【黒ウィズ】ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜 Story3
ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜 |
開催日:2019/01/21 |
目次
story4 北風のエルフと炎の鳥
翌日、朝早くから山を登り始めた一行は、午前中に目的の修道院に到着することが出来た。
人が住まなくなって長い時間が経ったことは、屋内の隅々にかかった蜘蛛の巣ですぐにわかった。
となりに立つグレイスが、ヒクヒクと鼻を鳴らす。
グレイスの鼻を信じて、3人は修道院の中をうろつきまわった。導かれた一室にはかなりの数の蔵書があった。
薬草の本、教義の本、家畜の病気を治す本、お尻の痒みを取る本。
様々あったが、エルフについて書かれた本はなかった。ただ、ひとつだけ、他とは違う文字で書かれた本があった。
難解な文字列を前にして、神様も目をグルグル回して、 「にょほほ」と笑っているだけだった。
ま、そもそもエルフの時代が終わった頃に、私はおぎゃあと生まれたわけだから、当然なんだけどね。
そんな中、グレイスは不可解な文字の並びをまんじりと見つめていた。
グレイスはしばらく無言のまま読み進め、顔を上げた。
その、人の頭とか……頭の皮を剥いで、捧げていたみたいだよ。ここから西にある祠に。
グレイスがさらにわかったことをふたりに伝えた。
とリザがカヌエの頭に手刀を叩き込んだところで、エルフの本からー枚の紙が滑り落ちた。
拾い上げたグレイスがぽつりと驚きの声を漏らした。
ふたりが悶える鳥を抑えようとしていると、リザがぽつりと独り言を漏らす。
つとリザがカヌエたちに向き直る。
story
雪原にひとり立ち、カヌエは声を上げていた。
ほーーー ほーーーー ほーーーー……。
ほれ、そこの娘さんたち、いっちょ、一緒にやってみー。ほーほほほ。ほーほほほ。
リザは思った。自分もこのレベルに合わせた方がいいのだろうか、と。
たぶん、少し疲れていたのかもしれない。
エルフの興味を引こうと、その場で2、3度飛び跳ね、カヌエは駆け出した。
ぴょこぴょこと白い絨毯の上を進んでいくカヌエの背中を見ながら、リザは思った。
こんなことで、エルフが呼べてしまっていいのだろうか、と。
あと、なんでなまっているんだろう、と。
story
カヌエの謎の「ほーほほほ』によって、エルフを祠に誘導することには成功した。
エルフ語の本を片手に、グレイスが指示を出す。
祭壇へ近づくと、リザがカヌエに用意した供え物を渡した。
ほかほかで、アツアツの、蒸篭の蓋をあけると、そこには、黄色いまんじゅうが入っていた。
グレイスが本に目を落とす。
「捧……げろ……
神からエルフヘ、あったけーまんじゅうが渡される。
まんじゅうの湯気が奇跡を起こし、怒りの表情で凍り付いたエルフの顔がわずかに綻んだ。
急くように、まんじゅうを頬張り、うわごとのようにつぶやく。
「あったけー……。
その言葉を最後に祭壇の上に置かれた、書物の中にエルフは吸い込まれていく。
白紙の紙上に、エルフは文字となり定着した。
話し合うふたりの背中を神様がつんつんする。
カヌエは手に持ったまんじゅうを指差し、リザに尋ねる。
***
「カロリーオフか……。」
「カロリーオフですか……。」
「どうしたの、ムールス?」
「ああ、リュディ様。クルス様に相談を受けているんですよ。」
「いま、カロリーが高いということで敬遠されているフェニックス・ブラッドの問題を解消しようと思っているんだよ。」
「生地が油を吸いやすいのでしょうね。生地を薄くするというのはどうですか?」
「薄くする……揚げていることには変わりないので、敬遠されるかもしれませんね。」
「……それなら、蒸したらいいんじゃない?」
「「なるほど!」」
「さっそく、試してみましょう。どうだい、リュディくん、一緒に来るかい?」
「うん!」
「…………。」
***
「ようやく出来た……試行錯誤を繰り返してしまったが、新たな新商品! 〈鳳凰の頭〉だ!」
「油で揚げない代わりに、蒸して、よりソフトな食感を与える。言うは易しだけど、なかなか難しかったね。」
「ですが、我々〈鳳凰倶楽部〉の最初の成果として、胸を張れる出来になりました。」
「さあ、リザさん。括目してご賞味あれ!!」
「なんでもいいけど、時間かかり過ぎじゃない。」
***
どうして、このあたりでターメリックやクミンなんかのスパイスが育てられていたのか不思議だったけど………。
たぶん、〈鳳凰の頭〉を作るために、材料を栽培していたんでしょうね。
カヌエはカレーまんをぱっくり割って、リザとグレイスに差し出した。
ふたりはカレーまんを受け取る。
早く食べるっしょ!!
……でも、もっと食べたいねえ。
story
hそれで、見つかったその本はどういうものなのですか?
サンザールに戻ると、以前までの雪化粧が嘘のようだった。
いまはいつも通りの晴れ渡った空だった。
複雑な韻文で、ここに書かれていることをはっきりさせるには、この本の続きを読むしかないと思う。
続きを読むことで、たぶんここに書かれていることも少しはわかると思うんだ。
何か関係しているような気がするねえ。これは神様の出番でないかい? 旅する必要ないかい?
リュディのこともわかるかもしれないし、私も行くわ。それにあなたたち、料理ひとつ出来ないでしょ。
腕組み、宙を睨みつけるリザの肩をカヌエが叩く。
hところで、リザは御子代理としての役目があるはずでは?
入り口に立ち、一同を見守っていたテタニアが答える。
t御子の役目は全うしてもらわねばならない。だから、役目のある日はちゃんと帰ってきてほしい。
エピローグ
「えーっと、〈紅き黄昏〉には、ターメリックと……チリハウダーと、あとは……。」
村の一隅でノートを開き、うわごとを呟くリュディの傍に、一匹の猫がやってくる。
しなやかに背骨を上下させながら歩く姿は、ただの猫とは少し違うようにも思える。
その黒猫はリュディの前にちょこんと座った。
「リュディ、エルフの封印、お疲れ様にゃ。」
「うん、ウィズも手伝ってくれてありがとう。あとは〈鳳凰の頭〉のレシピをみんなに教えたら終わりだよ。」
「私も弟子と旅していたけど、この旅はなかなか、大変にゃ。何より時間がないにゃ。」
「そうだね。戦争が本格化する前に、エルフを保護しないとね。」
ウィズはリュディのノートを覗きこむ。そこにはエルフの文字が並んでいた。
「ところで、最近何を書いているにゃ。時間があったらノートに向かっているにゃ。」
「うん。試してみたいことがあってね。物語を書いているんだ。ちょっとした冒険譚だよ。」
「にゃ? 物語?」
「グレイスっていう女の子が主人公なんだ。」
「どうしてそんなことしているにゃ?」
「それはね……。
いまは内緒だよ。」
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