【黒ウィズ】ぽっっ!かみさま Story4
四章 風車の復活
story1
コロッココの昔話も、最初の方は真面目な調子だった。
だが、途中で舌を滑らかにするとかなんとか言い出して、一杯くびっと飲むと、もう後の祭りだった。
ちょっともう一杯。これが最後のもう一杯。いやいやホントに最後の一杯と、杯を重ねるうちに、もう止まらなくなった。
君たちも過去の出来事を理解しなければいけないので、しっかりと聞き入るつもりだったが、途中で馬鹿らしくなった。
過去はもう杯のあぶくの中に消えていった。まさしく泡沫(うたかた)だね、と君が呟くと。
いまいち通じていなかった。少々、詩的過ぎたのだろう。
そういう顔になっていたのか。初めて知った。
ウィズに見られたら何を言われるかわからないな、と君は襟元を正した。
イーザの部屋に戻った君たちはふかした芋を食べながら、断片的な情報を元にエルフと人間との約束について考えた。
イーザ、その車っていまどうなっているの?
指差したのは苔むした建造物だった。羽のようなものがあったので、車と呼ばれるのはそこが由来なのかもしれない。
リザがカヌエのこめかみを責め立てる。
君が容赦ないな、と思いながらそれを見ていると、グレイスがぽつりと呟いた。
ほら、エルフの皆さんもずっと封印されたままじゃ、かわいそうですし、それに……。
約束が破られた時にエルフの封印が解けたら、みんなか約束を思い出すきっかけにもなります。
現にいま、そうなってます。
君はグレイスの言う通りだ、と同調した。きっとエルフの復活はエルフを忘れてしまわない為の目論見だろう。
冗談はわからないけど、こういう頭の回転の速さはあるんだな、と君は思った。
たまにこういう人はいる。
バロンタイプの人だ。
で、何をやるんだい?
約束を守ればいいんだね、と君はグレイスに確認した。
>はー、こりゃ大変だねえ。
***
君たちは船に戻り大人の事情に詳しそうなマッサに、教団がテッラーロの車を修繕する費用を賄えないか、尋ねた。
金の使い道の報告義務やそれを監視する市民団体もあります。そこのチェックを通らないとそんな大金は動かせないでしょうね。
私は知ってるんだよ。これがマニフェのお金で作ったって知ってるんだよ。
だから私にだってお金使ってくれたっていいんでないかい? チクったっていいんだよ、ええ? チクってもさあ。
ギルドからマニフェヘの寄付ですね。で、こうやって船を出す時はギルドの若衆が駆り出されるってわけです。
比較的自由に使えているが、私のものではない。
君は話を聞きながら、神様も大人のやり方には苛立ちを覚えるのか、などと思っていた。
君もグレイスが不思議なことを言うな、と思った。ちょっと空気が読めていない感じだった。
そういう時、君は背筋が冷えるような感覚に捉われる。共感性羞恥というものらしい。
人の失敗を見て、自分が恥ずかしくなるという心理である。
これだけではなく、グレイスは少し変わったことや世間とズレたことを言ったりする時があった。
なにか普通とは違う異質な感覚がある。
バロンタイプの人だ。
まるで呪誼のようにそう呟くイーザに、君は疑問に思っていたことを尋ねた。
あんなに花が咲き誇っているのに芋は不作だという事実である。
畑の景色はまったく不作のようには見えない。むしろ花咲き乱れる素晴らしい景色である。
そうすれば昆虫たちも寄ってくるので、自分たちの種の保存にかなっているんでしょうね。
君は腕組みをして、ぼんやりと考えていたことをみんなに伝えた。
花を売ればいいのではないか、ということを。
最後によくわからないことを言われたが、どうやら方針が決まったようだ。
story2
これが神様の徳の高さ故なのかはわからないが、花の販売はなかなか良い収益をあげた。
そんな話をしていると、ノックもせずに誰かが入って来た。
『様』をつけるのはフランクではないな、と思いつつ、君は長者様は何の用でここに来たのですか? と尋ねた。
みんな、咄嵯にいま手に入れたお金を失うのはまずいと判断したのだろう。
それは君もすぐに理解した。
お金はない、と君は答えた。
辺りを見回し、長者様はずいとカヌエの前に出た。
だから持ってないっしょ。持ってるわけないっしょ!! にょほ、にょほ、にょほほほ……。
バレいでか、と君は思った。
カヌエが隠し持っていた金袋をひったくり、その中身をちゃらちゃらと検めながら、長者様はにやりと笑った。
みんなさすがにショックを受けているようだった。
つとリザが顔を上げる。
いやいや、名案を思いついたみたいな調子で言ったけど、普通にダメだよ、と君はリザを諭す。
そんなやり取りを聞いて、まだ何となくそのあたりをウロウロしていた長者様がこちらを見た。
なぜか長者様は突然泣き始めた。
目元を高そうなハンカチで拭うと、長者様は涙のわけをぽつりぽつりと話し始めた。
先祖はリュディガー・シグラー様に救われたも同然にここに移り、商いを始めました。
村づくりも軌道に乗り始め、リュディガー様がここを離れる時に、先祖はわずかばかりのお礼として金品を渡そうと思いました。
ですが、リュディガー様はその申し出を断られ、ある提案をされたのです。
もしリザ・ロットレンダーという女性がここを訪れたら、その方に渡してほしいと。
そこで先祖はそのわずかばかりの金品を渡すのは忍びないと思い、そのお金を運用して、さらにお金を増やし続けました。
そして、いつか現れると信じてコツコツ増やしていたものを、いまようやく渡せるというのですよ!
これは泣かないわけにはいきますまい!ああ、おじいちゃんもう少し長く生きていたら!あ、額はこれぐらいでございます。
合言葉でございます。リュディガー様が本物のリザ様かを確かめるために用意しました。
ルシエラ。それに続く言葉をお願いします。
君も少しルシエラで思いつく言葉を考えてみた。
すぐに頭が痛くなってきた。
いいのか? と君は思った。
いいのか、と君は驚いた。
普通ならアウトだろうな、と君は思った。それにしても、ルシエラは明るいところで寝るのか……。
なぜかちょっとわかる気がした。何かしら常軌を逸した所があるので、自然に思えた。
永遠に終わらない気がしたので、君は答えだと思う言葉を言ってみた。
口の動きだけでもの凄い同意を送ってきた。
最後の方が弱くなっていくので、正解したのかしなかったのかわかりづらいな、と君は思った。
何はともあれ、テッラーロの車の修理に一歩前進した。
story3
なら、やってもらおうじゃないか。
え?
と、君たちは思った。
ここに来て数日過ごしてわかったのだが、イーザの料理と言うのは芋をふかしたもののことだった。
それ以外はまったく作らなかった。作らないというよりも、他に何か作るという観点がなかった。
じー……。
***
この鳥と同じくらいの色になったら、油から上げて、キャベツと一緒にパンに挟んだら完成でーす。
何もなくても、無限にいっていた気がしたが、君は黙っていた。
言われてみれば体を動かす人間にはいい料理かもしれない。エネルギーしかない。それが良いことかは別として。
テッラーロの車の調査もひと段落した所で、君たちは昼休憩を取っていた。
以前の事件で出会った時計塔の人たちに倣い、カヌエもちょこちょこティータイムを取るようになったらしい。
コロッケサンドを食べながら、交わす会話は楽しいものにはならなかった。
見るからに、復旧修繕は大仕事だったからだ。
そろそろ休憩も終わりだろうと思い、君は片付けを始める。
ふと、コロッケサンドがひとつだけ残っていることに気がついた。
あ、またやるんだ、と君は自分の腹具合を確かめた。1つくらいならなんとか入るだろう。
なんでこの人たちはこんなに乗り気なのか、と思いながら、君も居住まいを正した。
けっして、けっして、覗かないで下さい。
と言って、カヌエは物陰の方へ移動した。君は、一体何が起こるのだろうと待っていた。
待っていた。
待っていた。
あ、見に行かなきゃいけないんだ。なんだか面倒だな、と思いながら、君は物陰に行った。
こんな風に、神様も独り占めしたくなるコロッケサンド! ほれ、いっぱい食べてみ!
小芝居が長い。と君は一刀両断した。
なんだかもの凄いやる気だった。
君は心の中ではカードを構えるくらいの気持ちで、少女たちの挑戦を受けとめる。
先鋒はリザだった。
すごい気合だ。気合だけはすごい。そして、コロッケサンドをずいと差し出した。
は?
どうって……なめてるの? と君は返す。
は?
はあ!?
一触即発のところをカヌエが割ってはいったおかげで、なんとか事なきを得た。
だが、君はリザには伸びしろがないな、と思った。
次はグレイスだった。
すごい安定感があるな、と思った。
というか、他が安定していない。いや、安定以前の問題というのもがあるが。
心づかいもいい。
ちょっと、ちょっと、ちょっと。と思わず君はグレイスを止めた。
人が食べるものを勝手にギューってしちゃダメ! と君は声を荒げた。
イーザはややギューってなっているコロッケサンドを受け取り、そう言った。
ただ、そのややギューってなっているコロッケサンドを食べるのは自分だ。
人がギューってしたサンドの実に食べたくないことか……。君は少しだけ勉強になったな、と思った。
ただ、それだけで割り切れるものではないが。
次はイーザの番だ。彼女がにっこりと笑いかけてくる。
これまた厄介なのが来たな、と君は思う。完全に意表を突かれた。
最初は芽出しという作業を行います。種芋を光が当たり過ぎない所に2週間くらい置いておきます。
そうすると種芋から黒っぼい芽が出てきます。その後、芽の数を均等にするために、その種芋をふたつに切ります。
切ったら、それを風通しの良い場所で乾燥させる作業が……。
待って! と君はイーザを止めた。思ったよりもいろんな工程があり、いまだに種芋が土の中に植えられていない。
ここから育って、食べられるようになるまで一体どのくらい時間がかかるのだろう。
それならいっそ、コロッケサンドを食べてしまった方がいい。
そう思った。
そうだと思った、と一言告げて、イーザの持つコロッケサンドを受け取った。
もうこれ、いっぱい食べてねとかそういうレベルの話ではないな、と思いながら。
他の参加者に己のふがいなさを自覚してほしい、と思いながら、コロッケサンドをギューってしていると。
揺れた。車全体が揺れているようだ。
石畳が波打ち、周囲に蔓延っていたツルが生き物のように曇き始めた。
隙間をこじ開けて、太いツルが突き出してくる。
石畳が波打ち、周囲に蔓延っていたツルが生き物のように轟き始めた。
「我々の住処で何をしている!!」
「答えによっては、生かして帰しませんわよ!」
君は、ここに来てようやく戦いらしい戦いが始まろうとしていることに、若干のいまさら感を感じつつ、カードに手を伸ばした。
一章 冬の時代
二章 大低地ポルデーヘ
三章 黒猫の人とポルデー
四章 風車の復活
五章 おいもの花の咲く頃に
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