「飛する緑鼬」はやて

＜紹介所＞

はやて「いよ～い、よいよい♪ よよいのよい♪ 今日のいたずら、なんにしよ〜♪」

主人公「なんとも不穏な一日の幕開けを感じさせる歌だな、はやて……。」

はやて「おんや、主人公の兄さん！ 今日も相変わらずかっこええな～？ 特にその眼鏡！ 噂の『いめちぇん』いうやつ！？」

はやて「いやいやほんまに似合ってるわ～！ まるで生まれた時からつけてたみたいな？ むしろ体に染みついてるみたいな？」

主人公「うん……。」

はやて「に、にしし……！」

はやて「あ、あかん、我慢できへん！ にひゃひゃひゃ！ あ、兄さん！ 目元に墨の眼鏡かかってるでー！」

主人公「わかってるよ！ 今から洗い落としにいくんだ！」

はやて「ええ〜、ざ、残念やな～、にしし……。せ、せっかくお似合いやのに……！」

主人公「こ、この楽しんでいることを隠そうともしない反応……！ やっぱりはやてが犯人だな！」

はやて「にししししし！ ようわかったな、主人公の兄さん！」

主人公「毎朝やられたらそりゃわかるぞ！」

主人公「くっ、最初のいたずらの時点でもっとちゃんと注意しておくべきだった……！」

はやて「えっ、主人公の兄さんが？ 無理やろ。」

主人公「素で否定された！」

はやて「だって兄さん、甘々やし。言いくるめる方法なんか両手が足りんぐらい思いつくわ。」

主人公「ぐっ！ い、言い返せない。」

はやて「でーもー、うちはそんな兄さんがめっちゃすっきゃで？」

主人公「どこで覚えてくるんだ、そんなの。」

はやて「む、これ系は反応薄いな。つまらん。」

主人公「あ、あのなぁ……。いたずらばっかりしてると、痛い目に……。」

はやて「おっと、お説教ならちょい待って！ うちにも言い分ってもんがあるんや！」

はやて「兄さん、うちが歌舞伎で演じてる妖怪は何か覚えとるか？」

主人公「え？か、鎌鼬（かまいたち）だろ？」

はやて「その通り！ 鎌の両手でしゅしゅっと人の足元をかけまわる……、それこそがうちの得意演目『鎌鼬』や！」

はやて「この鎌鼬言うんが、いたずら好きで有名でな〜。うちが普段やってるいたずらなんか、目でもないぐらい、ごっついいたずら仕掛けるんや！」

主人公「ふ、ふむ……？」

はやて「まだわからへんか、兄さん。つまりうちが普段いたずらを仕掛けるんはな～……。」

はやて「鎌鼬に少しでも近づくため！ つまりは役作りっちゅうことやったんやー！」

主人公「な、なんだってー！」

はやて「その一環で兄さんを巻き込んでしまってるんは、ほんまに申し訳ないと思っとる。ほんまにほんまや。」

はやて「でもな、兄さんの尊い犠牲があるからこそ、うちの鎌鼬はより洗練されるわけやねん！」

主人公「な、なるほど……！」

はやて「わかってくれたか、兄さん！」

主人公「ああ、はやてのいたずらにそんな意味があったなんて……！」

はやて「兄さん！」

主人公「はやて！」

はやて「うっそ。」

主人公「なっ！？」

「にひゃ～ひゃひゃ！ いたずらはいたずらや！ それ以上でもそれ以下でもないで、兄さぁーん！」

主人公「く、くぅ～！ やられた！ こら、どこ行くんだはやて！ 待て～！」

主人公「うっ、もうあんな遠くに……！」

主人公「……きょ、今日のところは見逃してやるか。」

＜時間経過＞

村の少年「癒術士のお兄ちゃん、いる！？」

主人公「うわっ。な、なんだ？」

主人公「あれ、君はよくはやてと一緒に遊んでる……、」

村の少年「は、はやてお姉ちゃんが大変なんだ！ 早く来て！」

主人公「は、はやてが！？」

＜平原＞

ノーズホーン「グルルルルルル！」

ラビューン＆ラビューン「キュイイイ！」

はやて「わぁあああああ！」

村の少年「お兄ちゃん、こっちこっち！」

主人公「何やってるんだ、はやて！？」

はやて「え、あ、兄さん！？ ぼ、坊主め！ 余計なことしよって～！」

はやて「ふーん！ ええ気味やって笑えばええわ！ これぐらい、うち一人でなんとでも……！」

主人公「この数はさすがに無理だろ！ 一体ずつ癒すから、援護してくれ！」

はやて「た、助けてくれんの……？」

主人公「当たり前だろ！ はやく！」

はやて「が、がってん！」

はやて「飛べ、葉っぱたち！ まずは右のラビューンからや！」

ラビューン「キュイ！？」

主人公「よし！」

はやて「次はこっちのラビューンで……！」

ラビューン「キュイ！」

はやて「ノーズホーンでしまいや！ 拍手喝采はお忘れなく！」

ノーズホーン「グルルルル！？」

主人公「ふう……、なんとかなったな。」

村の少年「良かった……。」

はやて「兄さん！ け、怪我とかしとらん？」

主人公「俺は大丈夫だけど……。ああ、こんなに泥だらけになって……。」

はやて「い、一回転んでもうたからな〜。舞台やったら大顰蹙（だいひんしゅく）やったわ、おーこわ！」

主人公「よく無事だったな……。ほら、こっち向いてくれ。顔だけでも綺麗にしとこう。」

はやて「え、ええって、そんなん！」

主人公「役者にとって顔は命だって、みずみから聞いたぞ。そのままにしとくほうがまずいだろ。」

はやて「そ、それはそうやけど……。ううん、あ、兄さん、もうちょい優しく～。」

村の少年「ふふ。はやてお姉ちゃんのそんな顔、初めて見た。」

はやて「な、何笑ってんねん！ お前が兄さん連れてきたから、こんなことなってんねんで！」

主人公「でも、この子が助けを呼びに来てくれなかったら、あのまま切り抜けられる保証もなかっただろ？」

はやて「あ、あい……。」

主人公「そもそも、どうしてあんな状況になってたんだ？ まさか、モンスターにまでいたずらを仕掛けたとか……。」

村の少年「ち、違うよ！」

村の少年「モンスターを怒らせちゃったのは僕で、はやてお姉ちゃんはそれを助けてくれただけなんだ！」

主人公「え、そうなのか？」

はやて「余計なことを……。」

村の少年「迷惑かけてごめんね、お姉ちゃん、お兄ちゃん。モンスターたちも、ごめんなさい……。」

ノーズホーン「ぐるる……。」

主人公「そうだったのか……。」

主人公「ご、ごめん、はやて。最初から疑うようなこと言って……。」

はやて「な、なんで兄さんが謝るんや！ 普段のうちを知ってたら、当然の疑いやわ！」

はやて「むしろ兄さんも、ようやく『疑う』っちゅーことを憶えてくれたんやね！ うんうん、うちの教育も無駄やなかったんやな～。」

主人公「ま、またそう言うことを……。」

はやて「……ごめんはうちや、兄さん。お手数おかけしました。」

はやて「ほんでもって、おおきに。いたずらしてばっかりのうちを助けに来てくれて。」

主人公「当然だろ、仲間なんだから。」

はやて「にしし、そうでした！」

はやて「なーなー、そんなことよりもさー。もう、いつもの『きゅうと』な顔になったやろ？ は、離してくれへんかな～？」

主人公「あ、ごめん。帰ったらちゃんと服も洗濯するんだぞ。」

「はいは～い！ ほんじゃ、もうちょっと遊んできま〜す！」

主人公「さっきの今で元気だな！？」

はやて「にしし！ 鼬は風の子、元気の子や！ ほら行くで、坊主！ 村のガキ共集めて、鬼ごっこや～！」

「あ、待ってよお姉ちゃん！」

主人公「……化生屋の子供たちが、はやてを慕っているっていう意味がわかった気がするな。」

はやて「あー、そういえば兄さーん！」

主人公「どうした？」

はやて「さっき拭いてくれてる時なー！」

「銀杏の粉を兄さんの手に擦り付けといたから、めっちゃ臭いと思うでー！」

主人公「は、はやてぇー！」