「鐡に燈る息吹」ジル

ジル「あはは、たのしい夜だったね。だけど準備するのたいへんだったでしょ。わたしたちにもてなしとかいらなかったのに。」

主人公「廃棄場ではさんざん世話になっただろ。ジルがきたときは、ちゃんと歓迎するつもりだったんだ。」

メルク「せっかくこうして再会できたのです！よろこんでもらえたみたいでなによりなのですよ～！」

ジル「思えば、ふたりとわかれてからけっこうたつんだね。わつぃはまだ、きのうのことのようにおぼえてるよ。」

メルク「みゅふふ。もちろん、私たちだっておなじなのですよ。」

主人公「そういえば、カルメンはどこにいったんだ？ついさっきまで、いっしょにいたはずなのに。」

ジル「ああ、えっと。にいさんなら、夜風にあたってくるとかいってたな。」

主人公「なあ、ジル。さっきから気になってたんだけど。もしかしてふたり、喧嘩でもしてるのか……？」

ジル「へっ？な、なんでそう思うわけ？」

主人公「いや、だって。会話してるところ、まったくみなかったから。食事してるときもいっさい目をあわせなかったし。」

ジル「う～ん、喧嘩とまではないけど。ほんのちょっと、納得いかないことがあって。」

ジル「兄妹とはいえ、いろいろあるんだよ。ひとつ屋根のしたで暮らしてると、やっぱりね。」

メルク「ジルさんって、いまはカルメンさんの家で暮らしているのです？」

ジル「日によってわけてるの。どっちもないがしろにするつもりはないからね。にいさんのとこに定住してるわけではないんだ。」

主人公「そうだったのか。市街地のひとたちは、トロワを受けいれてくれたんだな。」

ジル「あはは、まあね。だけどあのナリだと、うちにはいりきらなくてさ。いつも、玄関のまえで待ちぼうけになっちゃうの。」

メルク「みゅふふ。しょんぼりするトロワさんが目に浮かぶのですよ～。」

主人公「とはいえ、ひとまず安心したよ。失踪事件以降、産業都市にも変化があったみたいだな。」

ジル「うん。ふたりが、手を貸してくれたからね。」

ジル「ありがとう。わたしのたいせつなともだちを、たすけてくれて。」

主人公「俺たちはなにもできなかったけど。カルメンとルジャンドルがうまくやってくれたからな。」

ジル「にいさんが？う～ん、ハカセはともかくとして。にいさんなんか、ぜんぜん役にたってないだろ。」

メルク「あの、ジルさん……？どうしてカルメンさんを目のカタキにしているのですよ。」

ジル「し、してない。むしろ眼中にすらないっ。」

メルク「(ジルさんが赤面しているのです。やっぱり、様子がおかしいのですよ)

主人公「(まあ、たしかに。いったいどうしたんだろう)」

ジル「ねえ。ふたりとも、それよりなにか気づかない？」

主人公「ええっと。いきなり、そういわれてもな。」

メルク「みゅっ、主人公さん！ジルさんがおもむろに髪をかきあげはじめたのですよ！」

ジル「ふふん。ふふふふん。」

主人公「いや、さっぱりというか。かわったところでもあるのか？」

ジル「へっ！？なんでよ、ほらっ！」

主人公「あだっ！？ちょっと、髪が目にはいってるからっ！」

ジル「あ、ごめん。あはは、けっこう気づかれないものなんだね。」

メルク「みゅふふっ！私は見抜いていたのですよ、ジルさん！以前よりも髪がつやつやしているのですよ～！」

ジル「おおっ。やっぱりメルクならわかるかあ～！」

主人公「髪が……？まあ、いわれてみれば。たしかにちがう、ような？」

ジル「あはは。主人公はぜったい気づいてないだろ。」

ジル「髪なんて舞踏会にでるときをのぞけば、いつもほったらかしのボサボサだったから。いいかげん、ちゃんと手入れしようと思って。」

ジル「じつはいま、化粧もしてるの。ついこのあいだ、かあさんにおそわったんだ。」

主人公「へえ、でもどうしていきなり。もしかして、カルメンに触発されてとか……？」

ジル「そ、そんなんじゃないって！わたしだっていちおう年ごろのおんなだ。ちょっとくらい、興味もったっていいだろ。」

ジル「わたしより色気のあるにいさんが気にくわないとか。ともかく、そういうのではいっさいないからっ！」

主人公「な、なるほど。べつにうたがってるわけではないけど。」

ジル「あとは、やっぱり。にいさんには、いまのわたしをみてほしくて。」

ジル「おたがい、成長したはずなのに。ふたりではなすときは、ほんとむかしそっくりなんだ。」

メルク「いやなのですよ？きっと、カルメンさんはジルさんと、こどものころのようにつきあいたいのでは……？」

ジル「にいさんって、過去のわたしに執心してるみたいなとこがあったから。」

ジル「あのころのわたしは、もういない。かわるものがあれば、かわらないものだってある。たしかなぬくもりが、いまでもこの胸のなかにある。」

ジル「なのに。なの、に……！」

メルク「あの、ジルさん？肩をふるわせてどうしたのですよ……？」

ジル「このまえなんかわたしがまだ浴室にいるのにっ！『背中をながしてあげる』とかきこえてきたと思ったらにいいさんがとつぜん裸であらわれて勝手にああもう～っ！」

メルク「ジルさん……！？なんのはなしをしているのかさっぱりなのですが、そとからガラクタがあつまってきているのですよ～っ！？」