「花添なる澄刃」カレン

＜紹介所＞

カレン「今日咲く彼の花は、どんな花……？」

カレン「……、」

カレン「ペチュニア……、そう。よかった、危険なことはないみたいね。」

メルク「カレンさん？　今朝も占っていたのです？」

カレン「ええ。無茶をよくする人だから……、もう日課なのよ。」

＜暗転＞

（……？）

（あ、れ……？　わたし、どうしたんだったかしら）

（朝、占って……、その後、たしか……）

＜回想 - 森＞

主人公「これから癒すモンスターは、悪夢を見せる攻撃をするそうです。」

主人公「カレンさん、十分に気を付けてくださいね……！」

＜暗転＞

（そう、だった）

（じゃあここは……）

カレン（わたしの、悪夢の中……！）

カレン（なら…………、きっと、わたしが見る悪夢は……）

カレン（４年前の、あの頃のこと）

＜回想 - 森＞

「ついてくるな。はっ、暇なのかよ。カレン姉さん？」

「そんな言い方しなくていいでしょう。わたしは姉弟子としてあなたを監督する義務があるのよ。」

「監督、ね。心配しなくても面倒は起こさないし、あんたには関係ない。安心しろ。」

「関係ないって……、待ちなさい！　アルシオン！」

＜回想 - 魔法の国の町＞

「師匠！　どうしてアルシオンの好きにさせるの？」

「師匠にも失礼な態度だし、いつも勝手なことばかりして……！　わたしだって……、」

「心配してるのに！」

「カレン。」

「し、師匠？」

「好きにさせておやりなさい。お前にはまだ少し早い。」

＜回想 - 魔法の国の町2＞

「師匠の馬鹿……。アルシオンも馬鹿よ。」

「弟弟子が知らないところで怪我して帰ってきてるのよ。誰かと喧嘩でもしてたらどうするの？　なのに、好きにやらせろなんて……、」

「……いつかほんとに大怪我をしちゃったら、どうしよう。」

「そんなへまするかよ、カレン姉さん。」

「アルシオン！　あなた、今日はどこにいって……、」

「さぁな。どこでもいいだろ。師匠からも首突っこむなって言われたんだろ？」

「わたしはあなたの姉弟子なのよ！？」

「はっ。俺より才能がないくせに。」

「……！」

「ぁ……、……、そういうことだ。わかったら、俺のことは放っておけ。じゃあな。」

＜暗転＞

カレン（イヤ……）

カレン（これ以上、先は……、わたし……）

カレン（本当に、馬鹿なことを……！）

＜回想 - 山の麓＞

「はぁっ、はぁっ！　占いだと、こっちの方角のはず……！」

（今日こそ、アルシオンを見つけてみせる。もうひと月も帰ってきてないのよ。姉弟子として、放っておけない……！）

（絶対に、叱ってやるんだか、ら……）

（……え？）

「『放て。放て。重ねて放て』『人の届かぬ未知の位置。人が重ねた力により、今この時にこそ到達せん』」

（アルシオン？　……なにを、しているの？）

「お前は！　もうこの世界に必要ないんだよ！　禁術は禁術らしく……っ！」

（なにと、戦っているの）

「封じられていろ！　『禁じよ。封じよ。綻びを閉ざせ』！」

（たったひとり、そんなに痛々しい姿で）

<回想 - 山の麓(雨)>

（落ちていく）

（空から、わたしのたったひとりの、弟弟子が）

（なにかを守るために、なにかと戦って）

「……っ！　わたし、なにをぼうっとして……！」

「アルシオン！」

＜回想 - 宿屋＞

「……腕、あげてくれる？　包帯をかえるから。」

「……ん。」

「ねえ、アルシオン……。あれは、なんだったの？」

「……、禁術だ。」

「禁術って……、あの……？」

「あれ以外に似たようなシリーズがあるなら、たまったもんじゃない。」

「……俺は、規律者の一族だ。解き放たれた禁術を、無力化することが役目なんだよ。」

「どうして……、」

「どうして、あなたがそんなことを！　あなたはまだ１５歳なのよ！？　もうやめなさい、危険すぎるわ！」

「……っ、うるさい。」

「アルシオン！」

「うるさい！　これが俺の役目だ。規律者としての……、」

「……才ある者としての。」

＜暗転＞

カレン（そして……）

カレン（そしてわたしは、馬鹿なことをした）

カレン（彼の心に、傷を残すことも知らず……、彼と同じ痛みを背負えるなんて、思いあがった、馬鹿なことを）

＜回想 - 宿屋＞

「ある、しおん……？」

「……っ、馬鹿野郎！」

「どうしてこんな真似をした！　どうして……、カレン姉さんまで『紋章』を……、」

「知っていただろう！　これは並みの魔法使いじゃ扱いきれない。その上、刻む時には声も出ない痛みを伴う！」

「……でも、あなたよりは痛くなかったわ。だって……、半分もいかずに失敗したんだもの。」

「あなたの言うとおり、わたしには魔法の才能がなかったわね。姉弟子として、失格だわ。」

「この傷跡は……、その罰かしら。」

「カレン姉さ……、」

「ごめんなさい。少し、眠りたいの……。ひとりにしてくれる？」

「……、本当に、馬鹿だよ。カレン姉さん。」

＜暗転＞

カレン（彼は、ただでさえ背負うものが多い人だったのに。あの頃、まだ１５歳の男の子だったのに……）

カレン（わたしのことまで、背負わせてしまった）

「……ああ。本当に、姉弟子、失格だわ……。」

＜回想＞

「この花、お守りとしてもらっていく。」

＜暗転＞

カレン「……、」

カレン「……、本当に？」

カレン「本当に、つらいことしかなかったの？　彼になにもしてあげられなかったの？　彼とわたしが出会ってから、一度も。」

＜回想 - 森＞

「その、アルシオン。故郷に帰るそうね。」

「ああ。」

＜暗転＞

カレン「違う……。」

＜回想 - 森＞

「……カレン姉さん！」

「な、なに？」

「最後に……、師匠から教わった占い、見せてくれよ。姉弟子なんだろ。」

「……、……いい、けれど。」

＜暗転＞

カレン「あの時の、彼の顔を見て……、思ったんでしょう。」

＜回想 - 森＞

「……はっ。姉さんが嫌がってた理由がわかったぜ。鼻から花が出るなんてな、ダジャレかよ。」

「満足した？　……あなたみたいな占いはできないの。」

「まだ、結果を教えてもらってない。」

「……あらわれた花は、マジカルローズ。意味は……、『あなたに出会えた魔法』。なにかいい出会いが、あったみたいね。」

「……、」

「アルシオン？」

「……いや。この花、お守りとしてもらっていく。」

「え？」

「ありがとな、カレン姉さん。」

＜暗転＞

カレン「そう、わたしは思ったのよ。」

カレン「まだ、諦めるには早いって！」

ヨルノロンド「ヨルルルゥ！」

カレン「あなたが悪夢を見せているモンスターね！　悪いけれど、わたしはここで留まっているわけにはいかないの。」

カレン「いつか、出会えてよかったと、互いに胸を張って言えるようになるために……、」

「わたしは、前に進み続けると決めたのよ！」

＜森＞

主人公「カレンさん！」

カレン「ごめんなさい、主人公くん！　ちょっと懐かしい夢を見ていたわ。」

カレン「さあ、モンスターを癒しましょう！」

＜宿屋＞

カレン「……、書類はこれで全部ね。昼間のモンスターのレポートもまとめたし……、」

カレン「……、」

アルシオン「起きてたのか。」

カレン「その……、今日はお昼寝したから。どうして王国に？」

アルシオン「仕事だ。ここに来たのは……、ま、ついでにな。」

アルシオン「……また無茶をしたな。」

カレン「あなたの方こそ。」

アルシオン「あんたの方が上回ってる。」

カレン「いいえ。姉弟子としてそこは譲れないわ。」

カレン＆アルシオン「……、」

アルシオン「は。」

アルシオン「元気そうだし、俺はもう行く。」

カレン「ええ。」

カレン「……ありがとう。」

アルシオン「別に。ただの気まぐれだ。」

「じゃあな。」

カレン「……まだ、世間話を楽しむほどにはなれないわね。お互いに。」

カレン「でも……、元気になれたのは、弟弟子に久しぶりに会えたから、よ。」

カレン「あなたにとってのわたしも、少しずつ、そうなれてきているのかしら。」

カレン「ふふ。さて、明日に備えて寝なくちゃ。」

カレン「おやすみなさい、アルシオン君。」

＜場面転換＞

「おやすみ、カレン姉さん。いい夢を。」