【黒ウィズ】アルドベリク(ゴールデンアワード2017)Story
2017/08/31 |
目次
story1
「ようこそ、アルトーパークヘ。ゴドー卿がここへいらっしゃるのは久しぶりになりますな。」
「そうだな。無沙汰になってしまってすまない。その分、今回の滞在では羽を伸ばすことにする。
これはつまらない物だが受け取ってくれ。」
と、アルドベリクは持ってきていた剣を渡した。
「ありがとうございます。これはゴドー卿のコレクションですかな? 大事にさせていただきます。」
アンリはアルドベリクの羽の向こうを覗き見る。
「……お会いしないうちにご家族が増えましたな。」
「いや、家族というわけではないんだ……。」
アルドベリクの後ろに控えていたのは、白い羽を持つ天使とふたりのこどもたちである。
物珍しさも手伝ってか、こどもたちは少し興奮気味であった。
リザ | リュディ | ルシエラ |
「さ、リザ、リュディ。今日からここにしばらく滞在するんですよ。」
「ねえ、ルシエラ、さっきお庭にマパパがいたー。」
「僕らと同い年くらいの女の子もいたよ、麦わら帽子被ってた。」
「あら、リュディって意外と目ざといのね。」
「ど、どういう意味だよ……。」
「はい、はい、そんな喧嘩はマパパも食べませんよ。さ、お世話になるアンリさんに挨拶しなさい。」
ルシエラは館の主人であるアンリに微笑む。
「どうも、初めまして、ルシエラです。よろしくお願いしますね。」
「天使のお嬢さん、こちらこそよろしくお願いします。おチビさんたちも、楽しむんだよ。
まさか、この館にふたりも天使の女性が滞在することになるとは。あとでご紹介いたします。」
「ええ。私以外にも天使の子がいるんですか? ぜひ、挨拶させて下さい。」
「はい。たしか交換留学生(捕虜)だとか。」
その会話に割って入るように、アルドベリクが尋ねる。
それはこのアルトーパークに来た本来の目的でもあった。
「別の元天使はもう到着しているか?」
「まだでございます。ご到着されているのは、ドラク卿とバルバロッサのご令嬢のみです。」
「そう。それなら待つとしよう。」
それは、アルトーパークに長期滞在し、彼らの重要案件の決定を集中的に行うという目論見であった。
ふと、アルドベリクは上階へ向けて伸びる階段の湾曲に目をやった。
そこに見えるは、イニス家が誇る女性ふたり、アンリの妻ララーナと娘エレインである。
ふたりはゆっくりとアルドベリクの方へ歩いて来る。
ララーナ | エレイン |
「ごきげんよう、ゴドー卿。」
「こちらこそ、侯爵夫人。」
「ごきげんよう、ゴドー卿。」
堂に入った母の態度とは違い、エレインの振る舞いはまだ開いたばかりの花のよう。
挨拶の仕方も、蕾の面影が残っていた。
「エレインか。前にあった時はまだ小さかったな。」
「ええ。よく遊んで頂いたのを覚えています。」
「ゴドー卿。娘は貴方が来ると知って、朝から時間をかけてめかし込んでいましたわ。」
「まあ、お母さま! それは言わない約束では?」
「ふふふ。裏切りは魔界の流儀ですよ。ゴドー卿、お世辞でも結構ですから、娘を少しほめてやってください。
それだけで、娘は大喜びするはずですから。」
「え。」
そう言われて、アルドベリクはエレインを見た。
少女はこの家のしきたりを守り、その顔には鉄の仮面を被っている。
めかし込んだと言われても、何か何だかわからない。アルドベリクはそう思った。
この場合、沈黙は時間と共に別の意味を帯びてくる。
何か言わなければいけない、とアルドベリクは焦った。
「その……いい、装飾だな。その……仮面の上の彫金など、なかなか出来るものではない。」
「…………」
妙な沈黙がアルドベリクの背筋を寒くさせる。何か間違えたのだろうか、と。
「まさか、そんなところを褒められるなんて……。」
「……。」
後悔が、押し寄せてくる。
「嬉しいです。ここはわたくしが直接職人に指示して彫らせたものなんですよ。」
「そうか……そうだと思った。エレインらしさが出ていると思ったんだ。」
どうやら間違いではなかったようだった。
「そうですね。それに、そのドレスも素敵です。あ、ジュエリーもドレスにとても合ってますね。
自然とエレインのことを誉めたてるルシエラを見て、アルドベリクは密かに『こいつすごいな』と思った。
というか、ドレスを褒めればよかったのか、今更ながら気づき、ほぞを噛む思いであった。
「ありがとうございます。おや? 貴方、どなた?」
不思議そうに首を傾げるエレインに、アルドベリクは同行者を紹介する。
「紹介する。居候のルシエラ。それから小さいふたりはリザとリュディだ。色々あって面倒を見ている。」
「よろしくお願いしまーす。ほら、ふたりも。」
「「よろしくお願いしまーす!」」
エレインは硬直したように黙っていた。
しばらくして、小さく笑い声をあげた。
「うふふ。……そんなバカな。」
それきり、エレインは父親の後ろで項垂れていた。
どことなく落ち込んでいた気もしたが、仮面を被っているのでよくわからなかった。
プラーナに案内され、アルドベリクたちがサロンに向かおうとすると。
イザークが到着し、アンリと挨拶を交わしていた。
すると堰を切ったように続々と魔王たちが到着する。
これは夫人とエレインに渡してくれ。我が領土のヒキツリジカの香嚢を使い作った香水だ。」
最後にクィントゥスがやってくる。
やり方は任せるが、うめえ料理を喰わせてくれよ。」
アルドベリクの傍らに、クルス・ドラクとカナメ・バルバロッサが現れる。
アルドベリクは居並ぶ魔王たちを無言で見つめる。
story2
イザーク、アルドベリクを含む、魔界の中枢に座る者がこのアルトーパークに集まったのには訳がある
彼らには、これからの王侯会議の行方を左右するほどの決定を下す。という重大な仕事があった。
そのため、特別に魔王以外の者も参加してもらうことにした。
だが、決定するのはあくまで我々、王侯会議である。そのことは、認識しておいてほしい。」
王侯会議の参加者たちが黙って頷いた。それを契機にして、クルスが立ち上がる。
ひとり目は、アリーサ・ベルゴン。由緒正しきベルゴン家の令嬢です。」
彼女はワクワク魔界フェスティバルの名付け親と言えば、不足はないでしょう。」
わたくしはただ、王侯会議の崇高な計画に相応しい名を、偶然見つけ出すことが出来たに過ぎません。
成功は、すでに計画段階から決定していたと考えます。」
その畏まった口調を聞き、エストラがはたと思い至る。
イーディスはきびきびとした動きで自分の席に戻る。
「「「はーい。」」」
よその世界から来た黒猫を連れたニンゲンです。」
紹介にあわせて、ニンゲンはよろしくお願いしますと言った。
目の前のニンゲンが、いつぞやの魔法使いだとアルドベリクは気づく。
イニス家のしきたりに合わせたのか、仮面をつけていた。それだけでなく、なぜか足かせまでつけている。
ニンゲンは、わかって頂けて幸いです、と答えて、再び着席した。
事前に済ますべきことが終わり、本格的に会議が始まろうとしていた。
アルドベリクが厳かに切り出す。
現在、我々は一部貴族から閉鎖的であることや、決定の密室性を糾弾されている状態だ。
それは、この王侯会議というものを組織した経緯、つまり「開かれた意思決定」という理念からはかけ離れている。
我々はいま一度、王侯会議と支配下の魔族たちとの関係性を見つめる時が来ているのではないか。
そこで、王侯会議のイメージアップを企図し、キャッチコピーとマスコットキャラクターを決定する。」
アルドベリクに続いて、アンリが声を上げる。
その件について、皆さまの決定を賜りたいと存じます。状況、経緯などはお伝えしている通りです。
決めて頂きたいのは、殺ギブンを犯したギブンの処遇です。」
言われて、カナメは資料を片手に立ち上がる。
一拍の間をおいて、カナメは慎重かつはっきりとした口調で、一案目を読み上げた。
一同は黙っている。
アルドベリクはイーディスを見やる。
王侯会議はさらに続く。
story
会議は暗礁に乗り上げていた。なかなか「これだ」と思える案が出なかった。
その案を聞いて、一同が示し合わせたように、宙を見上げた。
しかし、最善のものではなかった。それは誰もが理解していた。
そんな時、傍聴者の中から手が上がる。
少女は、座っていた椅子から飛び降りて、ちょこんと魔王たちの前に立つ。
すうっとひとつ息を吸うと、自信たっぷりに言った。
子どもの多感さは、うわべの笑顔や声色の奥の奥を鋭く感じ取る。
リザの表情は一気に曇った。
あやすように、ルシエラがリザの肩を抱いた。
アルさんはリザより王侯会議のことの方が大事なんだから。」
少女は寂しそうにそう呟く。
その場が静けさに支配されつつある分、その言葉が魔王たちの耳に鮮明に残った。
「「「異議なし。」」」
次にマスコットキャラクターについてだが、すでに配っている候補に目を通して欲しい。
現状では勇ましさや強さを表現する意図もあり、竜あるいは狼と言った獣をモチーフとしたキャラクターを考えている。
それについて異議はあるか?俺は竜がいいと思う。他に候補があれば聞こう。」
ざっと魔王たちを見渡したが、手を挙げる者はなかった。
と、アルドベリクの眼に、か細く白い手が挙がるのが見えた。
言い終わる前に、アルドベリクは気づく。少女の眼が潤み、いまにもそこから涙がこぼれそうなことを。
リザの意見なんてちーっとも聞いてないんだから、諦めましょ。」
ルシエラの腕に包まれながら、少女は寂しそうに呟いた。その言葉は儚く消え入りそうだった。
「「「異議なし。」」」
魔王ドゥ・ゲイザあたりが妥当だと思うが?」
「「「異議なし。」」」
アルドベリクは、ひとつ咳払いして、一同に向けて言った。
では、今回の王侯会議では、キャッチコピーとマスコットキャラクターの動物と名前が決まった。
魔王たちは自らの手を打って、答える。その場は満場一致の拍手が響き渡っていた。
各々、どうすれば魔族たちの心を掴めるか。今日一晩じっくり考え、明日の会議に参加してほしい。」
会議が閉会を迎える直前、クルスが思い出すように言った。
「「「異議なし。」」」
そして、新たに『ほのぼの王侯会議』として出発を迎えることとなった魔王たちの会議は閉会を迎えた。
続・魔王たちの日常
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