【黒ウィズ】ぽっっ!かみさま Story5
五章 おいもの花の咲く頃に
story1 根っからのお人好し
story2 「淀み」産みの神話
story3 ふわっと再会
story4 古の傷痕
story5 旅の総括
再び稼働を始めたテッラーロの車を君たちは満足げに眺めていた。
イーザをはじめとした村の人たちは忘れかけていた村の一面を思い出したようだった。
それはかつて見た原風景のようなものなのだろうか。
一度も車が動いているところを見たことが無いはずなのに、彼らは心が震えているようだった。
また本の中に戻るのか?
と、コロッココは本を取り出した。グレイスが持っていたものに似ている。
おそらくリュディが作った本だろう。
イーザとコロッココは顔を見合わせる。視線の位置は不揃いだが、そこには同じ光が宿っていた。
異種のふたりが手を取り合うのを見て、カヌエが持っていた杖の石突で地面をぽんと叩いた。
じゃあ、解決したところで、みんなで歌うかねえ。
そう言えば、村の人を呼びに行くと言ってまだ帰ってきていない。
村の人たちはもうここにいるのに、彼女だけ帰って来ない。
一陣の風が吹くと、リザが怪厨そうな顔をして呟いた。
彼女がそう言い終わる前に、君たちの前にふらりふらりと幽鬼のようによろけながら、エルフが現れた。
その手は血で濡れていた。
もはや正常な判断すら出来ていない。君は突っかかってくるエルフに向けて魔法を放った。
直撃し、作裂し、エルフは他愛もなくその場に崩れ落ちた。
それとも外の世界が一変していたので、ショックを受けているのか。我々よりも石頭だな。
エルフは君を見る。
魔法を使う。リュディのことだろう。
リュディが何を考えて、あなたを生かしたのかは知らないけど、そのことが受け入れられないなら。
いつでも私が殺してあげる。ただし、その手についた血がグレイスのものなら……いますぐ殺す。
君も同じことを考えていた。
血塗れの爪。
帰ってこないグレイス。
良くないことを考えるなという方が難しい。
エルフの鳴咽が緊張した時間を引き延ばす。
朗らかな気配を取り戻しつつあったその場に、場違いな叫びが上がった。
エルフはグレイスを見ているようでもあり、焦点の定まらぬ視線を宙に漂わせているだけのようでもあった。
グレイスが土人形に運ばれていくエルフを見送る。
君はグレイスに対するリザの態度が妙だと思った。いつもより隔たりがあるようだった。
グレイスのことを一番心配していたのは彼女だったはずだ。
なぜだろうか。
***
君たちはポルデーヘの旅を終え、サンザールに戻って来ていた。
まだクエス=アリアスに帰ることも、ウィズに会うことも出来ないが、少しは情報が手に入った。
ウィズはリュディと行動している。そしてエルフの封印に関係しているようだった。
目の前の皿にはソースのかかった小さい団子のようなものがいくつも盛られていた。
君は目の前に出された変わった料理について、リザに尋ねる。
御子が神様のこめかみを責め立てるのを横目に、手に入れたリュディの本を読みふけるグレイスに声をかける。
放っておくと、食事すら忘れるほど本を読んでいるのだ。
大げさな表現だが、彼女にとって本を読むことは生きることに必要なことなのだろう。
グレイスは持って来た本をテーブルの上に置いた。
グレイスが2冊の本を重ね合わせ、一方をぺらぺらと繕いていくと本が輝き始めた。
その光は細い帯となって部屋の一隅に飛んでいった。すると。
食事もひと段落したところで、リザが立ち上がった。
えらく芝居がかったことを言い出したのを見て、君は、来たな、と思った。
まほーつかいさーん。いっぱい食べてね。
いつもと少し違う明るいニュアンスだったが、相変わらずグレイスは安定しているな、と君は思う。
もう。せっかくいっぱい作ったのに残っちゃったら、とっても悲しいんだぞ! だから。
いっぱい食べてね、魔法使いさん! ……おえ。
体が悲鳴をあげてるよ。
でも、すごく努力しているのはわかった、と君は言う。
ふむふむ。で?
は?
ないない。
本当にないよ。ほんとうに。と君が言うと。
ぷいと君に背中を向けて、食器を片付け始めた。君は、そういう態度良くないと思うよ、と諭した。
もの凄く態度が悪かったので、君は思わず、そういう態度良くないと思うよ! と同じことを2回言ってしまった。
気を取り直して、肘をつんつんしてくるカヌエの番である。
と、グレイスの耳元で何かを囁く。
なかなか長いごにょごにょが終わり、カヌエが君の前に立った。なぜかグレイスがカヌエの後ろに隠れている。
いっぱい食べてみるっしょ一。にょほほほ、美味しいから、いっぱい食べてほしいっしょ一。
何をやってるんですか? と君はカヌエの頭をむんずと掴んだ。
突然負け犬ふたりが徒党を組み始めた。
神様のくせに他力本願なのはどうなのか。そもそもひーきはしていない。
それにこの提案にのるグレイスもグレイスだ。そういうタイプだとは思わなかった。
こういうことを喜んでするのは、ウィズタイプだ。
ふと君は思う。以前はバロンタイプだと思ったが彼女は意外とウィズタイプなのかもしれない。
まあ、同じネコ科だから似ている所があるのかもしれない。
いや、そういう問題じゃないな。
この勝負……。
***
君は何のことだろう、と思った。
エルフはあなたを殺したと思っていたはずよ。なのに、なぜあなたは生きてるの?
グレイス。あなた、一体何者?
君もカヌエもその言葉に、呆然とするほかなかった。
焚火の周りには冷たい敵意だけが漂っていた。
「リュディガー・シグラーだな?」
毛布の上に腰かけているリュディに対して、兵士たちは十数人。しかも油断なく槍を構えている。
「ええ、そうです。」
リュディが飲みかけの茶を焚火の中に捨てる。わずかに白い煙があがった。
ただ、それだけで兵士たちの軸足に力が入る。勇気よりも恐れに支配された動きだった。
「来てもらうぞ……王殺し。」
「にゃ……? リュディ……。」
かすかに漏れたウィズの声に反応して。リュディは微笑んだ。
「ここに来てから、いろいろあってね。」
ぽっっ!かみさま
~土のエルフと黒猫の人~
-END-
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