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【黒ウィズ】ぽっっ!かみさま Story2

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二章 大低地ポルデーヘ


Story1 再会のどぼん

Story2 旅は道連れ

Story3 ポルデー散策

Story4 土のエルフを探して




story1


海は~いいよね~。

自分がさ~、ちっぽけだってさ~、教えてくれっからね~。くれちまうからね~。

その気持ちはわかるけど……。神様が言うことじゃないわよね。

神様だって~、たまに自分がちっぽけだって思うこともあるからね~。

神様がブレるなよ。

海、アタシも好きですよ。ざぶーん、ざぶーん、ざざー……。波の音に風の音。聞いているだけで、心が癒されますよね。

そうだね~。いいよ~。波の音。ざぶーん、ざぷーん、ざざ一。ざぶーん、ざぷーん、ざざー。ってさ。

うん。いいですよね!

ざぶーん、ざぶーん、ざざ一。ざぶーん、ざぷーん、ざざー。

私はあなたたちの気の抜けた声しか聞こえないんだけど……。

ざぶーん、ざぶーん……。どぼん?

大変! 海に誰か落ちたみたい!

助けましょ!




story2


絞ったローブをパンツと強く振ってしわを伸ばす。船のマストにくくりつけると、ローブは風を受けてはためいた。

乾いても、潮の匂いは消えないだろうから、ちゃんと洗濯しないといけないな、とその光景を見ながら君は思った。

いやー、久しぶりだねえ。おなつだねえ。前に時間がぐにゃあってなった時、以来だねえ。

おなつ? 懐かしいという意味だろうな、と思いながら、君もカヌエに挨拶を返した。

前に時間がぐにゃあとなった時に、それをー緒に解決したのが、カヌエだった。

私の釣り針はどうだった? 怪我はないだろう?

君に尋ねたのは、カヌエと対となる神ソラである。彼女の不思議な釣り針の力で、君は船に引き上げられたのだ。

それにしても、オルハの協力で閉じかけていた歪みを通ってこれたものの、まさか海のど真ん中に落ちるとは思わなかった。

カヌエと出会わず、ソラの不思議な釣り針で釣り上げられなかったら、どうなっていたか。

考えるのも恐ろしい。ウィズも同じような目にあっていたらと思うと、さらに恐ろしい。

私とリュディと同じかもしれないわね。別の時代に行っちゃったのかも。

そうかもしれない、と答える。魔界から自分たちの世界へ向けて旅立ったリザと出会ったのにも驚いた。

魔法使いさんはリュディガ一さんともお知り合いなんですか?

グレイス。彼女だけは初めて会った。話によるとリュディが書いた本を集めているらしい。

リュディもリザも子どもの頃から知っているよ、と君は彼女の質問に答える。

へえー、子どもの時のリザってどんな感じだったんですか?ちょっと気になります。

それはちょっと気になるねえ。

君は以前のことを思い出す。

可愛かったよ。と君は答える。

え一、そういうのちょっとやめてよー。恥ずかしいじゃない。

昔は。

いまもだろうが。

にゃほほほ。言われちゃったねえ。大人になるというのは、えてしていろんなものを失うからねえ。

私は何も失ってない。

にょほほほ。そういうことにしておきましょう。ま、何はともあれ、旅の道連れは多い方がいいからねえ。

せっかくだから一緒に大低地ポルデーに向かうっしょ。

君もその案を受け入れる。それ以外に何も手立てもなかったからだ。

よし! マッサ! 全速力で進め! 目指すは大低地ボルデーだ!

かしこまりました! 野郎ども、全速前進だ! 急がねえと、てめえの家の寝床に他所の男が入りこんじまうぞ!

男衆たちの野太い声が船底から響き渡る。マッサが打ち付ける太鼓の音に合わせて擢が漕がれ、波を突き破っていく。

ヨーソロー! ヨーソロー! あ、ヨーソローったら、ヨーソロー!





船旅はまさしく順風満帆で進んでいた。いつしか太陽も空の真上に昇って、水面にはその光が乱反射している。

お腹が空いたねえ。

カヌエがぽつりとつぶやいた。

お腹、減りましたねえ。

なぜか呼吸を合わせたように、グレイスも続いた。

ということは?

なんだかよくわからないが、何かが始まりそうだった。

何か、ということは、だ。……わかりました。お腹が減ってもライムを齧ることしか出来ない、役立たずのために……。

やりましょう。お料理を!


 ***


今日は海の幸をふんだんに使った料理をしまーす。では、海の幸をいい感じに切りま一す。

イカははらわたを取ってくださーい。理由は気持ち悪いからー。海老のせわたも取ってくださーい。理由は気持ち悪いからー。

ひゃー、はらわた、せわた、こわいこわ一い。

貝はそのままぶちこんでくださーい。グレイスさん、玉ねぎのみじん切りは出来ましたか。

涙で前が見えませんー。

じゃ、私がやりま一す。で、イカをフライパンで軽く炒めまーす。玉ねぎ入れまーす。トマト入れま一す。

水気が飛んだら、水とサフランと一緒に他の魚介をぶちこみまーす。ひと煮立ちさせたら、魚介を取り出しまーす。

代わりに生米入れまーす。強火でいきまーす。カヌエさん、生麦生米生卵。はい3回復唱して。

生麦生米生卵。生麦生米生卵。生麦生米生カヌエっしょーーー!!

最後間違えたのでダメでーす。

言葉のあやっしょーー……。

蓋をせずお米は強火で水気を飛ばしてください。お米が見えてきたら、弱火にしてください。

生麦生米生卵。生麦生米生卵。生麦生米生卵。いったっしょーー!

と言う感じで、カヌエさんで遊んでいたらそのうち炊けま一す。最後に取り出した魚介とライムとかパセリとかを盛りま一す。

は一い、これで完成でーす。今回の料理のコツは、余計な水分は飛ばせ!!です。

この料理のお名前はなんですか?

……パエリアです!!音の響きだけで決めました。

ひゃー、パパパパパエリアー! パパパパパエリアー!



何だか色々あって、君の前にはパエリアがあった。―ロ食べる。うまい。うますぎた。

魚介ってなんでおいしいんだろう。魚介って、どうしてこんなに無条件でおいしいと思えるのだろうか。

このままじゃ海産物はいずれ滅びるな、人に食べ尽くされて。そんなことすら思うほど、おいしかった。浮かれていた。

食感もいい。お米がプチプチしている。さらに焦げた部分も香ばしくて美味しい。

パパパパパエリア美味しいですねえ。

パパパパパエリア、激うまっしょー。

パが多いな、と思いながら、君はさらに食べ進めた。やっぱりおいしい。

君は素直な気持ちをリザに伝える。

見直したよ、と。

だからなんで私、マイナスからのスタートなのよ。

潮風、心地よい太陽、美味しい食べ物。あったかい幸せがそこにあった。

君はふと、師匠元気かなあ、と思いながら、パパパエリアにレモンを搾った。





ふー、食った食ったっしょ一。食ったら後は寝るだけっしょー。

ふふふ。食べたらすぐ寝るって、何だか神様っぽいですね。優雅な感じがします。

ただの子どもじゃないか? と思ったが、君は黙っていた。

食ったのはいいけど、残っちゃってるんだけど。全部食べてよ。ソラ、食べる?

ん? 私はもう充分食べたからいいぞ。マニフェのみんなも食べ終わってるな。

どうもカヌエを信仰するヴィジテとソラを信仰するマニフエでは食べるものが違っているようだった。

この船はマニフェのマッサが用意した船である。

釣りの神でもあるソラを信仰するマニフェには漁業や海運業を行っている者が多い。

船旅には慣れっこなのだろう。彼らは釣ったばかりの魚をさばいて、黒いソースをつけて、食べていた。

料理というかなんというか。船旅ならではの食べ物なんだろう。

ソースだけ味見させてもらったが、塩辛さの中に深みや旨味があった。

ただ、もう少し出汁が利いていてもいいように思った。個人の好みかもしれないが。

ねえ、魔法使いはまだ食べられる? 片付かないのよ。

君は腹具合と相談した。入ると言えば入るが、入るだけで体が喜びはしないだろうな、と思った。

ふと、以前リザに畜生鍋を勧められたことを思い出した。あの時は勧められて得体のしれない物を食べた。


 ***


「魔法使い? おかわりいる?」

「おかわり、いる?」

断れない。無邪気さは時に凶器となるのだ、と君は思った。

顔には出さなかったが渋々と君はおかわりを頼んだ。

「はい、魔法使い! いっぱい食べてね。好き嫌いすると大きくなれないよ。」


 ***


ああ、あったわねー。結局あのお肉って何のお肉だったんだろうね。

あの時は食べたくなかったけど、断れなかったよ、と君は言う。

すると隣で聞いていたグレイスが立ち上がった。

アタシ!いい事考えました!いまから「魔法使いさんいっぱい食べてね選手権」をしませんか?

何だい、それは?

アタシたち3人で、魔法使いさんにいっぱい食べてねとお願いして、おかわりをさせるんです。

にょほほほ。これは神の力を見せる時が来たようだねえ。いいでしょう。やりましょう!

アタシもやりますよ、リザは?

は? やらないわよ。

だめっしょー。いまはリザがデフェンデングチャンピョンだからねえ。やらないとダメっしょ。

チャンピョンが逃げちゃダメっしょ。にょほほほ。それとも、負けるのが怖いのかい、チャンピョーン?

は?

これまでいろいろ苦汁を紙めさせられたからねえ。ここらへんで神と御子の主従関係ってものをはっきりさせておこうかねえ?

にょっほっほっほ……。リザ! 私が勝ったら、あんたのこめかみをグリグリするからね!

はい、どうぞ。

ひーーーー!

息を吸うようにグリグリしないで欲しいねえ……。

なんでもいいから、やりませんか? と君はわちゃわちゃしている神様と少女たちに言った。

それなら私から行くっしょ……。


はー、やれやれ肩が重いねえ。膝の関節が立ち上がる度に痛むねえ。朝起きると、腰も痛いねえ……。

でもそんな時は!

パエリアいっぱい食べたら吹っ飛ぶっしょーー!元気いっぱいになるっしょ一!

だからほれ? 魔法使いさん、いっぱい食べてみ。


そういうことじゃないよね?

カヌエさま、違います。なんかちょっと違いましたよ。

ちょっとというか、かなりズレていた気がする。

難しいねえ。


じゃあ、次はリザね。

え? 私? えーと、

はい、魔法使い、いっぱい食べてね。

全盛期を超えてないね。

パエリアぶっかけるわよ。


では、最後はアタシですね。

君はもうグレイス優勝でいいんじゃないか、と思ったが、とりあえず聞くことにした。

余っちゃうのももったいないから、魔法使いさんに食べてほしいです。

だから魔法使いさん、いっぱい食べてください。

優勝、グレイス。

やった! ありがとうございます、魔法使いさん!


……なんでもいいから早く食べなさいよ。

眠くなってきたっしょー。寝るっしょー。午後は全然やる気出ないっしょー。

負けたふたりはあからさまに不機嫌になった。しかし、あれで勝てると思うのは少し違うな、と君は思う。

そう思ったら、ふたりの態度がむかついてきた。


おーい! 島が見えたぞー!

少しのわだかまりを生みつつも、君たちは目的地である大低地ポルデーに到着した。




story3 黒猫の人とポルデー



船着き場を離れ、内陸部へ歩いてゆくと、そこは一面に赤や黄色の花が咲き誇る美しい場所だった。

時折、顔をくすぐる風は花の香りも運んできてくれた。

ここが大低地ポルデーだ。

きれいな場所だね、と君は言う。

きれいなだけじゃない。これはポルデ一いもと言って、花の下には食べられる芋が育っているんだ。

芋はこの国の名物だ。かつては芋の栽培と輸出が主な産業だった。最近はそうでもないらしいけどな。

それでここに土のエルフが出たってことなんだよね? 何か悪さをしているのかい?

詳しくは知らない。現地の人に聞いてみるしかないんじゃないかな?

にょほほほ。それなら、私が地元の方と交流しましょうかね。なんだったら、泊めてもらえるかも交渉してみましょう。

そう言いながら、ちょこらちょこらとカヌエが花畑ならぬ芋畑の畔道を進んでいった。

あの神様、旅先ではいつもあんな感じなの? と君は尋ねた。

そうなんですって。それで親切にしてくれた人のお願いを聞いてあげたりもするんですよ。

魔法使いさんも旅をすることが多いんですか? アタシもずーとリュディガ一さんの本を探して旅をしてきたんですよ。

そうだね。急にやりたくもない旅をすることも多いけど、と君は答える。

ふと、君はとっておきの旅あるあるを披露してみようと思った。

君は塩が無くなった時に、袋の底にたまった細かい塩で―食分まかなえた時のうれしさあるあるを言った。

あの、ちょうど使い切れた時の喜びは旅のちょっとした嬉しさでもある。

旅をする者同士にしかわからない経験だ。

え? どういう意味ですか? 塩の袋の残り?

あまり伝わらなかった。

それ、もう少し詳しく説明してください。

しかも、真顔で詳細を尋ねられてしまった。一体何を説明すればいいのだろうか?

あるあるというのは、他人同士が同じ経験を共有していたという事実、つまり「あるある」感が楽しいのだ。

それを、こういう経緯で、こういうことがあって、と経験のない相手に説明するのは「あるある」ではない。

「あったよ」という事実の報告である。何も面白くない。

君が、面倒なことになったな、と思っていると、リザが会話に入ってきてくれた。

グレイスはちょっと抜けた所があるの。悪気はないから許してあげて。

ええ~、アタシ抜けてないですよ。

充分抜けてるわよ。ほら、カヌエがだいぶ先に行っちゃったじゃない。追いかけましょう。


 ***


カヌエの所に行くと、彼女はすでに誰かをつかまえて話し込んでいた。

いやいや、こんにちは。いやー、いい天気ですねー。今日は皆さんお揃いでどちらへ?

ああ?

離して!

うるせい! 大人しくしやがれ!

明らかに、ヤバめの人たちだった。よく話しかけようと思ったものだ。

しかもわかりやすい悪党である。

男の方が大勢。女の方がひとり。ピクニックかなにかですかね?

そんなわけないでしょ。あなたたち、彼女は嫌がってるじゃない、やめなさい。

あんたらは黙ってな。俺たちゃ、ちゃんと理由があってやってることなんだ。

この女は俺たちの雇い主に借りた金を払ってねえんだ。その話をしているだけだ。

だから、お金はもう少し待っていただければなんとか……。

あーん? それじゃあ、駄目だって言ってるだろうが……よ!

男が少女の足元にある を蹴り上げた。

ああ、おいもが!

君はカードを取り出す。それを制するように、すっと前に出たのはリザだった。

ふーん。そういうことなら、仕方がないわね。

何事もなく、男たちの側に歩いていく。その中のひとりの肩に手を置き、労うようにぽんぽんと叩いた。

つまり、あなたたちはただ仕事をしているってことよね?

ああ、そうだ。あんたらには関係のない仕事だ。

たしかに私たちには関係のない仕事だ……。

ぽんぽんと肩を叩くリザの手が勢いをつけて弾み、そのまま男の顎を貫いた。

はへ?

男が脳天を揺らして、崩れ落ちた。

だからって、暴力振るっていいわけじゃないわよ。私たちはその子が嫌がっているからやめろって言ってるのよ。

殴り倒しておいて言うか、と思ったが、君も同じ気持ちではあった。

空気がー気に変わった。男の仲間たちが腰に下げていた物騒な刃物を取り出し、構える。

にょほほほ。どうやら、話は通じないようだねえ。

……リザ! 魔法使い! この人たちを懲らしめるっしょ!

……カヌエ、急にどうした?

びっくりしました……。

にょほほほ。なんかそれっぽいこと言ってみたかったんだよ。

でもやるのは私たちなのね。

リザは暴力担当だからねえ。

いちおう御子代理ですけどね。ほら、魔法使い。やるわよ、あなたも暴力は得意でしょ。

君は、暴力ではなくて魔法だよ、と一言訂正を入れてから、荒くれ者たちに向かった。





ち、ちくしょう……覚えてやがれ。

こてんぱんに懲らしめた男たちは泡を食って逃げ出して行った。

あの手の雑魚ってなんで覚えてやがれっていうのかしら?

あるあるだね、と答え、君は服についた汚れを払った。

いやいや、おじょうさん。だーいじょうぶだったかい?

はい。助けて頂いて、ありがとうございます。わたしの名はイーザと申します。

なんだか色々と事情があるみたいだねえ。ここはひとつ私に話を聞かせてくれないかい?

ですが、皆さんにご迷惑が……。

だーいじょうぶ! なんつっても私は神様だから。だーいじょうぶだから。何でも相談してみるっしょ。

か、神様?


 ***


今年はおいもが不作で、仕方なく商人街に暮らす方にお金を借りました。

それで、なんとかやりくりしていたんですが、徐々に取り立てが厳しくなってきたです。

不作の原因はなんですか? 雨? 日照り?

いえ、まったくわからないんです。気候はいつもと変わらないんですが、おいもは軒並み病気になってしまいました。

元々この土地は海抜より低いので、土壌に塩分含有量が多く、植物が育ちにくかったそうです。

それでも300年ほど前に、土壌が大きく変化して、とても実りの豊かな土地だったのですが……。

どうやらいもの不作が、農家である彼女の生活に大きな打撃を与えたようだ。

君は彼女が用意してくれたお茶をーロ啜る。見た時からわかっていたが、お湯みたいな昧がした。

お茶の葉が、出からしをさらに出からしにしたような葉なので、うっすら赤いだけだった。

もういっそのこと白湯を出してくれた方が、切ない気持ちにならなくて済むくらいである。

だが、このお茶の味が、彼女の生活の困窮具合を何よりも雄弁に物語っていた。

そしてこれは、あまり触れてはいけないことなんだろう、と君は思う。

それはそうと、このお湯みたいなお茶はなんとかならないか? 私は濃いめが好きなんだ。

神様だからって言っていい事と悪い事がある。テーブルの下で小突いて注意しよう、と君は思った。

おい。

ぼでー!

と思ったら、殴った人がいた。テーブルの下で脇腹を殴ったようだ。

魔界育ちだから神様への接し方がざっくばらんなんだろう。いいように言えば。

君はおかわりをする振りをして、こっそりとポットに自前の茶の葉を足す。これで問題は解決した。

すいません。お口に合いませんでしたか?

いいえ。とってもおいしいですよ。

よかった。本当に何もないですけど、いまおいもをふかしてますから。

あ。おかまいなく。そういうつもりじゃありませんから。

助けて頂いたのに、お礼もせずに帰したら、亡くなった父も怒ります。

亡くなった方を怒らせるのは良くないから頂きましょう。ねえ、おいもの不作って土のエルフが関係してたりしないかな?

300年前の土壌の変化もリュディやエルフが何か関係しているような気がするわ。

そうだねえ、あり得ない話ではないねえ。いっちょうそれを調べてみるのもいいんじゃないかねえ。

エルフの仕業だったら、またエルフたちを鎮めれば、おいもの不作も解決するかもねえ。

皆さん……わざわざありがとうございます。

だーいじょうぶだから。神様は困っている人を見捨てないんだから。だ一いじょうぶ、だーいじょうぶ。

はい……あ、おいももそろそろかしら……。失礼します。


 ***


台所から木皿を抱えてイーザが戻ってくる。

さあ、どうぞ、これしかありませんが。

ふかした芋が出てきた。シンプルにふかした芋だけだった。

これもあまり言ったらよくないことなんだろな、と思いながら、君はいもを手に取った。

ふかしたおいもだねえ。他には何かないのかい? お肉とかそういうの……。

おい。

すとまっく!

君たちはふかしたいもを手に取り食べた。本当に芋だけだ。味もない。いやまあ、芋自体は美味しいが。

やっぱり物足りない。

お口に合いますか? これでもこの地方の名物なんですよ。

はい。とてもほくほくで美味しいです。

うん。とても素朴な味。

君は素朴な味というのはとてもいい表現だな、と思った。美味しいと言っているようで言っていない

君は神様たちの方を見た。

……うん、おいしい。

おいしいっしょ……。

めちゃくちゃ気の乗らない返事だった。やっぱり神様だからお世辞とかへ夕なんだろうな、と思った。

言うよりも言われる側だからダメなんだろう。環境が悪いんだろう。 

あ、すいません。わたしったらうっかりさん。おいもだけ出しちゃって。

と、イーザは台所から何かを持って来た。

はい。お塩です。

塩~~!!

お塩をかけてもいいのかい?

いいですよ。

料理に必要なものは、やはり塩だな、と君は改めて思った。

あと、バターです。

バタ~~~!!

バターぬっていいのかい!?

ええ、いいですよ、年にー度なら。

にょほほ。年にー度の料理にありつけるなんて、私は幸せもんだねえ……。ほふっ、ほふほふ、ほほほ~い!

芋とバターの組み合わせに、君の舌はまるで別の生き物のように喜んだ。

バターって……体が喜ぶのがわかるよね、と君が言うと。

なにそれ? 意味わかんない。

伝わらなかった。ちょっと詩的過ぎたかもしれない。

どういうことですか? 詳しく説明してください。具体的にどこらへんがどう喜ぶんですか?

そして、やっぱりグレイスはちょっと苦手だと思った。




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story4 土のエルフを探して



よる~、よる~、よる~。か~らの~。

ぽっかぬえ!!



というわけで、次の日は朝から土のエルフ探しが始まった。

そういえば、ウィズ探しはー向に進んでいない。本当に別の時代に行ってしまったのかもしれない。

よくよく考えれば、途方もないことである。どうやって再会すればいいのかすらわからない。

そしてそれは……。

何? 私の顔に何かついてる?

君は率直に自分たちが大変な状況に陥っていることを説明した。だが彼女の反応は薄かった。

けっこう前からこの状態だったからもう慣れちゃったかも。

それに、隣の神様が大丈夫大丈夫って言ってるから、気が抜けちゃった。何とかなるんじゃない?

ほいほいほい。しゅーごー! しゅーご一!

ほら。集合がかかったから行くわよ。

君は声を上げる神様を見やる。伊達に神様をやっているわけじゃないんだな、と思う。

困っている人を安心? させることが出来るのは、そう簡単なことではない。

良い影響を与えているのだろう。


 ***


いまから~土のエルフ探すから~バチバチに気合い入れてほしいっしょ~。

方法はどうすればいいんですか? 前みたいにほーほほほって呼べばいいんですか?

そんな方法で見つかるの? と君はグレイスに尋ねる。

このまえは、それで北風のエルフさんが見つかりましたよ。

あれは~あの場のノリつーか~完全に雰囲気重視つーか~そういう感じなんで~やり方変えま~す。

今回は~匂いで探しま~す。さっそく、クンクン匂い嗅いでいくから~私についてきてほしいっしょ~。

そう言うとカヌエは鼻を鳴らして、歩き始める。

あ、くんくん。あ、くんくんくん。あ、くんくんくんのくんくん。

本当に大丈夫なのかな? 君の不安そうな言葉を聞いて、リザが言う。

大丈夫なんじゃない? 深く考えても仕方ないっしょ。だーいじょうぶ、だーいじょうぶ。

これは一概にいい影響とは言えないな、と君は思った。

魔法使いさん、だーいじょうぶ、だーいじょうぶ、ですよ。

まるで新手の宗教のようだ。

……いや、そういえば宗教だった。





あ、くんくん。あ、くんくんくん。……ここじゃないかねえ?

たどり着いたのは丘のふもとにある洞窟だった。

ここに土のエルフがいるんですか? 普通の洞穴ぽいですね。

いるねえ。きっといるねえ。エルフの匂いがするねえ。

お前たち、人間だな!!何をしに来た!!

現れたのは、少女のように体の小さなエルフだった。しかし、妙に威圧的な言葉を投げかけてくる。

おや? あんた、土のエルフかい? それっぽいねえ、土のエルフって感じがするねえ。

そうだ。私は土のエルフを率いる族長コロッココだ。

ぎらりと光るその目に敵愾心が宿っている。

ちゃんと話すことの出来るエルフもいるのね。

そういうエルフは多いってリュディガーさんも本に書いてました。

コロッココにカヌエが尋ねる。

いまちょっと、ここに住んでいる人がおいもの不作で大変なんだけどね。あんたら、理由を知らないかい?

芋の不作か……。その理由ならわかるぞ。我々が力を使っていい土にしていないからだ。

300年前に黒猫の人と交わした約束はもう期限切れだ。だから人には力を貸さない。

それに約束を破ったのはお前たちだからな。

え? 自分? と君は思う。思い出そうとするが、そんな記憶はない。

というか、ここに来たのも彼女に会ったのも初めてだ。

君が、そんなことってあったっけ? と尋ねると、コロッココはカッと目を見開く。

お前じゃない。黒猫を連れた男リュディガ一のことだ。

え? リュディが、黒猫を?

ウィズだ、と君は確信した。





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