パステル・デ・ナタ・エピソード
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パステル・デ・ナタのエピソード
人と接することを嫌い、物言いは少しキツめ。自作のスイーツに絶対的な自信を持っている。ひとりでくつろぐ時間が好きで、風に吹かれながらお茶を飲むだけでも楽しめる。この時間を邪魔してしまったら、嫌われる可能性大。
Ⅰ 日常
「ミルフィーユに言ってくれ、今日はもう売り切れだって」
俺は最後のスイーツをコーヒーに渡して言った。反論は許さないといった強い口調で。
ミルフィーユのヤツはとても面倒だ。
「もう無いだと?!この店を訴えてもいいんだぞ、店長!」
「文句があるならもう来ないでくださいよ」
「パステル・デ・ナタを連れて行っていいなら、もう来ないさ」
「うちは人手不足なんです」
「私は糖分不足なんです」
既に午後のお茶の時間を過ぎて客はもう誰もいない。俺もミルフィーユ一人のために働きたくはない。
コーヒーとミルフィーユの会話を聞きながら、まったく聞こえないかのように暖かい窓辺に座り、自分用のお茶を注いだ。
何気なく窓から外を見ると、疲れ切ったチョコレートが帰ってきた。
「ほら、帰る途中でついでに新しい依頼を引き受けてきた。地震で被災したヴィータの町の復興の仕事だよ」
よく知った地名に注意力を奪い去られた俺は、お茶を置いて他のみんなを見た。
チョコレートは依頼書をコーヒーに手渡し、テーブルに近づいてコーヒーが口をつけたばかりのモカを手に取った。
「今回の仕事はものすごく長くかかった。オレ一人だけだったから、きっとすごく時間がかかるから、もっと適当な者に交代したほうがいいと思う」
チョコレートはモカを一口飲んで、小さくため息を吐いた。彼は金髪の店長に体を預けた。まるで疲れて力が入らず、そのままもたれて休息するかのように。
「今回はホントに疲れたよ、早く帰りたかった」
コーヒーはチョコレートの悪戯には慣れっこだったし、今はチョコレートが安全ラインを超えたかどうかよりもっと困った問題を抱えていた。
ミルフィーユに言ったように、今コーヒーが町の復興の仕事を請け負うには絶対的に人手が不足している。
紅茶とミルクはまだ任務から帰ってこない。チョコレートは戻ってきたばかり。ティラミスは……
「復興?私が手伝おうか?」
ミルフィーユが協力を申し出るとは誰も思っていなかったから、一斉に彼に視線が集まった。
「当然、条件があるけどね」
ミルフィーユは期待を裏切らない。やっぱり続きがあった。
「どんな条件?」
「私にパステル・デ・ナタを連れて行かせることと、復興の指揮を取らせること。パステル・デ・ナタ……彼が作るスイーツは被災した住民の気持ちを慰めることができる。この上ない後方支援になるよ」
ミルフィーユが手を銃の形にして俺を狙っていた。
Ⅱできること
「スイーツが……また減ってる。ミルフィーユはこんな時まで……」
ちょっと目を離した隙に、作り終わったスイーツが少なくなっていた。
予想していなかったわけではない。出発前にコーヒーから何度も忠告を受けたことを思い出して歯ぎしりしても仕方がない。
ここから遠くない場所で、本来復興の指揮を取っているはずのミルフィーユが孤児院の子どもたちと一緒になり、テントの間を走り回って遊んでいる。
「一番遠くのテントに先に着いた者が、一番大きなケーキを食べられるぞ!」
「よし――」
「見てろよ!」
これって子どもたちのためなのか?
「ずるい!ミルフィーユも参加するなんて!」
「私が参加しないなんて言ってないぞ~、あのケーキは私のものだ~」
「ひどいよ、ミルフィーユ!」
コーヒーの言った通りだ。あの野郎やっぱり……
「ミルフィーユは指揮官に適任です」
ブラウニーは俺の疑いを見抜いているようだった。残っている食材を検めた上で真剣にミルフィーユを擁護した。
「ミルフィーユは自分の責任から逃げたりはしません。彼は私に言いました。指揮とはあらゆることに命令を下すという意味ではなく、全ての人間がそれぞれの職務を果たし、たとえ彼がいなくても仕事が回るようにすることだと」
「だからB-52が代わりに指揮を取っているからといって、あいつが怠けているわけではないと?」
「君は誤解しています。ミルフィーユはただ機械が必要な仕事をB-52に任せているだけです。彼には彼にしかできないことがあるのです。……分かりますか?」
確かに俺にも分かる。
この町は地震で深刻な被害を受けたばかりか、強い余震の影響で俺たちがやってきたときにはほぼ廃墟と化していた。
生き残った住民は悲しみと恐怖に沈み、特に生まれて初めて別れというものに直面した子どもたちは怯えきって眠ることさえできなくなっていた。
しかし数日が過ぎたころ、多くの住民が気持ちを奮い立たせて復興作業に加わっていき、子どもたちもミルフィーユのおかげで元気を取り戻していった。
ブラウニーはさらに話を続けようとしたので、俺は彼が持ってきた卵を受け取って殻を割り、白身を小麦粉と混ぜながら耳を傾けた。
「実は……あなたがなぜここへ来る気持になったのかまだ分からないのです。ミルフィーユの頼みを聞いたのは今回が初めてでしょう?」
そう、これが初めてだ。
俺はなぜあいつの頼みを聞いたんだろう?
この町の名前を聞いた時には心を決めていた。
たとえミルフィーユに頼まれなかったとしても俺は依頼に応じただろう。
ヴィータ……俺はかつてここに来たことがある。
百年の時が過ぎ、ここに俺の知っている者はもういない。俺が知っていたものも地震で全て破壊されてしまった。しかし子どもたちが広場で遊ぶ姿、宴の時にかがり火を囲んで踊る少女、俺に挑戦したものの小さな生徒たちの前で惨敗したパティシエのことはまだ覚えていた……
「パステル~デ~ナタ~」
口を揃えて呼ぶ声が俺を記憶の中から現実の世界に引き戻した。たくさんの笑顔を前にして俺はいつもの表情に戻った。
「何だ?」
「ケ~キのじ~か~ん~だ~よ」
まるで練習したかのように声がそろっていた。俺は自信満々のミルフィーユに疑いの目を向けた。ヤツの口の端にはまだバターがこびりついていた。
疑う必要はない。あいつはきっと俺にケーキを頼むやり方を子どもたちに教えていたにちがいない。でも俺はそのことが嫌じゃなかった。
「お前たち、この卵を広場まで持っていってくれ、戻ってきたらケーキが食べられるぞ」
俺とブラウニーは準備したお茶とお菓子を子供たちに持たせ、廃墟の片付けに精を出す住民たちへ届けさせた。
子どもたちは注意深くお盆を支えて行ってしまったが、ミルフィーユはここに残り、上半身を乗り出して俺の目の前のテーブルを強く叩いた。
「パステル・デ・ナタ~私の分は?」
子どもたちの声を聞きながら、俺は少し考えた。今回は断らないでやろうと。
「今作ってるから、外で待ってろ」
Ⅲ 商隊
難しくて緩慢な再建の仕事が軌道に乗り始めた後、俺が自分が隊を率いて遠い町に物資交換に行くことを、住民たちと相談した。
予想通り、ミルフィーユに反対された。
彼は再建の手伝いを承諾したが、より多くの時間をここで費やすつもりはなかった。私達は適当な時期にここを離れて、人類は自分の力だけでも活力を取り戻せる、と。
「お前が行きたいなら勝手に行け、俺は残る」
「君は面倒事が大嫌いじゃなかった?なぜこの事にこうも執着するんだ?」
「お前には関係ない」
「おいおい、私は君のためにここにやってきたのだが」
「俺のデザートのためじゃなかった?」
「それは当然――」
ミルフィーユは帽子を押さえて、厳しい目付きで近付いてきた。
「私は何のためだろうと、今の私達は同じ側に立っている。君は私に素直になるべきだ」
「俺はお前の部下じゃない」
俺は動じなかった。
「俺はただこいつらを助けたい、それだけだ」
町は山を背にして、そこには豊富な宝石の鉱脈がある。
地震前、町の宝石商人はちょうど一ロットの月光石を磨き上げたばかりで、まだ買い手との取引金額の交渉を終えていないから、金庫に保管されたままだった。
今回行けたのは、彼が売り上げを全部寄付して再建に必要な物資を買うことを承諾したから。
隊商は期限通りに出発した、ついていく食霊は俺とミルフィーユ。B-52とブラウニーは住民に協力するため町に残った。
俺は元々ミルフィーユを断るつもりだったが、そうする前に、彼は既に住民たちの信頼を得た。
品物が貴重なため、隊商のメンバーは道中の安全を心配してたから、ミルフィーユが同行を提案したら何も考えずに同意した。
俺は彼の同行が気に入らないけど、戦闘の経験においてミルフィーユが俺をはるかに凌駕していることは認めざるを得ない。
道のりは順調で、月光石は高値で売りさばけた。帰路の途中で町で必要な物資を買えた。
俺が無事に町に帰れると思ってたその時、予想外の出来事が起こった。
嵐のせいで山が崩れたから、隊商は戻って別のルートを、古城の廃墟を通らなければならなくなった。
この選択は回り道の時間を省けるが、堕神と遭遇する可能性も上がった。
俺の緊張と真逆で、ミルフィーユはいつも通り自信たっぷりで、一欠片の緊張も見られなかった。
「どれだけの敵が現れようと、全滅させればいい~心配するな。私たちにとっては容易いことだ」
「そうだといいが」
Ⅳ 肩を並べて
古城の廃墟は名の通り荒れ果てていた。冒険者がよく来るため、あちこちに戦闘の痕跡がある。
冒険者が廃墟を片付けたばかりかもしれない、道中は静かだった。風が廃墟を吹き抜けて、時々怪奇な音を引き起こす。その度人類は早く通るように自分の足を促す。
全員が無事に通れるように祈っているが、願いと真逆な事に、出口の近くに大量な堕神が現れて、通路を塞いだ。
「ああ、まったく、どうりで道のりが静かなわけだ。全部ここにいたのか」
ミルフィーユはどこだかわからないところから旗を取り出して土に差し込んだ。ミルフィーユの像が描かれた旗は無気力に風に吹かれているが、彼はまったく気にしてない様子だった。
隊の後方には堕神の気配がないようだ。俺はミルフィーユにどうするつもりと尋ねた。
「どうするつもりだ?」
俺は警備しながら堕神の群れを観察した。普通の原生形堕神は簡単だが、中にいる二匹の貪食は厄介だ。
「貪食は我武者羅に人類を攻撃してくる、私達の戦力は足りない、兵を分けたら隙を突かれる。まず人類を連れて背に頼れるものがある場所に後退して、戦線を縮小する、それから協力してこいつらを殲滅する」
ミルフィーユは協力を強調する時、俺に射撃する手振りをした。こんな時の冗談に苛立ったせいか、俺の口調は硬くなった。
「銃口を堕神に向けろ。俺はお前の獲物じゃない」
喫茶店のパティシエになる前、俺はずっとミルフィーユを避けてきた。この適当でしつこい奴は、どうしても俺を仲間にしたいようだったから。
俺が喫茶店に入った後、ミルフィーユは俺の選択を尊重したが、それでもちょくちょく喫茶店にやってくる。時に彼一人、時にブラウニーも一緒に。
それから新しい顔はだんだん増えていって、彼はたまに喫茶店の依頼も受けるようになった。そしてコーヒーと俺に受けられる範囲内の要求を出してくるようになった。
俺は基本他人を観察したりしない。でもミルフィーユは例外だ。
ミルフィーユは自分の欲しいものがわかっている、たとえ彼の要求を満たせたとしても、彼は完璧に任務を成し遂げる。そうすれば駆け引きに使えるチップが増えるから。
今のように、最後の堕神が倒れ、人類が歓呼をあげて、ミルフィーユがあざとい仕草で帽子の前に指を揃えて掠ると、人類を無視しまっすぐ俺を見た。
「勝利は手に入れた。打ち上げの場でデザートを多めに作ってもらおう」
戦いで消耗する精力は厨房で働くよりも多い。少し疲れた俺は服の土ぼこりを落として、気が抜けたように答えた。
「戻ったら考えよう」
Ⅴ パステル・デ・ナタ
パステル・デ・ナタはサタン喫茶店のパティシエになる前、グルイラオを遊歴してデザート作りの腕の修行をしていた。
修行と言っても、いろんな町に行っていろんなパティシエに会って、新しいデザートを学ぶだけだった。
パステル・デ・ナタは通常一つの町で短くない時間滞在する。彼は生まれつき偏屈で、人と交流したがらないけれど、人々に幸せをもたらせるデザートは、彼に思い出しがいのある物語をも作れる。
パステル・デ・ナタは、当然それら物語と物語の中の人物が好きだった。
静かな午後、パステル・デ・ナタは一人で紅茶と暖かい陽の光を楽しんでるとき、これらの思い出は彼に軽やかで愉快な気持ちを感じさせる。
ミルフィーユのことはパステル・デ・ナタの好きな思い出ではなかった。
彼らの出会いはまったく偶然だった。その時、パステル・デ・ナタはミルフィーユの顔すらはっきりと覚えていなかった。彼は直感でミルフィーユが面倒なやつと認識した。
事実、パステル・デ・ナタの直感は間違ってなかった。二回目の出会いでミルフィーユは彼に付きまとうようになり、絶対に見逃さないと公言すらした。
「パティシエ、これもなにかの縁だ。付いてきてもらおう」
ミルフィーユが満足げにパステル・デ・ナタが作ったデザートを食べながら、当然のように。
「私はきみが作ったデザートが好きだ、これからも作ってくれ」
もちろん、ミルフィーユは諦めなかった。
パステル・デ・ナタは遊歴の道のりでチョコレートと知り合った。
長い間グルイラオを旅してきたパステル・デ・ナタは、多くの人と出会って、多くのデザートを食べてきた。長い旅を経て彼はどこかで落ち着いて菓子作りに専念したいと思った。
しかしどこにいっても、ミルフィーユはいつも簡単に彼を見つけ出す。
パステル・デ・ナタは困惑した。なぜミルフィーユはこうも自分に執着するんだ?菓子作りの腕以外、自分にまだ他の何かがあるというのか?
その時、チョコレートの出現が彼に一つの最良な選択を提供した。
その時、チョコレートは彼がいた町の依頼を受けていた。依頼主はよくパステル・デ・ナタの所に茶を飲みにくる一人の少女だった。
チョコレートはとても魅力的な食霊で、友達作りに長けている。ミルフィーユより接しやすい。
パステル・デ・ナタとチョコレートは次第に仲良くなってきた。彼はチョコレートからサタン喫茶店のことを聞いた。チョコレートもパステル・デ・ナタの考えを知った。
「ミルフィーユのしつこさに困ってるだろう?サタン喫茶店でなら邪魔されずに腕を磨くことができるし、より多くの人に食べてもらうこともできる」チョコレートはこう言った。
一人で店を構えるコストを考えると、パステル・デ・ナタはチョコレートの誘いを受けて、喫茶店の最初で唯一のパティシエになった。
ミルフィーユと言うと、パステル・デ・ナタがサタンカフェを選んだことを知ったら、彼は銃を持って店を破りにこなかった、代わりに一定の戦略を取った。
ミルフィーユは自分が何が欲しいのか明確にわかっている。パステル・デ・ナタの拒絶が逆に彼を燃え上がらせた。
元々パステル・デ・ナタが作ったデザートが好きなだけのミルフィーユは、目的を彼を征服することに変えた。
共に戦った後、パステル・デ・ナタもだんだんとミルフィーユのこういうところを理解した。
同時に、ミルフィーユが厄介な存在と再認識した。
ある静謐な午後、パステル・デ・ナタがサタン喫茶店の外の森林で休んで、目を閉じて暖かい風を楽しんでたとき。
夢うつつの間で、パステル・デ・ナタは誰かが何かを使って自分の頬を啄んでいるように感じた。彼はその煩わしい手を押しのけて、目を閉じたままで。
「邪魔するな、ミルフィーユ」
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132019年02月26日 05:39 ID:gc1f1kur↓反映しました。ありがとうございます!
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122019年02月26日 00:22 ID:lkx6stuf最終話7
誓約したらものすごく態度変わってくれて優しかったです
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112019年02月26日 00:22 ID:lkx6stuf最終話6
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