【黒ウィズ】リュディ編 (クリスマス2019)Story
story1 森のしぶぶ
その森に一瞬、風が吹き込んだ。
葉と葉が触れあい、心地良い音がする。それはまるで森の声だ。
リュディガー・シグラーは妙だ、と思った。
木々のざわめきの中にまぎれ聞こえてくる声らしきものも感じる。
だが殺気立った敵愾心(てきがいしん)を持ったものには思えない警戒心、恐れ、そしてたっぷりの好奇心。
それだけを感じた。
取って食べたりしないよ。
葉がすれる音に、ひそひそとした内緒話の色合いが加わる。一瞬、風が止んで静寂が辺りに留まる。
静けさが終わり、呼吸のように空気を吐き出す。森の言葉だった。
木陰の中から、声の主が現れた。
ポテっとした小さな生き物だった。一匹だけではない。コロコロと何匹も続いて現れた。
それぞれ名前を名乗ったが、リュディは見分けがつかないな、と感じていた。
リュディの言葉を聞いて、シーヴルたちは顔を見合わせた。
そして4体は小さな団子のように頭を突き合わせる。
話し合いが終わると、円陣を解き、シーヴルが前に出た。
頭を掻くリュディ。断った本人たちも申し訳なさそうだった。
何よりこれで本当にいいのか、わからないようでもあった。
現れたのは丸っこいが年を重ねたエルフだった。
ちょうど困っていたことがありましてな。
***
グレイスの儀式というのですが、これは欠かさずに行ってきました。
我々は狩をしてはいけないのです。命を奪うという行為が禁じられているのです。
リュディは不思議に思った。命と血を挿げる儀式を執り行うのに、このエルフたちは命を奪えないのである。
悲しいことに人間は森に子を捨てる風習がある。我々は森に捨てられた子を拾い、育てるなどをして協力者を作ってきました。
しかし、先日その役を担っていた者が亡くなりました。
噂によると、脱走兵崩れの野盗に狙われたそうです。我々が与えた衣に目をつけられたようです。
リュディもそういった類の話は身をもって知ることが多かった。
ここに来る前に通りかかった村は、馬の肉と毛が焼ける臭いと気の狂った少女の声だけが残り、他は何もかもが奪われていた。
何もかもだ。
魔界の略奪の方がもう少し上品だった。
リュディはうれしいのか悲しいのかわからない変な顔だな、と思った。
story2 人とエルフのしぶぶ……
夕ロ夕ロ鳥を探す間、森のエルフたちはリュディを質問攻めにした。
先ほどまでの楽し気な様子が一変し、エルフたちは重そうな頭を垂らした。
しばらくリュディは黙った。答えに窮したのではなく、過去の事を思い出していた。
***
これは遊びではない。お前たちがいつかは通らなければいけない道だ。
元の世界に帰る旅に出た時、どうやって生きていく。獲物を狩り、それを食べるんだ。
お前たちはそいつを生かすために、餓えるのか?
リザが手に持ったナイフを脇に投げるのと同時に空を切る音がした。
言い捨て、背中を向けて去っていく。
だが、それはきっと時間が解決してくれる。
少年の肩に手を置くと、彼はおびえることなくアルドベリクを見返した。
アルドベリクは少年の澄んだ目を見て、不安と期待と怖さ。まるで別々の感情を覚えた。
なぜこの子はこんな目をするのだろうか。
この歳で。人間でありながら。
肩に置いた手から伝わるひ弱な骨格、温かさ。ごく普通の子どものようだが、違う。
この子は特別なのだ、とアルドベリクは思った。
だから俺は知っている。人間は生きるために殺すんだ。
感情表現がわかりづらいな、と思いながらリュディは頭を掻いた。
リュディの耳に鳥の羽ばたきが聞こえた。
目をやった瞬間にその姿は視線の届かぬ場所へと消えていった。
すぐさまリュディは踏み出す。
***
珍妙な鳥たちが飛んでいた。いや、飛ぶというよりも飛び上がってしばらくすると落ちるのを繰り返していた。
リュディは鳥とエルフを見比べる。
と思った。
不思議な鳥がリュディたちに気づくと、友好を示すつもりだろうか。コロコロと転がってこちらに近づいて来る。
リュディの前で止まると、まん丸な目でこちらを見上げた。
不思議な鳥を持ち上げた途端、大きな影がリュディを覆った。
不思議な鳥の視線を追うようにリュディは自分の頭の上を見上げた。
リュディは手に抱えた鳥を見て、全然似てないじゃないかと思った。
そうしている間にも怪鳥は嘴を空に向けて、けたたましい鳴き声を上げた。
まるで体を引き裂くような声だった。
不思議な鳥もエルフたちも殺意だけで震えあがるが、リュディは涼しい顔で夕ロ夕ロ鳥を見据えた。
喉元に向かってくる嘴。
を瞬時に抜いた剣で受け止めた。
だから……ごめんね。
拮抗する嘴と刃の間に黒い光が瞬く。途端、嘴は縦に寸断される。
嘴だけではない。怪鳥の頭にもまた、縦に線が入っていた。
その線ごと横薙ぎに払われ、怪鳥の首が落ちた。
哀れなことに自分の死を知らぬまま、怪鳥は飛び立つかのように翼や足を振り回し、その羽と血をまき散らした。
story3 冬の営みは
森の恵みと共に捧げられた夕ロ夕ロ鳥を見て、リュディは老いたエルフに尋ねた。
エルフたちは同時に首を横に振った。
リュディは肉片を口に運んだ。
こんなのに雰囲気が似ているってどういう意昧だろうと思いながら、リュディは尋ねた。
ふたりは森を出て暮らしておりました。ですがその世界は嫉妬、憎悪、悪意、強欲。
森にはない様々なものがあります。それらがふたりを追い詰め、そして最後は処刑台へと上がらせた。
人がいなくなった夜。私は処刑台の下の血に濡れた土を持ち帰りました。
せめて血だけでも森に帰してやりたかったんです。すると不思議なことが起こりました。
その土からまるで姉のように白い薔薇と小さな子どもが生まれたんです。
その子は特別な力を持つ、特別な存在でした。だから我々は彼女を人の神様と呼ぶことにしたのです。
ふと見ると、エルフたちがうんしょこらしょと白い薔薇を運んでいるのが見えた。
もちろん神様もです。血を挿げる儀式です。姉の血を挿げて生まれた白い薔薇と子どもも必要でしょう。
ひとつだけあった。だが、些細なことなのでリュディは尋ねようとは思わなかった。
人と森のエルフが恋をする。かわいらしくはあるが森のエルフたちに恋をするというのは無理があるな、と思ったのだ。
その疑問もすぐになくなった。
シーヴルの体が光り、膨らみ、伸びる。そしてリュディの前には。
花のように鮮やかな白い肌を持った少女が現れた。
神々しい天使や妖艶な魔族を知るリュディでもその美しさには息を飲んだ。
少女は花の開花を知らせる風のように森を駆けていった。
***
ウィズの言葉を遮るようにドアがノックされた。
瞬時にシーヴルはソファの下に、ウィズは体を丸めて眠る猫そのものとなった。
扉が開き、官吏風の男が入ってくる。
リュディは立ち上がり、ウィズとシーヴルに待っていろと指で示した。
謁見の間へ向かう廊下で、官吏風の男は秘密めいた口調で話し始める。
神殺しのリュディガー。これ以上は無さそうだ。
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