【黒ウィズ】ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜 Story2
ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜 |
開催日:2019/01/21 |
目次
story3 生きる術とカレー
峰から峰へと続く線。山の尾根。
〈モンテ・ペロッタ〉はサンザールから船に揺られて、1日ほどで到着した。
その稜線(りょうせん)は雪で白く覆われて、偉大な美しさをたたえていた。
うわ……寒そう。
いつもより雪が多めだねえ。やっぱり「北風のエルフ」の仕業かもねえ。
ところで、エルフってどうしていなくなったの? 何かきっかけがあったの?
この世界に人が増え始めた頃、エルフたちは住処を追われ、森や山や海にひっそり暮らすようになったんだよ。
でもね~、それをあまり良く思わないエルフもいてね。 300年近く前に起こった人同士の戦争に加わったそうだね。
その時に、数がすごく減って、それからはトンと見なくなったらしいよ。
へえ。それはいいけど、あなた、人に聞いたみたいな話し方ね。
私の生まれる前の話だからねえ。
え? あなた、けっこう若いのね。
人よりは長生きのつもりだけどねえ……。
あ、そうか。知り合いにそれよりもっと長生きの人がたくさんいたから、感覚が麻輝してた。
でも、300年前って言ったら、リュディガーさんが生きていた頃の話だよ。持っている本にもエルフは登場する。ほら。
と、持ち歩いている携帯書庫から一冊の本を取り出してみせた。
シヴェ、シヴァ、シ、シ……シヴィ? 「シヴィアタンの薔薇」。あー、言えた。難しい発音だね
その本はエルフに伝わる説話を集めた本なの。当時の資料としてもかなり貴重だよ。
リュディガーさんが生きている頃に何をしていたのか、詳しくはわかってないけど、いまはエルフの専門家としても有名なの。
あと、魔族。
魔族の専門家? 専門家なのか? それはともかく……。
他愛もない会話を打ち切るように、リザは目つきに鋭さを加えた。
グレイス、リュディが死んでいるような言い方はやめて。悪いけど。その……たぶん死んでいるんだろうけど、やめて。
グレイスの胸に冷たい風が通り抜け、自分の過ちに気づいた。
ごめん。そうだね……。リザはリュディガーさんを探してるんだね。会いたいんだよね。
気まずい時間を、神様ののん気な笑い声が吹き飛ばす。
にょほほほ。大丈夫大丈夫。たいていのことは何とかなるもんだから。では、6合目にある村へと向かいますかねえ。
旅先での交流というのも、旅の楽しみのひとつだからね。交流、交流。交流しますよ。
リザもグレイスも仕方ないな、とばかりに、ぴょんぴょんと飛び石を踏むように先を進む神様についていく。
どうして何の根拠もなく、大丈夫、大丈夫言えるのかしら。
でも、カヌエ様の大丈夫を聞いてると、本当に大丈夫に思えちゃうね。
いいことか悪いことかで言えば、むしろ悪いことのような気がするけどね。誤魔化されている気がする。
story
昼を過ぎた頃に、カヌエたちは山腹の村に到着した。
小さな村だったが、その景色は穏やかな昼下がりそのものであった。
『北風のエルフ』が何か悪さをしているようには思えなかった。
お、あそこに村人がいらっしゃるね。ちょっとお話を聞いてみようかね。
言うや否や、カヌエはずんずんと年かさの女性に近づいていき、ぺこりと頭を下げた。
どうも、どうも、こんにちは、お母さん。今日は何をしてらっしゃるんですか?
「焚き木、集めてる。今日はー段と冷えるからな。
あらまあ、大変ですねえ。体冷やしちや大変だあ。それにしても、ここは昔から寒いんですかねえ?
「そうでもねえ。今年が異常に寒いだけだね。
あらまあ、それはそれは大変ですね。ところで、お母さん。ここらへんにエルフの住処というのはありますか?
「エルフ? あたしら、10年ほど前にここに移住してきたからね。そういう土地のことはわからないね。
なんでも昔、山賊が暴れて、村か廃村になったらしいね。ほら、人の住んでいない家もあるだろ。昔はもっといたみたいだよ。
あらまあ、それだと、昔のことは何もわからないですねえ。あらあら、大変だあ。
「山頂に、古い修道院があるよ。もう誰もいないけど、昔のことを書いた本とかはあるんじゃないかね。
ほうほう。なるほど、なるほど。では私たちはそこに行ってみようと思います。お母さん、ありがとうございました。
体冷やさないように。ここらへんはさっぶいさっぶいから。あったけー恰好しなきゃだめですよ。
「はいはい。あんたらも、気いつけて。
カヌエが満足そうに帰ってくる。
あなた、旅先であんなことしてるの?
そうですよ。ああやって、土地の人と交流して、ご飯を食べさせてもらったり、泊めてもらったりもしてますよ。
ああ! そういう昔話とかよくあるよね。親切をした人が神様で、すてきなお返しをしてもらえるとか。
カヌエ様もそういうことするんだね。
まあ、押様つったらーそういうことするもんだからねえ。そういうことするのがメインというかね。
メインではないでしょ。
あの方にも何かお返ししたの?
あの人には何もしてないねえ。何もくれなかったから。
割とシビアなのね、あなた。
話によると、使ってない小屋があるから、今日はそこに泊まればいいんでないかい?
上にはいかないの?
カヌエが白く染まった山を指差す。
頂上付近に古い修道院があるって話だけど、そこまで行ってたら夜になるからねえ。
夜の雪山はさっぶいさっぶいからねえ。明日の朝から登り始めた方がいいねえ。
そうね。ここなら雪もないし、道に鹿の足跡もあったわ。いま狩りにいけば、夕方までに仕留められるはずよ。
ふたりとも狩りは出来る?
狩り?
出来ないわよね。聞いた私がバカだった。行ってくるから、あとよろしくね。
ほーい。行ってらっしゃーい。
頑張ってねー。
>にゃはは。駆けまわるにゃ!
story
…………。
リザが仕留めた鹿と集めたノラニンジンなどの根菜を持って帰ってくると。
にょほほほ。そりゃ神様ですからねえ。旅先で他人の恋を成就させるってのは日常茶飯事だねえ。
へえ一、なんか素敵なお話の予感。
なんつったって、私、緑の神様でもあるからねえ。男と女の緑と縁。結ぶことありますよ。
神様ですからねえ、ちょちょいのちょいですよ。
カヌエとグレイスが無駄話をしていた。
おい、貴様ら、なぜ火を起こしていない。
火を起こす?
「あと、よろしく」って言ったでしょ。あれは火を起こしてキャンプの用意をしておけってこと。
ああ……なるほど。でもそれは口でちゃんと言ってもらわないと困るねえ。言ったかい? ちゃんと火を起こせって。
一度でも火を起こせって、言ったかい? 言ってないんじゃないかねえ? 聞いた記憶がないねえ。
屁理屈をこねる神様のこめかみを責め立て、リザはグレイスに指示する。
グレイス、火を起こしてちょうだい。私は料理の準備をするから。
グレイス……火を起こしたことないよ。
本当に? あなたサンザールまで旅してきたんでしょ? キャンプぐらいしてないの?
してないよ……。グレイスはサンザールまでの長い長い旅はそれこそ苦難の連続で~。
えー……あ-……。苦難はあったはずなんだけど………。なんだったかな?
特にないんだったら、いいわよ。料理は出来る?
出来ません。
この役立たずどもめ。
というわけで、リザが火をおこし、料理をすることになった。
リザは手際よく、鍋に鹿肉のあらゆる部位を野菜とともに鍋の中に放り込み、コトコトと煮込んだ。
その間、役立たずのふたりは鍋の中のアクを取る役目を担った。
山に自生している植物でも食べられるんだね。
知識を持っていれば、食べられるものと食べられないものを判別することができるのよ。
魔界にいた時にそういう生きるための力や知識を叩き込まれたの。
リザはアク取り係のふたりに、包丁代わりに使っていた魔界の装飾が施された短剣を向ける。
いい、あなたたち。料理っていうのは生存能力なの。生きる術よ。
死にたくなければ、出来るようになりなさい。
はい……。
魔界で私たちの身の回りの世話をしてくれた人が、それをみっちり教えてくれたわ。
その人はメイドさんか何かかい?
メイド? まあ、そんな感じね。クソでかくて、男だったけどね。
クソでかくて男のメイドかあ~、魔界ってすごい所なんだねえ。
リザは集めてきた植物の中から、木の根のような物を取り上げる。
でも、この村の付近には、妙な植物が多かった。ターメリックなんかがあったわ。昔育てていたのかしら。
村があったって言ってたからねえ。栽培していたんじゃないかい?
リザは納得しかねると言った様子で、首を傾げ、ターメリックを元の場所に戻した。
で、この料理はなんていう名前だい? 見たことない料理だね。
畜生鍋よ。
名前はなんとかならなかったのかい……。
リザは料理の仕上げに、赤茶色の粉末を鍋の中に入れた。
私はこの鍋にこのスパイスをいれるの。魔界では〈紅き黄昏〉とか言われてたけど、それを再現したもの。
いい~香り。食欲をそそる香りだね。
辛くなるけど、寒いから、体があったまってちょうどいいわよ。
ところが、完成した料理を覗きこみ、苦い顔をしている神様がいた。
でもこれ畜生鍋っていうんだよね。……やだねえ、畜生鍋って。神様が畜生鍋食べるのかい。なんか間違ってないかい。
細かいことにこだわるわね。じゃ、カレー。これはカレーです。
カレー……不思議な名前。どういう意味があるの?
意味なんかないわよ。その場の雰囲気でつけた。さ、出来たから食べるわよ。
皿に盛られたカレーから湯気が昇る。独特の香辛料の香りをともなった湯気を顔に浴びて、カヌエの顔が綻びる。
にょほほほ。これはもう匂いだけで、一等賞だねえ。では、一口……ほ!!
匙でカレーを口に運んだ瞬間、カヌエの背筋がしゃんと伸びた。
ほ! ほ! ほほ! 辛ぇー、でもうめぇー、あったけー……。
ほむ。ほむほむほむ。はむはむ。ふむふむふむ。……ふーー。
しばらく、無言で食べ進め、皿を空にすると、カヌエは匙をリザヘと向けた。
あんた、世界変えちゃいましたよ。
こんなことで変わってたまるか。
でも、いままでにない味で、ほんとに美味しいよ。魔界って食べ物がおいしいところなんだね。
もし行けるなら、一度行ってみたいくらい。
行くのは自由だけど、あなたじゃ美味しく食べられる方になるだけよ。
食べられるの!?
そして、日が落ちると、カヌエたちの姿を、キャンプの炎が揺らめき照らす。
夜の中に投げ出される彼女たちの影は、かしましく動きつづけた。
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