マードゥク・アニマート
通常 | セイクリッドナイト |
---|
Illustrator:ふぁすな
名前 | マードゥク・アニマート |
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年齢 | 容姿年齢25歳(再生後7年) |
職業 | 軍人 |
身分 | 遊撃隊隊員 |
- 2022年8月4日追加
- NEW ep.VIマップ3(進行度1/NEW時点で375マス/累計825マス*1)課題曲「Brightness」クリアで入手。
- トランスフォーム*2することにより「マードゥク・アニマート/セイクリッドナイト」へと名前とグラフィックが変化する。
メタヴァースシステムの中で育った、帰還種の青年。
アニマートの名を継ぐ彼もまた、世界を変えるため、戦いに身を投じていく。
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
---|---|---|
1 | 道化師の狂気 | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
include:共通スキル(NEW)
スキルinclude:道化師の狂気(NEW)
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
メタヴァースシステムの中で育ち、温厚な性格と高い共感性を備えた帰還種と呼ばれる新たな人類。
彼らは現実の世界に旅立ち、旧き人類に代わる地上の後継者として根付いていく手筈になっていた。しかし、そこには彼らを試すかのような過酷な世界が広がっていたのだ。
彼らが直面したのは、地上の後継者を自称する、ヒトに似せて造られた人類――真人との争い。
真人は、システムが管理する都市を奪うだけでなく、地上に再生した帰還種をも手にかけてしまったのだ。
禁忌を犯した真人たちは、引き返す事もできないまま大陸全土を巻きこんだ戦争を仕掛けていく。
戦争によってもたらされたのは、幾多もの憎しみ。憎しみの連鎖は新たな憎しみを生み、同じ“言葉”を解するはずの両者から“対話“という選択を奪い去り、手を取りあうはずの手に、“武器”を握らせてしまう。
もし、この戦争を止める手立てがあるのならば、それはどちらかが死に絶える以外にない。
イオニアコロニーで帰還種が最初に殺害されてから、すでに14年。
憎しみの連鎖は、今も断ち切られる事なく、複雑に絡みあい続けている。
――理想の世界が広がっていると教えられた地上は、俺とアニキが思っていたような優しさと自然に満ち溢れた世界なんかじゃなかった。
いつ終わるともしれない争い。
日々増えていく死傷者の数。
コロニーの街頭モニターに映し出される残酷な現実は、理想を抱いてやってきた俺たちの心をへし折るには十分だった。
「なんなんだよ……これは……」
どうして真人たちは、平気でぶち壊せる?
他にやりようはいくらでもあったんじゃないのか?
「なあ、教えてくれよアニキ。俺たちはどうすりゃいいんだ?」
「……人々が築きあげてきたものなど、奴らには路傍の石のようなものなのだろう」
モニターを見つめたまま、淡々と語るアニキ。
だが、その眼差しと強く握りしめられた拳からは、怒りがひしひしと伝わってくる。
すると、アニキはモニターを背にしてコロニーの中心へと向かう。
その先にあるのは、コロニーを管理する監督官がいる中枢塔だ。
「アニキ?」
「決めたよ、マードゥク。この平和な都市の中で、現実から目を背け、耳を塞いだまま生き続ける事は私にはできない」
そう言うと、アニキはまた歩き出した。
「私は志願する。マードゥクはここに残るんだ」
「それは……本気か?」
「ああ。ここは戦地から遠く離れている。お前はアニマートの名を継ぐ者として……」
「そうじゃない。そんな事言われて、俺が大人しく従うと本気で思ってんのか? 心外だぜ……」
俺は、アニキの眼前に拳を突き出す。
「俺もついてくぞ。ガーデンで育った頃から、ずっと一緒にやってきたんだ。アニキひとりを危険な目に遭わせるわけがないだろ?」
「…………」
「なあ、俺にも背負わせろよ」
アニキの視線から絶対に目を逸らさない。
ここで退いたら、二度とアニキに会えない気がしたから。
「で、どうなんだよ」
「……お前は一度こうだと決めたら、何ひとつ言う事を聞かなかったな」
「じゃあ!」
「共に、大地を守り抜こう」
俺たちは、拳を合わせて誓った。
この大地を、真人の手から取り戻すために戦うと。
「ハァッ!」
「ッ……グッ!」
俺の呼吸のテンポを見透かしているかのように、ワンテンポずれたタイミングで左右から同時に斬撃が叩きこまれた。
すんでの所でそれをいなし、俺は反撃の隙を窺う。相手が俺の動きを熟知しているように、俺も相手の動きは理解しているつもりだ。
耐えろ。あと少し耐えれば、この連撃は止む。
相手は速度を活かした攻撃を得意とする。その分、致命傷になる攻撃はほとんどない。
俺の読み通りなら、そろそろ仕掛けてくる。
「……ッ!」
来た! 右からの斬撃は明らかにブラフ。
本命の左が飛んでくる前に、カウンターだ、俺から行く!
相手が左手を引っこめるのと同時に、俺は前に一歩強く踏みこんで――一撃を叩きこむ!
「――――あれ」
目一杯に振り抜いた刀にはなんの手応えもなかった。
「お前の狙いは分かりやすすぎる。目線で何もかもバレている事に気づけ」
ため息混じりの声が、背後から聞こえたと思った矢先、俺は衝撃と共に吹っ飛ばされていた。
「痛″ってぇぇぇっ! もう勝敗は決まってたのに、ショック弾なんか打つ必要ねーだろ、“アニキ”!」
「お前は身体に覚えこませないと、いつまで経っても理解しないからな」
「てか、今銃使ったな!? アニキは反則負けだからな!」
「そもそも訓練に勝敗などない。命を賭ける戦場であれば敗北は死を意味するのだから。何度も言うが、その刀剣へのこだわりは、いずれ死を招くぞ」
やべ……お説教モードが始まっちまった。
「合わないんだよ俺には。それに、俺はこの刀でどこまでやれるか試してみたいんだよ。ご先祖様が聖剣を振り回してたみたいにさ!」
「それがこのザマか。届かなければその理想に意味などない」
「俺は刀でアニキは銃。理想的だろ?」
「現実を見ろ。理想だけでは護る者も護れんぞ」
「護るさ。そのために俺はこの道を極めたいんだ」
「執着だな」
「信念だ」
そう言って、俺は訓練室から出ようと入口に向かう。
「じゃ、俺は外の空気吸ってくるから! お先!」
「……やれやれ」
アニキが手元の端末からトレーニングメニューを空中に表示させるのを後目に、俺は部屋を後にした。
その足で兵舎の通路を進んでいくと、外に通じる通路の奥で何かがチラリと見える。
長い髪に映える、淡い水色。
あれは――
「よう、ニア! どうしたんだ、こんな場所で」
「っ……」
ニアは小さく肩を震わせると、やや遅れて俺の方に振り返る。ニアの顔は、少しだけ目元が赤くなっている気がした。
ニア・ユーディット。
俺やアニキと同じで、大地を取り巻く現状に不満を抱いていた帰還種だ。彼女は最近になって最前線であるペルセスコロニーの防衛軍に志願してきた。
「なんの用ですか、マードゥク」
「訓練がキツくて感傷に浸ってんのかと思ってさ。シシ、やっぱ図星だった?」
「……貴方は、本当にデリカシーがないですね」
「変に気を使うよりいいだろ。なあ、その手に持ってるのって写真か?」
そう言いながら俺はニアの隣に移動する。
めちゃくちゃ睨まれた気がするが、今はあえて反応しないでおく。
写真には、ニアとニアと同じくらいの歳の眼帯をした女、そして2人の肩を抱き寄せて笑う女性が写っていた。
この中でニアだけが笑ってるような困ってるような曖昧な顔をして、眼帯の女を見ている。
「ぷっ……変な顔……」
「放っておいてください」
「わりぃわりぃ、で、この眼帯の子はお前の友達か何かか?」
「ミスラ・テルセーラ。私(わたくし)の初めての友達……“だった”」
「だった? 死んじまったのか?」
「いえ、ただの喧嘩別れです。綺麗事しか言わないあの子の事なんて、もうなんとも思っていません」
ニアのその物言いは、口にする事で自分に言い聞かせているよう。
でも俺には、そうは思えなかった。
「その割には、嫌ってるように思えないけどな」
「え?」
「そのミスラって奴の事を話している時だけは、お前の声あったかいからさ」
「っ…………」
「シシ、赤くなってるぜ! 図星だったか?」
真っ赤になってるニアの頬を、つっついてからかってやろうとしたその時。
――パン!
目の奥で星がチカチカする。
俺は、フルスイングしたニアの平手をもろに食らってしまった。
「無遠慮な人! あ、貴方に何が分かるんですか!」
兵舎に戻ろうとするニア。俺は引き止めようと手を取ろうとしたけど、あっさり避けられてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺、お前に何かわるい事言っちまったか? もしそうなら、謝らせてほしい」
「それくらい、自分で考えたらどうですか? あ、それともうひとつ」
「……なんだよ」
「私の名前はニアです。“お前”なんて名前じゃありません」
「お……あぁ、わりぃ」
「分かればいいです。あ、それと……」
「ま、まだあんのかよ?」
「ついカッとなってしまった事は謝ります。では」
伏し目がちに小さな声でそう言って、ニアは去っていく。
「こんなつもりじゃなかったんだけどな……俺はニアを励ましてやりたかったのに……どうしてあいつの前じゃ気の利いた事ひとつ言えないんだか」
後ろ姿が見えなくなるまでボーッと眺めてたが、頬でくすぶり続ける熱は、一向に消えなかった。
「はぁ……痛ってぇ……」
俺とアニキが哨戒任務についていた頃、カスピ大地溝帯に向かったニアとアイザック隊長から連絡が入った。
その内容は、作戦行動中に負傷したニアの救助を要請するもの。
急ぎ高速艇でニアを回収した俺たちは、隊長が俺たち宛てに残していたデータを見て、目を疑った。
そこには、真人たちと行動を共にする、帰還種の女が写っていたからだ。
機械弓を構える眼帯の女――ミスラ・テルセーラ。
見間違えるはずがない。ニアが大切に思っている友人が、なぜニアに弓を引いたのか。隊長がついていながらとか、真人と帰還種が一緒に行動していたとかそんな事はどうでもよかった。
ただ、内側からこみあげてくる感情が、ミスラという女を正さずにはいられなくなっていた。
「よくも……ニアを……ッ」
「早まるな、マードゥク」
「早まる? このニアの姿を見た上で言えるのかよ!アニキはなんとも思わねーのか!?」
「踏みとどまるんだ。感情に駆られるまま目先の事実だけに飛びつけば、本来見えていたはずのものまで見えなくなってしまうぞ」
「でも……!」
「――ぅ……、……ッ」
「ニア!?」
「手当てはお前に任せる。そうすれば少しは冷静になれるだろう」
「ああ、そうだな……ニア、少しだけ辛抱してくれ」
――ペルセスコロニーに帰還した俺たちは、ニアが治療装置の中で眠りについている間、他の隊員たちと共に来たる戦争の準備を進める事になった。
どうやら小競り合いが続いていた前線に動きがあったらしい。
戦争の機運が高まるのと同時、俺の中の闘争心にも火がつき始めていたようだ。
隊長から指揮権限を移譲されていたアニキと、俺とでこれからどうするか決めようとしていたその時、治療を終えたニアが目覚めた。
俺はすぐにニアの所に向かうが、ニアはすでに部屋を出たあと。
「なあ、ここで寝てたニアがどこに行ったか分かるか?」
「司令室に用があるとおっしゃっていました」
「そうか、ありがとな!」
俺は医療班の機械種に礼を言うと、その足で司令室を目指した。
律儀に真人と帰還種が共に行動している事を説明したかったんだろうが、俺たち遊撃隊は司令のエヴァにとってはどうでもいい存在。
だから、ニアにかけられる言葉も容易に想像できる。
「――失礼しました」
途中でアニキと合流し、司令室についた俺たちを待っていたのは、ちょうどニアが司令室から出て来る所だった。
ニアの表情は案の定というか、不機嫌さがにじみ出ていて落ちつきがない。
そして、俺たちに気づいたニアは溜息をつくと、苛立ちをにじませた声で口を開いた。
「……何かしら?」
「シシ、わっかり易い顔してるぜ……なぁアニキ!」
「フッ……」
「そんな事、言われるまでもありませんっ!」
「わりぃわりぃ、で、どうするんだ?」
「当然、離反者は保護します。その上で、共に行動している真人たちは始末する。ただそれだけのことです」
「ハッ、そうこなくっちゃなぁ!」
「元より我らは遊撃隊の身。ならば――」
アニキが拳を俺の前にかかげる。
そこへ拳を突き合わせて、俺は頷いた。
「行こう、カスピ大地溝帯へ」
遊撃隊を率いて向かったカスピ大地溝帯付近の砂漠地帯で、俺たちはアイザック隊長と再会できた。
単独で真人の王ソロ・モーニアを追っていた隊長は、執念で居場所を突き止めていたんだ。
そして、夜の闇に紛れた制圧作戦が開始された。
ソロが隠れ潜む大地溝帯の谷底に攻め込んだ俺たちだったが、攻撃を開始した途端、別の勢力の奇襲を受けてしまった。
「こいつら……タイミングが良すぎる!」
まるで俺たちが突入するのをひたすら待ち続けていたとしか思えない。何せ、奴らはこの砂漠地帯にわざわざ砲台を用意していたんだから。
アレは、どう考えてもウィアマリスの力場を破壊するために用意したとしか――
「マードゥク! ウィアマリスが……!」
予想は的中した。
奴らはウィアマリスの“攻略法”を知っていんだ。
隊長が乗っているウィアマリスが、砲撃の直撃を受けて谷底の中の都市に沈んでしまった。
ウィアマリスが沈んだ事で、敵の勢いは増していく。都市の迎撃システムは何故か俺たちに協力してくれていたが、砲台に睨まれながらこの状況を切り崩すのは難しい。
なら――やる事はひとつ!
「アニキ!」
「ああ、あの砲台を叩くぞ!」
「おう!」
――応戦を繰り返しながら谷底から出ると、月明かりを背にして長大な砲門が鎮座していた。砲台の周りで待機している敵もこっちに気づいたのか、攻撃が始まった。
砲台は連射性には優れていないのか、一度打ってからまだ光を発射していない。
「正面からの攻撃は危険だ。ここは左右から――」
「ニアの命がかかってんだ、今は時間が惜しい! 上だ、アレの上に向かって移動してくれ!」
「何? まさか、お前――」
その時、砲台の砲身に光が集まる。
次の瞬間には、その光は真っ直ぐに谷底に向かって放射されてしまった。
「アニキ! 頼む!」
「……分かった」
アニキが舵を切る。砲台の上空目掛けて戦闘艇が上昇していく中、俺は甲板に向かう。
そして、ハッチを開けると――砲台目掛けて暗い砂漠の空に飛びこんだ。
狙いはただひとつ。アニキが仕掛けている間に、俺が砲台を叩き斬る!
光学迷彩が仕まれたスーツで夜空と同化した俺は、一気に砲台へと近づき、直前で展開したパラシュートを脱ぎ捨て、砲身の上に着地した。
砲台は次の攻撃の準備に入っているのか、わずかに光を帯びている。
クソッ、間に合え……!
腰の刀を抜き放つと同時、刀身が高速で振動して熱を帯びる。
「封刃……解放!」
『――駆動要請承認』
「ハアァァァァァッ!!」
――一閃。
時間にすればほんの数秒にすぎない。
だが、これほど長く感じられる時間もなかった。
刀を鞘へと納めた瞬間、まるで空間がズレたように、砲台を支える車両は両断された。
「シッ! これで――」
その刹那。地をはうように、か細い光が走っていく。
砲台はその一射で沈黙したが、俺は最後の一撃を完全に止める事ができなかった。
砲台の兵を倒し、急ぎ都市に駆けつけた俺たちを待っていたのは、光を失い見る影もなくなった都市の光景だった。
戦闘はすでに終わってしまったのか、仲間も真人の部隊もほとんど残っていない。
「……あった、ウィアマリスだ!」
「ああ、着陸しよう」
ニアの反応を追って着陸すると、そこで俺たちを待っていたのは――ニアではない別の帰還種だった。
「えっと、誰?」
俺たちを見るなり首をかしげたのは、あの時ニアをやった女――
「ミスラ・テルセーラ!!」
「はやるな、マードゥク!」
俺はアニキの制止を振り切ってミスラの前までひと息に駆ける。そして、眼前に刀を突きつけながら言った。
「ニアをどうした!」
「嬢ちゃん!」「ミスラ!?」
俺に反応したのは、ミスラの背後に控えていたふたりの真人たち。まさか、本当に真人と行動を共にしているとは思わなかった。
こいつは、真人がどれだけ酷い実験を繰り返してきたのか知らないわけじゃないはず。
「どうして真人と行動してるんだよ?」
俺は威嚇する意味で更に切先を近づけた。
だけど、当の本人はなんとも思ってないのか、刀を気にする素振りを見せない。
そればかりか、俺に質問で返してきやがった。
「あなた、ニアを知ってるの!?」
「は? し、質問してんのは俺だぞ! てか、目の前に刀があんのに怖くないのかよ」
「だって、本気で傷つけようと思ってないわよね」
「あ……?」
「クク、なーんか見たことある光景だなぁ」
「ミスラったら……つい最近の事なのに、なんだか懐かしい光景ね」
俺の目の前で、ミスラと真人がやけに親しげに話している。俺は悪い夢でも見ているような気がした。
「――どうやら、彼女はお前の手にはあまるようだ」
「ア、アニキ?」
アニキは「やれやれ」と言いながら、冷静に手際よく対応する。
「私は、アイザック麾下(きか)の遊撃隊に所属するアンシャール。あちらがマードゥクだ」
「長くて綺麗な髪ね! よろしく、ふたりとも!」
「こちらこそ。さて、後ろの真人たちも気になる所だが、今はニアの安否を優先したい。ニアの反応がこの辺りで途絶えているんだが、何か知っている事はあるかな?」
それから俺たちは、手っ取り早くお互いの情報を交換する事にした。
そこで真人の男から聞かされたのは、アイザック隊長が何者かの部隊と交戦し破壊されたことと、ニアがさらわれたこと。
「――そうか。我々を襲撃したあの船に……」
「クソッ、すれ違っちまったのかよ!」
ミスラたちの話によると、隊長が追っていた真人の王ソロ・モーニアも共にさらわれた可能性が高いという。
だが、ひとつだけ腑に落ちなかったのは、奴らの船が何故か“東”に向かって飛んでったって事だ。
「妙だな。自分たちが領有している西ではなく、何故“機械種が管理する地”に向かう必要がある?」
アニキの言うとおりだった。
真人が支配する領域は、カスピ大地溝帯から西。なのに、危険を冒してまで東を目指す意味が俺には分からなかった。
「ここで話しててもがしょうがねえ。あいつらを追いかけよう!」
「だが、確証がない以上は」
「そんな事言ってる段階はとっくに過ぎてんだよ、アニキ。ニアの命が掛かってるんだ、もし隊長の話が本当だとしたら、今頃――」
「あなた、ニアの事が好きなのね?」
「ばっ、バカな事言うんじゃねえ!」
俺は「しっしっ」とミスラを払いのけたが、今度は真人の男から野次が飛んでくる。
「諦めな、兄ちゃん。この嬢ちゃんの目にかかれば、どんな奴も隠し事なんてできねぇからな」
「ったく、こんな事してる場合じゃないんだって。アニキ、当然追うだろ?」
「ふむ……そうだな」
アニキは顎に手をあてて少しだけ考えたあと、答えてくれた。
「追いかけよう。奴らは機械種の領域を飛んでいる。何者かの手引きでもない限り、慎重に行動せざるを得ないはずだ。ならば、今からでも間に合う可能性は十分にある」
「シッ! さすがアニキだぜ! となりゃ、さっさと追いかけよう!」
俺とアニキが頷き合い、船に向かおうとすると、
「それ、わたしたちにも手伝わせて!」
満面の笑みで話に乗っかってくる奴がいた。
ニアを追う前に、船の整備を軽く済ませておく。その整備にはミスラたちも加わってきたが、俺が思っていたよりも手際が良かった。
普段から自分で直してたのか、そういう“状況”になる事が多かったのかは分からないが、こいつら、自分から口を挟んでくるだけの事はある。
整備はあっという間に完了した。あとは撃ち落された仲間が生きているか確認しているアニキを待つだけ。
だから俺は、手持ち無沙汰になっちまったのがムズがゆくて、つい口走ってしまった。
「なあ、お前らの船の方、手伝わせてくれないか? 機械種の船なら、俺の方が詳しいからな」
そんな事を言い出すとは思ってなかったのか、真人の女――ゼファーが、目を丸くして驚きの声を上げる。
「えっ? 私たちは貴方の……その、敵なのに」
「手伝ってもらったのに、恩を仇で返すような真似はしたくねえ。なんとなくそうしなくちゃいけねー気がしただけだ」
「……だったら、お願いしようかしら」
「ありがと、マードゥク!」
「か、勘違いすんなよミスラ! 俺たちは敵同士だっての! ニアを助け出したあとは覚悟しておけよ」
ミスラがまた何か言おうとしたのを遮って、俺は船に案内するよう促す。
「ハハ、帰還種の兄ちゃんも、ソロと一緒で素直じゃないねぇ」
「ほっとけ!」
「ま、そーいう事にしといてやるか」
クソ、こいつら本当に真人なのか? 俺が聞かされてきた真人像からはかけ離れすぎててわけが分からない。
こいつらと一緒にいたら、どうにかなりそうだった。
「――ッシ、こんなもんだろ」
パっと整備を済ませ、追いかける準備が整った。
「助かったぜ、帰還種の兄ちゃん」
「マードゥクだ。俺は帰還種の兄ちゃんって名前じゃねー」
「っと、悪ぃな」
そう言って、ヨアキムが手を差し出す。
「……いや、それはやめておく。あくまで利害が一致してるだけの関係だしな」
「ま、そりゃそうか」
「ああ」
さすがにそこまで親しくなるつもりはない。
ばつが悪そうに引っこめられていく手を見ながら、俺は心の中で謝った。
「それにしてもよく分からない組み合わせだな。帰還種に傭兵に真人の王ときたら、ゼファーは王女様だったりするのか?」
「ゼファーはね、ソロのママなの!」
「ええ、そうなの……えっ!?」
「シシ、読めたぜ。親子で戦地から離れるつもりだったってわけか」
「えっと、そうじゃなくて。ああ、でも離れようとしてるのは事実で……もう、ミスラ!? あなたが変な事を言うから……っ」
「ハハ、実際のとこ、ゼファーが母親みたいなもんだしなぁ」
ミスラたちがやいのやいの騒いでいる横で、俺は遠いご先祖様たちを思い出す。俺も詳しくは知らないが、その昔アニマート家にもお世話係ってのが何人もいたらしい。
「こんな時代でも、いる所にはいるもんなんだな」
俺は今まで見ようとしてこなかったのかもしれない。真人にも大切な奴はいて、それを護るために戦っているという事を。
こいつらの他愛のない会話を眺めてるのも、なんだかわるい気はしなかった。
「ははっ……」
ふと俺は、この状況を楽しんでいる自分がいる事に気がついた。
「遅れてすまない。では出発を」
「っと、わりぃ、アニキ」
俺たちはそれぞれの船へと戻る。その時、ふいにアニキが話しかけてきた。
「どうだった、彼らは」
「ん……そうだな……あいつらとはもっと早くに出会ってみたかったよ」
「フ、そうか」
船に乗りこんだ俺たちは、急ぎ東を目指す。
待っててくれよ、ニア。
俺たちが、必ず助け出してやるからな!
アニキが導き出したルートを全速力で追いかけた結果、レーダーが東に移動を続ける船の一団を捉えた。
数は四隻で、いずれも紅い塗装が施されている。
ニアをさらった奴らの船で間違いない。
奴らはアニキの予想通り、山岳地帯の稜線からはみ出ないように低空飛行で進んでいた。
敵も俺たちに気づき、足止めさせようと二隻の船で対抗してきたが、音素兵器による狙撃を行うミスラを止める事はできなかったようだ。
俺たちは一隻を引き受けてミスラの船を先行させる事にした。
そして、相手の戦闘艇を撃墜し合流すると、
『それじゃ、良い空の旅を。バイバ~イ!』
オープンチャンネルで男の声がした。モニターで確認すると、二隻の船のうち一隻が遠ざかり、もう一隻は失速し目に見えて高度が下がっていく。
「おい、何があったんだ? どうしてあの船を追わない?」
『……ごめんなさい、追えないの。あの船の中に、ソロだけが置き去りにされてるから』
「な……っ」
ゼファーの悲痛な声がすべてを物語っていた。
「なるほど、そういう事か」
「アニキ、俺にもわかるように言ってくれよ」
「奴らは、ニアとソロの命を天秤にかけ、私たちを試しているんだ。追跡を諦めてソロを助けるか、彼を見捨ててニアを追いかけるかを」
「なっ、あの野郎、ふざけた真似しやが――ん? あいつら何やって……」
「っ……正気か?」
モニターの向こうでは、急激に高度が下がっていく船の下へ潜りこんでいくミスラの船があった。
「まさか……船を支えるつもりかよ!?」
大方ミスラの考えそうな事だが、大きさもほとんど変わらない船を押し返しながら軟着陸させるなんて、正気の沙汰じゃない!
「下手をすれば、いや、どうあがいても着陸時の衝撃に耐えられないだろう」
居ても立っても居られず、俺は通信をつないだ。
「おい、いくらなんでも無茶だ! 全員死ぬぞ! 何してるか分かってんのか!?」
『そうね。でも、ここでソロを見捨てるなんて事、私にはできないわ』
『ま、こっちはこっちでなんとかするぜ。お前さんたちは帰還種の嬢ちゃんを追いな!』
「く……っ」
残された時間はそう多くない。こうしてる間にも船は増々高度を下げている。
俺は……俺は!
「――執着ではないと、証明してみろ」
「え?」
「それがお前の信念なのだろう」
俺は、あいつらと言葉を交わし、同じ目的のために動いた。
帰還種と真人が笑い合う光景を、この目で見た。
ああ、そうだよ。
俺はもう……お前たちを“知って”しまったんだ。
だったら――!
「アニキ!」
「心は、決まったようだな」
「ああ! 俺はあいつらを、“真人”を助けるッ!」
アニキはすでに重なり合う船へと舵を切っていた。
最初から俺の選択する道を理解していたとでも言うように。
「俺たちも混ぜてくれよ!」
『え? あ、あなたたち……どうして!?』
「話はあとだ! 今は、ソロって奴を助ける方が重要だろ?」
『っ……、……ありがとう』
「おし、そうと決まれば!」
俺はアニキが操舵に集中できるよう、各計器と数値のチェックに専念する。
俺たちの船は、すぐにミスラの船と隣り合うように並んだ。
「そっちの軸をずらす。こっちで受け持ってる間に移動してくれ!」
『ええ!』
瞬間、船の荷重が一気にこちらに寄ってきたが、ゼファーの精確な操縦ですぐに位置が揃う。
やれる事はやった。あとは、タイミングを合わせるだけだ!
「ゼファー、一発勝負だ。俺たちの心をひとつにするんだ」
『いつでもいいわ!』
「よし、カウントいくぞ! ――3――2――1、今だ!」
――
――――
俺たちは、ソロを乗せた船ごと砂漠のど真ん中に軟着陸した。その甲斐もあってどうにか船はバラバラにならずに済んだ。
「やりとげたんだな、俺たち……」
そう言って東の空を見上げる。
ずっしりとした灰色の雲が重くのしかかる空の向こうに、ニアが乗った紅い船が豆粒みたいに消えていった。
軟着陸した船から、ソロはヨアキムに担ぎ出された。
色んな奴から命を狙われる王子サマってのがどんな人物なのか気になってはいたが、実際にこの目で見るとなんて事はない、ただの小さな子供だったんだ。
「ソロ……良かった……無事で……」
「ぁ……ゼ、ふぁ……あ……?」
ソロは、着陸時の衝撃か、なんらかの薬を盛られたからなのか分からなかったが、様子がおかしかった。
すぐに検査して治療するのが賢明だ。
でも、涙を流してソロを抱きしめているゼファーの心情を想うと、そんな野暮な真似をする気にはなれなかった。
「俺たち、何やってんだろうな」
「どうした、マードゥク」
「あいつらを見てるとさ、どうして互いに争い続けているのか分からなくなっちまったよ」
俺は……地上に再生され、軍に志願したあの時、武器を取る事の意味を本当に理解できていたのか?
英雄の名を継いだってだけで、俺は浮かれた気持ちのまま今まで過ごしてきただけなんじゃないか?
あいつらの事を、知ろうともしないで――
「俺たちは、もう後戻りできないぐらいねじくれ曲がった関係になっちまったのかな?」
「フ、その答えは私にも分からないな」
「アニキにも? じゃあお手上げじゃないか……」
「だからこそ、関り続けるんだ。その先にしか、道は開けていないのだから」
「分かったような、分からないような……」
だけど、少なくともあいつがどうして真人たちと一緒に行動しているのかだけは、俺にも理解できたような気がする。
「ふたりとも、ソロを助けてくれてありがとう」
噂をすれば、ミスラが俺たちの前にやってきた。
「ほんと思い切った事するよな。船で支えて着陸しようって言い出したのも、ミスラなんだろ? 俺らが助けに入らなかったらどうしてたんだよ」
「どうもしないわ。だって、来てくれるって分かってたもの」
「は?」
「フ……」
訂正。やっぱミスラの考えてる事は分からねー。
「さて、これからの事を考えなければならないな」
「そんなの決まってるだろ。ニアを追いかける以外にあるのか?」
アニキはゆっくり首を振って言い放った。
「状況は変わった。これ以上の追跡は断念する」
「は……? 本気で言ってんのかよ!?」
「ああ、今の燃料で移動できるほぼ限界の地点にまで我々は来てしまった。ここからさらに闇雲に探し回ればどうなるかぐらい、理解できるだろう?」
「くっ……だけどよ!」
頭では理解できている。
でも、このままじゃニアは……!
「ニアの事は、わたしたちに任せて」
「ミスラ……いや、これは俺たちの問題だ。関係がないだろ?」
「ったく、お前さん今更そんな事を言っちまうのか? ソロを助けてくれたってのによぉ」
「……ヨアキム」
敵の船の中から出てきたヨアキムは、「手がかりになりそうなものはなかった」と言って俺たちの方に歩いてきた。
「信じる信じられないってんなら、こうしよう。俺を雇ってくれ。形式だけでもそうしとけば、幾らか気も楽になれるだろうよ」
「ふむ……」
「さぁどうだい? 俺ぁこう見えても歴戦の戦士だ、腕は立つ、おまけに逃げ上手ときたもんだ!」
自分を売りこみ始めたヨアキムに、俺は黙って手を差し出した。
「お、交渉成立かい?」
「いや、そんなの必要ない。お前たちが信用できるのは、もう分かってるからな」
「お前さん……」
「さっきは、わるかった。虫がいいのは百も承知だ。だけど、どうか頼む……ニアを、ニアを助けてくれ」
「へへ、そこまで言われちまったら、断るわけにはいかねぇなぁ」
俺の手を取って、ヨアキムは強く握り返した。
「俺たちに任せてくれ」
「この中で、ニアの居場所が分かるひとー!」
「おいおい嬢ちゃん……! せっかくの雰囲気が台無しだぜぇぇ……」
ミスラの言う通りだ。
手がかりになりそうだった紅い船からはなんの情報も得られなかった。東をくまなく探せば……とは言ってもこの大地はあまりに広大すぎる。
何かしらの手がかりがなければ――
「――多分、俺なら分かる……」
ヨアキムの背後から投げかけられた声。
そこにいたのは、ゼファーに支えられながら立つソロだった。
「ソロ・モーニア……」
「お前さん、大丈夫なのか?」
「ああ。俺の事はいい、今はあいつらの情報がいるんだろ?」
ソロが「誰か地図を持ってないか?」と言うと、アニキはすぐさま端末を取り出して大地溝帯から東の地図を表示する。
「あの眼帯の男……ロトの船のモニターには、座標が表示されていた」
ソロは俺たちが今いる砂漠から、遥か東に位置する山岳地帯を指さした。
「確か、この辺りだ」
「本当にここなのか? 私の端末には何の記録も残っていないが……」
「あいつらの話を全部聞いたわけじゃないからな。そこから更に移動されてたら、俺もお手上げだ」
ソロもそれ以上は分からないらしい。
だが、手掛かりが何もないより遥かにマシだ。
「ねえ、ヨアキムは何か知らないかしら?」
「悪ぃ、さすがの俺もこの辺りはサッパリだぜ」
「なら行ってみるしかないわね!」
「話は決まったようだな――」
その時、アニキの言葉を遮って端末が鳴り響く。
アニキは断りを入れてから端末の向こうの相手と何か話していたが、急に血相を変えて、息を呑む気配が伝わってきた。
「――それは本当か? ――分かった。すぐそちらに向かう」
いつも冷静なアニキが、目に見えて動揺している。
考えられる事態は、ひとつしかない。
「アニキ、まさか!?」
「ああ。真人の軍勢が、防衛圏を突破した」
「だったら、俺たちも――」
アニキははやる俺を制して、こう言った。
戦場に、大型機動兵器が出現した――と。