沙海煌音・ストーリー・異国の唄Ⅰ
慰めと冗談
例え失敗したとしても、諦めない。
機関鳥は大きな翼を広げ、一行をしっかりと運んでいた。見下ろす限り、果てしない砂漠が広がっている。
八宝飯:あーっ!良い天気だ、用事がなければ下に降りて、ぶらぶらできたのに。
辣子鶏:何が良い天気だ、あそこの暗雲が見えないのか?
八宝飯:ちょっと、今すぐその言葉を撤回しろ!
猫耳麺:城主さま、この度は機関鳥に乗せて下さって、ありがとうございます!
辣子鶏:なあに、お安いご用だ、お前らを乗せたのは一度や二度じゃねぇしな。というか、鳳爪のやつ、全然喋らねぇな、字も書かないし。
泡椒鳳爪:…………
八宝飯:あんたじゃあるまいし!
泡椒鳳爪:そういう訳では……ただ……
辣子鶏:あれ?今の声、誰のだ?
泡椒鳳爪:……我、です……
辣子鶏:はあ???
泡椒鳳爪:八宝飯が我のために薬を探してきたのですが、その薬を飲んだら、声は出るようになりましたが、声色が……
辣子鶏:やっぱりまたこいつがやらかしたんだな。なんであいつが探して来た薬ってのは、あいつが探して来た宝みたいにうまくいかないんだろうな。フンッ、結局は俺様に頼らねぇと何もできないのな。
八宝飯:チッ……
辣子鶏:しけたツラすんな、あちこち探し回ったんだろう、今度こそお宝が見つかるかもしれねぇって。
辣子鶏:それに鳳爪の今の声もなかなか良い声だな、前みたいなおかしな声よりはよっぽどましだ。
八宝飯:前みたいにってなんだよ、オイラが頑張った証だろう!
八宝飯:でもあんたの言う通りだ。今回はダメでも、いつかは必ず本物の薬を見つけてやるからな!
辣子鶏:拳握ってないで、しっかり立ってろ、速度を上げるぞー!
八宝飯:うわっ!上げてから言うなよ!このチキン野郎!
鬼城の噂
砂嵐に飲みこまれた城。
泡椒鳳爪たち一行が地面に降りると、機関鳥は高く飛び、一瞬で雲の上に消えていった。
八宝飯:あれ……地図を見ると、ここには小さな城があるはずだけど。
リュウセイベーコン:この先に人がいるらしい、聞いてみるか。
リュウセイベーコンが向かう先を見ると、小さな水源があり、商人たちが休んでいた。
八宝飯:そこのお兄さん、ちょっと聞きたいんだけど、この城ってどこかわかる?
外套を被った商人は八宝飯が指す地図を一目見て、驚いた顔を見せた。
商人:城なんてないよ、あそこは今は砂漠しかない。
八宝飯:えっ?そんな……
商人:だが、昔小さな城があったのは聞いたことある。何をしたかわからないが、砂嵐が発生して、城ごと壊滅したらしい。
八宝飯:そんな事があったんだ。
商人:ああ、人がいっぱい死んだって噂だ。今じゃ、あそこから泣き声が聞こえるって噂だぜ。だからみんな、鬼の地って呼んでるよ。
商人:宝探しであそこに行く人も多いが、行くなら気を付けたほうがいいぜ!
八宝飯:わかった!ありがとう!
一行は八宝飯から話を聞き、沈黙が続いた。
リュウセイベーコン:幽霊などはたんなる噂だろうけど、城の話自体はどうだろう……
八宝飯:どうでもいいだろ!やっぱりお宝はあるんだ!
リュウセイベーコン:フンッ、一番気の小さいやつも怖くないって言っているんだし、急いで向かうか。
八宝飯:よし、それじゃ……っておい!誰が気が小さいって!
霊薬売買
声を取り戻せる霊薬。
数日前
ある城の中
商人:寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!私は霊薬を扱う旅商人だ!半年ぶりの店開き、これを見過ごしたら大損だぞ!
八宝飯:霊薬?本当か?嘘じゃないだろうな!
商人:よぉ、兄ちゃん!この薬は各地から集めた一級品ばかりだ!信じられないってんなら、薬屋にでも鑑定させればいい!ご近所からの評判も最高さ!全部本物だよ!
八宝飯:それなら……あのさ……どんな薬を売ってるんだ?なんか……失声症を治せるやつはないか?
商人:失声症……こりゃあ大当たりだぜ兄ちゃん!ちょうどここに霊山から採取した丸薬がある!生まれてこのかた口がきけない人でも、べらべら喋れるようになるよ!
八宝飯:ちょっと見せて?!
八宝飯:うーん……偽物……じゃなさそうだ……本当に嘘は言ってないんだろうな?
商人:嘘だったら、十倍弁償するってのはどうだ?
商人:薬はこれっきり、買い損ねたら次はないよ!
八宝飯:ぐう……この薬、もらうわ!
商人:あいよ!兄ちゃんお目が高い!
しばらくすると--
商人:羊方蔵魚様……くださった薬も売れましたし……報酬の方は……
羊方蔵魚:そう焦るな、約束したもんはちゃんとやる。
商人:ありがとうございます!ただ、失声症の薬……半年も売れなかったのに、どうやってあの赤い服の方が買ってくれるとわかったんですか?
羊方蔵魚:ははっ、お前が知る必要のないことだ、企業秘密ってやつだよ。
宝を盗む者
怪しい盗人。
砂が満天に吹いている中、三つの人影が高い石窟に近づいてきた。
羅布麻茶:怪しい人物がこっちに向かってくるのを見たの?
サーイ:うん!シーリンも見たよ、中原の格好をした人が四人、あと猛獣一匹、とても怪しかった。
シーリン:ずっとお宝を探すとか言ってたけど……でも風のせいで、詳しくは聞き取れなかった。
羅布麻茶:まずは入ってみよう。
三人は石窟に入ると、そこに人の姿はなく、奥に続く大小さまざまな足跡が見えた。
サーイ:しまった!羅布麻茶姉さん、この中には……!
羅布麻茶:落ち着いて……相手に感づかれたらまずい。中にある機関も、やつらにはかなりきついだろう。
羅布麻茶:それにやつらが進んだ道って……
羅布麻茶の言葉は奥から届いた異様な音に遮られた。彼女は何か気付いたのか、動きを止めた。
シーリン:どうしたの、羅布麻茶姉さん?
羅布麻茶:ハッ、自業自得だね。今、あたしが仕掛けた幻境に囚われているわ。
羅布麻茶:行こう、お宝を狙う大胆なコソ泥の顔を見てやろうじゃない。
飛行途中
呼んだらすぐに駆けつけてくれる「車夫」。
少し前
機関城
金華ハム:辣子鶏!辣子鶏!どこに行ったんだ?勝負する約束をしておいて、気付いたらこんなところに来ちまった!
金華ハム:ペッペッ!なんだここ?砂だらけじゃねぇか!
マオシュエワン:砂漠だから砂があって当たり前だろ、城主は今日機嫌が悪い、そっとしといた方がいいぞ。
金華ハム:はあ?あいつは毎日バカ騒ぎしてんじゃねぇか?なーにが機嫌悪いだよ。
マオシュエワン:普段はあちこち自由に遊べるからな。でも今日は地府のやつらの付き合いで、砂漠しか飛べなくて、遠くには行けないから、苛立つのも仕方ねぇよ。
金華ハム:また地府かよ、辣子鶏のやつ、パシリになってねぇか?
マオシュエワン:まあ、城主は地府と関係がいいからな。機嫌悪いって言いながら、本当は喜んで機関鳥を使わせてんだよ。
金華ハム:あいつの機関鳥は地府専用機になってるぞ。あいつも車夫……いや、鳥夫……あー、ちょっとちげーな。
マオシュエワン:とにかく、今会いに行っても八つ当たりされるだけだぞ。
金華ハム:ハッ!だったらなおさら行かねぇとな!
マオシュエワン:はあ……先生に何度も説教されてるのに、学習能力がないな、ハム野郎は。
マオシュエワン:また巻き込まれるのはごめんだから、二人から離れておこう……
意外な結果
茶番と冗談。
少し前
地府
腐乳:あれ?今日は静かだね、みんなどこに行ったんだろ。
豆汁:探しても無駄だよ、二人は鳳爪とリュウセイと一緒に出かけたから。
腐乳:ええっ?!ちょっと寝てただけなのに、あたしを置いて自分たちだけで遊びに行くなんて!あたしも行く!
豆汁:みんな今頃空を飛んでるんじゃない?今行っても追いつかないと思うよー
腐乳:……あああもうっ!!!じゃあ、これから何日はおまえと不愛想なあいつしかいないじゃない!つまんないの!
豆汁:フフッ、つまらない?それじゃ……面白いことでもする?
腐乳:なっ、何よ!驚かさないでよ!
豆汁:昨日変なものを食べてお腹壊した後、黒ちゃんの部屋で吐いちゃったよね?なのに犬が入り込んだって嘘ついて……
腐乳:どどどどうして知ってるの?!
豆汁:どこかのおバカさんが帽子を油鼎に落としてたからね、わたしが先に気付いていなかったら、今頃油鼎にあるのはおバカさんの頭じゃないのかなー
腐乳:別にわざとじゃないし!おまえが作ったお菓子がまずいからだろ!一口で酔ったみたいになっちゃったの!
豆汁:あれは普通のひとに食べさせるものじゃないからね。わざわざ黒ちゃんのところに置いたのに、結局きみに盗み食いされるとは。
腐乳:はあ……わざとだ!いや……盗み食いなんてしてないし!全部犬の仕業だから!!!
豆汁:あら……どうしようかなー今の、聞こえたよね?黒ちゃん。
油条:……ああ。
腐乳:あああああ!おまえたち、あたしを騙したな!!!
油条:ちょうど油鼎が沸騰する頃だ、誰かに油の温度を見てもらわないと。
腐乳:えっ……ここここないー!!!
豆汁:ふふっ、逃げちゃったし、油鼎を仕舞ったら?
危険な黒蠍
気を付けて進むように。
石窟
地下道
深い地下道は複雑で果てが見えない、八宝飯は手を石壁に当てながら用心深く前へ進んだ。
猫耳麺:八宝飯さま、どうして右の壁に沿って進んでいるのでしょうか……
八宝飯:わかってないな。迷宮に入った時、こうして右や左に沿って歩くと、出口にたどり着くんだよ。
八宝飯:えへへ、そりゃ……うわっ!なんかあるぞ!?
羅布麻茶:なんだ?
八宝飯の声で一行の視線が一点に集まった。壁の根本からカサカサと音がする、そこには真っ黒な蠍がいたのだ。蠍は尻尾を高く上げている、それはまるで鋭利な毒針のようだった。
八宝飯:さっ、刺さないで!助けてー!!!
その瞬間、帯が力強く彼の腰に巻きつき、彼を連れ去った。羅布麻茶は松明で照らし、一瞬で蠍たちを追い払った。
羅布麻茶:これはこのあたりに生息する黒蠍、見た目は怖いけど火が弱点よ。
八宝飯:危なかった……助けてくれてありがとう!あああ、足痛い……さっき刺されたんじゃ……!
八宝飯:黒蠍って毒持ってる?おっ、オイラ、死んじゃうんじゃ……!
羅布麻茶:見せて。
羅布麻茶:傷が深いわ……黒蠍の毒はかなり強い……毒が全身にまわらないように……足を切断するしかないわね……
八宝飯:えええっ?!
羅布麻茶:ぷっ、本当に信じた。
八宝飯:はあ???
羅布麻茶:嘘に決まってるでしょう、石で掠めただけじゃない、驚きすぎ。
八宝飯:…………
あたたかな慰め
声もまた天地を感じられる。
猫耳麺は一行と共に長い通路を進んだ、突然頭上からカサっと音がし、体が動く前に誰かに引っ張られた。
羅布麻茶:危ない!
羅布麻茶の声と同時に、足元に石が落ちる音がした。
羅布麻茶:歩くのが遅くてよかったわ。そうじゃなかったら……怪我はない?
猫耳麺:石が落ちたんですか……僕は大丈夫です。羅布麻茶お姉さん、ありがとうございます!
羅布麻茶:石窟の中は地上と違うわ、周りにもっと気を配らないと。こんな大きな石、見えなかったの?当たったらどうするのよ。
猫耳麺:うぅ……ごめんなさい……僕の目は確かに見えません……
羅布麻茶:えっ?!いや、そういう意味じゃなくて!あの……ごめんなさい!
猫耳麺:大丈夫ですよ。羅布麻茶お姉さんが謝ることではありません、心配してくれてるのもわかりますから。
羅布麻茶:ほ、本当に気付かなかったの……動きが自然だったから、どう見ても……
猫耳麺:はい……召喚された時からこうでしたので、とっくに慣れました。
猫耳麺:見えたことがなかったので、見えないことに落ち込むこともありません。少し不便ではありますが、蕎麦がいてくれますから。
羅布麻茶:そうなのね……目で見えなくても感じる風景や物事があるはずよ。目で見るよりも、感じたほうが真実だというものも存在するって、あたしは信じてるわ。
猫耳麺:はい、目は見えませんが、色々な声が聞こえます……例えば……
猫耳麺:羅布麻茶お姉さんの今の心臓の音……少し早いですね。まるでこのことを信じられない様子で、ですがとても優しい音です。
町での再会
久しぶりの再会。
数日前
ある城の中
涼しい秋のある日、八宝飯は一人出店にある骨董品を見ていた。その時、後ろから聞き覚えのある声がしてきた。
羊方蔵魚:よっ、八宝飯の兄ちゃんじゃないか!久しぶりだな、元気にしていたか?
八宝飯:あんた……あの絵をオイラに売った悪徳商人じゃないか!
羊方蔵魚:コホンッ、折角また会えたんだ、そんなつれない呼び方はしないでくれよ。
八宝飯:なんだよ、オイラの金を騙し取ろうとしたってダメだからな!
八宝飯はそう言って、腰にある財布を強く握りしめる。
羊方蔵魚:ちょっと、この俺をなんだと思ってるんだ?ただ挨拶をしに来ただけだ。
八宝飯:あんたと挨拶するほど暇じゃないんだ、こっちは用事があって町に来たんだからな。
羊方蔵魚:用事?俺に話してみたらどうだ、役にたつかもしれないよー
八宝飯:あんたが?でもあんた薬は売ってないだろ……
羊方蔵魚:薬?……薬は扱ってないが、色々と情報を集めることはできるさ、もう少し詳しく話してみては?
八宝飯:もういい、オイラが探しているのは普通の薬じゃない。
羊方蔵魚:あいやー、この光耀大陸に俺が探せない情報なんてないぞ。ただし……報酬も高くつきます……まっ、貴方のお宝と交換してもいいけどねー
八宝飯:やっぱり悪徳商人じゃないか!
羊方蔵魚:商売って言って欲しいな、で?どうする?少し考えてみてくれよー
八宝飯:…………
八宝飯:オイラを騙したら、あんたを地府に連れて行くからな!
羊方蔵魚:それじゃ、取引成立ー
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