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沙海煌音・ストーリー・沙海煌音8~14

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無限の幻像

不気味な鈴の音が聞こえてくる。


 黒服の人たちが押し寄せて来るが、食霊の力も尋常ではない。しばらくすると、大半の者が負傷して倒れた。

 祭壇は地獄のような戦場にかわり、羅布麻茶は簡単に敵を制することが出来るとは言え、地宮が双方の対峙で破壊され、危うい状況となっている。


サーイ:ダメだ、このままじゃ宮殿は……おいっ!あれは約束通り渡したはずだ!なんでまだ始まらないんだよ!!!

チキンスープ:フフッ、焦りは禁物ですよ。まだまだ……これからですから。

サーイ:があああー!


 突然、悲鳴と共に何かが地面に落ちる音が聞こえた、一行はすぐさま悲鳴がする方を見た。

 祭壇にいる兄妹は、苦しそうな顔で地面に倒れ込んだのだ。地面に落ちた箱は見えない手に操られているかのように、宙に浮かんだ。


羅布麻茶:!!!


 一番近くにいた羅布麻茶は、瞳を震わせ、帯で箱を奪還しようとするが、一足遅く、聖物はあの女の手に渡ってしまった。


サーイ:お前……!

チキンスープ:全てが整いました。では、お望み通り--

チキンスープ:貴方たちには、最後の副・葬・品になってもらいましょう、フフッ。


 幽然とした声には、嘲笑も満ちていた。羅布麻茶は慌てて黒服たちをなぎ倒し後を追ったが、間に合わなかった。


羅布麻茶:クソッ……

リュウセイベーコン:……分が悪い、黒幕に追いつけば、まだ勝算はあるかもしれない。

泡椒鳳爪:では……リュウセイ、貴君は八宝飯とここに残り、我は猫耳麺と共に山河陣を抑えます。羅布麻茶さんは安心してあの女を追いかけてください。

八宝飯:賛成。今は別々に動いた方が効率がいい!早く行って!

羅布麻茶:……わかった、ではここは頼んだ。あと……サーイとシーリンのことも……

猫耳麺:安心してください、蕎麦にしっかり守らせますので!


 羅布麻茶は拳を握り、一行の強い意志を感じると、瞳の奥の最後の迷いも消えた。彼女はこれ以上何も言わず、ただ宮殿の外へ疾走した。

 タタタッ--

 落ちる砂石と揺れる石壁の中、細い体が複雑な地下道をくぐる。彼岸からの鈴の音が魂を奪う魍魎のように耳から離れない。

 ふと、羅布麻茶の意識がかき乱された、目の前の光景も乱れた水面のように歪み始める……


玉沙城民甲:そいつは不吉の神女だ!そいつのせいで玉沙に百年に一度の砂嵐が来たんだ!

玉沙城の住民乙:そいつを供物にすれば、神の怒りが収まって、玉沙にも平和が戻る!

玉沙城民甲:玉沙城は古の神女の賜り物だ、絶対にここから出るものか!

玉沙城の住民乙:ダメだ!砂嵐が!!助けてくれー!!!

黒服:諦めろ、彼らは貴方の言葉を信じない。ほら、死神が貴方たちに手を振っているよ。

羅布麻茶(スキン):いや、いや!みんな救い出してみせる!!!

羅布麻茶(スキン):あたしのせいだ……もっと……早く気づいていれば……みんなを……救えたのかな……


 家が倒れ、人々が死んでいく。果てしない砂煙が羅布麻茶の視野を埋め尽くす。彼女は自分まで孤独な葉っぱのように風砂で無尽の渦巻きに巻き込まれたように感じた……

 …………


───


???:羅布麻茶……

???:羅布麻茶……これから貴方が玉沙の新たな神女継承者になる。これは神女の意思であり、貴方自身の心の選択でもある。

???:広大な運命に逆らえないとは言え、わずかでも運命に触れることができたら、全てを変えることも可能だ。

???:ここで立ち止まるな、まだまだ……やらなければいけないことが残っている。

羅布麻茶:!!!


───


 温厚な声が遠くなり、窒息するような感覚も消えた。羅布麻茶は溺れかけた人が生き返ったかのように、ハッと目を開け、血が体を駆け巡る感覚がした。


羅布麻茶:あたし、今……クソッ……きっとまたチキンスープの仕業だ!


 羅布麻茶は疼く額を抑え、集中した。その不気味な声が消える気配はないが、最後の言葉を思い出すと、力が湧いた。

 チキンスープは予測できない行動をし、彼女をまくように動いていたが、彼女も只者ではない。彼女は自分の健脚を頼りに、ようやくある曲がり角であの明るい黄色の人影を止めた。


羅布麻茶:今度こそ逃がさないわ!!!

チキンスープ:フフッ……まさか……追いつかれるなんて。


再びの対峙

過去と信念。


 狭い行き止まりで、逃げ場をなくしたチキンスープと空っぽの箱を見て、羅布麻茶はようやく怒りが爆発した。


羅布麻茶:聖物を渡せ!

チキンスープ:妾が聖物をどこに隠したのか、当ててみたらどうでしょう?


 目の前の女は相変わらず、不利な立場でも不敵な笑みを見せる。そしてそれが羅布麻茶の怒りを更に焚きつけた。


羅布麻茶:あの時も貴様らが聖物を奪うために邪魔だてして、玉沙のみんなを死なせてしまった。今さら戻ってくるなんて、いい度胸ね。それなら今日まとめて仇を討ってやるわ!

チキンスープ:フフッ…貴方の焦っている様子には相変わらず興味が尽きません、未だにあの時のことを悲しんでいるのですね?ですが……


 チキンスープは相変わらずの表情のまま、皮肉な口調でこう言った。


チキンスープ:貴方もおわかりでしょうけど、妾たちがいなくとも、玉沙城の壊滅は目に見えていました。なんと惜しいのでしょう、あの頑固で無知な人たちを救おうとしたって、無駄でしかありませんでした。

羅布麻茶:……自分の悪行を棚に置いて、よくもまあそんなことが言えるわね。

チキンスープ:フフッ……一体どっちが悪なんでしょうね。貴方はまだわからないのですか?神女の継承者というのは、どうあがいても、結局は……

チキンスープ:信仰の犠牲となるのが運命。

羅布麻茶:……

チキンスープ:祭祀崇拝は知っていますが、祭祀の「祀」は「献祭」を意味します。この祭壇の下に、どれだけの亡骸が埋められているのか、ご存じかしら?或いは……

チキンスープ:先代の神女、つまり貴方の元御侍はどうして死んだのか、知りたくありませんか……

羅布麻茶:……黙れ!!!

チキンスープ:これが貴方が命懸けで守ろうとした、一族と一族が命懸けで守ろうとした真実。

チキンスープ:忘れないでください。人の心は満足を知らない、その欲は底が見えないものです。


 チキンスープの一言一句が鋭い刃のように砂の下に埋もれていた秘密を暴き、羅布麻茶の心を引き裂いた。

 予想通り黙り込んだのを見て、チキンスープは動こうとするが、再び止められた。


チキンスープ:そなた……


 少女は沈黙の後、顔を上げ、空をも焼き付く紅蓮のような不敵な表情を見せた。チキンスープは意外そうに目を細める。


羅布麻茶:だったらなんだって言うの?人間は食霊と違って、一生死の恐怖に怯えながら生きていくものよ。だから心の安らぎを求めてしまう……信仰や祭祀もそう……

羅布麻茶:裕福な土地に住む人たちが作物の神を祀るのを見たことはある?海辺に住む人たちが雨乞いをするところは?玉沙人は生まれた時からこの砂漠に囚われた身だ、他に選択肢はない……

羅布麻茶:神女の座なんてあたしにはどうでもいい。ただ、玉沙のためにしてきたことは一度も後悔していないわ!元々自分の力で彼らを守るつもりだった。あたしの御侍が玉沙のために死んだのが事実でも……玉沙がなければ、彼女は捨てられた赤子して、とっくに砂に溺れていたわ!

羅布麻茶:そなたたちの介入と挑発がなかったら、玉沙一族は生き延びていたかもしれない。あたしも、彼らからの信頼と神女の名を借り、もっと多くの人を助けられた……

羅布麻茶:とにかく、この仇はここで討つ!


 羅布麻茶の声が高くなり、周りの石壁まで超えてしまいそうな勢いだ。霊力を出そうとしたその時、遠くから八宝飯の焦った声が聞こえてきた。


八宝飯羅布麻茶!山河陣はもう抑えが効かない!鳳爪が先に安全なところに行けって!

羅布麻茶:……?!


 動きが止まった一瞬、耳元から崩壊する音が聞こえてきた。羅布麻茶は地宮の崩壊がかなり進んでいることを理解する。


八宝飯:大事なことがあるのはわかるけど、今は安全が第一だよ!

羅布麻茶:でも……


 羅布麻茶は怪訝な表情を浮かべ、チキンスープの飄々とした様子を見る。仇はまだ討っていないが、一刻を争う。


羅布麻茶:……すぐ行く!だが、そなたも逃げられると思うな!

チキンスープ:フフッ…宮殿がこうなった今、妾が逃げたくても逃げられません……どうぞご勝手に、神女様。


 チキンスープは曖昧な笑みを見せ、まったく抵抗する様子はなかった。羅布麻茶は覚悟を決め、彼女を更に強く縛ってから振り向いて走り出した。


八宝飯:ちょちょちょっ!方向逆だよ!向こうだって!

羅布麻茶:間違っていないわ、泡椒鳳爪を助けにいく。


帰還した「故人」

思いがけない人物。


 今にも崩れそうな本殿では、法陣の中央に泡椒鳳爪がスーッと立っている。埃だらけだが、彼の白い服には塵一つなかった。

 ただ彼の顔色は青く、雨のような冷や汗が出ている。猫耳麺の焦っている様子をみるに、どうやら状況はかなり厳しいようだ。


泡椒鳳爪八宝飯と……羅布麻茶さん……?二人とも、何故ここに?

八宝飯:彼女がどうしてもって……聞かなくて……

泡椒鳳爪:山河陣の損傷が酷いです、おそらく聖教の者たちが何か手を加えたのでしょう。我らの力ではどうにもならない、ここから逃げるのが得策です。

羅布麻茶:ちょっと待って、その体……?!

泡椒鳳爪:ここは危険です、我の力では長くはもたない……近づかないほうが賢明です……


 泡椒鳳爪の言葉を聞いても、羅布麻茶はやはり彼の前まで来て、服まで一緒に透明になっていく下半身を見つめた。


羅布麻茶:そなた……

泡椒鳳爪:いつものことです、案ずることではありません……

羅布麻茶:……わかった、実は……試してみたい方法が一つあるんだけど。


 羅布麻茶の一言で、皆驚きの視線を向けた。


羅布麻茶:石壁の文字に古代玉沙のことが書かれている。昔、祭壇に異変が起き、城中が赤い光を放つ法陣で覆われたという言い伝えがあるわ……それって、今の状況に似ていない?

羅布麻茶:当時の神女は自分の霊力と聖物の神力を注ぎ、異変を収めた。その神女ができるなら、あたしも……

泡椒鳳爪:……それはいけません!


 泡椒鳳爪は大声を上げて、羅布麻茶の言葉を容赦なく遮った。


泡椒鳳爪:その記述が確かかどうかは一先ず置いておきましょう。ただ、山河陣はただの法陣ではありません、自身の霊力を使ったら、全て吸い取られてしまう恐れがあります!

羅布麻茶:なら、他に方法はあるの?

泡椒鳳爪:……

羅布麻茶:大丈夫よ。あたしは自分の力をよく知っているから、それに試してみないと、みんなここで死ぬわ。

羅布麻茶:ここまで巻き込んでしまったから、絶対に死なせない……一族は助けられなかったけど、今度こそ失敗したくないの。

羅布麻茶:あたしを信じて。


 場が静まり返る。羅布麻茶は微笑みながら法陣の中央に立ち、自分の力を出した。

 彼女の意志は固い。風に吹かれて舞い上がる服と帯が、彼女を輝かせた。静寂の中、聞こえるのは石壁が震える音だけ。

 だが次の瞬間、軽快な足跡が近づいてきた--


リュウセイベーコン:力なら、ここにいくらでもある。まあ、申し訳ない事をするから、それは事前に謝っとく。

八宝飯:リュウセイ?!なんであんたまで!外でオイラたちを待ってろって鳳爪が言っただろ?

リュウセイベーコン:仲間を置いて自分だけ安全な場所にいるなんて、できる訳がない。

リュウセイベーコン:あの二人は連れ出したよ。もともとアンタの代わりに保管しといただけだ。やつらの行く末まではアタシらがとやかく言うことじゃないだろう。

羅布麻茶:……わかったわ、ありがとう。

リュウセイベーコン:まあ……あのクソ野郎どもの行く末は、検討する価値がありそうだ……


 リュウセイベーコンは鼻で笑うと、手に持っていた提灯は冷たい光を放ち、宙に浮かんだ。その光はどんどん強くなり、本殿を昼のように照らした。


泡椒鳳爪:これは……屍を操る玄術ですか……

羅布麻茶:?!


 予想外の言葉に、羅布麻茶は心が震えた。法陣の力による震えとは違う、雷のような響きが全ての方角なら聞こえる。

 骨まで喰らい尽くすような寒気が、一行の体を襲う。それこそが、彼方からの亡者の力だと悟った……

 混沌の中にも秩序を感じさせる足音が近づき、本殿の外に重なる人影が現れた。その中に賑やかな人の声まで聞こえる。


羅布麻茶:あれは…………


 煙たい本殿に、次々と髑髏が入ってくる。顔こそ識別できないが、その特徴のある服はまだ輝いていた。

 彼らは足並みを揃え、武器を手に進む。その姿から昔の砂漠での繁栄が垣間見えた。

 あれは広大な砂漠で汗を流し、少しずつ玉沙を築き上げた先代で、刃を持ち故郷である砂の海を守ると誓った兵士たちだ。


羅布麻茶:そなたたち……帰ってきたのか……


 昔の一族を見て、羅布麻茶は混乱する。ずっと隠してきた感情が涙と共にあらわになったのだ。そしてその群れの中に、逃げていった黒服たちがいた。

 今の状況をまだ飲み込めていないのか、黒服たちは慌てふためくも、髑髏に強く掴まれて、誰も逃れられない。


リュウセイベーコン:目には目をってやつだ、玉沙の崩壊の原因がやつらなら、今ここで代償を払ってもらわないとな。

羅布麻茶:……ハッ、そうよね、もう何年も経ったわ……仇を討たないと!


凰羽が現れた


 羅布麻茶リュウセイベーコンの言葉で我に返り、彼女の言葉の意味を理解した。

 昔の面影が見えない「人々」は彼女の視線を感じて、その場で静かに彼女を見た。まるで答えを待っているかのように。

 少女は覚悟を決めたように顔を上げ、力強い声でこう言った。身に纏った服は炎のように、復讐の意志に点火する。


羅布麻茶:我らの故郷を犯す者たちは報いを知るべきだ。一族が受けた傷は、全て返してやるわ。


 彼女は金色に輝く箱を出すと、光る羽根が空に浮かんで、七色に輝きだした。


八宝飯:こっ、これってあの聖物だろ?盗まれたんじゃなかったのか?!

羅布麻茶:聖物が鳳羽一枚だけとは言っていないわ。

リュウセイベーコン:ハッ、アンタもなかなか賢いな。

羅布麻茶:千年前、鳳凰神女が降臨し、砂漠にある宝地を見つけ、それを玉沙と名付けた。彼女は亡くなった後も、鳳羽と凰羽で玉沙の民を守り続けた。

羅布麻茶:鳳羽は祭祀用で、凰羽は神女の継承者に代々密かに継がれてきた。神女の最後の力が閉じ込められているため、やむを得ない状況でないと出すことができない。

羅布麻茶:今がその状況なんだろう。


 ゴロゴロッ--鬼の鳴き声に似た音が大地の深くから響いた。千年も封じられた怨霊が今にも出てくるような空気が場を凍らせる。

 羅布麻茶は軽く地面を蹴り、宙に浮かんだ。その表情は炎のように明るく、真剣だ。

 神が降臨したように、眩い光の中から鳳凰が現れ、煙を吐いた。その瞳には聖潔慈悲が溢れていた。

 どんどん膨張する神力は隅々に行き渡り、巨獣のように、揺れて暴れるまわっていた地宮も、奇跡が起きたかのように静かになった。

 注がれる輝きに、無数の希望と守りが入っていたかのように、優しく全ての者の頬と手のひらに落ちる。


猫耳麺:鳳爪さま……山河陣が……安定してきたようです……

泡椒鳳爪:そうか……それは何よりです……まさかこんな奇跡をこの目で見られるとは……


 それと同時に、使命を果たした、「人々」は引き潮のように静かに消え去った。

 羅布麻茶は消えていった骸骨たちの方向をジーっと見つめてから、またあの炎のような姿を見て、高まる感情の中、少し気持ちが楽になった。


羅布麻茶:みんな、ありがとう……それと……神女様……申し訳ございませんでした……結局力を勝手に使ってしまいました。


 囁きは風に乗り、鳳凰が羅布麻茶の肩に飛び乗り、親しげに彼女の頬にすり寄った。

 柔らかな羽根に触れ、羅布麻茶は一瞬驚きを見せた後、小さく微笑んだ。

 彼女は消えゆく羽根に手をそわせ、無言の別れと、何かを託しているようだった。


鎮まった危機


 法陣が静まった後、羅布麻茶の顔からようやく険しさが消えた。彼女は空から降りて、恐怖で動けなくなった黒服たちに近づいた。


黒服甲:……たっ、助けてくれー!えっ、し、死んでない!?だけど……

黒服乙:痛いぃぃ!があっ……足が!

羅布麻茶:そなたたちが死ななかったのは、心が広く、命を重んじる玉沙城の神女のおかげだ。神女は自分を犠牲にして民を救うことがあっても、祭壇で民を犠牲にすることはない。でも悪さをすれば、きっと神罰が下るわ……

リュウセイベーコン:そのまま逃がすのか?復讐は?

羅布麻茶:あたしはもう神女の継承者じゃなくなっているけど、神女の心はずっと続いていくわ。それに……

羅布麻茶:復讐はしたい、でも聖教の内部は複雑で、命令を執行する人も数え切れないほどいる。この人たちは所詮下っ端にすぎない。

羅布麻茶:復讐する相手は決まっているわ。あたしが欲しいのは、あの女の命だけ。

リュウセイベーコン:……それもそうだ、こいつらはもう十分懲りただろう。

羅布麻茶:……重傷を負った二人は残りなさい、他のやつらは……消えろ!


 狼狽えていた黒服たちは許しを得て、慌ててその場を去った。羅布麻茶は黒服の前に立ち止まり、自分の帯で彼らの止血を始めた。


八宝飯:……羅布麻茶、優しいんだな。殺さないどころか、怪我まで治療してあげるのか?

羅布麻茶:あの女は狡猾だからね、とっくにあたしの束縛から逃げただろう……この二人のケガを治療するのは、あの女の居場所を探るためよ。

羅布麻茶:正直に言いなさい、聖教の本拠地はどこにあるの?!

黒服甲:……

黒服乙:……

リュウセイベーコン:なんか言ったらどうだ?さっき命乞いする時は大声出してただろう?

泡椒鳳爪:……いや……彼らを抑えてください!毒を飲んで自殺するつもりです!

八宝飯:なにっ?!まずい……


 それを聞いた八宝飯は黒服たちを止めようとしたが……


猫耳麺八宝飯さま……心臓は……既に止まっています……

羅布麻茶:……遅かったか。

リュウセイベーコン:聖教の者は本当に無慈悲だな、自分に対しても……

泡椒鳳爪:手掛かりが消えました……羅布麻茶さん、先程あの女を捉えたところに行ってみますか?もしかすると逃げていない可能性も。

羅布麻茶:……ええ、わかった……あっ!

泡椒鳳爪羅布麻茶さん!


 羅布麻茶が足を前に出した瞬間、転びそうになり、後ろにいた泡椒鳳爪に受け止められた。


泡椒鳳爪羅布麻茶さん、大丈夫ですか?

羅布麻茶:大丈夫よ、霊力の消耗が激しかっただけ……ん?そなた……


 泡椒鳳爪の懐にいる彼女はようやくその平たい胸元に気付いた。


羅布麻茶:おおおお……男?!

泡椒鳳爪:…………

八宝飯:えええ?嘘だろ羅布麻茶、今頃気付いたのか?!

リュウセイベーコン:ぷっ……これじゃあ、賢いのかバカなのかわからないな。

羅布麻茶:だって……声は明らかに女の子だし、それに肌が白くて体も細くて……こんなこと……うぅ……

八宝飯:だけどよ、鳳爪の顔はどう見ても女の子じゃないだろ……

羅布麻茶:そなた……本当に男か?

泡椒鳳爪:ええ……羅布麻茶さん、申し訳ございません。事情を明かさないまま、色々と失礼を……

羅布麻茶:それじゃあ、本当にそなただったのか?

泡椒鳳爪:ん?何の話でしょう?

羅布麻茶:道理で見覚えあると思っていたんだ……いや、詳しい話は出てからにしよう、ここは長くもたない。


 一行が出ようとした時、遠くから叫び声が聞こえてきた-


シーリン:あああ!助けて-!!!

羅布麻茶:シーリンの声?!

八宝飯:気を付けて!堕神の気配がする!


 その言葉と共に、崩れた残骸の中から尋常じゃないものが一瞬見えて、羅布麻茶は顔をしかめ、無意識にそれを追った。


絶えない音

天より霞が落ちて、砂漠の曲が未だ絶えない。


 廃墟の隅、シーリンは倒れていたサーイを庇っていた、二人とも傷だらけになっている。

 堕神が二人に近づくのを見て、羅布麻茶はすぐに飛んでいき、素早い攻撃で堕神を粉々にした。


シーリン:ありがとう……羅布麻茶姉さん……

リュウセイベーコン:なんでここに?外まで送ったはずだろう。

シーリン:私たち……出てすぐに、あの食霊に会っちゃったの。あの人は私たちを攻撃して、堕神まで引き寄せて……お兄ちゃんがずっと庇ってくれてた……でも仕方がないからまたここに戻って……

シーリン:……お兄ちゃん、お兄ちゃんは大丈夫?!

リュウセイベーコン:ちょっと見たけど、大丈夫そうだ、怪我で気絶しているだけ。


 それを聞いて、シーリンは肩を震わせた、こらえ切れなかったのかやがて大声で泣き始めた。


シーリン:うう……ごめんなさい……私たちはなんて愚かで恩知らずなんだろう……あんな酷いことを……

シーリン:こんなことになっちゃって……地宮まで崩壊寸前で……それに無実のひとたちまで巻き込んで……みんな私たちのせいだ……羅布麻茶姉さん、私、どんな罰でも受けるよ!!!

サーイ:羅布麻茶……姉さん……

羅布麻茶:……

シーリン:お、お兄ちゃん……

サーイ:ごめんなさい……俺が……俺のせいだ……俺があんなやつらの言葉を信じなければ、こんなことには……

サーイ:妹は俺に脅されただけだ、だから、罰は俺一人で……この命も……惜しくはない……

シーリン:お兄ちゃん……うう……

羅布麻茶:……わかった。そなたたちの目にはあたしは何かの妖怪にでも映っているの?何が命よ……それに……

羅布麻茶:あたしだって……みんなに帰ってきて欲しいよ……


 羅布麻茶の寂しそうな声に、地面に跪いていた二人は体を震わせ、また小さい声で泣き始めた。


羅布麻茶:そなたたちの両親は……あたしの友人で、家族で、一族なの。あの時、自分の命を捨てても、助けたかった。でもね……

羅布麻茶:死んだ人は戻らない。生きている人は、これからも生き続けるんだ……みんなの存在を心に刻んで、玉沙の意志を継ぐのよ!

羅布麻茶:あたしたちさえ忘れなければ、玉沙は……ずっとこの大地に生き続けるわ。


 ふたりの頬はいつの間にか涙で濡れていた。少女の明るくて強い声は清らかな泉のように、二人の積み重ねてきた苦痛を洗い流した。

 彼女は誰にも見られないように目尻にある雫を拭くと、スッキリとした顔で二人に手を差し伸べた。


シーリン:羅布麻茶姉さん……

サーイ:羅布麻茶姉さん……

羅布麻茶:どうして泣いているの?あたしが二人の面倒をちゃんと見れなかったから、やつらに付け込まれたんだわ。でも、そなたたちが過ちを犯したのも事実、それ相応の罰は必要よ。

羅布麻茶:あたしの代わりにここの番人になってもらうわ。あたしが……復讐を果たすまで。


 それを聞いた兄妹は未練と羅布麻茶に対する心配があったものの、やはり頷くしかなかった。しかし、傍観していた地府の一行は深刻な表情を浮かべた。


リュウセイベーコン:聖教のやつらはアンタが思っているほど簡単な相手じゃない、一人で復讐するのは流石に……

八宝飯:でも羅布麻茶がそうと決めたら、誰にも止められないだろ?……これからなんかあったら、いつでもオイラたちの所においで!

泡椒鳳爪:その通りです、羅布麻茶さんのためならば、必ずや力になりましょう。


 羅布麻茶は口角を上げ、泡椒鳳爪を見た。


羅布麻茶:今回は本当にありがとう。約束した凰羽はあげるわ、残りの力でそなたの病気を治せるはずよ。


 羅布麻茶は優しく言ってくれたが、泡椒鳳爪は本殿であったことを考え、やはり断ることした。


泡椒鳳爪:それが玉沙にとってあれほど重要なものだったとは、我がもらうには……それに見合う価値など我にはない、故に受け取れません。

羅布麻茶:中原の者は決まりが多いわね。言ったでしょう?玉沙がない今、それは聖物でもなんでもない。人を助けるのは神女の、つまりあたしの願いよ。一万人を救うのと一人を救うのは、何の違いもない。

羅布麻茶:それの使命も、今日で果たしたことになるしね。今日、そなたたちがいなかったら、玉沙最後の血筋と遺物も消えてしまっていたわ。

羅布麻茶:だからそういうのはいいから、あたしに二言はない、ほら。


 泡椒鳳爪が答える前に、羅布麻茶は箱を彼の懐に入れて、重荷が下りたように息をついた。

 夕闇の光が石壁の間から差し、まだ体温が感じられる箱に落ちると、七色の光に変わる。泡椒鳳爪は思わず見惚れていると、自分の腕が引っ張られてることに気付いた。


八宝飯:そろそろ辣子鶏と約束した時間になる、オイラたちは行くよ、鳳爪も女の子に見惚れてんじゃないよ。

泡椒鳳爪:……コホッ……羅布麻茶さんのお心遣いに感謝いたします。いつか中原に来たら、ぜひ地府に立ち寄ってください。

羅布麻茶:ええ……いいわね、じゃあそれを報酬として受け取るわ。


 少女の爽やかな笑顔と風に乗った紅色の服は、砂の海を彩る星々のように見えた。

 一行が石窟を出た時にはもう夜も近い時間だった。爛漫な夕闇と金色に輝く砂が互いを際立たせ、壁画のような儚い美しさが広がる。

 駱駝の鈴が美しい音色を奏で、砂の海の物語はこれからも続く。


 ……


───


ピンポン!ボーナスの配達が完了しました!

注意:この度の費用はスタッフが全額負担いたします。

特別感謝:機関城一日達配達サービス


───


親愛なる御侍さまへ


御侍様、時が経つのは早いものです。

また御侍様と一年を共に過ごせました。


花火は年末の空に咲き、鐘は祝福を音を響かせた。

私たちは年を越してもまだ共に在ります。


───


暖かな南から、はたまた広大な北からやってきたとしても、一つ一つの小さな光が集まり、今を切り開いたのは確かです。

長い歴史の旅で、御侍様と記憶を分かち合えることを幸運に思っています。


───


光耀大陸の物語とティアラの伝説は、御侍様がいる限り、終わることはありません。

御侍様との触れ合いや言葉はいつも次元を超えて、限りのない力となって、この小さな星に注がれ、輝かしい光の源となっています。

これからもいつでもどこでも、私たちとの思い出が御侍様の力と勇気になりますように。


2023年 年初

「フードファンタジー」設定班


───


あっ、まだまだ!この下にサプライズが用意されていますよ!


───


えへへ、ウソです!もうタップしないでくださいね!


───


わかりました、ここまで粘られたら……


───


ハグをプレゼントさせてください!


───


どうか、これからも、お会い出来ますように!


───


再会

少し遅れた再会。


 ゴロゴロッ--

 夕日が完全に沈む前、泡椒鳳爪たちが石窟から出るとすぐに大きな機関音が空から伝わってきた。

 そして、お馴染みの面子が慌てて向かってきた。


八宝飯:あんたら遅かったじゃないか!

東坡肉:ふふっ、どうやら無事だったようじゃな。

辣子鶏:はあ?無事?木偶の棒から危ないって聞いて慌てて来たんだ、俺様のカッコいい登場はどうしてくれんだ。

八宝飯:何がカッコいいだ、雑草みたいな頭をしてるくせに。

辣子鶏八宝飯笑ったな!お前になんかあったらって心配して、駆けつけてきたから、髪型が崩れたんだよ。

マオシュエワン:おっ……俺が証人だ!さっきの速度、俺もあと少しで吐いてしまうところだったぜ……

東坡肉:ここの山河陣……もう修復したのか……

泡椒鳳爪:ええ、羅布麻茶というお嬢さんのおかげです、我々を助けたのも彼女です。

辣子鶏:お嬢さん……ていうか、鳳爪その声?!普通に喋れるようになったのか?!

八宝飯:遅すぎるだろう……

マオシュエワン:あのお宝ってやつを本当に見つけたのか?俺、なんか見逃した?!

八宝飯:フフーン、そりゃもちろんだ!


 泡椒鳳爪は髪に添えられた羽根にそっと触れて、微笑んだ。


泡椒鳳爪:ええ、もう普通に話せるようになりました。

辣子鶏:そうか、八宝飯も珍しく役に立ったな。

東坡肉:お主たちが言う娘も一緒に機関城に誘ったらどうじゃ?ちゃんとお礼をしてやらんとな。

八宝飯:そうだな!羅布麻茶……あれ?いない?


 八宝飯が振り返ると、そこに誰もいなかった。サーイやシーリンまでもが姿を消している。


泡椒鳳爪:先に……行ったのだろうな。

東坡肉:それならば仕方があるまい、では吾らも帰るか。鬼蓋の小僧にも報告しておかねば。

八宝飯:変だな。さっきまでそこにいたのに……まさか、羅布麻茶って……本当に壁画から出てきた天女か?!

辣子鶏:何をぶつぶつ言ってんだ、ほら、行くぞ!

八宝飯:えっ?ああ……待ってくれ!チキン野郎め、歩くの早すぎだろ?!オイラをここに置いて行くなー!!!


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