【黒ウィズ】ぽっっ!かみさま Story2
二章 大低地ポルデーヘ
story1
自分がさ~、ちっぽけだってさ~、教えてくれっからね~。くれちまうからね~。
story2
絞ったローブをパンツと強く振ってしわを伸ばす。船のマストにくくりつけると、ローブは風を受けてはためいた。
乾いても、潮の匂いは消えないだろうから、ちゃんと洗濯しないといけないな、とその光景を見ながら君は思った。
おなつ? 懐かしいという意味だろうな、と思いながら、君もカヌエに挨拶を返した。
前に時間がぐにゃあとなった時に、それをー緒に解決したのが、カヌエだった。
君に尋ねたのは、カヌエと対となる神ソラである。彼女の不思議な釣り針の力で、君は船に引き上げられたのだ。
それにしても、オルハの協力で閉じかけていた歪みを通ってこれたものの、まさか海のど真ん中に落ちるとは思わなかった。
カヌエと出会わず、ソラの不思議な釣り針で釣り上げられなかったら、どうなっていたか。
考えるのも恐ろしい。ウィズも同じような目にあっていたらと思うと、さらに恐ろしい。
そうかもしれない、と答える。魔界から自分たちの世界へ向けて旅立ったリザと出会ったのにも驚いた。
グレイス。彼女だけは初めて会った。話によるとリュディが書いた本を集めているらしい。
リュディもリザも子どもの頃から知っているよ、と君は彼女の質問に答える。
君は以前のことを思い出す。
可愛かったよ。と君は答える。
昔は。
せっかくだから一緒に大低地ポルデーに向かうっしょ。
君もその案を受け入れる。それ以外に何も手立てもなかったからだ。
男衆たちの野太い声が船底から響き渡る。マッサが打ち付ける太鼓の音に合わせて擢が漕がれ、波を突き破っていく。
船旅はまさしく順風満帆で進んでいた。いつしか太陽も空の真上に昇って、水面にはその光が乱反射している。
カヌエがぽつりとつぶやいた。
なぜか呼吸を合わせたように、グレイスも続いた。
なんだかよくわからないが、何かが始まりそうだった。
やりましょう。お料理を!
***
イカははらわたを取ってくださーい。理由は気持ち悪いからー。海老のせわたも取ってくださーい。理由は気持ち悪いからー。
水気が飛んだら、水とサフランと一緒に他の魚介をぶちこみまーす。ひと煮立ちさせたら、魚介を取り出しまーす。
代わりに生米入れまーす。強火でいきまーす。カヌエさん、生麦生米生卵。はい3回復唱して。
は一い、これで完成でーす。今回の料理のコツは、余計な水分は飛ばせ!!です。
何だか色々あって、君の前にはパエリアがあった。―ロ食べる。うまい。うますぎた。
魚介ってなんでおいしいんだろう。魚介って、どうしてこんなに無条件でおいしいと思えるのだろうか。
このままじゃ海産物はいずれ滅びるな、人に食べ尽くされて。そんなことすら思うほど、おいしかった。浮かれていた。
食感もいい。お米がプチプチしている。さらに焦げた部分も香ばしくて美味しい。
パが多いな、と思いながら、君はさらに食べ進めた。やっぱりおいしい。
君は素直な気持ちをリザに伝える。
見直したよ、と。
潮風、心地よい太陽、美味しい食べ物。あったかい幸せがそこにあった。
君はふと、師匠元気かなあ、と思いながら、パパパエリアにレモンを搾った。
ただの子どもじゃないか? と思ったが、君は黙っていた。
どうもカヌエを信仰するヴィジテとソラを信仰するマニフエでは食べるものが違っているようだった。
この船はマニフェのマッサが用意した船である。
釣りの神でもあるソラを信仰するマニフェには漁業や海運業を行っている者が多い。
船旅には慣れっこなのだろう。彼らは釣ったばかりの魚をさばいて、黒いソースをつけて、食べていた。
料理というかなんというか。船旅ならではの食べ物なんだろう。
ソースだけ味見させてもらったが、塩辛さの中に深みや旨味があった。
ただ、もう少し出汁が利いていてもいいように思った。個人の好みかもしれないが。
君は腹具合と相談した。入ると言えば入るが、入るだけで体が喜びはしないだろうな、と思った。
ふと、以前リザに畜生鍋を勧められたことを思い出した。あの時は勧められて得体のしれない物を食べた。
***
「魔法使い? おかわりいる?」
「おかわり、いる?」
断れない。無邪気さは時に凶器となるのだ、と君は思った。
顔には出さなかったが渋々と君はおかわりを頼んだ。
「はい、魔法使い! いっぱい食べてね。好き嫌いすると大きくなれないよ。」
***
ああ、あったわねー。結局あのお肉って何のお肉だったんだろうね。
あの時は食べたくなかったけど、断れなかったよ、と君は言う。
すると隣で聞いていたグレイスが立ち上がった。
チャンピョンが逃げちゃダメっしょ。にょほほほ。それとも、負けるのが怖いのかい、チャンピョーン?
にょっほっほっほ……。リザ! 私が勝ったら、あんたのこめかみをグリグリするからね!
息を吸うようにグリグリしないで欲しいねえ……。
なんでもいいから、やりませんか? と君はわちゃわちゃしている神様と少女たちに言った。
はー、やれやれ肩が重いねえ。膝の関節が立ち上がる度に痛むねえ。朝起きると、腰も痛いねえ……。
でもそんな時は!
パエリアいっぱい食べたら吹っ飛ぶっしょーー!元気いっぱいになるっしょ一!
だからほれ? 魔法使いさん、いっぱい食べてみ。
そういうことじゃないよね?
ちょっとというか、かなりズレていた気がする。
はい、魔法使い、いっぱい食べてね。
全盛期を超えてないね。
君はもうグレイス優勝でいいんじゃないか、と思ったが、とりあえず聞くことにした。
だから魔法使いさん、いっぱい食べてください。
優勝、グレイス。
負けたふたりはあからさまに不機嫌になった。しかし、あれで勝てると思うのは少し違うな、と君は思う。
そう思ったら、ふたりの態度がむかついてきた。
少しのわだかまりを生みつつも、君たちは目的地である大低地ポルデーに到着した。
story3 黒猫の人とポルデー
船着き場を離れ、内陸部へ歩いてゆくと、そこは一面に赤や黄色の花が咲き誇る美しい場所だった。
時折、顔をくすぐる風は花の香りも運んできてくれた。
きれいな場所だね、と君は言う。
芋はこの国の名物だ。かつては芋の栽培と輸出が主な産業だった。最近はそうでもないらしいけどな。
そう言いながら、ちょこらちょこらとカヌエが花畑ならぬ芋畑の畔道を進んでいった。
あの神様、旅先ではいつもあんな感じなの? と君は尋ねた。
魔法使いさんも旅をすることが多いんですか? アタシもずーとリュディガ一さんの本を探して旅をしてきたんですよ。
そうだね。急にやりたくもない旅をすることも多いけど、と君は答える。
ふと、君はとっておきの旅あるあるを披露してみようと思った。
君は塩が無くなった時に、袋の底にたまった細かい塩で―食分まかなえた時のうれしさあるあるを言った。
あの、ちょうど使い切れた時の喜びは旅のちょっとした嬉しさでもある。
旅をする者同士にしかわからない経験だ。
あまり伝わらなかった。
しかも、真顔で詳細を尋ねられてしまった。一体何を説明すればいいのだろうか?
あるあるというのは、他人同士が同じ経験を共有していたという事実、つまり「あるある」感が楽しいのだ。
それを、こういう経緯で、こういうことがあって、と経験のない相手に説明するのは「あるある」ではない。
「あったよ」という事実の報告である。何も面白くない。
君が、面倒なことになったな、と思っていると、リザが会話に入ってきてくれた。
***
カヌエの所に行くと、彼女はすでに誰かをつかまえて話し込んでいた。
明らかに、ヤバめの人たちだった。よく話しかけようと思ったものだ。
しかもわかりやすい悪党である。
この女は俺たちの雇い主に借りた金を払ってねえんだ。その話をしているだけだ。
男が少女の足元にある を蹴り上げた。
君はカードを取り出す。それを制するように、すっと前に出たのはリザだった。
何事もなく、男たちの側に歩いていく。その中のひとりの肩に手を置き、労うようにぽんぽんと叩いた。
ぽんぽんと肩を叩くリザの手が勢いをつけて弾み、そのまま男の顎を貫いた。
男が脳天を揺らして、崩れ落ちた。
殴り倒しておいて言うか、と思ったが、君も同じ気持ちではあった。
空気がー気に変わった。男の仲間たちが腰に下げていた物騒な刃物を取り出し、構える。
……リザ! 魔法使い! この人たちを懲らしめるっしょ!
君は、暴力ではなくて魔法だよ、と一言訂正を入れてから、荒くれ者たちに向かった。
こてんぱんに懲らしめた男たちは泡を食って逃げ出して行った。
あるあるだね、と答え、君は服についた汚れを払った。
***
それで、なんとかやりくりしていたんですが、徐々に取り立てが厳しくなってきたです。
元々この土地は海抜より低いので、土壌に塩分含有量が多く、植物が育ちにくかったそうです。
それでも300年ほど前に、土壌が大きく変化して、とても実りの豊かな土地だったのですが……。
どうやらいもの不作が、農家である彼女の生活に大きな打撃を与えたようだ。
君は彼女が用意してくれたお茶をーロ啜る。見た時からわかっていたが、お湯みたいな昧がした。
お茶の葉が、出からしをさらに出からしにしたような葉なので、うっすら赤いだけだった。
もういっそのこと白湯を出してくれた方が、切ない気持ちにならなくて済むくらいである。
だが、このお茶の味が、彼女の生活の困窮具合を何よりも雄弁に物語っていた。
そしてこれは、あまり触れてはいけないことなんだろう、と君は思う。
神様だからって言っていい事と悪い事がある。テーブルの下で小突いて注意しよう、と君は思った。
と思ったら、殴った人がいた。テーブルの下で脇腹を殴ったようだ。
魔界育ちだから神様への接し方がざっくばらんなんだろう。いいように言えば。
君はおかわりをする振りをして、こっそりとポットに自前の茶の葉を足す。これで問題は解決した。
300年前の土壌の変化もリュディやエルフが何か関係しているような気がするわ。
エルフの仕業だったら、またエルフたちを鎮めれば、おいもの不作も解決するかもねえ。
***
台所から木皿を抱えてイーザが戻ってくる。
ふかした芋が出てきた。シンプルにふかした芋だけだった。
これもあまり言ったらよくないことなんだろな、と思いながら、君はいもを手に取った。
君たちはふかしたいもを手に取り食べた。本当に芋だけだ。味もない。いやまあ、芋自体は美味しいが。
やっぱり物足りない。
君は素朴な味というのはとてもいい表現だな、と思った。美味しいと言っているようで言っていない
君は神様たちの方を見た。
めちゃくちゃ気の乗らない返事だった。やっぱり神様だからお世辞とかへ夕なんだろうな、と思った。
言うよりも言われる側だからダメなんだろう。環境が悪いんだろう。
と、イーザは台所から何かを持って来た。
料理に必要なものは、やはり塩だな、と君は改めて思った。
芋とバターの組み合わせに、君の舌はまるで別の生き物のように喜んだ。
バターって……体が喜ぶのがわかるよね、と君が言うと。
伝わらなかった。ちょっと詩的過ぎたかもしれない。
そして、やっぱりグレイスはちょっと苦手だと思った。
story4 土のエルフを探して
よる~、よる~、よる~。か~らの~。
ぽっかぬえ!!
というわけで、次の日は朝から土のエルフ探しが始まった。
そういえば、ウィズ探しはー向に進んでいない。本当に別の時代に行ってしまったのかもしれない。
よくよく考えれば、途方もないことである。どうやって再会すればいいのかすらわからない。
そしてそれは……。
君は率直に自分たちが大変な状況に陥っていることを説明した。だが彼女の反応は薄かった。
それに、隣の神様が大丈夫大丈夫って言ってるから、気が抜けちゃった。何とかなるんじゃない?
君は声を上げる神様を見やる。伊達に神様をやっているわけじゃないんだな、と思う。
困っている人を安心? させることが出来るのは、そう簡単なことではない。
良い影響を与えているのだろう。
***
そんな方法で見つかるの? と君はグレイスに尋ねる。
今回は~匂いで探しま~す。さっそく、クンクン匂い嗅いでいくから~私についてきてほしいっしょ~。
そう言うとカヌエは鼻を鳴らして、歩き始める。
本当に大丈夫なのかな? 君の不安そうな言葉を聞いて、リザが言う。
これは一概にいい影響とは言えないな、と君は思った。
まるで新手の宗教のようだ。
……いや、そういえば宗教だった。
たどり着いたのは丘のふもとにある洞窟だった。
現れたのは、少女のように体の小さなエルフだった。しかし、妙に威圧的な言葉を投げかけてくる。
ぎらりと光るその目に敵愾心が宿っている。
コロッココにカヌエが尋ねる。
300年前に黒猫の人と交わした約束はもう期限切れだ。だから人には力を貸さない。
それに約束を破ったのはお前たちだからな。
え? 自分? と君は思う。思い出そうとするが、そんな記憶はない。
というか、ここに来たのも彼女に会ったのも初めてだ。
君が、そんなことってあったっけ? と尋ねると、コロッココはカッと目を見開く。
ウィズだ、と君は確信した。
一章 冬の時代
二章 大低地ポルデーヘ
三章 黒猫の人とポルデー
四章 風車の復活
五章 おいもの花の咲く頃に
ぽっかみ! | |
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