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メイン・ストーリー・まとめ

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人類と『食霊』が共存する世界

『ティアラワールド』

レストランを経営しているあなたを

待っていたのは

攻撃してきた『堕神(おちかみ)』

あなたは『料理御侍(おんじ)』として

美味しい料理を研究しつつ

食物から生まれた霊体 食霊と契約を結び

カレらを率いて堕神と戦おうと決心した……

果たしてその結末は?

公式紹介文より

□作業進捗状況

メインストーリー:

残り69相談・70対策・73不意打ち・74城を登る・79新世界・80不安抹消・81話は戻る・87人間として・

※冒険履歴からの読み返し不可で書き起こし出来なかった為、ストーリーの情報を募集中です。編集用リンクから直接編集かコメント欄に画像で情報提供をお願いします。

113上陸、そして

▽編集用リンク

メイン・ストーリー・69相談〜80不安抹消

メイン・ストーリー・81話は戻る〜90されど

メイン・ストーリー・101視線の交流~110耳打ち

メイン・ストーリー・111協力~120禁区


サブストーリー:

メインストーリー

パラータ後編

69.相談

蜃楼が蘇った。壊滅的な力が構築される前に消滅させるために、皆は対策を検討し始める。


 砂漠の国――パラータ

 ○○は北荒集落を脅かすカルラの群れを倒した。その後、パティはその恐るべし存在……蜃楼(しんろう)がもう傍まで来ていると感じ取った。


パティ:蜃楼が目を覚ました……はぁ……

イキ:何でため息なんかつくんだよ?ぼくたちが一緒に戦えば、倒せるだろ?

パティ:……あなたは人間だし、『無邪気』故だと許しましょう。

イキ:あ?

ライス:あの……古代堕神って、そんなにすごいんですか?

オリビア:神でさえ頭を痛めるような存在だ。私たちに戦う義務があるとはいえ、正直命をかけてまでやりたいとは思わない。

パティ:いいえ、まだチャンスがあるかもしれません。蜃楼は目覚めたばかりです。まだ全盛期の力を取り戻してない。全力で攻めれば、滅ぼせるかもしれない……。

主人公:『かも』?

パティ:これ以外に方法はないでしょう。私も力を解放し、可能な限りあなたたちを助けます。一刻を争います、急ぎましょう。

主人公:待って。パティ、君はついてこないでいいよ。

パティ:え?何故ですか?

主人公:集落はまだ安全とは言えない。それにここの人たちは、きっと君から離れないよ。蜃楼の件は私たちに任せて。

パティ:○○、それはカルラのような堕神ではないわ。あなたたちだけでは勝てない!

主人公:安心していいよ。もしも手に負えなかったら、すぐ逃げるからさ。

パティ:あぁそう。こんなに心配したのに……バカみたいですね。


70.対策

砂丘を越え、はるかに望め、天を摩する巨大な蜃楼はそこにある。どう消滅するかは、今の難題となった。


 北荒集落から出て、王城の廃墟から少し離れた砂丘へと着いた。風化した建築を通り抜け、微かに見える巨大な影に○○たちは息を呑んだ。


イキ:あの巨城……まさか蜃楼じゃないよな?何を食べて育ったんだ!?

主人公:少なくとも甘いお菓子じゃないのは確かだろうね……

ミスラ:ねぇ、これからどうしよう?

オリビア:パティは弱っていて協力を仰げない。目の前のこやつは今までの堕神と違って、私たちでは相手にならない。

主人公:だから意見の擦り合わせをしよう。そうしたら必ず蜃楼をなんとかする方法を見つけられるよ。まず闇雲に戦おうとしても無駄だ。蜃楼の前では私たちは蟻のようなちっぽけな存在……戦うには弱点を探さないとね。

イキ:あいつは城を背負ってて、体も頑丈そうだ。弱点はどこだ?

ミスラ:あそこよ……


 ミスラは蜃楼の膨らんだ頭を指す。


主人公:頭って……天まで貫きそうな高さだよ。とてもあれに触れられるとは思えない。

イキ:蜃楼の背負っている城に入って、その一番上まで登ればよくない?

ミスラ:登る……そうね、それならいけるかも……

主人公:確かに!その方法ならいけそうだ!しかも城門はちょうど尻尾の近く……あの門を破壊すれば中に入れそうだ。

イキ:でも、どうやって門を壊す?

主人公:パラータとグルイラオ辺境にはまだ若干の攻城兵器が残っているとオリビアが言ってたよね?イキ、ミスラを連れて食霊たちに兵器を操縦させて。それで城門を壊そう。

イキ:おおお!

オリビア:いい考えだ。だがあの体型だ、容易に門へは近づけないだろう。翼でもあれば別だがな。門を壊してもあそこまで行く方法がない。

主人公:私に任せといて。まずは門を壊そう。

イキ:けど、ここから門は結構離れてるぞ。どうやって門が壊れたかわかるか?

ミスラ:コホン!それについては問題ないわ、ほら。


 ミスラは妙なものを取り出した。


主人公:これは?

ミスラ:二つの竹筒を糸で繋いで双方で持つの。糸電話だと思ってくれたらいいわ。竹筒に向かって話すと、お互いの声が聞けるのよ。昔、おじいさんに教わったの。そこで、幻晶石の霊力で使って、新たな糸電話を作ってみたわ!これを持ってたら、多少距離が離れても、お互いの声が聞けるはずよ。

イキ:え、それ、すごくない!?

主人公:うん!ミスラ、すごいな!魔導学院で学んだのは食べることだけじゃなかったみたいだ。

ミスラ:そんなの当たり前でしょ……って、ちょっと待って。○○、今、相当ひどいこと言ったわね!?

主人公:コホン!まぁそれはさておき――イキとミスラはこれから、城を攻めるための兵器を探しに行ってくれる?私とオリビアは蜃楼と近寄せる方法を探しながら、連絡を待つから。それじゃあ――攻城戦、スタート!!


71.弘法も筆の誤り

順調に計画を施すために、ミスラとイキは攻城戦線に行って使える兵器を探す。


 イキとミスラは攻城戦に赴いた……

 辺境戦争で、ここはグルイラオ側の拠点となり、パラータ王城を破壊するために大量の兵器が配置された。長きに渡って兵器の一部はここに捨て置かれている。


イキ:ミスラ、ここだよね?

ミスラ:軍がいろんなものを残していったみたいだわ……あっ、この投石器はまだ使えるみたい!

イキ:投石器!いいぞ!こいつなら絶対に城門をぶっ壊せる!

イキ:けど……ここは蜃楼から離れてる。命中するかどうか以前に、きっと届かない気がする。

ミスラ:心配しないで。グルイラオの投石器は幻晶石の動力会社が開発したんだから。幻晶石で投石器の回転を増幅したら、威力と射程が増加するはずよ。

ミスラ:つまり、この老朽化した投石器が壊れるまでは、撃ちたい場所に撃てるってこと。

イキ:そんなに強いのか!?じゃあどうする?

ミスラ:これに関する工具の本を読んだことあるわ。歯車の回転を増幅させるのと測量は私に任せて。あなたは投石器を操縦してちょうだい。

イキ:よし、紹興酒竹飯、手伝ってくれ!

竹飯:しゃー!おもしろいことやるのか!?

紹興酒:あぁ?何が面白いんだ?こんなつまんねぇこと、俺様にさせるんじゃねぇ。

イキ:なんでもいいから、あそこの大きな石をここに運んで――ん?何か聞こえる……。

カルラ:この匂い……人間の、匂いだ……

ミスラ:カルラ!?

イキ:チッ、タイミングが悪かったな!ミスラ、あいつらは任せた。堕神はぼくが倒す!


***


イキ:へへっ!ミスラ、こっちは片づいたぞ。そっちは?

ミスラ:終わったわ。

イキ:よし、じゃあ竹飯、いけっー!

竹飯:っしゃー!!


 竹飯は機械を移動させる。幻晶石によって歯車を増幅して回転させ、膨大なエネルギーで設置された巨大な石が遠くの蜃楼に向かって放たれた。


竹飯:これで御侍の頼みは終わりか?

イキ:まだだ。次は何をしてもらうんだ?

ミスラ:ん……そうだ、○○には避難してもらった?

イキ:避難って?何の話だ?

ミスラ:………………イキ。

イキ:えぇと……あっー!忘れてた!ミスラ、この竹筒はどう使うんだっけ、今から○○に連絡する!


72.火遊び

巨石を投げ出した後、イキはあなたにすぐ回避するように通知するのを忘れたことに気づいた。その結果……


 その頃――


主人公:うわぁ――近づけば近づくほど山のような圧力を感じるな。

オリビア:ああ。もうミスラとイキは攻城戦を始めてるはずだ。はやく隠れよう。

主人公:なぜ隠れる?

オリビア:……攻城するとしたら、投石車ぐらいしかないだろう。彼女たちの攻撃が必ず的に命中できるとでも思うか?

主人公:えっ?こ、怖いこと言わないでよ……

ライス:御侍さま、竹筒が振動してます!

主人公:おっ、それはきっとミスラたちからの連絡だ。これ……耳をくっつければいいのかな?

イキ:『おーいっ!○○、聞こえるか?』

主人公:おおっ、イキの声が聞こえる。そっちはちゃんと聞こえてる?

イキ:『○○、急を要する。今さっき石を投げた。急いで避難してほしい……あー!なんでもいいから、今すぐどこかに隠れてくれっー!』

主人公:えっ?もう石を投げた!?

オリビア:信じたくないが……○○、顔を上げて上を見ろ。


 オリビアが示した方向を見ると、空には黒点がうっすらと見えた。それがだんだん大きくなってくる。距離があっても、それはかなり大きな石だとわかった。


オリビア:見たな?じゃあ、私は先に行く。

主人公:え、ちょっと待ってっ!!わぁああ!!


 ――ドーン!!!

 ○○の後ろから大きな音が響く。慌てて振り返るとそこには、砂地に埋もれた大きな石があった。そのときの衝撃で舞った砂が○○に降り注ぎ、そこに埋まってしまった。


ライス:お、御侍さまぁ!

主人公:あああー!まったくもうっ!なんなんだよ、これっ!殺されそうになったぞ!?

オリビア:その石……間違いなく幻晶石で歯車の回転を増幅したな。さっきおぬしがもう少し近寄っていたら、恐らく内臓まで潰されていただろう。

主人公:……オリビア、わかったから。冷や汗がすごい……!っていうか、ちょっと!イキ!!

イキ:『○○ー?もしもしー?さっきすごい音がしたよな?もしかして当たっちゃった?』

主人公:そうだね!危うく私が仕留められるところだったよ!もっとしっかり狙ってくれる!?

イキ:『えっ?ああ、要するに狙いがズレてたってこと?ごめんな、○○。あはは、はははは……』

主人公:………………

イキ:『じゃ、気を取り直して、もう一回!今度はしっかり狙うからっ!』

主人公:頼んだよ……これ以上、砂を被るのはごめんだからね!

オリビア:ふむ、○○は料理御侍として力をつけてはきたが……まだ軍事経験はゼロに等しいな。

主人公:軍で戦うことはこの先もないでしょ……とにかく、もっと離れなくちゃ。行こう、オリビア。


 蜃楼から離れるために歩き出したが、そのとき突然、カルラ族の叫び声が空に響き渡った。


主人公:あれ?やつらの頭はやっつけたよな?

オリビア:きっと集団から離れた個体だ。念のため、カルラ退治を優先したほうがいい。


***


主人公:よし、全部倒したぞっ!

ライス:御侍さま、また石が飛んで来ました!

主人公:おおお、当たるか?当てろぉー!当たれぇー!当たっちまえー!

オリビア:○○、いったい何を騒いでる?

主人公:念動力を使った。きっとうまくいくぞ!

オリビア:さてはおぬし、アホだな……?


 ――ドーン!!!

 また大きな音がした。今度こそ石は確実に蜃楼が背負った城門に当たっただろう。○○とオリビアは靄が晴れた先に、古い城門が開かれているのを確認した。


オリビア:………………

主人公:へへっ……!

オリビア:次の計画はどうした?ヘラヘラしてると、暴食の口にぶち込むぞ?

主人公:……コホン、そんな怖いこと言わないでも話しますから。それで、次の計画ですが。少し手間がかかります。


73.不意打ち

前期準備ようやく完成した。あなたは蜃楼に載せている王城を登ることに決めた。しかし事はそんなに簡単ではなかった。


オリビア:もったいぶるな。早く言え。

主人公:ええと……とりあえずB-52を呼びます。

オリビア:彼を呼んでどうする?

主人公:B-52は飛べるでしょ?だから、彼に上まで連れてってもらったらどうかなーって。

オリビア:おぬし、それは冗談か?そもそも、B-52の翼は人を運ぶためについている訳じゃないぞ。

主人公:えっ?ダメだった?

ライス:御侍さま、ライスが上までお連れします!どうぞ遠慮なく頼ってください!

主人公:その小さい体で、大きく出たなぁ……だいたいさ、ライスは飛べないでしょ。

オリビア:それがおぬしの計画か?だったら『次の計画』は失敗に終わったということだな。

天ぷら:ちょっと待てぇっ!

ライス:てんぷら?

天ぷら:御侍、俺に任せてくれないか!?

主人公:え?天ぷら、空を飛べるの?

天ぷら:しない。

主人公:だったら今は引っ込んでてくれる?忙しいんだ、こっちは。

天ぷら:まーまー、無下にする前に俺の話を聞いてくれ。確かに俺は飛べないけどさ、自慢の腕力がある。俺にかかりゃ、200kg以内なら、あっという間に遠くまで飛ばしてやるぜ!

主人公:えっと……

主人公:……

主人公:わっ!?


 すぐに○○は反応できない。言われていることがすぐに理解できなかった。しかし天ぷらはそんな○○を有無を言わさずがっしりと担ぎ上げ、力いっぱい蜃楼に向かって投げつけた。


主人公:ああああーっ!!?


 容赦なく投げ出された○○の声がだんだん遠ざかっていく…………


ライス:お、御侍さま!

天ぷら:ははっ!見たか、これが俺――天ぷら様の千鈞(せんきん)の力だぜ!

オリビア:天ぷら。おぬしの力は確かにすごい。だが、この状況、理解しているのか?

天ぷら:え?何か問題あったか?

オリビア:おぬしの御侍は人間だ。あのように投げられたら、ただじゃすまない。最悪死ぬかもしれないな……。

天ぷら:えっ?あの程度で死ぬか!?嘘だろ……そこまで脆いか、○○は。

ライス:あ……

天ぷら:おい!?ライス!?御侍は大丈夫だって!よし、これから○○を助けに行くぞ!お前も一緒に来い!

オリビア:君たちの茶番はすごいな。呆れを通り越して感心するよ。


74.城を登る

空中を飛翔したあと、ようやく味噌汁の助けの元に安全に着陸した。奥深い王城廃墟を見て、あなたは最上階に向かって進む。


 天ぷらに蜃楼に向かって投げられて、○○は空を猛スピードで飛んでいる。


主人公:(風が強くて口が開けられない。目も同じだ……!天ぷらの奴、よくもやってくれたな!このスピードだと蜃楼にぶつかって死ぬぞ!)

味噌汁:御侍ーっ!

主人公:(味噌汁!?)


 ○○は城門前で手を振っている味噌汁の姿を発見する。味噌汁は勢いよくジャンプし、○○を引き寄せる。そしてそのまま城門前に着地する。


味噌汁:ふぅ……危なかったな、御侍。御侍?おい、大丈夫か?もしかして、泣いてる?


 ○○は大きく息を吸いこんだ。体はようやく感覚を取り戻し、鼓動が早鐘を鳴らす。震える両手は味噌汁の袈裟をしっかりと握っていた。


主人公:……お、驚いたけど、私は鋼の心臓を持つ強者だから!な、泣いたりしないよ!?で、でもちょっとだけ待って……腰を抜かしているみたいだ。……ところで味噌汁、君はどうやってここまで上がってきたの?

味噌汁:御侍の傍に現れるなんて容易いことだ。拙僧は○○の食霊だからな。

天ぷら:御侍!御侍!はぁ、はぁっ!ほら、見ろライス!やっぱり御侍は無事だったろ!

主人公:天ぷらも来たのか。って、どうしてライスも一緒なの?

天ぷらライスがあんたのこと心配して倒れたからさ。だからライスも連れてきた……と、そうだ!こうやってあんたと一緒にこの城を登ってくればよかったのか。そうしたらあんたを投げなくて済んだ……。

主人公:天ぷら……ちょっとそこに立って。一発殴らせてくれる?

天ぷら:あー……悪かったよ、御侍。反省したから殴るのは勘弁してくれ。味噌汁ライスを頼む。俺は先に行くぜ!また後でな、御侍!


 天ぷらは○○の今にも呪い殺してきそうな眼差しに耐えかねて慌てて逃げ出した。それと同時に、味噌汁に預けられたライスはぼんやりと目を開ける。そして、ライスは御侍に手を伸ばした。


ライス:御侍さま!うぅ……御侍さま、大丈夫、ですか?

主人公:すごく驚いたけど、ライス、私は大丈夫だよ。味噌汁が助けてくれたからね。

ライス:よ、よかったです。御侍さまは何かあったら、ライスは……

主人公:ライス、心配してくれてありがとう。でも、今は感動の再会をしている場合じゃない!


 頭上には壊れた城門が見え、足下では、うろこのような角質が蠢いている。これは蜃楼の体だ。城の中を覗くと、深くて暗い大広間が見えた。そこから時々蜃楼の重い呼吸音が聞こえてくる。周囲の壁にこだまして、ブンブンと残響を残している。この光景は目の当たりにしないと、現実のことだとは到底信じられない。


主人公:中に入ろう。目的は最上階だよ。


75.棲息

王城の内部くねくねと曲がりくねっていて、そして多くの小型堕神もここに生息している。あいつらは進む道に立ちはだかる障害である。


オリビア:『○○、聞こえるか?』

主人公:その声は……オリビア?

オリビア:『どうやら無事みたいだな?どうだ?上に行く道はありそうか?』

主人公:正面に階段がある。メインの通路みたいだ。あそこから上に行ってみようと思う。

オリビア:『ああ。蜃楼は今、動いているようだな。私は一緒に行けないから、外で観察を続ける。』

ライス:御侍さま、堕神の気配があります!

主人公:え?この蜃楼の中に堕神がいるの!?

オリビア:『この巨城には、堕神が寄生できる十分な空間がある。』

オリビア:『とにかく。最上階までの道は険しいだろう。気をつけて行け!何かあれば連絡する』


76.トラブル解決

どうやらもうすぐ最上階に到達するらしい、しかしその時意外に雷鳥カルラに遭遇した。片づけないと危険にあう恐れがある。


主人公:頂上までは遠いかな?

主人公:この状況だといつ堕神が現れてもおかしくない……一瞬の油断も許されないぞ。

ライス:御侍様、この先に間違いなく堕神がいます……

主人公:そっか。じゃあ、迂回しよう。堕神討伐をしに来た訳じゃないからね。最上階を目指さなくちゃ。時間の無駄はできない。

ライス:違います。御侍さま……この先に、雷鳥カルラがいます……

主人公:え!?雷鳥カルラ!?ここ、もしかして彼らの巣だったりする?

ライス:か、かもしれません……

主人公:危険だ。やっぱり戦おう。先手必勝だ!


77.正面対決

すべての障害を一掃した後、あなたはもうすぐ最上階に到達する。間違いなく、これが蜃楼だ。


 雷鳥カルラを倒して先に進むと、階段の突き当たりで古い木戸に塞がれる。暗い廊下の中で唯一隙間から光と風が漏れている――間違いない、ここが最上階だ。


主人公:これから、蜃楼と正面対決するのか……


 一瞬戸惑うも、○○はすぐに覚悟を決め、ドアを押し開いて外に出た。先ほどまでの重苦しい空気は風に吹き飛ばされる。見上げると、そこには広い空が見える。ここは、天にそびえる巨樹のような蜃楼の頭であった。


主人公:むむっ……あれは何かな?オリビア。

オリビア:『○○?最上階に着いたのか?』

主人公:うん。あいつの頭は私から少し遠いな。ちょっと協力してもらえないかな?B-52に攻撃させて。あいつの注意を引き付けてほしい。

オリビア:『わかった。』

ライス:御侍さま、わたしたち、勝てますか?

主人公:うーん、それはわからないな……城の中に隠れて、様子を見よう。


 そんな話をしていると、遠くから爆発音が聞こえてきた。そこには、怒りの形相の蜃楼が巨大な頭をこちらに向けて喚いている姿が見える。

 するとそこにB-52が現れた。○○の頭上を急速に通り過ぎ、蜃楼へと飛び込んだ。空中で素早く蜃楼の反撃を避けて、何度か攻撃をした後、○○のもとに舞い下りる。


主人公:随分早く来たね。

B-52:相手の注意を引くことに成功しました。この後は○○、君の番です。


78.漁夫に利を占められる

悪戦をしてきて、蜃楼の強い力に対してあなたは対策を考え直さなければならない。そんな時にメガフォンからミスラの声が伝わって来た。


 蜃楼は咆哮して、噴射した気流でこの場にいる全員を吹き飛ばそうとしたが、幸いにも背後の城壁に遮られ、なんとか耐えられた。


ライス:御侍さま!これ以上、もう耐えられません!

主人公:こんな攻撃じゃ、蜃楼を撫でてるみたいだ……みんな、早く城の中に戻ろう!


 再び通路に戻っても、蜃楼の攻撃は止まない。○○は溜息をついた。すると、オリビアの声が聞こえてくる。


オリビア:『○○、どうだった?』

主人公:一つわかったことがある……蜃楼はとても厄介だ。なんと口臭がとてつもなくキツイ!

オリビア:『冗談は結構。それより、何か弱点は見つけられなかったか?』

主人公:見つけられなかった。うろこは硬すぎて、ダメージを与えられない。眼球すら傷付けられなかった。うろこを破壊できる方法を見つけない限り、蜃楼を倒すなんて夢物語だね。

イキ:『……ああ。○○、ミスラが話したいって。』

主人公:あっ?

ミスラ:『○○、こっちでアルナが見つかったわ。』

主人公:えっ?じゃあ、すぐそこを離れないと!

ミスラ:『違うの、あなたの話を聞いてて、思いついたことがあるの。』

主人公:……もしかして、アルナをここに引き寄せて、蜃楼と喧嘩させるつもりじゃないよね?

ミスラ:『脅威だと感じたら必ず戦う。これは堕神の本能よ。私を信じて。』

オリビア:『仕方ないな。B-52、アルナを挑発してくれ。そして、蜃楼がいるところに誘導するんだ。』

オリビア:『○○、暫く持ちこたえてくれ。』

主人公:それしか、方法はないか……。わかった、ここはなんとかする。


***


主人公:『やった!成功したみたいだぞ!!』


 集まった食霊に集中攻撃されて急所を攻撃された蜃楼は、ついに沈黙した。

 蜃楼は悲痛な叫喚(きょうかん)をあげて、轟音と共に倒れてしまった。


主人公:や、やった!こんな大きな堕神を私がやっつけたなんて……えっ?


 すると突然○○の足下にある城が大きく揺れ始める。


ライス:御侍さま!ここ、崩れ落ちます……!

主人公:こんな時に!?

オリビア:『○○、この城はもう支えられなくなった。早くそこを離れて。』

主人公:そんなこといきなり言われても間に合わないよ!うわぁ――!!


 廃墟と化した王城は前触れもなく崩れる。○○は足元を支えていた地面を失い、そのまま膨大な土煙に飲まれてしまった。


79.新世界

蜃楼を撃退した。しかし危機はそれだけでは終わっていない。同時に、砂漠より南のパラータ新王城内に特殊な客を迎えた。


 パラータ南部

 終沙門城

 蜃楼が○○に倒されたあと、廃墟となった王城は完全に崩れた。その結果、○○の命が危険にさらされる。同じ頃、南部の新王城――終沙門城に、訪れた者がひとり。立派に飾り付けられた応接間から、床を松葉杖で叩く音が聞こえる。すると応接間の扉が開き、背の高い細身の男が入ってきた。


グリーンカレー:うん?麻辣ザリガニ?兄上がここに来るなんて、どういう風の吹き回しだ……?

麻辣ザリガニグリーンカレー、今回はグルイラオ皇室の挨拶とお礼で来た。あと、少し話がある。


 グリーンカレーは頷いて、護衛兵に退去を命じる。彼らが出て行くと、応接間にはグリーンカレー麻辣ザリガニだけが残った。


グリーンカレー:長い間お待ちしておりました、兄上。

麻辣ザリガニ:ああ。多くの仲間を覚醒させるのに、いろんなとこに行ってたから時間がかかっちまったぜ……てめぇの成果はどうだ?

グリーンカレー:パラータ聖王は二年前に病膏肓(やまいこうこう)に入りました。王室全体は相続権を争って殺戮を繰り返し、王権はもはや有名無実となりました。僕は先に王宮全員を我々の仲間――兄弟姉妹に挿げ替えました。パラータは現在、我々の手に落ちました。

麻辣ザリガニ:よくやった。だが、ここからがスタートだ。桜の島に行ったことあるか?人類は絶滅し、堕神に占領されている。これからはもっと慎重に行動しねぇとな。

グリーンカレー:はい。そういえば、サイモンがここに来たとき、契約の干渉装置が開発されたと言っていました。

麻辣ザリガニ:ほお?

グリーンカレー:食霊を召喚する魔動炉とは契約の枠組みが違います。新しいその装置は、都市の規模でその中にいるすべての食霊の契約を書き換えることができます。人間は僕たちをコントロールできなくなれば、屠殺を待つ羊と同等です。サイモンの話によると、彼は過去数年間にこの装置を世界各地に設置したらしいです。けれど……兄上が彼らの家族と親密にしているのは知っていますが、彼らはなぜ僕たちを助けてくれるのでしょう?

麻辣ザリガニ:……奴らは俺様たちを手伝ってるんじゃねぇ。奴らの行い、それ自体が計画の一部だ。

グリーンカレー:というと……?

麻辣ザリガニ:俺様は一応執行者の一人だった。奴らを殺したのは計画から逸脱したからだ。あと、もっといい選択肢が見つかったからだな。

グリーンカレー:なるほど……!僕たちの新世界ですか!


80.不安抹消

この時に麻辣ザリガニと相談しているグリーンカレーは、もう一つの報告を受けた。


 麻辣ザリガニグリーンカレーが話していると、ノックの音が聞こえた。護衛兵が恭しい態度で深々と頭を下げて応接間に入ってくる。


グリーンカレー:どうした?

付き人:グリーンカレー様、北部についての情報があります。数百年前からずっと旧王城の下に隠れていた蜃楼が復活いたしました。

グリーンカレー:太平の世には程遠いな……わかった、後で処理をする。

付き人:その蜃楼は倒されました。どうやら……人間に仕留められたようです。

グリーンカレー:人間だと……?わかった、下がれ。

麻辣ザリガニ:調べるまでもない。きっと○○だ。

グリーンカレー:兄上、何故そう思われますか?

麻辣ザリガニ:奴とは前に戦ったことがあった。そのときは一撃も耐えらねぇ虫けらだったのに、桜の島であいつはサイモンが改造した蛇君を退治しちまった。寿司によると○○は仲間を連れてパラータに来ているらしい。驚いたが、俺様たちはやるべきことをやるだけだ。

グリーンカレー:……あのような人間を残しておいたら、良くないことが起こるでしょう。兄上、奴を倒しますか?

麻辣ザリガニ:必要ねぇ。てめぇはここで王室の者たちを始末しろ。○○は、こっちでなんとかする。


 ザリガニは話し終えると、背後から奇妙な格好をした食霊が現れた。鮮やかな赤色の仮面で顔の下半分を隠したその男は、目つきが鋭く、まるで刃のようだった。


ペッパーシャコ:兄上……

グリーンカレー:……ここには兄上だけがいらしたのだと思っていました。

麻辣ザリガニ:奴はペッパーシャコ。普段は俺様の傍で身を隠している。○○の件はこいつに任せる。

ペッパーシャコ:承知……


 ペッパーシャコは淡々と答え、暗がりに消えていった。


グリーンカレー:パラータの話はこれで終わりです。兄上の計画が順調でしたら、僕からは特に言うべきことはありません。

麻辣ザリガニ:ご苦労。

グリーンカレー:このあとはどちらに向かわれる予定でしょうか?またサイモンを会いに行かれますか?

麻辣ザリガニ:いや、奴とはもう誰も会わなくてもいい。孵化の日が来れば、あの計画の真の首謀者が舞台裏から出てくるだろうしな。

81.話は戻る

ペッパーシャコは命令を受け、危険を取り除くことに準備する。しかし目標としてのこちら側は、まだ危険にさらされている。


パラータ北部

王城廃墟


 イキとミスラは蜃楼が仕留められたあと、急いで○○たちの元にやってきた。現場には大量の土煙が立ち込めている。


イキ:オリビア、○○は?

オリビア:……

ミスラ:ま、まさか……巻き込まれた?

オリビア:○○はいつだって事件に巻き込まれている。今回だけ無事でいると思ったか?

ミスラ:では……


 イキはその言い方に反論しようとしたとき、土煙の中から、翼をはためかせているB-52が現れた。その両手には○○が抱きかかえられている。B-52は懸命に翼をはためかせるが、○○の重さでうまく飛ぶことができない。地面に急降下したそのとき、天ぷらが不意に現れ、○○をがっしりと受け止めた。


イキ:○○!

主人公:うぐぐ……コホコホ!コホコホ!はぁ、はぁ……はぁ!

オリビア:今日はずっと土を食べているな。副菜も注文したほうがよくないか?

主人公:ちょっと……少しは私のこと心配してくれない?

ミスラ:○○、無事でよかった!

イキ:まさか○○が蜃楼をやっつけるとは思わなかったぜ。すげぇな!

主人公:もういいよ。今回の経験はぜんぶ夢みたいだ。自分でも信じられないことばっかだった。

ライス:あの……みんな、御侍さまは疲れているのです。だから休ませてあげてほしいのです……。

主人公:ああ、問題はもう解決したからさ。北荒集落に帰ろう。いい加減、パティにサイモンの行方を教えてもらいたいしね。


82.悪化

苦労をなめ尽くしてようやく蜃楼を解決した。皆も無事に北荒集落に帰り、パティに知らせることに決めた。


 ○○は無事に仲間と合流し、北荒集落へと戻った。パティはずっと彼らの帰りを待っていた。無表情でも瞳には少しだけ喜びが混じっているように見えた。


パティ:お帰りなさい。

主人公:ただいま。ほら、無事私たちだけで解決できたよ。

イキ:敵わなかったらすぐ逃げるって言ってたけどね?

主人公:………………

ミスラ:今は無駄話をしてる暇はないんじゃない?

主人公:確かに。あのさパティ、サイモンはどこにいる?教えてもらえないかな?

パティ:そうね。お礼にサイモンに関することは全部教えてあげよう。よく聞いて……ああっ!


 パティが口を開こうとした瞬間――矢が突然飛んできて、パティの胸元を射抜いた。


主人公:えっ!?パティー!?

オリビア:敵だ!警戒態勢に入る。B-52、上空から様子を見てきてくれ。イキ、ミスラ!おぬしたちは急いで○○とパティを連れて北荒集落に行ってくれ!

主人公:待って。パティだけ連れていってくれ。私はここに残る。

オリビア:○○、おぬしの食霊はもう限界だ。おぬし自身も休息が必要だ。

主人公:大丈夫。それに今回の敵は私を狙ってるんだと思うから。

ペッパーシャコ:目標……外した。


 ○○の前に怪しげな男が現れる。手には精巧なナイフが握られていた。


オリビア:ペッパーシャコ!?

主人公:オリビア、知り合いなの?

オリビア:……彼は魔導学院の実験室にいた記録がある食霊だ。

オリビア:まだ食霊が誕生したばかりの頃、魔導学院の実験室では多くの食霊が逃げだした。彼も逃げだした多くの『失敗作』のひとりだ。

主人公:失敗作?

オリビア:魔導学院での話だ。彼の腕を見ろ。実験室の人間が改造したんだろう。だが、何故彼がこんなところに……?まさか!!

主人公:まさか……?

ペッパーシャコ:○○――目標、消滅……

主人公:な、何だって……?本当に私がターゲットだったとは!

オリビア:ふざけてる場合か!気をつけろ、また来る!


 オリビアは迅速に○○の前に躍り出た。彼女の前に華奢で愛くるしい姿が現れ、握っている巨剣を振るって矢を二段に割った。


ジンジャーブレッド:食霊が人間に手を出すとはな。こいつは殺すしかない。

ペッパーシャコ:邪魔者……殺す。


***


ペッパーシャコ:時間不足……任務……失敗……


 ペッパーシャコは、悔しそうにそう呟き、暗闇へと消えていった。


主人公:……えっ?これで終わり?

オリビア:何を残念がっている?おぬしは相変わらずとぼけているな。

ミスラ:○○、オリビア!パティ、パティが……!

主人公:パティ、大丈夫!?

パティ:はい……食霊は私に『致命傷』を与えることができる。でも、神様は死なないから。

主人公:で……でも、今まさに死にそうだけど!?

パティ:違う。これはこの人間の体が……ドゥルガーを抑えられなくなっているだけ……

主人公:ドゥルガー……?

ミスラ:ドゥルガーは四百年以上前にパラータに生まれた女神の名前……ただ、それ以降、姿を見せることはなかった。その名前を出すってこと――もしかしてパティは、ドゥルガーの化身なの?

イキ:へぇー!本当に神様なんだ。だったら無理に抑えつけたりしないで本当の姿になれば?

パティ:ダメです……力が衰えている上に、大怪我をしてしまっているから――今出てくるのはきっと……憤怒相――カーリー。

主人公:そのカーリーが出てきたら暴れるんだよね……でも、パティもこれ以上抑え込むのは厳しそうだ。私たちにできることはある?

パティ:お願いがあります……カーリーが出てきたら、私を倒してください。私は力を使い過ぎて疲弊状態です……

パティ:残りの力を使い果たしたら、また眠りについて回復ができますから……。

主人公:私たちが、神様と戦うってこと?

パティ:ドゥルガーがカーリー化するのは、悪を滅ぼすためです。しかし、悪がいなければ、溢れ出す怒りがすべてを破壊し、パラータの民が……ひどい目に遭う……

主人公:蜃楼が出てきた時にも言ったけど、ここは本当に災害が多いんだね。まあ、でも放ってはおけないよね。

パティ:ありがとう、○○。まだ、私はカーリーを抑えられるから。その間にもうひとつ、やらなくちゃいけないことがあります。

オリビア:北荒集落の住民のことか?こんなときも彼らのことが気になるのか。あの怠け者たちのどこにそんな価値があるのか……。

主人公:そうだね。これからはパティに頼れなくなる。そうしたら彼らは、別の生き方を探さないといけないね。

ミスラ:○○……まさか、手伝うつもりなの?

主人公:闇市港……たぶんあそこが北荒集落の住民たちが生き残る、唯一の道だ。

主人公:市場の建設をここまで拡大するように闇市港を説得できれば、彼らは働かなければならなくなるからね。いい案だと思わない?


83.ゴールデンの誘惑

パティは敵に撃たれ、元々抑えられない力は溢れそうだ。あなたはパティと約束し、後始末を開始した。


 これはパティにとって最後の願いだと言う。○○たちは、その願いを叶えてあげることに決めた。北荒集落に残った○○たちがパティの世話をする一方で、オリビアは闇市港に相談をしに行き、重要な情報を持ち帰ってくる。


オリビア:ただいま。パティ、まだ耐えられるか?

パティ:はい。食霊のおかげで、いま体の調子が安定しています。

ティラミス:いえ、わたくしはただ傷を治療しただけ。あとは貴方の自然治癒力次第……。

主人公:それでオリビア。闇市港のほうはどうだった?結果を教えてほしい。

オリビア:ああ、約束を取り付けた。だが彼らは既に北荒集落の土地と人口を吸収して拡充するつもりだった。だが、ちょっと面倒なことになってるな……

オリビア:この件に資金を回すと闇市港の運営に影響が出るから、資金援助がほしいと言われた。


 オリビアの言葉にみな口を噤む。しかし、その視線は――○○に向けられていた。


主人公:えっ?なにその目!私に何をさせたいの!?

イキ:○○がぼくたち支部の中で一番お金を持ってるよな。だったら……彼らを助けてあげられるんじゃないか?

主人公:え!?なんで私のお金で助けてあげなきゃいけないの!?

オリビア:おぬしなら可能なのだが……彼らを見殺しにすると?

主人公:いやいやいや!そもそもなんでしがない料理御侍に過ぎない私が闇市港の資金援助なんてしてあげなきゃいけないのさ!他にも方法はある筈だぞ!

パティ:○○……かなり危険ですが、他の方法があります。

パティ:王城廃墟の南には鉱坑があって、そこの金鉱量は採掘を4年に続けられる。闇市港が採掘権を買ったけれど、堕神がいるからずっと放置されています。

オリビア:それなら、堕神の問題を解決すれば、資金不足の心配はなくなるな。

主人公:こ、こんないいところあるか?

イキ:○○、何をするつもりだ?

主人公:コホン、何でもない。ティラミス、ここでパティの世話を頼むね。私たちは急いで鉱鉱に行って堕神退治をしてくる。さぁみんな、行こう!


84.うまいもの

もし闇市港を助け黄金鉱坑奪還すれば、北荒集落の人も相手に受入れる。あなたはこの目的のために行動する。


パラータ

金鉱坑


 堕神を倒したあと、○○は鉱坑の入り口でたいまつをつけた。たいまつの灯りで鉱坑の中を照らすと、剥き出しになっていた金鉱がキラキラと輝いている。


主人公:綺麗だなぁ……

オリビア:おぬしにとって高価なものは全部綺麗なのでは?

主人公:そんなわけないでしょ……それとも、私はそういう人に見えると?

イキ:そうだね。だって○○は困っている人がいても、救うのに自分のお金を使わない金の亡者……

主人公:ちょっと!ひどくない!?


 そのとき『グー』という音が響いた。○○は己の腹を押さえ、気まずそうに皆の顔を見た。


ライス:御侍さま、今日はまだごはんを食べていないのです。

主人公:えっと、さっきの蜃楼との戦いで緊張しすぎて、すっかり忘れてたよ。どうりで歩くのもつらい訳だ。

オリビア:それは、おぬしだけではないぞ?

イキ:へへ、実はぼくも食べてなくて……お腹が空いてる。

主人公:そうか、じゃあまずはティラミスに連絡だね。私達が鉱坑を取り戻したということを闇市港側に伝えて……そのあと料理を作ろうか。

ミスラ:いいわね!○○の料理は美味しいですから、楽しみだわ!


***


 鉱坑の傍での食事であったが、今日初めて食べるご飯なので、○○の手料理をみんな美味しそうに食べている。


主人公:ふぅ〜……あり合わせの食材で作ったわりには、美味しいご飯ができたなー!

ライス:御侍さま、食器はライスが片付けますね。

主人公:ああ、ありがとう。

オリビア:さて、腹ごしらえが済んだし、次の問題について話そうか。パティが化したあの神様……どう思う?

イキ:……正直、神様と戦うことになるとは思わなかったぜ。

主人公:それはみんなそうでしょ。パラータに来る前は、肇始之神こそ唯一の存在だと思ってたし。

オリビア:確かに肇始之神は唯一の存在だ。忘れないように、私たちも含めてすべてのものは、肇始之神の一部、ましてそれらの神様たちについては言わずもがなだ。

主人公:抽象的なものはわかりにくいな。まあ、なるようになるさ。サイモンにまた、桜の島のような惨劇を作らせないようにしないとね。この道はもう進むしかないんだ。

オリビア:……今の状況がそこまで単純ではないとしたら、おぬしはどうする?

主人公:えっ?


 オリビアの言葉に首を傾げたとき、ティラミスが現れた。


ティラミス:オリビア様!

主人公:ティラミス?パティの面倒を見てたんじゃないの?なにかあった?

ティラミス:先ほど連絡を受けたのですが、パティさんは気遣いはいらないと仰りました。そして、怪我することがないように、と伝言を残して既に旅立たれました。王城の廃墟傍の村に彼女を探しに行きましょう。

主人公:だとしたら、彼女はもう準備ができている……ああ、サイモンの行方さえまだ聞いてないのに。

オリビア:だったらすぐ行こう。彼女がドゥルガーかカーリーかに変わる前に、何か聞けるかもしれない。


85.断界姫の言葉

パティの要求を知り、皆は王城廃墟近くの村落に赴く。そこにパティを見つけた。


 鉱坑の堕神を片付けた後、ティラミスはパティがまもなく神――ドゥルガーに変貌する情報を持って帰ってきた。

 約束どおり、○○たちはドゥルガーを助けるために残りの力をすべて消耗させて眠らせるつもりだ。だがその前に、サイモンの情報を得なければならない。


パティ:ようこそ。

主人公:パティ、大丈夫……?あの、こんなこと聞くの変かもだけど、貴方はまだ私たちの認識してる貴方かな?

パティ:怪我をした後、ドゥルガーの力が一部溢れてしまって……けれどそのおかげで傷は修復し、神の記憶も一部取り戻すことができました。でもご安心を。私はまだ私です。ただパティはもうドゥルガーではありません。

ミスラ:どういう意味だ?

パティ:○○、あなたはサイモンの行方と、彼が一体何をしているのかを知りたいのですよね?

主人公:うん。その話をできるタイミングをずっと探ってた。

パティ:それを教える前に、私たち神と母神である肇始之神についてのことを知ってもらいたいです。

オリビア:………………

イキ:サイモンの行方と肇始之神と関係があるってこと?

パティ:宇宙に存在するすべてのものは、母神による夢想の力で生まれました。この星を含む、山と川、堕神と食霊、人類と精霊、すべて同じ源を発しています。

パティ:その後、人類の願いのもとに、私たちも夢の力から生まれました。

パティ:この世に存在するすべての神様も母神の一部で、私たちはそれぞれは違っていますが、行動の前提はすべて母神の意志のもとに成り立っています。

パティ:母神の意志は彼女を蘇らせることと決めました。その目的のために、この星のすべてのアンバランスを補います。

ミスラ:この星には何か釣り合わないものがあるの?

パティ:人間です。人間は星の均衡を偏んで、516年前に人間は精霊を消滅させ、生命の均衡が崩れ始めた。

パティ:母神は悲しみのあまり、純粋な夢想の力で混沌を星に生み出しました。その結果人間を喰らうなど生命の不均衡を修復する存在が生まれました。

ライス:お、堕神!?

ミスラ:堕神が人間を喰らうのは……まさか創世神として人類に崇められた肇始之神の意志だと言うのですか!?

主人公:ちょっとちょっと……肇始之神は堕神に人間を喰わせたのに、彼女の一部として、逆に人間を助けてるのは、自己矛盾じゃないか?

パティ:この前言ったドゥルガーの憤怒相――カーリー。対するパティは苦行相です。これまでのことは、それぞれの私が、光と闇のように行ってきたことです。母神も同じでしょう……

パティ:彼女は夢想の力から生まれました。そのため、善念と悪念はそれぞれ単独で存在する力です。私たち神は彼女の善念からより多くの源を発しています。また、混沌は純粋な悪念から生まれました。

イキ:キミたちは善念なのか?それならどうして堕神を放っておく?

パティ:人間は心の中に悪念があるからといって、自らその悪を絶とうとはしないでしょう?それと同じ道理です。

主人公:なるほど……でも大丈夫だ、今は食霊がそばにいるから、堕神と対抗できるからね。

パティ:食霊と堕神も混沌から生まれたということを知ってるか?

主人公:ああ。食霊を召喚する資料で読んだことがある。幻晶石で混沌を浄化するから、生まれた霊体は堕神とは違うものになる……

主人公:えっと……まさか実は食霊も、肇始之神の意志に従って、最終的には人間を滅ぼすと……?

ライス:そ、そんなことしませんよ!御侍さま!

イキ:ライス……!

ライス:私は、御侍さまが大好きです。御侍さまを傷つけるようなこと、ライスは絶対にしません!

主人公:ライス、落ち着いて。これは机上の空論だ。明らかに不可能なことだよ。わかってるから。

ミスラ:でも……もし食霊に契約の縛りがなかったら……?

主人公:ミスラ!

ミスラ:ご、ごめんなさい……怖くなってしまって。

パティ:契約は食霊の意志を左右する最も主要な要素ではありません。人間と食霊は契約の上に成り立っている関係で、本来であれば人間と食霊の感情は敵対しています。

オリビア:どういう意味だ?私たち人間は食霊と仲良くするべきではないのか?

パティ:……サイモン、そして彼と密接に関係している人たちは、この事実に辿り着きました。彼らがこれまでにやってきたことは、この関係を塗り替えるためです。

主人公:前にザリガニが言ってたね。人間は食霊を堕神化する研究をして、堕神を消滅させると同時に、食霊も抹殺すると。でも、それで人間が救えるのかな?

ミスラ:これは矛盾です……食霊がいなくなったら、人間は堕神に抵抗できなくなりますよね?これは自滅行為です!

主人公:そうだね、矛盾してる。これは、正しい方法ではないはずだよ。人間を救うためだとしても看過できない。私たちは彼らを阻止しなければならない――パティ、何か手がかりはある?

パティ:あります。貴方たちはそれがなんなのか、十分に理解しているはずです。

オリビア:○○も、そうだと言うのか?

パティ:○○は既に貴方たちと同じように、もっと良い結末を求めることを決めていますよ。あとは時間がすべてを証明してくれるでしょう。

パティ:……サイモンは、久遠海域のソルサビス島に留まっています。貴方たちもその島に行って、答え合わせをしてみましょう。


86.有言実行

パティは自分が知っているすべてを皆に教えた。そのあと、そして最後に、あなたはパティとの約束を果たす。


パティ:今、私が知っていることは全部あなたたちに教えました。約束を守りましょう。

主人公:いろいろと教えてくれてありがとう。パティ、全部終わったらゆっくり休んでね。


 ○○がそう告げると、パティは軽やかに笑った。そして両手を胸の前で合わせた。すると、その細い体がまぶしい白光に包まれた。

 そうしてふたたびパティが姿を現したとき、目の前に立っていたのは、彼女本来の自我である――破壊相ドゥルガー。


断界姫:ふぅー……!ああぁ、ぐずぐずしやがって、やっと終わったか。なにをそんなに話すことがあるんだか。

主人公:………………

断界姫:なんだ、その顔は?

イキ:見た目だけじゃなくて、性格まで変わったみたいだ……

断界姫:あ?必ず見た目と化身の性格は一致しなくちゃいけないのか?

ライスライスは、ちょっと、元のパティが恋しいのです……

ミスラ:私も……

断界姫:無駄話はいらん。今、お前らと話してやってるのは最大の慈悲だ。お前らと約束があったとはいえ、俺の怒りを静められないなら、お前ら全員死刑だ!

主人公:おい、約束が違うぞ!


87.人間として

怒る断界姫はあなたに撃破されて、眠りに落ちた。しかしこんな時にまだある事にミスラは気にかける。


断界姫:ふん……もし俺の力がもっと満ちていたら、違う結末になっていたはずだ……

主人公:だったら私は絶対に貴方に従わない。他の者を探せ!

断界姫:ハハッ!パティは実はずっとお前を可愛いと思ってるんだ。口にすることはないだろうがな。

主人公:えっ?そ、そうなの?でも、なんで今そんなこと言うのさ?

断界姫:彼女が話したことは、お前らだけが知っていることだからだ。だから、このことのために奔走してるのはお前らだけ……怒りが治まった以上、母神からの力で、もうひとつだけ助言をくれてやろう。――救世主は、お前たちの中にいる。

主人公:は?

断界姫:あー、ホントに疲れたわ。ぐっすり寝るぞー……俺が完全回復して目覚めたときは、既にパラータも平穏になってるだろうしなぁ。

ミスラ:ちょっと待って!そうしたらパティはどうなるの?パティも消えちゃうの?

断界姫:パティ?あいつのことは俺には関係ねえから!じゃあな!


 ミスラの質問を無視して、ドゥルガーが四つの腕を振りまわし、あっという間に光の中へと消えた。


ミスラ:ちょっと……!待ちなさいよ……!

オリビア:パティはドゥルガー自身だろう?ドゥルガーは寝たら、パティも寝る。

ミスラ:で、でも……突然いなくなっちゃうなんて。すごく寂しい……

オリビア:ミスラ……パティいなくなるけど、彼女は別の形で生き続けるから。

ライス:ミスラ、悲しまないでほしいの。

ミスラ:あぁ……パティ……

パティ:私を呼びながら泣かないでもらえますか?まるで私が死んじゃったみたいじゃない……

ミスラ:きゃーっ!な、何で!?

イキ:パ、パティ!キ、キミ、どうしてまだいるの!?

パティ:ここにいないでどこにいるの思うの?私は、消えるなんて言ってないわよね?

主人公:もちろん……言ってなかったけど。でも、ドゥルガーが寝たのに、一体どうして?

パティ:『禍を転じて福となす』と言うでしょう?ペッパーシャコの矢に当てられたことで、ドゥルガーの力が一部溢れ出た、って言いましたよね?力はまだ残っていて、命の源に変わったのです。だから私は、ドゥルガーから独立した存在となりました。ただし、これからはもう『神』ではない。あー……たぶん普通の人間のように、一生を過ごすのでしょう。

オリビア:それでは物足りないとでもいうようだな……?

パティ:私の身分は貴方たちと同じになった。かつての私と比べて、身分が低くなったのです。そう思ったら、気持ちは盛り下がりますよね?

主人公:うーむ。それは仕方ない……のかなぁ……?


88.折中の方法

パラータの件は全部解決した。サイモンの行方もよくわかったが、再び出航する時は問題に当たった。


 ○○一行は破壊相ドゥルガーの怒りを鎮めた。さらにパティが奇跡的に生き延び、パラータの旅は良い結末を迎えた。

 ドゥルガーから得た情報で、サイモンの最終的な行き先――ソルサビス島へと船で向かうことになった。これで、彼らを止めることができる。だが……


イキ:え?パラータ東岸に港がないって!?

主人公:地図を見て。一番近い港はグルイラオ皇都のワルキリー港、これでまずグルイラオに帰らなくちゃ。

ミスラ:ここから一番近い黄金楽園はグルイラオ皇都港に行けるわ。そこから行ったらどうかしら?

オリビア:両国は戦争状態を終結させたばかりで、黄金楽園南北入り口には軍隊がいる。しかも皇都に隣接してるために、特別な通行権を持っている私たちでも、勝手な出入りは許されていない。

ライス:御侍さま、だったらまずはおうちに帰りましょう。きちんと旅支度をしたほうがいいと思います。

主人公:うん、そうしようか。急がば回れ、と言うしね。ねぇオリビア、あとワルキリー港は軍用だから、皇都に申請しないと使えないよね?

オリビア:ああ。この件は私からギルドの者を介してなんとかしよう。

主人公:よし、じゃあ一旦帰ろうか。ここのところずっと船上にいて、家の布団が懐かしくなってきたしね。さー、出発、出発っ!

イキ:ちょっと待って!

主人公:どうかした?

イキ:○○、ここに来るとき、船室が熱すぎて溶けそうになったことを覚えてないか?

主人公:それなら大丈夫だ。ダブルアイスを連れて行ったらいいんじゃないかな?

イチゴ&バニラ:溶けるのは嫌だよ。

主人公:うーん――オリビア、なんとかして……

オリビア:それより暑さに対抗できる飲食物を多く用意したほうがいいだろう。今のパラータに脅威は減ったし、食材の入手もそう難しくないはずだ。

ミスラ:賛成!それがいいと思うわ!

主人公:食いしん坊の君に賛成されると、不安になるな……。涼むために用意すること、忘れないでね?


89.解散

皆久しぶりのグルイラオに帰った。次はどうするべきか、全員はあなたの決断を待っている。


碧空二十五日

レストラン


主人公:ただいま!ちょっと休むよ、暫くひとりにしておいて!

ライス:おうちのにおいです~♪とても安心します!

イキ:家に着いた途端、だらだらするとは、まったく○○らしいな。

主人公:なんでそんなこと言うの?

ミスラ:○○がやるべきことを忘れてるからでしょ。

ティラミス:ここまで随分と長旅でしたし、さすがの○○様もお疲れになりましたよね?

ティラミス:今日はみなさん、きちんと休んだほうが良いと思います。このあとまた長い船旅が続きます。ゆっくり休んで、体力回復に努めたほうが良いかと。

イキ:うん、確かにそうだな。

ミスラ:えっと、私はみんなに合わせるわ。

主人公:よし、とりあえず今日はここで解散しよう、何か話があるならまた明日にしよう。

オリビア:うむ、では私もギルドに帰ってワルキリー港の使用権の申し込み手続きをしてこよう。


 そうして、みなレストランから出ていった。暫しの休息――○○は久々の我が家に安堵して眠ったのだった。


90.されど

十分な休養を取り、あなたは再び安らかな朝を迎えた。オリビアは訪ねに来て、港の申請に関する消息を伝えた。


碧空二十六日

レストラン


 早朝――○○はゆっくりと目を覚ます。窓の外には奇妙な月明かりや砂埃も見えなかった。さらに慣れ親しんだ布団で、十分に休めたようだ。身も心もリラックスしている。今、この瞬間以上に素晴らしい時間はないだろう。

 レストランでライスが開店の準備をしている。○○が室内に入ると、それに気づいたライスが甘美な笑みを浮かべて走り寄ってきた。


ライス:御侍さま、おはようございます!

主人公:……元気だね、ライスは。よく眠れた?

ライス:はい。おうちにいて、御侍さまと一緒に朝を迎えられました。ライスはとても嬉しいです~♪

主人公:うん、旅先でいろんなことを経験したもんね。穏やかな生活がどんなに素晴らしいか、こうなってみると実感するな。けど、ここで立ち止まる訳にはいかない……

オリビア:○○。

主人公:おはよう、オリビア。ちょうど良かった。ワルキリー港の方はどうだった?

オリビア:昨日ギルドから話を聞いた。ワルキリー港を利用するには、責任者が直々に出向かなければならないようだ。おぬしが行くしかない。

主人公:へぇ。そういうルールなら行かないとね。イキとミスラは呼ぶ?

オリビア:おぬし一人で良い。

主人公:わ、私だけ?えっと……

オリビア:ん?なにか問題があるか?

ライス:その点…御侍さまは、まだ皇都に行ったことがないはずです……

オリビア:ほう?それは知らなかった……まぁ良い。では、私も一緒についていこう。

主人公:おお、それは有難い。いつ出発する?

オリビア:私はまだ用事がある。昼にヒルナ城の入り口で待ち合わせしよう。

主人公:OK。よろしくね、オリビア!


***


 オリビアはレストランを出る。そして、外で待っていたティラミスと合流した。彼女は心配そうな顔でオリビアを見つめる。


ティラミス:オリビア様、本当に……良いのでしょうか?

オリビア:私はティラミスと同じだ。選ぶ権利はない。

ティラミス:わたくしたちなりの方法で向き合うと決めたのに……?

オリビア:今はまだ機が熟していない。

ティラミス:でも……そうなりますと、○○様の命が危ないです。

オリビア:………………

オリビア:ドゥルガーは、救世主は私たちの中にいると言った。だが、彼女の言う救世主が『○○』かどうかはわからない。私たちにできることは、ただ願うことだけ……あとは、そんな己の無力さを呪うくらいだな。

91.手を組む

パラータ、ペッパーシャコ麻辣ザリガニの元へと戻った……

 ――パラータのとある場所にて。

 北荒集落から帰ってきたペッパーシャコは、麻辣ザリガニに刺殺結果を告げた――

麻辣ザリガニ「失敗したのか?」

ペッパーシャコ「ごめん……」

麻辣ザリガニ「何故謝る? まだ終わってねぇ。仮にサイモンを見つけられたとしても、例の計画が中断される事はない……」

麻辣ザリガニ「問題ねぇ。俺様たちには、人間なんかに簡単に負けねぇ力があるからな」

ペッパーシャコ「では……?」

麻辣ザリガニ「俺様のダチにかかりゃあ、なんとでもできるさ。あいつらとは、何百年もの付き合いだ……どうやってあの厄介な○○を始末するのか楽しみだぜ」

ペッパーシャコ「わかった」

麻辣ザリガニ「ちゃんと○○を見張ってろ。そして『あいつら』の行動に協力するんだ」

麻辣ザリガニ「俺様はサイモンが作った、この杖の効果を試すとしよう。数は足りるはずだ。ついでに、奴の本当の考えも探っておきたいところだな」

王都編

92.いざ街へ 碧空二十六日 ミッドガル

海に出るため、あなたは初めて皇都ミッドガルへと足を運んだ。手続きには時間がかかる。そのあいだ皇都を楽しもう。

碧空二十六日

ミッドガル

 巨大な皇都は、全域が地平線の上に存在し、青空の一角を占拠する唯一の人造建築群だ。海霧の遮断によって朦朧とした影を地面に映し出し、まるで夢や幻のように見えるが、実際に存在している都市である。

 皇都で頭上を見上げると、そびえ立つ建築群がこちらへと傾いているように見え圧迫感が半端ない。そしてこれこそが、グルイラオの歴代国王の威厳の象徴だと言われている……

 グルイラオの住民や外国の旅人や、そして使者はみな、ここで深い印象を受ける――もちろん、○○もそのうちの一人だった。

主人公「へぇ……」

主人公「実際に訪れないと、皇都の『壮観さ』ってわからないものだね……蜃気楼を見るのとはまるで違うや」

ティラミス「○○様、もしかしてミッドガルにいらしたのは初めてですか?」

ライス「わたしも初めてです……こんなに、大きな都市……!」

オリビア「外に出る機会があればもっと似たような景色が見えるはずだ。最近、ミッドガルは参議院の努力もあって開放的になっている。丁度いいタイミングで来たな」

主人公「へぇ、そうなんだ? レストラン営業の必要がないなら……色々見て回りたいな」

ライス「いま、大事なのは……お金稼ぎ、です」

ティラミス「そうですね、フフフ……」

オリビア「まぁ、好きにするといい」

主人公「さて、これからどうする?」

 ミッドガルに到着してから、○○はオリビアの指導で様々な手続きの申請をした。料理御侍の身分証明を提出したので、後は結果を待つだけだ。

オリビア「待ち時間に、町を見てまわるか? 今後の仕事のためにも、周りの環境を知るのは良い事だ」

主人公「よし、じゃあ行こう!」

ライス「でも、どこへ?」

オリビア「グルイラオはこれまで、常に戦争状態だった。皇都も要塞の形式で建てられた。だから、公共の娯楽施設が少ないのさ」

オリビア「もし遊びたいなら、『例の場所』に行ってみないか?」

ティラミス「あっ、それはいいアイデアですね!」

主人公「ど、どこでしょう? ライスはまだ子どもだから、変なとこに連れていくのはナシだよ!?」


 皇都商業区――グルイラオの皇都ミッドガルに設立された施設だ。

 交通が便利な大陸の中央に位置しているため、過去の数百年で各国の重要な国際間取引を行うためのクロスボーダー貿易センターとなっている。ここには異なった文化の店舗が点在していた。

 あらゆる国の品物が、貴重な物から日用品まで、ここに勢揃いしている。グルイラオの住民に一番愛されている町だ。

主人公「………………」

オリビア「その表情、もしかして期待外れだったか?」

主人公「……そうじゃないよっ! 驚いてるだけっ!!」

ライス「ここ、物がいっぱいです……買いたいものが……たくさんあります」

オリビア「商人たちは皆が欲しがりそうな物をたくさん並べているからな。気に入るものがあるのも当然だ。これがマーケットの魅力だな」

主人公「そうだ、今日は滅多にない機会だし、好きな物があるなら買ってあげるよ」

ライス「えっ! ど、どうしよう……」

ティラミス「○○様が買ってくれると言ってくださっていることですし、欲しいものがあれば買ってもらったらよいかと」

ライス「えっと、でも……本当に、欲しい物なのか……わからないです……」

主人公「そうだなぁ……オリビア、なにかアドバイスはない?」

オリビア「ライスが良いなら、私がアドバイスしてもいいが――」

主人公「あ、オリビア……!」

 オリビアは近くにある店舗のショーウィンドウの前に移動し、綺麗な形をした小さな瓶を手に取った。

オリビア「手を出して」

ライス「は、はい……?」

 ライスは緊張した表情で手を差し出した。オリビアが手にした小さな瓶を開け、ライスの腕に何かを塗っていく。それを眺めながら、不思議そうに首を傾げた。

ライス「……これは?」

オリビア「匂いを嗅いでみて」

ライス「クンクン……ハッ――ハ、ハクションッ!」

ライス「あれ? えっ?」

主人公「もしかしてそれ、香水?」

オリビア「毎日レストランにいるだけだろう? だからライス、こういうものをひとつくらい持っていてもいいんじゃないかと思ってね」

主人公「食霊に必要かな?」

オリビア「それは、食霊をどう扱っているかによるな」

主人公「そういえば、ティラミスも……」

オリビア「ああ、私はよく彼女にお洒落をさせている。食霊は人間の外観を美しく再現しているんだ。せっかくなら綺麗にしないと勿体ないだろう」

主人公「小さな女の子を着せ替え人形みたいに扱うってこと?」

オリビア「何か言いました?」

主人公「(あ、珍しく罰悪そうな顔してる……もしや図星だったか)」


93.追いかけっこ

市場で買い物をしていた一行は、異変を感じた。

主人公「なんだかんだで買っちゃったなぁ」

ライス「御侍さま、ありがとうございます! わたし……絶対になくしません! このまま、大切に保管します!」

主人公「いやいや、大切にしてくれるのは嬉しいけど、使ってね」

オリビア「よし、そろそろ時間だ。戻ろう」

主人公「あぁ、じゃあ……あれ?」

 ○○はそのとき、街角に黒いローブをまとった人物を見つけた。

???(黒服女性)「あああ……」

主人公「えっ? あれ!? あそこにいるのって……!」

オリビア「何を言ってるんですか?」

ライス「よく麻辣ザリガニと一緒にいる、アイツだっ!」

主人公「偶然――じゃないな、絶対……」

オリビア「ふむ。どうやら私たちは、尾行されていたみたいだな」

主人公「なるほど。猫に見初められた鼠の気分だ……戦う覚悟はできてるぞ」


94.つきまとわれる

あなたは真正面からしつこい人物の相手をし、皇都まで追いかけた。

ライス「御侍さま、こっちです!」

主人公「わからないな……こんな所で何をしてたんだろ?」

オリビア「ここは皇都の辺境にして、パラータと隣接する地域だ。気を付けた方がいい」

???「フフフ、本当にここまで追ってくるとはね」

オリビア「………………!」

ティラミス「オリビアさま、あれ……!」

主人公「『あれ』?」

オリビア「気を付けろ○○、どうやらおぬしが目当てのようだ」

主人公「ええっ!? 勘弁してよ……っ!!」

???「○○、お前は取るに足らない人間だと思っていたが……私たちにとって障害となる存在だったようだ。忠告する――今やっていることから手を引け」

主人公「そういうこと言われるってことは、私たちはやるべきことをやれてるのかな?」

???「これまでのことは水に流してやる。その代わり、これ以上は首を突っ込むな」

???「お前はすでに私たちにとって不利益な存在だ。もし言うことを聞かないなら、それ相応の代価を払ってもらおう」

主人公「もしかして私、脅迫されてるのかな?」

オリビア「無駄話をしている暇はないたちに従う気はない……かかってきな」

???「……大人しく私たちの言う通りにすればいいものを――抗うというのか? よほど痛い目に遭いたいと見える。いいだろう……叩きのめしてやろう」

オリビア「何故自分が勝つ前提で話している? その傲慢さを、地獄で後悔するがいい!」


95.瀕死

一連の戦いで、相手に勝ちはしたのだが……

???「フン、なかなかやるな。だが、私は引かない……必ずや貴方たちを倒す!」

オリビア「まだ戦闘意欲が溢れているようだな? 後悔先に立たずだ……覚悟しろ」

主人公「あ、あのオリビア。彼女、怪我してるし……もうこの辺でいいんじゃ?」

オリビア「この女を見逃すことで、私たちにどれほどの問題が降りかかるか考えた上での発言か?」

主人公「………………」

オリビア「わかればいい」

 オリビアがナイフでトドメを刺そうとした時だった……○○に目がけて相手は突如黒い袖から手をぬっと伸ばし、注射器を投げた。

主人公「わっ!?」

ライス「御侍さま!!」

 ○○の前にライスが飛び出した。注射器は身を挺して御侍を庇ったライスの胸元へと突き刺さる。その光景に○○は、目の前が真っ白になった。

主人公「ライスーッ!!」

???「あああ……」

 ○○たちがライスの怪我を確認している隙に、黒衣の女は林の方向へと逃げ、影も見えなくなった。

オリビア「逃すか!」

 オリビアとティラミスは急いで黒衣の女を追いかける。○○は倒れたライスから注射器を抜いたが、中にあった液体はすべて注入されていた。

ライス「御侍……さま……お、んじ……さま……」

主人公「ら、ライスッ! 大丈夫か!?」

 ライスの目が次第に閉じて行くのを見て、○○は興奮する自分の感情を抑え込む。そしてライスを治療しようとしたが、注射された薬剤を取り除くのは叶わない。

主人公「ミルク! 助けてくれ!!」

ミルク「はい。治療を開始します」

 ミルクは○○の言葉に姿を現し、すぐにライスの治療を始める。しかし、効果はない。ライスが損傷を受けたのは肉体ではなく、肉体を構成している霊体そのものだったからだ。

 ○○の裾をギュッと掴んでいた小さな手から力が抜ける。ライスの袖口から先ほど買った香水が転げ落ちたのを目にした途端、○○の心は絶望に満たされた――

 過去の経験を照らし合わせると、きっとライスはこのあと堕神になってしまう。それを止める術を、○○はもっていなかった。

主人公「………………」

 すると、離れた場所から駆け寄る足音が響いた。○○が顔を上げると、そこには衛兵の姿が見える。皇都の者たちだろうか?

主人公「貴方たちは……?」

兵士「騒ぎを起こしていたのはお前たちか? 連れていけ!」

主人公「え!? ちょ、ちょっと待ってください! 話を聞いてください!」

紅茶「御侍様に触れるな!」

主人公「紅茶、だめだ!」

紅茶「ですが……!」

主人公「彼らは皇都の衛兵のようだね。私たちは罠にはめられたみたい……君たちはライスを連れてオリビアを探してくれ。彼女を救けてやってほしい。私は大丈夫だから」

 ○○はライスの頭を愛おしそうに一度撫でてから、紅茶ミルクに託す。そして衛兵たちに大人しく従い、皇宮へと護送された。


96.入獄

ライスが危機に瀕しているとき、あなたは突然現れた衛兵によって牢屋行きになったが……

碧空二十六日

ミッドガル地下牢

主人公「私の名は○○。グルイラオ料理人ギルドの支部長やってます。暴飲暴食し放題のご身分だったのに、今や牢屋に閉じ込められているという……あ、もしやそのせいか!? いやいや……」

兵士「黙れ! さっきからずっと独り言を言って! うるさいんだよ!」

主人公「あの! 私、冤罪で捕まったんですっ! 料理御侍である私には、特殊通行権がありまして……!」

兵士「料理御侍というなら、身分証明書はどうした?」

主人公「……あー、今は手元になくて」

兵士「じゃあそこで大人しくしているんだな。明日から正式な尋問が始まる。本物かどうかはすぐにわかる」

主人公「ま、まさか料理御侍かどうか自体を疑われている!? あの……私の傍に食霊がいたの、見てましたよね!?」

 衛兵はこれ以上戯言を抜かす罪人と話すつもりはないと言わんばかりに、ジロリと一瞥したあと、牢屋から去っていってしまった。

主人公「……うーん、困ったもんだ。これって多分、あの女の人の仕業だよね?」

主人公「ライスは倒れたが、まだ他の食霊たちがいる……食霊をあんな奴らのせいで失いたくない!」

 ひとり激昂していると、地下牢の外にあるゲートが開き、誰かが近づいてくる気配がする。牢屋内は暗い。○○は相手が目の前にやって来てやっと来客者の顔を確認できた。

???「○○、初めまして。私はローレンスと申します」

主人公「コホン。いえいえこちらこそ……って誰!?」

???「そう焦らずに。私の前で偽る必要はありません……問題を解決したいのでしたら」

主人公「………………」

???「貴方の噂はかねがね耳にしておりまして、本日は貴方と会うためにここを訪れました」

主人公「私に会うため? なるほど、貴方は人を牢屋から出せるあの……なんて言うんだっけ?」

???「弁護士のことですか? あはは、確かに今回、私がやって来たのは司法手続きと関係していますが、保釈ではありません……」

???「貴方を――死刑にするためです」


97.有罪か無罪か

牢屋に入れられただけでなく、目の前のローレンスという謎の男性があなたを死刑にするために来たのだと言う。全ての原因は一体……?

主人公「し、死刑……? え!? えっと?! な、何かの手違いではなく?」

主人公「私に罪があるとしても、逮捕の原因は『騒ぎを起こした』ことだけだよ。人を殺した訳でもないのに、なんで死刑にされないといけない?」

???(ローレンス)「ふむ、まだ理性は保たれているようですね……確かに貴方を死刑にするのは理不尽な話です。わかりました、教えて差し上げましょう」

???「それほど時間はありません。手短に話しましょう――貴方を死刑にしたいのは私ではなく、参議院の人たちです」

主人公「参議院の人たちが? 彼らは理解があると聞いてます。そんな彼らに、私はいつの間に死刑にされるほど憎まれたのです……?」

???「その件について、今から詳しく説明しようとここに来ました。もし貴方が私に協力してくださるのなら、まだ転機はあります――きっと、ね」

主人公「きっと……?」

???「………………」

主人公「あ、すみませんっ! じ、時間ないんですよね! ごめんなさい、続けて!」

???「……まずは食霊について。貴方もご存じの通り、彼らの力は今や人々にとってかけがえのない存在になっています」

???「王室もそう考えています。よって、参議院は皇都護衛隊を基盤に、食霊で構成された部隊を作ったのです。堕神が現れた際の防御力となるように、ね」

???「ですが……本日、彼らは契約した者を殺害し、皇宮に攻撃を仕掛けたのです」

主人公「えええ!? 皇宮に攻撃を!?」

???「本来、食霊の攻撃行為は全て契約者の意思によって成されるものです。その彼らが自分の主である料理御侍を殺した……よって、この事件の裏にいるのは料理御侍ではありません」

???「そして、ひとつだけ明白なことがあります。彼らの契約は失効になったということです」

主人公「そ……そんなことってあるのかな? 契約は料理御侍本人にのみ解除することができるのに――なんで食霊たちは殺しちゃったのかな?」

???「それは初期捜査で浮かび上がった疑問点になります。手がかりが見つかりませんと、今回の襲撃の真相には辿り着けません」

主人公「貴方の話からすると、私が死刑される理由は……」

???「この事件が未解決で終わらせないために、そして参議院が食霊を制御できなかったことに対してしっかりと対応できることを世に知らしめるために……」

???「要は王室が食霊部隊を使うために、○○、貴方をスケープゴートにしようとしているのです」

主人公「身も蓋もない言い方だなぁ! って言うか私、何もしてないのにどうしてそんな目に遭わされなきゃいけないんです?」

???「参議院は尽力して食霊部隊を設立しました。それは経済的利益を得るためです。冤罪かどうかなんて興味ないでしょう」

主人公「……うわぁ――私、もしや死亡確定?」

???「必ずしもそうなる訳ではありません」

主人公「どういうこと? 訳がわからないよ!」

???「私がここに来たのは、事情を説明するためだけではないのです。私に協力してこの危機を覆してくださるよう、貴方に頼みに来たのです」

主人公「私が? 貴方に協力を?」

???「さよう。私は、審判を下す立場です。ですが審判自体、参議院が決めるものです。利害関係からすれば、私は貴方と同じ船に乗っています」

主人公「貴方が参議院と何があったのかは聞かないよ……でも、本当に私の無罪を証明できるの?」

???「それは○○……貴方次第かと」

主人公「わかった……もし私をここから出してくれるなら、なんでもするよ」


98.強さ

牢屋でローレンスと相談していた時、イキ、ミスラ、オリビアの三人は王宮の前へと来ていた。

 皇宮の門外――

イキ「なんで入れてくれないんだ!?」

兵士「皇宮はお前らのような平民が出入りできる場所ではない、去れ!」

イキ「突然人を逮捕したんだ、説明くらいあってもいいだろ!?」

オリビア「あまり騒ぎ立てるな、おぬしまで捕まったらどうする。静かにしろ」

イキ「くっ……!」

紅茶「オリビアさん! 良かった、やっと見つけられました……!」

イキ「ん? 紅茶ミルクじゃないか。いったいどうし……わっ!? ライス!?」

ミルク「御侍様が敵の不意打ちに遭って……ライスが身を挺して守ったのです。そのときに……」

紅茶「あの敵、オリビアさんたちが言っていた薬を使ったみたいで……ライスの様子がおかしくなってしまって」

ミスラ「ええっ!?」

イキ「ライスは、大丈夫なのか……!? くそっ、なんでライスがそんな目に……!」

オリビア「――落ち着け、イキ」

イキ「落ち着いてられるかよ! ○○が捕まって、その上ライスまで……! 許せないっ!!」

 オリビアは小さく嘆息してから皇宮へと目をやった。前庭に馬車が一つ停まっている。車体の飾りを見て、彼女は驚いた様子で息を呑んだ。

オリビア「○○は大丈夫だ」

イキ「えっ?」

オリビア「ミスラ、あとはおぬしの出番だな」

ミスラ「わかりました!」

イキ「オリビア! どうして○○が無事だってわかるんだ!?」

オリビア「詳しくは言えないが、暫しの間○○は大丈夫だろう。暫しの間だけだがな……」

ミスラ「あっ! ライスが……!」

イキ「どうした!?」

 一同がライスのもとへと集まる。ライスは体を震わせ、涙ぐんでいる。なにやら体に異変が起きているようだ。

ミスラ「これは……! ライスは体内の薬をコントロールしている……!」

オリビア「ライスに、そんなことをできるとは……」

イキ「ライス、すげぇな!」

ミスラ「喜ぶのはまだ早い。コントロールしているのは間違いないようだけど、一刻も早く薬を抜いてやらないと、限界に達するのは時間の問題よ」

ミスラ「……この薬を製造したのは学院なのはわかっている。けれど、今の私では特効薬を作ることはできない」

後輩スタッフ「おや……? いったい誰がここで騒いでいるのかと思えば……」

イキ「え?」

ミスラ「せ、先生?! ちょうど良かった!」


99.相談

オリビアはあなたの心配をする必要はないと踏み、ライスも助かる余地が出てきた。

 同時刻、地下牢にて――

主人公「さて、どういう計画なのか教えてもらえるかな?」

???(ローレンス)「詳しい計画の内容について、貴方は知る必要はありません。私の言った通りに行動すれば良いだけです」

主人公「それ、すんなり言うこと聞きたくない言われ方だな……まぁいい。今はひとまずここから出るべきだよね? どうするつもり?」

???「それについては……衛兵!」

兵士「はっ、ローレンスさま」

???「この○○という者は罪状を認める気がないようだ……そこで『策』を講じる」

???「牢屋を開けてくれ、この○○にほらふきの代価を思い知らせてやろう」

兵士「かしこまりました」

 衛兵はまるで疑いもなく、鍵で牢屋の扉を開く。そして、○○の身柄をローレンスに託して去っていった。

主人公「………………」

???「さぁ、行きましょう」

主人公「私が何をするのかまだ聞いてないけど?」

???「貴方が得意なことですよ」

主人公「食って寝て堕神を倒すことしかできない料理御侍の私に、何ができるって? あいにく今は食霊もいないから、料理を作るしかできない。まさか料理で世界を救えなんて言わないよね?」

???「その通り――正解です。ささやかなパーティを開催します。そこで貴方は料理を振舞い、参加者と交流するのです。美味しい料理で警戒心が解けて、命が助かるのなら、その腕は十分価値があるのではないでしょうか?」

主人公「……料理で胃袋を掴む的な? 古いやり方だなぁ」

???「技術の出し惜しみはされないように。地位の高い方たち洗練された料理でないと受け付けませんからね」

主人公「ハッ! じゃあせいぜい『お洒落な料理』でも頑張って作ってみようかねぇ」


100.話術

自らを救うため、あなたはローレンスに協力して少壮派と心理戦を展開することになった。

 ――その夜、皇宮にて。

???(ローレンス)「議長ではないですか! ようこそいらっしゃいました。今晩の宴に足を運んで頂き、光栄に存じます」

議長「ローレンス、君なら参議院の立場がどういうものかわかっている筈だが?」

主人公「(ちょっ……! この人、参議院の人なの!? 私を殺そうとしてる張本人を招いてるなんて初耳だよ!?)」

???「(彼らからすればスケープゴートは誰でもいいのです。罪名は下りましたが、彼らは貴方の事を知りません、ご安心を)」

???「我々は目下、パラータの使者を迎えるべく共に尽力しています。そして誠意を表すため、私は自ら罪人に尋問することを申し出ました。まだ足りませんか?」

議長「さて……それは私が判断することだ。それより、この者は?」

???「この者は私が料理人ギルドから招いた料理御侍の○○です。本日の料理は彼が腕を振るって作ります。皆さんのお口に合うと嬉しいのですが」

主人公「は、はじめまして……!」

議長「フン! 見た目だけは立派な料理人のようだがな」

主人公「アハハ……、ありがとうございます。お褒め預かり光栄です。顔には自信があるんですよね」

議長「……なっ……???」

???「議長、料理人の出身を理由に料理へ文句を並べるようなことはされませんよね?」

議長「フン、彼らの気持ちはよく理解しているつもりだ。君の回りくどい話は結構! ○○、君の料理、楽しみにさせていただくとしよう!」

主人公「(これは……面白いことになりそうだな)」

???「(料理人ギルドは、食霊という強大な力を持っているのです。参議院の中でも若い議長だ。少壮派の彼からしてみれば、貴方は嫉妬の対象なんです)」

主人公「(この人たちもたくさん食霊を召喚してるんじゃないの?)」

???「(貴方たちの方が力は上――専門家ですからね)」

議長「もうよい、ローレンス。ここに招いたのは食事に招待したかっただけではないだろう。私も忙しいのだ、遊んでいる暇はない」

???「勿論です。王室のセキュリティについて、調査を進めております。そして議長が興味を持つだろう手がかりに辿り着きました」

議長「あの事件の手がかりだと……?」

???「今回襲撃した首謀者は、王室内部にいます」

議長「内部に? 冗談で言うな。事件のあと、最速で皇宮内にいる全ての者に尋問したであろう。疑わしい者などいなかった。内部に真犯人など、よくそのような戯言を……」

???「勿論、参議院の調査能力を疑っている訳ではございません。ただ、皇宮内を全て調査したとのことですが……問題ないと見逃した箇所があるのでは?」

議長「き……貴様、もしや参議院が絡んでいるとでも言うつもりか!?」

主人公「議長、ご自分の部署にそんなに自信がおありですか?」

議長「十分な証拠がない状況で、このような疑惑をかけられるとは……これは、参議院に対する誹謗中傷である。陛下に全て伝えさせていただこう」

???「私の誹謗中傷の解決より、この事件の解決が重要だと理解しておりますか?」

議長「参議院は常に王室へ忠誠を誓っている。我々の中に犯人がいるとは到底思えない」

???「参議院の王室に対する忠誠心は誰もがわかっています。ですがそれは王室に対してです。参議院のメンバーが内部に対して忠誠心を持っているかと言われたら――難しいですね。特に、議長の貴方に対しては……」

議長「貴様、我々を挑発する気か? 甘いな!」

主人公「間違いなく参議院内に『裏切り者はいない』と言い切れるなら、議長は安心してスケープゴートを用意して処罰すればいい。でもその後も事件が起こり続けたらどうします?」

主人公「皇都の住民をスケープゴートにして処罰し続けますか? 参議院のメンバーを信用できるならそうすればいい」

???「○○の言う通りですね。そうなったとき、貴方とその裏切り者、どちらが最後まで笑っていられるかは神のみぞ知るのでしょう」

議長「………………」

主人公「(動揺してるみたいだ。)」

議長「もういい。私には貴様らの戯言を聞いている暇なんぞないのだ。今日はもう帰らせていただく!」

 議長はそう言い放ち、その場から去っていった。

主人公「あっ――議長、料理がもうすぐできますが……!」

???「ふむ、議長はどうやら今晩は食欲がないようですね。いろいろとお忙しい御方だからなぁ」

主人公「……ハハッ、そうみたいだねぇ」


***


碧空27日

ミッドガル地下牢

 昨晩、ローレンスと二人で参議院の議長に問い詰めた後、○○はまた牢屋に戻って一晩を過ごした。

 旅に出てからというもの、劣悪な環境で過ごしたことは多々あった。しかし今回のように汚くて悪臭がする牢屋はさすがの○○でも嫌気が差した。夜中に何度も起きてしまった。

 最後に目を覚ましたのは牢屋の扉が開いた音のせいだ。ローレンスがやってきたのである。

???(ローレンス)「おはようございます。良く眠れましたか?」

主人公「お金を払ってでも記憶喪失になりたい気分です。夜中の苦悩を忘れたい……」

???「さぞ素晴らしい夜を過ごされたのでしょう……そんな貴方に朗報です。今夜からはこんなところで寝なくてよくなりましたよ――貴方は解放されます」

主人公「え? 昨日の……議長さんが何かした?」

???「貴方の死刑を引き換えに得る短い安寧より、自らの立ち位置を脅かされることの方が心配だったようですね。しばらくの間、参議院は忙しくなるでしょう」

主人公「不眠不休で頑張ったりしそう?」

???「さて? ご想像にお任せします。いずれにせよ、今後何か起こったら、議長は部下の仕業だと考えるでしょうね」

主人公「あはは、それは楽しそうだ……でもまさか参議院内部で権力争いになるなんて……」

???「そうか?」

主人公「それって……貴方は調査の結果から、この事態を予測できたと?」

???「いえいえ、そんな大したことじゃありません」

主人公「(……この人、なかなかの食わせ者だなぁ……)」

???「さて、ここから出ますか。私が送りましょう。皇都で貴方が何をするつもりかわかりませんが、このような面倒に巻き込まれないことを祈っておきましょう」

主人公「あっ、そうだ! 私は出航許可を申請しに来たんです」

???「出航? ヴァルキリ港からですか?」

主人公「うん。もう丸一日経ったけど、申請は下りたのかなぁ?」

???「なるほど……私から連絡を取ってみますね。申請に手間取りそうなら、早めに貴方の許可を出すよう、口添えいたしましょう」

主人公「ええっ、いいんですか?」

???「人助けは最後までする主義でして」

主人公「ありがとう……あと、一つ聞いてもいい?」

???「なんでしょう?」

主人公「私が捕まった原因って、誰かによって告発されたからだよね。もしそうなら、告発者を見つけることはできるかなぁ?」

???「近衛団長に調査を依頼すれば可能かもしれませんね。急ぎでないなら、二日ほどいただけたら調べることができるかと」

主人公「やっぱりいいや。もう過ぎたことだし、拘っても仕方ないよね。じゃあ、私はもう行きますね。次はこんな最悪な環境じゃないところで会えたらいいね」

???「そうですね……」

???「きっとまたすぐにお会いできますよ――」

101.視線の交流

一夜の牢屋生活をなんとか耐え抜き、あなたは釈放された。そうして再び、仲間の元へと帰っていく。


 ミッドガル皇宮外にて――


ミスラ:○○が囚われて一日が過ぎたけど、どうなっている?まさか危険な目に晒されているのでは……?

イキ:もう待てねぇ!正面突破で○○を救い出してやるぞ!

オリビア:落ち着け。ほら、あそこを見てみろ。○○だ。

主人公:うわっ!みんな、待っててくれたの!?

イキ:○○!良かったぜ!もう会えないかと思ったよ!

主人公:私は肇始之神の恵みを得た者だからね。皇宮の牢屋に私を閉じこめておくことはできないよ。それより、ライスは……?

ミスラ:○○、こっち。

ライス:………………

主人公:ライス……!

ライス:お、御侍さ……

ライス:えっ!


 ライスが名を呼び終える前に○○は彼女を強く抱きしめた。その力に御侍の心配が感じられ、ライスはこれまで必死に堪えていたものが溢れ出してしまう。


ライス:御侍さま!御侍さまぁ!ライスは、もう御侍さまと一緒にいることができないかもと思いましたっ……!

主人公:そんなこと、ある筈ないだろう……。

ミスラ:うっ、なんだか私も泣きそう……。

イキ:なら、そんなに凝視しなきゃいいんじゃ……?

ミスラ:あなたとは関係ないわ!

オリビア:さて、感動の再会はその辺にしてもらおう……○○、いったい中で何があった?

主人公:あ、ああ……ごめん。えっと、中ではいろんなことがあって……アハハッ!でも楽しかったよ!


***


 ○○は皇宮で起きたことを手短に説明した。


ミスラ:……そんなことがあったなんて。

イキ:そのローレンスって人、結構頼りになるんじゃん。ラッキーだったな!

主人公:あはは、そうかもね。

オリビア:○○、喜んでる場合ではない。

主人公:え?どうして?

オリビア:冤罪で捕まった件については仕方がないが、皇宮内部と関わってしまうとは……やはりよい兆しではない。

オリビア:そのローレンスという人物は、グルイラオ建国以来、国王陛下の次に権力を有するクレメンスファミリーのメンバーだ。

主人公:クレメンスファミリー?……どこかで聞いたような。

ミスラ:○○、そのファミリーはこの国の影の王だよ。

主人公:は?

オリビア:簡単に言うと、グルイラオの支配権は国王陛下の手にあるものの、実際にこの国の様々な政務はこのファミリーによって管理されているんだ。たとえ王家の料理ギルドであろうと、彼らの管理下に置かれる。

オリビア:……だから、できるだけ彼らとは距離を保って――可能なら、一生関わらない方がいい。

主人公:ちょっと待って!それほどの権力者のメンバーと知り合ったってことは、ここでの太いパイプを得たってことじゃない?

主人公:これから商売とか色々なことで助けてくれるかもしれない……想像するだけで心躍るなぁ~!

オリビア:○○、自分の立場をよく理解した方がいい!

主人公:……え?急に怒鳴ってどうしたの?

オリビア:なんでもない。

ライス:あ、あの……港……使用許可……下りたんですよね?だったら……もう、行きませんか?


 ライスの言葉に、気まずいムードを払しょくしようと○○たちは出航することにした――そのとき。


オリビア:……!

???(ローレンス):なんだ?


 馬車に乗ろうとしていたローレンスがその声に反応する。ローレンスはオリビアに向かって意味ありげな笑みを浮かべた。それを見て、オリビアは鋭い目つきで彼を睨み返す。


オリビア:すまない、ちょっと用事ができた。先に行っててくれ。


 オリビアは、その場の者たちの返事を待たずに、立ち去っていってしまう。残された者たちは茫然とそんな彼女の背中を見送った。


イキ:○○、さっき本気でオリビアは怒ったのかな?あんなオリビア、初めて見たよ。

主人公:影の王と言われるファミリーに軽口聞いたのは、良くなかったかな……。

イキ:ま、いいさ。オリビアも謝ってたし。さっさと出発しよーぜ!

ミスラ:あのさ○○、私の考えすぎかもしれないけれど……オリビア、なにか悩み事がある気がするんだ……。

ライスライスも……そう思います。

主人公:うん、そうだね。でも、ここはひとまず出航しちゃおうか。ここで二日間も無駄にしちゃったからさ。船に乗ってからゆっくり話そう。


102.成長

オリビアは苛立った様子で、突然その場を去った。疑問を浮かべつつ、一行は先にレストランに戻ることにしたのだった……


碧空27日

レストラン


ティラミス:○○様、お戻りになられたのですね。

主人公:ティラミス……あのさ、オリビアはいるかな?

ティラミス:オリビア様なら、わたくしに、ここで○○様のお帰りを待つようにと言いつけて、荷造りに戻られました。

ティラミス:……あの、オリビア様はご気分が優れないご様子でした。何かあったのですか?

主人公:そのことなんだけどさ。ティラミス、彼女が私たちに何か隠しごとをしてたりしない?

ティラミス:え……?

主人公:ティラミスはいつも彼女と一緒だから、何か知らないかなって。

ティラミス:すみません、わたくしはなんのことだか……

ミスラ:○○、それに関しては直接本人に聞いたほうがいいよ。

主人公:それはそうだね……あ、そうだ!気になってたことがあったんだ……あのさ、ライスをどうやって助けてくれたの?

ミスラ:ああ、ミッドガルで学院の教員と会ってね。その人がいつも持ってる薬の研究資料を使って、一晩かけて治療薬を作って、ライスを助けたんだよ。

主人公:まさかそれって……あの完璧主義者の教員じゃないよね?ま、誰であれ、ライスは堕神にならずに済んだんだし、感謝しなくちゃね。

ライス:ありがとうございます!

ミスラ:でも薬のおかげだけではないよ。一番はライス自身の精神力のおかげ。堕化薬の効果を自力で抑えるなんて、本当なら考えられないことだからね。だからこれだけは言える、彼女は本当に強い食霊だって。

ティラミス:あと……僅かだけど、ライスから霊力反応があったの。つまり……彼女は抜け殻状態から脱却した。

主人公:そ……そうなの!?

ライス:御侍さま、そうなんです!これでライスも……御侍さまの力になれるんです……堕神退治の役に立てます!

主人公:堕神退治かあ……その件もまた考える必要があるよね。

主人公:いろいろ話したいことは船に乗ってから話そうか。まずは出航の準備をしないとね。

イキ:そっか……だったらぼくたちも荷物の準備をしないとね。船に乗るなら、やっぱり食べ物が必要だよな!うん、食べ物は何より大事だ!

主人公:そうだね。今回の目的地はかなり遠いから、家の備蓄を使うわけにもいかない……いっそ、明日ミッドガル近くまで調達に行こっか。


103.等価交換

一行は各々の準備を終え、これからの旅に必要な物資を集めることにした。しかし、事はあまり順調にはいかないようだ。


碧空28日

ミッドガル周辺


主人公:イキ、どうだった?

イキ:余裕!でも、なにもないぞ?

ライス:御侍さま……ここにも……食材、ありませんです。

主人公:ライス、体の方はどう?

ライス:はい、元気です……それに……もう……ルビーなんて、怖くないです!

主人公:すごいね、いい子いい子~!

ライス:えへへ~!

イキ:なんかさ、ゆっくり育てていけば、ライスはもっと強くなるんじゃないか?

主人公:そうだったらいいな……っていうか、この辺り、結構な数の堕神がいるのに野生の食材がまるでないよね?

ミスラ:ほかの料理御侍に回収されちゃったんじゃない?

イキ:そんな食欲魔人がいたら、ギルドから怒られるだろ?

ミスラ:ギルドってそんなことで怒らないと思うけどなぁ?

商人:おや。そこの若人さん、なにか困ったことでもあったのかい?

主人公:貴方は……?

商人:ほほ、私はこのあたりで商売やっている者さ。何やら揉めてるように見えてな、困ってることでもあったのかと声をかけさせてもらったよ。

主人公:困ってるというか……少し気になっていることはあります。なんでこのあたりには食材が見当たらないのかなって。

商人:ふむ……お前さんたち、もしやこの土地が王家の所有物だと知らないのかね?

主人公:え?

商人:ここの食材は全部、回収されて隠されてしまうんだよ。王家の者が使者を派遣して採集しているんだよ。

商人:もともとこの区域の食材は産出量が豊富じゃないからね。だから私みたいな商人が、食材をミッドガルに売りに行くんだ。

主人公:なるほど……ってことは、馬車に乗っているのは食材?

商人:そうだね。これだけ集めるのはなかなか大変だけどね。

主人公:ほうほう。おじさん、私と取引しませんか?この馬車の食材を全部売ってほしい。

商人:全部……?これほどの食材が必要とは……さてはお前さんたち、料理御侍だね?売ってやってもいいが、ちょっと頼みたいことがある。

商人:アボカドを商売にしてるんだが、採集場所にはいつも堕神がうろうろしていやがる。私みたいな一介の商人じゃ、取りに行けないんだよ。

商人:そこまで行って、アボカドを取ってきてくれないか?

イキ:へへ、お安い御用だぜ!

主人公:お任せあれ!報酬の食材は全部、ヴァルキリ港まで送ってもらえる?用事が済んだら会いにいくから!

商人:わかったよ。それじゃ、よろしく頼むね。


104.新しい敵と古い恨み

商人の依頼を済ませた一行は、再び嫌な相手と遭遇した。


イキ:よっしゃーっ!たくさん戦ったし、結構強くなった気がするぜ!へへへ!

ミスラ:堕神を退治したら、この道も再び通れるようになるわ。そうすれば、商人たちも助かるでしょ。

主人公:あとは今回の件をギルドに報告して……ええと、これまではオリビアの仕事だったけど……

ミスラ:オリビアはまだ来ていないわ。先にミッドガルへ出発したのかしら?

主人公:そうかもなぁ。じゃあ、おじさんのところに行こうか……うん?


 ○○は顔を顰める。視線の先に見つけてしまったのだ。ライスを傷つけ、己を牢屋に入れた張本人を。


???:まだ牢屋にいると思っていたが、いつのまに釈放された?

主人公:やぁやぁ。ミッドガルでは随分お世話になりまして。いろいろ勉強させてもらいましたよ。

???:それそれは……どういたしまして――うん?そいつは確か……まさか薬の効果を抑えたか?……フフフ、あいつは結局無駄死にになったってことか。

???:お前たちにとっては無価値な存在だ。だが、こちらにとっては非常に必要なもの……おとなしくこちらに渡したらどうだ?

主人公:またウチのライスに手を出すつもりか。今度こそ返り討ちにしてやる!

???:口の利き方が悪いな。ペッパーシャコ、あとは任せた。

主人公:ペッパーシャコ

ペッパーシャコ:………………

イキ:こいつ、砂漠にいたやつじゃね?!

ミスラ:なぜ、ここに?

主人公:今そのことを言っても仕方ない!とにかく、あいつを倒すんだ!


***


ペッパーシャコ:……ゴホッ!

???:うん?どうやらペッパーシャコじゃ相手にならないようだな。

主人公:相手が誰だろうと、結果は同じだ!

???:フフフ、いつまでそうやって強がっていられるかな?今日はこの辺にしておいてやろう。これで終わりだと思うなよ、まだ手段はいくらでもある。

ペッパーシャコ:………………

主人公:待てっ、また逃げるのか?!

ミスラ:○○、万が一に備えて、ここは一旦引きましょう。海に出るのが先決かと。

イキ:すっげえムカつくけど、ここはぼくもミスラに賛成。

ライス:御侍さま……ここは急いで、用事を……済ませましょう?

主人公:ううぅ……私はさぁ、あいつを逃がしたせいで牢屋に入れられちゃったんだよー?……とはいえ、確かにみんなの言う通りだな。

ミスラ:ライスが欲しい理由は恐らく、私たちが堕化症状の治療に成功したからだと思う。いずれにせよ、堕化薬を抑えただけでも、ライスには研究対象として価値があるんでしょう。

主人公:ということは、これからさらに私たちを追いかけ回してくるってこと?

イキ:ライスは心配すんな。ぼくたちがついてるから、あんな奴なんか全然怖くないさ!

ライス:うん!


105.再び出航へ

ペッパーシャコがなぜこの場に現れたのかは分からないが、面倒事はなんとか解決した。すべての準備が完了し、やっと再出発できる。


 安全確保のため、○○たちは再びミッドガルに戻った。そして暴食を退治した件を商人に伝え、ようやく食材を確保した。


イキ:やっと枕を高くして寝られるぜ!

主人公:あとはオリビアを待つだけだね……

オリビア:すまない、遅くなった。

主人公:おお、噂をすれば影……

イキ:オリビア、前話した黒いローブの女がまた喧嘩を売ってきたけど、ぼくたちがボコボコにしてやったぜ!

オリビア:ふむ、よくやった。

ミスラ:ねぇ、○○……

主人公:あ、うん。オリビア、昨日のことは私の考えが甘かったよ、ごめん。

オリビア:……いや、私の方も少し焦ってしまった。けれどおぬしの考えについて、私の考えは今でも変わらない。

ミスラ:オリビア、昨日はどうして急に帰っちゃったの?何か用事でもあった?

オリビア:それについては、いつかちゃんと説明しよう。だが今はその時期じゃない。

主人公:そっか、なら気が向いたらいつか話して。とにかく今日は待ちに待った出発日だ。ここでみんなにちょっと一言……こほん!

主人公:食霊は私たち人間と一体何が違うのか……御侍になって、周りに食霊がたくさんいてくれるようになって、ますますこのことについて考えるようになった。

主人公:でも、今日までライスやみんなと過ごしてきて、人間と食霊は基本的には変わらないなって思うようになった。互いを区別するより、私は食霊のみんなと家族のようになりたい。

主人公:でも、あの黒いローブやサイモンみたいに、そう思わない人もいる。食霊を傷つけようとする理由はわからないけど、一つ確信できた。

主人公:それは……食霊のみんなが、自分たちが守るべき人間によって傷つく世界になるのは絶対に嫌だ。それじゃあ、この堕神だらけの世界じゃ生きていけないだろ?

主人公:良い未来を手に入れるため、一緒に頑張ってほしい!

ライス:おぉーっ!


 ライスが感無量といった様子で、拳を強く握って腕を振り上げた。しかし、他の者はみな静かにしている。


主人公:えっ、まさかの無反応?

オリビア:どんな反応を期待していたんだ……拍手でもすればよかったか?

ミスラ:ちょっと引いたな……

イキ:そんなこと今更改まって言わなくてもわかってるよ……誰かと死闘をするわけでもないしさぁ?

主人公:あのね、せっかく燃えあがってるのに、そのリアクションはないよねぇ……

主人公:ま、いいや。早く船を出そう。みんな、とにかく無事に、生きて戻ってこようね。

イキ:○○、不吉なこと言って、フラグ立てるような発言やめてくれ。縁起が悪いぜ。

主人公:え!?フラグ!?なんの話!?


106.海上遭難

一行がソルサヴィス島へと向かう途中で、大きな問題が発生した。


 そうして一行は未知なる土地へと新たに旅立った。目指すは――ソルサヴィス。

 食霊を守り、魔導学院に関する真相を突き止めるため……そして、桜の島での悲劇を二度と起こさないために、諸悪の根源――サイモンを見つけなければならない。

 それはまさしく、船に乗る全員にとっての現実的に受け止めなければならない問題だった……


イキ:なあ○○、この方向で合ってるのか?

主人公:私は船乗りじゃないし……オリビアはわかる?

オリビア:進行方向はともかく、出発時間から推測するに、もうソルサヴィス島が見える範囲に入っているはずだ。やはり方向を間違えたか?

主人公:……ミスラ、私たちって今どこにいるのかな?

ミスラ:ちょっと待ってね、今航海図を見ているところだから……

ライス:おかしいです……桜の島やパラータに……行ったときは……こんな風に迷子に……なりませんでした。

オリビア:前の航海では海岸沿いに進んだが、今回は完全に陸地から遠ざかっている。迷ってしまってもおかしくはない。

イキ:羅針盤とかないのか?

ミスラ:うーん……なぜかはわからないけど、東へ進行すればするほど、羅針盤の動きが悪くなるの。今じゃすっかり使いものにならない状態よ。

主人公:そっか、でも前回みたいに全員が気絶して離れ離れになっていないだけでも、不幸中の幸いかなあ……


 ――ドカーンッ!

 ○○が話し終えたその瞬間、雷に似た音が響いた。その場にいた全員に緊張が走る。その後、船の右舷側が急に爆発し、船体を激しく揺らした。


ライス:御侍さま!気をつけて!!

主人公:ライス、こっちにおいで!みんなは無事?

イキ:な、なんだ?堕神か?

オリビア:いや、違う。大砲だ!

ミスラ:○○、あっちよ!


 ミスラが指さした方向から、この船よりも何倍も大きな船がこちらへと向かってきているのが見えた。マストに掲げられた黒い髑髏の旗が、全員の視線に飛び込んでくる。


オリビア:まさか海賊か?!


107.海底の待ち伏せ

一般の通行が禁じられている久遠海域には、なんと海賊の姿があった。全面武装の海賊船相手に、一行は大ピンチに。


ラム酒:おい――そこの船、よく聞け!我々はベルーガ海賊団だ!今すぐに投降しろ!船にある宝を全部寄越せば、この船の船長として、命だけは見逃してやろう!

バクテー:皆さん、急にすみませんね。俺は肉骨茶、こっちは我らが船長・ラム酒だ。ちっとワガママな船長だが、言われた通り、積み荷さえ渡せば危害は与えないんで。

主人公:なんだ?ふたりだけの海賊団か?

ライス:御侍さま……あの気配……彼らは、食霊です!

主人公:食霊?食霊も海賊になれるの?

イキ:なんだ。すごい海賊団かと思ったけど、ハッタリかよ?

ラム酒:口を慎みたまえ。さもなきゃ次の一発は君の口に撃ってやるぞ。

バクテー:みなさんご安心を。ウチの船長はこんなこと言ってる割に、存外、心根の優しい女性なんで。

ラム酒:余計なことを言うな、どけ!……うん?


 そのとき、肉骨茶に怒鳴ったラム酒が○○たちの背後を見て硬直する。次の瞬間、ライスの悲鳴が響き渡った。慌てて○○が振り返ると、ライスペッパーシャコに捉えられている。


ペッパーシャコ:動くな!

ライス:は、放して……!助けて、御侍さま!!

イキ:なんであいつがここに?!

オリビア:あの黒ローブ女の仕業に違いない。

主人公:本当にしつこい……あのさ、ちょっと話をしたいんだけど……

ペッパーシャコ:……今すぐ船をグルイラオに向かわせろ。さもなくば、こいつを殺す。

ミスラ:どうしよう?……○○?

バクテー:……仲間割れか?

ラム酒:それはチャンスだ。すぐに舵を……ん?こいつは……!


 この隙にラム酒は攻撃を仕掛けようとするが、急に海面に波が押し寄せた。そして、波は怪物へと変貌し、まるで全てのものを食い尽くすかのように荒れ狂う。

ペッパーシャコ:………………!!

主人公:うわっ、なんで急に攻撃を……こっちの状況を汲んでくれよっ! 優しい女性じゃなかったんかーいっ!?

ラム酒:それとこれとは話が別だ……おっと!厄介な海皇族がまたくるぞ!

主人公:海皇族……って、うあああっ!


 波の猛撃に誰ひとりまともに対応できない。特別頑丈ではない船は残念なことに容赦なく沈み始める。甲板の上はあっという間に混乱の渦に巻き込まれていく。

 船は、○○の想像を超える早さで沈んでいく。まるで巨大な生物が船ごと海へと引きずり込もうとしているかのようだ。全員がまだ逃げ出せていないまま、船ごと水面から姿を消した。


主人公:ぷっはあ!なに?これも堕神の仕業?

ライス:お、御侍さまぁ!

主人公:ライス、大丈夫か?みんなは……うあぁ!?


 ○○は浮遊感に襲われた。それと同時に船は海底へと沈んでいく。かろうじて見えた光景は、水面が遠ざかっていく様であった。

 わずかに吸い込んだ空気も無くなり、意識が途絶えそうになった瞬間、○○は海に差し込む屈折した光の先に黒い影が見えた。その影はゆっくりと自分に近づいてくる……


***


主人公:……ゴホッ!ゲフ、ゲフッ!!!


 意識を取り戻した○○はひどく苦しげにしながら、口の中に残る海の辛く渋い味に眉をひそめた。それでも、新鮮な空気に何よりの贅沢感を覚えた。


ライス:御侍さま!御侍さま!

主人公:うん……?ゴホッ!ゲフゲフ……わ、私、海に沈んだんじゃなかったっけ?

バクテー:やっと目覚めたか。お前さんを助けるのは大変だったぞ。

主人公:肉骨茶?貴方が私を……いや、それよりほかのみんなは!?

オリビア:私たちのことより、まずは自分のことを心配してくれ。

主人公:オリビア?それにみんなも……ふう、無事でよかったぁ……

ミスラ:みんなが海に落ちた時、貴方だけがカナヅチみたいに沈んでいったんだけど、肉骨茶のおかげで助かったわ。

主人公:はは……ありがとう。さっきは本当に魚たちの餌になるかと思ったよ。

バクテー:……堕神の餌だけどな。

主人公:さっき言ってた、海皇族のこと?

ラム酒:あんなボロ船でよく海に出られたものだ。この海域がグルイラオの連中に封じられたのも、あの堕神のせいさ。

ラム酒:でもまあ、今日は運が良かった。出たのは『あいつ』じゃなく雑魚だけだ。私達のような船には影響がないが、安全のため、今回は撤退とするか。

主人公:船にある食材がもったいないけど、まあ、全員無事なら何よりだ……あれ、ペッパーシャコは?

ライス:え……ペッパーシャコ?ど……どうしよう!


108.救援行動

なんとか海の堕神の襲撃から逃れたが、いつの間にか船に乗っていたはずのペッパーシャコがいなくなっていた。


バクテー:なんだ、もうひとり仲間がいるのか?

ラム酒:さっき船が沈んだ時は海面がめちゃくちゃだったんだ、これだけの人数が助かっただけでも幸いだろう。ペッパーシャコは、まあ、自分で泳げるんじゃないか?

バクテー:でも食霊誕生の原型として、もう円熟したペッパーシャコは泳げないんじゃ?

ラム酒:…………

ラム酒:それは困ったな……

ライスペッパーシャコ……?け、けがしたかもしれないの……?だ……ダメですっ!御侍さま、ペッパーシャコを……置いてくのは……ダメなのです……!

ラム酒:君たちの話だと、奴は敵だろう?なら助けるなんて考えは、いささか甘くはないか?

主人公:それは……

ライス:違います!ペッパーシャコも……食霊です……何があっても、助けなきゃ……ダメなのです…!

イキ:ライス?急にどうしたんだ?

ライスライスもわからない……でも、彼を……皮皮虾を……傷つけさせるわけには……いかないんです……この気持ち、前にも……そうでした……

オリビア:……○○、おぬしが決めるといい。

主人公:……わかった。じゃあ二人とも、力を貸して。ペッパーシャコを助けに行くよ!

バクテー:……先に言っておくけどな。陸地の堕神を退治できるからといって、食霊でさえこの海じゃ、船に頼って移動するんだ。自ずから堕神の縄張りに突っ込んでいくなんてのは、ほぼ死んで当然の行為だ。それに、もしかしたらそいつはもう……

オリビア:それは誰にもわからないことだ。

バクテー:……あくまで俺の推測だって。

ミスラ:でも、あいつを捕らえることができれば、逆に何か情報を引き出せるかもしれない。特に、あの黒いローブのやつら……あいつらはきっと、学院の殺人事件とも何か関係があるはず。

イキ:でもさ、ラム酒は助ける気がないし、ぼくたちは移動するための船がない。どうするんだ?

バクテー:ん?もし船が必要なら、俺たちの船にまだ小さな救命ボートがあるぞ。

主人公:それだ!

ラム酒:ちょっと待て!君たちの船より小さな船なんだぞ。行っても無駄死にするだけだ。命が惜しくないのか?

バクテー:でもま、食霊のために命も投げ打てる人間なんて初めて見たぜ。どこまで出来るのか、かえって興味が湧いてきたな。

主人公:バクテー……

ラム酒:いや、私はまだ認めないぞ!お前だって知っているだろう、この海がどれだけ危険か……!

バクテー:もちろん。船長の同意があるには越したことないが……こいつらはもう行く気だぜ?我らが船長はこんな勇敢な彼らを、よもや危険溢れる海に救命ボートに追いやるなんてことはしないよな?


 バクテーは肩を竦めて、船尾を振り返った。すると海面には、荒れ狂う波が見える。今にもこの船を呑み込まんと襲いかかってきていた。

 光に照らされた水面下に、青く巨大な影が泳いでいるのをはっきりと目視できた。近くまで迫った瞬間、海水を破って跳ね上がり、キラキラと光る波から真の姿を現した。


小怪二队:…………

イキ:うわっ、この青く光ってるやつ、さっきの堕神か……!?

ラム酒:クソッ!『叶海皇』だ!


109.引き合う

一行がペッパーシャコの救出を決めるや否や、叶海皇が突然現れ、海賊船めがけて襲いかかってきた。


主人公:叶海皇……なんでやつは、私たちの居場所がわかったんだ?

ラム酒:おそらくとっくに私たちを狙っていて、ここまでついてきたんだろう。これじゃ逃げ場がないな。

イキ:こうなったら、あいつと戦うしかないぜ!

ラム酒:そんな簡単に行くか。今のうちに逃げるんだ。肉骨茶、帆をあげろ、船を回す!


 ラム酒の声に、帆のあがった船が風で勢いよく進む。その一方で、叶海皇はのんびりと後ろをついてくる。まるでこの『狩りゲーム』を楽しんでいるかのように見えた。


主人公:海獣の名を冠するベルーガ海賊団でさえ、海を縦横無尽に渡れないなんて……まいったなぁ……

バクテー:あぁ、それはなぁ。ラム酒がベルーガ好きだから、その名前をつけたんだ。昔は陸地でベルーガのぬいぐるみを探したこともあったな。

ラム酒:だ、黙れ!

オリビア:そんな可愛い少女のようなところがあるとはな。

ミスラ:見て、あそこ。ペッパーシャコがいる!

主人公:うん?どこだ……えっ?


 ○○が振り返ると、そこには叶海皇の姿があった。そして魚のような半透明な尾のところに、僅かだがペッパーシャコの姿が見えた。


主人公:ペ……ペッパーシャコが食べられた?!

ライス:だ、だめ!

ミスラ:ちょっと待て。霊体はまだ消えてない、もしかしたら助かるかもしれない!

イキ:助かる?でも、どうやって?

オリビア:どうやるか?正面から戦うしかないだろうな。

ラム酒:考え直すんだ。この船だって絶対に壊れないわけじゃない。叶海皇の子分たちは破壊を得意としている。それでもし船ごと沈んだら、全員おしまいだぞ。

主人公:確かに……みんな、海じゃダメだ!どうにか陸地まで誘わなきゃ……ラム酒、この辺に島とかない?船をそっちへ移動させる!

ラム酒:西の方角によく休憩に使う島があるな。だが、そこまで行くには向かい風になる。船を回せば速度が落ち、雑魚にも追いつかれて、結果的に船は壊されてしまうだろう。

主人公:いつもならそうなるかもしれないけど、でも、今は私たちがついているよ。

ラム酒:私はまだ協力するつもりはない。危険すぎるし、なんのメリットがあるというんだ?

オリビア:そんなこと言わずともわかるだろう。もし叶海皇を倒せば、ほかに競争できる勢力もない今、おぬしたちの海賊団はこの海を制した真の覇者になるのではないか?

ラム酒:ぐっ……!

主人公:いいね、一石二鳥。ラム船長、ちょっと考えてみては?

ラム酒:ラム船……フン、おべっかはいらん。それより、どのみちこの船が、あいつに噛み付かれるのも時間の問題だ。だったら、やってやろうじゃないか。だが、私たちの役目はあくまで君たちを島に案内するだけだ。

ラム酒:肉骨茶、船を拠点まで戻せ!そして君たちは、必ず私の船を守ることを約束しろ!

イキ:おうっ!任せとけ!


110.耳打ち

ベルーガ海賊団は叶海皇との戦いを開始した。目的地の島へと誘うのと同時に、一行は船を破壊されないよう守らなければならない。


イキ:へへ、いくらだってかかってこい!返り討ちにしてやる!

ライス:でも、敵のこうげきは……キリないのです……このままじゃ、ダメ…!

主人公:ラム酒、拠点まであとどれくらい?

ラム酒:少し距離がある。もう少し耐えろ。

主人公:耐えろって……厳しい船長だなぁ。

小怪二队:フフフッ!


 ○○は振りかえって叶海皇を見た。その速度は明らかにさきほどよりも上がっており、しかもいつでも攻撃できるような態勢を取っている。


主人公:叶海皇(?)はそろそろ我慢の限界っぽいね、何か止める方法はないのか?

ミスラ:○○、ラム酒の船には大砲があるわ。あれを使ったらどう?

オリビア:堕神にそれほどダメージを与えることはできないだろう。だが、行動を若干緩めることは可能なはずだ。やってみるぞ!ラム酒、大砲は?

バクテー:そう来ると思って、先に運んでおいた。けど、弾は一発しか残っていないぞ。

ライス:の、残り一発……?そんな状況でライスたちの船にこうげきしてきたの……?

ラム酒:脅威を示すには一発で十分だろうが。それに、一発だろうと砲弾は砲弾。当たればなんら問題ない!

主人公:その自信はどこから?!

ミスラ:なら、ここは私が行きます!

イキ:ミスラは投石器の操作をしたことがあるし、経験者だから安心だな!

バクテー:よっし、んじゃ砲弾は俺が入れてやろう。狙いは任せたぞ。


 肉骨茶は大砲を船尾のところまで運び、慣れた手つきで発泡の準備を整えた。そしてミスラの指示通りに、大砲の方向と角度を調整していく。


イキ:おい、ちまちまやってる暇はないぞ、急げ!

ミスラ:ホントにもう……セットする時間もロクにないし、更に場所は海上とかいう無茶ぶりだし……まぁ、照準をざっくりとでも定められただけマシか――肉骨茶、火を点けて!


 ――ドカーンッ!

 砲弾が激しい音を立て、叶海皇に向かって飛んでいく。叶海皇のすぐ傍に水柱が現れ、それに気を取られたのか、標的は動きを止めた。


イキ:はずれた……

ミスラ:それでも一旦動きを止めてやったでしょ!

小怪二队:――ギャアアアッ!!!!

ライス:御侍さま、なんか、怒らせてしまった……みたいです……

バクテー:こりゃ、本当にヤバいかも。

主人公:この状況で余所ごとみたいに言えちゃうの、羨ましいなぁ。

ラム酒:お前たち、ふざけている場合か?追われているのは私の船だぞ!さっさと口を閉じろ。この先は浅瀬だ、しっかり掴まれ!


 激しく揺れて、ラム酒の船は島へと突っ込んだ。船は片側へと傾き、全員がその勢いで浜辺へと放り出される。そして、激怒した叶海皇もまた、同じように島に突っ込んできた。


イキ:すごいな……こいつ、海から出てもピンピンしてるぜ。

主人公:でも、これで陸地に上がればこっちのテリトリーだ!派手にやれる……みんな、行くぞ!


***


小怪二队:――ギャギャアアアッ!!!!


 全員の奮闘が実を結び、無事叶海皇を倒した。その巨体がズドンと倒れるや、ライスはすぐさま叶海皇の尻尾側に駆け寄る。その後に○○も続いて歩み寄り、尻尾から姿が覗き見えたペッパーシャコを助け出した。


ライスペッパーシャコ!聞こえる!?ペッパーシャコー!


 ライスの呼びかけにペッパーシャコは眉間に皺を寄せ、激しい咳をしばらくしたのち、ゆっくりと目を開けた。


ペッパーシャコ:……うっ……?

ライスペッパーシャコが……ペッパーシャコが、目を覚ましましたのです!無事でした、御侍様!

主人公:……ライス。こいつ、ライスを捕まえようとしたんだからね?気を付けてよ?


 ○○と話していたその時、ペッパーシャコは驚いて、その場でピタリと動きを止めた。


ペッパーシャコ:お前……だったのか……?

ライス:え?

オリビア:目を覚ましたか。おとなしくこちらの言うことを聞け。

ミスラ:ライス!もう捕まらないように、こっちへいらっしゃい。


 食霊を呼んで、ペッパーシャコを捕まえようとしたそのとき――ペッパーシャコは即座にライスの手を振りほどき、島の林へと向かって駆け出した。


ライス:ペ、ペッパーシャコ!?

オリビア:くっ、逃げ足の速い……!

イキ:早く追いかけようぜ!

ラム酒:あー君たち。正義を貫こうとしているのを邪魔したくはないが……うちの船が浅瀬に乗り上げてしまった。ちょっと手伝ってくれないか?

主人公:そうだ。ペッパーシャコに時間を取られている場合じゃない。まだやることがあったな。


 ○○がそう口にしたところで、他の者たちはペッパーシャコの追跡を止まった。全員で座礁した船へと向かう。その時、林の陰で隠れていたペッパーシャコは、そっとライスの背中を見つめていた。


ペッパーシャコ:……生きてたのか……姉貴……!

111.協力

ペッパーシャコは再び一行の視線から逃れた。しかしこの先には、もっと重要なことがある。


主人公:ペッパーシャコのことはさておき、今回の件は本当に感謝してるよ。ありがとう!

バクテー:いいさいいさ、遠慮すんな。旅は道連れって言葉があるだろ。役に立てて何よりだ。ところで、お前さんたちはなぜ海に出たんだい?

イキ:うん、ぼくたちはソルサヴィス島へ行くつもりだったんだけど、海で迷っちゃって……

ラム酒:ソルサヴィスだって?それは一番東の久遠海域のほうじゃないか、ここは南だぞ。

ライス:えっ……そ、そんなに迷ってたの?

バクテー:別におかしい話でもないさ。俺たちもこの近くを航海していたときに気づいたんだが、あそこの海域は何かに覆われていたな。

主人公:覆われているって?

バクテー:詳しいことは俺にもわからない。けど思い当たる原因はそのくらいだな。

ミスラ:どうりで羅針盤が全然使えなかったのね。でも、私たちはそれでも行かなきゃならないの。

主人公:そうだね。ラム酒、もう一回力を貸してくれないか? 私たちをソルサヴィス島まで送ってほしい。近くまででいいから。そこからは、自力でなんとかする。

ラム酒:送るだけなら問題ないが、君たちはまだ知らないようだな、あの島は今はもう……

バクテーラム酒、ちょっと待ってくれ……まだお前さんの名前を聞いてなかったぞ。教えてくれないか?

主人公:あ、ごめん。私は○○、グルイラオの料理御侍だよ。

ラム酒:○○?どこかで聞いたような名前だな……おい、バクテー、この前のクソガキって……

バクテー:シーッ――


 バクテーはそのまま話そうとするラム酒を止めた。だが○○はそんなふたりを訝しんで、目を細めた。


主人公:えっと……クソガキって言った?

バクテー:悪い、うちの船長は口が悪くてな。許してやってくれ。とにかく、お前さんたちの事情は大体把握できた。○○、まずは船を海に戻すのを手伝ってくれ。そしたら、ソルサヴィス島まで送ってやるよ。


112.約束を果たす

ベルーガ海賊団との話し合いを経て、一行はようやく目的地へと再出発した。


 紆余曲折を経て、○○たちはようやくソルサヴィス島へと出航した。翌日――朝一番の日差しが深い霧へと差し込みはじめた頃、バクテーは帆を下ろして、船を停泊させた。


主人公:今度こそ本当に着いた……?

ライス:す、すごい霧です……

イキ:どこがどこだか、全く見えないぜ。

ラム酒:今は朝だ。霧があって当然だろう。とはいえ、ソルサヴィス島の霧は特に深い。○○、私たちが協力できるのは、ここまでのようだ。

バクテー:これ以上進むと暗礁の群れだ。俺たちの船じゃ渡れない。お前さんたちは、救命ボートに乗って上陸してくれ。

主人公:了解。うーん、色々助けてもらっちゃったし、どうお礼すればいいかな。

バクテー:気にするな、どうってことないさ。

ラム酒:何を言っている、バクテー!お人好しにもほどがある!

オリビア:毎日こんなワガママな船長に付き合っているなんて、おぬしもご苦労だな。

バクテー:ワガママだからこそ、俺が傍についてるのさ。よっし、救命ボートを下ろしたぞ、全員準備してくれ。

主人公:ありがとう。それじゃ、私たちはここで。


 バクテーから渡されたオールを受け取り、一行は島の瀬頭へと前進した。そして食霊海賊であるベルーガ海賊団のふたりは、船頭に立ちながら、彼らの去っていく姿を見送った。


バクテー:…………

ラム酒:行ったか?

バクテー:行った。

ラム酒:あの時はこんなことが起こるなんて信じられなかったが、彼らは本当に現れた。ということは、やはりソルサヴィス島はもう……?

バクテー:本当かどうかは、『あの者』をここに呼んで、直接会えばわかるさ。長年の約束も果たされるだろうよ。


113.上陸、そして

島に入った途端、一行は堕神の襲撃を受け……?!


 救命ボードは深い霧を抜け、浜辺へと辿り着いた。○○たちは海に飛び込み、ボートごと海岸まで引っ張っていく。浜辺の奥には、僅かだが家や煙火が見える。一行はひとまず、海岸で見つけた洞窟で休息を兼ねて話をすることにした。


主人公:うん、人間がいるみたいだね……?たぶん、人間だよね?

イキ:なんでそんなに自信がないんだ?

主人公:桜の島で色々あったからね。ここにも堕神がいる可能性はゼロじゃない。うう、杞憂に終わればいいけど。

ミスラ:心配ごとは、先に調べておけばいいわ。ライス、何か見つかった?

ライス:いえ何も。ただ……

ライス:わたし、なんの気配も……感じられないんです……なにも……

イキ:えっ?

主人公:『空っぽ』だから?ここにきたら、力が不安定になっちゃったのかな……?

ティラミス:それは違うかと。わたくしも、何も感じられませんでした。

主人公:ティラミスも?えっと……二人して私をからかってる……とかじゃないよね?

オリビア:この島にはサイモンがいたからな。何か仕掛けがあるのかもしれない。とにかく気を抜くな。

イキ:警戒してばっかでもダメじゃないか?一番手っ取り早いのはーー堕神ーっ!出てきやがれ!ぼくたちと、今すぐ、正々堂々勝負しろ!

ミスラ:イキ、そんなこと言って、堕神が出てくるわけないで……

夢喰い:あら、まさか隠れて様子を窺ってたのがバレてるなんて……そんなに妾に会いたがってくれるとは嬉しいわ。妾は『夢喰い』。以後、御見知りおきを。

ミスラ:………………

イキ:ひゃあっ、お、堕神っ!す、すごい恰好だな!?

主人公:あのー、呼んだのはこいつです。私たちは無関係です。用があるならこいつにどうぞ!

イキ:おい!仲間を売るつもりかよ!

オリビア:おぬしが呼んだのは、まぎれもない事実だな。

夢喰い:フフフ、相手が誰であろうと構わないわよ。この地に足を踏み入れた以上、なすすべもなく夢に包まれて消えるといいわ……!

主人公:イキじゃ人質にならなかったか……仕方ない、全力で戦おうっ!


114.捨てられた子供

なんとか危機は乗り切った、少し休もう!


夢喰り:やだ……人間相手には非力だわ……。

イキ:うーん……力を出し切れてないみたいだな?

主人公:どうあれ、勝負はついた。まだ戦う?

夢喰い:妾は殺し合いは好まぬ。今は一旦身を引かせてもらうわ。次に会えるときを楽しみにしているわ……。


 その瞬間、○○たちの前に白い霧が立ち上る。目の前は霧で何も見えない。次に視界が広がったときには、既に堕神の姿はなかった。


オリビア:逃げるのは早いな……!

イキ:どうする?追いかける?

オリビア:いや。さっきの戦いからして、大した堕神じゃなさそうだ。それより情報収集をしよう。みなもお腹が空いているんじゃないか?

ミスラ:そうね、もうお腹ぺこぺこ。

主人公:じゃあ、まずはご飯にしようか。イキ、バクテーからちょっと食料もらってきてたよね?どこか料理が出来る場所を探そう。

イキ:あいよ!


 イキと○○は砂浜からほんの少し離れた場所に丁度良いスペースがあるのを発見した。ふたりは石畳の上に火を点け、料理の準備作業を始める。

 石畳の上に、川の水と食材と調味料を入れた鍋を置く。煮込まれた美味しそうな料理の香が鍋から匂ってくる。


イキ:そろそろかな?

主人公:そうだね。みんなを呼んでこないと……ん?

シルレス:………………


 振り返るとそこには、髪は乱れ、全身が汚れている少年が立っていた。その草臥れた様子に、○○は息を呑んだ。


イキ:どうした、○○?……ん?誰だ?

ライス:あの……この子、お腹が空いているみたいです……かわいそう……

主人公:ええ……そうみたいね。

イキ:なあ、こいつに食べ物を分けてやったらどうだ?

主人公:そうだね……これから私たちご飯にするんだけど、良かったら食べない?

シルレス:ありがとう!お腹空いてたんだ!

イキ:でもそんなにいっぱい作ってないよな……足りるかな?

主人公:だったら追加で作ればいいさ。ライス、また食材の用意をお願い。

ライス:わかったわ!


***


主人公:お待たせ~!ご飯ができたよ~!

ミスラ:もう!本当に待ったわよっ!お腹ぺっこべこ……ん?

シルレス:…………あ……

ミスラ:だ、誰……?

オリビア:○○、この子は何者だ?

主人公:ああ、イキの隠し子だよ。

イキ:違うっ!!!

ライス:この子は……多分、わたしたちの料理の香りに……引きつけられたのです……

ティラミス:へぇ……この子のおうち、ご飯が食べられないほど困窮してるの?

主人公:可哀想だから、少し料理を分けてあげようと思ってさ。いいよね?

オリビア:それは構わないが……いや、むしろこの子から島の情報を聞き出してやろうじゃないか。

主人公:そっか。そう言えば、まだ名前を聞いてなかったな。貴方の名前を教えてくれる?

シルレス:シェ、シェーレ。

オリビア:……シェーレ、サイモンについて、知っている教えてもらえないか?

シルレス:サイモン?誰?そんな人、知らないよ。

主人公:知らない?

ミスラ:もしかしたら……サイモンは密かにこの島へ上陸したのでは?それなら、誰も気づいてなくても、不思議じゃないわ。

オリビア:この辺りには堕神がまだいるんだ。それなのに、ひとりでうろつくとは思えない。きっとどこかに隠れ家があるはずだ。

シルレス:堕神?

イキ:そうだ、この辺りには堕神がいる。さっき一体倒したけど、あまり遠くへ行くとやられちまうぜ!

シルレス:堕神を倒した……もしかして貴方がたは、料理御侍か?

イキ:へへっ、そうだぜ!

シルレス:料理御侍……わお!料理御侍なんだね!

主人公:急にどうしたの?

シルレス:昔、おばあちゃんから色々な話を聞かされたよ。料理御侍は伝説の英雄なんだって……でもまさか、現実にいるとは!

ライス:え、えっと……?もしかしてこの島には……料理御侍が、いないのですか……?

ミスラ:そういえば……ソルサヴィス島は独立したノルス大陸の飛地(とびち)で、料理人ギルドの設立当初から久遠海域は無法地帯だったらしいわ。それで、僅かにいた料理御侍も最終的にはいなくなっちゃったって……昔読んだ本にそう書いてあったわ。

ミスラ:だから、この子が見たことないだけで、伝説の英雄ってことはないんじゃない?とりあえず……その本以外で、この島に関する情報は見たことないわ。私が提供できる情報はこのくらいね。

イキ:それって、もしかしてサイモンの仕業か?!

主人公:かもね。でもそんなことがあれば、シェーレは何か知ってるよね?


 そう言って、○○はシェーレを見た。しかしシェーレは首を横に振り、否定する。やはりサイモンについては、知らないようだった。


主人公:こういうことは詳しそうな人を訪ねたほうがいい。ねぇ、シェーレ。貴方のおばあちゃんは料理御侍の話をしてたんだよね。だったら、何か知っているはずだ。紹介してくれない?

シルレス:えっと……おばあちゃんは、294年に亡くなった。

主人公:え?そ、そうなの……?ゴメンね――って、ちょっと待って!今、294年って言った?!


115.混乱の時間

色んな方法を試して、この地の事情を調べよう


ミスラ:確かに言った……けど、この子の記憶違いじゃない?

シルレス:俺の家族はおばあちゃんだけだ。亡くなった時のことは今でもはっきり覚えてる。5年前のことだよ。

オリビア:いや、待ってくれ……そんなことある筈が――もし、おぬしの言うことが正しいなら……今年は、王歴299年ということになるぞ?

シルレス:それがどうかしたか?

主人公:……んんんん?どういうこと……?頭が混乱してきたよ……。

イキ:堕神のせいか?桜の島でも似たようなことを経験したし。

主人公:あのときのこととはまるで違うよ。今回は時空を超えている――そんなバカなことがあるか……!?

ミスラ:でも、もし今年が本当に299年なら、サイモンが現れてないのも納得がいくわ。っていうか、まだ生まれてすらいないでしょうね。

ミスラ:逆に考えてみましょう。もし、もしもよ?私たちが『過去』に来てしまったのなら、タイムパラドックスの点から見ると……これは――

主人公:ミスラ、考えすぎて頭を混乱させないようにね。それより、今はどうしてこんなことになったのかを考えるほうが先決だよ。

オリビア:シェーレ、お主の知っていることを教えてほしい。最近何か妙なことはあった?

シルレス:妙なこと?うーん、そうだな。毎朝、町から失踪者が出てるけど、何か関係あるかな……?

ライス:そ、それはおかしいのです……!その『失踪』って、もしかしてライスたちがここにいるみたいな感じなのでしょうか……?

イキ:えっとそれは……ぼくたちが未来から過去だと思われる今に来ちゃった――その逆バージョン的なことが町民たちに起きてる可能性があるってこと?

主人公:まさか、そんな非現実的なことはないでしょ……。でも、否定できる材料はないね。ひとまず、それを切り口にして、町の人たちから話を聞いてみるのはアリかもしれないな。


116.疑い

空気の重い町からは何の答えも得られず、そして新たな危機が訪れた。


 シェーレを連れて街に入ると、妙な違和感を覚えたーー道は広いのに、人影は一切見当たらない。道の両側に立った家から人々の話し声や咳が聞こえなければ、ここは誰も住んでいない廃棄された町だと思っただろう。


主人公:昼間から誰も見かけない。家の中に篭って何かしてるのかな?

イキ:そこも含めて、話を聞いてみようぜ。すみませーん!誰かいますかー!


 イキがすぐ傍の家の扉をノックする。その途端、室内から聞こえていた話し声はすぐに止み、慌てた様子の男の叫び声が聞こえてきた。


???:だ、誰だ!外にいるのは!?

イキ:すみません、おじさん。ぼくたちグルイラオから来た料理御侍です。この町について、ちょっと伺いたいことが……

???:俺はなにも知らん!さっさとどっか行け!

イキ:あっ!ちょっと待てよ!まだ話してる途中だろうが!おっさん、人の話は最後まで聞けって、教わらなかったのか!?

ライス:あ、あの……イキさん!そ、そんな風に……刺激するのは……!

シルレス:町の人は、町民が失踪する事件が続いてるから、次は自分たちなんじゃないかって、みんな不安になってるんだ。それに……

???:その声、マリのところのガキだな?

???:こんな昼間によく外でブラブラできるもんだな。やっぱり失踪の件と関係があるのか?マリさんには『お前みたいな成長が止まった子どもは堕神に決まってる』って何度も言ったのに、まるで聞く耳を持ってくれなかった……!

シルレス:………………

主人公:おじさんおじさん。しゃべりすぎると次の失踪者はおじさんになっちゃうかもしれないよ~?


 その瞬間、激しい物音が室内から響き渡る。その後、○○は男性の反応を待っていたが、彼は黙り込んでしまい、そこで会話は終了してしまった。


イキ:なんてやつだ!こんな子どもに事件の問題を押しつけるなんて……!

ライス:シェーレ、大丈夫……?

シルレス:うん、大丈夫だ。それに本当のことだ……おばあちゃんに拾われたこの数十年、確かにずっと子どものままなんだ。もしかしたら、本当に俺は堕神なのかもしれない。

主人公:堕神は私の料理を見て、食べたがったりしないよ。それに、本当に成長が止まったの?

ミスラ:人間から見て、『成長が止まっている』かのように見える種族は……アレしか……?

オリビア:ちょっと待て、○○その話は後だ。

主人公:どうしましたか?

オリビア:――堕神だ。いつの間にか、囲まれていたようだな。準備はいいか?……行くぞ!


***


主人公:結構な量の堕神だったな。いったい、どこから出てきたんだ?

オリビア:さて……ただ、今のはさっき追い払った堕神の子分みたいだな。追い払ったことで恨みでも持たれたのか?

ライス:そうかもしれません。『失踪事件』は……もしかしたら……あの堕神と、何か関係が……あるかも……?

主人公:島で唯一出くわした堕神があいつだ。その可能性は高い。でも、今回は表には出てこないで、私たちを追い詰めるつもりみたいだ。なんとかしてあいつを探さないと。


117.決定

御侍さま、シェーレと一緒に、山を調べに行きましょう!ライスも、ついていきます。


シルレス:堕神を探すの?

オリビア:町の失踪の件は、あの堕神と関係があるかもね。けど、どっちにしろ今は、何の手掛かりもない。失踪事件について、もっと検証を重ねる必要がある。シェーレ、失踪事件について、他に知っていることはない?

シルレス:そうだなぁ……町の人たちは、これまでずっと肇始之神に加護を祈ってたんだ。今回の失踪事件が起きたときも、沢山の人が祈るために、山にある聖堂に行った。

主人公:『聖堂』に?

シルレス:ああ。でも、失踪した人も祈りに行った人も、誰ひとり戻ってこなかった……それで聖堂に行ったあと失踪したって話になってさ。みんな怖くなって――家に閉じこもってしまったんだ。

ミスラ:ということは、堕神が聖堂にいる可能性はゼロじゃないわね。夜になってから、町に下りてきて、人々をさらっているのかも。

主人公:じゃあ、山の聖堂に行ってみようか。もしかしたら何かわかるかもしれないし。

ライス:御侍さま、待ってください……危ないです……もし、わたしたちも狙われたら……危険なのです……!

主人公:ライス……それ、ナイスアイデアだよ!よし、みんなその作戦で行こうか……。


***


 一行は町を離れ、シェーレの案内で山へと入っていく。ここは島にあるふたつの山の一角である。

 ほどなくして眼前に現れた聖堂は、平坦な広い敷地に建てられていた。ここからは山から見下ろす町全体の景色と、隣に立つ山から煙が立ちのぼっている様子が一望できた。


主人公:隣の山は、火山かな?

ミスラ:聖堂があるのがあっちの山じゃなくてよかった……。

オリビア:あんなところに建てていたとしたら、この町の者たちは相当どうかしてるぞ。

イキ:とはいえ、こっちの山も雑草ばっかりだ……見るとこは、特になしって感じ。

主人公:聖堂に祈りに来る以外に、人が来ることがない山なんだよね?廃棄同然の山だよ。

ライス:でも、建物は……新しいです……

シルレス:それに人がいた形跡が……って、あああー!?聖像がない!!

オリビア:聖像?


 シェーレが聖堂の真ん中を指さして振り返る。○○はゆっくりと視線を移動させるが、そこには何もなかった。


シルレス:あそこには、肇始之神の聖像が置いてあったはずなのに……無くなってる。


 近づいて観察すると、床に損傷した痕跡があった。そして一本の黒い紐状の毛のようなものを見つけた。


ミスラ:これは、あの堕神の髪の毛かしら?

主人公:……ってことは、ここが根城で当たりかな?あいつが現れるのを待ってみようか。

イキ:待っているだけでいいのか?

主人公:イキはどう思う?ここに祈りに来た人はみんな失踪してるんだよ?

ライス:御侍さま、まさか……

オリビア:おぬしが言っていた、『良いアイデア』とはこのことか?

主人公:そうだよ。私たちが囮になってここにいたら、あいつが出てくると思ってる。今は、他に手がかりもないし、あいつがいた痕跡も見つかった。そう悪くない賭けじゃないかな?


118.聖堂に到着

ここにも堕神が隠れていたとは、気をつけて対応しよう。


ミスラ:○○!○○!

主人公:うん……?

ミスラ:早く起きて!

主人公:ミスラ、それとシェーレも……あれ!?私、いつの間に寝てたの?

シルレス:多分……昨日から。

主人公:昨日!?まさかあの堕神の仕業じゃ……ねえライス――って、みんなはどこ!?

ミスラ:私が目覚めた時には、私たち三人しかいなかったわ。もしかしたら、『失踪』したのかも……。

主人公:嘘……!なんで私たちだけ取り残されてるの?


 三人は互いの顔を注視するも、まるで原因がわからなかった。そのとき、聖堂の外から音がする。慌てて外に出てみると、イキとオリビアの姿が見えた。


主人公:なんだ、さらわれた訳じゃなかったんだ、良かった。びっくりしたよ。

オリビア:………………

ミスラ:○○。待って、何か変よ。

主人公:うん……?二人とも、どうかしたの?


 ○○の質問に対して、イキとオリビアは無反応だった。ただじっと、不気味な形相でこちらを見つめていた。○○はもう一度話しかけようとすると、二人は突然、暴飲王子と暴食へと姿を変えた。


シルレス:うわああっ!お、堕神!

ミスラ:きゃああっ!

主人公:ミスラ、シェーレ!早く聖堂に隠れて!ここは私がなんとかするから!!


***


 ○○は食霊の力を借りて、無事に暴飲王子と暴食を見事に退治した。けれど、一行の疑問は増すばかりである。


ミスラ:どう考えてもおかしいわ。

主人公:確かにおかしいね。今は、とにかくその原因を探さなきゃ……

シルレス:ねぇ、他の人たちは殺されちゃったのかな……?

主人公:大丈夫だよ、心配しなくていいよ。さっきのは堕神だったんだ……まさか、堕神が人間に化けるなんてね……でも狸が人間に化けるのは知ってたけど、今回みたいなケースは初めてだ……。

ミスラ:でも他のみんなはどこへ消えたのかしら?連絡できる手段があれば……

シルレス:○○、○○!腰につけてるやつで、連絡できないの?

主人公:あっ!う……お、ああぁっ!そうだ、通話機!これがあった!


 ミスラの開発道具の存在を思い出し、○○はやっと落ち着きを取り戻した。そして通話機を鳴らすと、聴き慣れた声が流れ出した。


ライス:御侍さま!御侍さまですか!?お願いです……なにか、喋ってください……!

主人公:は、はいはいっ!!ライス、無事かい?オリビアとイキはそこにいる?

オリビア:ああ、三人一緒だ。私たちは大丈夫。それより、おぬしたちの居場所を教えてくれ。

主人公:うん、私たちは今……って、それはこっちも聞きたいよ!どこにいるの?いつの間にか寝ちゃってて事情がよくわからないんだ。

イキ:は?○○、まだ寝ぼけてんの?『失踪』したのはキミたち三人だろ。今聖堂にいるのは、ライスとオリビア、そしてぼくだ!

主人公:え?!そっちも聖堂の……近くにいるのか?こっちも聖堂にいるんだけど……。

イキ:ぼくたちは、聖堂の出口に立ってるぞ……なぁ、オリビア。これはどういうことだ?

オリビア:……現状から想定するに……信じられないが、どうやら私たちは今、二つの空間に切り離されたみたいだ。

主人公:オリビアもそう思う?

ミスラ:違うわ、空間じゃない……

主人公:ミスラ?

ミスラ:私、今みたいな状況を知ってる気がするの……けど、どの本で読んだのか、全然思い出せなくて――

オリビア:では、歩きながらゆっくり考えてもらうとしよう。○○、さきほど私たちに化けた堕神と戦わなかったか?

主人公:そうそう……ってことは、そっちも同じ目に遭ったの?

ライス:御侍さま、さっき……堕神を退治した後、ライス……気配を……感じました。もう一つの……山からです!

主人公:もう一つって、あの火山のこと?


 ○○は目を細めて隣に聳え立つ火山を見た。するとその視線に反応するかのように、火山口からマグマが噴火した。


ミスラ:な、なんであんなところから気配が……?

主人公:あはは、いかにもって感じ。英雄が活躍する物語の大魔王って、ああいう雰囲気のとこ、好きそうじゃない?

オリビア:空間が異なるとはいえ、私たちがいる場所は同じ聖堂だ。今から同時にあの火山へ向けて出発し、その間できるだけ連絡が取れるようにしよう。

主人公:いいね。その作戦、乗った!


119.迷い

こんな時こそ慌ててはいけない。すぐ対策を探すのが、御侍のやるべきことだ。


ライス:御侍さま、聞こえますか?

主人公:聞こえるよ。えっと、今の位置は……そっちも大体同じところにいるのかな。

ライス:はい……そうだと思います!

ライス:姿が見えなくても……こうして御侍さまの声が聞こえれば……ライスは、とっても安心します……!

主人公:あの黒い堕神の件が解決したら、こんな回りくどい連絡はしなくて済むようになるかな。

オリビア:○○、だいぶ歩いた。少し休んで、昼食にしようか。

主人公:うん、そうだね。食事の時間にしよ……ああ!?

イキ:○○、食料はぼくが持ってるぞー。

ミスラ:そ、そんな……なら私たちはどうすれば?!

主人公:ハハッ、ミスラったらそんな絶望した顔して……イキも同じ場所にいるみたいだし、あいつに聞いたら?

ミスラ:冗談言ってる場合じゃないでしょ!お腹すいたわ!!今すぐご飯が食べたいーっ!!!

オリビア:大食いと一緒だと楽しい時間が過ごせそうだな、○○。鍋はそっちにあるんじゃないか?それで何か作ってやったらどうだ。

主人公:作るのは別にいいんだけど……この辺で食材が見つかるかどうかかな。

シルレス:食材の場所なら知ってるよ!

シルレス:この近くに果樹の林があるんだ。昔よくおばあちゃんと一緒に果物や野菜を取りに行ってたんだよ。ここでちょっと待ってて。すぐ採ってくるよ。

ミスラ:シェーレ……!ありがとうっ、任せたわ……!


120.禁区

ソルサヴィス島はやはり思ったよりも遥かに危ないところだ。油断はできない。


主人公:やっと山の麓まで着いた。

ミスラ:こんなところに洞窟があるなんて……あの堕神が、この奥に隠れているのかな。どんな危険があるかわからない以上、○○、万全の準備を整えておいて。

主人公:うん。それとシェーレ……ん?どうかした?

シルレス:……この奥、な、なんか危険な気配を感じる……!

主人公:そっか。堕神がいるのかな?だったら危険なのは道理だ。

シルレス:そ、そうじゃないよ。

オリビア:○○、どうした?

主人公:ああ、シェーレが洞窟の奥から危険な気配を感じるって怖がってるんだよ。

オリビア:ちょうど良かった。この洞窟について、伝えておくべきことがある。

主人公:ん?何か情報がある?

オリビア:危険以前に……何もわからない場所だと言うべきだな。料理御侍ギルド内では、ソルサヴィス島には料理御侍のいないと言われている。だが本当のところは、ここで一度だけ隠密行動をしたことがあるのだ。

主人公:隠密行動って?ねぇオリビア、もう少し詳しく聞かせてくれない?備えあれば憂いなしって言うでしょ……

オリビア:私にも詳しくはわからない。だが、実際にこの行動に参加したのはルクシードのチームだけという話だ。

オリビア:わかっているのは、彼らはこの周辺を禁区と定め、この町の長に堕神の存在を伝え、絶対に入ってはならないと――立ち入り禁止区域だ、とそう警告したということだ。

ミスラ:そ……それはいつ頃の話なの?

オリビア:少なくとも、ルクシードがまだ戦闘部の部長になっていないときのことだろうな……

ミスラ:この件とサイモンが関係あったら、料理人ギルド自体が問題になるわ。

主人公:ギルドはサイモンと協力するような組織じゃないよ。きっと、他になにか理由があるはずだ……真相は中に入って確かめるしかないね。

主人公:ミスラとシェーレはここで待ってて。ここから先は、私一人で行くよ。

ミスラ:そうね、そのほうが……

シルレス:いや、俺も入るよ。

主人公:そうなの?

シルレス:今はもう大丈夫、怖くないよ!俺はお前たちの足を引っ張りたくない!おばあちゃんが言ってたんだ。料理御侍はみんな勇敢で、どんな困難にも立ち向かうんだって……お、俺も、そういう人間になりたいんだ!

ミスラ:シェーレ……

主人公:料理御侍は勇敢かあ……確かにそうかもしれない。でも、ここから先が危険なのは間違いないよ。何が起こるかわからない。それでも君は、一緒に行くの?

シルレス:うん!


 少年の揺るぎない答えを前に、○○も知らず知らずのうちに胸が熱くなってきた。そしてニカッと笑い、思いっきりシェーレの頭を掻き撫でた。


主人公:すごいな!いいね、気に入ったよ!

主人公:じゃあ一緒に行こうか。でも、私の言いつけはきちんと守ること。それから何があっても、勝手なマネは厳禁!私の後ろにちゃーんとついてくること……わかった?

シルレス:わかった!

夢喰い:おやおや……誰が来たのかと思えば――あのときの。ふふっ……人の根城まで追いかけてくるなんて、そんなに妾のことが忘れられなくなっちゃった?

ミスラ:○○、来たわよ!

主人公:あのさ、悦に浸って楽しそうだけどさ……状況把握した方がいいんじゃない?悪いけど、今回は容赦しないよ?

夢喰い:フフフフ……!せっかく妾のことを心配してくれたところで悪いけど、今はそなたとその仲間たちの行方を心配してはどうだい?

ミスラ:全部貴方の仕業なんじゃないの!?○○、コテンパンにやっつけちゃって!

オリビア:○○、そっちにも堕神が現れたんだろう?無駄話はここまでにして、戦闘準備に移ろう。そちらも同時に戦闘を開始してくれ!きっと効果があるはずだ。

主人公:え?どういうこと?!

シルレス:○○!

夢喰い:フフフフ……!そなたら、どうかしたのか?

イキ:(○○、変だ……ダメージを与えられない!そっちは……!?)

主人公:こ、こっちもだ。攻撃が効かない……!もしかして、幻と戦ってる?

ミスラ:しっかりしてちょうだい、○○!幻だったら、私たちにダメージがあるのはなんでよ!?

主人公:くっ……その通りだね。食霊は、攻撃されてる……!!

主人公:て、撤退するよっ!まずは一旦ここから離れて、体制の立て直しだ!!

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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018年10月11日
    • Android
    • リリース日:2018年10月11日
カテゴリ
  • カテゴリー
  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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