【黒ウィズ】ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜 Story3
ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜 |
開催日:2019/01/21 |
目次
story4 北風のエルフと炎の鳥
翌日、朝早くから山を登り始めた一行は、午前中に目的の修道院に到着することが出来た。
人が住まなくなって長い時間が経ったことは、屋内の隅々にかかった蜘蛛の巣ですぐにわかった。
寂しいところだねえ。この土地のエルフについて、書かれた物があるといいんだけどねえ。
となりに立つグレイスが、ヒクヒクと鼻を鳴らす。
あ。本の匂いがする。どこだろ? この奥かなあ……。
グレイスの前世は犬か何かかい?
グレイスの鼻を信じて、3人は修道院の中をうろつきまわった。導かれた一室にはかなりの数の蔵書があった。
薬草の本、教義の本、家畜の病気を治す本、お尻の痒みを取る本。
様々あったが、エルフについて書かれた本はなかった。ただ、ひとつだけ、他とは違う文字で書かれた本があった。
これは古代のエルフの文字だね。ふむふむ。ほうほう。なるほど、なるほど。
読めるの?
読めないねえ。
おい、神。
難解な文字列を前にして、神様も目をグルグル回して、 「にょほほ」と笑っているだけだった。
この世界は、想いが力を持つ世界なんだよ。みんな私にエルフの文字は読めないって思っているんだろうね。
ま、そもそもエルフの時代が終わった頃に、私はおぎゃあと生まれたわけだから、当然なんだけどね。
そんな中、グレイスは不可解な文字の並びをまんじりと見つめていた。
始まりの者、求めるは命の形。亡骸ではなく、頭……。
あれ、グレイスは読めるの?
同じ文字で書かれた本をおばあちゃんも持っていたの。だから何となく読めるよ。
神、超えてもらっちゃ困るっしょー。
壁が低すぎるのよ。……ともかく、グレイスはなんて書いてあるのか解読して。
グレイスはしばらく無言のまま読み進め、顔を上げた。
複雑な韻文だから、要約するね。まず、昔この村ではエルフと共存するために、人身御供をしていたみたい。
その、人の頭とか……頭の皮を剥いで、捧げていたみたいだよ。ここから西にある祠に。
ひゃー! 頭の皮剥がれたら、死んじゃうねえ……。
そんなことないわよ。頭の皮を剥いでも、七日くらいは死なないわよ、人間って。
やったんだね……。
やってないわよ! 学校で習っただけ。
どんな学校なのかねえ。
グレイスがさらにわかったことをふたりに伝えた。
おそらく、そのお供えの文化が途絶えちゃったから、エルフが活発になったのかも。
じゃあ、供えるかい? 頭。
出来るか。
とリザがカヌエの頭に手刀を叩き込んだところで、エルフの本からー枚の紙が滑り落ちた。
拾い上げたグレイスがぽつりと驚きの声を漏らした。
あ、これリュディガーさんの字だ。
うそ? あ、ホントだ。『これからは炎の鳥の頭を捧げるようにしてください』
炎の鳥? カヌエ様が連れている鳥とかかな?
これの頭供えるのかい? そもそも首がないから、頭がわからないねえ。
全部供えればいいんじゃ……。
あんた、行っとくかい?
ふたりが悶える鳥を抑えようとしていると、リザがぽつりと独り言を漏らす。
なるほど………そういうことか。だからターメリックを栽培していたのか。
つとリザがカヌエたちに向き直る。
大丈夫。鳥の頭は私が用意する。グレイスは念のためエルフの本の解読を進めて。
私は何をすればいいんだい?
囮になって、エルフを祠までおびき寄せてきて。
私だけ危険過ぎないかい……?
story
ほー、ほー、ほー。ほー、ほー、ほー。ほー、ほー、ほー。
雪原にひとり立ち、カヌエは声を上げていた。
ほーほほほ。ほーほほほ。ほーほほほ。
ほーーー ほーーーー ほーーーー……。
何をしているのよ。
見てわからないかい?
わからないから聞いてるんだけど。手伝いに来てあげたのに、なに遊んでるのよ。
遊んでません。私はエルフを呼んでいます。ええ、呼んでいます。
エルフってそんな方法で来るんだ……。
来るわけないじゃない。
わからないよー。世の中、いろいろやってみないとわからないことが多いからねえ。
ほれ、そこの娘さんたち、いっちょ、一緒にやってみー。ほーほほほ。ほーほほほ。
ほーほほほ。ほーほほほ。ほーほほほ。
グレイス、やらなくていいわよ。
ほーほほほ。ほーほほほ。ほーほほほ。
ほれ、そこのしかめっ面の娘さんも、ごー緒に。
ほーほほほ。ほーほほほ。ほーほほほ。
やってみると、すごく楽しいよ。
リザは思った。自分もこのレベルに合わせた方がいいのだろうか、と。
たぶん、少し疲れていたのかもしれない。
ほーほほほ。ほーほほほ。ほーほほほ。
来た……!?
エルフの興味を引こうと、その場で2、3度飛び跳ね、カヌエは駆け出した。
ほれ、何してんの。エルフば、祠さ、連れて行くよ。ほーほほほほ。
ぴょこぴょこと白い絨毯の上を進んでいくカヌエの背中を見ながら、リザは思った。
こんなことで、エルフが呼べてしまっていいのだろうか、と。
神様だから、でーじょうぶ、でーじょうぶ。
あと、なんでなまっているんだろう、と。
story
ほーほほほ。ほら、こっちこっちだよ、エルフやー。エルフや、こっちだよー。
カヌエの謎の「ほーほほほ』によって、エルフを祠に誘導することには成功した。
エルフ語の本を片手に、グレイスが指示を出す。
エルフを祭壇の前に連れて行って。そこでお供え物を捧げれば、儀式は成功だよ。
ほーほほほ。ほれ、ほーほほほ。ほれ、こっち来い。
祭壇へ近づくと、リザがカヌエに用意した供え物を渡した。
ほかほかで、アツアツの、蒸篭の蓋をあけると、そこには、黄色いまんじゅうが入っていた。
それをエルフに捧げるのよ!
捧げる時のおまじないとかはないのかい?
グレイスが本に目を落とす。
えーと……特にないね。真心とかでいいんじゃないかな?
「捧……げろ……
ほれ。これ、あったけーから、食べてみ。
神からエルフヘ、あったけーまんじゅうが渡される。
まんじゅうの湯気が奇跡を起こし、怒りの表情で凍り付いたエルフの顔がわずかに綻んだ。
急くように、まんじゅうを頬張り、うわごとのようにつぶやく。
「あったけー……。
その言葉を最後に祭壇の上に置かれた、書物の中にエルフは吸い込まれていく。
白紙の紙上に、エルフは文字となり定着した。
またエルフの文字だ。
これ、リュディの文字かも。癖が似てる。
もしかして、これがおばあちゃんの探している原本かな?
こんな所にあるの? なんか、おかしくない、それって?
話し合うふたりの背中を神様がつんつんする。
ちょっと、ちょっと。これが炎の鳥の頭ってどういうことだい? 神様無視して話進めてもらっちや困るよ。
カヌエは手に持ったまんじゅうを指差し、リザに尋ねる。
ああ、それ? それはね、〈鳳凰の頭〉っていうの。
***
「カロリーオフか……。」
「カロリーオフですか……。」
「どうしたの、ムールス?」
「ああ、リュディ様。クルス様に相談を受けているんですよ。」
「いま、カロリーが高いということで敬遠されているフェニックス・ブラッドの問題を解消しようと思っているんだよ。」
「生地が油を吸いやすいのでしょうね。生地を薄くするというのはどうですか?」
「薄くする……揚げていることには変わりないので、敬遠されるかもしれませんね。」
「……それなら、蒸したらいいんじゃない?」
「「なるほど!」」
「さっそく、試してみましょう。どうだい、リュディくん、一緒に来るかい?」
「うん!」
「…………。」
***
「ようやく出来た……試行錯誤を繰り返してしまったが、新たな新商品! 〈鳳凰の頭〉だ!」
「油で揚げない代わりに、蒸して、よりソフトな食感を与える。言うは易しだけど、なかなか難しかったね。」
「ですが、我々〈鳳凰倶楽部〉の最初の成果として、胸を張れる出来になりました。」
「さあ、リザさん。括目してご賞味あれ!!」
「なんでもいいけど、時間かかり過ぎじゃない。」
***
という風に、昔、リュディが作った料理に〈鳳凰の頭〉という料理があるの。中にはカレー味のあんが入っているわ。
どうして、このあたりでターメリックやクミンなんかのスパイスが育てられていたのか不思議だったけど………。
たぶん、〈鳳凰の頭〉を作るために、材料を栽培していたんでしょうね。
つまり……リュディガーさんはエルフをこの本に封印したってことなのかな?
さあ? そこまではわからない。でも何かしら関係はしてるでしょうね。
まあまあ、難しいことはそこまでにして。とりあえず、今回の件はー件落着だねえ。
ねえ、リザ、残った〈鳳凰の頭〉、食べてもいい?
カレーまん! 〈鳳凰の頭〉とか仰々しいからやめ! この世界ではカレーまんと呼ぶわよ。
カレーまん……、ひとつしかない。仕方ないねえ、ここは神様が人民の皆さんにゆずってあげようかねえ。
カヌエはカレーまんをぱっくり割って、リザとグレイスに差し出した。
ささ、人民の皆さん、あったけーから、お食べ。
ふたりはカレーまんを受け取る。
ありがとう。美味しそうだね……。
お食べ……お食べ……神様のことはいいから、人民がお食べ……お食べ……
早く食べるっしょ!!
未練がましいわね。私のを半分あげるわよ。
にょほほほ。人民、やさしいねえ。ほわほわで、からー、でもあったけー。うめー。
……でも、もっと食べたいねえ。
グレイスのも半分あげる。
ありがってえっしょー。
結局、あなたがー番食べてない?
うまー、からー、でも、あったけえっしょー……。
story
hそれで、見つかったその本はどういうものなのですか?
サンザールに戻ると、以前までの雪化粧が嘘のようだった。
いまはいつも通りの晴れ渡った空だった。
うん……内容が難しすぎて、グレイスもよくわからないの。わかるのは、この本には続きがあるくらいのこと。
複雑な韻文で、ここに書かれていることをはっきりさせるには、この本の続きを読むしかないと思う。
続きを読むことで、たぶんここに書かれていることも少しはわかると思うんだ。
それなら、続きを集めないといけないねえ。この前、ソラに会った時に、他の地方でもエルフが現れたって聞いたしね。
何か関係しているような気がするねえ。これは神様の出番でないかい? 旅する必要ないかい?
はっきり言うけど、あなた、それほど役に立ってなかったわよ。
リュディのこともわかるかもしれないし、私も行くわ。それにあなたたち、料理ひとつ出来ないでしょ。
なんだかグレイスにとっても、リザにとっても、一歩前進した感じだね。
前進かあ? 前進と言えるのかあ?
腕組み、宙を睨みつけるリザの肩をカヌエが叩く。
一日終わったら、一歩前進っしょ。明日が来たらもう一歩前進っしょ。そしたら、そのうちどこかに辿りつくっしょ。
なんか、あなたの声聞いたら、なんでもよくなるわね。もう一歩前進でいいや。
hところで、リザは御子代理としての役目があるはずでは?
入り口に立ち、一同を見守っていたテタニアが答える。
t御子の役目は全うしてもらわねばならない。だから、役目のある日はちゃんと帰ってきてほしい。
え? けっこう大変じゃない……。
だーいじょうぶ。だーいじょうぶだから。私も日帰り旅行の達人だから、だーいじょうぶ。
うん、きっとだーいじょうぶだよ。
……本当に大丈夫かしら。
エピローグ
「えーっと、〈紅き黄昏〉には、ターメリックと……チリハウダーと、あとは……。」
村の一隅でノートを開き、うわごとを呟くリュディの傍に、一匹の猫がやってくる。
しなやかに背骨を上下させながら歩く姿は、ただの猫とは少し違うようにも思える。
その黒猫はリュディの前にちょこんと座った。
「リュディ、エルフの封印、お疲れ様にゃ。」
「うん、ウィズも手伝ってくれてありがとう。あとは〈鳳凰の頭〉のレシピをみんなに教えたら終わりだよ。」
「私も弟子と旅していたけど、この旅はなかなか、大変にゃ。何より時間がないにゃ。」
「そうだね。戦争が本格化する前に、エルフを保護しないとね。」
ウィズはリュディのノートを覗きこむ。そこにはエルフの文字が並んでいた。
「ところで、最近何を書いているにゃ。時間があったらノートに向かっているにゃ。」
「うん。試してみたいことがあってね。物語を書いているんだ。ちょっとした冒険譚だよ。」
「にゃ? 物語?」
「グレイスっていう女の子が主人公なんだ。」
「どうしてそんなことしているにゃ?」
「それはね……。
いまは内緒だよ。」
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