風焔
【キャラ一覧(無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN)】
【スキル一覧(~PARADISE LOST)】【マップ一覧】
※ここはCHUNITHM PARADISE LOST以前に実装されたキャラクターのページです。
- このページに記載されているすべてのスキルの効果は、CHUNITHM PARADISE LOSTまでのものです(限界突破の証系を除き、NEW以降で入手・使用できません)。
- 専用スキル装備時に名前とグラフィックが変化していたキャラクター(いわゆるトランスフォーム対応キャラ)は、RANK 15にすることで該当グラフィックを自由に選択可能となります。
Illustrator:上野綺士
名前 | 風焔(ふうえん) |
---|---|
年齢 | ?歳 |
職業 | トリスメギストス配下のスピリット |
身分 | 現在は遠夜灯のパートナー |
- 2021年5月13日追加
- PARADISE ep.IIIマップ7(PARADISE LOST時点で445マス/累計1575マス)課題曲「Blazing:Storm」クリアで入手。
イベントinclude:開催日(オリジナルNEW+)
トリスメギストスに仕えるスピリットの一人。
大切な人を亡くし、抜け殻状態であった彼は遠夜 灯という少女と出会う。
スキル
- ゲージブースト・パラダイスロスト [NORMAL]
- 天使の祝福の亜種。
- 規定回数のMISSでゲージが吹っ飛ぶのが「MISSした時点」であるため、その後ミスしなければゲージを増やせる可能性がなくもない。上昇率も消滅しているので、クリアが絶望的なことに変わりはないが。
- ゲージ7本には+2以上が必要なため、風焔の入手が必須。
- 7本狙いでよく使われるオーバージャッジと比較すると、「ペナルティまでのMISS許容数が多い」「筐体で所有者が揃う」のが利点。一方で「育成が必須(+2以上)、かつ特定キャラの入手が必須」なのはデメリット。
- 現在筐体で入手できる汎用スキルの中で、ゲージ7本狙いの即死スキルではないスキルにボーダーブースト・SSがある。
- 入手や育成の手間さえ惜しまなければ、1515ノーツ以下の譜面*1や、MISSは15回未満に抑えられるがATTACKが多発する譜面にはこのスキルのほうが使いやすいと思われる。
- 筐体内の入手方法(PARADISE ep.IV実装時点):
- PARADISE ep.IIIマップ7(PARADISE LOST時点で累計1575マス)クリア
- PARADISE ep.IVマップ4(PARADISE LOST時点で累計880マス)クリア
GRADE | 効果 |
---|---|
共通 | MISS判定15回以上の時 MISSでゲージが0になる |
初期値 | MISS判定15回未満の時 ゲージ上昇UP (195%) |
+1 | 〃 (205%) |
+2 | 〃 (215%) |
+3 | 〃 (225%?) |
+4 | 〃 (235%?) |
+5 | 〃 (245%) |
理論値:147000(7本+21000/26k) |
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | Ep.1 | Ep.2 | Ep.3 | スキル | |
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
Ep.4 | Ep.5 | Ep.6 | Ep.7 | スキル | |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
Ep.8 | Ep.9 | Ep.10 | Ep.11 | スキル | |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
「ついに俺にもヤキが回ってきたかね……」
ぼやいてはみたものの、正直どうでもいい。
ヤキが回ろうが、明日その辺でくたばっちまおうが、全部受け入れてみせるさ。
天上界から“地上世界”への移動中、俺はそんな事を考えていた。
2度とないと思っていた地上世界行き。それが決まった時のことを、俺は思い出す――。
――3日前のこと。
無愛想な顔をしたとある神が吐き捨てるように言う。
「風焔。お前に地上世界での任を言い渡す」
俺たちトリスメギストスの配下の中でも、こいつは直属の部下。
いつも上の顔色ばかり伺ってゴマを擦ってるいけすかないヤツだ。
「……それは俺じゃなきゃダメな仕事なんですかい」
「そういうわけではない。だが、いつまでも腑抜けているお前の姿は、目に余るものがあってな」
「…………」
「“彼女”を亡くしたお前の気持ちは分かるが、スピリットとしての任を――」
「それ以上は言わなくて結構。了解、俺が地上世界に行きますよ」
ズカズカと個人的事情に入り込んでくる馬鹿野郎の言葉を制して、俺はその場を立ち去った。
俺が命じられた“地上世界での任務”。
それは、G・O・Dの手下どもの出現の前兆が見られる地上世界に降り立ち、選ばれた人間に力を与え、共に戦うというものだ。
だが、前兆のみで確かな情報がないということは、裏を返せば極めて危険だともいえる。
その上、俺みたいなスピリットは寿命という概念がなく、戦闘で消滅する以外に死ぬ方法はない。
まともに任務も果たさずフラフラとしている俺が、危険な地上世界行きを命じられる。
つまりこれは、実質的にクビを宣告されたのと同じ。
簡単に言えば、“死んでこい”ってわけだ。
だが、俺にとってこの状況はむしろ大歓迎だった。
“アイツ”を失ってから、俺は生きるということに価値を見出せなくなっていた。
戦って、死んで。
“アイツ”の元へ行けるなら。
――こんなに嬉しいことはないね。
G・O・Dの手下どもの出現の前兆が見られたのは、日本という国の、日野市という街だった。
日野市に降り立った俺は、まずは共に戦う“選ばれし人間”を探し始める。
“選ばれし人間”は神力の原石を身に宿している。その神力の気配を道標に迷うことなく街の中を歩き、やがて学校らしき建物につくと、今回のパートナーを発見した。
その姿を遠くに眺め、俺は驚愕する。
「……嘘だろ? こんなジョーク、まったく笑えねえぜ……」
着崩した学校の制服、ひとつにまとめた長い髪の少女。
どの特徴も当てはまらない。
だが、まっすぐに前を見据えた切れ長の力強い瞳が光る、その顔。
それは、まるで“アイツ”が生まれ変わったと錯覚するほどのものだった。
肩で風を切るように歩く、勝ち気で凛とした雰囲気。
見れば見るほど似ている。
(くそっ……これは何の嫌がらせだ?)
“アイツ”に似た女と出会い、共に戦う。
まるであの時の“やり直し”をさせられているような気分になって、頭を掻いた。
「冗談じゃねぇ。悪夢以外の何ものでもないだろ」
少女の行く先を追いかけていくと、河川敷横の土手についた。
さっさと姿を現して、いきさつとこれからの使命について説明すればいいのだが、“アイツ”の雰囲気を纏う少女と対峙するのは、気恥ずかしいような、怖いようなで、うまく声をかけられないでいた。
そんな自分の情けなさに肩を落とした時だ。
強烈な爆発音と共に、砂山のようにビルが崩れていく。
「来やがったか!!」
出来損ないのG・O・Dの手下どもが大挙して、空から押し寄せてくる。
もうガキのようにモジモジしてるわけにはいかない。少女と共に戦わなくては。
そう思って少女の姿を探すと、いつの間にか土手の向こうへと駆け出していた。
「そっちはダメだ! 格好の的だぞ! ……チッ!」
敵の動きが見た目より速い。ボサッとしてる時間はない。
俺は足元に力を込めると、一気に跳躍して少女を狙ってレーザーを放とうとする敵の前に立ち塞がった。
「……久しぶりの仕事だ。頼むぜ、相棒」
相棒と呼んだのは俺のギター。そいつを思い切り鳴らすと、無数に放たれたレーザーが次々と掻き消えていく。
「こんな攻撃じゃ、俺を熱くすることは出来ねえぞ!」
敵の攻撃を凌ぎながら、驚いた顔のまま俺を見る少女にマイクを渡す。
神力を増幅する特殊なマイク。少女が受け取った瞬間、彼女の眠っていた力が目覚めるのが確認できた。
「突然の出来事にビビってるとこ悪いが、そいつを使っていっちょ歌ってくれ」
「……はぁ? 歌うって、私が? この状況分かってんの!?」
「そうだな……“歌えばこの街を救えるが、歌わなきゃ全員死ぬ”。どうだ、分かりやすい説明だろ?」
訝しげに俺を睨みつける少女。
そりゃそうだ。突然街がめちゃくちゃになって、こんなこと言われても理解できるはずがない。
しかし俺の予想とは裏腹に、少女は小さく、だが力強く頷いた。
(はは。やっぱ似てるわ……こいつ)
俺はといえば。
引きつった微笑で返すしかなかった。
歌声に合わせてギターを弾き倒す。
これ以上ないくらい“即興”という言葉が相応しい、行き当たりばったりのライブ。
マイク越しに神力を増幅した歌で攻撃。
俺は神力を込めたギターの音でそれをサポート。
荒削りだが、言葉ではなく音のみでコミュニケーションを図っていく。
たとえ一流の音楽家が誰かの曲を楽譜通りに演奏したとしても、その人それぞれの“ノリ”っていうのは出ちまうもの。
こいつの“ノリ”は……気持ちが良かった。
戦闘が終わる頃、すでに夜が明けていた。
息を切らしながら、一体何が起こっているのか説明を求める少女。
G・O・Dの手下が引き起こしたこの世界のバグは、俺のよく知るものだ。
あの時と同じ、狂った世界。
俺は勝手知ったこの現象を、少女に説明する。
〈1つ。日野市は空間ごと切り取られ、“8月32日”を永遠にループする。ループは朝5時にリセットされ、また32日が始まる〉
〈2つ。俺たち以外はループに気付かない。リセットされると、破壊された街も記憶も全て元通りになる〉
〈3つ。死んだ人間はリセットされない。最初からいなかったように世界が改竄される〉
こっちの世界の住人にとっちゃ、創作物でしかあり得ないトンデモ話。
何かゴキゲンなブツをキメて、頭の中がちょっと爽やかになっちまったイカレ野郎の戯言だと思われても仕方ないだろう。
だがこいつ――“遠夜灯”と名乗った少女は違った。
ギラギラしたその瞳は揺らぐことはなく、この狂った世界の現状を受け入れ、戦う覚悟を見せた。
現にさっきの戦いでは、初陣とは思えないほどの声量と朝まで歌い続ける根性をぶちかましやがった。
初ステージなんて、ブルっちまって声が震えてもおかしくはねぇ。
一体どこからその自信が来るのか。
ある意味イカれてやがる。“こいつも”、な。
灯の胆力に感心しながら、ギラギラした瞳を見つめ返す。
その姿に、やはり俺は別の人物を重ねてしまう。
いつまでもそんなことをしている自分が、あまりに女々しくて嫌気が差した。
(テキトーに助けてやって……テキトーに死のうと思っていたが……これは簡単に死ぬわけにいかなくなったな……)
勝手に面影を重ねて、勝手に罪悪感から救われようとしている。
身勝手な男の独りよがりは、大きな間違いだと。
この時の俺はまだ気づいていなかった。
「こ、この跳ねっ返りのガキ……!」
ブチギレる俺のことなど意も介さず、そっぽを向いた灯は遠くを見ている。
俺は怒りの矛先をどこにぶつけるか一瞬迷ったが、結局ギターを弾きまくって昇華する事にした。
何を拗ねてんのか知らねぇが、このガキは俺の言うことをまったく聞きやがらねぇ。
スピリットである俺が防御、あいつが攻撃、役割分担してツーマンセルで戦うのがセオリーだ。
だが灯は俺の手を借りようとせず、一人で戦うと心に決めていた。
そりゃあほっとくわけにはいかねぇから敵からは守ってやるが、それにも「頼んでない」などと抜かしやがる。
確かに歌唱力や戦闘のセンスは目を見張るものがある。
神力が目覚めたばかりにしては、天才と呼んでも過言ではないだろう。
だが、これ以上の強敵が今後現れたら、センスだけで乗り切れるとは到底思えねぇ。
「お前さ、一匹狼を気取るのはいいけど、もうちっと俺のことも頼れよ。俺達の目的は同じだってのに、効率悪いったらありゃしねえ」
「…………」
俺の提案に返事もしねぇで「今日の仕事は終わったでしょ」と言わんばかりに、さっさとこの場から立ち去る灯。
それ以上かける言葉もなく、俺は呆れまじりのため息をついた。
「ったく……無理してるくせによぉ」
本人は気付いているのか、隠しているつもりなのか。
まだ戦闘になれない身でありながら、一人警戒が解けない毎日。
肉体、精神共にクタクタになってないはずがねぇ。
確かに“アイツ”も勝ち気な性格だが、暴走しがちだった俺をリードするくらいの度量があった。
むしろ、俺がお守りをされていたといってもいいかもしれない。
「今度は俺が世話する番ってか? 本当に難しいガキだぜ……」
“アイツ”に似ているようで、やっぱり違う少女。
だが、灯の不器用な根性は……俺は嫌いじゃない。
言う事の聞かなさに手は焼くがな。
でかい羽虫のようなG・O・Dの手下の絞りカス達。灯はヤツらを“バグ”と名付けていた。
世界をぶち壊す“バグ”と、虫の“バグ”。
偶然だろうが、ダブルミーニングとなったその名前を気に入った俺は、灯に続いてありがたく使わせてもらうことにした。
灯との信頼関係は未だ築けていないものの、なんとか撃退に成功する日々。
だが、その日のバグは一味も二味も違った。
今までとは比べ物にならない巨大な体で現れた、蜘蛛の出来損ないのような見た目をしたそいつ。
その背には轟々と燃え盛る邪悪な炎。そして次々と羽虫のバグを生み出す腹部の卵。
そして飛び抜けたグロテスクさのおかげで、一見して全てを理解する。
今までのはあくまでザコであり、この街がイカれちまったのはこいつが元凶だと。
その分かりやすさと巨大さに若干引いている俺に対して、灯は目を血走らせて全身から殺気を放っている。
「迂闊に近づくな。大火傷するぜ」
忠告はするも、どうせいつものように俺の意見なんて聞きゃあしないだろう。
だが、こんな相手に無闇に突っ込むような真似はしないはず。
そう思い込んでいた。
「行くぞーーーー!!」
灯はそう叫んだかと思うと、あっという間に敵へ向かって突っ込んでいった。
どう考えても策があるようには思えねぇ。
いわゆる特攻ってやつだ。
「くそっ……あのガキが!」
出遅れて灯の後を追う。
ある意味気持ちいいほどまっすぐな攻撃を繰り返す灯。
戦力、物量。そして灯の実力。このまま戦って勝てるわけがねぇ。
その上、俺のギタープレイと灯の歌は相変わらずちぐはぐのままだ。何の相乗効果も生み出していない。
こんなひでぇライブを見せられたら、酒瓶が飛んできても文句は言えねぇぞ。
その時、蜘蛛のバグが一瞬光ったと思うと、ぶっといレーザーが灯に向かって飛ぶ。
なんとかそいつを躱した灯だが、すぐに次の攻撃がやってくる。
あれは、まずい。直撃したら致命傷になりかねない。
今すぐにあいつを守らなくては。
(くそっ! 距離が離れすぎてる!! だが……間に合わせる!!)
最高速で飛びながら、あいつの名前を思い切り叫んだ。
「灯!!」
灯への攻撃のほとんどは受け止めきれた。
だが、一発だけ漏らしてしまった。
もろに攻撃を受けて意識を失う灯。
俺はそれを胸に抱く。
「世話役失格だな……」
また守れなかった。
不甲斐ない自分への怒りをぶつける場所が見つからず、俺は自傷気味に唇を噛み切った。
気を失った灯を庇いながら猛攻撃を凌いでいたが、限界が見えてきたところでなぜかバグ達は引き返していった。
ヤツらの考えはまるで読めないが、命拾いした事は確かだ。
俺は、老朽化のため立て直しが決まっている古い病院のバリケードを破って忍びこみ、傷ついた体を休めていた。
あれから数日。灯は目を覚まさない。
ただ、熱に魘(うな)されて悪夢でも見ているのか、時折苦しそうに声をあげる。
「私を見捨てないで……お母さん……お父さん……」
いつもの灯が“反抗期を迎えたガキ”なのだとしたら、これは“小さな子供そのもの”だ。
過去に何があったかは知らねぇが、灯は見捨てられる事を過剰に怖がっている。
「一匹狼を気取っていたのは……そのせいか……」
俺はそう呟くと、灯の頬を伝う涙を手のひらで拭った。
誰よりも孤独が嫌いだから、失うくらいなら最初から一人でいる、か……。
ずっとそんな思いをひた隠しにしながら、たった一人で戦ってきたこいつの姿を思うと、胸が痛んだ。
ベッドに横たわる灯の姿を眺める。
あの日“アイツ”を亡くした光景が重なって、頭の中にフラッシュバックする。
それを散らすように、俺は拳を壁に思い切り打ち付けた。
俺の使命はなんだ?
こいつを守ることだろ?
もう2度と、目の前の女を失うのはごめんだ。
俺がステージを降りるのは、少なくとも今じゃない。
病院の壁に身を預けて座り、ギターを取り出す。
ひとつひとつ弦をチューニングするが、まったく音が合わない。
折れちゃあいないが、ネックがイカレちまってるようだ。舌打ちをひとつ鳴らして、仕方なく諦める。
すると、いつの間にか目を覚ました灯が、よろよろと身を起こそうとしているのが見えた。
案の定ベッドから落ちそうになり、慌ててそれを受け止める。
「おいおい、そんな体でまともに動けると思ってるのか。ケガ人はケガ人らしく大人しくしてろ」
何気なくそう放った言葉が地雷を踏んじまったのか、それを聞いた灯は身を震わせた。
「ケガしてんだから当たり前だろ」。続けてそう言おうとしたが、灯の叫びでかき消される。
「大人しくなんて出来るわけないじゃない! 私がやらなきゃ誰がこの街を救うの!? いつもそうだった! 期待とか、願いとか勝手に押し付けて……もううんざりなんだよ!」
これまでずっと強がっていた灯が、初めて本音を曝け出した瞬間だった。
一瞬で俺は後悔する。
そうだ。俺は何をやっているんだ。
目の前の少女が孤独に耐えながら、たった一人でこの世界を救おうと“生きて”いた。
なのに俺は……ウダウダと過去に囚われたまま、いつ“死んで”もいいなんてほざいていたんだ。
「そうか……そうだよな。こっちの事情で勝手に使命だなんだって押し付けて、悪かった。俺も俺の使命を全うしようとして、お前のことを見ていなかったんだろうな」
灯はきっと、たくさん傷ついて生きてきた。
これくらいで心の扉が開かれるはずがない。
もっとだ。余計な言葉で飾り立てることなく、まっすぐに。
「いいか、よく聞け。俺は大事なメンバーを見捨てるようなことはしない」
この少女は“アイツ”じゃない。
遠夜灯。俺のパートナーだ。
もう絶対に間違えない。だから、俺を信じてくれ。
俺の思いが届いたようで、次第に灯は俺に心を許してくれた。
おかげで改善されたのはお互いの意思疎通だけじゃない。
目を見張ったのは灯の成長。それはもう凄まじいものだった。
防御を得意とする俺に背中を預けたことで余計なことを考えなくなった灯は、もう手がつけられなくなっている。
今じゃ俺の方が灯に守られる瞬間もあるくらいだ。
安っぽいプライドなんざ持ってないが……、足手まといになるのはごめんだ。
「俺も気合を入れないとな……また昔みたいにパートナーに引っ張ってもらうわけにはいかねえ……」
「昔のパートナー?」
つい口をすべらせてしまった。
無理やり話を流して誤魔化そうと考えたが、不自然な笑顔を貼り付けて灯が俺の顔を覗き込む。
くそっ、逃げられそうにないぜ。
「……俺の世界の神様モドキが大暴れしたせいで、おかしくなったこっちの世界を修正するのはこれが初めてじゃねえ。灯の前に契約していた女がいたんだ」
「……へえ。私以外にも貧乏くじ引いた人がいたんだ。どんな人だったの?」
「勝ち気で生意気で無鉄砲で……まるでお前みたいなやつだったよ」
「はぁ? 私そこまで生意気でも無鉄砲でもないし!」
「いや……そういうところだって……」
灯が俺を信頼しはじめてから、こうやって軽口を叩き合うことが多くなった。
ガタガタうるせえ女は……まあ、正直嫌いじゃねぇ。
少なくとも、ツンケンされてた頃よりもよっぽど居心地がいい。
「そっか……風焔には信頼出来る人がいるんだね。まあ普通に生きてればそういう人の一人や二人いるか」
「そっちはいないのか。そういうヤツが」
「……私さ、死んじゃった伝説のミュージシャンとかいうやつの娘なの。周りの人間はその才能にしか興味なくてさ。自分を守れるのは自分しかいなかったんだ」
病院で聞いた、孤独を恐れる灯の言葉。
あの言葉は、熱にうなされながら灯がこぼしたもので、俺が聞いてしまったのはルール違反みたいなもんだ。
だからそれ以上、“孤独の理由”を追求するような野暮なことはしなかった。
だが、こうして灯自身が初めて俺に語ってくれた。
誰もが自分を通じて、他の誰かを見ている毎日。
今の灯を形成することになった出来事を。
俺は少し前までの俺を、改めて深く恥じた。
「それよりさっきの話なんだけどさ。信頼できる人はいるか、ってやつ」
「それがどうかしたか?」
「私にも、風焔がいるよ。だからもう、一人じゃないから!」
灯の眩しさに思わず目を細める。
今の俺たちなら、きっとバグを倒して世界を元に戻すことが出来る。
そして全てが終わったら――願わくば誰かと共に歩む、孤独ではない日常が灯にもたらされますように。
俺に出来るのは、そう祈ることだけだった。
「お出ましか……ははっ、見ろよ灯。今日はずいぶん団体でやってきたみたいだぞ」
今日は朝から街の様子がいつもと違った。
分厚い雲が太陽を隠し、薄暗いどんよりとした空気。
まるでこれから俺たちを待ち受ける困難を示唆しているみたいだ。
そんな空を埋めつくすように、これまで見た事のない量のバグの大群が飛来している。
その奥には、邪悪な炎を揺らめかせる巨大な蜘蛛の姿も。
雪辱をかけたリベンジマッチ。
あっちもケリをつけようとしているようだ。ヤワな相手じゃないだろう。
だが不思議と負ける気がしねぇ。
「勝って明日を迎えるぞ。死ぬなよ、灯」
「うん!生きよう、風焔!」
俺と灯は“生きる”約束を交わした。
こっちの世界に来る前の、この間までの俺が見たら笑っていただろう。
灯は変わった。そして、俺も変わった。
スピリットとしての任務だけじゃない。
俺は――こいつを守りたい。
「ライブ、スターーーート!!!!」
灯が叫ぶ。その声が俺のエンジンに火を入れたように、テンションがグングン上がっていく。
いっちょ盛り上げてやりますか。
そう笑って、俺はコードを一発ぶち鳴らした。
俺のギターサウンドをバックに、灯が歌い出す。
その声はどこまでもどこまでも、無限に伸びていくようで、戦闘の真っ最中だというのに俺は鳥肌が立つのを感じていた。
「マッ……ジかよっ! こいつ……計り知れねぇ!!」
重なって蠢き、巨大な壁のようになった羽虫型のバグ。
そこに特大の灯の攻撃がぶちこまれる。
それはバグの群れだけじゃなく、その向こうの雲まで吹き飛ばし、ぽっかりと開いた穴に青空が覗いた。
灯の成長は止まることを知らない。
特に、とびきり感情が乗っている時は度肝を抜かされることが多々あったが、ここまでのは初めてだ。
(なんだこの感覚は……歌声に溶けていくみたいだ……このままずっと……灯の後ろでギターを弾いていたいぜ……)
最終決戦の真っ只中だってのに、俺はそんなことを考えていた。
灯といえば「こんなもんじゃないよ!」と笑うかのように、そのスピードは加速し続け、バグ達に確実なダメージを喰らわせていく。
最高のテンション、最高のステージ。
絶好調の灯が、親玉である蜘蛛型バグに突っ込んでいく。
その時だった。
「罠だ! 灯!」
灯のスピードに怯んでいたように見えた蜘蛛型バグが、一瞬の隙をついて攻撃の的を灯一人に絞る。
体表に無数に並ぶ目玉のような発射口がキラリと光る。
それは、レーザー攻撃が来る前兆だ。
灯はスピードがつき過ぎてる。あの体制から防御に回るのは不可能だろう。
なあに。大したことはねぇ。
二度も灯を傷付けさせやしないさ。
――歓声が聞こえる……。
ああ、そうか……俺はライブの真っ最中だった……。
ストロボライトのように、無数の光が俺に突き刺さっていく……。
最高だ……こんなライブ、二度とできねえぜ……。
「風焔っ!!」
どこかから灯の声が聞こえた。
どうした。そんな焦った声してよぉ。
まだライブは終わってねぇぞ。
そう言ってやろうとしたが上手く言葉を生み出せず、そのまま気を失ってしまう。
俺の体は大量の攻撃を浴びて、スピリットとしての役目を終えようとしていた。
どこにも影が生まれない、真っ白な光に包まれた不思議な空間。
壁も扉も見当たらず、この先がどこまで続いているのか分からない。
そんな場所に、俺と――もう一人いる事に気付いた。
「なんだ……こんなとこにいたのかよ」
『いたのか、じゃないわよ。こっちが来てあげたの』
「へっ、久しぶりだってのにその言い草、変わってねぇな」
『うふふ。貴方は……そうね、少し変わった気がする』
「あー……ま、そうだな。生きてりゃ多少変わることもあるさ」
『そっか……そうだよね。あのね、私、一応“迎えに来た”んだけど』
「だろうなとは思ってたさ」
『それで、どうする? って言っても、私と一緒に行く気は無いんでしょ?』
「……ああ、すまん。お前と一緒には、行けねぇ」
『あーあ。浮気だ、浮気ー』
「そ、そんなんじゃねえって……あいつはまだ子供だから目が離せないだけで……」
『ふふっ、冗談よ! あの子の事、見守ってあげて』
「俺に出来ることはもうあまりないけどな。ま、行ってくるわ」
『うん。じゃあね、風焔』
夢からいきなり目が覚めたように、一瞬で意識が現実世界へ戻ってきた。
灯は俺の体を腕で抱きながら、バグの攻撃から身を守っている。
その必死な様子があまりに健気で、これから灯に伝えることを思うと胸が痛くなる。
そんな気持ちをグッと押し殺して、灯の名前を呼んだ。
「灯、俺はもういい」
自分のことは自分で分かる。
どんな奇跡が起ころうとも、この事実は覆せない。
俺の体はもう限界で、決して助かることはない。
「そんな……風焔……!」
「馬鹿野郎、泣くな。まだ戦いは終わってねえ」
「だって……!」
「立ち止まるな。灯みたいな跳ねっ返りは、前だけ見てりゃいいんだ」
――そうだ。前だけを見ろ。
この戦いが終わって、全てが元に戻った世界で。
どこまでも走れ。走り続けていけ、灯。
「生きろ、勝つぞ」
俺の存在が消滅する瞬間。
最後の言葉を灯に伝える。
結局俺が言いたいのは、これくらいのもんだ。
――だから、もう泣くなよ。
この世界が終わって、日常を取り戻す時がやってきても。
お前はもう、ひとりなんかじゃねぇさ。
-
-
チュウニズムな名無し
52021年10月20日 17:55 ID:dbvknm4qこの壮絶な戦いの時に灯と奏でてた曲がblazing:stormだったりすんのかな…王道のストーリーなんだけど好きすぎる
-
-
チュウニズムな名無し
42021年05月18日 11:59 ID:e2b1bhpi名前も出てない「あいつ」もいつかキャラクターとして出てくるのかな
-
-
チュウニズムな名無し
32021年05月15日 02:19 ID:gancbrmsチョイ悪な見た目的に絶対ジョニーとかギーゼと同種だと思ってたのにまさかのトリスメギストス側
しかもすげー良い人
-
-
チュウニズムな名無し
-
-
チュウニズムな名無し
12021年05月14日 20:15 ID:ouj1yblqこれのイラストレーターの人、ペンギン擬人化の人なんだよね・・・