【白猫】ヴィルフリート(茶熊版)・思い出
落研の帝王 ヴィルフリート・オルクス CV:子安武人 魂を裁可する、落研の帝王。 伝統的な技術の中に、笑いの光を見出す。 | ||
2015/06/09 |
思い出1
…………
ヴィルフリートだ。
貴様らか。
おいっすー。
…………
ちょっとキャトラ、なれなれしすぎるよ……
いいじゃない。いつまでもビビってることはないもの。
……好きにするがいい。
ヴィルフリート、おいっすー。
!? 貴様、背後背後!
えぇ!? アタシのうしろに、だれか――!?
……ちょっとぉ!だれもいないじゃないの!
……くくく。
……そういえば、ヴィルフリートさんの服も、学生服なんですか?
改造はした。ただの学生服では、我には釣り合わぬ。
(ヴィルフリートさん、お裁縫できるんだ……!勧誘しようかな……)
そうね。アンタ、そ~と~なトシだもんね。
笑止。学びの資格は、齢に左右されるものではない。
あ、まともなこと言ってる。
修学に終わりはない。死するまで、いや、死してなお、な……
……ヴィルフリートさんは、<執心のルーン>で魂を裁いてるんですよね?
そうだ。未練抱く魂が列をなし、我に陳情をする。『蘇らせてくれ』とな。
よみがえったら……不死者なのよね……
無論。
あんまりやりすぎちゃうのは……
キャトラよ。我を誰だと思っている。
我は永遠の刻を生きる吸血鬼。未練抱く魂を裁可する不死者の王、ヴィルフリートである。
我の裁きは厳正である。いかに怨みが強かろうと、故、正当でなくば力を貸しはせぬ。
そう簡単にはよみがえらせないってことね。
たとえ蘇ること叶わずとも、死者の嘆きは聞く。
……一人一人、全ての魂とお話するのですか?
そうだ。
とても忙しいのでは……?
どれだけ刻を費やそうとも、聞けるものが耳を傾けねばならぬ。でなくば、亡者どもは、いったいどこへゆこう。
我に裁かれ、土に還るか。不死者となり、いくばくかでも恨みを薄め、地に還るか。
いずれの道を選ぼうとも、魂は循環せねばならぬ。
……そうですね。
相変わらず、仕事は真面目にやってるみたいね。
当然だ。
そんなカッコウしてさ、ちょっとハシャイでるのかと思ってたわ。
ハシャイでなどおらぬ。
が、少し、高揚はしている。多少、若返った気分だ。
ふふふ。ヴィルフリートさん、イケてますよ!
やはりな。
思い出2
ねーねーヴィルフリート。オチ研? だっけ、それについて聞きたいんだけど。
オチ研とは、ラクゴを研究する部活である。
ラクゴというのは、アオイの島などに伝わる、お話で人を笑わせる古典芸能なんですよね?
うむ。
アタシ知らなかったんだけど、ラクゴって有名なの?
エンチョーやシンショーといった名人が、有名であるな。
ぜ、全然わかんない……!
不勉強な猫よ。
猫なんだからいいじゃない!
だが話せるであろう。ラクゴは言葉がわかれば誰でも楽しめる芸であるぞ。
うぐっ。
仕方あるまい。我が一席ぶってやる。聞いていくがよい。
おっ! おねが~い!
少し時間をもらう。
***
『……じゃあ、アクーアってのは、なんです?』
『アクーアってのは悪だからな。うっかりすると状態異常にさせられっちまう。こりゃ悪だ。だから悪ーア。』
『そうかねぇ。じゃあ、ゴロレオンってのは?』
『ありゃまんまだな、ゴロゴロしてるからゴロレオンだ。』
『レオンはなんです?』
『レオンってのはアレだよ、メロンのことだよ。』
『メロン?』
『メロンっぽいじゃねえか。しかもゴロゴロしてる。だからゴロレオンだ。』
『そんなもんかねぇ。コボルトはなんでコボルトってんです?』
『アレ見てゴブリンだって奴がいたらここへ連れてこい。コボルトなんだよ。』
『なんだかなぁ。』
『なんだかなぁじゃねぇ、俺が間違ってるか?』
『間違っちゃいねぇけど……じゃあ、ウッホは?』
『ウッホは簡単だ、ウホウホしてるからウッホだ。
ゴホゴホしてるからゴッホってのもいたっていいよ。』
『いや、いねぇだろうけど……ミノタウロスは?
『自分で言ったんだろうな。「俺はミノタウロスだ!」って。そう言われちゃ、そう呼ぶしかねぇもんな。』
『はぁ……ソウルはどうです?』
『なんだよ急に。』
『ですから、ミノとかウッホとか魔物倒すと手に入るあのソウルですよ。ソウルはなんでソウルてんです?
『まあ、答えはあるが……どうする、面白くするか?』
『はあ、じゃあ、一つ面白くお願いします。』
『ソウルは、そうそう売るもんじゃねぇからソウルだ。』
『あんま面白くねぇな。』
『ソカイってあんだろ?バラバラになることだ、逆に、集まっちゃうからカイの反対でウリ、ソウリ、でソウルだよ。』
『なんかイマイチだな。』
『この野郎。じゃあな、あるところに、勇者がいた!
『へぇ、どこにでもいるもんだね。』
『そうだ、たくさんいるんだよ。で、初めての大冒険だ。
おどろおどろしい洞窟の奥、巨大なドラゴンを発見した。
ドラゴンは眠っている。新米勇者は思いついた。起きる前にやっちまおう。
抜き足差し足で忍び寄る。よっぽど新米だったんだな、「そ~っと、そ~っと」って口に出して歩いていく。』
『そんな勇者いねぇや。』
『だから新米だっつってんだろ、誰でも最初は緊張する、慎重になる、違うか?
「そ~っと、そ~っと」近寄っていくと、ドラゴンパチリと目を開けた。
さあその瞬間の葛藤だ。恐怖で逃げたくなりながら、しかしやらねばと覚悟を決めて。
そ~、うるぁ~!
一刀の元に両断し、ぽろっと手に入れたから<ソウル>ってぇのさ。』
『滑稽噺<ソウル>でございました。』
思い出3
え~、わたくしはヴィルフリートと申しまして、大きなことを言うようですが、今ではヴィルフリートと言えば……あたし一人でごさいます。
面白いあいさつじゃない?
うむ。では今日は、ラクゴの<マクラ>について話すとしよう。
マクラ?
ラクゴには様々な噺がある。
<マクラ>とは本題に入る前の四方山話のことである。
よもやま話?
フリートークみたいなものですね。
そうだ。<マクラ>では、時事を交えたりしつつ、客をあたため、本題へ導入する。
『え~、最近とくに暑くなってまいりましたが……
暑い島から来た人はみんな、暑さに強いと思っている人がある。そうじゃありません。
暑いとっから来たって、暑い日はへばる。寒いのだってそう。
ソフィさんっているでしょ。あの子だって、寒さにめっぽう強いわけじゃないの。
あたし聞きましたよ。ソフィさんの国、外は寒いけど、家の中はあったかいんだって。
人間、環境に適応し、自然を飼い慣らし、工夫して暮らしてるんですよ。
ところで、工夫といえば……』
……と、ここらあたりから本題へと入ってゆく。
おお!ついに<マクラ>の真相が明かされるのね!?
いや、だからいまのである。
え?いまのは世間話でしょ?本題はやくぅ~!
キャトラよ。お前ははっつぁんのような奴だな。
だれよそれ?
そういうとんちんかんな奴が、ラクゴの噺にはよく登場するのだ。
ええ!?アタシはとんちんかんじゃないわよっ!
まさにそんなカンジだ。
ぶ~……!
ふふふ……
思い出4
ヴィルフリート~、またラクゴやってよ~?
気に入ったようだな。
うん、いつものアンタのシュールなカンジよりわかりやすいし。
シュールも大切なのだがな。
しかし……その意見もわかる。ラクゴとは、長年研ぎ澄まされ、完成された芸能だ。たしかに安定感がある。
そーそー。
だが、芸とは進化するもの。過去の作品にしがみつくものではない。
アンタ、新しいお笑いはあんまり好きじゃないじゃない?
過去をないがしろにし、流行だけを追うもまた、笑いの本質ではない。
積み上げ、さらに高みを目指し、ときに崩す……それが我の理想とする笑いよ。
……いや。我が妻の、だな……予想、に過ぎぬが……
……おくさん、とても長いあいだ眠り続けてるんですよね……
そうだ。我への罰のためか、己が意志で眠り、未だ目覚めぬ……
起きそうな気配もない……?
ややある。
おおっ!?
我が妻は、笑いを好む。しかもその目の、いや、耳か。肥えていること、我をはるかに凌駕する。
おくさんの笑いのハードル、すっごく高いっていってたもんねぇ。
眠りながらも、声は聞こえてるんですよね。
うむ。あれは登校初日のこと。
『やばい! 遅刻だ!』と飛び起きてみたところ、妻がぴくりと反応したのを我は見逃さなかった。
なにやってんのよアンタ。
無論、わざとである。朝寝坊する帝王というのも一興かと思いついたのだ。
へいへい。
どうしてその言葉に反応したんでしょうか?
妻は聡い。我の声のみで、全てを察したのであろう。
たった一言で?相当すごいおくさんね。
(おくさん、眠っていても、きっとヴィルフリートさんと通じ合っているのね……)
もしかすると、妻は『学園モノ』を好むのかもしれぬ。
(ホント、似たもの夫婦っていうかどっちもちょっと変わってるのよねぇ……)
だとすれば、これは千載一遇の好機である。
我が学生だというギャップを利用し、たたみかけ――
――妻を目覚めさせることが出来れば……
数千年ぶりに、おくさんと再会できる……?
……かもしれぬ。
過剰な期待はせぬが……あるいは……今度こそ……!
思い出5
…………
アラ? ヴィルフリートだ。
……貴様らか。
……どうかされました?
駄目であった。
なにが?
『間違えて先生のことを、お母さんと呼んでしまった。あるある~』
…………
と、妻に、学校あるあるを33連発してみたのだが。
スベッたのね。
いや、2発ほどはクスクスときていた。
もう起きてんじゃないの、アンタのおくさん……?
いや。未だ目覚めぬ。さながら、出るタイミングを逸した芸人のようにな……
ホントにアンタたち夫婦は……
……ふぅ……
ヴィルフリートさん……?
さすがに堪える。選んだ手段はギャグといえ――
――妻の目覚めは、我の悲願なのだ……
ヴィルフリートさん……
……アイリスよ。以前、そなたは言っておったな。
え?
素直な『起きて』の一言。妻は、それを待っているのではないかと。
……はい。
おおっ!?ついに、言う気になったの!?
気ならば常にあった。しかし、相手は我が妻。一筋縄ではいかぬ。
そんなことは……
妻の期待を知らぬ我ではない。
我は工夫せねばならぬ。しかも、笑いで。
告白は、その先にあるのだ。
……そこまでわかってるなら、なんか方法あるんじゃないの?
そこで、ラクゴである。
ほほう?
ラクゴの噺には、夫婦の絆を描いたものも多い。最適な題材があれば――
――それにからめて、告げることも出来るやもしれぬ。
主人公……冥府の底よりも、さらに静かな男よ。
そなたの発想には、我も一目置いている。
再び、我に力を貸してはくれぬか――?
思い出6
この光……
不死者の帝王である我にも、隔たり無く注ぐ希望の灯――
……そうか、あれか……
おくさんを起こす名案を、思いついたんですね、ヴィルフリートさん!
だが……確実とはいえぬ。
アンタらしくないわよ、不死者のおーさま!
普段はギャグばっかだけど、アンタはけっこー立派な奴だ!胸張って突撃なさいな!
……ふ。
行ってくる。
ゴーゴー!応援してるわよ~♪
***
『……え~、では、毎度ばかばかしい小噺を一席……』
『あらあんたどうしたの、そんなへべれけで。』
『なにをこんにゃろう、亭主が酒呑んで何が悪いってんだ。
『悪いなんて言ってませんよ。でももうお寝よ。』
『寝ない。飲む。』
『そんな酔ってまだ飲むの。飲ませませんよ。飲んでなきゃ飲ませますけど、飲んでんだから飲ませません。』
『なんだと? 女房のくせして、俺は亭主だぞ。飲むったら飲む。鼻からだって飲んでやる。』
『飲ませません。』
『あのねぇ、そう上からガミガミ言うんじゃないよ。』
『じゃあなんて言えってんです。』
『「ずいぶんとお召し上がりですが、外は外、内は内。
私の酌じゃお嫌でしょうが、一杯召し上がりませんか?」そう聞かれてごらん。
それなら俺も、そうか、もうよそうよ、と、そうなるんだよ。』
『ずいぶんとお召し上がりですが、外は外、内は内。
私の酌じゃお嫌でしょうが、一杯召し上がりませんか?』
『じゃあ飲もう。』
『なんだい!!』
『いいから飲むってんだよ。なんかつまむものないかい。』
『鼻でもつまんだら。』
『馬鹿いっちゃいけねぇ。』
『もう、ない、なんにもないの。あたしが全部、食べちゃった。』
『食べちゃったってなんだい、「いただきました」って言うもんだろ。』
『いただきました。言い方変えたってないもんはないんだから。』
『じゃあちょっと何か買ってきておくれよ。』
『こんな時分にかい?』
『まだやってるよ、角の、あそこの、あの……あの店、まだやってんだよ。』
『ハイハイ、仕方がないねぇ。なにがいィんだい?』
『あのねぇ、おめぇさんは女房なんだから、俺の喰いたいもんくらいわかるでしょうよ。』
『わかんないわよ。あとで「これじゃない!」なんてのも嫌だし。』
『いいからも、ごちゃごちゃ言ってないで、サーっと行けってんだよ。
もたついてんじゃないよ。化粧なんていいんだよお前は、だれもお前のナリなんか気にやしないよ。
ほら、行け。行けってんだ!
――行っちまった。
…………
世界広しといえど、この飲んだくれの相手をしてくれんのは、あいつくらいだねぇ。
器量だって悪くねぇんだ。「奥様お綺麗ですね」って、近所でも評判だよ。
俺だってそう思ってる。でも、そんなこと言えねぇんだ。言えねぇんだけどさ。
心の中ではいつも「ありがとう」って感謝してる。だけど口が反対に動いちまうんだ。
ああ、許してくれ。貴方みたいな素敵な人、俺なんかにゃもったいね――
なんだ! まだいやがったのか!
さっさと、行ってらっしゃいませ!』
「……ふふふ……」
「――!」
「…………」
「…………」
「……いいお噺ね。」
「――くくく。そうであろう。
この時を待ちわびていたぞ……!
我が、妻よ……!」
覚醒絵・覚醒画像
落語帝王流家元
命には終りがある。
そうね。不死者の帝王さん。
全てのものはいつか終わる。
お別れするのは、悲しいです。
命は生まれることで始まる。始まりがあるということは、終わるのが道理というものだ。
さびしい話をしにきたの?
落語にもオチがある。だからこそ落語なのだ。
え?
まいどながらおしゃべりを一つ。
昔から、ケチなやつというのはいるもんでございますな。
とある大工が、連れ合いにこういった。
『ちょっと隣いってトンカチ借りてきなさい』
『いや貸してくれないんですよ。トンカチで釘たたくと、トンカチがちびるでしょうって』
『こいつはケチなやつだねえ。しょうがない。うちのトンカチ出しなさい』
オチがついたら、蛇足は不要。命も、ラクゴもな。
故に……我はこの言葉で締めくくろう。
お後が……よろしいようで!
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