Brave The Lion 2|N-5 Story
5-1 第三の男
――一行の眼前に、
ひと気のない研究所が
ひっそりと佇んでいる――
メア
ここは……
島の外からも見えた、
中心の施設の別館かしら?
バイパー
そんなところか。
少しは期待出来そうだな。
どうだ、セラ?
セラ
……なにか違和感があるわ。
メア
違和感?
セラ
入り口に敷物があるわね?
朽ち果ててはいるけど。
それに……花壇。
セラ
どことなく、細やかな
配慮の痕跡が見える……
女性の研究者がいたのかしら?
メア
女性……?
???
おーう! ここにいたのか!
探したぜ、おめーら!
バイパー
それはこちらのセリフだ、オズマ。
まぁ、探してはいなかったがな。
オズマ
おいおい、強がるなよ?
オレがいなくて心細かったろ?
なあ、セラちゃん?
仕事ハネたら飲み行かない?
セラ
仕事とプライベートは
分けるようにしてるの。
オズマ
くーっ、つれないねぇ。
じゃあ、メアちゃん。
メア
イヤです。
オズマ
ウソだろ!? このオレが
二連敗だと!?
史上初だぜ! どーしてだ!?
バイパー
『じゃあ』は失礼だろ。
オズマ
『じゃあ』、バイパー……
バイパー
俺は今夜空いてるぞ。
オズマ
ふざけろ、このオズマ様が
野郎を誘ってられっかよ。
メア
<ルーンマグナム>のオズマさん。
オズマ
なんだ~い? メアちゃん?
メア
真面目に仕事してください。
オズマ
ハハ、冗談きついぜメアちゃん。
このオレが、仕事中に
ふざけてるように――
バイパー
見える。
セラ
見たくもない。
オズマ
くぅ、最高だぜおめーら!
ただし見る目はねーな!
もっと遠くの緑を見ろよ!
視力が良くなるぜ!
セラ
もっと目が良くなったら、
より一層あんたなんか
視界に映したくなくなる。
オズマ
……なー、セラちゃん?
セラ
……なに?
オズマ
オレだからいーけど、
そーゆー愛情表現は、
男を遠ざけちゃうぜ?
セラ
…………
オズマ
パシャ! 心のルーンカメラに
しっかりとおさえたぜ!
いまのセクシーな表情!
バイパー
オズマ。
何か手がかりは掴んだか?
オズマ
うんにゃ。
そーゆーモンはよ、
こーゆーアヤシイ建物ン中と
相場が決まってらーな。
オズマ
さあ、行ってみようぜ――
って、おい! この扉、
鍵かかってるぜ!?
開けてくれよバイパー!
バイパー
出来るだろうが、
自分でやれよ……
5-2 別館の奥で
オズマ
オラァッ!
バイパー
木製の扉なら蹴破るんだな。
セラ
騒々しい男……
オズマ
男には二種類いる……
オズマ
陰気な男と、
疲れると陰気になる男さ。
メア
は?
オズマ
オレはそのどっちでもねぇぜ!
つまり、最高の男ってワケさ!
メア
…………
セラ
頭が痛くなりそうだわ。
……ここは……
やっぱり、女性の部屋のようね。
オズマ
何のニオイもしないぜ~?
バイパー
当たり前だ。
昨日今日引き払ったわけじゃ
ないだろう。
オズマ
そーゆー常識的なロジックで
考えるの、オレはあんまし
イイとは言わねーぜ?
バイパー
お前がいると話が進まないな……
セラ。痕跡から、
他に何かわかるか?
セラ
……ここにいた女性、
いたくなかったんじゃないかしら。
バイパー
……どうしてどう思う?
セラ
女のカンね。
オズマ
……くくく……
はっはっはっはっはっは!
セラ
うるさいわね。
オズマ
……くっくっくっく……
メア
オズマさんって変な人……
バイパー
何をいまさら。
……ふむ。
あそこの壁、さらに奥があるな。
オズマ
おぅ、バイパー、そんなら
とっとと穴開けてくれや。
バイパー
セラ、頼む。
セラ
下っ端のお嬢ちゃんの出番かしら?
メア
え? え?
オズマ
おい、待て待て。メアちゃんに
押し付けるなよ。しょうがねぇ、
オレがやってやっから。
バイパー
最初からそうしろ。
――オズマはコキコキと
首を鳴らすと――
――次の瞬間!
オズマ
ゲホ、ゲホ……!
埃、溜まりすぎなんだよ!
キレイ好きのオレにゃあ堪えるぜ!
セラ
自分で巻き上げといて。
バイパー
もう少し加減しろ。
オズマ
いいだろ、穴は開いたんだからよ。
メア
……速い……!
いま、<ルーンマグナム>を
撃ったの……?
まるで動きが見えなかった……!
セラ
あなたは目が悪いわね。
メア
あなたたちが良すぎるのよ。
セラ
違うでしょ?
別のモノに頼っているからよ。
オズマ
んじゃ、行っか~、と。
メア
……別のモノって?
バイパー
だから言ってるだろ。
俺は親切じゃないんだ。
メア
そう……でも、なくない?
バイパー
自分で考えろ。
5-3 反抗の隠し部屋
隠し通路の先には、
小さな部屋があった。
埃をかぶった壁際の本棚には
大量の書類がある。
長い間使われていないようだ。
オズマ
……ヒュ~……
やっちまった……!
……手荒すぎたぜぇ……!
メア
?
隠し通路の開け方がですか?
セラ
いまさらね。
バイパー
小さなことにこだわるな。
事と次第によっては、
この島ごと沈める選択肢も
視野に入っている。
オズマ
おっかないこと言うねぇ~。
バイパー
まとまった資料があるな。
さて、調べるか。
セラ
ええ。
……
…………
………………
メア
……全然わかんない……!
バイパー
研究資料だからな。
素人には難解に映るだろう。
メア
あなたたちはわかるの?
セラ
欲しい情報かどうかくらい
わかるでしょ。
メア
……ほとんど、
読めもしないんですけど……
セラ
それは勉強不足。
メア
……こういうのも、
退魔士に必要なスキルなの?
セラ
退魔士とは関係ないわね。
目的がある人間には、
それに関する知識が必要でしょ。
メア
……私は、<混沌>を
滅することだけが
目的の、兵隊なので……
セラ
こんなときばかり
そういう言い方を
するもんじゃないわ。
バイパー
知識の多寡は個人差がある。
だが、学ぶべきものから逃げようと
する姿勢は、プロ失格だろうな。
メア
……くぅ~……!
バイパー
悔しければやれ。
メア
……やるわよ! でも、
どんな情報が欲しいのか、
教えてもらいたいんだけど!?
セラ
知ってる単語を探して。
<混沌>とか、退魔士とか。
メア
字が汚くて読めない。
バイパー
違う。そういう符牒(※)だ。
※ふちょう。意味をもたせた文字や図形。
また、仲間のみに通じる言葉や印のこと。
メア
うぅっ……!
バイパー
仕方ない。お前はカンでやれ。
その方が得意だろ?
メア
そう……なのか、
自分ではよくわからないけど……
セラ
とりあえず、そろそろ
黙ってくれるかしら?
気が散るから。
メア
……オズマさんが
消えたんですけど。
バイパー
いい。
メア
いいの!?
バイパー
あんなチョビヒゲに
頭脳労働を期待するな。
セラ
……ぷっ……
メア
はぁ~い……
……
…………
………………
セラ
転遷析出真法提案……
どの資料も、可逆性についての
研究ばかり。
セラ
予想外の人物が、
ここにはいたようね。
メア
…………
バイパー
わからないか?
メア
……はい……
セラ
つまり、この部屋の主は、
<分ける>研究を
していたってことよ。
メア
<分ける>……?
合成魔獣研究所の別館で、
そんな研究を?
バイパー
だから隠し部屋なのだろう。
真っ向から
理念に反しているからな。
メア
合成なんかおかしいって思う人が、
内部にいたってことよね?
それっていいことよね?
セラ
――でも、この研究棟が
放棄されたっていうことは、
……そういうことでしょう?
メア
あっ……!
バイパー
反対派を排除してのち、
合成研究はさらに暴走しただろう。
歯止めが利かなくなった
わけだからな。
バイパー
本館へ向かうぞ。
やはり、目的の情報が
あるとすればそこだろう。
メア
ねえ!
バイパー
なんだ?
メア
魔獣を生み出してるなんて、
人間への裏切り行為よ!
メア
しかも、人間自体も
材料にしてるんでしょう!?
メア
この事実、明るみに出して、
この研究施設や、
その背後にいる国なんかを、
どうにかするのよね!?
セラ
あたしたちの目的は
そういうことではないわ。
メア
そんな!?
バイパー
――あの男はソレもやるかもな。
セラ
案外世話焼きだしね。