仙草ゼリー・エピソード
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仙草ゼリーのエピソード
優しそう、人畜無害そうに見える少女。いつもニコニコしている。ゲーマーで、様々なゲームを集めるのが好き。ゲームを作る事も好き。実年齢は不明。
元は山に住んでいる仙人の食霊で、異次元空間を創造する能力を持っている。山を離れた後、この能力を使って様々な異空間ゲームを作り、そのルール決め、ゲームに勝った者には褒美を、ゲームに負けた者には罰を与えた。伝説によると、ゲームで彼女に勝つと、仙人の宝物を手に入れられるそう。
Ⅰ 芥子と須弥
東の果ては海に臨んでおり、多くの山がある。
そのうちの一つは「須弥」と呼ばれている。
伝説によると、須弥山は諸山の王で、山奥には高明な仙人が住んでいるとされている。
仙人が亡くなった後、そこに山を守る食霊を残した。
訪問者は山を守る食霊の試練を乗り越えられれば、仙人が残した贈り物を手に入れられる。
その山を守る食霊こそ、私。
私はこの須弥山を長年守って来た、挑戦者は後を絶たない。
だけど乗り越えられた者は一人もいない。
彼らは全員、自分は聡明だと自画自賛していたが、実際の所話にもならなかった。
例えば目の前にいるこの者。
彼は手の中にある芥子(がいし)をずっと睨んでいたけど、答えを出す事は出来なかった。
私は袖で顔を隠して、見られないように一つあくびをした。
「……愚鈍な私をお許しください」
彼は歯を食いしばりながら抱挙礼をした。
「不可能です。こんなに小さな芥子に――」
彼は小さな芥子をつまんで、腕を伸ばして円を描いた。
「どうしたらこの須弥山全てを収納できるのでしょうか?」
「つまり、負けを認めるの?」
「こんな不可能な事試験を与えられて、どうして負けを認める必要があるのですか?貴方は明らかに私に難癖をつけている!貴方はきっと私が仙人の宝物を奪い取ることを恐れているんだ!」
私は慌てずその芥子を手に取った。
「あなたは万巻の書を読んだと言ってたけど、それは本当なの?」
「勿論だ、私は天下の智謀すべてに精通している」
彼は得意げな顔を見せてきた。
「なら、あなたが読んだ万巻の書とやらは、どこに保存されているの?」
彼は自分の頭を指さした。
「勿論ここだ!」
「おかしい、おかしいな」私は手を叩きながら笑った。
「あなたの頭はヤシの実ぐらいしかないのに、万巻の書が入る訳がないよ?」
「それは……」
「あなたは明らかに私を騙している、きっと私があなたの本を奪い取ることを恐れているんだね」
その人は呆気に取られて、何も言えなくなった。
Ⅱ ゲームと挑戦者
私に問い詰められ、書生は何かを悟ったような顔をした。
しばらくすると、彼は私に向かって手を合わせて一礼をした。
「悟りを開かせてくださり、ありがとうございます。しかし――思考は無形、山は有形です。山と芥子を使ってこの比喩をしたのは確かに巧妙です、だが実際に実行するのは不可能でしょう」
「どうして私が言った事は机上の空論で実行出来ないと思うの?」
「それは。屁理屈をこねるのなら、見せてください。私の目の前でこの山を芥子に入れたら、私は負けを認めましょう。もし出来ないなら、負けを認めて山を下り、これから他の人が山に来て仙道を求める邪魔をしないでください。いかがでしょう?」
「あなたはどうしてこの山は今この時芥子の中にないと思っているの?」
「……どういう事ですか?」
彼が我に返る前に、私は手の中の芥子を握りつぶした。
たちまち、周りの全てが揺れ動き、山や林は全て雲霧に変わった。
私は身体を翻し、空中に半円の窓を描いて、それを押し開け、この芥子空間から出た。
万巻の書を熟読した挑戦者が我に返った時には、彼は自分がまだ麓にいて山に登っていない事に気付いた。
彼が山に入った瞬間から、もうゲームは始まっていた。
これはゲームの最初の関門に過ぎなかった。
世界の真偽さえわからない者が、私に負けを認めさせて山を下りさせるのも、仙人の贈り物を得られる訳がない。
私は一つあくびをした。
近頃は愚鈍な人しかやって来ない、面白い挑戦者に出会えていない。
あれ?ちょっと待って。
歩いていると、周りの環境が少しおかしい事に気付いた。
生い茂った竹林は無限に広がっていて、いつの間にか道を間違えていた。
私よりこの山の全てを知っている者はいない、こんな道は存在しない。
私は素早く周囲を見回した。竹の葉は青々としていて、野花は咲き誇り、虫が囁いていた。全てはいつも通りだった。
しかし、これは決して真実ではない。
花びらを一枚取って嗅いでみるとーーやはり香りはなかった。
この時、前方から竹の葉が飛んできた、その上には文字が書かれていた。
――「ゲーム開始」
私は少し興奮してきた。
Ⅲ 南離と故人
「面白い……いつから他の人が作った芥子空間に連れて行かれたのかな?」
私は顎を触りながら、ブツブツと独り言を呟いた。
芥子空間は私がつけた呼び方だ。
仏典には「芥子の中に須弥山があるように、塵のように微々たる心の中には大千世界が隠されている」という言葉がある。
これらの異空間は私の心のままに自由に配置出来る、だから芥子と呼んだ。
「私と同じ能力を持っている者に、初めて出会ったよ……」
私は左右を見回したけど、周りはひっそりとしたいて、人影は何も見えなかった。
私の経験から、異空間を作るには、現実世界にも存在する媒介が必要。
例えば、私がさっき使った芥子がそう。
その媒介を見つけて破壊出来れば、それによって生まれた異空間は崩壊する。
相手が使った媒介は分からないけど、全ての幻は理にかなっている。
ここから脱出するには、まず彼がどんな世界を作っているのかを見てみよう。
私は慌てることなく前に進んだ。
この密林は迷宮のようになっていた。私は歩き回って、道を暗記して、すぐに計算して正しい道を見つけられた。
前方には、奇妙な障壁が現れたーーそれがこの空間の出口だった。
これだけ?
ちょっとガッカリ。
その出口から立ち去ろうとした瞬間、突然、人影が過って私に襲いかかって来た。
私は素早く反応して、迎え撃った。
その人は私が怖がらないのを見て、この場から走り去ろうとした。私が彼をこのまま見逃すと思う?
芥子を飛ばし、彼をその場に閉じ込めた。
「ゲームをしている時、ズルをしてはいけないよ~罰が当たる」
扇子を持っている彼は、両手を上げてゆっくりと身を翻し、笑顔を見せてきた。
「軽い冗談ですよ。同族のよしみで、許してくださいませんか?」
「うん?」
「私は京醤肉絲、南離より貴方を探しに参りました」
Ⅳ 謀り、謀られる
南離族、久しぶりに聞いた名前だ。
「あなたが今の族長?」
「正真正銘」
京醤肉絲を見定めていると、彼も私を見定めていた。
「先輩があの時南離を離れてから、南離族はずっと彼を探していた。まさか、東極に隠居する事になるとは、しかもこの山林の間で。私は麓で仙人に関する噂話を耳にしたが、どうやら……」
「うん、彼が亡くなってからもう随分経つ」
「ご愁傷さまです」
「フフッ、今の南離族は人間みがあるみたいだね?」
京醤肉絲は少し呆気に取られ、同じように笑った。
「お恥ずかしい。長年商売をして世間に揉まれて来た……今の南離族は、先輩から聞いた戦果の中の南離族とは雲泥の差があるかと」
私は首を横に振った。
「御侍様はその時南離を離れたけれど、私からすると、あなた達は間違っていなかった。生存競争、世界に新たな決まりが出来た以上、この世で最大のゲームを克服していくには、臨機応変に対応しないと……大事なのは生き残る事、そうでしょう?」
「まさにその通り、仙草ゼリーは賢い方のようだ」
「じゃあ、挨拶はこれで終わりにしよう」
私は目を細めてあくびをした。
「今日は何のためにここに来たの?」
京醤肉絲は扇子を揺らしながら言った。
「先輩が去った時、霊器閣なら朱雀霊器をいくつか持って行ったそうだ」
「うん?」
「仙草ゼリーは聞いていないのか?」
「この山には御侍さまが埋めた宝がある事しか知らない。私がここを守っているのは、それを奪われないようにするため。そう言われると……」
「きっとそうだろう、それらは南離族にとってとても重要だ」
「わかった」
私は頷きながら話を続けた。
「決まりは決まりだから。ゲームで私に勝つか、私を倒してこの山から追い出すか。そうすれば、その宝物を持って行っていいよ」
「南離族に便宜を図ってはくれないのか?」
「ダメだよ~」
「これは困ったな……」
京醤肉絲は渋い顔をして、扇子で頭を叩いた。
「考える時間はいくらでもある、また挑戦しに来ると良いよ。そうね……あなたはこの芥子空間の完成度は高いけど、使い方はまだなってない。じゃあ先に失礼するよ」
私は芥子空間の出口に向かって歩いた。
踏み出すと、突然、後ろから京醤肉絲の笑い声が聞こえてきた。
「……しかし……既に私の勝ちかと」
珍しく自分が呆気に取られ、そしてすぐに何かがおかしいと気付いた。
しかし既に遅かった。
出口から出ると、光が消えた。後ろを見ると京醤肉絲を含め、竹林の迷宮も変わる事はなかった。
どういう事?
「貴方は既に山の外に立っている。仙草ゼリー、勝たせて頂きました」
足元を見ると、いつの間にか山の麓の平地を踏みしめていた。
Ⅴ 仙草ゼリー
「ここよ、掘って」
仙草ゼリーは指をさして、楽しそうに話した。
京醤肉糸は目の前にある草が鬱蒼と生えている小高い墓を見て、いつも冷静な彼も、この時は流石に少し躊躇いを覚えていた。
「わざと負けて私をからかっている訳では、ないのだな?」
「もちろんよ」
仙草ゼリーは袖を持って横に立っていた。
「掘って、私も早く御侍さまが残した宝物が見たい」
「わかった」
京醤肉糸は諦めたのか扇子を腰に差し、袖を捲って墓に手を掛けた。
仙草ゼリーはそばに座っているけれど、心はこじ開けられた御侍の墓にはなかった。彼女は先程の状況を分析していた。
京醤肉糸は最初から布石を打っていたのだ。
ここ最近やってきた芥子世界の真偽さえわからない挑戦者たちは、全て京醤肉糸が手配した人たちだった。
彼はその者たちを使って芥子空間の事を調査して把握し、そして仙草ゼリーの注意力を移した。今日の書生には時間稼ぎをしてもらい、ひっそりと薬を使って彼女の嗅覚を麻痺させ、そして彼女が必ず通る帰り道に迷路を仕掛けた。
仮の真なる時は真もまた仮。仙草ゼリーは日々様々な芥子空間に浸っている、少し誘導するだけで、彼女は配置された現実空間を偽の空間だと誤認した。
まさに、猿も木から落ちる……
しかし、彼女は負けを認めた。このゲームにはもう飽きていたから、新しいゲームを遊びたいと思っていた……次のゲームでは、彼女はそう簡単に京醤肉糸を勝たせるつもりはない。
「仙草ゼリー、本当に私をからかっていないのか?」
京醤肉糸は彼女を読んだ。
「どうかした?」
仙草ゼリーが京醤肉糸の方を見ると、墓のあった場所は掘り起こされていて、その穴には何もなかった。京醤肉糸はポツンとその穴の底で、一枚の黄ばんだ髪を持って立っていた。
「おめでとう、宝物を見つけたようだね」
仙草ゼリーは珍しく満面の笑みを浮かべた。
「これがか?」
京醤肉糸は紙を揺らした。
それは一枚契約書だった。乙には仙草ゼリーの名前が書いていた、甲は空欄になっている。
「うん」
仙草ゼリーは頷き、京醤肉糸の隙をついて、彼の手をつかみ、紙に押し付けたーー
「契約完了~」
「これは……」
京醤肉糸はゆっくりとまばたきをした。
「まだわからない?ここには何の霊器もない、私が御侍様が残した宝物よ」
仙草ゼリーは口元を隠して笑った。
「族長、これから宜しくお願いします」
……
仙草ゼリーの御侍の名は羿(げい)、昔の光耀大陸で生まれ、人と霊族の混血で「半霊族」と呼ばれていた。
彼の両親は行方がわからない、幼い頃に捨てられ、人族も霊族も彼を受け入れなかった。
朱雀が司る南離族だけは半霊族に対してとても寛容で、彼を受け入れた。
羿は受け入れてくれた事を感謝し、南離族に対して忠誠を誓った。朱雀が行方不明になっても、彼は南離族から離れなかった。
その後、光耀大陸には無形の妖魔が現れ、霊獣を堕化した。
南離族には金鳥という霊獣がいたが、それは堕化し暴れ狂った。
南離族の土地を焦土にし、作物や草木が日に日に枯れていき、誰も為す術がなかった。
だけど「羿」は立ち上がった。彼は勇猛に戦い、神の弓を手に堕化した金鳥を射殺し、大地を正常に戻した。
しかし、堕化した金鳥は仇を討つため、死ぬ前巨大な火の玉となって堕落し、「羿」の家を襲った。
彼の妻も子どもも大火の中で亡くなった。
彼は南離族に賛美されたが、妻と子どもの死によって彼は自暴自棄になり、性格が豹変した。
彼は復讐のため妖魔を探して決闘しようとしたが、南離族の族長は朱雀がいないため南離はしばし体制を整え休まなければならない事を理由に、彼を止めた。彼に武器を下ろさせ、人間との接し方を学び、早く南離族の平和、繁栄を実現させるよう言った。
しかし彼は心の中の恨みを晴らすことが出来ず、南離族を離れた。
彼は東へ向かった、東の果てには仙草があって、死者を蘇生する事が出来ると聞いたから。
彼は東極へに辿り着き、あちこちで仙草について聞いたが、所謂仙草というのは、暑気あたりを防止し、解熱出来るただの薬草に過ぎなかった。
絶望した彼の心は日々憎しみの炎に焼かれ、一日たりとも安眠出来ないでいた。
このような彼は、その無形の妖魔につけいる隙を与えてしまった。
その妖魔は彼に、もし本当の仙草を探したいなら、まず四十九組の童男童女を東海に送らなければならないと囁いた。
彼は妖魔にそそのかされ、東極で童男童女を探し始めた。
彼は気が狂ったように、ある山を見つけ、攫って来た子どもたちを山頂に閉じ込め、四十九組が揃う日を待った。
山頂では子どもたちが夜泣きし、麓では子どもをなくした人々が、胸が張り裂けそうな程に悲しんでいた。
それでも彼の心は動じなかった。
ある日、彼がまた子どもを攫いに行った時。ある家を通ると、その家には大人はおらず、子どもが一人で仙草ゼリーを食べていた。
その子供はまだ幼く、悪を知らない。部屋に駆け込んできた羿を見て、無邪気に彼にも早く一口食べてと促した。
その子どもの親が仙草ゼリーを食べたら、子どもを攫う悪い人は来ないと言っていたから。
――両親は生活のために外に出て働かなければならない、この甘い仙草ゼリーは彼らが幼子を安心させるために与えた物に過ぎない。
まさかこれが本当に子どもの命を救う事になるとは、彼らは思ってもいなかった。
羿はその話を聞いて呆気に取られた瞬間、その子どもに一口食べさせられた。蜜の味をした仙草ゼリーが口から喉を通って胃の中に流れ込んで行くと、狂っていた羿は突然我に返った。
彼は子どもを押しのけ、狼狽した様子でその場所から離れた。
山頂に戻り、部屋いっぱいの子どもを見て、やっと自分がして来た事を理解した。
大地を炙る金鳥は死んだが、自分の心は憎しみの炎に焦がされ、新たな加害者になりかけていたのだ。
彼ははっと悟った。
人の心は皆それぞれの酷暑に出会う、炎天下によって内心が焦がされた時、誰であろうと、自分の心を保護出来る、落ち着かせる事が出来る何かが必要だ。さもなくば、人の心は新しい煉獄をもたらしてしまう。
冥冥の中、食霊の仙草ゼリーが虚空から召喚された。
仙草ゼリーは優しく微笑み、子どもたちに説明した。
「この数日間、仙人のおじさんはあなたたちとゲームをしていたの。みんな勇敢に振る舞ったから、仙人のおじさんからご褒美があるよ」
怖がっていた子どもたちはホッとした。
彼らは羿が配った各種の霊器を持って、楽しそうに山を下りて家に帰って行った。
羿は体の中の隷属の血脉を捨て、自ら凡人として老いる事を決めた。
それから、子どもを攫う悪人はいなくなり、東極にはやんちゃな仙人がいる仙山が増えた。
噂によると、この仙山の仙人はゲームが好きで、そのゲームに勝ったらご褒美がもらえるそうだ。
晩年の羿は、幻である芥子空間に夢中になる仙草ゼリーを見て、それこそが彼女の心の中で燻ぶる炎だと知った。
自分がいなくなって、もし誰にも注意されなかったら、仙草ゼリーは新たな煉獄になってしまうかもしれない。
そこで、彼は仙草ゼリーに最後のゲームを持ちかけた。
ゲームの目的は、誰かが彼女の芥子空間を突破出来るまで、彼女に幻に溺れる事の害を思い知らせるまで、この須弥山から離れず守る事。
仙草ゼリーは御侍が決めたゲームのルールに従った。彼女は来る敗北を待っていた、それは同時に勝利の始まりでもあった。
最終的に、彼女はその日を迎える事に成功した。
京醤肉糸と共に南離氏に戻り、彼の協力のもと空間遊戯館を開いた。
この近代都市で、彼女は多くの友人と知り合った。そして自分で開発したゲームを使って、この都市の人々の心火を癒している。
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