沙海煌音・ストーリー・異国の唄Ⅲ
潔癖
優しい思いやり。
何年も人が通らなかった静かな地下道は、ちょっとした動きで埃が舞い上がってしまう。
羅布麻茶が鼻と口を隠していると、ふと泡椒鳳爪が真っ白な顔をしていることに気付いた。彼は気分が悪いのか、口をきつく閉じている。
羅布麻茶:どこか具合が悪いの?
泡椒鳳爪:羅布麻茶さん、ありがとうございます、問題ないです……
羅布麻茶:眉間に皺が寄っているから、説得力ないよ。
泡椒鳳爪:我はただ……
八宝飯:大丈夫だよ、鳳爪はちょっと潔癖症なだけだ。
八宝飯は話に割り込んで、いつものことだと言わんばかりに説明した。
泡椒鳳爪:……
泡椒鳳爪のますます血色が悪くなり、羅布麻茶は彼の肩を叩いた。
羅布麻茶:そうだったのね、でも女の子が綺麗好きなのは珍しくないから、恥ずかしがらないで。
羅布麻茶:心配なら、こっちにマントがあるよ、貸してあげようか?
そう言って、羅布麻茶は荷物から埃っぽいマントを取り出すが、そのまま固まってしまう。
羅布麻茶:えっと……さっきこれを着て来る途中、風沙があったから……もう綺麗とは言えないわね……
泡椒鳳爪:……お気持ちだけでありがたいです……
堅持
仲間のために、譲らない。
祭壇本殿
法陣の封印が弱くなったため、堕神が次々と逃げ出した。八宝飯はギリギリ山河陣を維持する泡椒鳳爪と猫耳麺を見て、歯を食いしばってまた助けに入った。
八宝飯:オイラは大丈夫だ!みんな山河陣に集中してくれ!
八宝飯:クソッ!この怪物たち、しつこいな……
ドンッ--
また怪物を倒したリュウセイベーコンは険しい顔で八宝飯に言った。
リュウセイベーコン:キツかったら先に休んでおけ、こっちはまだ大丈夫だ。
八宝飯:誰が!まだ全然いけるし!ゴホンッ……
リュウセイベーコン:強情だな。さっき大きいのを何匹も倒しただろう、霊力は結構消耗されているはずだ。
八宝飯:……おっ、オイラのことはいいから!ちゃんと自分のことはわかってる、もう少しくらい大丈夫だ!
八宝飯:今は鳳爪たちの山河陣修復が最優先だ!
リュウセイベーコン:それなら一緒に行くか。たかが堕神、邪魔はさせない!
八宝飯:そうこなくっちゃ。おらー!
執念
苦痛と執念。
石窟
地宮外
暗い地下道に、羅布麻茶一行は奥へ進んでいく。
シーリン:お兄ちゃん……私たち……
サーイ:シーリン、俺たちにはもっと重要な仕事があるんだ。
シーリン:うん……わかってる……
サーイ:安心して、上手くいくよ……きっと、全て……
サーイ:今は、ここを見張ればいいだけだ……
シーリン:でも、羅布麻茶姉さんたち……
サーイ:彼らは食霊だから、なんとかなるよ。
シーリン:でも……羅布麻茶姉さんに知られたら……
サーイ:いずれ知ることになるよ。
サーイ:とにかく……あと少しなんだ、絶対に諦めちゃダメだ……
行動前夜
求め合う利益。
少し前
石窟の外
砂だらけの砂漠に、黒服の大軍が石窟を囲んでいた。
サーイ:言われた通り全部やった、いつ動けばいい?
???:焦ることはありません、まだその時ではありませんから。
サーイ:……約束は守ってもらうぞ……彼らも只者じゃない、お前を相手する方法はいくらでもあるんだ。
???:フフッ、お気遣いありがとうございます。
???:ですが、この妾以外に、貴方は誰を信用できるのでしょうか?
サーイ:……
???:これだけは覚えておいてください。一度選んだ以上、後悔しても通用しませんよ。
シーリン:お兄ちゃん……
サーイ:シーリン……大丈夫だから、俺たちは……絶対に成功する……
サーイ:わかった。お前の言う通りにするから、約束は守ってくれよ。
???:フフッ、大丈夫ですよ、妾も期待しています。
危機
揺れる法陣、危機が訪れる。
祭壇本殿
猫耳麺:鳳爪さま……随分修復したのに……どうして全く反応がないのでしょうか?
泡椒鳳爪:ここの山河陣は損傷が激しすぎます……すぐには修復できないのでしょう……
猫耳麺:ですが、制御できないと……中のものが飛び出てしまいます……人参さまが仰っていました……
泡椒鳳爪:……その通りです。しかしこのままでは……二人がかりでも、焼け石に水です……
八宝飯:ーーそんなことない!あっちの堕神は一通り片付けたから、オイラたちも手伝うよ!
泡椒鳳爪:いや、貴君たちが加わったところで状況は変わらない……今は逃げた方が得策です。
泡椒鳳爪:そうですね……リュウセイは先に外への道を確保して、八宝飯は撤退の手助けをしてください、我はここに残って時間稼ぎをします。
八宝飯:だけど……!
泡椒鳳爪:もう間に合いません、法陣が崩れれば、更なる災いを呼びます。
リュウセイベーコン:わかった、今行く。
八宝飯:……羅布麻茶の方はどうなったかな……まずは彼女を呼んでくる!
偶然の出会い
昨日の敵は今日の友。
リュウセイベーコンは崩れかけている壁を越えて、泡椒鳳爪の言う通り外への道を探した。
よく知っている冷たい気配が石壁の奥から伝わってきて、彼女は無意識に嫌悪の表情を浮かべる。
リュウセイベーコン:ここに……こんなにたくさんの亡骸があるなんて……
リュウセイベーコンが考え込んでいると、突然隅から音がしたーー
リュウセイベーコン:誰だ?
サーイ:俺たち……だ……
シーリン:貴方の名前、覚えている……貴方は……リュウセイベーコン……
リュウセイベーコン:蕎麦がここに下ろしたのか?
シーリン:うん……私たちも聖物を取り戻したいって思ったけど、でもすぐに道が崩れちゃって……
リュウセイベーコン:なら、外に出る方向は知っているのか?
シーリン:お兄ちゃんは知ってる……でも足を怪我しちゃって……
リュウセイベーコン:……案内しろ、アンタらを連れ出してやる。
サーイ:なっ……なんで……俺たちを……
リュウセイベーコン:羅布麻茶に免じてだ。無駄話はここまでにしよう、死にたくなかったら、アタシについてこい。
巻き込まれた者
不気味な赤い光。
近くの砂漠
ゴゴゴゴゴッ--
何の予兆もない地鳴りが遠くから伝わり、まるで空をも遮る巨獣が地面を踏みしめているように感じた。一瞬で砂が巻き起こり、駱駝の鈴が乱れ、鳴っている。
商人甲:これは……地震?
商人乙:妙だな、この地震いきなり過ぎないか?
商人:北の方から来てるみたい……あそこって……あの羊の商人が言ってた宝の隠し場所じゃ……
商人乙:ちょっと待って……あそこって……伝説の鬼の城の方向じゃないのか……!
商人甲:あの幽霊の地か?!まっ、まさか幽霊の仕業じゃないだろうな!
商人:ほら……なんか赤い光も出てる!
商人乙:見るな!呪われたらどうするんだよ!
商人甲:やっぱり早く逃げよう!
商人:でも……あの画商が言ってた宝と商売はどうするんだ?!
商人甲:そんなもの構ってられるか!命あっての商売だ!
商人乙:そうだ!ああ、おっかない、二度とここで商売なんかするもんか!
一方ーー
羊方蔵魚:あれ、何の音だ?
印章を通して隊商の会話を盗み聞きしていた羊方蔵魚は、いきなりの強風と雑音に驚き、聞くのをやめた。
羊方蔵魚:まさか砂嵐か?それじゃあ、八宝飯たちは……まあ、いっか。あいつらは悪運が強いから、きっと……
羊方蔵魚:コホンッ、あいつ自身なんてどうでもいいけど、あいつのお宝が二度と表に出なくなるのは可哀想だ!どうか無事でいますように……
羊方蔵魚:まーそこを通る商人たちがいるかどうか聞いてみるか……念のため……
前兆
過去を思う。
少し前
地府地宮
静かな地宮に、茶碗の割れた音だけがはっきり伝わった。髪の長い青年はふと閉じていた目を開き、いつもの穏やかな顔に動揺の色が見える。
白酒:その茶碗、惜しいな。
聞き覚えのある男の声が玄鉄門から伝わってくる。彼は茶碗の破片を拾い上げ、不安定な光を出している大陣を見た。
白酒:なんだ?お前がそんな顔をするなんて、珍しいじゃないか。
高麗人参:吾は大丈夫です。ただ……鳳爪たちが今いる西域の地にも、山河陣があったようです。
高麗人参:あの山河陣は極めて不安定で、崩れる恐れがあると猫耳麺から連絡が入りました。
白酒:つまり、彼らの安全を気にかけているのか。
高麗人参:ええ……機関城の者には知らせたが、無事にたどり着ければいいのですが。
白酒:あの赤い服の小僧か、あいつは衝動的に見えるが、仁義には熱いんだな。
高麗人参:彼とは……会ったことがあるのか?
白酒:何回かな、いくつか質問されたことはある。
高麗人参:もしかしたら……彼はまだ引きずっているのだろうか……また迷惑をかけてしまいました。
高麗人参:彼以外にも……他の「旧知」と会ったことはありますか……?或いは……思い出した事など……
白酒:ハッ、同じ質問をされるとは、まあいい……
白酒:お前ら以外にも、一人の武将を覚えている……口数は少ないが、毎日のように俺のそばにいてくれた。
白酒:はっきり思い出せないのが残念だ。
高麗人参:……そうか……そなたも……気に病むことはない……
白酒:俺は平気だ、過去に執着しても良い事はない、お前もな。
高麗人参:……運命に定められた道を進んでいるのなら、戻れる訳がありません。
白酒:この話はやめだ。今日はお前と茶を飲むつもりだったが、用事があるなら邪魔はしないでおこう。
高麗人参:すまない……日を改めてまた誘います。
濁気
危機が潜む硝子瓶。
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