【白猫】ヴィルフリート(茶熊版)・思い出
落研の帝王 ヴィルフリート・オルクス CV:子安武人 魂を裁可する、落研の帝王。 伝統的な技術の中に、笑いの光を見出す。 | ||
2015/06/09 |
思い出1
……ちょっとぉ!だれもいないじゃないの!
我は永遠の刻を生きる吸血鬼。未練抱く魂を裁可する不死者の王、ヴィルフリートである。
我の裁きは厳正である。いかに怨みが強かろうと、故、正当でなくば力を貸しはせぬ。
我に裁かれ、土に還るか。不死者となり、いくばくかでも恨みを薄め、地に還るか。
いずれの道を選ぼうとも、魂は循環せねばならぬ。
が、少し、高揚はしている。多少、若返った気分だ。
思い出2
***
『……じゃあ、アクーアってのは、なんです?』
『アクーアってのは悪だからな。うっかりすると状態異常にさせられっちまう。こりゃ悪だ。だから悪ーア。』
『そうかねぇ。じゃあ、ゴロレオンってのは?』
『ありゃまんまだな、ゴロゴロしてるからゴロレオンだ。』
『レオンはなんです?』
『レオンってのはアレだよ、メロンのことだよ。』
『メロン?』
『メロンっぽいじゃねえか。しかもゴロゴロしてる。だからゴロレオンだ。』
『そんなもんかねぇ。コボルトはなんでコボルトってんです?』
『アレ見てゴブリンだって奴がいたらここへ連れてこい。コボルトなんだよ。』
『なんだかなぁ。』
『なんだかなぁじゃねぇ、俺が間違ってるか?』
『間違っちゃいねぇけど……じゃあ、ウッホは?』
『ウッホは簡単だ、ウホウホしてるからウッホだ。
ゴホゴホしてるからゴッホってのもいたっていいよ。』
『いや、いねぇだろうけど……ミノタウロスは?
『自分で言ったんだろうな。「俺はミノタウロスだ!」って。そう言われちゃ、そう呼ぶしかねぇもんな。』
『はぁ……ソウルはどうです?』
『なんだよ急に。』
『ですから、ミノとかウッホとか魔物倒すと手に入るあのソウルですよ。ソウルはなんでソウルてんです?
『まあ、答えはあるが……どうする、面白くするか?』
『はあ、じゃあ、一つ面白くお願いします。』
『ソウルは、そうそう売るもんじゃねぇからソウルだ。』
『あんま面白くねぇな。』
『ソカイってあんだろ?バラバラになることだ、逆に、集まっちゃうからカイの反対でウリ、ソウリ、でソウルだよ。』
『なんかイマイチだな。』
『この野郎。じゃあな、あるところに、勇者がいた!
『へぇ、どこにでもいるもんだね。』
『そうだ、たくさんいるんだよ。で、初めての大冒険だ。
おどろおどろしい洞窟の奥、巨大なドラゴンを発見した。
ドラゴンは眠っている。新米勇者は思いついた。起きる前にやっちまおう。
抜き足差し足で忍び寄る。よっぽど新米だったんだな、「そ~っと、そ~っと」って口に出して歩いていく。』
『そんな勇者いねぇや。』
『だから新米だっつってんだろ、誰でも最初は緊張する、慎重になる、違うか?
「そ~っと、そ~っと」近寄っていくと、ドラゴンパチリと目を開けた。
さあその瞬間の葛藤だ。恐怖で逃げたくなりながら、しかしやらねばと覚悟を決めて。
そ~、うるぁ~!
一刀の元に両断し、ぽろっと手に入れたから<ソウル>ってぇのさ。』
『滑稽噺<ソウル>でございました。』
思い出3
<マクラ>とは本題に入る前の四方山話のことである。
『え~、最近とくに暑くなってまいりましたが……
暑い島から来た人はみんな、暑さに強いと思っている人がある。そうじゃありません。
暑いとっから来たって、暑い日はへばる。寒いのだってそう。
ソフィさんっているでしょ。あの子だって、寒さにめっぽう強いわけじゃないの。
あたし聞きましたよ。ソフィさんの国、外は寒いけど、家の中はあったかいんだって。
人間、環境に適応し、自然を飼い慣らし、工夫して暮らしてるんですよ。
ところで、工夫といえば……』
思い出4
しかし……その意見もわかる。ラクゴとは、長年研ぎ澄まされ、完成された芸能だ。たしかに安定感がある。
積み上げ、さらに高みを目指し、ときに崩す……それが我の理想とする笑いよ。
……いや。我が妻の、だな……予想、に過ぎぬが……
『やばい! 遅刻だ!』と飛び起きてみたところ、妻がぴくりと反応したのを我は見逃さなかった。
我が学生だというギャップを利用し、たたみかけ――
――妻を目覚めさせることが出来れば……
過剰な期待はせぬが……あるいは……今度こそ……!
思い出5
――妻の目覚めは、我の悲願なのだ……
我は工夫せねばならぬ。しかも、笑いで。
告白は、その先にあるのだ。
――それにからめて、告げることも出来るやもしれぬ。
主人公……冥府の底よりも、さらに静かな男よ。
そなたの発想には、我も一目置いている。
再び、我に力を貸してはくれぬか――?
思い出6
不死者の帝王である我にも、隔たり無く注ぐ希望の灯――
……そうか、あれか……
普段はギャグばっかだけど、アンタはけっこー立派な奴だ!胸張って突撃なさいな!
行ってくる。
***
『……え~、では、毎度ばかばかしい小噺を一席……』
『あらあんたどうしたの、そんなへべれけで。』
『なにをこんにゃろう、亭主が酒呑んで何が悪いってんだ。
『悪いなんて言ってませんよ。でももうお寝よ。』
『寝ない。飲む。』
『そんな酔ってまだ飲むの。飲ませませんよ。飲んでなきゃ飲ませますけど、飲んでんだから飲ませません。』
『なんだと? 女房のくせして、俺は亭主だぞ。飲むったら飲む。鼻からだって飲んでやる。』
『飲ませません。』
『あのねぇ、そう上からガミガミ言うんじゃないよ。』
『じゃあなんて言えってんです。』
『「ずいぶんとお召し上がりですが、外は外、内は内。
私の酌じゃお嫌でしょうが、一杯召し上がりませんか?」そう聞かれてごらん。
それなら俺も、そうか、もうよそうよ、と、そうなるんだよ。』
『ずいぶんとお召し上がりですが、外は外、内は内。
私の酌じゃお嫌でしょうが、一杯召し上がりませんか?』
『じゃあ飲もう。』
『なんだい!!』
『いいから飲むってんだよ。なんかつまむものないかい。』
『鼻でもつまんだら。』
『馬鹿いっちゃいけねぇ。』
『もう、ない、なんにもないの。あたしが全部、食べちゃった。』
『食べちゃったってなんだい、「いただきました」って言うもんだろ。』
『いただきました。言い方変えたってないもんはないんだから。』
『じゃあちょっと何か買ってきておくれよ。』
『こんな時分にかい?』
『まだやってるよ、角の、あそこの、あの……あの店、まだやってんだよ。』
『ハイハイ、仕方がないねぇ。なにがいィんだい?』
『あのねぇ、おめぇさんは女房なんだから、俺の喰いたいもんくらいわかるでしょうよ。』
『わかんないわよ。あとで「これじゃない!」なんてのも嫌だし。』
『いいからも、ごちゃごちゃ言ってないで、サーっと行けってんだよ。
もたついてんじゃないよ。化粧なんていいんだよお前は、だれもお前のナリなんか気にやしないよ。
ほら、行け。行けってんだ!
――行っちまった。
…………
世界広しといえど、この飲んだくれの相手をしてくれんのは、あいつくらいだねぇ。
器量だって悪くねぇんだ。「奥様お綺麗ですね」って、近所でも評判だよ。
俺だってそう思ってる。でも、そんなこと言えねぇんだ。言えねぇんだけどさ。
心の中ではいつも「ありがとう」って感謝してる。だけど口が反対に動いちまうんだ。
ああ、許してくれ。貴方みたいな素敵な人、俺なんかにゃもったいね――
なんだ! まだいやがったのか!
さっさと、行ってらっしゃいませ!』
「……ふふふ……」
「――!」
「…………」
「…………」
「……いいお噺ね。」
「――くくく。そうであろう。
この時を待ちわびていたぞ……!
我が、妻よ……!」
覚醒絵・覚醒画像
落語帝王流家元
昔から、ケチなやつというのはいるもんでございますな。
とある大工が、連れ合いにこういった。
『ちょっと隣いってトンカチ借りてきなさい』
『いや貸してくれないんですよ。トンカチで釘たたくと、トンカチがちびるでしょうって』
『こいつはケチなやつだねえ。しょうがない。うちのトンカチ出しなさい』
故に……我はこの言葉で締めくくろう。
お後が……よろしいようで!
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