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CHUNITHM【チュウニズム】攻略wiki

巫黒 ユリ

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【キャラ一覧(無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN)】
スキル一覧(~PARADISE LOST)】【マップ一覧

※ここはCHUNITHM PARADISE LOST以前に実装されたキャラクターのページです。

  • このページに記載されているすべてのスキルの効果は、CHUNITHM PARADISE LOSTまでのものです(限界突破の証系を除き、NEW以降で入手・使用できません)。
  • 専用スキル装備時に名前とグラフィックが変化していたキャラクター(いわゆるトランスフォーム対応キャラ)は、RANK 15にすることで該当グラフィックを自由に選択可能となります。

通常人を呪わば穴二つ

Illustrator:秋赤音


名前巫黒 ユリ(みくろ ゆり)
年齢16歳
職業高校生/JK配信者

イベントinclude:開催日(オリジナルNEW+)

  • 専用スキル「厭勝」を装備することで「巫黒 ユリ/人を呪わば穴二つ」へと名前とグラフィックが変化する。

人気オカルト配信者。

一家に伝わる呪いの遺物を手にしてしまったことが全ての始まりであった。

スキル

RANKスキル
1ゲージブースト・パラダイスロスト
5
10厭勝
15
25限界突破の証
50真・限界突破の証
100絆・限界突破の証

  • ゲージブースト・パラダイスロスト [NORMAL]
  • 天使の祝福の亜種。
  • 規定回数のMISSでゲージが吹っ飛ぶのが「MISSした時点」であるため、その後ミスしなければゲージを増やせる可能性がなくもない。上昇率も消滅しているので、クリアが絶望的なことに変わりはないが。
  • ゲージ7本には+2以上が必要なため、風焔の入手が必須。
  • 7本狙いでよく使われるオーバージャッジと比較すると、「ペナルティまでのMISS許容数が多い」「筐体で所有者が揃う」のが利点。一方で「育成が必須(+2以上)、かつ特定キャラの入手が必須」なのはデメリット。
  • 現在筐体で入手できる汎用スキルの中で、ゲージ7本狙いの即死スキルではないスキルにボーダーブースト・SSがある。
  • 入手や育成の手間さえ惜しまなければ、1515ノーツ以下の譜面*1や、MISSは15回未満に抑えられるがATTACKが多発する譜面にはこのスキルのほうが使いやすいと思われる。
  • 筐体内の入手方法(PARADISE ep.IV実装時点):
  • PARADISE ep.IIIマップ7(PARADISE LOST時点で累計1575マス)クリア
  • PARADISE ep.IVマップ4(PARADISE LOST時点で累計880マス)クリア
GRADE効果
共通MISS判定15回以上の時
MISSでゲージが0になる
初期値MISS判定15回未満の時
ゲージ上昇UP (195%)
+1〃 (205%)
+2〃 (215%)
+3〃 (225%?)
+4〃 (235%?)
+5〃 (245%)
理論値:147000(7本+21000/26k)

所有キャラ【 風焔 / 巫黒 ユリ (1,5) 】


GRADE効果
共通MISS判定で追加ダメージ -10000
初期値250コンボごとにボーナス +15000
+1〃 +16000
GRADE・ゲージ本数ごとの必要ノーツ数(発動回数)
GRADE5本6本7本8本9本10本
初期値500
(2)
750
(3)
1250
(5)
1750
(7)
2000
(8)
2500
(10)
+1500
(2)
750
(3)
1250
(5)
1500
(6)
2000
(8)
2500
(10)

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ランクテーブル

12345
スキルEp.1Ep.2Ep.3スキル
678910
Ep.4Ep.5Ep.6Ep.7スキル
1112131415
Ep.8Ep.9Ep.10Ep.11スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
~50
スキル
~100
スキル

STORY

EPISODE1 オカルト配信者、巫黒ユリ「ぁ――あ――、まだ調子は戻らないか。聞き苦しいかもしれないけど、付き合ってくれると嬉しいな」

 夕食はいつも通りの家族団欒の時間。

 ボク――巫黒ユリは重大発表をした。


 「ねえみんな、ボク、芸能事務所に所属する事になったんだ!」


 ボクのサプライズに父さんと母さんも兄ちゃんも姉ちゃんも、時間が止まったように身動きひとつしない。


 「マジ!? すごいじゃーんユリ! 有名なとこ?」


 いち早く反応してくれたのは姉ちゃん。

 姉ちゃんは自分の事のように喜んでくれて、少し遅れて兄ちゃんも嬉しそうに笑ってくれた。

 けど、父さんと母さんは歓迎しているようには見えなかった。


 「何難しい顔してるの? ちゃんと自分の力でチャンスを掴み取ったんだよ?」


 ボクの夢は声優になる事。

 最初は、家族みんながボクの夢に否定的なスタンスを取っていたけど、ボクは少しでも自分の言葉が誰かのためになると思って配信者になった。


 「ユリのオカルト体験がこんなとこで役に立つなんてねー」


 そう、ボクの配信では自分が子供の頃から体験してきた不思議な出来事を語ったり、視聴者から届いた話を紹介したりしている。


 「ユリの頑張りはパパ達も認めてるよ。もし仮にその事務所に所属するとして、そこは本当にちゃんとした所なのかい?」

 「そこは安心して! 大手事務所のKだから。そこに所属してる芸能人のNとのコラボがきっかけで所属する事になったんだよ」

 「ウッソ! Nちゃんってあの化粧品のCMの子だよね!? アタシよく使ってるわ」


 Nは今をときめく売れっ子の女性芸能人。Nはオカルト趣味を公言していて、テレビではオカルト好き芸能人として名を馳せてもいる。

 Nをよく知りもしない人が、Nをにわかだなんて決めつけて批判してたりするけど、ボクは実際にNと会ってみて、彼女が筋金入りのオカルト好きだって事を知ったんだ。


 「うーん……父親としては、あまりそういう活動をしてほしくはないかな」

 「ええ!? なんで!?」


 その時、父さんと母さんがなんで渋い表情をしているのかなんとなく察しがついた。


 「パパ達は心配しすぎだよ。大手事務所はセキュリティもバッチリなんだから」

 「僕達が心配なのはそこじゃなくて、ユリがまた小学校の頃のような扱いを受けてしまわないかと心配なんだ」

 「……あんな昔の話、もうどーでもいいよ。まだ何かあるの?」

 「ああ、ユリにはオカルトから距離を――」

 「いいでしょう」


 ずっと黙っていた母さんが、突然口を開いた。


 「あなたに半年の猶予をあげる。その期間でモノにならなければ大学に進学する事。あなたの成績ならそれからでも受験勉強は間に合うでしょ? だから結果を見せてみなさい」


 ――これは、母さんからの挑戦状だ、なら。


 「へえ、半年もくれるんだ? その間にボクのファンはどんどん増えちゃうよ」


 ボクがそんな事で引き下がると思ってるなら、文句もつけられないくらいの結果を見せてやる。

 ボクは、絶対に声優になるんだから!

EPISODE2 いわくつき「ある日、ボクは蔵の中で変なものを見つけたんだ。それだけはやけに目を引いて、離さなかった」

 ボクはNとのコラボ配信で着る衣装をスタイリストさんから渡されていたんだけど……。


 「うーん、いまいちピンと来ない……」


 未だに何を着るか決めあぐねていた。

 どれもボク好みじゃないというか、いつものボクっぽさを感じられない。

 ベッドに衣装を並べたまま、何を着るのが正解か天井を見上げながら考えていると、不意に扉を叩く音がした。

 続けて聞こえてきたのは、姉ちゃんの声。


 「ユリー、入ってもいい?」

 「いいよー」


 姉ちゃんが部屋に入ってくると、その後に続いて兄ちゃんも入ってきた。


 「お、早速衣装のチェック!? イイじゃーん、なんかそれっぽく……ああ? ねえ兄貴、どう思う?」

 「微妙だな」

 「やっぱそう思う? これじゃNちゃんの引き立て役ぐらいにしかならないわよね」

 「ああ。せっかくなら、もっと印象を与えられる衣装にするべきだ」


 兄ちゃんと姉ちゃんは、中学に上がる前から呉服屋を営む巫黒家の後継ぎになると決めていて、今は服飾の専門学校に通っている。

 職人気質な兄ちゃんはデザインを、姉ちゃんはパタンナーをしながら人脈を広げ、もう店の経営について意見を出す身だ。

 そんな2人がしばらくボクでファッションショーをやっていると、姉ちゃんが突然叫びだした。


 「ああっ、ビビッと来ないわね!」

 「でも、この中から決めないと……」

 「舐められたらそこで終わりっしょ。いつものユリだったら、もっと攻めてくんじゃない?」


 ボクはゆっくりと頷いた。


 「じゃあ決まりだな。行こうか」

 「え、こんな夜中に? どこへ?」

 「決まってんじゃない。蔵よ蔵」

 「あー……そういう事」


 巫黒家は百年以上続いているだけあり、大きな塀に囲まれた武家屋敷のような家だ。

 有り余った敷地には、着物や反物の保存に適した蔵がある。

 昔はそこで、兄ちゃんと姉ちゃんが友達のいないボクと一緒にかくれんぼしたり鬼ごっこしてくれたんだよね……。


 「さて、着いたわね。さあ、この中からユリに合う衣装を見繕うわよ!」


 観音開きの扉を開けて蔵の中に入ると、子供の頃に感じた懐かしい匂いが、今もそこにあった。

 柱に備えつけられた明かりに火を灯すと、姉ちゃんはずんずんと奥に進んでいく。


 「ユリも気に入ったのを見つけたら教えてくれ」

 「うん、分かった」


 そう言って、ボクも蔵の奥に足を踏み入れると――


 「――ば、手の――る――方へ」

 「ん? 歌?」


 微かな、ほんの微かな音色。

 でも、それはどこか耳に馴染み、心なしかボクを誘っているようにも感じられた。

 ボクはただ、埃を被った桐箪笥の間を通って奥へと向かう。すると、蔵の中でも特に古い桐箪笥が目に留まる。ボクの胸の高さくらいの引き出しに手をかけ力をこめると、すんなりと開いてしまった。

 続けて、薄ぼんやりとした中をのぞくと、そこには――小さな位牌と、紙に包まれた真っ黒い髪の束が。


 「――うわっ!?」


 途端に背筋にぞわりと悪寒が走り、急いで扉を閉めた。


 「ユリ? どうしたんだ?」

 「もしかして、ビビッとくるもの見つけちゃった?」

 「いや……」


 もう一度確認すればいいのに、ボクには今見たのが本当なのか調べる気にはなれなくて、せめてお祈りだけでもしておこうと手を合わせ下に目を向ける。


 「……ん?」


 ふと、箪笥の最下段の引き出しから緑色の生地がわずかにはみ出している事に気がついた。

 あれ……あんな目立つ色なのに、なんで今まで……ていうか、最初から見えてたっけ?


 「わっ、すごい綺麗じゃん! それ!」

 「おお、ユリのイメージに合いそうだな。これをアレンジしてみよう」


 湧き上がってきた疑問を誰かに話す隙もなく、結局ボクは箪笥の中にあった生地を持ち帰り、それで衣装を作ってもらう事になった。


 それから数日後。

 朝早くにボクの部屋へ兄ちゃんと姉ちゃんがやってきた。


 「できたわよ、ユリ!」


 そう言って手渡されたのは、緑色が映える色鮮やかな羽織。

 毎晩遅くまで行われた作業によって、緑の生地は見事に色鮮やかな羽織に生まれ変わっていた。

 早速腕を袖に通してみる。やけにボクの身体に馴染むのが気になるけど、2人を問い詰めるのは後にしよう。


 「すごく綺麗。ありがと、兄ちゃん、姉ちゃん!」

 「芸能界の荒波に呑まれるなよ? ユリの晴れ舞台、楽しみにしてるからな」

 「頑張りなさいよ? 家の事はアタシ達に任せて、ユリは自由に――」

 「あんた達! 何やったの!!」

 「か、母さん!?」


 母さんが息を切らせながらボク達の前にやってきた。こんなに取り乱した姿を見るのは初めてだ。

 ものすごい剣幕にボク達が何も言えずにいると、母さんは続けて言った。


 「その羽織、蔵にしまってあった生地を使ったんじゃないでしょうね!?」

 「そ、そうだけど……マズかった?」

 「ええ、問題大アリよ!」


 母さんは大きなため息をつくと、羽織にしてしまった生地が代々家に伝わる“いわく付き”の代物である事を教えてくれた。

 なんでもこれは創業当時のご先祖様が遺した呪いの逸品らしく、昔からこれにまつわる縁起の悪い話がいくつもあった。

 その呪いが原因で巫黒家を恨んだ者とのいさかいが絶える事はなかったそうだけど、結果は巫黒家の繁栄を見れば自ずとわかる。

 呪いの力は強大で、百年以上たってもなお祓う事ができず、恨みや妬みに強く反応し災いをもたらしてしまうという。


 「こんなに綺麗なのに、本当に呪いなんてあるの?」

 「ユリ、それを着てみて何か変な感じするか?」

 「うーん、特には。むしろ着心地の良さにびっくり」

 「今は何もないかもしれないけど、呪いはあるの。いい? これは決して冗談なんかじゃない、本当の事なのよ」

 「母さんは心配しすぎだよ。いわく付きだとか言われてもさ、現にボクにはなんの影響もない。どうせ呪い話もご先祖様が巫黒家の箔をつけるために、でっち上げたものなんじゃないの?」

 「……ユリ! なんて事言うの!!」

 「本当に何か起こったら蔵に戻すから! ボクは学校に行ってくるよ!」


 ボクは母さんから逃げるように部屋に戻ると、学校の支度をして屋敷を後にした。

EPISODE3 ぱずる「今思えば……あれがすべての始まりだったのかもしれない……」

 母さんはあれから毎日ボクの様子を聞いてきたけど、そうしているうちに日にちだけが過ぎていった。


 そして、ボクとNのコラボ配信当日がやってきた。

 ボクはNの楽屋に挨拶に行くと、向かいの椅子に腰掛けたNがメイクのチェックをしている所だった。

 Nの後ろの長机には少し歳の離れた大人の女性――あのお姉さんがマネージャーのRさんだ。


 「Rさんごめんなさい。タイミング悪かったですね」

 「気にしなくて良いわよ巫黒さん……あら? その衣装、用意したものと違うんじゃ……」

 「兄達が今日のために手作りしてくれて……だから、こっちの方がいいかなって思って」

 「あなた、そんな勝手な……!」


 あちゃ……やっぱり怒られるよね……。

 そんな考えが頭をよぎった時、ふと横から声がかけられた。


 「Rから聞いてた衣装はちょっとユリちゃんの世界観と違うなって思ってたからさ、その和風な感じメッチャ良いじゃん!」

 「え? あ、ありがとうございます!」

 「あはは、もしかして緊張してる? あとさ、私に敬語なんていらないよー。歳も離れてないんだしさ!」

 「え、でも……」

 「巫黒さんが困ってるじゃない。Nはいつもこの調子だから、早めに慣れておいた方がいいわよ?」

 「分かりました。じゃあ……これからよろしく、N」

 「よろしくね!」

 「あ、そうだ。うちの母から差し入れが……ん?」


 差し入れを渡そうと2人に近づくと、ふと何かの視線を感じたような気がした。

 つられて机の方を見ると、そこには手毬のようなカラフルなおもちゃが置いてある。見た感じの印象は、揃える面がめちゃくちゃに増えたルービックキューブのようだ。


 「あの、これパズルか何かですか?」

 「多分そうじゃない? なんか最初から楽屋に置いてあったんだよねー。ちょっと不気味な感じするしさー、話のネタに使えるかも!」

 「Nってば、また段取りに無い事を……」

 「もしかして、呪いのアイテムだったりして!なんてね。さすがにないか! ユリもそう思うでしょ?」

 「どうかな。案外こういうのって危ないんだよね。とんでもない怨念が籠もってたりするから……これ、触ってみてもいい?」

 「いいよー」


 ボクは差し入れをRさんに渡し、机に置かれたパズルを手に取って適当に動かしてみた。手の上で転がしていると、なんだか妙な生暖かさを感じる。

 N達が触ったばかりなのか……なんて考えが頭をよぎった次の瞬間、不意に「カチッ」と何かがハマるような音がした。


 「「「えっ?」」」


 その場にいた全員が呆気に取られた声を漏らす。

 すると、パズルが勝手にくるくる回転しだしたかと思うと、あっという間に球体から4本足の動物のような形に変わっていたのだ。


 「え、どうして……」

 「N? ちょっとN、どうしたの!?」


 Rさんの声でNの方へ振り向くと、Nは視線を扉の方に向けたまま一言も喋らずにぼんやりとしていた。


 「ん……? べ、別に、私は大丈夫だよ」

 「本当? 気分が悪いなら早めに……」

 「全然気にしなくて大丈夫だから! ホントに!」


 どう返せばいいか戸惑っていると、唐突にスタッフさんが入ってきてしまい、結局あのパズルは有耶無耶なままになってしまった。


 黄昏時が近づき、いよいよ生配信の時間。

 ボクとNは取り壊し予定の学校を舞台に、真っ暗な教室の中でオカルト話を行う事になっていた。

 仄かに灯る蝋燭を中心に向かい合い、床に座るボクとN。

 Nは、ボクが話を切る絶妙のタイミングで合いの手を入れてくれる。テンポを崩さず場を盛り上げ、相手を持ち上げるトークの技術は、さすが売れっ子といったところ。

 視聴者からの反応も好調なのか、カメラに映らない場所で控えるRさんの表情は穏やかだ。


 そろそろ後半に差し掛かってきた事だし、とっておきの話でNを怖がらせてやろう――そうNの方を見ると、彼女は身体を小さく揺らしながら虚ろな目で教室の端を見つめ続けていた。


 「あはは、Nってば、怖くなっちゃった?」

 「たしかにもりではよくつれる」

 「え?」

 「つめのなかのにくはやわらかい」


 二言三言やり取りしても、まるで噛み合わない。

 さすがに周りの人達もNの様子がおかしい事に気づいたのか、ひそひそと小声で何やら話している。

 これ……放送事故なんじゃ――


 「ひっ――ぁああああああああ!!」


 突然、Nが怯えた顔で大きく後ろにのけぞった。

 何が起きたのか分からないボク達をよそに、Nは悲鳴をあげてのたうち回る。

 そして、一瞬身体をビクンと反らし、それきり動かなくなってしまった。

 その光景を皮切りに、周囲からスタッフさん達やRさんの声が響く。

 騒然とする状況の中、ボクの耳にはいつまでもNのつんざくような悲鳴がこびりついて離れなかった。

EPISODE4 やくびょうがみ「『N芸能界引退か? 事件の真相に芸能界の闇』か。ほんと、好き勝手言ってくれるよね」

 ボクとのコラボ配信の際中に倒れたNは、救急車に担ぎ込まれていったまま戻ってこなかった。


 そして、数日後。

 Rさんからの連絡で、ボクはNが芸能活動を休止する事を知った。

 公には体調不良が原因で一時的に休止すると発表していたけど、本当の理由は違う。Nはあの日を境に何かに怯えて、家に引きこもってしまったからだという。


 あの生配信の動画はすぐに削除されたけど、一度でもネット上に公開したものを完全に消し去る事は難しい。

 当然、あの映像は「伝説の神回」とか「やらせ」とか色々と尾ひれがついた状態で拡散されていった。

 それからボクは、Nを活動休止に追いやった“疫病神”として、ネットリンチに遭う日々だ。


 「まあ、あの動画の内容じゃそう言われるのも仕方ないか」


 炎上騒ぎはボクのチャンネルにも飛び火した。

 「女が調子に乗んな」「Nがおかしくなったのは全部お前のせいだ」やら、ある事ない事まで散々な言いようだ。


 「ったく、ここはお前らの鬱憤を晴らすゴミ箱じゃないっての。こんな事で時間を浪費するなら、もっと建設的な事をすればいいのにさ」


 そもそもボクはこういうのに慣れっこだから、知りもしない奴の言葉なんて何とも思わない。

 前々からボクに粘着する奴はいたけど、最近のは特に酷かった。

 スパムめいたものから、文法も怪しい支離滅裂な言葉まで多種多様。


 「好き放題に言ってくれるよ。この『猿獵獺獅猩狗猿犲狃猜狂犲狂猜狃犲猿狗猩獅獺獵猿猿猿獵獺獅猩狗猿犲狃猜狂犲獄犲狂猜狃犲猿狗猩獅獺獵猿猿猿獵獺獅猩狗猿犲狃猜狂犲狂猜狃犲猿狗猩獅獺獵猿』とか、なんて書いてあるんだか」


 あれ、ボク今なんて言ったんだろ。

 まあ……いいか。


 「N……大丈夫かな……」


 あの時のNは、まるで“何か”の姿に怯えているように思えた。ボクにはあれが演技だったとはとても思えない。

 挨拶に行くまではなんともなかったんだ。

 やっぱりNの様子がおかしくなったのも、ボクがあのパズルに触れちゃったからなんじゃないかな……。

 でも仮にそうだとして、なんでNだけに反応が現れ、ううん、そもそも呪いなんてものが――


  ――trrrrrr!!


 部屋に響いた着信音にハッとして、慌ててスマホを確認する。表示されていたのはRさんの名前だった。


 「もしもし、巫黒です」

 「み、巫黒さん? よかった! つながって!」

 「どうしたんですか? まさか、Nに何か!?」

 「わ、私っ、どうすればいいか、わからなくて……!お願い! 助けて……っ!」

 「落ち着いてください。今どこですか? すぐそこに向かうので!」


 Rさんとの通話を終えて、ボクはNが住んでいるマンションへと向かった。

EPISODE5 けはい「あんなに元気だったNは、見る影もなくなっていた。人間って、こんな短期間で変わってしまうんだ……」

 Nのマンションに着いた頃には、時刻は正午を回っていた。

 エントランスにあるオートロック式のインターホンを何度か鳴らすと、しばらくしてRさんの声が聞こえてくる。

 ロックを解除してもらい、Nが住むXXX室に向かうと、ちょうどRさんが出てくる所に遭遇した。


 「巫黒さん! ありがとう……来てくれて……」

 「それで、Nは大丈夫なんですか?」

 「ええ、やっと落ち着いたの……さあ、入って」


 Nの家に入ると、途端にむわっとした熱気と、ペットを飼っている家特有の匂いがした。

 犬か猫でも飼ってるのかな?

 それにしても、まだお昼過ぎだっていうのに家の中はやけに暗かった。

 暗くてわかりにくいけど、Nの家はかなり広い。さすがに売れっ子芸能人は違うというか……。

 Rさんに案内されながら、通路を少し進んで右に曲がった所にあったのはNの寝室。

 その部屋の中心に置かれたベッドの上で、Nは頭から毛布を被り膝を抱えながら座っていた。


 「N!?」

 「ぁ……ユリ……」


 Nはボクだと分かった瞬間にボロボロと涙を流してむせび泣く。あんなに元気だったNの姿は、もはや見る影もない。


 「どうしてこんな事に……」


 Rさんは、Nに聞こえないようにそっとボクに耳打ちした。


 「Nはあの日からずっと何かに怯えていて。それが病院で一晩過ごしても変わらないから、しばらく私もNの家に泊まって様子を見ようと思ったらあれが……」

 「あれ?」

 「こっちに来て」


 Rさんと居間の方へと向かう。

 そして、真っ暗な部屋の中心に、それはあった。

 机の上に置かれた……異様な存在感を放つ、あのパズルが。


 「……誰かが持ってきたってわけじゃ、ないんですよね?」

 「あんな不気味な物、持ってこないわよ! ねえ、あれって呪いなの? 呪いなんでしょう!?」

 「……」


 ボクは趣味でオカルト話をあさったりもするけど、あのパズルみたいな物は初めてだ。

 アレが本当に呪いの道具とかその手の類の物だとしたら、やっぱりその道に詳しい人に聞くのが一番のはず。


 「知り合いに以前からお世話になってるお寺の住職さまがいます。その人なら、何かわかるかもしれません」

 「本当? それでNの呪いはどうにかできるの?」

 「解決の糸口にはなるはずです。ちょっと、今から会えるか確認してみますね」

 「ええ、わかったわ!」


 それからすぐに住職さまと連絡がつき、ボクは急遽NとRさんを連れて、お寺に向かう事になった。

EPISODE6 のろい「Nの呪いを解くために、ボクは知り合いの住職さまを紹介した。これで、きっと呪いは……」

 お寺に着く頃には、辺りは夕暮れになっていた。

 事前に連絡していた事もあり、住職さまはボク達を速やかにお堂の中に案内してくれる。

 お堂に向かうと、神妙な顔つきのお弟子さんが2人隅に控えていた。

 住職さまは、みんなが揃ったのを確認すると物腰柔らかい口調で語りかける。


 「皆さん、ご足労いただきありがとうございます。それで巫黒さんが仰っていた物とは、どちらでしょう」

 「これなんですけど……」


 ボクは、風呂敷に包んでいたパズルを取り出し、住職さまに見せた。


 「……!」


 それを目にした途端、住職さまはほんの一瞬だけ息を呑んだような気がしたけど、すぐに元の穏やかな雰囲気へと戻っていく。

 住職さまは続けて言った。


 「これは、まごう事なき呪物ですね」

 「呪物、ですか」

 「左様。これを誰が送りこんだのかは不明ですが、確かなのは、恨み、怒り、妬み――あらゆる負の情念がNさんへ向けられているという事です」

 「……私、誰かに恨まれるような……」

 「どのような振舞いが、言葉が、誰かの恨みを買うかなど誰にもわかりません」

 「そんな……」


 動揺したNがその場に膝をつく。すぐにRさんに支えられて立ち上がったけど、その身体は明らかに震えていた。

 ボクはそんなNの姿が耐えられず、住職さまを急かすように尋ねる。


 「それで、どうなんでしょうか」

 「これはとても恐ろしい物です。私にも祓えるかどうか……」

 「じ、じゃあ、私はこれに呪い殺されて……」

 「気を強くもってください。そうならないよう、全身全霊であたらせていただきますので」


 住職さまはそう言うと、隅で正座するお弟子さんに合図する。


 「これよりお祓いを行います。皆さんはこちらで用意した装束に着替えてください」

 「え、ボクとRさんもですか?」

 「左様。わずかではありますが、呪いの気配を感じますので」


 ――それからボク達は、お弟子さんに案内された部屋で真っ白な装束に着替え、お堂に戻ってきた。

 祭壇にはあのパズルが捧げられていて、その手前に住職さまが正座している。

 ボク達は住職さまから少し距離を空けた所に横一列で正座した。

 そして、住職さまが振り返ると、その手にはいつの間にか水でいっぱいに満たされたひしゃくが握られていて――唐突に、ボク達へその水を薙ぎ払うように浴びせかけた。


 「っ!?」

 「お静かに!」


 続けて何度か水を浴びせると、住職さまはボク達に向かい合うように座って何事かつぶやき始める。

 多分、お祓いの言葉なんだろう。

 お弟子さんもボク達を囲んで座り、住職さまに続いて唱え始めた。

 これなら、呪いを解けるかもしれない。そう思った矢先に、異変は起きた。


「猿獵獺獅猩狗猿犲狃猜狂犲狂猜狃犲猿狗猩獅獺獵猿猿獵獺獅猩狗猿犲狃猜狂犲獄犲狂猜狃犲猿狗猩獅獺獵猿猿獵獺獅猩狗猿犲狃猜狂犲狂猜狃犲猿狗猩獅獺獵猿」

 「ひっ!?」


 お弟子さんがぐるんと白目をむいて何かの言葉を吐き出し、唐突に首を押さえて苦しみだすとその場に倒れてしまう。もう一人も後を追うように崩れ落ち、そのまま身動きひとつしなくなった。

 異質な空気に、住職さまの方を振り返る。


 「じ、住職さ――」

 「ぐっ……こ、れは……!? まさか……呪いは、ひと……っ、では……っ!?」


 それが、住職さまの最後の言葉だった。

 住職さまは、呪いを見通す眼で何かを見てしまったとでもいうように、意識を失い泡を吹いて前のめりに倒れてしまう。


 それからの記憶はやけに曖昧で、ボク達は姿の見えない何かから逃げるようにお寺を去っていた。

 あまりに非現実的な事が起こりすぎていて、今までの出来事は、すべて夢だったんじゃないかとさえ思ってしまう。

 でもこれは現実で。

 Nにかけられた呪いは、今も確実に忍び寄っていた。

EPISODE7 かげ「呪いが牙をむき始めた。ボク達に残された時間は、もうわずかなのかもしれない」

 ボク達はあのお寺から離れたい一心で、Nのマンションまで逃げ帰った。

 静まりかえったエントランスホールを進み、エレベーターに乗り込むと、Nは沈黙に耐えられずか細い声でつぶやく。


 「私も……呪いでおかしくなっちゃうんだ……」

 「N……」


 ボクもRさんも、気の利いた言葉を言えないまま、Nが住む階に到着するのだった。


 本当に……どうにもできないのかな。こんな形でNを失いたくなんてない。かと言って、状況を解決する具体的な策を持ち合わせているわけでもない。

 焦る気持ちが次々と嫌な考えを呼びこみ、その考えが更に嫌な考えを引き寄せる。

 そして、“最悪”の事態が脳裏をよぎりかけたところで、ボクは慌ててその考えを消し去った。

 思考は中断され、ふと前を向く。

 気づけば、ボクは2人から少し離れた所に立っていた。


 「ユリ、どうしたの?」

 「ごめん、考え事しちゃって」


 浮かんできた考えを追い払いたくて、気持ちを切り替えるためにボクは別の話を振る事にした。


 「そういえば、Nってなんの動物を飼ってるの?」

 「……え?」

 「Nの家にあがった時に匂いがしたからさ。Nは猫派? 犬――」

 「――ってない。私、ペットなんて飼ってない!」


 Nの言葉に、怖気が走る。

 刹那、むせ返るような獣臭さが充満したかと思うと、Nの家の扉がひとりでに開いて――Nが暗闇の中に引きずりこまれてしまった。


 「ひっ――」

 「「N!?」」


 真っ黒い影だ。

 ほんの一瞬だったけど、ボクは、そいつがNの腕に絡みついているのを見た。

 気づいた時には、ボクは全速力で真っ暗な部屋の中に飛びこんでいった。

 あれに連れて行かれるのはまずい。そんな直感が、ボクの身体を突き動かしていたんだ。

 土足のまま転がりこむように廊下を進むと、Nが居間に引きずりこまれようとしている最中だった。


 「行かせるか!」

 「ユリ!?」


 よし、Nの足を掴んだ! 後は、あの影からNを――


 「ユリ! 首が!」

 「っ!? ぐっ……んん……」


 唐突に、首の辺りに傷みが走った。

 それと同時に、何かの息遣いと熱を感じる。

 薄暗くて姿は見えないけど、何かがボクの首を圧迫して――

 くそっ、ふざけるな……お前なんかに、Nも、ボクの夢も、ぶち壊されて……たまるか……!


 意識が途切れかけた瞬間、ボクは見た。

 ボクとNに纏わりついていた影が、何かに弾かれるように消えていくのを。

 あれだけ臭っていた獣臭さも、いつの間にか綺麗さっぱり消えていた。


 「た、助かった……?」

 「N! 巫黒さん! よかった……無事で……!」

 「……す、すごい、どうやったの、ユリ?」

 「わかんない……ただ、あんな影に邪魔されるのがイヤだと思ったら、消えてて……」


 荒く息を吐くたびに感じる首の痛みを、少しでも和らげようと手で触れる。


 「――ば、――方へ――」


 その時、ボクは微かな声を聞いた。

 打ち消した呪いを蔑むように、揶揄うように。

 ただ、嗤っていた。


 もしかして……これが、母さんの言ってた羽織の呪い?

 強い負の想念に反応し、災いをもたらす力。

 羽織にかけられた呪いの力が、Nの呪いと反発しあった結果、より強い力を持つ羽織の呪いに打ち消されてしまったんだ。


 「これなら、もしかして――」


 ――trrrrrrrr!!


 「「「きゃあっ!?」」」


 沈黙を突き破る、けたたましい着信音。

 胸ポケットで鳴り響くスマホを慌てて取り出し画面を確認する。

 そこには、母さんの名前が表示されていた。


 「もしもし……母さ――」

 『ユリ!! アンタどこほっつき歩いてんの!!すぐパパを迎えに行かせるから、すぐに居場所を吐きなさい!』

 「娘に向かって、さすがに吐くはないんじゃ……」

 『お黙り! まったく、何時だと思ってんのよ。全然つながらないし、どれだけ心配した事か……』


 言われて画面を確認すると、時刻はもう少しで日付が変わろうとしていた。


 「ご、ごめん……」


 ボクは居場所を伝えて通話を終えると、改めてNを見る。Nは呆気に取られた顔をしていて、少しだけ、生気を取り戻しているような気がした。


 「母さんに怒られちゃったから、ボクは帰るよ」

 「助けてくれてありがとう。これで呪いも……」

 「待って、巫黒さん! あ、あれ……!」

 「え?」


 怯えるRさんの視線の先――半開きの扉から見えた居間の床には、あるはずのないパズルが転がっていた。

EPISODE8 あらがう「呪いを解く糸口を見つけたかもしれない。Nを向こう側になんか、連れて行かせるもんか」

 Nを襲った黒い影を追い払い安堵したのも束の間、Nの家の居間には、そこにあるはずのないパズルが転がっていた。

 そのパズルは、4本足の動物のような姿ではなく、頭身の短い人間のような姿に形を変わってたんだ。


 「な、なんなのよこれ……私が何したっていうのよ……っ!」

 「わ、私達、死ぬまで呪いから逃れられないんだわ」

 「はは……そうよ。そんな簡単に呪いから解放されるわけないんだ……」


 喘ぐNを抱きしめるRさん。

 互いに身を寄せ合って震える2人に、ボクは言った。


 「しっかりして。必ず呪いを解く方法は絶対あるよ。ボクが見つけてみせるから、諦めちゃダメ」

 「……絶対って何? あんなのどうにかできるわけないでしょ? てかさ、そもそもユリがあのパズルの形を変えちゃったのが原因なんじゃないの?」

 「それは……」

 「こんな、こんな事になるなら、オカルトなんかに触れるんじゃなかった……! なんで私が呪い殺されなくちゃいけないのよ!!」

 「…………ごめん」


 Nは恐怖で歯止めがきかなくなり、今まで溜めこんでいたものをすべて吐き出していく。

 後悔、憎悪、嫉妬、そして怒り。

 嗚咽にまみれ、途中から何を言ってるのか判別できなくなっても、その感情だけはひしひしと伝わってくる。


 Nはそれきり、一言も喋らなかった。

 糸が切れた操り人形のように、ただそこにあるだけ。

 こんな状態にしてしまったのはボクだ。

 ボクがオカルト配信なんかしなければ、Nもこんな事には…………いや、そうじゃない。

 こんなふざけた嫌がらせをしてくるヤツがそもそもの原因なんだ。こんな事に屈して、自分を“曲げる”道を選ぶなんてボクにはできない。

 だったら、今ボクにできることは――


 「……Rさん、質問があるんですけどいいですか?」

 「え? ええ、何かしら」

 「あのパズルが届くよりも前に、何かきっかけになるような事はありませんでしたか? 些細な事でいいんです」


 ボクの質問に、Rさんは記憶を辿るように上を向くと、やがてボソリと呟いた。


 「そういえば……あのパズルを楽屋で見つける少し前に、事務所に変な手紙が届いたの」

 「その手紙って、どんな内容か覚えてますか?」

 「あんな不気味なもの、忘れるわけがないわ。意味もわからない漢字がたくさん並んでるうえに、封筒には爪と毛がぐちゃぐちゃに入ってたんだから」

 「それが呪いの大元かもしれません。まだ事務所にあるんですか?」

 「まさか! すぐにゴミ箱に捨てたわよ!」


 それが当然の反応か。

 でも、呪いを解くための糸口は見つかったかもしれない。


 「危険かもしれませんが、事務所に行ってみましょう」


 それからボク達は、マンションまで迎えに来てくれた父さんに頼みこんで、事務所まで運んでもらった。

 幸いにも、Rさんが捨てた手紙はまだ残っていて、あっさり回収できたボク達はそのまま巫黒家の屋敷まで向かう事に。

 未だに影は一度も襲ってきていなかった。

 多分、こっちが妨害しようとしなければ、呪い側は一定の周期で襲ってくるだけなんだろう。

 マンションで消し去った影を1カウントとするなら、ボク達にはまだ余裕があるはず。


 ……こんなに夜の帳を不気味に感じたのは初めてだ。

 この重苦しさが、ボクにはこちらの動きをじっくり観察する獣のように思えたから。

EPISODE9 くらいくらいくらのなか「あっちが呪い殺すっていうなら、ボクにだって考えがある」

 呪われた手紙を回収したボク達は、無事に屋敷まで辿り着いた。

 屋敷の門をくぐり、玄関の扉を開けた瞬間、ボクとN、Rさんは緊張の糸が切れてしまったのか三和土(たたき)の上に崩れるようにへたりこんだ。


 「……やっと帰ってきたわね」

 「うわっ、母さん!?」

 「何が『うわっ』よ、こっちはアンタがちゃんと帰ってこられるのか気が気じゃなかったんだから」

 「“ちゃんと”って、もしかして……」

 「話はパパからある程度聞いてるわ。あなたがNさんとRさんね?」


 事情を聞いていた母さんは、屋敷の中でいろいろと準備を進めていたようで、連れて行かれた座敷には薄手の白装束が用意されていた。

 身につけているものをすべて脱ぎ、そのまま風呂場で身を清める。

 それからボクは、NとRさんを交えた家族会議をする事になった。


 羽織でくるんだ手紙とパズルを中心にして、ボク達は奥座敷に集う。

 口火を切ったのは母さんだった。


 「不幸中の幸いだったわね。ユリが羽織に選ばれてなかったら、Nちゃんはとっくに連れて行かれてたわ」

 「……選ばれる?」

 「ユリは選ばれたんだよ、ご先祖様が生み出した呪物にね。ユリも心当たりがあるんじゃないかな」


 父さんの言葉に、いくつか思い当たる節はある。

 羽織から聞こえてきた声や、蔵で感じた何か。あれはすべてボクへ向けられていたものだったんだ。


 「さて、それじゃあこの呪いをどうにかしなくちゃいけないんだけど……」


 話は呪いへの対処に移った。

 母さん達は先祖の呪いが残る蔵に籠り、知り合いの大師さまを待つと話していたけど、ボクは羽織の呪いが影を追い返した事を告げ、続けてある提案をする。


 「ボクに考えがあるんだ」


 ――

 ――――


 ボクとN、Rさんは揃って蔵の前にやってきた。

 蔵の中は、ボク達が身を清めている間に兄ちゃんと姉ちゃんが綺麗にしてくれていた。


 「一応、寝られるスペースは作っておいたわよ」

 「ありがとう、2人とも」


 ボク達は2人と入れ替わる形で蔵の中に入っていく。

 柱にくくりつけられた灯りに照らされた蔵の中は、すっかり雰囲気も変わっている。

 すると、無言で入っていったNは何かに気づいたように辺りに目を向ける。


 「これ……もしかして私が使ってる香水?」

 「あ、分かる? こんな辛気臭いとこに籠ってたら気が滅入ると思ってさ、アタシが使ってる香水まいておいたわ」

 「ね、姉ちゃん……」

 「それに、香水でも何気に効き目あるって話よ?たくさんまけば変な虫も寄りつかないでしょ?」

 「ありがとうございます、ユリのお姉さん」


 心なしかNの表情も緩んでいるような気がした。

 姉ちゃんなりの気遣いに、今は感謝しなくちゃ。

 ボクは屋敷に戻っていった姉ちゃん達を見届けた後、Nの方へ振り返る。


 「N、Rさん、生きて一緒に朝を迎えましょう」


 2人は頷き、蔵の中に用意された布団の上に座る。

 ボクは柱にかけられた灯りの火を消し、真っ暗にした後――蔵の外に出て扉を閉めた。

EPISODE10 けもののむれ「聞いた事ない? 呪いには呪いをぶつければいい。呪い同士がぶつかれば、より強い方が残るんだよ」

 重い扉がゆっくり閉じられていく。

 蔵の中からはボクの行動に気づいたNの叫び声が響いた。


 「ユリ、何してるの!?」

 「ごめん。呪いはボクが引き受けるから、朝まで耐えて」

 「そんな――」


 ボクの考えを一方的に伝えて、体重をかけてひと息に扉を閉める。続けて閂に木の棒を通し、内側からじゃ絶対に開けられないようにした。

 2人を騙す形になっちゃったけど、朝までほんの少し耐えるだけでいい。

 そうすれば、今まで通りの日々が戻ってくるはずだ。

 ボクは袖口の紐を緩めて隠し持っていたパズルと手紙を取り出すと、手紙を破り捨て、パズルを地面に叩きつけてやった。

 その瞬間、それまで感じなかった強烈な臭いが辺りに立ちこめていく。


 ――タッ。


 暗闇の中で、微かな物音がする。


 ――タッ。――タッ。


 ソレは瞬く間に数を増していき、気づけばボクは大小様々な無数の影に取り囲まれていた。

 どれもハッキリとした輪郭がないけど、確かに、何かがそこにいる。

 これは……獣の形をした影の群れだ。


 いよいよか。

 ボクが失敗すれば、NもRさんも死んでしまう。

 ――さあ、イチかバチかの賭けだ。


 「ボクの呪いとそっちの呪い、どっちがすごいのか、試してみようか」


 それが呼び水となったように、中心にいた影が大きく吼える。

 次の瞬間――影が一斉に飛び掛かってきて、ボクはあっという間に呑みこまれた。


 「あ――――」


 視界が黒に染まる。

 ボクはそのまま意識を手放した。


 ――ふと覚醒すると、ボクは家族団欒の真っ最中。

 みんなは並べられているごちそうに夢中だった。口や手についたケチャップやソースも気にしないで手掴みでおいしそうに貪っている。


 ――そうだ、ボクも食べないと。

 残さずきれいに、お皿がまっしろになるくらい。


 ――

 ――――


 「――ッ!!」


 知らず知らずのうちに、ボクの意識は現実の世界へと戻っていた。

 一体、どれだけの間この場に立ち尽くしていたんだろう。辺りに視線を向けても、さっきまでたくさんいたはずの影はどこにも見当たらない。

 ……まさか!


 「ボクは、Nの呪い、を……!? うっ……」


 蔵がある方向へ振り向こうとした途端、ボクはお腹からせり上がってくる何かに気づいて、反射的に口元に手を添えた。


 「……ゲホッ! んっ、ゴホッ、ゴホッ!」


 手のひらから零れてくるどろりとした液体と、鼻を刺激する鉄っぽい臭い、地面に広がった黒い染み。


 「うぇ……っ」


 血を吐くなんて、初めての経験だった。

 口に広がるすっぱい臭いと鉄の味。

 こんな気持ち悪さ、もう味わいたくない。

 胃の中のものをすべて吐き出したせいか、なんとなく空腹感を覚える。

 でも、とても食べられるような気分じゃなかった。


 「そんな事より、今はNを……んっ?」


 その時、ふと喉の奥に違和感を覚え口の中に指を突っ込んでみる。さっきから魚の骨が刺さっているような気がして少し息苦しかったんだ。

 あ、摘まめた。

 そのまま引っ張りだそうとすると、それはやけに長くて――


 「うげ……何がごちそうだよ……」


 口から出てきたのは、ごわごわとした毛の束。

 しかも、その中には何かの爪が絡まっていた。


 「……勘弁してよ」


 それを地面に投げ捨てると、不意に全身に襲ってきた倦怠感と疲労感に、ボクの意識は急に白み始める。

 立つ事もままならず、大の字に寝転がったボクは再び意識を手放してしまった。

EPISODE11 人を呪わば穴二つ「あれ、そういえばボクのアンチのコメントが来なくなったけど……はは、もしかして」

 「ユリっ″、無事で、よがっだぁぁぁぁ~~~!」


 聞き覚えのある声と何かが身体にのしかかってきた感覚に、ボクは目を覚ました。

 目蓋を開けると、急に飛びこんできた朝焼けの光に目がくらむ。

 状況も分からないまま顔を持ち上げると、不意に柔らかな感触を覚える。

 ボクは、Nに抱きしめられていた。

 微かにほこりっぽいけど、知っている甘い香り。


 「N……」


 どうやらお互いに無事だったみたい。


 「これで呪いは――いっっ!?」


 声を出そうとすると、喉に焼けるような傷みが走った。

 これは吐いた時のダメージか、それともアレが詰まっていたせいか。

 原因が気になるけど、それよりしばらくまともに喋れそうにない方が辛い……。


 そうこうしているうちに遠くの方から声が聞こえてきたかと思うと、みんなが蔵の前に集まってきた。

 ああ、これで全部終わったんだ。


 ――

 ――――


 あの事件を機に、ボクは事務所をクビになった。

 要するに、一連の事件の責任を押し付けられた、体のいいトカゲの尻尾切りだ。

 順調だと思っていた夢は、遠のいてしまった。

 もしかして、これが羽織の呪いの影響なのかもしれない。

 そういえば、あのパズルは結局見つからなかった。

 多分、羽織の呪いに負けて消えてしまったんだろう。


 そんな事より、だ。

 今ボクの中で一番の問題は、配信ができない事。

 お医者さんの話では、前のように喋れるまでは半年もかかるらしい。

 というわけで、ボクの配信は今日からしばらく休止!

 はあ~~、ホント、やってらんないよ。

 これが兄ちゃん達が言ってた、社会の荒波ってヤツなのかな。

 まあいい。

 ボクは今自分にできる事を精一杯がんばるだけだ。

 それに、声が戻った時にはNと一緒にまたコラボ配信する約束もしてるしね。


 あ、そうだ、NとRさんはすっかり元気になった。

 あんな事があっても、活動を続けている辺りはさすがプロって感じだ。


 よーし、ボクも負けてられない。

 夢を諦めてなんかやるもんか!


 ――

 ――――


 ――さてさて、これでボクが体験したオカルト体験の話は終わりだけど、最後にひとつだけオマケ話がある。

 すぐ終わるから付き合ってくれると嬉しいな。


 これは後になって聞いた話なんだけど……Nが住んでいたマンションの一室で、男性の変死体が見つかったんだって。

 NとRは参考人として警察から事情聴取を受けた。

 そこで、男性はネット上でNへの誹謗中傷をしていた犯人だと判明したんだ。

 だけど、不思議な事があって。その犯人はね、警察がどれだけ調べても死因を特定できなかったんだって。


 その遺体には不可思議な傷が残されていたんだよ。

 全身にいろんな動物に噛みつかれたような痕が見つかったんだって。それも、たくさん。

 はは、まるで呪い殺されたみたいだよね。

 一体、何に呪われたっていうのかな?


 みんなも気をつけた方がいいよ。

 今は指先ひとつで簡単に呪いの言葉を残せる時代。

 思いやりのない言葉が、言動が、どこかの誰かの恨みを買っているかも――ほらね、身に覚えがある人もいるんじゃないかな。


 もしかしたら、もうキミのそばに……。

 そーっと部屋の隅をのぞいてみて?


 ――今、何か動かなかった?

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■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧

脚注
  • *1 1515ノーツの譜面でMISS15回した場合の失点は10000点
コメント (巫黒 ユリ)
  • 総コメント数11
  • 最終投稿日時 2021/09/29 12:16
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