【黒ウィズ】大魔道杯 in 双翼のロストエデン Story
<開催期間>2017年11月22日16:00~11月27日15:59 |
目次
主な登場人物
story1 王侯会議、最大のライバル
「本日は、突然の招集にもかかわらずよく集まってくれた。」
魔界の中立地アルトーパークにあるイニス家邸宅の一室では、魔族たちが大きな卓を囲んでいた。
全て女性だった。
魔人を統率するイニス家のララーナとその娘エレイン。
バルバロッサの女狐ことカナメ・バルバロッサと彼女に付き添うイーディス・キルティ。
魔界の技術革新に尽力し、急速に力をつけてきているペルゴン家からはアリーサ・ベルゴン。
魔界最古の家系で、武断派の先鋒ジルヴァ家のレノックス・ジルヴァ。
こちらも最古の家系であり、爵位を持たず、魔界を自在に縦横するヤガダ家からは当主の名代としてミィア・ヤガダ。
魔界の双璧ゴドー家からは、天使のルシエラ。
「メルフェゴール家を含むいくつかの貴族の代表は残念ながら今回は欠席だ。
サキュバスたちの代表であるフレデリカも今回は来られないそうだ。」
そして、取りまとめるのは、魔王エストラ・ディミールである。
「集まってもらったのは、他でもない。」
自らの隣に座る魔族でも天使でもない人間に、ちらりと目をやる。
少女は小さく頷くように、エストラの言葉に応じる。
彼女はリザ・ロットレンダー。
魔王アルドベリクに育てられ、彼にもっとも愛される少女である。
「これまでゴドー家との交渉において、力を尽くしてくれたリザの……。
お別れ会をする!!」
鳥の鳴き声のように美しい歓声が、手を打つ音とともに上がった。
彼女たちこそ、魔界の最高意思を決める『王侯会議』にすら、一歩も退くことなく交渉し、要求する唯一の集団。
全魔界女性協会である。
貴族の当主には男性が多い。それゆえ、魔界の決定に女性的な思考が欠如することがしばしばあった。
そこで、あらゆる決定に潜在する男性上位的な思考を指摘し、是正することを使命として全魔界女性協会が結成された。
全魔界女性協会とリザ・ロットレンダーの関係は深い。
王侯会議がマスコットキャラクターである『まかたん』を発表した時、グッズ制作などは全て王侯会議への報告を義務付けた。
そこで全魔界女性協会は、全ての権利を管理しようとする姿勢が前時代的で、いかにも男性的であると指摘し、これを是正するように求めた。
権利を主張する王侯会議と自由なキャラクターグッズ制作を求める全魔界女性協会。
戦いはお互い一歩も譲らないものであった。
それに終止符を打ったのは、当時からアルドベリクの庇護下にあったリザ・ロットレンダーの言葉であった。
「まかたん、いっぱいがいい。」
それにより、まかたんのグッズ制作やイベントでの使用は王侯会議への最低限の報告のみで、自由に行われるようになったのである。
そうした自由な環境は、結果的に全魔界において空前のまかたんブームを生む要因にもなった。
そして、この事件を機に、全魔界女性協会の存在も大きく取りざたされることとなった。
全魔界女性協会の黎明期において、リザ・ロットレンダーの存在は欠かすことが出来ないものであった。
「みんな、ありがとう。私のためにわざわざ集まってくれて。
「気にすることはない。みんな、リザのためならこれくらいの労を惜しむことはないさ。
「そうですね。リザのおかげで、これまで王侯会議との交渉がスムーズに進んでいたんですから。
「こう言っちゃ悪いけど、リザはゴドー卿の泣き所だからね。
A「そうなるといなくなるのは不安が残るな。もちろん寂しいし……。
「ちょっと、みんな! 暗くならないでよ。大丈夫よ、ルシエラだっているし。
アルドベリクの泣き所はちゃんと押さえてあるわよ。
ええ、そこは任せて下さい。今はリザのために明るく楽しく過ごすのが一番ですよ。
L「はいはい。皆さん、湿っぽい感情は魔界のケルベロスでも食べませんよ。」
年長者らしい落ち着きを与える声で一同の気を引くララーナ。今度は二度ほど手を叩く。
すると、イニス家の使用人たちがワゴンを押して、部屋に入って来る。
ワゴンの上には魔界の銘菓がずらりと並んでいる。甘い匂いに魔界の女性たちはため息混じりの声を漏らした。
M「すごーい、おいしそー!」
全魔界女性協会とスイーツも、切っても切れない関係である。
E「今回もドラク卿から提供して頂きました。」
「あの方にはいつもお世話になってしまいますね。
「気にすることはないですよ。
あの方はあの方で打算があって、私たちにこうして施して下さっているんですよ。」
「それに見合うことは充分返しているはずだ。」
「あの方はダークサンブラッドやサタンズリングなどで、女性たちを虜にしていると思っているようですが……。」
アリーサがその言葉を継いだ。
A「私たちが協会の会員に働きかければどうなるか。」
にやりと笑う姿は、もはや少女以上の何かである。
I「お得意の経済というものの虜になっているのは、あの方の方かもしれないわね。」
「まあまあ。魔界らしく私たちはせいぜい利用させてもらいましょうよ。
「ルシエラの言う通りだ。相変わらず天使にしておくにはもったいないな、お前は。
「種族がなんであるかは関係ありませんよ。それ以前に私たちは女です。いつだって私たちが世界の中心です。
「ええ。いまや王侯会議も私たちの存在を無視できませんからね。
「でも厄介なのはイザークよね。
「「アレな……。」」
「あの朴念仁だけはなんともならんな。同じ朴念仁でもクィントゥスのようだったら楽なんだがな。
「クィントゥスさんくらい単純なら楽ですよねー。」
「まあ、あの方は丸太に手足が生えているのと変わりませんから。」
I「もしかしたら、それ。丸太に失礼かもしれないわね。」
「「「「うふふふふふふ。」」」」
「あの、ここに実妹がいるんですが……。」
全魔界女性協会。
広い魔界の中でも比肩できるもののない、恐るべき組織である。
story2 鳳凰倶楽部
「リュディ君、君とこうして会うのも最後かもしれないね。
「クルス、色々とありがとう。
「気にしないでほしい。僕も君には感謝しているんだから。
背の高い黒い影が、そっとふたりの背後に現れる。
「どうやら、揃ったようですね。
「うん。
「我ら、魔界のお料理研究会〈鳳凰倶楽部〉が!
そして試食係はいつものようにリザさん、ルシエラさん。
「「どうもー。」」
「死界から来たというヴェレフキナさん、シミラルさん。それにニンゲンさん。」
「「よろしくお願いしますー。」」
「そして、ゴドー卿とクイントゥスさんです。」
「うむ。」
「任せろ!」
「初めて参加する人に説明すると、この〈鳳凰倶楽部〉はクルスを発起人として発足した料理研究会なんだよ。
こうして新作料理を作っては、みんなに食べてもらい、評価を聞くんだ。」
シ「料理研究会のわりには男しかいないんだな。」
「おや? それがおかしいですか?」
V「おかしいとは思わんけど、ひとりもいないのは意外やね。」
「料理は女性の特権ではありませんよ。
料理というのは、毒がなく食べていいものを見分けたり、毒があってもそれを適正に処理する技能。
言わば生きるための知識のひとつ。生活力ですその技術を女性だけが持っていなければいけないという道理はありません。」
「そうにゃ。食べていいものや食べて良くないものを知ることは冒険者にとって初歩の初歩にゃ。
「昨今は、食品の生産や流通が発達したせいで、知識がなくても、安全に食事が出来てしまうんです。
それゆえ、料理本来の生存のための知識であり、技術であることがないがしろにされつつあります。」
「俺たち〈鳳凰倶楽部〉はただおいしく食べるだけではなく、元々料理が持つ意味も大切にしていく研究会なんだ。
「さて僕たちの説明が終わったところで……今回の食材を紹介しましょう。これです……。
毎度おなじみダークサンブラッドです!」
「食材って、ダークサンブラッドはもうそれ自体が料理として完成しているじゃない。」
「その通りです、リザ様。ですがこんな経験がありませんか?
もらい過ぎてしまったダークサンブラッドの処理に困ったということが……。
「ダークサンブラッドはたしかに美味しいけど、たくさんもらった時に、どうしても味に飽きてしまうことがある。」
そういった時のための、一工夫したレシピを俺たちは考えたんだ。
「では早速、私から……。ダークサンブラッドのホットサンドです。
出されたのは、両面にこんがりと焼き色が加えられたサンドイッチだった。
君は恐る恐る齧った。すぐに「なるほど」という電流が君の全身に走る。
「ホイップクリームが入ってる……。しかもダークサンブラッドの血色の豆と意外なほどよく合う。
「それに、外はカリカリで中はモチモチ……。こんな食感初めてです。」
「これは新しいな……。」
続いて、君たちの前に並べられたのは、きつね色のフライ料理のようなものだった。
「僕の料理。それは!フライドダークサンブラッドです!
これはライスで外側が包まれた形状のダークサンブラッド限定の料理ですが、レシピは簡単。油で揚げるだけ。」
V「これも……カリカリでもちもちやな。」
S「だけじゃない。余分な油をちゃんと切っているからしつこくない。」
V「単純やけど、これほど見事にダークサンブラッドが生まれ変わる方法もないな。
まさかダークサンブラッドも、自分にこんな来世があるとは思わんかったやろうな。」
「あなたとは話が合いそうだ。ヴェレフキナさん。」
V「ボクもなんとなくそう思ってたところや……。」
「さて、御膳立ては終わりです、リュディ君。これが〈鳳凰倶楽部〉での君の最後の料理です。
「是非、私たちを驚かせてください。」
「うん。任せて。」
リュディがひとつひとつ君たちの前に、彼なりのダークサンブラッドの皿を置いていく。
「これが、俺の料理だよ。」
その料理を見て、君たちは驚いた。
ただのダークサンブラッドだった。
「リュディ、これって……。」
「いいから……食べてみてよ。」
戸惑う君たちにリュディは言い切った。その眼には自信に燃える火があった。
彼は感情を大きく表すことはなく、その炎を内側で燃やす男である。
君はリュディの順を見つめ返し、ダークサンブラッドを口に運んだ。
「お、おいしい……。」
「でもこれは……。」
「ああ、これは……。」
君の舌の上で一瞬塩辛さが走る。
だがその後にすぐダークサンブラッド特有の甘味が塩味を追い越していく。
ふたつの異なる味覚の疾走が、幸福な軌跡を描きながら君の全細胞に駆け巡る。
同時に君は自分の中に、恐れにも似た感情が芽生えつつあることに気づいた。
V「やるやん……。まさか塩をふっただけとは……これはボクも目から鱗やわ。」
ヴェレフキナも君と同じ気持ちのようだった。それは料理をする側にも、伝播している。
「僕も出来る限りシンプルにしたつもりだが、リュディ君には負けたよ。
「どうやらリュディ様は私のはるか上を越えて行ったようですね。
V「これは、ダークサンブラッドが転生したんやない。この料理はダークサンブラッドの生をさらに大きく飛翔させる料理や。
ダークサンブラッドでありながら、ダークサンブラッドではない。でもダークサンブラッドや。
ダークサンブラッドが殺されたわけでも、生き返ったわけでもない。そういう料理や。
「これはリュディにしかない発想かもしれないな。戦いや争いを好まないお前らしい考え方だ。」
「リュディ君、ありがとう。最後に君らしい料理を見せてもらった。
さっそく新商品として開発させてもらうよ。権利とか大丈夫だよね。」
君はダークサンブラッドを眺めながら、料理というものが、これだけその人そのものを表現することが出来ることに感心していた。
「なかなか面白い会だったにゃ。」
「なんだこれ? しよっぺえ! リュディ、これ砂糖と塩間違ったんじゃねえか?」
どう受け取るかは人次第ではあるが……。
と君は思った。
story3 けんかふぇす開催
「う……ん、う……。
チ、チミチャンガ!」
飛び上がらんぱかりに、ソファから体を起こしたリザを見て、リュディは読んでいた本にしおりを挟んだ。
「どうしたの?」
リザは答える前に自分の目頭を押さえる。
「なんかちょっと変な夢を見たの。」
「そう。大丈夫?」
「うん。平気。」
リザは見た夢を反●しているのか、まだ少しぼんやりとしていた。
一度閉じた本を開きなら、リュディはその様子を窺う。
彼は、ふと気になっていたことを訊ねてみることにした。
夢うつつの彼女の気を逸らすことにもなるだろうと思ったから、というのもある。
「リザ。」
「ん?」
宙を漂っていたリザの視線が、一点――リュディの方――へ向けられる。
「チミチャンガって何?」
「……チミ? チミ何?リュディ、いまなんて言ったの?」
「リザが言ったんだよ。目を覚ます直前に。」
「何て?」
「チミチャンガって。」
「チミチャンガ……。」
言葉を何度か咀喝し、不意に頬を引き締めると、リザはひときわ真面目な顔をした。
「チミチャンガって何?」
「知らないよ。君が言ったんだよ。」
「本当に全然記憶がない。」
「魔族の名前かしら? チミチャンガ。居そうじゃない? 」
リザの正体がはっきりしたのを見届け、リュディは再び本に目を落とす。
「ああ……居そうだね。こう、背中が丸まったお爺さんで、でも実は、昔は魔王だったみたいな。」
「あらそう? 私は半分怪物みたいな身なりの魔族を想像した。蝿の頭とかで、すごくひょうきんな性格なの。」
「ああ……語尾にチミとかつける感じ? チーミチミチミッ! って感じで。」
「残念。私はチャンガチャンガ派。ここで殺してやるチャンガー! みたいな。」
「あー、そっちか。なるほど、そっちか。うーん……。で。」
リュディは新たなページをめくる。こすれる音が、ふたりだけの空間にほんの少しだけ白いぺージを挟んだ。
「結局、チミチャンガって何?」
「知らない。」
会話はそこで終わる。リュディは本を読み進め、リザはソファのズローヴァちゃんクッションを抱える。
リザが思い出したように呟くまで、この息苦しさのない沈黙は続いた。
「変な夢を見たからそこに出てきた何かかも。」
「変な夢って?」
「毒の魚を食べさせられた。大丈夫だって押し切られて。」
「その夢の中で、リザは死んだのかい? 毒の魚で。」
「ううん。死なない。魚も美味しいの。」
「……。変な夢だね、それ。
もしかして、その魚がチミチャンガだったりするんじゃないの?」
「あ! そうかもしれない……。」
廊下を走る音が近づいて来る。
粗雑で粗暴で、それでいて聞きなれている足音である。
「おい! リザ、リュディ! 準備が出来たぜ!」
「準備? 一体何の準備?」
「まあ、いいから来てみろって!」
「わかった、行くよ。あ、そうだクィントゥス。
チミチャンガって知ってる?」
「知ってるぜ! チミチャンガなら、一昨日ぶっ飛ばした!」
(やっぱり魔族なのかな……?)
外に出てみると、そこには何やら催し物の会場が設営されていた。
「はいはーい。大会の参加者はこちらで申し込みを行って下さいねー!」
「クィントゥス。これはなんの催し?」
「決まってるじゃねえか! リザ、リュディ、お前たちへの賤別代わりにけんか祭りを開催するんだよ。」
「決まっているってことはないんじゃない?」
「いやいや、旅立つ者と戦うのは魔界の常識ですよ。」
「クルス? そんな常識初めて聞いたけど。」
「ま、いま考えましたからね。ちなみに僕は参加しませんよ。いろいろ忙しいので。」
「それは伝わる。」
「にゃにゃ? 外が騒がしいと思ったらお祭りにゃ。」
そうだね、と君はウィズに相槌を打つ。
「お、魔法使い。お前も参加するだろ!」
なんだかよくわからないけど、誘ってもらったものを無下に断ることは出来ない。
君は参加を表明する。
「クィントゥス、面白そうなことをやっているな。」
「騒がしいことだけは大得意ですね、クィントゥスさんは。」
「へへ。ぞろぞろと集まって来やがったな。
よーし! それじゃあそろそろ祭りを始めっぞ!」
不意に君はリザと目があった。
彼女も同じことに気づいたようで、優しげな視線を投げかける。
ねえ、魔法使い。
なんだろうと君は思う。
チミチャンガって知ってる?
よくわからない質問をされた。
大魔道杯 終了
どうだった? アルドベリク。
なかなかよかったぞ。
私だって頑張ったでしょ?
ああ。
それじゃあ、みんなで結果を見に行きましょうか。
さすが魔界にゃ。みんな気性が荒いにゃ。
でもその分楽しめたよ、と君はウィズに返す。
リュディやリザと一緒で、キミもちょっと魔界に慣れ過ぎてるにゃ。
そうかもしれない。と答え、君は先を行くみんなの後を追った。
君はこの期間中、少し気になっていたことを師匠に尋ねた。
忙しなさから、聞く暇がなかったのだった。
チミチャンガって知ってる? と。
魔物の名前じゃないかにゃ?
どうやらウィズも知らないようだった。
2017年11月24日
双翼のロストエデン | |
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