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荷葉鳳脯・エピソード

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作成者: 時雨
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荷葉鳳脯のエピソード

元気で明るく、自信に満ちた勇敢な少女。戦場では勇猛果敢であり、戦場の外では誰とでも打ち解けられる。毎日太陽のようにみんなを照らす。少し天然だが、実直なため、ツンデレが一番苦手とするタイプ。

Ⅰ.辺境の地


伏蛇関、辺境の国を守る天険要塞。

高くそびえ立つ尾根の間には城壁が延々と続き、見渡す限り、その姿はまるで天地の間に構える巨龍のようだった。


金色かかった紅の夕日と、びゅうびゅう吹く北風が焚火を旗のようになびかせ、血腥さと汗の熱も砂埃の中埋もれていった。

一碗の辛い酒を飲み終えると、目の前の濛々たる砂埃と太陽も一回り小さくなっていた。


「鳳凰ちゃん、宴は始まったばかりですよ、飲みすぎないでくださいね!」

焚火の周りに座っている将兵たちは顔が赤くなるほど飲んでいるにもかかわらず、優しくあたしをからかっていた。


「大丈夫!伏蛇関を攻め落とすのに2か月もかかったんだもん、待ちに待った打ち上げでは酔うまで帰らないよ!」


お椀の中の最後の一滴を飲み干して、あたしはあぶり肉の上に残った黒い燃えかすを吹き、がぶりとかじった。

2か月間ずっとトウモロコシ粥と餅しか食べてこなかった今、ようやく山の幸にありつけた。焼き方はぞんざいだったが、味はおいしかった。


燃え盛る焚火と、香ばしい酒と肉。

夕暮れ時、皆の酔いが7、8割ほど回っていても冗談を言い合っていた。


「……伏蛇関が天下一の難関と聞いていた。確かに持ってるものはあったが、あの関所の守衛は意気地なしだったな!」

「あぁ、あれだけの兵しかよこさないとは、東籬国の皇帝は何を考えているのやら。天険だけ守ってれば人手は少なくてもいいと思ってるのか?」

「東籬国は元から内戦が絶えない野蛮な地域だった!近頃やっと皇帝が就任して、王座について間もないのに、こんなことに構ってる暇なんてないだろ!」

「白虎一族が玉京を占拠してから、世の中はどこも混乱状態だ……東籬国を制圧した後、我らが率先して撤兵できることを願うばかりだ。そうすれば皆もいち早く故郷に戻れるだろう。」


談笑は一瞬にして静まり返り、夕暮れの風が砂埃を巻き上げ、ひんやりとしてきた。


「鳳脯は……家に帰りたいか?一緒に入隊してから7、8年は帰ってないだろ。」

隣の遠が包帯で巻かれた肘であたしを突いてきた。これだけ時間を共に過したと言うのに、彼が悶える所を見たのは初めてだった。


「家……?それのどこに意味があるの、戦の方が断然楽しいよ。」

幽々たる垂れ絹は、まるで空を遮り日を覆い隠しているように目の前ではためいていた。あたしが首を振ると、幻影は再び焚き火の中に溶けていった。

これ以上飲むのはやめた方がよさそうだ……


将兵たちはそれを聞くなり、同時に顔を見合わせて大笑いしていた。


「さすが花木蘭、鳳脯のような小さな狂人の口からしか出ない言葉だ!」

「そうだな、俺たち男どもがちょっとしたことでため息ついてちゃあ格好つかないな!続けて飲むぞ!」

……


夜が近づくと、明るい月だけが空に残り、星はほとんど見えなかった。


たらふく飲み食いした将兵たちは、三三五五に散っていった。遠だけが一人きりで焚火に薪を足していた。

理由は分からなかったが、普段は怖いもの知らずで、いつも騒ぎ立ててあたしと宴席でゲームをしながら酒を飲みたがる遠が、今夜はしょんぼりしていた。


傷口の痛みから気分に影響が出たのだと思い、彼の隣に座った。

「遠、さっきから浮かばない顔して、傷がまだ痛むの?」


「大丈夫だ……」

遠はうなだれながら木の枝で焚火を払った。

「さっきみんなが家の話をした時、考えたら、俺はもう両親の顔すら思い出せなかったんだ。」


「えっ?でも大した問題じゃないでしょ、両親の名前さえ覚えていれば、帰った時に聞いて回るとすぐ見つかるよ!」


「……」

遠は言い淀んだ。そして心ならず首を振った。あたしの提案に不満を抱いているようだった。


「……鳳脯、前からずっと聞きたかったんだけど、どうして自ら入隊したんだ?」

「楽しいからだよ!」

あたしは顔を上げ、果てしなく広がる大空を見て、即座に答えた。


「外の世界を駆け巡り征戦することは、一箇所に留まるよりいいでしょ?えっ、遠はどうして参戦したの?」


「俺は幼い頃に近衛軍として選ばれたんだ。理由は……朝廷への忠誠心とか、国を守ることかな。」


遠は真剣に考えた後、また溜息をついた。

「でも……本当を言うと、命を懸けてまで守りたいのは故郷の家族だけだ。」

「俺の故郷は青石村といって、塞の外からそう遠くない所にある。両親は高齢で、弟はまだ幼い。彼らには戦争から逃れて平和な日々を送ってほしい。それだけだ……」


焚火がパチパチ燃える中、遠のくどくどした子供の頃の話声を聞いていると、無意識にボーっとしてしまった。

百姓の生活がこんなにも平凡で清貧だったなんて、その上退屈でもなく、目の前の焚火のように温かかった。


でも、あたしがこんな生活を手に入れるチャンスは来ないだろう。


Ⅱ.逃亡兵


東籬国征討の予定日が近づいていたにもかかわらず、隊は伏蛇関に駐屯し続けろとの指令を受けた。

至急届けられた詔書には、「按甲寝兵、養軍息士」といった愚にもつかない内容しか書かれていなかった。数名の軍師があれこれ推測した結果何も出なかった。


戦略の変更はよくあることだったが、納得のいかない隊員たちはそれでも毎日訓練と見回りを怠らなかった。

とはいえ……あたしはこんな簡単に物事が運ぶはずはないと薄々感じていた。


こうして半月が過ぎ、塞は葉が落ちる時期に突入していた。馬で関外へ行く時に見える景色も果てしなく茫々としてた。

夕暮れの巡回から戻ると、馬は興奮して加速し、思いがけず地外で衛卒に出くわしてしまった。


「女将軍様、どうか命だけは!!命だけはお助けを!!」

あたしは急いで馬繋を引っ張った。衛卒たちはとっくに怖気づいて地面に伏せていて、慌ててあたしにぬかずくをした。

あたしは突如の出来事に驚かされ、一時慌てふためきなすすべを知らなかった。


「えっと、ごめんなさい、さっきはあたしの不注意で気づかなかったの!もう大丈夫よ!」

その人たちがびくびくしながら立ち上がると、見慣れない顔が見えた。身にまとった鎧もだぶついていて体に合っていなかった。


「……あんたたち、どの卒長の手下なの?」


「将軍様……わ、私らは今日来たばかりの者でして、まだ配属されておりません。」


「新入りなの?あんたらが朝廷から派遣されてきた援軍か?」

あたしは馬から降り、近くでもう一度観察してみたが、どうにもこの満面溢れる慌て様と痩せ細った人たちを「援軍」と結びつけることができなかった。


「おい、そこの新入りども!練兵場に集合して点呼をするぞ!」

遠くない所から将兵がはきはきとした声で叫ぶと、あの小兵たちはガタガタ震え、逃げるように練兵場へ走っていった。


わだかまる疑念が残り、あたしは馬のつくわを取って練兵場へ向かった。


「……朝廷からの援軍はどういう意味?相手が弱小国家でも頼りなさすぎでしょ?」

「まったくだ!武器の持ち方が分からない上に、猿みたいに痩せ細っているようじゃ戦えないぞ。」

「聞けばこいつらは新兵にも及ばないらしいぞ!……朝廷に無理やり遠征させられた百姓だと。」

「なんだって?!朝廷は狂ったのか?この人たちを無駄死にさせるだけじゃない!」

……


耳元にあふれる議論が麻のごとく千々に乱れ、夕日の光が練兵場にこぼれ落ちていた。一つ一つの青白く怯えた顔は、冷たい重い鎧の中にはめ込まれ、あたかも押さえつけられて身動きできないかのようだった。

黒い雲が徐々に地平線に沈む夕日を覆った。その後ろに隠れていたのは、もっとも暗然たるものだった。


……


夜の新月は彎刀のようだった。物見櫓の中からかすかな胡笳の音が聞こえた。

一人営地の外で巡回していると、刺すような風以外にこの音楽だけが寄り添ってくれていた。


あたしが昼間の出来事を考えていたその時、営地の一角にごそごそ動く人影が横切った。


「誰なの!」

舌の根も乾かないうちに、あたしは人影の背後に回り込んで、鋭い刃のような傘の柄を彼の後ろ首に当てた。


「い、命だけは!!敵じゃありません!味方です!」

その人はすぐに跪き、聞きおぼえのある声と見覚えのある動きで命乞いをした。


「あんたは確か……新入りの援軍ね?ここで何してたの?」

霜のように降り注ぐ月光の明かりを借りて、あたしはようやく目の前の人が昼間馬でぶつかった衛卒だと気づいた。


「女将軍様!どうか見逃してやってくれませんか!このまま死に行きたくないんです……」

彼はとっくに体に合わない甲冑を脱いで、継ぎ接ぎの古い服だけを着ていた。ごつごつした体が余計目立つようになった。


「あんたはもう……軍営に入ったんだよ。脱走兵がどんな仕打ちを受けるか知ってる?」

あたしはしばらく呆気に取られていると、自分の口調が少しきつかったことに気が付いた。


あたしは脱走兵を見たことがなかった。例え死に際に立たされていたとしても、不屈の精神を持った兵士たちは勇敢に敵陣に出向くだろう。

戦場で生き、戦場で死ぬ。全て酒の場の談笑に過ぎなかった。


しかし……全ての人間があたしらのように死を恐れないわけではなかった。


「どうかお慈悲を!私はただの農民です。刀に触れたことなど一度もありません!戦えるわけないんです!」

「私が死ぬのは構いませんが、妻と母もいるんです。この戦乱で食糧危機のご時世に家族を置いていくわけにはいかないんです!」


目の前の男は額ずくのをやめなかった。「妻と母」を聞いた時、遠があの日話していたことが脳裏に浮かんだ。

あたしは傘を収めて、頭を下げ彼の方を見なかった。


「もういいよ、あんたは元々兵士じゃないし、行きな。」


黒い人影が夜の闇の中に消えてゆくのを見送ると、あたしは一人枯れた草地で立ち尽くしていた。


胡笳の音が悠々と霜がかった草をかすめ、どこか哀愁を漂わせていた。

軟弱で青白い顔と、男が哀願する言葉がしきりに目の前に浮かび上がり、あたしは疑わずにはいられなかったーー


数年前、お高く止まっていたあの人があたしに「戦争は一番楽しい遊びだ」と言った。果たしてその真偽はいかほどのものなのだろうか?


Ⅲ.暮夜の変


重なり合うトキ色のテントが目の前で漂い、空と星を遮り、盤踞する龍のような関所を覆った。

トキ色の虎の手先に化け、全てが屈折し揺らいでいた。


これが夢だということは分かっていたが、意識は歯止めが効かないほど闇に陥っていった。


「姫様、起きてください、お薬の時間ですよ。」

薄い垂れ絹が風に吹かれ、侍女がバタバタと繰り込み、濃ゆい赤色のお盆があたしの目の前に置かれた。

香炉の香りが錯綜し、甘く怪しげな匂いがあたしの口と鼻に纏わりついていた。


「あっちにやって!」

息を止めイライラしながら振り向くと、目の前で揺れる人影は匂いの霧の中へと引き込まれ、宮殿の前に散漫する花のようだった。


「これは陛下自ら贈られた霊薬なのですよ、姫様……」


「全員下がれ、あたしは薬なんか飲まない!」


香炉が地面にひっくり返され、か細い煙は小さな蛇のように、徐々に消滅していった。

ぴいちくぱあちく話す侍女たちも小鳥のように散り、滅入った気分もようやく少し薄れた。


「……姫様、陛下と国師がお呼びです。」

休む暇もなく、ユラユラする垂れ絹の間から再び鋭い音がした。

目の前のトキ色が突然隆起し、周囲の景色がわずかに波打ち、別の物へと変化した。


金の塗装が施された翡翠が象嵌された炉鼎から煙がゆらゆらと立ち上がっていた。老朽した腐臭と強烈な香りが絡み合い、喜びと奇妙が満ちた煙へ変わった。

高い所にある豪華な王座の上には、ぐったりした老者が明るい黄色の龍袍の中に縮こまり、冕冠の垂れが顔を隠していた。


彼が私の御侍で、この弾丸の国の君主である。

煉丹修行以外に気になる物はないらしい。


「姫様、霊薬がお口に合わなかったのでしょうか?」

年老いた皇帝の隣の白い袍を着た老道士が払子を動かし、穏やかな顔つきで聞いてきた。


「国師、あたしは食霊だから、霊薬を飲んでも意味なんかないよ。」

あの霊薬が何で出来ているか分からないけど、甘ったるくて生臭い変な臭いだけでもうあたしは絶対に食べないね。


「ほほっ、ごもっとも……食霊も大したことはないですな、霊薬の材料にも成れない上に、炉鼎にも成れない……もったいない。」


老道士は依然として穏やかな顔つきで、人間の皮の面をつけているようだった。彼は払子を振り、皇帝の方に振り向いた。

「陛下、拙僧が聞くところによると、辺境には東籬国という国がございます。そこには多くの珍しい草花と動物が生息して、最適かと……」


老道士が秘密めいた低い声になってから、あたしは何も聞こえなくなった。

今まで寝ていたかのように思えた皇帝が猛突に反応し始め、冕冠の垂れの揺れが止まらなかった。


「いざという時に備えて養ってきた将兵たちも、陛下に忠誠を尽くす時が来たのですよ……」

老道士は顎髭を触り、皇帝の激しくなる反応に満足しているようだった。

「ときに、拙僧は昨夜見た諸現象で、姫がなんと武曲星の生まれ変わりだということが分かったのです。彼女が陣に加入すれば、勝利は間違いありません!」


「ほっ、やれ……」

皇帝はよろめきながら指であたしを指した。

「お前、余の代わりに戦え。」


「戦?どういう意味?」


「ほっ、ほっ……ほっ、戦は、一番楽しい遊びだ。」

金殿の一番高い所にいる槁木のような姿の皇帝は、まるで冕冠と龍袍によって王座に釘付けられ、最終的に奇妙に流れ動く霧影に飲み込まれていくようであった。


彼の言ってることは正しいのかもしれない。老朽した暗い寝殿と心をかき乱す香霧、そして縺れ合う赤い垂れ絹よりも、野蛮な生活の方が自由自在である。


しかし……戦自体は、本当に楽しいだけの遊びなのだろうか?


……


「敵襲!敵襲!全軍警戒せよ!!」


警戒態勢を促す角笛があたしを眠りから呼び覚ました時、燃え盛る炎は既に幕舎を金色がかった赤に映していた。

あたしが寝返りを打って黒い煙と焼けるように熱い気流を払いのけると、目の前に広がった景色は、火によって罪の浄化を受ける煉獄のようだった。


生臭く熱い液体があたしの顔にかかり、あたしはすぐさま前にいたぐったりした衛卒を引っ張り、襲い掛かる槍の攻撃から避けさせた。

ところが、衛卒は地面で転がりながら何か泣き叫んでいて、青白く恐怖に満ちた顔は歪み縮まっていた。


あたしはこいつを知っていた。あの新入りの中の一人だった。


「腕が折れただけじゃ死なない、命が惜しいなら早く逃げな!」

あたしは歯を食いしばって彼の襟を掴み、背後のコヨウ林の方へ引っ張っていった。


兵隊でもない百姓が敵襲時に甲冑さえ着ることも間に合わないというのに、どう頑張っても無駄死にさせるだけだ。


「チッ、皇帝は何を考えてるんだ!」

あたしは怒りを抑えられず、ハスの傘を回転させ、数匹の軍馬の上の人を斬りおとした。


矢とハマビシの火玉が絶え間なく落ち、黒く集まった軍馬が押し寄せる波のように向かって来る。

あたしの目が届かない所では、武器を持たない無数の新兵が泣き叫びながら突き上げられたり落とされたりしていた。


激しい炎が夜を焚きつけ、真っ赤な煙は濃くなるばかりだった。あの幽々たる赤い垂れ絹と香霧より息苦しさを感じた。


違う、全部間違ってる……

戦争――お高く止まったあの人が言っていた取るに足らないゲームとは全然違う!


Ⅳ.帰依


全てが終わった。


黒い霧は晴れず、鷲が血腥さにつられてやってきた。焦土の中の血みどろの物体を貪婪そうに見ていた。

積もり積もった甲冑はまるで高く積みあがった死者の装束を埋葬した墓のようで、昇る朝日を照らし、キラキラ光っていた。


墓と化したのは、数日前一緒に酒を飲み談笑した仲間たちだった。

その中には遠の姿もあった。あの日彼は、凱旋したら私を青石村の実家まで招待して、自家製の菊花酒をごちそうすると話していた。


「女、女将軍……これからどうするおつもりですか?」

どもった声があたしを現実へ引き戻した。痩せ細った新兵があたしの背後にどれだけ立っていたかは分からなかった。来た時は千五百人だったのに、今では百人余りしか残っていなかった。

これもすべて、あたしの仲間たちが命と引き換えに守った結果だった……


「戦は……家と国、そして何千何万といった家族と仲間と同じような百姓を守るためにある。」

これは遠が言ってた言葉だ。そして他の仲間たちが堅く信じていたことだったのかもしれない。

それは生死より重い物だった。


あたしは酒袋の中の酒を一口飲んで、残りを焦土の上にかけた。そして振り返って、驚きうろたえる顔の人たちを見た。

「あたしがあんたたちを故郷まで送り届けるよ……」


言ったそばから、そう遠くないところで舞い上がった砂埃と黒い影に心を引き締められた。

敵軍の援軍?ではないようだ。旗の印が違う。あれは……魚の骨?


「全員あたしの後ろに回って!あたしが敵を迎え撃つわ!」

迫り来る敵を目の前にして、あたしは気を引き締め、混沌とした新兵はあたしの後ろから数丈離れたところで縮こまっていた。


一匹のたくましい赤い鬣をした馬がいななきをあげ、灼熱の太陽と馬の熱い息が一斉にあたしの顔に吹きつけられた。


「伏蛇関に軍隊が駐留していて、近いうちに東籬国へ出兵するとは聞いていたが、これだけの人数しかいないのか?」

馬の上の女性はあたしを見下ろし、かすれた声は辺境の荒い北風のようだった。


あたしは注意深く傘を構えると、女性の後ろにいた数十人の騎馬兵に気づいた。


彼女は辺りを見回し、火の色をした瞳はあの甲冑の山に移った。そして何かを理解したかのようにもう一度あたしの方を見た。

「お前、いい度胸してるな。お前らの皇帝は役立たずだ、私と一緒に来たらどうだ。」


「あんたに着いてくだって?あんた何者よ?」


「私は瑪瑙つみれ、東籬国の皇帝だ。」


「皇帝?!」

目の前の女性は高い軍馬の上に座っていて、威圧感を放っていた。あたしの印象の中の皇帝とは程遠かった。


「なんだ?耄碌した老いぼれだけが皇帝だとでも言うのか?」

彼女は不遜な笑みを浮かべ、繋であたしの後ろの新兵たちを指した。

「私に着いてくれば、こいつらを家まで護送してやろう。」


焼けつくような日差しは、目が開けられないほどに光り輝いていた。真冬だというのに、烈しく放っていた。


「あんたは、あたしがあんたのために戦ってほしいの?」


「へっ、戦の気分は確かに悪くないが、そこに勝者が生まれることはない。私はそこらじゅうの殺気が漲った輩とは違う。」


「戦に勝者はない……」


「お前は硝煙に目と心をくらまされたんだ……私についてくるがいい、お前が好きな戦場の外の世界を見せてやろう。」


瑪瑙つみれはそれ以上何も言わず、馬であたしを近くの村落まで連れて行った。

伏蛇関に駐屯して数か月経つが、何もない辺境の近くにも、このような農地のオアシスがあることを知らなかった。遠が言っていた青石村がこんなにも近かっただなんて……


だが、彼の言うような稲の花の香りが漂う仲睦まじい風景はとっくに存在していなかった。

農地は荒れ果て、茅屋の屋根は剥がれ、あるのは黄色い顔色の老人が数人で村口の木の皮を剥いていただけだった。彼らは混濁した目であたしを観察し、よろけながらあたしの質問を聞き分けていた。


「遠……?あっ、思い出した、あの子の母親は既に餓死したよ……」

「弟?遥のことかね、可哀そうな子だよ……何日か前に朝廷に徴兵されて連れていかれたよ。まだ十三歳だというのに。」

「仕方なかろう……親王の反逆によって、皇帝の兵力は全て戦に出向いておる。戦えるやつは皆お役人様に連れていかれて、わしらのような老いぼれだけが残されたんじゃ。毎日木の皮を食べて命を永らえるしかできんのじゃ……」


荒れ狂う夕焼けは燃え盛る炎のように、寂しい空に広がった。

あたしは長らく老人たちの長話を聞いた。出発前には日も暮れていた。


「話は終わったか?今はあまり軍糧を持ち合わせていないから、お前が面倒じゃなかったら、また送り届けてあげればいい。」

瑪瑙つみれは石壁に寄り掛かり、赤い鬣の馬は静かに枯草を食べていた。


瑪瑙つみれ……ありがとう。」


「私に礼を言ってどうする?たかが干し飯だ。」


「違うよ、あたしに今まで分からなかったことを教えてくれたことに感謝って意味だよ。あたしの仲間たちが命がけで守った世界もこんなはずじゃないのに、それに……」


「おい、それ以上喋ると日が暮れてしまう、いくぞ!」

私が話し終える前に、瑪瑙つみれは既に馬に飛び乗って、私を引き上げた。

夕方の風が彼女の髪を吹き抜け、あたしの頬にパタパタと当たり、心の中でモヤモヤしていた何かを一緒に吹き飛ばしてくれたようだった。


「私に感謝したければ、東籬国に帰って国のために尽くすんだ!」


Ⅴ.荷葉鳳脯


辺境の東には、東籬国という国がある。


そびえたつ伏蛇関はそれ以来、巨龍のように延々と続き、この水と草が豊かで美しく、民間の風俗が純朴な辺境の国を守っている。

硝煙と陣太鼓が未だ足を踏み入れてないこの楽園では、慈雨が慈しみ深く万物を眷顧し、風に吹かれてやって来るのは、婆娑とした草木の音だけであった。


平穏と豊穣が百姓の一飲一啄に刻まれ、ありふれていて、たいへん貴重でもあった。

人々が感謝する相手は神々ではなく、烈日のような鉄血の女帝だった。


言い伝えによると、彼女は人々の祈りと待望により誕生し、天下を照らす灼熱の太陽のような存在だった。


彼女は勇猛果敢で傲慢だった。一人で敵陣に切り込み、佞奸を斬り、反乱を鎮め、社稷を守った。

逆徒は彼女の横暴さを非難し、悪人は彼女の残酷さを恐れた。彼女は血みどろになりながら奮闘して至高の王座まで昇りつめ、まるで決裂した一陣の烈風のようだった。


果てしない草原に激しい風が吹き、卑劣な虫けらどもを粛清し、不潔な蜮を引きちぎり、見渡す限り牛と羊しかいない広大で明朗な草原だけを残した。

こうして、東籬国の人々の人生の新しい章が始まったのであった。


……


昼、金色の天幕の中。

瑪瑙つみれは手紙を見て思い詰めていた。ビクビクしながら跪いていた使者には見向きもしなかった。


数か月前、あの小さな国の老皇帝は全国から兵力を集結し、伏蛇関を攻め落とした。そして東へ進み、東籬をも横領しようと企んでいた。

突如起った退位を迫る行為が老皇帝の命を奪った。即位したばかりの新皇帝は、気力を奮い起こして休戦を図り、特別に使者を送って東籬国の女帝と謁見した。


「へ、陛下……何かご不満な点はおありでしょうか?」

使者は汗だくになりながら、うわさに聞く横暴な女帝を直視することができなかった。


「いや、何もない、これでよい。」

瑪瑙つみれが手紙を豪華な封筒に戻すと、返事を得た使者はほっとして、急いでその場を後にした。

天幕を離れる瞬間、彼は女皇帝の背後の垂れ絹の間に、一人の女性が立っているのが微かに見えた。その姿は戦場で亡くなった前任の姫に少し似ていた。


「チッ、老皇帝が死んでたなんて。だから言ったじゃん、牛の鼻の老道士の霊薬は臭くてまずいって、全部人を騙すためにあったんだよ!」

荷葉鳳脯は垂れ絹をめくり、不満そうに手紙を一目見て、またいつものように机の上を片付け始めた。


「もうよい、お前はこんなことをしなくていい。」

荷葉鳳脯が続けて硯と筆立てを何個もひっくり返した後、瑪瑙つみれはようやく彼女を止めた。


「えっ?でもあたしはあんたのお付き侍女でしょ、身の回りの世話をするのは当たり前じゃない!」


「はっ、お付き侍女だと?私のために力を尽くせとは言ったが、こういう意味ではない……」


「はいはい、あんたはあたしに自分を見張ってて欲しいんでしょ、暴走して戦を仕掛けないように!だから毎日一緒にいるじゃん。他のことはついでにしてるだけだよ!」


トンーー

荷葉鳳脯が自信満々に胸を叩いて、もう片方の手は机の端の花瓶を払い落とした。


「えっと……あっははー、どうしてここに花瓶が置いてあったのかな……」


「あなたがさっき片づけした時に置いたんですよ。」


そんな会話をしていると、天幕の入り口の幕がめくられ、胡服を着た柔弱な男性が入って来た。


彼は目の前の散らかり様を見て目を疑い、眉を顰めてつぶやいた。

「今し方、あちらのパオから煙が出ているのが見えたので、確認しに行ってみてはいかがですか。」


「パオ?!!やばいやばい、ずっと使者の学者ぶった話に気を取られていたから、ラム肉スープのこと忘れてたよ!」

荷葉鳳脯はじだんだを踏んで、慌てて天幕を出た。


「ラム肉スープですか……?この匂いは、硝石か硫酸が爆発したのかと思いましたよ。」

胡桃粥は更に眉を顰め、顔色も少し青白くなっていた。気を取り戻した頃には、自分の両足が地面に固定されていたことに気が付いた。


彼は驚いて瑪瑙つみれの方を向いたが、声は出せなかった。瑪瑙つみれは何も知らずに鳥ざおの上で休憩しているハヤブサと遊んでいた。

しばらくすると、天幕の外からは少女の軽快な足音が近づいてきた。天幕の中に焦げた臭いが広がっていた。


瑪瑙つみれ胡桃粥!今回のラム肉スープはいい感じだよ、味見してみて!」

入り口の幕がめくられ、少女は大きな笑顔で入って来た。手の中のドロドロした物には湯気が立っていて、変な臭いを放っていた。


身動きが取れず、言葉を発せない胡桃粥は、もう一度瑪瑙つみれの方に向かって怒りの視線を送ったが、彼女はほくそ笑みながら口パクでこう言ったーー


「今度は逃げるなよ。禍福を共にしようではないか。」



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