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フィテール・エピソード

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フィテールのエピソード

肇始の神によって創造された最初の食霊は、邪念や不純物がまったくない、究極の善念を象徴する神聖な使者でした。しかし、あまりにも純粋すぎるため、フィテールは世間を理解しておらず、ある面では極端で、時には狂気に陥ることがあります。始まりの神が眠りについた後、彼は神の全ての権限を代行しましたが、彼は他の人を庇護するよりも、ますます自分を完成させることが先決だと考えていました。彼はまず一人を愛することを学ばなければ、世界全体を愛することはできないと信じています。

Ⅰ.神


神様が住む場所は神域と呼ばれています。


神域はとても寒冷です。


暖かい気候であるパラータにとって、神域の存在自体がある種の宣言である――


独自性と至高性を宣告しています。


遠くの景色から目線を取り戻し、寒さが酷くなっていく地下へ進み続けます。


寝室であるはずなのに、極寒のある屋敷に、足を踏み入れるまで。


「久しぶり。最近、どうだい?」


「どう言われても…」


目の前の神様はまだ眠り続けているので、答えてくれたのは当然、神様ではありません。


私は、肇始の神の頭に浮いている浅い黒霧を見つめ、ほっと笑い出しました。


「そうは言っても、声からは、まだ元気だよな。」


「君も、狂気じみたエネルギー源からエネルギーを受け続けてみよう…元気がないほうが難しいだろう。」


「でも幸い、君は肇始の神の力に飲み込まれていない。」


「…その可能性があることを知っているのに、こんな狂ったことをやるんだな。」


「心配するな、何かがあったら、時空の輪で過去に飛び戻るからさ。」


黒霧は私の言葉に、一瞬止まったようだが、またすぐにゆっくりと漂い始めました。


「そういえば、外はどうなっている?」


「外?」


「君に閉じ込まれた時、オトヴィアはまだ諸神との勝負を決めていなかっただろ。それに人間の平原も、焼き尽くされてしまったのか?」


「肇始の神との融合は、『世界再起動』前の記憶を全部失っていないようですね。良かった。」


「世界再起動……」


「そう。肇始の神は時空の輪を取り戻した後、この世界をスタート時点に戻すつもり、つまり私たちがまだ存在していなかった時代に戻すつもりだ」


「……本当に他人の気持ちを考えないよな。ただ、こう見えて、彼は成功しなかったの?」


「半分成功。再起動のプロセスは中断されました。私たちの……『妹』にな。正直、その呼び名は好きじゃないが、彼女をどんな言葉で呼ぶか分からないだけ。」


「あいつ……」


「彼女は災いが始まる前に時間を止めた。人間の平原が焼き尽くす前だ。」


「そうか。それは残念。」


「そう、残念。『逆行』を強制的に中断したことは、ほぼ全ての力を使い切ったが、それでも彼女は残る力で平原を救った─自分を犠牲にして」


「……彼女は死んだの?」



「いいえ、肇始の神は彼女の肉体を確保したが、時空の輪のかけらと共に、彼女の正体がこなごなにされて、どこか消えてしまっていた。」


「君でも、彼女がどこにいるのか分からないの?」


「この大陸で起きていることは全て感知できるものの、彼女はもう彼女じゃないので、今の彼女を見つけられない」


「なるほど……今、ティアラ大陸のことは、君が言うことが絶対だよな?」


「いいえ、ティアラ大陸の生命体はそれぞれ『自己』を持っている。私はそれに干渉したくない。」


「ほー、つまり、俺は『全ての生命体』の中には含まれていないってこと?」


私はその言葉に戸惑いました。いい質問です。


しばらく考え込んで、慎重に答えました。


「まず、君が『生命』を持ち続けることを確保するために、私が介入して干渉する必要がある。」


「えー、本当にえらいだね。」


それは本心ではない称賛だ。それぐらいはわかる。


「わかってるよ、君は私のやり方を気に入らない。だって肇始の神も嫌いだったし、彼は私たちの肇始の神だとしても……今、再び彼の体に戻るなんて、きっとつらいだろうね。」

「でも、それが君を気に入ったところでもあるんだ。」


黒霧は、思わず震え、怒りの感情を放しました。


「俺を苦しむのが好きだと?変態かよ君。」


「いや、言いたいのは……君が神明に逆らえ、嫌悪する気持ちまでのことが好きなんだ。それが君の最も『自己』らしいところなんだから。」


「そうなのか。じゃあ、君も肇始の神を嫌悪すればいいんじゃないか。」


「それはだめ。そうすれば、君はもう『唯一』じゃなくなる。」


「……君のねじくれた性格も、肇始の神の傲慢と比べりゃそれほど変わらないな。」


「うん、わかってるよ。神として、私はまだまだだ。もっと努力して、『世人を愛す』ことを身につけないとね。」


私はゆっくりと手を伸ばし、黒霧に触れようとするが、触れる寸前に、彼に火傷させたように引き返させていました。


「『善』として、今の私は君に苦痛しかもたらせない。」


手を引っ込め、彼を微笑みながら見つめています。


「でも、何とかなるよ。俺たちの時間は無限だから。」


黒霧は黙って、まるで空中で固まったかのように静止している。


「大丈夫、何とかなる。」


君の存在が、私の罪を償うように。私も、君に幸せを。


これこそが「愛」です。


正しく、完全に君を「愛」してから、初めて「世人」を愛す資格ができます。


そうするしか、私が肇始の神の代わりの存在になれません。


この肇始の神に操られない世界で、見つけるんだ……


私自身。


Ⅱ.源


世界のはじめは暗闇だったようです。


終わりなき孤独の中、肇始の神の「希望」がティアラを創造しました。


神の強力なエネルギーで、花や草、魚や虫はこの大陸に奇跡的に急成長しています。


しかし、美しい「庭」は主人だけが楽しむべきではありません。


そこで肇始の神は、彼と外見がやや似ているが、違う生霊を創り出しました。


それが私。


「君は私が『善』の力で創り出したもの。その豊かで純粋な力は、君を『庭』を愛し、守る存在にするだろう、フィテール。」


「守る……どうしたらいいの?」


「何もしなくていい。」


「何も……しない?それが守るってこと?」


「君にとってはそうだ。君の存在自体が威嚇であり、また希望でもある。覚えておくがいい……」


神は私を優しく冷淡な目で見つめています。


「何もしないでいてくれ、我が霊。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。極端なものは、この世界にとって必ずしも良いことではない。」


つまり、私が何かをすることは、この世界に危害を及ぼす可能性があるということですか……


それなら、もう何もしないことにしよう。


でも……


木に寄りかかり、風が吹いてくるのを感じ、揺れる草の葉が優しく肌を撫でるのを感じました……


毎日歩き回り、座ったり寝たりするだけの私は、これらの草葉と何が違うのでしょうか?


いや、草葉は家畜の生命を養い、この世界の空気を清新にすることができます。


私はそれらよりも多く持っているはず――言葉を話せる、自由に動ける、考えられる……


が、それらより存在薄く、虚無です。


神は私を創り、ただ草葉よりも無力であるようにしたとしたら。


なぜ、私に、自分で操縦できる体と、独自の思考を持つ脳を与えるのでしょうか?


なぜ、私に、これほど強力な力を与えるのでしょうか?


神は私に答えを与えませんでした。


または、神は私に、自分で答えを見つけることを望んでいるのかもしれません。


もしかしたら、私は自分で、何をできるか、何をするべきかを、決めることができるのかもしれません……


悩んで考え込んでいる間、この大陸の生命は、止まって私を待っているわけではありませんでした。


エルフは森に住み込んで、人間は平原に生まれ、他の神々も彼らが好む高山や深海に向かいました。


美しい庭とその主人はもはや孤独ではありません。



孤独のは、私だけのことになりました。


花園にいるすべての生命に最大の「善意」を抱いているのに、花園の主以外の、ここにいるすべての生命は、私を恐れ、私から遠ざかります。


私はこの花園から離れないし、彼らの恐れも消しません。何もできません……なぜ、私はここに存在しているのでしょうか?


私はもちろん花園の主ではない。花でもなく、水滴でも砂粒でもありません。


私は……誰?


「我が霊よ、私は何億年もの孤独からこの世界を生み出した。今、お前の気持ちを理解できる。」


「ちょうど良い、時が来た……」


私の悩みとは異なり、肇始の神は普段よりも、喜びも気持ちに満ちているようです。


まるで、彼はこの瞬間を長く待っていたかのようです。


肇始の神は手を伸ばし、指先で空気を軽く触り、そこから黒霧を生み出した。


暗い緑の色が混ざりこんで、ゆっくりと蠢き、人間に似た形を描くまで続きました。


「これがモロヘイヤ、『悪』の集合体だ。君の最も極端な対立面だ。」


私はモロヘイヤという名前の生命を見つめています。彼はまだ生まれたばかりなのに、一瞬の戸惑う目が、すべてを受け入れた目に変わって、その中には無視できない軽蔑が滲んでいます。


彼は肇始の神の言葉に逆らいたいようだが、そうしませんでした。でもその表情は、既に神への最も激しい反逆の表れです。


これまで見たことのない生命です。


鮮やかで強烈で、無視できない生命です。


私も……


「こんにちは、兄貴。」


不吉な笑みを浮かべたその声が、私の思考を引き戻しました。


私はモロヘイヤを見つめ、肇始の神のように、私を嫌ってはいないようですが、彼の目には好奇心と喜びが満ちています。


多分、私も同じ気持ちです。


風が軽く皮膚に触れるのはただの草葉とは異なり、私は彼と比べるつもりはありません。私の無意識の行動で彼を傷つけることも心配いりません。彼は私に関係ない存在だとも思いません。それどころか、胸に広がる「孤独」という感情を強める生命です。


彼もまた、この花園にはそぐわない存在であると同時に、私より花園に与える影響が大きいかもしれません。


そして、その影響はおそらく、より悪いものになるでしょう。


それならば、いいことです。


私は何ができるかが分かったような気がします。


「こんにちは、モロヘイヤ。」


私は彼に手を差し伸べ、その氷のような手が私の手を握る瞬間を期待しています。


神はかつて、善は自然に悪を救おうとしたり浄化しようとしたりすると言いました。


しかし、救われたり浄化されたりした後の彼は、もはや最初の姿ではありません。


彼を変えるつもりはありません。


世界中が彼を嫌悪しようとも、もっとも原初で、極限の悪……


それを、私のものになれるかもしれません。


Ⅲ.善


「感謝、感謝いたします!神さま!」


モロヘイヤが木に吊るされていた人間たちを解放した後、人間たちは一斉に私の足元にひれ伏し、絶え間なく感謝の言葉を述べていました。

(※内容的にフィテールが人間たちを助けているので正しくは「フィテールが木に吊るされていた人間たちを解放した後」の誤りだと思われます。)


それは単純な感謝の表現ではなく、むしろその感謝でモロヘイヤを罰するように私に迫るようなものでした。


「さて、早く戻りなさい。神域はあなたたちが訪れるべき場所ではない。」


神の命令に逆らうことを好まない人間たちは、私の言葉を聞いた後、一切異議を唱える気配もなく、ただ急いで遠ざかっていました。


「なぜ人間たちを解放した?命の源を神々から授かっても感謝を示さなかったことは神々への冒涜だ。罰せられるべきだ」


不満そうなモロヘイヤを見て、私はさっと微笑みました。


「それは肇始の神の仕事だ。神域の木に人間を吊るすことは、肇始の神が好まない光景だからだ。」


「知るかよ」


このような時になると、モロヘイヤは子供っぽくなれます。


「ほっといたら、再び神罰を受けないように気をつけろ。」


「どうでもいい。神罰なんてたいしたことはない。ほら、罰を受けても、今ではここにしっかり立っているだろ。」


「そうか?それなら、私も試してみたくなるな。」


「え?何を言っているの?」


私は頭を振り、話を続けました。


「どこに行くつもり?森林にでも?それとも他の神を探しに行くのか?」


「…なんでお前はそんなにおせっかい?肇始の神は俺を監視するよう頼んでいるのか?」


「いいえ。私も肇始の神も何も監視する必要はなく、監視なしにこの土地で起こるすべてを知ることができる。」


「これは警告か?ふんっ、馬鹿な神がなんでも知っているが、俺を止めていない…それは俺のやっていることを認めているってことだろ。」


「たぶん、まだあなたに感知の力を使っていないだけかもしれない…」


「それはつまり、彼は私が何をしても気にしていないってことだ。お前も余計なお世話をやめておけ。」


モロヘイヤの口調は冷たくなり、私に同行させたくないようだったので、私は神域に残りました。


モロヘイヤが神罰を受ける原因――肇始の神とほぼ同じ容姿を持つ生命体は、その日以来、私たちの前に姿を見せていませんでした。


肇始の神は彼女が嫌っていないようで、では、彼女はどこに連れて行かれ、何が起こったのでしょうか?


微弱な気配に従って、私は肇始の神のいる場所にやってきました。


「我が霊、何か?」


「あの子は今、どこにいますか?」


「彼女には彼女の使命がある。」


「どんな使命?」


「……我が霊、君もお前自身の使命を持っている。他人に過度に気を配る必要はない。特にモロヘイヤには。」


「私の使命は……存在するだけじゃないか。」


「だから『存在』以外のことをするな。モロヘイヤが木に縛り付けた人間たちを救うこともな。」


「……」


「我が霊、他に何か?」


「もし私が『存在』の外のことをしたら、神罰を受けるのか?」


「……受けない。」


「そうか。」


肇始の神が何か言おうとする前に、私は頭を下げてお礼を言い、去りました。


神罰を受けない……それは、少し残念なことです。


私はもともと、モロヘイヤが当時どんな気持ちだったのかを感じてみたかったのです。


ただし肇始の神の言う「受けない」とは、おそらく私に対する信頼の上に成り立っているものでしょう。彼は私が「善」を行うこと超えない、あるいはできないだろうと信じるでしょう。


私は確かにそうはしない。あるいはできないでしょう。しかし……


「私は時空の輪を手に入れるのを手伝えるよ。」


星の精霊たちのリーダーであるオトヴィアは、私の言葉に驚かされた。数日間、愛す者を失った悲しみに苦しむ彼の顔は、本来の輝きを失っていたが、この瞬間にはまるで時間が逆転したかのように再び活気にあふれていた。


「神、神使様、本気なのですか?」


「肇始の神はエルフを助けるのを拒否した。今、時空の輪だけがそれを成し遂げることができる。」


「でも、時空の輪は肇始の神のもので……そして、神使様は…」


「時空の輪は最初から肇始の神のものではなかった。私は『善』であり、愛し合うふたりを再び結びつけることも『善』だ。」


「でも、肇始の神の意志に逆らい、神のものを狙うのは…」


「すべてが神の意志に従わなくてもいい。」


私はオトヴィアの言葉を遮りました。


胸の中に奇妙な感情が穏やかに湧き上がっています。それは私にとって非常に心地よいものです。


「肇始の神はすべての生命が、順調に育つつもりはない。だから…彼も彼が設定したルールに従うはずだ。さもなければ『真理』はどこにあるのか?」


「神も成長する必要があります。私は肇始の神に、この真実を理解してもらいたい。」


「自分自身ですらできないことを、世界に無理やり押し付けない。彼はどんな生命の去りゆくのも受け入れることは、その生命が神の目には同じだから。」


「『光』がなく『闇』はなく、『重い』がなく『軽い』ものもない。彼の意識には『特別』がないので、どんな生命でも捨てることができる。偉大だからではなく、むしろ彼は哀れな存在だから。」


「私もかつてはそうだった…しかし、もっと哀れなのは、自分がどれだけ『哀れ』であるかに気づかなかったことだ。」


「私は肇始の神にこれらのことを気づいてもらいたい。それができれば、それは世界で最も偉大な『善』ではないでしょうか?」


私の言葉を聞いた後、オトヴィアの表情は驚きから徐々に落ち着き、より断固としたものになった。


「ある意味で、君とモロヘイヤは本当に似ているようだ。」


「私たちは共生しているものだ。肇始の神によって分けられた同じコインの両面だ。ただし、神は私たちを勝手に分けたのだ。私はモロヘイヤよりも先に生まれたのは、それは彼の偏見のせいかもしれない。」


「神使様、急に肇始の神に不満を感じるようになったのですが?」


「急ではないし、不満でもない。ただ、私は…ついに、私の『存在』の真の意味を見つけたんだ。」


私はオトヴィアに手を差し伸べ、金色の砂が指先からゆっくりと彼に向かって流れ、彼を包み込んだ後、砂は目の前から消えました。


「それで、一時的にお前の気配を隠せる。ただし、肇始の神がお前一人で感知の能力を使わなければ、お前の存在に気づかないだろう。」


「私はついに気づいた。花園が森、そして巨大な大陸に広がっていくとき、重要なのは花園の主人がどう考えているかではなく、花園の中の無数の生命が共有する願いが何かだということ…」


「もし花園の主人が不適任なら…その花園をより良く引き継ぐ者が現れるだろう。」


Ⅳ.愛


フィテールモロヘイヤを殺すのは君にやってもらおう。」


私は思わず目を見開き、肇始の神の冷たい顔を真正面から見つめました。


「なぜ」


「これも君への罰だ。」


「…私、何か悪いことをしてしまったのですか?」


「君は『悪』を黙認した。」


「でも、『存在』以外のことをするなと言われてたじゃないですか?」


「でも君は私の言った通りにはしなかった。」


彼の言う通りで、私はオトヴィアの気配を隠し、彼に時空の輪を手に入れさせ、モロヘイヤを逃がそうと考えていました。私はたくさんの「存在」以外のことをした。


でも…


「私たちはお前が作ったもの。私たちは間違いを犯した。それは間違いの根源がお前にあることと同じだ。」


「お前たちへの注意不足と正しい導きが欠けていたのは確かだ。しかし、間違いの根源を私に押し付けても、お前たちへの罪を免れることはできない。」


肇始の神の表情は冷たいままですが、その怒りは確かに膨らんでいました。


「もうがっかりさせないでくれ、我が霊。」


「オトヴィアも処刑されるのですか?」


「『死』はこの世界にとって必要なものだ。それに、彼らはいつかまた、『戻ってくる』だろう。」


「でも『戻ってくる』彼らは、もう変わってしまった…」


「我が霊。」


「…最後の質問です。なぜ、私にモロヘイヤを処刑させるのですか。」


「私はまず時空の輪を取り戻しに行く。私が戻ってきた時には、お前が全てを片付けていることを望む。」


「…かしこまりました。」


肇始の神が去った後、私の前に立ちはだかるモロヘイヤがやっと振り返りました。


それが彼の顔に疲労が見えるのは、初めでした。


「ふん、お前も本当に肇始の神のいい犬だな。」


モロヘイヤの視線が変わりつつあり、ますます、肇始の神を見つめるように……


ダメだ。


私は急いで手を伸ばし、その額に軽く触れました。


「眠りな。」


「安心しろ、君を殺すつもりはない。」


「今は、ただ眠るだけでいい…」


昏睡しているモロヘイヤを神域に連れ戻した後、肇始の神も時空の輪を持って帰ってきました。


「我が霊、君はまた行動していない。」


「君が直接オトヴィアを処刑しなかった。もしかすると、君もモロヘイヤの処分を変えたいと考えて、彼にもう一度チャンスを与えるつもりか。」


これもお前に与えられたチャンスだ。


「いいえ、モロヘイヤは間違っている。彼は『善』に封じ込められるべきだったが、彼に過剰な力を与えてしまったことが『善』を誘惑した…これはお前の過ちではなく、私が彼に与えすぎた力のせいだ。」


「…わかりました。私がモロヘイヤを処刑します。」


「うむ。我が霊、私は世界を再起動するが、君の記憶は再起動させない。君はこれらの教訓を覚えておかねばならない。」


「…わかりました、覚えておきます。」


「心配いらん、最終的には選択の権限をお前たち自身に委ねる。我が霊、お前が自分の選択を後悔しなければ、それでいい。」


私は肇始の神を見上げた。彼は疲れ切っているようでした。


なぜ。


なぜ、この世界で最も疲れるべきでない存在、両者とも…


本当に私が間違っていたのでしょうか?


しかし…


自分の欲するものを求めて全力を尽くすこと、果たして、何が間違っているのでしょうか?


それとも、私たちが求めているものが誤っているのでしょうか…


しかし、しかし人を、自己を、世間を愛すことに何が間違っているのでしょうか?


どうして。なぜ。


私は身動きできなくなったモロヘイヤを見つめ、彼がゆっくりと目を開け、彼の目に宿る怒りと嘲笑を見つめました。


君は答えを教えてくれますか?


「フッ…この独裁的な神によって支配されたクソみたいな世界で生きるくらいなら死んだ方がましだ。早くやってくれ。」


だめ。


私が答えを見つけるまで。


君は絶対に死んではいけません。


そこで私はモロヘイヤの肉体を砕き、そして砂で彼の「魂」を封じ込めました―それは物質的な存在を持たないエネルギーで、それが残っている限り、モロヘイヤは「自己」を維持し続けるでしょう。


世界を再起動した後、肇始の神は非常に疲れており、砕けた時空の輪による時空の乱れも調整する必要がありましたから。


私は神に休息を勧めました。そして、彼は神の力を代行する権限を私に委ね、自らは誰にも邪魔されない深海に沈んでいきました。


彼が私の真の意図を見透かしていないとは思いませんでした。おそらく、彼は本当に良い眠りをとりたいだけでしょう。


たとえ、彼が永遠に目を覚ますことがないとしても。


私はモロヘイヤの「魂」を肇始の神の眠り込んだ体内に送り込み、あとはモロヘイヤ自身しだいです。


本当に彼を創造した肇始の神から独立して存在しているなら、私が彼の黒霧に惑わされていないなら、彼の魂が私が見たように強烈で活気に満ちているなら、彼は肇始の神の力に飲み込まれないはずです。


逆に、私が受けるべき罰でしょう。


海が変わり、神力の影響を受けて深海が陸地に変わり、それがパラータと呼ばれる大陸になりました。


肇始の神は地下でずっと眠り続けており、彼の身の外にかかった「神域」や、彼の身の中で成長しているモロヘイヤには、全く気づいていません。


すべてが順調に進んでいるようだ。


「素晴らしい、君の魂はすでに『安定』した。肇始の神と奇妙な『共生』関係を築いているようですね。」


黒霧、すなわちモロヘイヤは私の言葉を反応し、再び激しく震えました。


「だれがこのばかな神の体に寄生することなど望むか!放してくれ!」


「私は君を縛っていない。ただ、君は今、物理的な存在がないため、攻撃を受けやすい。適切な身体を見つけるまで、ここにいる方が安全だ。」


「お前、なかなか自分に言い訳を見つけるな……こんな有様を見て、お前は楽しんでいるのか?」


「そんなことはない。私は君を愛している。君の苦しみは、私の苦しみでもある。」


「愛?はは、冗談じゃないか。お前が『愛』をわかるのか?」


「オトヴィアが教えてくれた。『神は世人を愛す』…まだ完璧には学べていないが、でも…」


「やっぱりな。どんな人間が何を吹き込んだとしても、お前はそれを宝物のように信じ込むんだな。」


「いや、ただオトヴィアの言っていることが理にかなっていると思うだけだ。『愛』は本当に非凡な力を持っている。」



「どんな力だ?『愛』なんて、世界で一番役に立たないものだ。人を欲望に望むものに変えるだけで、軟弱になるだけで、腹を満たすこともできない。」


「そうではない。他の力は破壊しかできないが、ただ『愛』だけは、創造ができる…」


「肇始の神は『愛』を持っていない。それでも我々を創造したじゃないか?」


「肇始の神は『愛』がないのではなく、ただ我々を愛していないだけだ。だからこそ彼は我々を創造し、そして我々は同時に欠陥を持っている…」


「黙れ。」


モロヘイヤは本当に怒っているようだ。でも、彼とのすべての会話は、彼の怒りで終わることがほとんどで、私は慣れっこになってきました。


「ねえ、『愛』って本当にお前が言ったようにすごいのか……賭けてみないか?」


「賭け…」


「これからは、お前を呼ばない限り、俺の前に現れるな。お前が俺に適した身体を見つけるまで。」


「なぜ?」


「肇始の神の力に立ち向かわなければならないし、お前と口論するのが大変だ。もし本当にお前が俺を『愛』しているなら、これくらいのことは我慢できるだろう?」


私は答えず、ただモロヘイヤをじっと見つめた。私が望まないことを企んでいるのはわかっています。


しかし、肇始の神が正気に戻ったときとは異なり、今では彼を傷つけられるのは彼自身だけだ。


私は肇始の神と違って、彼を操りたくはない。彼を愛しているし、世界のすべての生命を愛しているので……



「わかった、今日からはもう会わない」


彼の願いをかなえてやりたいのです。


Ⅴ.フィテール


神は、初めて複雑な思考を行う生命を創造する際、心の中で何を考えていたのでしょうか?


形、声、存在の価値や意味は?


詳細はわからないが、確認できる唯一のことは、その生命の存在の目的がこの世界をより良くすることだったということです。


知恵は世界をより良くすることができるが、同時に生命を苦しませる悩みに陥ることもあります。勤勉さは世界をより良くすることができますが、同時に生命を絶え間ない労働と健康の損傷に陥らせることもあります。


「善」は間違っていないでしょう。


自分を大切にし、他者も大切にする。そして、「善」は知恵の一つでもあり、人を勤勉に駆り立て、それは世界で最も美しい質でもあります。


神の決定は非常に正しかったが、残念ながら神も、生命を創造するのは初めてでした。


そして、極端な「善」が生まれたのです。


あまりにも極端なため、彼はすべての生命の思考と願望を無条件で受け入れ、すべてを実現し、この世界をより良くしようと渇望しました。


エルフや人間は、自分たちの願いを神明に寄せることがでるが、彼の願いは自分自身に頼るしかありませんでした。


達成できないまま長い間迫られる渇望が、極端に進んでいく原因となりました。


神はついに自分の過ちに気づいた。しかし、自らの誇りとしていた作品に、実は欠陥があったということを、決して認めようとしない。


急いで「悪」を創造し、善の注意を分散させ、欲張りな願望を適度に減らすことを意図しました。


また、彼は亡くなった生命に対して少しの残念を感じたこともありましたが、生命が限りなく成長し、最終的には大陸全体に悪夢が蔓延する経験をしたため、「死」を必要とさせざるを得ませんでした。


そして、彼は亡くなった生命がその「魂」を世界に残し、子孫に受け継がれ、自然が癒され、あるいは、ある時点で再び肉体を与える機会を待つことを、目の当たりにしました。


彼にとっては、肉体がどのように変化しようとも、「魂」は永遠に残り、「彼ら」はいつか戻ってきます。


したがって、「死」は恐ろしいものではありません。それが人間やエルフにとって最も暗い悪夢であろうとも。


そのため、「悪」は容赦なく狂気のように育っていきました。


光があれば影があり、善悪は共存し、共存することが普通のことであると言えるでしょう。


彼が予想していなかったのは、極端な「善」と「悪」が互いに影響し合い、最終的には歪みと恐ろしい形に絡まることでした。


モロヘイヤが時空の輪に注意を向けるまで、彼はすべてを上手くコントロールできると信じていました。


そして、穏やかで優れたフィテールが、初めて彼に不満の視線を向けたとき、彼は問題に気付きました。


その子は自分に最も似ている…だから神はおそらく、フィテールが何をしようとしているのかを察しました。


彼は無力ではないけれども阻止したくない。ただ、世界を操る力をフィテールに託すと、運命の針がどちらを指すかを見てみたいと思ったのです。


彼はまた、自分が本当に何か間違ったことをしていないか確認したかったのです。


なぜなら、肇始の神と名乗っていても、彼は結局、あまりにも強力な力をもつ「人間」に過ぎました。


「断界姫、久しぶりだね。君はかなり変わったみたいだね。」


フィテールは、肇始の神の力で成長したパラータの人々に救世主として崇められる女神に挨拶しました。


「あなたが来るとは、私に何か用事があるのですか?今ではもう、誰も『城』にあなたを邪魔することはないでしょう…それとも王室の方…」


「いいえ、私が来たのはただ…今のパラータの人類の数が増えすぎて、君を心配になったからだけだ。」


「心配…私のこと?」


フィテールは微笑んで、優しさと冷淡が入り混じった表情で、かつての肇始の神と瓜二つでした。


「人間の願望は無限だけど…君はそれをすべて実現させる必要はない。君の存在が、そのままの意味だから。」


「人間の欲望に引き摺られないように、デュールガ。」


断界姫は何となく理解したように頷き、そしてためらいながら口を開きました。


「昨日、城の方向から黒い霧のようなものが見えた気がしますが…私の気のせいでしょうか?」


「…あなたの気のせいではない。私がうっかりしただけだ。でも大丈夫。」


フィテールは遠くを眺め、億万年前の神域の方向でした。


「私はとても長い間、辛抱強く待っていました。今は焦らなくてもいいのです。」


「彼が自分で世界を再建することがどれほど困難かに気付くのを、待つことはできませんが、私は少しずつ、ゆっくりと彼を取り戻していくつもりです。」


「神は世人を愛す。世人から、彼は荒れ地のようなものかもしれませんが、私にとってはオアシスです。そんな彼にとって、私だけが彼を愛すでしょう。」


「だから…私は絶対に彼を取り戻すつもりです。絶対に。」



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