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甘い豆花・エピソード

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最終更新者: 名無し

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甘い豆花のエピソード

豆花双子の兄、考えがコロコロ変わるため、彼

の会話についていけない。優しそうな性格だ

が、実際は危険人物。ロックを愛し、よく徹夜

しているためクマがひどい。弟との関係は微

妙。


Ⅰ 兄弟

オレには二人の兄弟がいる。


その一人が目の前にいるこの、兄弟なんて認めたくも

ない麻辣ザリガニのマヌケ野郎。


日差しが強い午後、昼寝にちょうど良い時間だ。

軒下で横になってウトウトしていると、そよ風が

目が覚めるような強烈な血なまぐさい匂いを運

んできた。


目を開けるとそこには全身を真っ赤に染めたマヌケ野郎が見えた。傷だらけのところを見ると、また何か楽しいことでもしてきたんだろう。


オレはその傷と麻辣ザリガニの顔に広がる得意そうな笑みを見ながら、傷薬の中にあいつが叫び声を上げて飛び上がりそうなものを加えた。


オレは調合し終わった薬を一緒に来ていた辣条に渡した。案の定、辣条は躊躇なく、その薬を麻辣ザリガニの傷口に塗りつけた。

オレは彼女が麻辣ザリガニの傷の上で何度か指を動かすのを見ながら、これで昼寝を邪魔されたイライラが解消できると喜んだ。


「お前、何をした!イテテテ!許さねえぞ!」


わめき続ける麻辣ザリガニを無視し、背を向けて手に付いた薬の汚れを洗い落とした。

もう一人の口数の少ない方が、珍しくオレの近くに寄ってきた。


「心が痛むかい?」


辣条はオレの言葉を気にもかけず、興味深そうにこちらを見ている。


「今日、あんたとそっくりなやつに会ったわ」


オレは洗っていた手を止めた。水に染み出した塗り薬の色の広がりも、水面のさざ波も動きを止めた。

腰を伸ばして振り返り、顔に笑みを浮かべている相手を見た。彼女が何を言いたいのかは分からなかったが。




辣条が続けた話の内容から、彼女たちが出かけている最中、オレにそっくりな者に出会ったということが分かった。

同じ鋳型から作られたみたいにそっくりで、目のクマまで同じだったという。

あまりにそっくりな様子に麻辣ザリガニは深く考えることもなく、そいつに近づいて声をかけた。


甘い豆花!久しぶりの散歩かよ!テメェは毎日引きこもってあの……ロックってやつばっかりやってるんじゃなかったのか?」


麻辣ザリガニが避けるヒマも与えず肩を叩いたそいつは当然、オレじゃない。


それもそうだ。そいつは怒りっぽい上、オレの名前を聞いただけでキレるほど仲の悪い兄弟だ。


オレよりちょっとだけ遅れてこの世に出てきた双子の弟だ。


Ⅱ 弔い

またこの時期がやってきた。あまり人が近づかないこの辺境の町にはいつも通り誰もいない。


緑の絨毯を敷いたような山の上に、名もない墓が一つ、ぽつりと立っていた。

墓は小石を積み上げただけの粗末なもので、辺りは草が伸び放題となっていた。

その墓は山頂に生えた大きな木の影に立っていた。


その影の中に見覚えのある懐かしい人影が見えた。


そいつは墓参りに来たという自覚は全くないようで、その座っている姿勢はとんでもなく罰当たりなものだった。



「愛する弟よ。まったく久しぶりだな。オレがこんなに

想っているのにお前はオレを避けるもんだから、

兄ちゃんは傷ついているんだぞ」


墓の盛り土の上に腰を下ろし、木陰から陽の光を眺めていたヤツは気のない様子で顔を上げ、引き抜いた野草をこちらへ投げつけた。


「誰が愛する弟だ。よくノコノコ来れたもんだな。感心するよ」


彼の変わらない傲慢な態度に、オレは奇妙な安心感を覚えた。しかしそう考えて、思わずオレは自分の顔を撫でてみた。


こんなふうに感じるなんて……まさか……老けたか?


頭を振ってそんな恐ろしい考えを追い出そうとしたが、久しぶりに会ったヤツを目の前にして思わず笑みがこぼれた。



「何がおかしい?やっとオレのおもちゃになる覚悟ができたか?連続殺人犯で指名手配犯、甘い豆花さん。」


塩辛い豆花は眉をひそめた。オレはあいつが殴りかかってくるんじゃないかと身構えた。

ところが次の瞬間、ヤツは冷静さを取り戻し、皮肉まで口にした。


「今日はお前との決闘にはいい日じゃねえ、また今度だ。必ずお前をオレのおもちゃにしてやるよ。そうすりゃおやじもお前のみじめな様子が拝めて喜ぶだろうよ」



そう、この「凶悪殺人犯」のオレはよく覚えている。

あのバカを父親のように慕っていた塩辛い豆花が覚えていないはずがない。


だから今日は一年のうち、オレたちが顔を合わせてもケンカをしない唯一の日なんだ。


Ⅲ.侘び


王都を離れてそれほど時間が経っていないうちにオレたちの御侍が少し変になったことを知った。


彼の外見はまだ普通な料理人だった。


清潔な料理人服を着て、頭に料理人業界での地位を示す高い帽子を被っているけど、彼の身体からは鉄錆の臭いが漂い始めた。


オレの鼻はとても利く。

それほど人類と接触してきたわけではないが。しばらくして御侍が纏っている血生臭い臭いは人間の血の臭いだと気が付いた。


長い間、オレは困惑した。アホな笑みを浮かべて浮かべて一日中調理場で鍋と包丁とドンチャン騒ぎをする御侍の身体は、いったいどうして血生臭い臭いを放っているんだ?


客たちの話では、オレ達の御侍はとてもうまく、プロといっても過言ではない。


しかし、どれほどうまい料理でも全員の口に合うわけではない。


聞けば南方料理系統に精通している御侍はこの北方の辺境に位置している町で、よく彼の作った南方料理が口に合わないと言ってくる客が居るそうだ。


客達が不満を言うたびに御侍の顔は険しくなり背後で微かに怒りを堪えるために震えている両手が見えた。


あの丸くて太っている顔が、その一瞬の表情の変化によってとても恐ろしく見えた。


金を払いたくないだけで店で誹謗中傷の言葉を発していた客のほとんどは御侍に秘密の個室に招かれた。


謝罪のための特製の品を送るために。


謝罪の後の彼は、いつも元の穏やかで親しみやすい料理人に戻る。



オレはその謝罪が一体なんなのか未だわからない。


ただ御侍を元の状態に戻せるから、いいものだろうなと思っているだけだった。


ある日、オレ達が野外で堕神に遭遇した時、オレが特製の昏睡薬を使ったところを御侍が見ていた。


あれ以来彼は謝罪の品にオレ特製の薬を入れるようになった。


もし彼の言うとおりにしなければ以前護身用に作ってあげた食霊によく利く毒薬を、バカ弟の夜食に入れられてしまうかもしれない。


Ⅳ 父

食霊のオレ達兄弟二人は、父と言うものはどういうものなのかを理解したことがなかった。

彼のしてきた事を知る前のオレは、恐らく彼を父みたいに思ってただろう。


オレたちに温和な笑みを見せてくれた。

オレたちが夜更かしすると、早く寝ろと怒ってくれた。

オレたちがお遊びで演奏したロックを聞いた後笑い崩れた。

帰りが遅くなったオレたちに温かい夜食を用意してくれた……


オレたちはきっとこの老人の最後まで付き添うだろうと、そう思ってた。

彼を見送った後、オレたちは彼のレストランを受け継ぐかもしれない、すべてが落ち着いたら旅に出るかもしれない。


でも、まさかこのような結末になるとは、オレたちは思ってもみなかった。



温和だった彼は、あの失敗の後完全に変わった。

彼はますます怒りっぽくて、短気で、道理がわからないようになった。ひどいときは包丁を振り回して、調理場をめちゃくちゃにしたこともあった。


恐らく、以前の温和はただの虚像だろう。


レストランで消えた客はだんだん増えて、以前偶にしかなかった謝罪もますます頻繁になった。


王国はすでにこの辺境の町に気づいた、ここは以前のように目立たなくなくなった。


レストランの近くでうろうろしている村人の服を着た見知らぬ顔がだんだん増えてきた。


オレは知っていた。この秘密は長く隠せないことを。太陽光の下に暴露されるときはもう遠くないだろう。





その夜、オレは彼を起こして一緒に逃げるつもりだった。

オレと弟の力があれば、彼を庇って逃げることもできた。

たとえこれらの事をやったとしても、たとえ弟を使ってオレを脅したとしても、彼は弟以外の最も大事な人だった。


しかしいつも早く寝た彼は寝室に居なかった。代わりに、調理場の光が点いていた。

明るい窓を通して、あのいつもかまどで忙しく動き回ってる温かくて懐かしい後姿が、相変わらず何かをやっていたのが見えた。


香りを放っている料理を盛っている食器はオレ達兄弟のものだった。

彼はまさに、オレが作った無色無味の昏睡薬を食器に塗っている最中だった。


その一瞬でオレは悟った、すべての感情は、オレたちの妄想だった。

もし今夜逃げる計画を立てなかったら、恐らくオレたちは、彼の次の謝罪対象になっただろう。あるいは、彼の罪を被る身代わりになっただろう。


人間は、異類より同類を信じたがる生き物だから。


オレは部屋に戻った。二度と眠れなかったオレは次第に明るくなって行く空を呆然と見ていた。


目が覚めたら、すべてがただの悪夢だったらいいのにと、オレは切実に願った。



目を擦りながら起きてきた弟を見て、オレはからかいながら彼を怒らせた。

そして"迂闊に"彼に漏らした、噂のあのすべての料理をより美味しくできる調味料は近くの町に現れたと。


その調味料は御侍がオレたちの目の前でよく口にするものだった。


案の定、このアホな弟は拗ねながらその存在しない町へ向かった。




それでは、早くこれら些事を済ませておこう。彼が戻って来る前に。


Ⅴ 甘い豆花

昔の王国には、かなり有名な料理人が一人いた。

彼はさまざまな料理に精通し、最も得意とするのが彼の生まれ故郷の南方の料理だった。


しかしその徳望な料理人は、十年に一度の料理人大会で、パッと出てきた新人に負けてしまった。


その原因はただ、今回の審査員は食べたことのない北方の味に興味を惹かれただけだった。

しかし甘い豆花は知っていた。

彼を負かしたのは、審査員の懐に入れられた金貨だということを。


それが原因で他の競争相手にも馬鹿にされてきた年老いた料理人は、寂しい後ろ姿を残して王都を去った。


しばらくすると、国の辺境町に一人腕の立つ料理人が現れた。最北のこの街にいる彼は、なぜか南方にしかない料理以外は作らなかった。


その料理人の傍には常にそっくりな双子がついていた。

奇抜な髪色をした二人は、噂のあの年老いた料理人の傍にいた食霊と同じだった。


けちをつける客が一人また一人消えていくうちに、王国はすぐこの辺境町で起こった事に気づいた。

長い間徹底的に調査をした後、王国の兵士たちがレストランに突入した時に発見したのは、食卓に座って彼らに冷たく笑いかける甘い豆花だった。


夕日の下で、その黒と白が入り混じった髪色をした青年は、扉を破って入ってきた兵士たちに向けて鮮やかに笑いかけた。彼の手には刃物が握られていた。後ろには彼の御侍の年老いた料理人が静かに立っていた。


満面驚きの料理人は、王国の兵士を見るなり、突然気が狂ったように短刀を取って、兵士たちに向かって振り回した。

最後、兵士と争っている最中、彼が手にしていた刃物はそのまま彼の胸を突き刺した。


その後、レストランの冷蔵庫から大量の死体が発見された。

甘い豆花も客たちの死体に直面して全ての罪を認めた。

豆花を実の息子のように思っていた年老いた料理人をも殺そうとした「事実」も含めて。


あの料理人はなぜ突然兵士たちに攻撃を仕掛けたのか、甘い豆花以外誰も知らなかった。


「だから、てめえは弟のためにあの日を選んで、あの芝居を打って、ついでに御侍の罪をも肩代わりしたのか?」

麻辣ザリガニは脚を組んで茶座に寄りかかって、肘をテーブルにつけて顎を支えながら、片側の眉が飛び上がり笑っているようで笑ってない顔をした。


「てめえにそんな自己犠牲精神があるとは、まったく見えなかったぜ」


麻辣ザリガニに傷薬を煮ている甘い豆花は、ただ軽く頭を上げて冷笑しながら、傍らにある薬箱の中から一握りの蓮子(れんし=ハスの実)をつかんで薬缶の中に放り込んだ。


「ああ!報復だなこれ!!赤裸々な報復だなこれ!」

「それは違う。蓮子には解熱の効果がある。体に良いからたくさん食べるといい」


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コメント (甘い豆花・エピソード)
  • 総コメント数3
  • 最終投稿日時 2018年12月10日 20:28
    • ななしの投稿者
    3
    2018年12月10日 20:28 ID:m0ycoctp

    謝罪の後の彼は、いつも元の穏やかで親しみやすい料理人に戻る。


    俺はその謝罪が一体なんなのか未だわからない。

    ただ御侍を元の状態に戻せるから、いいものだろうなと思っているだけだった。


    ある日、俺達は野外で堕神に遭遇した時、俺が特製の昏睡薬を使ったところを御侍が見ていた。

    あれ以来、彼は謝罪の品に俺特製の薬を入れるようになった。


    もし彼の言うとおりにしなければ以前護身用に作ってあげた食霊によく利く毒薬を、俺のバカ弟の夜食に入れられてしまうかもしれない。

    • ななしの投稿者
    2
    2018年12月10日 20:14 ID:m0ycoctp

    客たちの話では、俺達の御侍はとてもうまく、プロといっても過言ではない。


    しかしどれほどうまい料理でも全員の口に合うわけではない。

    聞けば南方料理系統に精通している御侍はこの北方の辺境に位置している町で、よく彼の作った南方料理が口に合わないと言ってくる客が居るそうだ。


    客達が不満を言うたびに御侍の顔は険しくなり背後で微かに怒りを堪えるために震えている両手が見えた。

    あの丸くて太っている顔がその一瞬の表情の変化によってとても恐ろしく見えた。


    金を払いたくないだけで店で誹謗中傷の言葉を発していた客のほとんどは御侍に秘密の個室に招かれた。


    謝罪のための特製の品を送るために。

    • ななしの投稿者
    1
    2018年12月10日 20:02 ID:m0ycoctp

    Ⅲ侘び


    王都を離れてそれほど時間が経っていないうちに俺たちの御侍が少し変になったことを知った。


    彼の外見はまだ普通な料理人だった。

    清潔な料理人服を着て、頭に料理人業界での地位を示す高い帽子を被っているけど、彼の身体からは鉄さびの臭いが漂い始めた。


    俺の鼻はとても利く。

    それほど人類と接触してきたわけではないが。しばらくして御侍が纏っている血生臭い臭いは人間の血の臭いだと気が付いた。


    長い間、俺は困惑した。アホな笑みを浮かべて浮かべて一日中調理場で鍋と包丁とドンチャン騒ぎをする御侍の身体は、いったいどうして血生臭い臭いを放っているんだ?

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