桔梗 小夜曲

　舞ヶ原高校の２年生で、生徒会の会計！

　度を越した人見知りで、いつもオドオドしているみたいだけど、実は世界的にとんでもない腕前のエレクトロニックミュージック・プロデューサー。

　生徒会役員の二人とシンセ研に所属していて、ライブではなんと、ＤＪとしてステージに上がるらしい。

　「バカマちゃん」こと藤堂陽南袴は小さな頃からの幼なじみで、何かと世話を焼かれたり、ちょっかいをかけられたりする仲良し（？）。

　ふりがながないと読みづらい名前なので、自分のことはバカマちゃんがつけてくれた「小夜（さよ）」という大好きなあだ名で呼んでもらうようにしている。

　今年度の舞ヶ原の生徒会役員は…

　　生徒会長の３年生・芒崎奏

　　生徒会副会長の２年生・藤堂陽南袴

　　生徒会会計の２年生・桔梗小夜曲（小夜ちゃん）

　の３人からなる。

　３人とも１年生の頃から生徒会で実務の経験を積み、どんな仕事も卒なくこなしつつ、遊び心のある学内イベントを多く実施したことで、特に生徒から非常に高い評価を得ていた。

　カリスマ性の高い芒崎会長、愛想や人当たりの良さが評判の藤堂副会長は言わずもがなだが、会計である小夜ちゃんの評価は、会計という仕事柄、あまり広くは聞かれないところ。

　だが小動物のような見た目に反し、実は小夜ちゃんは数学や計算が大得意の理系脳偏重タイプ。

　作曲や音響の理論は少なからず物理法則が根底にあることも手伝って、数学・物理の勉強は日々欠かさない。

　この子、会計なら任せられる、かも…

　という会長の苦慮が滲み出る配置、とも言える。

　ちょっと丸め気味の姿勢や、目深にかぶりがちな帽子からも窺い知れるが、性格はそれに輪をかけ、極端な人見知り。

　さながら人間的パラメータは音楽に全振りといった感じで、会話も苦手、社交性ゼロ、迂闊に話しかければ怖がられ…と、非常に仲良くなりにくい性質の持ち主。

　目立った交友関係もシンセ研以外には少ないが、そもそもメーターを振り切るかのような音楽への興味を原動力に舞ヶ原に入ったため、日々は充実しているっぽい。

　ちなみに得意教科は数学で、数字には相当強い。

　そんな小夜は、経済的には平凡ではあるものの、クラシックなどを好む音楽ファンの家族の下で育つ。

　名前の「小夜曲（せれなーで）」は…突飛ではあるけれど…そんな家族の嗜好が反映されたもの。

　そして同級生で唯一の親友である陽南袴は、小学生の頃から家族ぐるみで付き合ってきた間柄。

　なんなら学校でも未だに色々世話を焼かれたりしていて、さながらマネージャーか通訳か、とも例えられる。

　小学校の頃、家族のＰＣで仕上げた拙い作品から始まった曲作りの楽しみは、様々な音楽体験や知識の吸収を経て猛スピードで発達。

　先生は動画サイトのチュートリアル動画、リスナーは世界中、家からネット経由で繋がれる世界は十分広大で、顔も出さず言葉も最低限でいいネットでの音楽活動は、彼女にはうってつけのスタイル。

　中学の頃には「Ｓｅｌｅｎａｄｅ」の名義でプロ顔負けの作品を発表するまでに至り、高校にもなれば世界のトップクリエイターが名前を出す程に開花。

　小夜が音楽活動に目覚める過程には、それ以前から芸能活動へ精を出していた、陽南袴の影響もあった。

　大人たちを相手に物怖じせず、はきはきと自分の意思を伝え、期待にも笑顔で応える…

　陽南袴の姿を傍で見続ける小夜にとっては、自分も彼女に負けないよう、ひとつ自信を持てる何かを身に付けたい…という気持ちが生まれたのだろう。

　そんな二人の間には、表現者として互いを繋ぐリスペクトが、確かに存在している。

　生徒会役員という、生徒たちと広く顔を付き合わせがちな立ち位置に反して、度を越したコミュニケーション下手により、学年内でもレアキャラ的な存在感、といっていい小夜ちゃん。

　裏・定期演奏会でシンセ研が初めて生徒たちの前に姿を現した時、衣装を着込んでＤＪブースに立ち、半ばやけくそ気味に腕を振り回していた小夜のことを、小夜本人だと認識できた生徒は…

　おそらく、ほぼいないだろう。

　イロドリミドリの２年生たちも、それまで同学年の小夜と交流のあったメンバーはいなかった様子…ではあるが、そこはもともと穏やかな人柄の小夜ちゃん。

　藤堂陽南袴の乱入があった次の日からは、廊下で顔を合わせれば声をかけたり手を振ったりの仲になった。

　特にＦＪＢＫＭのトラックを聞いている白奈、おとなしい人ならなんとなく話しやすい凪、おとなしい人はいじりやすいなる…

　要するに、イロドリミドリの２年生たちにとっては、単純に新しい友達ができた！というわけなのである。

　彼女の名前は「せれなーで」と言いました。

　美しく素敵な音楽の名前をつけてもらって、女の子は挨拶する時に必ず、自分の名前を名乗りました。

　でも、そのたびに女の子は、名前を聞き返されてしまうのです。

　「せれ、せれなーで…？　え、なんて？？」

　女の子は不思議で仕方ありませんでした。

　やがて、女の子が小学校に上がると、同じクラスになった友達が、「せれなーで」という名前を、覚えづらい、とぶっちゃけました。

　女の子は悲しみましたが、友達はこう続けます。

「セレナーデ…たしかに、にほんごで、小夜曲だけど。

　なまえにつかうようなたんごじゃ、ないのよね」

　おろおろする女の子を友達は、本名から２文字とって「小夜」、「さよ」と呼ぶようにしました。

　友達にもらった、呼びやすくて、かわいい渾名。

　女の子はその名前をいたく気に入り、それ以来名前を名乗る時、友達のつけてくれた渾名で呼んでね、とお願いするようになったのです。

　今は昔、音取の小夜という女の子がおりました。

　家のパソコンで動画サイトに行っては曲を聴き、音楽ソフトでよろずの曲を作って遊んでいました。

　ある時、小夜がチュートリアル動画を見ていると、とてもかっこいい曲を閃きました。

　急いで音楽ソフトを開くと、あら不思議。

　そこにはピカピカに光るすばらしいフレーズが仕上がったではないですか。

　小夜は喜び、曲に「Ｔｕｔｏｒｉａｌ　Ｓｏｎｇ」と名付けて、丁寧に丁寧に手を加えていきました。

　すると曲はすくすくと育ち、やがてとても美しい音楽に成長しました。

　家族もその曲を聴き、たいそう喜びました。

　小夜がその曲をアップロードすると、コメント欄は多いに盛り上がり、やがて１００万を超える再生数を叩き出したそうな。

　めでたし、めでたし。

　中学に入って、小夜は作った曲をインターネットで発表し始めました。

　小夜はとんだコミュ障でしたが、ネットでは対面する人もいないせいか、それなりにしっかりやりとりができるのです。

　小夜のもとには、毎日たくさんのコメントやメールが届きました。

　そんな中、小夜は、「素晴らしい曲です！」とたくさん褒めてくれる、一人のリスナーに出会いました。

　熱心にメッセージをくれるその人は、なんでも小夜と同じく東京に住む、一つ上の先輩なんだとか。

　好きな音楽を紹介しあったり、曲のことを通話で話したりするうち、すっかり仲良しになりました。

　曲をアップすると、この曲高音質で欲しい！ちょうだいちょうだい！と言うところから、小夜はその友達を「欲しがりの王子さま」と呼んでいました。

　数奇なことに、この時の交流が高じて、二人はやがて同じ高校で再会することになるのです。

　昔々、ある所に、小夜という女の子がおりました。

　小夜は生徒会で働いていて、そこで、やさしい会長、やさしい幼なじみと一緒に、静かに暮らしていました。

　会長はもともと小夜のことを、とてもすごい作曲家として知っていましたが、会長が実際に会った小夜は、猛烈な人見知り。

　会話もままならないほどでしたが、小夜は会長の通う音楽の高校に、強い興味を示しました。

　こうして小夜は、一緒に音楽を志す幼なじみと一緒に、会長の通う音楽の高校へ進むことになりました。

　学校でなかなか友達ができない小夜や、寂しげな小夜に甲斐甲斐しく世話を焼く幼なじみを見た会長は、ある時こう言いました。

　「君たちさえ良ければ…生徒会を手伝わないか？」

　こうして小夜は、幼なじみのバカマちゃんと二人で、生徒会で働くことになったのでした。

　めでたし、めでたし。

　昔々、ある所に、小夜という女の子がおりました。

　小夜は生徒会のお遣いで、お友達と一緒に軽音の部室を訪ねました。

　するとどうでしょう、お友達が突然、部室にいるバンドの皆さんをフリースタイルでディスり始めたのです。

　当然、バンドのみなさんは怒りました。

　逃げ遅れ、縛り上げられた小夜が必死で命乞いをすると、軽音の部員の一人が、小夜の縄を解くよう言ってくれました。同じ生徒会の後輩、華ちゃんです。

「あの、生徒会の私の先輩なんで！やめてもらっていいですか！？」

　軽音の皆さんは、意外にもあっさりと縄を解いてくれました。

　はじめは怖そうに思われたバンドの皆さんも、事情を話すと、とても興味深げにきいてくれました。

　一方そのころ、バカマちゃんは先に帰ってしまっていました、縛られた小夜を置いて、一人で…

　めでたし、めでたし。

　昔々、あるところに二つのバンドがありました。

　ひとつは六人編成のガールズバンド。

　もうひとつは三人組のテクノユニット。

　はじめは特に仲が悪いわけではありませんでしたが、中にひと組、やたらお互いを敵視する二人がいました。

　この二人、顔を合わせるたびに言い争いをします。

　今これから購買で買うパン、目玉焼きにかけるもの、

　最近人気のテレビお笑い芸人、今期の覇権アニメ…

　ある時、お互いがお互いの旬の音楽を聴かせあう流れになりました。

　音楽人同士のコダワリがぶつかれば、きっと無事で済むはずがない…小夜は見ていられないところでしたが…

　するとどうでしょう。

　なんだかんだで盛り上がってしまうみたいです。

　…バカマちゃん、口は悪いけど、仲良しになったら、ちゃんと優しくしてくれるので。

　けんかしないでほしいです…

　めでたし、めでたし。