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スウィートエッグ・ストーリー

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作成者: 時雨
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スウィートエッグ

プロローグ


ロリポップの部屋


 ステンドグラスは朝日を浴びて多彩な光を放っている。耳をすませば、魔法炉の中でシロップがグツグツと煮込まれている音が聞こえて来る。


ロリポップ:よし、もういいかな?どれどれ……

ロリポップ:甘い、大成功!ホワイト、続けて次のキャンディを作るよ!

ホワイト:キュー!キュー!


 ドアベルが鳴り、ドアが誰かによって開かれた。

 冷気を放っているソフトクリームが部屋に入って来る、彼女の襟元には白い霜がうっすらと付いていた。


ロリポップ:あれ?ソフトクリーム姉さんだ!どうしたんですか?

ソフトクリームロリポップちゃん、半月も会ってないから会いたくなってきちゃってね……こんな朝早くからシロップを煮詰めているの?

ロリポップ:あっ!もうそんなに経ったんですか!しまった、あと七日しかない……冒険者壮行会が始まっちゃいます!このままだと間に合いません!

ソフトクリーム:待って!


 ソフトクリームは、袖を捲りシロップを混ぜようとするロリポップを止めた。


ソフトクリーム:毎年この時期になると、君はいつも寝食を忘れて作業に没頭するね……見てられないから、少し休んできなさい!

ロリポップ:うぅ、姉さん、全然疲れてないです!

ロリポップ:五月祭で開かれる壮行会で、極雪原への旅の手助けになるように、冒険者たちに「ハッピーキャンディ」を渡したいんです……えへへ、考えただけで、嬉しくなってきます!

ソフトクリーム:わかったわかった、皆も可愛いロリポップが作ったキャンディが大好きだよ。

ソフトクリーム:今日はね、ロリポップの好きな物を持って来たの……ほら!

ロリポップ:わぁー!タラバガニサラダ!ヤッター!姉さん大好き!

ソフトクリーム:それと、これは姉さんが君のために用意した「ハッピーキャンディ」よ、食べてから作業を続けなさい。


 コンコンッ


ロリポップ:あれ?またお客さん?


 ドアを開けると、困った顔をしているジェニーおばさんが寒空の下立っていた。


ジェニーおばさん:ロリポップ……「ハッピーキャンディ」は余っていないかい?ウォーレンがまた発作を起こしているんだ……

ロリポップ:はい、ありますよ!さっき出来たばかりの物です、持って行ってください!

ジェニーおばさん:ありがとう……

ソフトクリーム:どういう事?ジェニーおばさんの息子のウォーレンって……確か冒険者ギルドのメンバーよね。

ジェニーおばさん:そうよ……極雪原から帰って来てから病を患ってね……ちょうどその日に、家の前を通りかかった黒装束の牧師さんがウォーレンに薬を飲ませてくれたおかげで、一命は取り留めたわ。

ジェニーおばさん:でもあの日から、彼はまるで別人みたいになってしまった、生きる希望を失ったとか言って発狂するのよ……最近はロリポップの「ハッピーキャンディ」のおかげで、どうにか落ち着いている。

ロリポップ:ジェニーおばさん、心配しないでください!ウォーレン兄さんは回復するのに少し時間が掛かるだけ……冒険者たちはみんな強い心を持っているから、きっと良くなりますよ!

ジェニーおばさん:ロリポップ、本当にありがとう……ウォーレンが良くなったら、必ず一緒にお礼しにくるからね。


 ジェニーおばさんを見送った後、冷たい風が部屋に吹き込んだ。


ロリポップ:ヘクチッ!寒い!

ソフトクリーム:早く入りなさい!おかしい……今年の春はなんだかいつもより寒いね。


ストーリー1-2


夕方

街角


 春も終盤なのに、分厚い氷雪はまだ町を覆っている。灰色の空には、陰鬱な空気が漂っている。


ロリポップ:違う、これじゃない!うぅ……これでもない!

ロリポップ:あれ?どうしてないの……


 あたたかそうなマントを羽織っているロリポップは、両手で頬を支えながら道端で項垂れていた。

 低空飛行している大きな白い鳥が、彼女の足元に止まった。


ウォッカ:おチビちゃん、どうして一人でここにいるの?

ロリポップ:あれ、ウォッカ姉さん……それにアンドレ。楽しい感情を集めているんです!でも……一日探しても、全然見つからないんです。

ウォッカ:なるほど……最近物騒みたいだから、もう遅いし家まで送るわ。

ロリポップ:えっ、ありがとうございます!確かにもう真っ暗ですね。


 誰もいない道に、雪が舞い落ちる。ロリポップはマントをギュッと握り締めた。


ロリポップ:もうすぐ五月祭なのに、まだこんなに寒いなんて……もしかして天気のせいで、みんな落ち込んでいるのかな……

ウォッカ:ええ……今年は寒いから、種まきもままならない、家畜の多くも凍死したらしい。それにあの噂のせいで、人々の気持ちは更に塞がっているみたいよ。

ロリポップ:……噂って?

ウォッカ:探索活動で極雪原の禁忌を犯してしまったからこの町は罰を受けているんだと、誰かが言っているの……

ロリポップ:そっ、そんな!探索活動は、何百年にも渡るこの町の伝統ですよ!

ロリポップ:それに……一番特別な「勇気」の感情は、壮行会の時でしか冒険者から集められないんです!


───

⋯⋯

・消極的になっている時、人間の心は惑わされやすい。

・こんな時に、こんな噂が流れるなんて、きっと偶然じゃない……

・もしかしたら噂というのは……誰かが故意に流しているのかもしれない。

───


 沈黙が続く、荒ぶ風の音と雪を踏む音しか聞こえない。ロリポップの家に着くと、入口にぼんやりと誰かが立っているのが見えた。


ウォッカ:誰だ。


 その人影は雪を踏みしめながらゆっくりと近づいてきたため、ウォッカは警戒しながらロリポップを自分の後ろに隠した。


ソフトクリーム:やっと帰って来た。

ソフトクリーム:それに、誰かを連れて帰るなんて……そちらは?

ロリポップ:あっ、ソフトクリーム姉さん!この方はウォッカ姉さんです!少し前にバーで知り合ったんですよ!

ソフトクリームロリポップ、おこちゃまがバーに行ってはいけないよ、また私の言いつけを忘れたのね。

ロリポップ:うぅ……ごめんなさい……でもバーには楽しい感情がいっぱいあるんですよ!

ソフトクリーム:あとね、夜中に知らないひとを連れ帰っちゃダメよ。

ロリポップ:えっ?でもウォッカ姉さんはロリポップの友だちですよ、知らないひとじゃないです……うわぁ、ソフトクリーム姉さん!苦しいです、息が出来ない……

ソフトクリームウォッカ、ね。ごめんなさいね、ロリポップちゃんが迷惑を掛けたみたい。もう遅いし、今日はおもてなし出来ないよ。

ウォッカ:はぁ……ええ、わかった……じゃあおチビちゃん、またね。

ロリポップ:コホッ……ウォッカ姉さん、さようなら!


 部屋に入ると、ロリポップはテーブルの上にある大きなキャンディ缶を見て、顔を顰めた。


ソフトクリーム:あれ?キャンディかなり減ったみたいね。

ロリポップ:最近みんな落ち込んでいるから……「ハッピーキャンディ」を貰いに来る人が多いんです。

ソフトクリーム:でもこれって……壮行会のために用意した物でしょう、大丈夫なの?

ロリポップ:最初は、頑張っていっぱい作れば良いだけだと思っていたの。でも今日一日探し回っても、楽しい気持ちは見つかりませんでした……

ソフトクリーム:落ち込んでいる皆は、「ハッピーキャンディ」が必要……でも全員が落ち込んでいると、感情を収集して「ハッピーキャンディ」を作れない。これって……悪循環に陥っているみたいね。

ロリポップ:うん……キャンディを貰いに来た人たちはみんなウォーレン兄さんみたいに、生きる希望がないって言っているらしいです……

ソフトクリーム:希望?……希望、じゃないかもしれない!彼らが失ったのは、生きるための「勇気」よ!

ロリポップ:「勇気」?!

ソフトクリーム:きっとそうよ!「勇気」があれば、困難や恐怖を克服し、楽しさと希望が生まれる。

ロリポップ:そうですね!姉さん頭良い!大事に取ってある「ブレイブキャンディ」があるはずです……


 ロリポップはつま先立ちで高い棚の上から綺麗な缶を取り出した。


ロリポップ:去年、冒険者たちから集めた「勇気」の感情を全部キャンディにしたんです!あれ?……あと何個しかない、足りないです……

ソフトクリーム:このままじゃ、五月祭も壮行会も出来そうにないね……どこか別の所から「勇気」の感情を集めて来ないと……

ソフトクリーム:そうだ!ロリポップちゃん、食霊から感情を収集してみない?


ストーリー1-4


ロリポップの部屋


 暖炉がパチパチと音を立て、シロップを煮詰める甘い香りが漂う中、ソフトクリームは事情を集まった食霊たちに伝えた。


ソフトクリーム:よし!そういう事だから、どうか積極的に力を貢献して!

ソフトクリームロリポップちゃん、どうすれば良いか皆に教えてあげて。

ロリポップ:はい!とても簡単ですよ!今まで直面した一番の困難とそれを克服した時の感情を思い出してください!そうすれば「勇気」の感情が溢れるので、それを収集します!

ソフトクリーム:最初は誰にする?ロリポップが選ぶといいよ。

ロリポップ:うぅ、そうですね……あれ?B-52兄さんも来てくれたんですね!どうしてそんな遠くに立っているんですか?

B-52カクテル:いえ……

ソフトクリームB-52、そんな隅っこにいて、気付かれるのがイヤなの?……じゃあ、先に集めさせてもらうよ。

ロリポップ:収集出来ました!わぁー!とても強い感情です!あれ、冷たい、あとなんだか機械的な感じが……

ロリポップ:兄さんは何を考えていたんですか?

B-52カクテル:……忘れました。

ロリポップ:うぅ……

ソフトクリーム:言いたくないのならもっとましな言い訳にしなさいよ……もういい、放っておいて続けよう。

シュラスコ:面白そうだな!次は俺にやらせてくれ!

ロリポップ:うーん……シュラスコ兄さんの感情は、砂漠みたいにとても熱いです!

シュラスコ:ハハッ!去年砂漠に閉じ込められた時、七日七晩掛けてようやく脱出出来た事を思い出してみたぜ!

ロリポップ:なっ、七日七晩も……スゴいです!

シュラスコ:パインがいてくれたから、退屈しなくて済んだんだ!でも肉はすぐに食べ切ったから、ついついパインを見てしまって……

ソフトクリーム:そう……じゃあ君にとっての最大の困難は、結局砂漠に閉じ込められた事?それとも肉がなくなった事?

コーンブレッド:ハッ、どっちもだろ?

シュラスココーンブレッド、俺のことよくわかってるな!流石親友だぜ!

コーンブレッド:まったく……どいて、ロリポップ、ミーにもやらせてくれ!

ロリポップ:そうですね、コーンブレッド姉さんの感情は……収集出来ました!銃火の匂いがしますね。

コーンブレッド:……パラータにいた頃、数十人の敵に襲われ、その中には堕神もいたんだ。

シュラスコ:おー!つまり何十人を一人で倒したって事か!?かっけー!

コーンブレッド:いや、一人逃がした……他は全員雑魚だったけど、堕神だけ手強かった。黒くて、なんか神経質そうで……ずっと「オマエの独りよがりの勇気がキライだ」とかブツブツ言ってた。

コーンブレッド:話を戻すけど、戦争なんてやっぱりない方が良い、本当につまらない。

ロリポップ:戦争、ですか……ジョンおじさんが言っていました、数百年前にこの町の周りでも戦争が起きていたと。

ロリポップ:その時、黒い硝煙は太陽を遮り、一か月も闇夜が続いたそうです……恐ろしすぎます!

ソフトクリーム:ええ、あの頃は今よりも酷い有様だったよ……

ロリポップ:はい!だから、今ロリポップは元気を出さなければいけません!今起きている困難はどうってことないんです、きっとロリポップはみんなを助けられます!

コーンブレッド:ハハッ、本当にカワイイな!おチビ、大好きだよ!

ロリポップ:えっ?!……わーっ!

ソフトクリームコーンブレッド、放せ!ロリポップが怖がっているだろう!

コーンブレッド:うわっ!わかったわかった、いった!ふぅ……ソフトクリームもこんな乱暴だったとは……

ソフトクリーム:コホンッ!時間が勿体ない、次!


 ……

 食霊たちが帰って行く頃、空はもうすっかり暗くなっていた。ロリポップは収集した感情を慎重に魔法炉に入れ、煮込み始めた。


ロリポップ:完成!

ソフトクリーム:良かった、味見してみて?


 ロリポップはシロップをすくい、口に入れる。しかし、眉間に皺が寄った。


ソフトクリーム:どうしたの?何かおかしい所でもあった?

ロリポップ:違う……何かが、足りない気がします……

ロリポップ:勇気のエネルギーはとても感じます、でも人間の「勇気」とはなんだか違うみたいです。


───

そう⋯⋯私も味見してみる。

・霊力が詰まっている……味的には、違いはない気がする。

・うーん……私には違いはわからない。

・どれも甘い風味がする……美味しいよ。

───


ロリポップ:とりあえずキャンディにしてみます!明日みんなに配って試してみましょう!

ソフトクリーム:わかった、手伝うよ!


ストーリー1-6


ロリポップの部屋


 徹夜してキャンディを作っていたロリポップソフトクリームは、魔法炉の横でぐっすり眠っていた。ドアの外から騒ぎ声が聞こえて来る。


ロリポップ:何の……音……うわあ!ソフトクリーム姉さんどうして床で寝ているんですか!踏んじゃってごめんなさい!

ソフトクリーム:うぅ……大丈夫……ロリポップちゃん、おはよう。


 ドンドンドンッ

 慌ただしいノック音が鳴り響く、それに泣いている女性の声も聞こえる。


ロリポップ:ジェニーおばさん?どっ、どうしたんですか?!

ジェニーおばさん:ウォーレンを助けてください!さっき誰かが来てウォーレンを連れて行ったんだ!皆狂ってる……

ロリポップ:どういう事ですか?!

ジェニーおばさん:冒険者調査会の人たちよ……彼らは……冒険者を全員広場に縛り付けてるんだ!可哀想なウォーレン、どうか助けてやってくれ……

ロリポップ:ひどい!何を考えているの!!!

ソフトクリーム:えっ!ロリポップちゃん待って!

ソフトクリーム:ジェニーおばさん、中で待っていて!安心して、必ずウォーレンを連れ戻すから!


広場


 広場の中央には、数十名の冒険者が杭に縛り付けられている。よく見ると、ウォーレンもいた。シャツ一枚しか身に着けておらず、顔も変に紅潮している。

 野次馬たちは松明を持っている、その赤い目には狂気的な憎悪が浮かんでいた。


群衆A:お前らのせいだ!……お前らが極雪原から帰って来てから、町がおかしくなった!

群衆B:神託が下った!不幸をもたらす者は、罰として浄化されるべきだ!

群衆C:浄化だ!私たちに元の生活を返せ!

ロリポップ:みんな、待って!神託って何?呪いなんてないよ!!!


 ロリポップの叫びは人混みにかき消された。そして、誰かが松明をウォーレンに向かって投げつけた。

 灰色の人影が素早く過り、翼を広げウォーレンの前に立った。


群衆A:……食霊如きが出しゃばるな、どけ!

群衆B:そうだ、早くどけ!


 翼を戻したB-52カクテルは、叫んでいる人々を睨み、黙らせた。

 鳥の鳴き声がする、白い鷹が羽ばたきながらやって来た。


ウォッカ:ここからどかなければならないのは、あんたたちの方よ!

ソフトクリーム:彼女の言う通り、やり過ぎよ!


 数名の食霊が冒険者たちの前に立ち、威嚇する。人々は思わず数歩後ずさった。


ロリポップ:あっ!B-52兄さん、ソフトクリーム姉さんにウォッカ姉さんも!良かった、みんな来てくれたんですね!

ロリポップ:うぅ……あれ、おかしい……くさい、変な匂いがする!


 ロリポップは匂いを辿り、人混みの隙間を縫ってある黒装束の牧師を見つけた。その者は人々の耳に何かを吹き込んでいるようだ。


ロリポップ:匂いはあのひとから来てる!


───

どうすれば⋯⋯

・怪しい、付いて行こう!

ソフトクリーム姉さんに合図を送って、助けを求めよう。

・まずは観察してみよう。

───


 牧師が人混みから抜け出そうとしているが、まだ広場の中央で食霊たちと人間がにらみ合っていた。ロリポップはなりふり構わず、その牧師に付いて行く事に決めた。

 道すがら、彼女はポケットの中からキラキラとした粉末を撒き、地面に細く長い印を付けた。


ロリポップソフトクリーム姉さんならきっとこれを辿ってくれるはず……考えている暇はない、まずはあの怪しい奴に追いつかないと!


ストーリー2-2


正午

郊外某所の教会


 黒装束の牧師は勢いよく教会に入った。用心深く周囲を見回した後、正面のテーブルに掛かった赤いビロードの布を外す。

 柱の陰に隠れ、ロリポップは息を潜めている。布が床に落ちると、大きな黒い魔球がテーブルの上に浮かんでいた、そして牧師はそれに向かって恭しくひれ伏したのだ。


ロリポップ:うぅ……変な匂いが、スゴく濃い……あの黒い球からする。

牧師:我が主よ、本日の計画は……食霊たちに邪魔されました。

牧師:しかし貴方様の指示に従い、引き続き噂と「黒霧」を散布して回っております……愚かな者共は、既に信じ込んでいるようです……

牧師:時が来たら……邪魔な冒険者を排除し……宝を……


 牧師の声はどんどん小さくなっていく、魔球の上に黒い模様は牧師の言葉に合わせて変化しているようだ。


ロリポップ:「黒霧」?宝?まさか……最近のおかしな出来事に関係あるの?

ロリポップ:全然聞き取れない、どうしよう……


 その時、魔球の中心が裂け、真っ赤な目が現れた。そして、ジーっとロリポップが隠れている方を見つめている。


ロリポップ:あれ、なんで、うっ、具後家内?!まずい……

牧師:フッ……食霊か!自らやって来るとはな、大人しく我が主の裁きを受けよ!

ロリポップ:放して!うっ……


 ロリポップは、牧師に乱暴に魔球の前まで引っ張られた。魔球の血走った目は、興味深そうに彼女を観察している。


魔球:面白い、パラータ以来、久しぶりの食霊だ……

ロリポップ:くさい……邪悪な感情……

ロリポップ:あなたは……一体何の怪物なの?!

魔球:アハハ……チビ、感情に敏感のようだな……臭い?これは最も甘美な感情だ……


 魔球の中から多くの歪んだ顔が浮かび上がる、人々が泣き叫んで、悲鳴を上げている様子だ。

 黒霧の中に絶望と恐怖が広がっている、近頃町で感じるどんよりとした感情と一致していた。


魔球:どうだ……人間の恐怖は、実に美味だ……

ロリポップ:こんなの、彼らが元から持っている物じゃない!ジェニーおばさんも、ウォーレン兄さんも、冒険者も、町の人たちも……こんなんじゃない!

ロリポップ:こんな感情は……全部あなたのせいで生まれたものだ!

魔球:フフフッ……人間は元から脆い、少しだけ……背中を押してやったまでだ。

魔球:存分に食らえば、力が回復するだろう……そうすれば、ワタシは黒霧と恐怖に満ちた世界を統治出来る、ハハハッ……

魔球:ちょうど良かった。チビ、食霊の恐怖の感情を、味わわせてくれ……

ロリポップ:そんな事……させない!怖くないもん!


 魔球の周囲の霧が蠢く、まるで蛇のように絡み合い、ロリポップに向かって黒い舌を伸ばした。

 黒蛇と化した霧はロリポップの体をよじ登ろうとしたが、何かに阻まれ頭を引っ込めた。彼女のポケットには、昨晩完成させた「ブレイブキャンディ」があったのだ。


魔球:忌々しい……


───

⋯⋯

・怪物は……キャンディが嫌いなの?

・「ブレイブキャンディ」にはみんなの霊力が詰まっている、もしかしたら怪物を倒せるかも!

ソフトクリーム姉さんが言ってた、「ブレイブキャンディ」も武器として使えるかもって……

───


 隙を見て、ロリポップはキャンディを取り出した。指先に霊力を集中させ、キャンディを液体溶かし、魔球に向かって力強く振り撒く。


ロリポップロリポップの特製キャンディを、あなたにも食べさせてあげる!


 悲鳴が上がると、魔球の真っ赤な目は半分溶け、煙が立ち上っていた。


魔球:あああああ!!!よくも!!!殺してやる!!!


 魔球の黒霧は暴れ始め、ロリポップは強い力に押され倒れ込んだ。

 大きな音が響いた後、土埃が立った。想定していた痛みに襲われなかったロリポップは、あたたかな温もりに包まれている事に気付く。


ソフトクリーム:今の堕神は、こんな汚い場所で子どもをイジメるまで落ちぶれているの?!


ストーリー2-4


午後

郊外某所の教会


魔球:また一人……忌々しい食霊め……全員殺してやる!

ソフトクリーム:真っ黒で気持ち悪い!離れて!

魔球:フフフッ……ワタシが怖いのか?恐怖を……隠すな……

ソフトクリーム:この霧……切れないじゃない、鬱陶しい!


 羽音が聞こえた頃、黒霧の大半が退けられていた。


ソフトクリーム:あら、B-52……それにウォッカ、ありがとう!

B-52カクテル:堕神……久しぶりに見ました。

ウォッカ:でも、なんかおかしな形をしているね。

魔球:無礼者め……後悔させてやる!

ウォッカ:ブサイク、私の服が汚れたじゃない、黒は本当にイヤな色。

B-52カクテル:黒霧が……増えてきています。


───

どうする?

・手分けして黒霧を解決してから、力を合わせて魔球に攻撃。

・魔球の注意力をそらしてから、力を合わせて倒す。

・魔球の攻撃を惹きつけ、隙を見つけてから攻撃。

───


 魔球の周囲の黒霧は怪しい赤色を滲ませると、教会は瞬時に暗くなり、地面が激しく揺れ始めた。


魔球:オマエら……このワタシを怒らせた覚悟はもちろん出来ているな?

魔球:手を止めないと……この町を永遠の恐怖に陥れる……オマエたちが大切にしている人間共を滅ぼしてやる。

ロリポップ:「恐怖」を解き放そうとしています!ダメ、この量は町が壊される……!

ウォッカ:クソッ!近づけない……!

B-52カクテル:遠距離攻撃も全て黒霧に防がれています。

ソフトクリーム:あいつを止めないと!きっと何か方法があるはず!

ロリポップ:黒い……パラータ……「ブレイブキャンディ」……まさか!

コーンブレッド:……パラータにいた頃、数十人の敵に襲われ、その中には堕神もいたんだ。


───


コーンブレッド:黒くて、なんか神経質そうで……ずっと「オマエの独りよがりの勇気がキライだ」とかブツブツ言ってた。


───


ロリポップ:わっ、わかりました!怪物が恐れているのはキャンディに含まれている霊力じゃなくて、「勇気」の感情です!

ロリポップ:みんなー!感情を収集した日の事は覚えていますか!もしかしたら効くかもしれません!

ソフトクリーム:わかった……ロリポップの言う通りにしよう!


 三人は目配せをした後、目を閉じた。感情が溢れ出し、ロリポップの元へと集まっていく。

 ロリポップが両手を広げると、光り輝く感情は彼女の指先に集まり、その後猛烈なスピードで射出された。


ロリポップ:怪物、止まれ!これを食らえー!

魔球:あああああ!!!!!熱い!!!クソッ……ヤメろ!!!忌々しい食霊め、絶対に許さない!!!!!


 眩い光の中、魔球は溶けて黒い液体となった。それは床に流れ、瞬時に蒸発した。

 教会の揺れも収まり、床にはガレキが散乱している。


ロリポップ:せっ、成功した?

ソフトクリーム:ヤッター!流石ロリポップ、おかげで皆助かった!

ロリポップ:あっ、うわっ!ソフトクリーム姉さん、痛い……もっと優しくしてください。

ソフトクリーム:ああ、ごめんね……どこかケガしてない?姉さんに見せて……

ロリポップ:大丈夫です!心配しないでください!もうっ!スカートはめくらないで!

B-52カクテル:ゴホン、あの、あちらから……何か音が聞こえます……


 アンドレはウォッカの肩から音がする方へと飛ぶ。すると、柱の後ろに隠れている黒装束の牧師を捕まえた、彼は這いつくばって震えている。


ウォッカ:逃げようとしている人がいるじゃない。

ソフトクリーム:黒装束の、牧師?……ウォーレンの病気は君のせいだな?!


ストーリー2-6


午後

郊外某所の教会


牧師:あああ!!!痛い!!!助けて!!!髪を引っ張らないでくれ……!!!


 牧師の服と頭は既にアンドレに突かれて、ボロボロになっていた。ツルピカになった頭には辛うじて数本の髪が残され、風に吹かれて揺れている。

 興奮したアンドレは羽ばたきながら、残り僅かな髪に狙いを定め、楽しそうにまだ突いている。


ウォッカ:アンドレ、よしなさい。

牧師:た、頼む!私を見逃してくれ!……どうか……お願いします……

牧師:私じゃない!やったのは私じゃないんだ!あの悪魔に強いられただけだ!

ウォッカ:どういう事?早く言いなさい!さもないと……アンドレ。

牧師:あああ!!!言います言います、勘弁してください!!!

牧師:ウォーレン……あの冒険者は極雪原から帰還した日、間違えてあの魔物まで連れ戻してしまったようだ……

牧師:帰還した後、彼は重病を患った。もしかすると悪魔が惑わそうとして……失敗したせいかもしれない……

牧師:あの日、私はたまたま彼の家の前を通りかかり、彼の母親に頼まれたから彼の容態を見たんだ……だがその時、悪魔は私に話掛けて来た。

牧師:極雪原にはドラゴンの秘宝が隠されている、奴と契約し……力を取り戻すのに協力すれば、秘宝をくれると……

ウォッカ:秘宝?そんな物を信じる人がいるなんて、極雪原に隠されている物の恐ろしさは、あんたの想像を遥かに超えるよ……

ウォッカ:あの醜い魔球は……氷山の一角に過ぎない。

B-52カクテル:極雪原……なるほど。

ソフトクリーム:つまり……最近の異常気象も、人々の感情も、全て君たちの仕業ってこと?

牧師:全てあの悪魔の仕業だ!奴は元々極雪原の堕神で……奴の行く先々はどこも氷雪地帯になるらしい……

牧師:悪魔の力の源は人々の「恐怖」……だから私に噂を流させ、更に言葉に「黒霧」の力も宿した。人々にそれを「神託」だと思わせ、「恐怖」を増幅させた……

ロリポップ:だからみんなあなたの噂を信じて、その上冒険者を攻撃し始めたのですね!あの怪物が「勇気」を嫌っているから、それは冒険者からしか生まれないから……

牧師:そうだ……でも、私も被害者だ!全ては悪魔に脅されて……

牧師:これで全部だ、頼むから許してくれ!

ソフトクリーム:言い訳をするな!胸糞悪い……人間なのに、私欲のために堕神と手を組んで同族を傷つけるなんて!逃がす訳ないでしょう!


 怒り心頭に発したソフトクリームは手を上げたが、今まで黙っていたB-52によって止められた。


B-52カクテル:待ってください。


───

⋯⋯

・何で止めるの?

・まさか、こいつを逃がすつもり?

・どいて!こいつを懲らしめてやる!

───


牧師:心優しき食霊様よ!ありがとうございます!私は……


 助かったと思ったのか、牧師は泣きながらB-52を見つめている。だが言葉の途中で、彼は叫び声を上げて倒れてしまった。


B-52カクテル:止めるつもりはありません。ただ……僕たちが手を出すまでもないかと。

ウォッカ:黒い液体に、なった……

B-52カクテル:悪魔と契約した人間は、悪魔になってしまう。同じ結末を迎えても、おかしくありません。


夕方

街角


 一行が教会から出ると、町を覆っていた氷雪が融けている事に気付く。花の香りを携えたあたたかな風も吹いている。


ロリポップ:あったかい!

ソフトクリーム:春が来た……ロリポップちゃん、今度凧あげに行こうよ!

ロリポップ:わあ!いいですね!五月祭が終わったら……

ロリポップ:いけない!五月祭はあさってなのに、キャンディの準備が!

ソフトクリーム:ちょっと?!どうしていつも私を置いて行くの!


 二人は街角に消えて行った、桜の花びらは空を舞っている。


ウォッカ:フフッ、可愛らしい子たちね……素敵……

ウォッカ:ああ、そうだ。そう言えば、五月祭に参加した事はある?

B-52カクテル:はい、去年ロリポップに連れられて一度だけ行った事があります。

ウォッカ:そう……美味しいお酒がたくさんありそうね、機会があったら来年参加してみるね。

B-52カクテル:今年は、行かないんですか?

ウォッカ:極雪原で調べたい事があるから、今年は間に合わないと思う。あの魔球の出現は……偶然じゃないかもしれない。

B-52カクテル:……今からですか?

ウォッカ:そうよ……アンドレ、行くよ!

B-52カクテル:……

ウォッカ:ふふっ、そんな怖い顔しないで!私が間に合わなかったら、私の代わりにお祭りのお酒を堪能しておいて!じゃあね!


ソフトクリーム√宝箱


五月祭当日

バー


 五月の太陽は黄金のように輝いている。至る所で音楽が鳴り響き、楽し気な雰囲気が漂っていた。

 バーでは冒険者たちが集まってお酒を飲んで、歓談している。


ウォーレン:もうすぐ壮行会が始まるのに、ロリポップ来ないな。

ソフトクリーム:あの子は一晩中シロップを煮詰めていたから、きっとまだ起きてないよ。

ウォーレン:本当に大変だ……そうだ!お袋がロリポップのために可愛いドレスを作ったらしい、今日着て貰えないか?ははっ、楽しみだな!

ソフトクリームロリポップちゃんは何でも似合うからね。確かに、ジェニーおばさんの技術も凄い。

ソフトクリーム:でも……ウォーレン、何をそんなに楽しみにしているの?!変な事考えていないよね!

ウォーレン:あはは、ソフトクリームは相変わらずだな……安心しろ、ロリポップに手を出そうとする輩がいたら、真っ先に俺が始末する!

ウォーレン:今回町が助かったのは、全部お前たちのおかげだ……特にロリポップ、小さいのにあんなに勇敢とはな!俺たち冒険者も敵わないよ!

ウォーレン:ロリポップは町の女の子たちのアイドルだよ、ははは!

ソフトクリーム:その通り、ロリポップちゃんの人気どんどん高くなっているね。

ソフトクリーム:もうすぐ昼だね……ちょっと見てくる、本当にまだ寝ているかもしれないから。


 町では既に盛大なパレードが始まっていた。人混みの中、あるピンク色だけが目立っていた。


ソフトクリーム:あれは……ロリポップちゃん?!


 ソフトクリームの声は人々の歓声に呑まれた。人々はロリポップを囲み、彼女をフロート車の上に乗せる。

 ピンク色のドレスを身に纏ったロリポップは、気まずそうにキャンディが入ったカゴを持っていた。彼女頭の上には、何故か角が生えている。


ロリポップ:うぅ……みんな……人がいっぱい……

ウォーレン:あれ、これが新しいドレスか?可愛いな、ははは!

子どもA:ロリポップお姉ちゃん!大好き!

子どもB:お姉ちゃん!こっち見て、あたしの方が好きだもん!

子どもA:ダメ、ぼくの方を見て!!!

子どもB:あたしを見て!もうっ、押さないでよ!!!

ロリポップ:みっ、みんな押さないで……気を付けて……


 この時、ロリポップはふと人混みの中にいるソフトクリームを見つけた、そしてすぐに目で「助けて」の合図を送る。

 だが、ソフトクリームは隣の人から渡されたリボンを手に取って、人々と共に歓声を上げながら、フロート車に向かってそれを投げた。


ソフトクリーム:ヒュー!ロリポップちゃん、私も君のファンよ!大好き!!!


 誰かがオルガンを弾き、誰かがバグパイプを吹き、そして皆で五月の唄を合唱し始めた。

 「五月の太陽は大地を金色にし、葉っぱたちは愉快な曲を奏でる」


ロリポップ:「氷雪はいずれ融けて行き、美しい春が訪れる」

ロリポップ:「希望は花のように咲き誇り、勇者は旅立つ」


ロリポップ√宝箱


五月祭当日

ロリポップの部屋


 五月の太陽は黄金のように輝いている。至る所で音楽が鳴り響き、楽し気な雰囲気が漂っていた。

 ロリポップは最後のキャンディを作るのに手一杯だった、部屋中に漂う甘い香りに誰もが酔いしれるだろう。


ロリポップ:ふぅ……もう一踏ん張りだ!五月祭が始まっちゃう!

ロリポップ:急げ、急げ!居眠りしちゃうなんて、起きられて良かった……

ソフトクリームロリポップちゃーん、見て!


 開けっ放しのドアから入って来たソフトクリームは、可愛らしいピンク色のドレスを持っていた。


ロリポップソフトクリーム姉さん!わあ!カワイイですね!

ソフトクリーム:さっきジェニーおばさんに会ったんだ。これは彼女の手作りで、君へのプレゼントだって!彼女はパレードを見に行ったから、私が届けに来たの。


 ロリポップはドレスを受け取って、自分の身体にあてた後、嬉しそうにくるくると回った。


ソフトクリーム:似合ってるよ!そうね……まるで甘いストロベリーキャンディみたい。

ロリポップ:えへへ、キャンディ……あっ!まだシロップを煮詰めている最中だった!


 ロリポップは慌てて鍋の前に戻った。ホワイトたちは汗を流しながら、不満げな声を上げる。彼女はまた急いでシロップをかき混ぜた。


ロリポップ:危ない!焦がすところだった!ホワイト、ごめんね……少し味見させて……

ロリポップ:あれ……なんかミルクの味がする?

ソフトクリーム:ん?……ロリポップちゃん、頭見て?!

ロリポップ:?!


 鏡を見てみると、ロリポップの頭上に小さな牛の角が生えていたのだ。


ロリポップ:ええ?!どっ、どういう事?!

ソフトクリーム:ぷっ……でも、本当に……可愛い!!!

ロリポップ:あっ!ねっ、姉さん!勝手に触らないでください!

ソフトクリーム:うん……なんだか不思議な手触りね。

ロリポップミルク……思い出した!ミルクだ!今日、トムおじさんの牧場で、たくさんの仔牛が生まれたみたいで、わざわざミルクを何本か届けに来てくれたんだ……

ロリポップ:寝起きでボーっとしていた時にミルクを飲んで……うぅ、きっとその時間違えて鍋にこぼしちゃったんだ……失敗した……

ソフトクリーム:なるほど……ロリポップちゃん、失敗じゃないかもしれないよ!

ソフトクリーム:お母さん牛が、もっとたくさんの仔牛をこのあたたかな世界に誕生させたいんじゃないかな?だからロリポップちゃんのマジカルキャンディを食べたら、角が生える事になった。きっと素敵な願いが込められているんだ。

ロリポップ:そっ、そういう事ですか……?

ソフトクリーム:ええ、可愛い「ミルクキャンディ」は五月祭の特典にしたらどう?魔法は時間が経てば解けるし、ね?

ロリポップ:でっ、でも……恥ずかしいよ、うぅ……

ソフトクリーム:あはは、大丈夫だよ、すっごく可愛いよ!私も試したい。

ロリポップソフトクリーム姉さん……


 シロップを一口食べたソフトクリームにも、ロリポップと同じ角が生えた。二人はお互いの顔を見合わせ、楽しそうに笑った。

 甘い陽ざしが万物を照らしている、ようやくあたたかな春が街にやって来た。


ソフトクリーム:ほら、ドレスを着て、キャンディを持って、一緒にお祭りに行こう!

ロリポップ:うん!



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ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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