとう。さっきは本当に魚たちの餌になるかと思ったよ。
バクテー:……堕神の餌だけどな。
主人公:さっき言ってた、海皇族のこと?
ラム酒:あんなボロ船でよく海に出られたものだ。この海域がグルイラオの連中に封じられたのも、あの堕神のせいさ。
ラム酒:でもまあ、今日は運が良かった。出たのは『あいつ』じゃなく雑魚だけだ。私達のような船には影響がないが、安全のため、今回は撤退とするか。
主人公:船にある食材がもったいないけど、まあ、全員無事なら何よりだ……あれ、ペッパーシャコは?
108.救援行動
なんとか海の堕神の襲撃から逃れたが、いつの間にか船に乗っていたはずのペッパーシャコがいなくなっていた。
バクテー:なんだ、もうひとり仲間がいるのか?
ラム酒:さっき船が沈んだ時は海面がめちゃくちゃだったんだ、これだけの人数が助かっただけでも幸いだろう。ペッパーシャコは、まあ、自分で泳げるんじゃないか?
バクテー:でも食霊誕生の原型として、もう円熟したペッパーシャコは泳げないんじゃ?
ラム酒:…………
ラム酒:それは困ったな……
ライス:ペッパーシャコ……?け、けがしたかもしれないの……?だ……ダメですっ!御侍さま、ペッパーシャコを……置いてくのは……ダメなのです……!
ラム酒:君たちの話だと、奴は敵だろう?なら助けるなんて考えは、いささか甘くはないか?
主人公:それは……
ライス:違います!ペッパーシャコも……食霊です……何があっても、助けなきゃ……ダメなのです…!
イキ:ライス?急にどうしたんだ?
ライス:ライスもわからない……でも、彼を……皮皮虾を……傷つけさせるわけには……いかないんです……この気持ち、前にも……そうでした……
オリビア:……○○、おぬしが決めるといい。
主人公:……わかった。じゃあ二人とも、力を貸して。ペッパーシャコを助けに行くよ!
バクテー:……先に言っておくけどな。陸地の堕神を退治できるからといって、食霊でさえこの海じゃ、船に頼って移動するんだ。自ずから堕神の縄張りに突っ込んでいくなんてのは、ほぼ死んで当然の行為だ。それに、もしかしたらそいつはもう……
オリビア:それは誰にもわからないことだ。
バクテー:……あくまで俺の推測だって。
ミスラ:でも、あいつを捕らえることができれば、逆に何か情報を引き出せるかもしれない。特に、あの黒いローブのやつら……あいつらはきっと、学院の殺人事件とも何か関係があるはず。
イキ:でもさ、ラム酒は助ける気がないし、ぼくたちは移動するための船がない。どうするんだ?
バクテー:ん?もし船が必要なら、俺たちの船にまだ小さな救命ボートがあるぞ。
主人公:それだ!
ラム酒:ちょっと待て!君たちの船より小さな船なんだぞ。行っても無駄死にするだけだ。命が惜しくないのか?
バクテー:でもま、食霊のために命も投げ打てる人間なんて初めて見たぜ。どこまで出来るのか、かえって興味が湧いてきたな。
主人公:バクテー……
ラム酒:いや、私はまだ認めないぞ!お前だって知っているだろう、この海がどれだけ危険か……!
バクテー:もちろん。船長の同意があるには越したことないが……こいつらはもう行く気だぜ?我らが船長はこんな勇敢な彼らを、よもや危険溢れる海に救命ボートに追いやるなんてことはしないよな?
バクテーは肩を竦めて、船尾を振り返った。すると海面には、荒れ狂う波が見える。今にもこの船を呑み込まんと襲いかかってきていた。
光に照らされた水面下に、青く巨大な影が泳いでいるのをはっきりと目視できた。近くまで迫った瞬間、海水を破って跳ね上がり、キラキラと光る波から真の姿を現した。
小怪二队:…………
イキ:うわっ、この青く光ってるやつ、さっきの堕神か……!?
ラム酒:クソッ!『叶海皇』だ!
109.引き合う
一行がペッパーシャコの救出を決めるや否や、叶海皇が突然現れ、海賊船めがけて襲いかかってきた。
主人公:叶海皇……なんでやつは、私たちの居場所がわかったんだ?
ラム酒:おそらくとっくに私たちを狙っていて、ここまでついてきたんだろう。これじゃ逃げ場がないな。
イキ:こうなったら、あいつと戦うしかないぜ!
ラム酒:そんな簡単に行くか。今のうちに逃げるんだ。肉骨茶、帆をあげろ、船を回す!
ラム酒の声に、帆のあがった船が風で勢いよく進む。その一方で、叶海皇はのんびりと後ろをついてくる。まるでこの『狩りゲーム』を楽しんでいるかのように見えた。
主人公:海獣の名を冠するベルーガ海賊団でさえ、海を縦横無尽に渡れないなんて……まいったなぁ……
バクテー:あぁ、それはなぁ。ラム酒がベルーガ好きだから、その名前をつけたんだ。昔は陸地でベルーガのぬいぐるみを探したこともあったな。
ラム酒:だ、黙れ!
オリビア:そんな可愛い少女のようなところがあるとはな。
ミスラ:見て、あそこ。ペッパーシャコがいる!
主人公:うん?どこだ……えっ?
○○が振り返ると、そこには叶海皇の姿があった。そして魚のような半透明な尾のところに、僅かだがペッパーシャコの姿が見えた。
主人公:ペ……ペッパーシャコが食べられた?!
ライス:だ、だめ!
ミスラ:ちょっと待て。霊体はまだ消えてない、もしかしたら助かるかもしれない!
イキ:助かる?でも、どうやって?
オリビア:どうやるか?正面から戦うしかないだろうな。
ラム酒:考え直すんだ。この船だって絶対に壊れないわけじゃない。叶海皇の子分たちは破壊を得意としている。それでもし船ごと沈んだら、全員おしまいだぞ。
主人公:確かに……みんな、海じゃダメだ!どうにか陸地まで誘わなきゃ……ラム酒、この辺に島とかない?船をそっちへ移動させる!
ラム酒:西の方角によく休憩に使う島があるな。だが、そこまで行くには向かい風になる。船を回せば速度が落ち、雑魚にも追いつかれて、結果的に船は壊されてしまうだろう。
主人公:いつもならそうなるかもしれないけど、でも、今は私たちがついているよ。
ラム酒:私はまだ協力するつもりはない。危険すぎるし、なんのメリットがあるというんだ?
オリビア:そんなこと言わずともわかるだろう。もし叶海皇を倒せば、ほかに競争できる勢力もない今、おぬしたちの海賊団はこの海を制した真の覇者になるのではないか?
ラム酒:ぐっ……!
主人公:いいね、一石二鳥。ラム船長、ちょっと考えてみては?
ラム酒:ラム船……フン、おべっかはいらん。それより、どのみちこの船が、あいつに噛み付かれるのも時間の問題だ。だったら、やってやろうじゃないか。だが、私たちの役目はあくまで君たちを島に案内するだけだ。
ラム酒:肉骨茶、船を拠点まで戻せ!そして君たちは、必ず私の船を守ることを約束しろ!
イキ:おうっ!任せとけ!
110.耳打ち
ベルーガ海賊団は叶海皇との戦いを開始した。目的地の島へと誘うのと同時に、一行は船を破壊されないよう守らなければならない。
イキ:へへ、いくらだってかかってこい!返り討ちにしてやる!
ライス:でも、敵のこうげきは……キリないのです……このままじゃ、ダメ…!
主人公:ラム酒、拠点まであとどれくらい?
ラム酒:少し距離がある。もう少し耐えろ。
主人公:耐えろって……厳しい船長だなぁ。
小怪二队:フフフッ!
○○は振りかえって叶海皇を見た。その速度は明らかにさきほどよりも上がっており、しかもいつでも攻撃できるような態勢を取っている。
主人公:叶海皇(?)はそろそろ我慢の限界っぽいね、何か止める方法はないのか?
ミスラ:○○、ラム酒の船には大砲があるわ。あれを使ったらどう?
オリビア:堕神にそれほどダメージを与えることはできないだろう。だが、行動を若干緩めることは可能なはずだ。やってみるぞ!ラム酒、大砲は?
バクテー:そう来ると思って、先に運んでおいた。けど、弾は一発しか残っていないぞ。
ライス:の、残り一発……?そんな状況でライスたちの船にこうげきしてきたの……?
ラム酒:脅威を示すには一発で十分だろうが。それに、一発だろうと砲弾は砲弾。当たればなんら問題ない!
主人公:その自信はどこから?!
ミスラ:なら、ここは私が行きます!
イキ:ミスラは投石器の操作をしたことがあるし、経験者だから安心だな!
バクテー:よっし、んじゃ砲弾は俺が入れてやろう。狙いは任せたぞ。
肉骨茶は大砲を船尾のところまで運び、慣れた手つきで発泡の準備を整えた。そしてミスラの指示通りに、大砲の方向と角度を調整していく。
イキ:おい、ちまちまやってる暇はないぞ、急げ!
ミスラ:ホントにもう……セットする時間もロクにないし、更に場所は海上とかいう無茶ぶりだし……まぁ、照準をざっくりとでも定められただけマシか――肉骨茶、火を点けて!
――ドカーンッ!
砲弾が激しい音を立て、叶海皇に向かって飛んでいく。叶海皇のすぐ傍に水柱が現れ、それに気を取られたのか、標的は動きを止めた。
イキ:はずれた……
ミスラ:それでも一旦動きを止めてやったでしょ!
小怪二队:――ギャアアアッ!!!!
ライス:御侍さま、なんか、怒らせてしまった……みたいです……
バクテー:こりゃ、本当にヤバいかも。
主人公:この状況で余所ごとみたいに言えちゃうの、羨ましいなぁ。
ラム酒:お前たち、ふざけている場合か?追われているのは私の船だぞ!さっさと口を閉じろ。この先は浅瀬だ、しっかり掴まれ!
激しく揺れて、ラム酒の船は島へと突っ込んだ。船は片側へと傾き、全員がその勢いで浜辺へと放り出される。そして、激怒した叶海皇もまた、同じように島に突っ込んできた。
イキ:すごいな……こいつ、海から出てもピンピンしてるぜ。
主人公:でも、これで陸地に上がればこっちのテリトリーだ!派手にやれる……みんな、行くぞ!
***
小怪二队:――ギャギャアアアッ!!!!
全員の奮闘が実を結び、無事叶海皇を倒した。その巨体がズドンと倒れるや、ライスはすぐさま叶海皇の尻尾側に駆け寄る。その後に○○も続いて歩み寄り、尻尾から姿が覗き見えたペッパーシャコを助け出した。
ライスの呼びかけにペッパーシャコは眉間に皺を寄せ、激しい咳をしばらくしたのち、ゆっくりと目を開けた。
ペッパーシャコ:……うっ……?
ライス:ペッパーシャコが……ペッパーシャコが、目を覚ましましたのです!無事でした、御侍様!
主人公:……ライス。こいつ、ライスを捕まえようとしたんだからね?気を付けてよ?
○○と話していたその時、ペッパーシャコは驚いて、その場でピタリと動きを止めた。
ペッパーシャコ:お前……だったのか……?
ライス:え?
オリビア:目を覚ましたか。おとなしくこちらの言うことを聞け。
ミスラ:ライス!もう捕まらないように、こっちへいらっしゃい。
食霊を呼んで、ペッパーシャコを捕まえようとしたそのとき――ペッパーシャコは即座にライスの手を振りほどき、島の林へと向かって駆け出した。
オリビア:くっ、逃げ足の速い……!
イキ:早く追いかけようぜ!
ラム酒:あー君たち。正義を貫こうとしているのを邪魔したくはないが……うちの船が浅瀬に乗り上げてしまった。ちょっと手伝ってくれないか?
主人公:そうだ。ペッパーシャコに時間を取られている場合じゃない。まだやることがあったな。
○○がそう口にしたところで、他の者たちはペッパーシャコの追跡を止まった。全員で座礁した船へと向かう。その時、林の陰で隠れていたペッパーシャコは、そっとライスの背中を見つめていた。
ペッパーシャコ:……生きてたのか……姉貴……!
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