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沙海煌音・ストーリー・沙海煌音1~7

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西域の海


地府

書斎


 タタタッ--

 慌ただしい足音が書斎の静けさを打ち破る。八宝飯(はっぽうはん)が書斎に駆けつけた時、泡椒鳳爪(ほうしょうほうそう)はまさに絵を完成させるところだった。


八宝飯:鳳爪ー!見つけた!見つけたよ!

泡椒鳳爪:?

猫耳麺:ああ、八宝飯さまでしたか。まずはお茶でも飲んで、落ち着きましょう。

八宝飯:そんなことしてる場合か!ほら鳳爪、オイラが苦労して手に入れた神薬だ。絶対話せるようになる!早くこれを飲んで!

泡椒鳳爪:…………

八宝飯:ん?どうした、ほら早く!

猫耳麺八宝飯さま……鳳爪さまは今まで何度も薬を試してきました……前に八宝飯さまが差し上げたお宝と丸薬はまだ箱の中にいっぱいあります……

八宝飯:……全部違うから、今度こそ効くはず、褒賞するから!効かなかったら……鳳爪の代わりに筆を一か月洗ってやるよ!

泡椒鳳爪:…………


 八宝飯の熱意に負けた泡椒鳳爪はため息をつき、丸薬を口に運び飲み込んだ。


八宝飯:どう?!どう?!


 八宝飯のキラキラした目に見つめられ、泡椒鳳爪はあたたかな力が優しく喉で溶けるのを感じ、口を開けて話そうとした。


泡椒鳳爪:話せます……ただ……うっ……?!

八宝飯:えっ?鳳爪?なんか……声が女の子みたいだな?

泡椒鳳爪:ゴホッ……これは我の声では……

八宝飯:あれ?そんなはずは……ちゃんと全部飲み込んだ?ちょっと見せて!

泡椒鳳爪:うあっ!こっ、こら……八宝飯……


 泡椒鳳爪が口を八宝飯につままれていると、扉がガバっと開き、緑色の背の高い人物が入ってきた。


リュウセイベーコン:……八宝飯!アンタ、また何をしているんだ?!

猫耳麺:あっ、遡回司さま……

リュウセイベーコン:……アンタたちだけか?変だな、さっき女の子の声が聞こえたような……

泡椒鳳爪:……八宝飯、手を離してください。

リュウセイベーコン:なんでしょう?

リュウセイベーコン:ぷっ……鳳爪、まさかこんな……可愛らしい声だったなんてな?

泡椒鳳爪:…………

八宝飯:あーもうっ!今回はオイラがしくじった!何が神薬だ!オイラを騙しやがって……!

リュウセイベーコン:どうやらまた八宝飯から「掘り出し物」をもらったようだな。いつも失敗ばかりなのに、よく懲りないな。

八宝飯:次だ、次は絶対泡椒鳳爪の声を取り戻す方法を見つけ出すから!

リュウセイベーコン:次じゃなくて、今にしたらどうだ?西域に万物を再生させる力がある宝物が存在すると聞いて、知らせに来たんだ。それがあれば、鳳爪の声も回復するかもしれない。ほら、地図も持ってきた。

八宝飯:えっ?そんなお宝があるのか?それは行ってみないとな!

リュウセイベーコン:珍しくアタシも同じ考えだ。さっき人参にも許可を貰った、早速出かけるか。

八宝飯:そうだな、病気は早く治した方が良い。放置したままじゃ、なんかあったら大変だからな!

猫耳麺:ええ……鳳爪さまの治療は確かに大事です、僕にも手伝わせてください!

八宝飯:いいよ、猫耳ちゃん、一緒に行こうか!

泡椒鳳爪:しかし……西域は遥か遠くにある砂の国と聞いています、我のためにそこまでしなくとも……

八宝飯:オイラたちは友だちだろ?だったらそんなの気にするな!今回作った借りは次返してくれたらいいだろう?

リュウセイベーコン:ハッ、金の亡者もたまには良い事を言うじゃないか。それに書斎に篭もりきりも良くないだろう、散歩がてら外に出てみないか?

猫耳麺:鳳爪さま、書類のことはご心配なく……帰って来ましたら、僕も一緒に処理しますので!

泡椒鳳爪:はい……わかりました、いう通りにします。

リュウセイベーコン:そうこなくっちゃ、それじゃ馬を連れてくる……

八宝飯:えーっ!飛べるんだし馬なんていらないだろ!

泡椒鳳爪:飛べる……?

八宝飯:フフーン、オイラに任せろ!


砂嵐の石窟

不思議な石窟に、危機が溢れている。


 太陽が眩しい雲一つない空で、機関鳥は飛んでいた。派手な赤い人影が、砂漠すら燃やす烈火の如く、機関鳥の頭に立っている。


八宝飯:……辣子鶏(らーずーじー)、そんな高いところに立って、目に砂が入らないのか?こっちはもう目を開けていられないんだけど……

辣子鶏:フンッ、この俺様の機関鳥はやはり天下無敵だな、風や砂の影響も受けない。ただ……

辣子鶏八宝飯!この偉大なる作品を都合のいい交通手段とでも思ってんのか?!勝手知ったる顔で上って来るな!

八宝飯:えー?だって良い酒あげるって言っただろう?あんたもさっき快く引き受けたじゃん!

辣子鶏:あれは鳳爪のためだ、お前のためじゃねぇ。大体、酒だけじゃ足りねぇよ、肉もよこせ!

八宝飯:……わかったよ、チキン野郎!肉は何斤欲しいんだ?ケチ臭いな……

辣子鶏:なんだと?!

八宝飯:ケチ臭いって言ったんだ!ああもうつべこべ言ってないで、そのまま鳥の頭の上でカッコつけとけよ!


 数時間後--

 地図が示す場所にたどり着いた一行は、機関鳥と別れ地面に戻った。

 大風が吹き、一行は宝探しどころか、目も開けられない状態だ。近くの石窟にしばらく避難することにした。


八宝飯:ゲホゲホッ!急に風が吹いてきたな、口の中砂だらけだよ……

リュウセイベーコン:この風はすぐには止みそうにない、ひとまずここで休むか。

八宝飯:うん……そうだ、お宝までどのくらいあるか見てみよう……えっ?!オイラの羅盤壊れちまったのか?!

猫耳麺:先程飛んできた石にぶつかったのでは?

八宝飯:ずっと懐に入れてたし、さっきまでは大丈夫だったよ……まさか……ここになんか不浄なものが出るとか……


 それを聞いて、リュウセイベーコンは一人でに立ち上がり、周りを観察してから提灯に火を点け、辺りを照らした。


リュウセイベーコン:壁に何かある……


 光に照らされたボロボロの石壁には、どこまでも続く色とりどりの壁画が描かれていた。

 翼を広げる鳳凰、琵琶を手に持つ飛天の神女、その全てが美しく、活き活きとしていて、今にも壁から飛び出しそうだ。


泡椒鳳爪:まさか……この石窟に、このような美しい壁画があるとは……

八宝飯:ある城の話が書かれているね……繁盛したそこは、最後は砂だらけになった……途中は霞んでいて、何があったかわからないな……

猫耳麺:--蕎麦!走っちゃダメ!壁にある魚は食べられないよ!

八宝飯:うわっ、猫!舐めるな!壁に変な毒がついてたらどうするんだよ?!

蕎麦:にゃあー

リュウセイベーコン:これも何かの縁だろう、奥に行ってみないか?まあ、ここも一応地図が示したお宝の範囲に入っているから、突破口になるかもしれないだろう?

八宝飯:そうだな。このまま突っ立ってたら、壁画が猫に食べられてしまう!


 一行は壁伝いで奥まで進み、広々とした空間にたどり着いた時、突然七色の光が現れ、赤い幕が頂上から一気に降り、何もないところに舞台が出現した。


八宝飯:なんでこんなところに舞台が?


 すると、厳かな音楽が流れ、石窟は灯で照らされた。華麗な服装と装飾を身にまとった舞姫たちはまるで仙人のように、軽い足さばきで靄のかかった壁から現れた。

 壁画は一瞬で息を吹き返したかのように動き出し、描かれている器具や動物も空に浮かび、真実と幻が交わり、夢のような光景が広がる。


泡椒鳳爪:こっ、これは……

八宝飯:お宝が……たくさん……えへへっ……

猫耳麺:うぅ……頭がクラクラします……蕎麦、もう動かないで……


 鮮やかすぎる色彩に、泡椒鳳爪は眩暈がした、正気を保とうとしても瞼が閉じていく。まるで、何かが彼を深淵に引きずりこもうとしているかのよう……

 どれくらい経ったのだろう、よく知っている声によって彼は意識を徐々に取り戻した……


???:鳳爪……鳳爪……起きて……


 泡椒鳳爪はハッと目を開ける。目の前にあった、先程の美しい光景は消え、薄暗い石壁だけが残っている。


泡椒鳳爪:どっ、どういうことですか?先程のは……

リュウセイベーコン:やっと目覚めたか……ここはおかしい。我々は今幻境に入ったみたいだ、多分誰かが壁画に術式を施したのだろう……

リュウセイベーコン:アタシは早速幻境の中心を探してくる、アンタはおバカさん二人を起こしてくれ。


 リュウセイベーコンの指差す方を見ると、八宝飯猫耳麺(ねこみみめん)が隅で寄り添っていた。目を閉じたままたまに笑い声を出している、どうやらまだあの幻に浸っているようだ。


泡椒鳳爪八宝飯、猫耳ちゃん、起きてください……

猫耳麺:ううっ……頭が……

八宝飯:誰だ?オイラを呼んでるのは……天女様か……

泡椒鳳爪:てっ、天女様なんていません……我です、早く目を覚ましてください!

八宝飯:……鳳爪か……その声……本当に……独特すぎるから……

泡椒鳳爪:…………はぁ。

リュウセイベーコン:法陣の中心を見つけた!三人とも流れ弾に気をつけて!


 バンッ--

 言葉が終わると、リュウセイベーコンは力いっぱい隣の石壁を叩いた。壁はすぐに震え出し、先程までぼんやりしていた八宝飯が一気に目覚めた。

 一撃で壁は壊れず、リュウセイベーコンはもう一撃を入れようとしたところ、遠くから澄んだ女性の声が聞こえて来た。


羅布麻茶:やめなさい!石窟が吹っ飛ばされるじゃない!


偶然の出会い

お宝はすぐそこだ。


羅布麻茶:やめなさい!石窟が吹っ飛ばされるじゃない!


 軽やかな身なりの女性が急いで走ってきた。彼女は華麗な服装や艶やかな帯を身に纏っており、まるで壁画から出てきた神女そのものだった。


リュウセイベーコン:チッ、もう間に合わない--


 石壁の灰が地面に落ち、そこに嵌められた隠し扉が開く。密集した黒い穴から矢が現れ、冷たい無数の矢は今にも飛んできそうだ。


リュウセイベーコン:機関か?!

八宝飯:逃げろおおおー!!!

猫耳麺:……八宝飯さま、あちらではありません!僕に掴まってください!

羅布麻茶:そなたたち……そこをどいて!


 女性は高いところから機関に一番近く避けられない者にめがけ、素早く跳び下り、彼の腰に手を回し、その場から離れた。


泡椒鳳爪:……!


 泡椒鳳爪はふと足が地面から離れたのを感じた。彼を抱える女性はとても力強く、何回か矢をかわした後、すっと地面に降りた。

 予想していた矢の雨は沈黙し、石壁の機関は突然止まり、わずかな矢しか放てなかった。


羅布麻茶:はぁ……よかった、どうやら彼らが機関を止めてくれたみたい。

泡椒鳳爪:……たっ、助けていただき、感謝します……その……まずは下ろしてはくれないでしょうか……

羅布麻茶:そなた……?

泡椒鳳爪:なんでしょう?

羅布麻茶:なんでもない……礼はいらないけど、そなたのようなか弱い女はこのような場所に来るべきではない。そんな細身じゃ、風が吹いただけでも倒れそうだわ。

泡椒鳳爪:……我は……

羅布麻茶:でも、女だから責任を問わない訳にはいかないわ……

泡椒鳳爪:うっ!?


 女性は凛とした表情に変わり、纏わりついていた帯は強固な縄に変わり、一瞬にして四人を縛り上げた。


リュウセイベーコン:ハッ、何の真似だ?

八宝飯:ちょっ……!さっきは助けてくれたのに、なんで急に縛ってんだよ!

羅布麻茶:フンッ、外から来た盗人は石窟から追放するのが掟よ!

八宝飯:はあ?!オイラたち別に盗人じゃない!ちょっと離せ、ちゃんと話し合おうよ。

???:--羅布麻茶姉さん!


 女性が返事する前に、同じく西域の服を着た少年少女が駆け付けた。その口調からして、二人とも女性の知り合いらしい。


???:羅布麻茶姉さん、他の機関はお兄ちゃんに言われた通り調べたけど、どこも破壊されてなかったよ……

???:羅布麻茶姉さん、大丈夫だった?そいつらは……

羅布麻茶:あたしは無事よ、こいつらは……自分で白状してもらおうか。一体何者で、ここへ何をしに来たのか。もし嘘でもつこうものなら……

八宝飯:ちょっと、痛い痛い……だから盗みに来たんじゃないんだって!友だちの病気を治しに来たんだよ!

羅布麻茶:病気を治すのに、医者のところに行かず、こんな砂漠に来たというのか?

八宝飯:そりゃあ、普通の病気じゃないからな!普通の薬じゃ治らないから、この砂漠に隠されたお宝を……

羅布麻茶:お宝?それでも盗人じゃないと言い張るのか?!

八宝飯:うわあああ!なっ、なんでオイラの縄ばっか絞めるんだよ!

泡椒鳳爪:お嬢さん!誠に申し訳ございません。我々は砂漠に来てそうそう砂嵐に遭ったため、先ほどはそれを凌ぐためにここへ入ってきました、決して盗みをしに来た訳ではありません。

リュウセイベーコン:今更嘘をつく必要もないしな、ほら、アタシの懐に地図もある。


 それを聞いた女性は半信半疑に一行の前に来て、リュウセイベーコンの懐から地図を取り出し、ジーっと見つめてからまた顔を上げた。


八宝飯:どうだ?これで信じてくれただろう?

羅布麻茶:何が?この地図を頼りにお宝を盗みに来たってことでしょう?

八宝飯:はあ?

羅布麻茶:ほら、この地図が示す場所はまさにこの石窟じゃない。

八宝飯:えっ……まさか本当にここだったのか?


 それを聞いて、女性は再び一行を一瞥し、ため息をつくと縄を解いた。


八宝飯:えっ?

羅布麻茶:よく考えたら、子どもや動物、それにこんなか弱い娘を連れて盗みにくるとは思えないわ……

泡椒鳳爪:娘?いえ、我は……ぐっ!

八宝飯:そうそう!お嬢さんの言う通り!流石英明にして武勇を備えた素晴らしいお方だ!

羅布麻茶:フンッ、それにそなたたちが機関を見た時の慌てようからして、この石窟で波風を立たせるのは無理でしょうね……あたしのことは羅布麻茶(らふまちゃ)って呼んで、この二人は仲間のサーイとシーリンよ。

羅布麻茶:さっき友だちの病気って言ってたけど……もしかして、この娘のこと?

八宝飯:ああ!

羅布麻茶:道理でこんなに弱っている訳だ……この娘の病気のためなら、お宝を貸してあげてもいいわ。

八宝飯:そうなんだ、普段結構食べるのにこんな痩せて……ってええ?!なんだって?!

羅布麻茶:まだ若いのに、もう耳が遠いの?

八宝飯:い、いや、そうじゃなくて……こんな簡単にお宝をくれるのか?ていうか……そのお宝って、あんたのだったのか?

羅布麻茶:地図に間違いがなければ、そなたたちが探してるお宝はあたしのもので間違いないわ。どうせ他に使い道もないし、だったら……

シーリン:ダメ!


 八宝飯が喜ぶ前に、そばにいた人間の少女が突然大声を出した。そして、彼女は羅布麻茶に近づき、小さいけれどはっきりとした声でこう言った。


シーリン:羅布麻茶姉さん、忘れたの……聖物は勝手に使っちゃダメ……神罰が下るよ……

リュウセイベーコン:神罰?


地下へ

洞窟の下に、何が隠されている?


シーリン:聖物は勝手に使ったら、神罰が下るの……

羅布麻茶:聖物は世を救えるから聖物だ、さもなければただの死物。人の命が救えるのなら、神罰どころか、逆に褒美が欲しいぐらいよ。

シーリン:でっ、でも……

サーイ:シーリン、もういい。

シーリン:……

猫耳麺:あ、あの……お金は持ってきてあります、もしよかったら……

八宝飯:そうだ!オイラたちもタダで他人の物を取らないよ、お金じゃなくても他の報酬もいいよ!

泡椒鳳爪:お嬢さん、くれぐれも無理をしないでください。

羅布麻茶:報酬の件はまた後でいいわ。うん、あたしはもう決めた、それ以上は何も言わないで……はい。

泡椒鳳爪:これは……

羅布麻茶:この布で目を隠して。聖物は貸してあげられるけど、その場所は簡単に見せられないの、少しだけ我慢して。


 布を手にして、まだ躊躇っている泡椒鳳爪を見て、リュウセイベーコンは低い声で説得した。


リュウセイベーコン:申し訳なく思うのはまだ早い、罠かも知れないからな。とりあえずついて行こう。

泡椒鳳爪:はい……


 こうして、一行は目を隠し、羅布麻茶に導かれて暗闇の中を歩いた。どれくらい経ったのか、近くに機関の音がした後周りが突然静まり返った。


八宝飯:なっ、なに?誰もいないのか?


 返事がないまま、一行の目を覆う布は静かに取られた。光を再び感じた一行は自分たちが堀室にいることに気付いた。しかし、何故か羅布麻茶は酷く深刻そうな顔をしている。


泡椒鳳爪羅布麻茶さん、これは……

羅布麻茶:聖物が、ない。


 羅布麻茶の低い声に、周りは驚く。


シーリン:そっ、そんな……まずいよ……聖物がないなんて……きっと酷い神罰が……!いっ、いや……!

サーイ:落ち着いて、シーリン。結界も機関も破壊された様子はない、音も立てずに聖物を盗み出すのは不可能だ!可能性があるとすれば……

八宝飯:……おいおい、なんでこっち見るんだよ!オイラたちは何も知らないぞ?

リュウセイベーコン:ハッ、やはり罠だったか……ぼったくりでも流石に順序を踏んでもらわないと。アタシたちは連れてこられたばかりだ、濡れ衣はごめんだからな。

サーイ:なっ……!俺たちはまだ何も言っていないだろう!

羅布麻茶:静かに。聖物には印をつけてある、それはまだ感じ取れる……この感じだと、そう遠くないはず……行ってくるわ!


 そう言って、羅布麻茶は急いで飛び出した。残された一行もお互いを見て、後を追うことにした。


リュウセイベーコン:……二人は一緒に行かないのか?

シーリン:私は……

サーイ:俺たちが行っても姉さんの邪魔になるだけだ、ここで見張っていた方がいい。

リュウセイベーコン:フンッ、怪しい。それじゃあ、またなんかあっても、こっちのせいにしないでよな。

サーイ:……


 残った兄妹二人を置いて、リュウセイベーコンも前へ進んだ。羅布麻茶は印の跡を辿って石窟にある地下道の更に深いところまで来ていた……


八宝飯:深い地下道だな……いやいや、この道、さっきも通ったような……

猫耳麺:確かに……ここに蕎麦の毛も落ちています……

羅布麻茶:そんな……クソッ、あたしもこんな深いところは滅多に来ないから、道を間違えたかもしれないわ……もう一度……

八宝飯:あれ?この石、ちょっとガタガタしてる。壁にある他のやつとは明らかに違うみたいだ、これは何かあるな!

泡椒鳳爪八宝飯、待ってください。また何かの罠かもしれませんよ……

八宝飯:オイラの経験から、この先に道がない場合は、大体こういうところに隠し扉があるもんだ!


 止めようとした泡椒鳳爪を無視して、八宝飯は自信満々に言ってから躊躇うことなくその石を押した。

 ガタッ!ゴゴゴゴゴッ--

 機関が動く音が石壁の内側から聞こえて来た、壁は徐々に左右に開かれ、人が通れるような小さな扉が出てきた。そして扉の向こうには、本当に下へ続く石階段があった。


八宝飯:フフーン、オイラの言った通りだろー

泡椒鳳爪:それでも、用心するに越したことはないですよ。


 一行は階段を降りると、道は更に深いところに繋がり、両側の石壁には石窟と似たような文字や壁画があった。そしてその内容は位置の深さと共にだんだんと精巧になっていく。

 階段を最後まで降りると、視界がパッと開き、一つの城門がそびえたっていた。そこにあるのは、寂れてもなお輝き続ける巨大な宮殿だった。


八宝飯:この石窟の下に、こんな宮殿があるなんて!

羅布麻茶:ここは……かつての玉沙城の宮殿遺跡よ。

泡椒鳳爪:玉沙城?

羅布麻茶:史籍によると、かつての玉沙城は千年前に滅び、姿を消した。生き残った一族の末裔は他の土地で城を建設する際に、玉沙の名を踏襲したとか。でもまさか消えた遺跡がここにあるなんて。

泡椒鳳爪羅布麻茶さんがこの石窟にいるのも……

羅布麻茶:ええ、そなたたちと同じ食霊だけど、あたしは召喚された時からずっとこの砂漠で生きてきた。さっき言った玉沙城というのが、あたしの故郷よ。

泡椒鳳爪:歴史は繰り返されます。西域には百もの国があったと聞いております、まさか今この建築を見られるなんて、至極光栄です。

羅布麻茶:……

八宝飯:わあ!この石像、本物みたいだな!

猫耳麺八宝飯さま……鳳爪さまが、無暗に物に触らないようにと言っていましたよ……

八宝飯:触ってないよ?見てるだけだから。あれ?なんかこれ、目玉が動いたような……

猫耳麺:待ってください……八宝飯さま、おかしいです……それはおそらく……!

八宝飯:こここここれ……なんで生きてるのー?!

堕神:ガウゥウウー!!!


仲割れ

なくなったお宝、犯人は……


 まさか隅にあった「石像」が眠っていた怪物が化けたものだとは、幸い一行は腕が立つため、あっという間に牙を剥く怪物を倒した。


八宝飯:まさか生きているなんて、ビックリした……

リュウセイベーコン:あちこち触るからだろう、もうこれ以上勝手なことをするな。

八宝飯:あんなもんがここで死んだフリをしているなんて予想できないだろ……それに触ってないし……

泡椒鳳爪:地下は光が差さないため、危険も多く潜んでいます、油断は禁物です。

猫耳麺羅布麻茶姉さん、聖物はここにありますか?

羅布麻茶:いえ……聖物の気配が……消えた……

八宝飯:なにっ?!

羅布麻茶:妙だわ……ここで待ってて、あたしは外を探してくる。


 羅布麻茶が動こうとした瞬間、後ろから落ち着いた女の声が聞こえてきた。


リュウセイベーコン:ちょっと失礼、アンタとあの兄妹以外に聖物のことを知っている者はいるか?

羅布麻茶:……一族はあたしたち以外は何年も前に亡くなっているわ。聖物がここに隠されていることは、あたしたち三人しか知らない。

リュウセイベーコン:さっき金の亡者たちが金で聖物を買うって言い出した時、あの二人は特に反応しなかった……やつらも聖物で助けたい者がいるんじゃないのか?

羅布麻茶:……それはどういう意味?

リュウセイベーコン:身内を信じすぎると、目の前にある真相も見えなくなるかもしれないよ。もしかしたら、聖物を盗んだのは……

羅布麻茶:黙りなさい!


 羅布麻茶の目に怒りが浮かび、帯が剣のようにリュウセイベーコンに飛びかかったが、リュウセイベーコンは怯まず、小刀でそれを断ち切った。


羅布麻茶:フンッ、なるほど、さきほどそなたを縛った時……何故反抗しなかった?

リュウセイベーコン:必要がなかったからな。この石窟でアンタと争っても、アタシたちの得にはならない。

羅布麻茶:賢い選択だわ、賢い人と話すのは好きよ、ただ……

羅布麻茶:サーイとシーリンは仲間よ。あたしは二人の成長を見届けて来た、彼らのことはよく知っている、そんな事をするような子たちじゃないわ。


 羅布麻茶の躊躇いのない声を聞いて、リュウセイベーコンも敵意を抑えた。二人が落ち着いた様子を感じ、周りの者たちもホッとした。


八宝飯:ビックリした、戦い始めるのかと思った……ていうか、なんでいきなりキレたんだ?それに一瞬で仲直りしているし……

泡椒鳳爪八宝飯……静かにしていてください、災いを自ら招くことになりますよ……

八宝飯:わかった……

羅布麻茶:とにかく、誰かが小細工をして聖物を盗んだとしても、聖教の人間しかありえないわ。

リュウセイベーコン:聖教?なんで奴らの話が出てくるんだ?

羅布麻茶:……


 リュウセイベーコン羅布麻茶の目に灯る憎しみの炎を見た。


羅布麻茶:一族の者がどうして亡くなったと思う?

羅布麻茶:何百年も繁栄していた玉沙が何故砂と化したのか?!

羅布麻茶:何故あたしがこの砂漠で石窟を死守するのか、何故住処に色んな機関や隠し扉を設置したのか、何故誰かが入るたびに警戒しなければならないのか……

羅布麻茶:その訳を知っているか?!

リュウセイベーコン:……

泡椒鳳爪羅布麻茶さん、リュウセイも悪気はなかったんです、彼女はただ……

羅布麻茶:……もういい、あたしが感情的になりすぎた……ごめんなさい。

リュウセイベーコン:大丈夫だ、その怒りの矛先はアタシに向いていないことはわかっている。だけどここに来る道中、アタシたちは聖教になんて会わなかった。

羅布麻茶:あの連中は狡猾だ、足跡を残す訳がないだろう。

八宝飯:でも、例え聖教が盗んだとして、この石窟であんたの目を盗んでそれをやるのは無理じゃないのか?なのに、どうやって誰にも知られずに……


 話の途中で、猫耳麺は慌ただしい声を出した。


猫耳麺:……八宝飯さま……変な音が聞こえます……


 次の瞬間、遠くから激しい音が近づき、石壁も雷に打たれたかのように震え出した。


リュウセイベーコン:まずい、地宮が揺れている!


異変

危機と異変が相次ぐ。


リュウセイベーコン:まずい、地宮が揺れている!


 揺れが徐々に近づき、轟音があちこちから聞こえる。長年眠っていた地宮はまるで未知の何かに掻き乱されているかのよう。

 いつも淡々としていた泡椒鳳爪も眉をひそめる。彼が目を閉じると、目の前の巻物の文字が光を放つ。しばらくして、彼はまた目を開けてこう言った。


泡椒鳳爪:まずいです……ここにも山河陣があったとは……おそらくそれに異変が……

羅布麻茶:山河陣?

八宝飯:光耀大陸を守る法陣のことだ……えっと、とにかく面倒くさいもんなんだ。

リュウセイベーコン:突っ立ってるな、話は出てからだ!


 会話している間も音は大きく響き、頭上から小石が降ってくる。この状況を見て、一行は元の道を目指した。

 祭壇宮殿に戻った一行は、宮殿の中で血のような赤い光が輝き、怪異な模様が祭壇の中央から流れ出て、祭壇を覆うのを見た。


八宝飯:なんだこれ?!

泡椒鳳爪:近付かないでください、それはおそらく山河陣による異変です。


 まだ現状を消化しきれていないまま、慌ただしい足音が響く。見覚えのある二つの顔がびっくりした様子で走って来た。


シーリン:羅布麻茶姉さん!みんな大丈夫?!

羅布麻茶:そなたたち、どうしてここに?ここは危ないわ!

シーリン:だ、だって心配だから……中ですごい音がして……だから勇気を出して駆け付けたの。

サーイ:俺たちが入った後、入口が塞がれた、他の出口を探さないと。

サーイ:南東方向に他の道があるはず。でもあそこは機関もあるから、俺たちだけじゃ力が足りないと思って、羅布麻茶姉さんに一緒に行って欲しいんだ……

シーリン:羅布麻茶姉さん……他の出口を探さないと、もうすぐ崩れちゃうよ……


 兄妹二人のお願いに羅布麻茶は応じた。しかし彼女は足を踏み出す間もなく、地下がまたひどく揺れた。

 祭壇の赤い光がますます輝きだし、まるで血に塗られた彼岸花が咲いたように不気味で美しかった。血の海のような光景を見た一行は寒気を覚える。


シーリン:お兄ちゃん……これ……!

サーイ:まずい……もう時間がない……羅布麻茶姉さん、一緒に来て!


 サーイの口調に緊張感が帯び、彼は羅布麻茶の手を引いて、強引に連れ出そうとした。

 その時、轟音が聞こえ、宮殿の扉が重く閉じられた、唯一の道も、絶たれてしまったのだ。


サーイ:遅かったか……こうなったら、もうみんな一緒に……

羅布麻茶:サーイ?何を言っているの?

リュウセイベーコン:まだわからないのか?そっちのお仲間二人はアンタだけを連れ出して、アタシたちを閉じ込めようとしたのさ……

サーイ:……

リュウセイベーコン:でもさっきの揉め事程度で、アタシたちを殺したくなったとは思えない……それに、さっきこの光景を見て、二人は怖がるどころか、驚くことさえしなかった……

リュウセイベーコン:こうなることを知っていた、いや……こうなるように仕向けた、と言った方が正しいか?

羅布麻茶:そっ、そんな!だってサーイとシーリンは……

サーイ:羅布麻茶姉さん、本当はこれからのことを見せたくなかったんだ……


 少年の口から放たれた声は、まるで別人のように冷たくなった。彼の顔にある優しさも寒さに変わる。この変化こそが答えだった。


羅布麻茶:そっ、そんな……そんなこと……

チキンスープ:フンッ、一族を信じても、自分を苦しめるだけ。数年経ってもこの教訓を覚えられないとはね。

羅布麻茶:!!!


 聞き覚えのない声が地宮に響き、泡椒鳳爪は無意識にそばにいる人をかばったが、羅布麻茶は一歩も動かず、目の中の驚きは長く抑えていた敵意に塗り替わった。


泡椒鳳爪羅布麻茶さん?

羅布麻茶:……貴様!

チキンスープ:フフッ、羅布麻茶さん、お久しぶりです。

羅布麻茶:まさかまたあたしの前に現れるなんて……この日を待っていたわ……

チキンスープ:うーん、残念ですが、妾は羅布麻茶さんとお話できるほど、時間はありませんわ……行きなさい。


 黒い服を着た人たちがカラスのように現れ、一瞬で宮殿を取り囲んだ。


泡椒鳳爪:罠でしたか……

リュウセイベーコン:チッ、まさか本当に聖教の奴らだとは……

八宝飯:こっ、こんな人数、そいつらだけでこの地宮に入れる訳がない……

チキンスープ:フフッ、それはもちろんです。

羅布麻茶:サーイ!そなたは自分が何をしたのか理解しているの?!

サーイ:俺……ふっ……ふははははは!!!


 サーイは乾いた笑い声を上げた。少年の濁った目は血の赤が溶け込んだように、深い憎しみと執着が流れていた。


サーイ:羅布麻茶姉さん、なんでそんな目で俺を見るの?全ては、一族のためだよ!

羅布麻茶:お前……!

猫耳麺:危ない!黒服の人たちがこっちに来ました!


砂嵐の過去

強い風が吹いて、過去の思い出を呼び覚ます。


数年前

玉沙城


 万物が砂に覆われ、砂なの海が揺れ、命は散っていった。

 薄暗い雲が踊りだし、嫌な風が満天の砂を巻き上げた。視線の先、その砂嵐は凶暴な獣のように玉沙へと向かった。

 砂嵐が過ぎ去ったところには何も残らない、風の音さえも支離滅裂だ。その光景は、まるで大きな手が砂の海を荒らすように、生き物を弄んでいるようだ。


???:天災は避けられないもの。人もこの天地にとって儚すぎる。玉沙がその日を迎えるのなら……そういう運命なのだろう……

羅布麻茶(スキン):こんな……こんな運命、認めない。絶対に!

???:羅布麻茶……神女でもないお前に玉沙を救うことはできない……もう神女という名で自分を縛るのは……

羅布麻茶(スキン):いや!神通力がなくても、みんなを救ってみせる!!!

泡椒鳳爪:ーー羅布麻茶さん!危ない!


 清らかな声で羅布麻茶は我に返り、黒服の人たちの攻撃をかわし、サーイと目が合った。


羅布麻茶:サーイ、連中とはどうやって知り合ったの?

サーイ:羅布麻茶姉さん、あいつらは確かにどうしようもないやつらだけど……今俺たちを助けられるのもあいつらだけなんだ。

羅布麻茶:何を馬鹿な事を!聖教の戯言を信じるつもりなの?!玉沙が滅びた原因をもう忘れたの?!

サーイ:……今更隠してもしょうがない。あの女が言ってたんだ、山河陣の力で聖物を起動させたら、死んだ人たちを蘇らせてくれるって。

羅布麻茶:なっ……死んだ人たちを……蘇らせる……

泡椒鳳爪:そのような言葉に耳を傾けてはいけません!

羅布麻茶:!

泡椒鳳爪羅布麻茶さん、山河陣は多くの命を邪魔から守るための大陣です。霊力こそ無尽にあるが、死者を蘇らせるなんてことはできません!

泡椒鳳爪:それどころか、邪悪な者に利用されたら、計り知れないほどの災いが起きかねないのです!

羅布麻茶:死者を蘇らせることはできない、か……


 泡椒鳳爪の言葉を聞いた彼女は一瞬寂しい目をしたが、次の瞬間、凛として既に崖っぷちにいる少年を見つめた。


羅布麻茶:聖物を渡しなさい。

サーイ:羅布麻茶姉さん!俺より、あんな知り合ったばかりの外の者を信じるのか?!

サーイ:自分で聖物はただの物だって言っていたよね?だったら可能性にかけて、一族のために使おうよ!

シーリン:長老のお爺ちゃんが言ってた、聖物の鳳羽に蘇生の神通力があるって。お父さんとお母さんが戻ったら……羅布麻茶姉さんも嬉しいでしょう?

シーリン:玉沙を永遠に手放さないって言ってたのに……

羅布麻茶:……でも聖物に人を蘇らせるほどの力はない、あれは玉沙人が代々自分に言い聞かせてきた話に過ぎないの。

サーイ:嘘だ……!あの女は言った、良い頃合いに法陣を起動すれば、力になってくれるって!

羅布麻茶:玉沙を想う心が残っているなら、あいつらの言葉を信じないで。


 羅布麻茶の声が冷たくなり、再び顔を上げた彼女の目には、爛漫な炎と消えない陰影が映し出されていた。


羅布麻茶:聖教があたしに、玉沙に何をしたか、忘れたのか?!


数年前

玉沙城


 荒い風が少女の髪に荒らし、彼女の顔に痕跡を残した。その透き通る瞳だけが冷泉のように、変わらず強く光を放っていた。


羅布麻茶:砂嵐についての……そして、あたしについての噂は、全てそなたたちの仕業なのね。

チキンスープ:その答えは今となっては、どうでもよいことです。遅かれ早かれ、玉沙は滅びる運命なのですから。

チキンスープ:早く聖物を差し出して下されば、彼らの命を救うことができるかもしれませんよ。どうかしら、親愛なる玉沙神女様?

羅布麻茶:戯言を!そなたたちが噂をばらまかなければ、玉沙人はただの砂嵐を神罰とは思わなかった、こんなことにもならなかった!

羅布麻茶:あたしを不吉な神女継承者と呼び、玉沙一族との関係を壊し、一体何が目的だ!

チキンスープ:フフッ、貴方が玉沙人と本当に信頼関係があったのなら、妾たちが何を言おうが意味はないでしょう?貴方の方は彼らを全力で信じているが、彼らは……違ったようですね。

羅布麻茶:……

???:羅布麻茶……もう諦めなさい……

羅布麻茶(スキン):信じて!必ずあたしが全員を救ってみせるから!もう一度、もう一度だけ信じて!

???:すまない、羅布麻茶……昔のよしみでもう一度だけ言わせてもらう……早く逃げた方がいい、もうすぐ族長たちが殺しに来る。

羅布麻茶(スキン):イヤだ……この命に代えても、自分の仲間が悪人のせいで死ぬのは許さない!


 高い祭壇の頂点に立つ少女の顔色は真っ青だが、服は血で真っ赤に染まっていた。

 彼女は高台から飛び降り、躊躇いもせず砂嵐の中へ飛び込んだ。風は彼女の目に吹き付け、一族の刀剣は彼女の肉を切り裂き、血が止まらない。しかしいくら血が流れようと、砂でできた鉄壁を抜けることはできない。

 彼女は自分を殺そうとした、自分が救おうとした一族が一人一人が砂嵐に飲み込まれ、強風の中、息絶えていくのを見ていることしかできなかったから。

 少女の最後の記憶は、いつまでも吹き付ける砂嵐と自分の胸が張り裂けそうな号泣だった。


羅布麻茶:あたしだってみんなを取り戻したい……

羅布麻茶:誰よりも、みんなを取り戻したいわよ!!!


 羅布麻茶は拳を握り、言葉で隠しきれない悲痛で頬が赤く染まる。


羅布麻茶:でも亡くなった者は戻らない、死者のために無駄な力を注ぐより、あたしは生者に尽くすわ。

羅布麻茶:たとえあたしを神女として見てくれなくても……これまで一緒に過ごした時間を思い出して、もう一度だけ信じてほしい……

羅布麻茶:聖物をあたしに渡して。

サーイ:…………この事だけは絶対にやり遂げる。だからごめんね、羅布麻茶姉さん。


 次の瞬間、少年は手を振り、増殖した黒服の人たちに彼らを攻撃させた。


八宝飯:クソッ!こいつらしつこいな!

リュウセイベーコン:猫耳ちゃん、蕎麦とちゃんと隠れてなさい。

猫耳麺:わかりました……遡回司さまも、お気をつけください……

羅布麻茶:ごめんなさい、みんなを……巻き込んでしまった。

泡椒鳳爪:気にしないでください。貴君は聖物を我らに差し出そうとしてくれた、我らも全力であなたを手助けします。

羅布麻茶:手助け……違うわ、これは復讐よ。

羅布麻茶:我が玉沙の地は貴様ら悪人を許さない!覚悟ー!


無限の幻像

不気味な鈴の音が聞こえてくる。


 黒服の人たちが押し寄せて来るが、食霊の力も尋常ではない。しばらくすると、大半の者が負傷して倒れた。

 祭壇は地獄のような戦場にかわり、羅布麻茶は簡単に敵を制することが出来るとは言え、地宮が双方の対峙で破壊され、危うい状況となっている。


サーイ:ダメだ、このままじゃ宮殿は……おいっ!あれは約束通り渡したはずだ!なんでまだ始まらないんだよ!!!

チキンスープ:フフッ、焦りは禁物ですよ。まだまだ……これからですから。

サーイ:があああー!


 突然、悲鳴と共に何かが地面に落ちる音が聞こえた、一行はすぐさま悲鳴がする方を見た。

 祭壇にいる兄妹は、苦しそうな顔で地面に倒れ込んだのだ。地面に落ちた箱は見えない手に操られているかのように、宙に浮かんだ。


羅布麻茶:!!!


 一番近くにいた羅布麻茶は、瞳を震わせ、帯で箱を奪還しようとするが、一足遅く、聖物はあの女の手に渡ってしまった。


サーイ:お前……!

チキンスープ:全てが整いました。では、お望み通り--

チキンスープ:貴方たちには、最後の副・葬・品になってもらいましょう、フフッ。


 幽然とした声には、嘲笑も満ちていた。羅布麻茶は慌てて黒服たちをなぎ倒し後を追ったが、間に合わなかった。


羅布麻茶:クソッ……

リュウセイベーコン:……分が悪い、黒幕に追いつけば、まだ勝算はあるかもしれない。

泡椒鳳爪:では……リュウセイ、貴君は八宝飯とここに残り、我は猫耳麺と共に山河陣を抑えます。羅布麻茶さんは安心してあの女を追いかけてください。

八宝飯:賛成。今は別々に動いた方が効率がいい!早く行って!

羅布麻茶:……わかった、ではここは頼んだ。あと……サーイとシーリンのことも……

猫耳麺:安心してください、蕎麦にしっかり守らせますので!


 羅布麻茶は拳を握り、一行の強い意志を感じると、瞳の奥の最後の迷いも消えた。彼女はこれ以上何も言わず、ただ宮殿の外へ疾走した。

 タタタッ--

 落ちる砂石と揺れる石壁の中、細い体が複雑な地下道をくぐる。彼岸からの鈴の音が魂を奪う魍魎のように耳から離れない。

 ふと、羅布麻茶の意識がかき乱された、目の前の光景も乱れた水面のように歪み始める……


玉沙城民甲:そいつは不吉の神女だ!そいつのせいで玉沙に百年に一度の砂嵐が来たんだ!

玉沙城の住民乙:そいつを供物にすれば、神の怒りが収まって、玉沙にも平和が戻る!

玉沙城民甲:玉沙城は古の神女の賜り物だ、絶対にここから出るものか!

玉沙城の住民乙:ダメだ!砂嵐が!!助けてくれー!!!

黒服:諦めろ、彼らは貴方の言葉を信じない。ほら、死神が貴方たちに手を振っているよ。

羅布麻茶(スキン):いや、いや!みんな救い出してみせる!!!

羅布麻茶(スキン):あたしのせいだ……もっと……早く気づいていれば……みんなを……救えたのかな……


 家が倒れ、人々が死んでいく。果てしない砂煙が羅布麻茶の視野を埋め尽くす。彼女は自分まで孤独な葉っぱのように風砂で無尽の渦巻きに巻き込まれたように感じた……

 …………


───


???:羅布麻茶……

???:羅布麻茶……これから貴方が玉沙の新たな神女継承者になる。これは神女の意思であり、貴方自身の心の選択でもある。

???:広大な運命に逆らえないとは言え、わずかでも運命に触れることができたら、全てを変えることも可能だ。

???:ここで立ち止まるな、まだまだ……やらなければいけないことが残っている。

羅布麻茶:!!!


───


 温厚な声が遠くなり、窒息するような感覚も消えた。羅布麻茶は溺れかけた人が生き返ったかのように、ハッと目を開け、血が体を駆け巡る感覚がした。


羅布麻茶:あたし、今……クソッ……きっとまたチキンスープの仕業だ!


 羅布麻茶は疼く額を抑え、集中した。その不気味な声が消える気配はないが、最後の言葉を思い出すと、力が湧いた。

 チキンスープは予測できない行動をし、彼女をまくように動いていたが、彼女も只者ではない。彼女は自分の健脚を頼りに、ようやくある曲がり角であの明るい黄色の人影を止めた。


羅布麻茶:今度こそ逃がさないわ!!!

チキンスープ:フフッ……まさか……追いつかれるなんて。


再びの対峙

過去と信念。


 狭い行き止まりで、逃げ場をなくしたチキンスープと空っぽの箱を見て、羅布麻茶はようやく怒りが爆発した。


羅布麻茶:聖物を渡せ!

チキンスープ:妾が聖物をどこに隠したのか、当ててみたらどうでしょう?


 目の前の女は相変わらず、不利な立場でも不敵な笑みを見せる。そしてそれが羅布麻茶の怒りを更に焚きつけた。


羅布麻茶:あの時も貴様らが聖物を奪うために邪魔だてして、玉沙のみんなを死なせてしまった。今さら戻ってくるなんて、いい度胸ね。それなら今日まとめて仇を討ってやるわ!

チキンスープ:フフッ…貴方の焦っている様子には相変わらず興味が尽きません、未だにあの時のことを悲しんでいるのですね?ですが……


 チキンスープは相変わらずの表情のまま、皮肉な口調でこう言った。


チキンスープ:貴方もおわかりでしょうけど、妾たちがいなくとも、玉沙城の壊滅は目に見えていました。なんと惜しいのでしょう、あの頑固で無知な人たちを救おうとしたって、無駄でしかありませんでした。

羅布麻茶:……自分の悪行を棚に置いて、よくもまあそんなことが言えるわね。

チキンスープ:フフッ……一体どっちが悪なんでしょうね。貴方はまだわからないのですか?神女の継承者というのは、どうあがいても、結局は……

チキンスープ:信仰の犠牲となるのが運命。

羅布麻茶:……

チキンスープ:祭祀崇拝は知っていますが、祭祀の「祀」は「献祭」を意味します。この祭壇の下に、どれだけの亡骸が埋められているのか、ご存じかしら?或いは……

チキンスープ:先代の神女、つまり貴方の元御侍はどうして死んだのか、知りたくありませんか……

羅布麻茶:……黙れ!!!

チキンスープ:これが貴方が命懸けで守ろうとした、一族と一族が命懸けで守ろうとした真実。

チキンスープ:忘れないでください。人の心は満足を知らない、その欲は底が見えないものです。


 チキンスープの一言一句が鋭い刃のように砂の下に埋もれていた秘密を暴き、羅布麻茶の心を引き裂いた。

 予想通り黙り込んだのを見て、チキンスープは動こうとするが、再び止められた。


チキンスープ:そなた……


 少女は沈黙の後、顔を上げ、空をも焼き付く紅蓮のような不敵な表情を見せた。チキンスープは意外そうに目を細める。


羅布麻茶:だったらなんだって言うの?人間は食霊と違って、一生死の恐怖に怯えながら生きていくものよ。だから心の安らぎを求めてしまう……信仰や祭祀もそう……

羅布麻茶:裕福な土地に住む人たちが作物の神を祀るのを見たことはある?海辺に住む人たちが雨乞いをするところは?玉沙人は生まれた時からこの砂漠に囚われた身だ、他に選択肢はない……

羅布麻茶:神女の座なんてあたしにはどうでもいい。ただ、玉沙のためにしてきたことは一度も後悔していないわ!元々自分の力で彼らを守るつもりだった。あたしの御侍が玉沙のために死んだのが事実でも……玉沙がなければ、彼女は捨てられた赤子して、とっくに砂に溺れていたわ!

羅布麻茶:そなたたちの介入と挑発がなかったら、玉沙一族は生き延びていたかもしれない。あたしも、彼らからの信頼と神女の名を借り、もっと多くの人を助けられた……

羅布麻茶:とにかく、この仇はここで討つ!


 羅布麻茶の声が高くなり、周りの石壁まで超えてしまいそうな勢いだ。霊力を出そうとしたその時、遠くから八宝飯の焦った声が聞こえてきた。


八宝飯羅布麻茶!山河陣はもう抑えが効かない!鳳爪が先に安全なところに行けって!

羅布麻茶:……?!


 動きが止まった一瞬、耳元から崩壊する音が聞こえてきた。羅布麻茶は地宮の崩壊がかなり進んでいることを理解する。


八宝飯:大事なことがあるのはわかるけど、今は安全が第一だよ!

羅布麻茶:でも……


 羅布麻茶は怪訝な表情を浮かべ、チキンスープの飄々とした様子を見る。仇はまだ討っていないが、一刻を争う。


羅布麻茶:……すぐ行く!だが、そなたも逃げられると思うな!

チキンスープ:フフッ…宮殿がこうなった今、妾が逃げたくても逃げられません……どうぞご勝手に、神女様。


 チキンスープは曖昧な笑みを見せ、まったく抵抗する様子はなかった。羅布麻茶は覚悟を決め、彼女を更に強く縛ってから振り向いて走り出した。


八宝飯:ちょちょちょっ!方向逆だよ!向こうだって!

羅布麻茶:間違っていないわ、泡椒鳳爪を助けにいく。


帰還した「故人」

思いがけない人物。


 今にも崩れそうな本殿では、法陣の中央に泡椒鳳爪がスーッと立っている。埃だらけだが、彼の白い服には塵一つなかった。

 ただ彼の顔色は青く、雨のような冷や汗が出ている。猫耳麺の焦っている様子をみるに、どうやら状況はかなり厳しいようだ。


泡椒鳳爪八宝飯と……羅布麻茶さん……?二人とも、何故ここに?

八宝飯:彼女がどうしてもって……聞かなくて……

泡椒鳳爪:山河陣の損傷が酷いです、おそらく聖教の者たちが何か手を加えたのでしょう。我らの力ではどうにもならない、ここから逃げるのが得策です。

羅布麻茶:ちょっと待って、その体……?!

泡椒鳳爪:ここは危険です、我の力では長くはもたない……近づかないほうが賢明です……


 泡椒鳳爪の言葉を聞いても、羅布麻茶はやはり彼の前まで来て、服まで一緒に透明になっていく下半身を見つめた。


羅布麻茶:そなた……

泡椒鳳爪:いつものことです、案ずることではありません……

羅布麻茶:……わかった、実は……試してみたい方法が一つあるんだけど。


 羅布麻茶の一言で、皆驚きの視線を向けた。


羅布麻茶:石壁の文字に古代玉沙のことが書かれている。昔、祭壇に異変が起き、城中が赤い光を放つ法陣で覆われたという言い伝えがあるわ……それって、今の状況に似ていない?

羅布麻茶:当時の神女は自分の霊力と聖物の神力を注ぎ、異変を収めた。その神女ができるなら、あたしも……

泡椒鳳爪:……それはいけません!


 泡椒鳳爪は大声を上げて、羅布麻茶の言葉を容赦なく遮った。


泡椒鳳爪:その記述が確かかどうかは一先ず置いておきましょう。ただ、山河陣はただの法陣ではありません、自身の霊力を使ったら、全て吸い取られてしまう恐れがあります!

羅布麻茶:なら、他に方法はあるの?

泡椒鳳爪:……

羅布麻茶:大丈夫よ。あたしは自分の力をよく知っているから、それに試してみないと、みんなここで死ぬわ。

羅布麻茶:ここまで巻き込んでしまったから、絶対に死なせない……一族は助けられなかったけど、今度こそ失敗したくないの。

羅布麻茶:あたしを信じて。


 場が静まり返る。羅布麻茶は微笑みながら法陣の中央に立ち、自分の力を出した。

 彼女の意志は固い。風に吹かれて舞い上がる服と帯が、彼女を輝かせた。静寂の中、聞こえるのは石壁が震える音だけ。

 だが次の瞬間、軽快な足跡が近づいてきた--


リュウセイベーコン:力なら、ここにいくらでもある。まあ、申し訳ない事をするから、それは事前に謝っとく。

八宝飯:リュウセイ?!なんであんたまで!外でオイラたちを待ってろって鳳爪が言っただろ?

リュウセイベーコン:仲間を置いて自分だけ安全な場所にいるなんて、できる訳がない。

リュウセイベーコン:あの二人は連れ出したよ。もともとアンタの代わりに保管しといただけだ。やつらの行く末まではアタシらがとやかく言うことじゃないだろう。

羅布麻茶:……わかったわ、ありがとう。

リュウセイベーコン:まあ……あのクソ野郎どもの行く末は、検討する価値がありそうだ……


 リュウセイベーコンは鼻で笑うと、手に持っていた提灯は冷たい光を放ち、宙に浮かんだ。その光はどんどん強くなり、本殿を昼のように照らした。


泡椒鳳爪:これは……屍を操る玄術ですか……

羅布麻茶:?!


 予想外の言葉に、羅布麻茶は心が震えた。法陣の力による震えとは違う、雷のような響きが全ての方角なら聞こえる。

 骨まで喰らい尽くすような寒気が、一行の体を襲う。それこそが、彼方からの亡者の力だと悟った……

 混沌の中にも秩序を感じさせる足音が近づき、本殿の外に重なる人影が現れた。その中に賑やかな人の声まで聞こえる。


羅布麻茶:あれは…………


 煙たい本殿に、次々と髑髏が入ってくる。顔こそ識別できないが、その特徴のある服はまだ輝いていた。

 彼らは足並みを揃え、武器を手に進む。その姿から昔の砂漠での繁栄が垣間見えた。

 あれは広大な砂漠で汗を流し、少しずつ玉沙を築き上げた先代で、刃を持ち故郷である砂の海を守ると誓った兵士たちだ。


羅布麻茶:そなたたち……帰ってきたのか……


 昔の一族を見て、羅布麻茶は混乱する。ずっと隠してきた感情が涙と共にあらわになったのだ。そしてその群れの中に、逃げていった黒服たちがいた。

 今の状況をまだ飲み込めていないのか、黒服たちは慌てふためくも、髑髏に強く掴まれて、誰も逃れられない。


リュウセイベーコン:目には目をってやつだ、玉沙の崩壊の原因がやつらなら、今ここで代償を払ってもらわないとな。

羅布麻茶:……ハッ、そうよね、もう何年も経ったわ……仇を討たないと!


凰羽が現れた


鎮まった危機


絶えない音


再会

少し遅れた再会。


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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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