ミカ・ドミナンスⅢ
通常 | シティマザー |
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Illustrator:ainezu
名前 | ミカ・ドミナンスⅢ |
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年齢 | 推定200年以上 |
職業 | 元都市監督官/ニューネメアコロニーの支配者 |
- 2022年4月14日追加
- NEW ep.Ⅳマップ5(進行度1/NEW+時点で385マス/累計1145マス*1)課題曲「Everlasting Liberty」クリアで入手。
- トランスフォームで「ミカ・ドミナンスⅢ/シティマザー」へと名前とグラフィックが変化する。
幻想都市ニューネメアコロニーの支配者である機械種。
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
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1 | オーバージャッジ | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
include:共通スキル(NEW)
- オーバージャッジ【NEW】 [JUDGE+]
- 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。ジャッジメント【NEW】と比べて、上昇率+20%の代わりにMISS許容-10回となっている。
- PARADISE LOSTまでのオーバージャッジと同じ。
- NEWで追加されるトラックスキップ機能や判定タイミング音機能で他のスキルと似たような条件にすることが可能。これらを組み合わせることでPARADISE LOSTまでのスキルと似たようなゲージ上昇率、判定タイミング音、中断(強制終了)にすることができる。
- 判定タイミング音をATTACK以下に設定:パニッシュメント
- 判定タイミング音をJUSTICE以下に設定:ヴァーテックス・レイ
- トラックスキップをSSSに設定:ボーダージャッジ・SSS(達成不能で楽曲が中断されるため注意)
- NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
- GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
- スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
- CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「オーバージャッジ」から変更された。
効果 | |||
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ゲージ上昇UP (???.??%) MISS判定10回で強制終了 | |||
GRADE | 上昇率 | ||
▼ゲージ8本可能(220%) | |||
1 | 220.00% | ||
2 | 220.30% | ||
35 | 230.20% | ||
50 | 234.70% | ||
▲PARADISE LOST引継ぎ上限 | |||
68 | 240.10% | ||
102 | 250.10% | ||
▼ゲージ9本可能(260%) | |||
152 | 260.10% | ||
200~ | 269.70% | ||
推測データ | |||
n (1~100) | 219.70% +(n x 0.30%) | ||
シード+1 | 0.30% | ||
シード+5 | 1.50% | ||
n (101~200) | 229.70% +(n x 0.20%) | ||
シード+1 | +0.20% | ||
シード+5 | +1.00% |
開始時期 | 最大GRADE | 上昇率 | |
---|---|---|---|
NEW+ | 133 | 256.30% (8本) | |
NEW | 241 | 269.70% (9本) | |
~PARADISE× | 290 | ||
2022/9/29時点 |
- 登場時に入手期間が指定されていないマップで入手できるキャラ。
バージョン | マップ | キャラクター |
---|---|---|
NEW+ | maimaiでらっくす | どりー |
- カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
ネオンライトに照らされた都市を一望できる部屋。
幻想的な空間に、少女の甲高い声が響き渡った。
「ダンディ! どうなってンのよッ!?」
「ま、待って、今管制システムで状況を確認するから……ゆ、揺らさないで……」
詰め寄るミカを片手で制しながら、ダンディは都市全体の状況を瞬時に把握する。
「襲撃者は機械種と真人の部隊だ!」
「……ま、まさか!?」
「まさか……ですってェェェッ!?」
思わず口をついて出た少年の言葉に、いち早く反応したのはミカだった。
席につく白髪の少年に駆け寄ると、ミカは取り出した銃を少年の頭へと突きつける。
「「「ソロッ!!」」」
「動くなァ!!このクソガキッ!!!」
離れて席につく3人の男女に怒声を浴びせると、室内は静まり返った。
「知ってる事、洗いざらい吐きなさい! コイツの頭をブチ抜いて、脳みそン中【規制音】にされたくなかったらねェッ!」
いつ引き金を引いてもおかしくないミカの凶暴さを前に、ソロは淡々と、冷静に経緯を伝える。
それが、どれだけ自分を不利な状況に追いこむかを理解した上で。
「――フ、フフ、アハハハハッ!! そういう事。まさか、私(わたくし)たちが迎え入れた子が、こ~んな疫病神だったなんてねェッ!」
「おい、こんな事してる場合じゃないだろ!? 俺たちも一緒に戦う、だから――!」
「うるっさいのよ」
――パン。
銃声が、響いた。
――時は遡る。
カスピ大地溝帯に広がる暗い谷の中を、光が駆け抜けていく。それは、一隻の戦闘艇だった。
「――っくそ、機械種の船を叩き潰してやっと北に向かえる所だったのに……どこから湧いてきたんだ、あいつらは」
「言った通りだったろ、ソロ? 大地溝帯には流れの奴らが住みついてるってよぉ」
「でも……あんなのが出てくるとは思わないだろ」
危険を承知で大地溝帯の中を通っていた一行は、案の定、潜伏していた正体不明の武装勢力に奇襲を受けてしまったのだ。
「とにかく、今は陽が暮れる前に身を隠せる所を探さないといけないわ。ミスラ、貴女には引き続き後方からの索敵と安全地帯の確認をお願いできるかしら?」
『うん、オッケー! ……ねえゼファー、大丈夫?』
「え?」
『なんだか、元気なさそうだったから』
「ううん……私はいつも通りよ?」
『そう? じゃあ辛くなったらいつでも言ってね!』
「ふふ、ありがとう」
通信が切れると、ゼファーはコンソールを操作して船の被害状況を確認していく。船は致命的なダメージを負っている訳ではない。ただ、いつ襲撃があるか分からない状況では、このまま航行を続けるのは不安でしかなかった。
「ま、いざって時の事は考えておかねぇとなぁ」
「縁起でもない事言うなよ。ヨアキムに言われると、起きない事まで起きそうだろ?」
「それはどっちかってぇと、お前さんの方だろう」
「あ? なんでだよ」
「かーっ、分かってねぇな? これはクソッタレな戦場を生き抜いてきた俺からの、ありがたーい言葉だ。いいか、バラキエルをぶっ放しても“やったか?”なんて絶対に言うんじゃ――」
『――ゼファー! 後ろ後ろ! 早く引き返して!』
突然船内に響いたハウリングに、前傾姿勢だったソロとヨアキムは2人してひっくり返った。
「ぁ痛"ぁっ!?」
「ぅ……っるっっさいッ!!」
ソロは通信機のスイッチを押し、声の主に理不尽極まりない怒りをぶつける。
「急になんなんだクソ女! もっと普通に――」
『ゼファー、早く引き返してー!』
ソロの罵声など意にも返さずマイペースなミスラ。
なおも文句を言うソロを後目に、ゼファーは問いかけた。
「ええと……それで、どうしたのかしら?」
『一瞬だったけど、大地溝帯の下の方で何か見えた気がしたの! 多分コロニーよ! 間違いないわ!』
「え? でもレーダーには何も反応がないわよ?」
『あるよ絶対に! だから引き返しちゃいましょ!』
妙に確信めいたミスラの声。
ソロは声にこそ出していないものの、見るからに不満そうにしている。尚も大きな声で叫ぶミスラの提案に最初に応じたのは、ヨアキムであった。
「あの嬢ちゃんがそこまで言うって事は、何かあるのかもしれねぇなぁ」
「ソロ、あなたはどう?」
「行くしかないだろ。あいつが変なのは初めからだ」
ソロはそれきり押し黙ってしまう。
口にこそ出しはしないが、ソロはウィアマリスとの戦闘を経て、ミスラの“眼”の良さには一定の信頼を寄せるようになっていた。
「分かったわ、みんな、何かに掴まってて!」
ゼファーはそう言うと、進路を反転させミスラの言う場所へと舵を切る。
深く昏い奈落の底へ、一縷の光を求めて。
――一方、その頃。
様々な機器が並ぶ薄暗い室内に備えつけられたモニターに、好奇な眼差しを向ける者がいた。
そこに映るのは、ソロたちが搭乗する戦闘艇。
「も、もしかしてボクたちに気付いちゃったのかな。どう思う、ミカ?」
男が振り返った先では、派手な装飾が施された椅子に少女が深々と腰掛けている。
「どちらでも構わないわ。せっかくの客人ですもの、しっかりもてなしてあげましょう? 私の楽園はどんな理由があっても来る者を拒まない」
ミカと呼ばれた少女はそう答えると、ドレスの裾から覗く脚をわざとらしく組み替え、口元を歪めて笑う。
「でも、私の下から去ろうとしたら……フフ」
唇を割って出た青く長い舌がちろちろと揺れる。
それはまるで、生者を地獄へといざなう、亡者であるかのように。
後方甲板から誘導するミスラの声に従いながら、一行を乗せた戦闘艇は大地溝帯の谷底に拡がる大地へと降り立った。
谷底は重度の汚染区域と言われているだけあり、降りてからというもの、モニターは危険を知らせるマーカーを表示し続けている。
「なあ、本当にこんな所にコロニーがあるのか? どう見ても何かあるようには思えないぞ」
「ええ……万が一、汚染が深刻な場所に足を踏み入れでもしたら、二度と帰って来れないでしょうね」
「みんなー準備できた?」
船内に戻ってきたミスラは開口一番にそう言うと、ハッチの開閉スイッチに手を伸ばそうとして――ヨアキムに引き止められた。
「どうして止めるの?」
「嬢ちゃん、いくら降りた所が比較的安全な場所っていってもなぁ、この辺りが危険な事にゃ変わりないの! ま、嬢ちゃんが死にたがってんなら止めねぇがよぉ!」
「直接見に行けば分かるじゃない?」
「そりゃお前さんは平気かもしれんが……あ、おい、隙あらば行こうとするんじゃねぇ!」
引き止めるヨアキムを他所に、ソロは眉間に皺を寄せモニターを凝視するゼファーに話しかけた。
「ゼファー、どうだ?」
「周囲の環境データに齟齬がないか照合してみたけど……ミスラが言うようなものがあるとは思えないわ」
陽が傾いているため目視はできないが、示されたデータには原型を留めていない何かの残骸とここがかつて湖だったと知らせる岩礁があるのみ。
「くそ、やっぱあいつの話を信じた俺たちがバカだったか」
「バカ? 何を言ってるの? 底の方にモヤモヤした光があったでしょ?」
「き、急に入ってくるな! てか、お、俺の頭に腕を乗せるんじゃない! 当た……ったく、なんでお前はそんなに無防備なんだ」
「えー、ちょうど良いのにー」
ソロはミスラにのしかかられて潰れた髪をわしわしと動かして元に戻すと、話を続ける。
「で、その光があったとして何だって言うんだよ?」
「紫とか、ピンクとか。うねうねしてて、とっても綺麗な光よ」
ソロはミスラの見当違いな返しに、深いため息をついた。
「それ、汚染物質か何かだろ。コロニーってのも、光の屈折とかでたまたま見えただけなんじゃ……」
――不毛なやり取りが続くかに思えたその時。
辺り一体に、あまりにも場違いな賑やかな音楽が鳴り響く。それは、楽園へとたどり着いた旅人を祝福するファンファーレのようだった。
『ハ! ようこそ、追放者の楽園へ!』
声がするのとほぼ同時、ソロたちの前に広がっていた空間が、ほんの少し“波打った”。
「な……っ!?」
瞬間、何もない空間はかき消え、それと入れ替わるようにしてひとつの巨大な都市が姿を現したのだ。
夕闇の空にたなびく、幻想的な光と共に。
「……こいつぁ驚いたぜ。こんな僻地に、大規模な光学迷彩が仕掛けられてるとはなぁ」
「私、夢でも見てるのかしら……」
「すっごい綺麗!」
一行の目に飛びこんできた世界は、彼らが予想もしえない程の巨大な都市と、目を覆うばかりの光、光、光。光の洪水だった。
都市から陽炎のように空へと伸びゆく光は、青く淡い輝きを放ち、加えて、紫やピンクのネオンライトがこれでもかという程まき散らされている。
それらが空中で混ざり合う事で、より幻想的な光景を紡ぎ出していた。
まるで、夢と現の境界線上にいるかのような――
「何だよ……あれ……」
「ソロ、あそこに行ってみよ!」
「あぁ……っじゃなくて! この状況でもまだそんな事言えるのか!?」
2人が浮足立っているその時。
不意に船体上部から「ゴ……」と重い物体同士が擦り合うような音が響く。
「今度は何だ?」
続けて金属の擦れる音がしたかと思うと、突然一行を浮遊感が襲ったのだ。
ソロは音のした方を確認するべく、窓へと向かう。
窓の外にあったのは、船体の側面にピタリと並ぶ巨大な金属質の柱だった。柱と船の間からは絶えずオレンジ色の光が漏れ出し、明滅を繰り返している。
柱の正体を確かめようと徐々に視線を上に向けた。それはどこまでも続くかに思われたが、すぐに巨大な何かから伸びていた事に気がついた。
「これ……船、なのか……?」
柱は、戦闘艇を優に超す巨大な船のアームだった。
戦闘艇は、あの船によってどこかへと運ばれようとしている。それに気づいた時、ソロは叫んだ。
「ゼファー、船は動かせないか!? あのデカいのに汚染区域へ沈められでもしたら……」
「っ! ダメ、動かしても反応しないわ!」
「クソ、このままじゃ!」
『ハ! キミたち落ち着いて。そのトラクター艦は、キミたちをエスコートしてくれてるだけだよ。それに、そんなボロい船、ボクはいつでも撃墜できるからね!』
――
――――
トラクター艦に運ばれながら、ソロたちを乗せた戦闘艇は青い光が脈打つ都市上空を通過する。
正面からではよく分からなかったが、都市の規模はソロが想い描いていた以上のものだった。
中心部に据えられた3本の塔や、都市の外縁部を取り囲むようにそびえ立つ構造体群。
それらの上に血管のように走る光を見て、ソロは誰にともなくつぶやいていた。
「この街……“生きてる”みたいだ……」
いつまでも行き先を眺めていると、ふと、この船はどこまで運ばれて行くのだろうと、そんな考えが頭をよぎる。
そうこうする内に、トラクター艦は塔から少し離れた場所でピタリと停止した。
ソロが窓の下方に目を凝らすと、都市のとある部分がぽっかりと四角い穴を広げている事に気づく。
穴は四隅から赤い光を伸ばし――船を取り囲むように絡みついていったのだ。
やがて、船はゆっくりと降下を開始した。
穴の中に入り、底と思われる場所にたどりつくと、戦闘艇を運んでいたトラクター艦は再び振動し始め、四角い穴からどこかへと飛び去っていった。
「…………」
一部始終を食い入るように眺めていたソロは、不意に真横に誰かの視線を感じて振り向く。そこには、満面の笑みを浮かべるミスラが立っていた。
その意味する所に気づき、ソロは慌てて口を開く。
「なっ、んだよ!」
「ソロってば、ずっと窓から離れないんだもん。子供みたい!」
「はあぁぁ!? 誰が子供だってんだよ!」
ソロは何度も何度も頭を撫でようとしてくるミスラの手を弾き返す。ミスラはそんな戯れに満足したのか、手を止めて柔らかな口調で問いかけた。
「ね、本当だったでしょ?」
「ふん……あぁ、疑って悪かったな」
それきり、そっぽを向いたソロ。心なしか、頬は赤らんでいるように見えた。
そんな微笑ましい光景を遠巻きに眺めるゼファーとヨアキムも、思わず笑みをこぼす。
「ふふ、素直じゃないんだから」
「でもまぁ、風向きが変わったのは間違いねぇ」
「風向き?」
「ああ、あの嬢ちゃんがいれば、あいつの未来はそう悲観するような事にならない気がしてなぁ」
「ぁ……そう、よね……」
わずか。ほんのわずかではあったが。
ゼファーは自分でも分からない感情が渦巻いているのを微かに感じた。その正体も分からないまま視線を彷徨わせると、通信を知らせるボタンが点滅している事に気づく。
「都市からの……通信?」
回線を開きモニターに表示する。
映し出されたのは、やけに古めかしい、統一感の無いおもちゃのようなデザインの機械に囲まれた男女の姿。
都市の雰囲気にそぐわない集団に呆気に取られてしばらく眺めていると、機械たちが勝手気ままに調子の外れた音を奏で始めた。
「えっと……何なのかしら……」
『おお、おお! ようこそ、追放者の楽園へ!』
「きゃあっ!」
礼服を着こんだ男が、突然画面一杯に映りこむように歩み寄ってきたのだ。
もはや男の眼球以外、ろくに見えない。
『ここは、ニューネメアコロニーが誇る喧騒と快楽の都市・フェーゲシティィィ! 暗い夜が苦手な貴方も、孤独な時を過ごすのが苦痛で仕方がないそこの貴方も!ご安心ください! 眠らないこの都市にいれば、そんなネジみたいに小さな悩みも吹き飛ん――っでッ!?』
『もう、相変わらず長いんだから。これじゃゲストの方々も困ってしまうでしょう?』
男を画面外に突き飛ばしたのは、黒を基調としたドレスをまとった少女だった。
『ハァイ、流れ星ちゃんたち』
優雅に、可憐に微笑みかける少女に手を振られ、ゼファーは思わず手を振り返してしまう。
「あっ……あなたは誰?」
『私はミカ。さっきの騒がしいのがダンディ。私たちは、彼方に忘れ去られたコロニーを管理する――機械種よ』
少女はスカートの両端を摘まんでふわりと会釈する。
それに合わせて、いつの間にか少女の背後に立っていたダンディがステッキ片手に踊りだし、つられて機械たちも同様に騒ぎ始めた。
収拾のつきそうにない雰囲気に、ソロは思わず大きな溜息を漏らす。
「なあ、やっぱりこれ、夢なんじゃないか?」
大地溝帯の谷深くで、蜃気楼のようなコロニーへとたどり着いたソロ一行。彼らを待ち受けていたのは、管理者を名乗る機械種たちだった。
『さあおいで、ボクの可愛い流れ星たち!』
「んな事言われてもよぉ、行くか普通?」
「でも、行くしかないだろ。この状況じゃ」
「つってもなぁ……嬢ちゃんはどうする、って、どこ行ったんだ?」
「ミスラなら……あそこにいるわ」
ゼファーはモニターを指さす。そこには、ダンディたちの輪に溶け込んで踊るミスラがしっかりと映っていた。
『みんなも早くおいでよー!』
「おいおい、自由すぎるだろ……仕方ねぇ、ここにいてもらちが明かない、俺たちも行くか」
「はぁ、結局こうなるのかよ」
3人がミスラに合流するのを確認すると、ダンディはステッキを振り回して恭しく頭を垂れる。
「それでは皆々様を、めくるめく楽園へと、ご招待いたしましょう!」
――
――――
一行はドックと直結している空中回廊を通り、ニューネメアコロニーの内部に設けられた都市区画――フェーゲシティを目指していた。
「――で、あそこに見える一番高い塔がボクとミカのお城なんだ。綺麗でしょ?」
都市の中心にそびえ立つ3本の塔。
その頂点から、青い光が都市全体を照らすように輝いている。
「綺麗ね……海の中もこんな感じなのかしら……」
「ん? 何かてっぺんから流れてきたぞ」
「あれはコロニー全体の電力を補う装置でもある。あの光が都市の隅々にまで行き渡る事で、この都市は眠らない都市でいられるんだよ」
「じゃあ、あれを攻撃されたらお終いって事?」
「ッ――――」
ミスラの斜め上からの質問に、ダンディは目を見開いたまま時が止まったかのように身動きひとつしなくなった。
「あれ、故障しちゃった?」
「……とまぁ、ボクとミカは長い長い時間を掛けてこの街を築いてきたわけだね」
「こいつ、都合の悪い事は無視するのかよ」
「ま、まあ、せっかく案内してくれてるんだもの、水を差しちゃ悪いわよ」
それからダンディとミカは、様々な場所に案内してくれた。
空中回廊の下に広がるレース会場や、リズムに乗って手を動かして遊ぶ筐体がいくつも並ぶ遊戯場など、ソロたちが暮らす地上では見かける事のないものが所狭しと並んでいる。
「私たちは、コロニーに残されていた情報端末を改修し、その情報を下に黄金時代に生み出された数々の素晴らしい物を、長い年月をかけて再現してきたのよ。それこそ、アナタたち真人が何世代も交代するような、途方もなく長い時間をね」
「一体それになんの意味があるんだ?」
「当然の質問ね。御覧なさい、彼らを」
ミカが回廊の向かい側を歩く者たちを指し示す。
それは、共に歩き、共に語らう真人と機械種だった。
「なんで……真人と機械種は互いに殺し合うものだろ?」
「これだから地上に毒された者は……いいでしょう、私が教えてあげる。使命、役割、任務……まぁなんでもいいわ、彼らはそんな下らないシステムの楔から解き放たれ、役立たずの烙印を押される事なく暮らしていけるようになったの。そうなったら、お互いの関係も変化していく。彼らのようにね? みんな口々に言うわ……ここは楽園だって。フフ、当然よね? これこそがあるべき世界の形なのだから」
「……」
「信じられないって顔をしてるわね? ここにやって来る子たちも、最初は同じような反応をするわ。でも、この楽園の素晴らしさを知る内に、皆忘れていくのよ。ほら、みんな幸せな顔をしているでしょう?」
彼らは、今この時を謳歌しているように見える。
どこか夢心地で、皆が同じ顔をして笑い合う。
ソロがたどって来た世界とは無縁の世界。
それはまるで――
「これが……俺の……?」
少年が渇望した自由の形が、ここにはあった。
「キミたちも訳アリなんだろう? あるはずのない自由を求め、彷徨い、幾多の別れと困難を乗り越えてこの楽園へとたどり着いたんだね」
「感動的なお話ね、ダンディ!」
「うん、まったくだね、ミカ!」
ダンディはしなを作ってくずおれるミカの肩にそっと手を乗せると、2人してどこから取り出したのかも分からないハンカチで涙を拭う仕草をしてみせる。
「機械種って、泣けたのか……」
「これは心の涙よ!」
「おっと、少々話が逸れてしまったね。ボクたちはキミたちをこの都市の子供として迎え入れるつもりだ。好きにくつろいでくれて構わないからね」
ダンディの提案に、今まで会話に加わらなかったヨアキムが割って入る。
「その申し出は嬉しいけどなぁ、俺らは急いでんだ。行かなきゃならねぇ場所もある。船の修理費用は出す、だから――」
「そんなに急ぐ必要は無いだろう? 外はもう夜だ、ここで旅の疲れを癒すといい」
ダンディは「それに……」と勿体ぶるように塔を見上げると、振り返って言った。
「彼女をそんな状態で旅に連れて行くのかな?」
「え?」
「――ゼファー!?」
ソロとヨアキムは背後を振り返る。
ミスラの声と、ゼファーが意識を失って倒れるのはほとんど同時だった。
都市区画「フェーゲシティ」の中枢にある塔へと連れてこられたソロたちは、塔の中に設けられた居住空間で休息を取る事にした。
「ゼファーはこのまま寝かせておけば問題無いようだぜ」
「そっか、良かったね一大事にならなくて」
「ああ、本当にな。にしても、嬢ちゃんはあの時から気づいてたんだろ? 大したもんだぜ」
「うーん、なんとなくだけどね」
室内のベッドに横たわるゼファーは、穏やかな寝息を立てている。健康状態を調べたミカが言うには、ただの過労という事だった。疲労が完全に抜けるまで寝かせてやれば特に何かする必要もないらしい。
「……」
ベッドの前で俯くソロの肩に、ヨアキムはそっと手を添えた。
「ソロ、気にするなとは言わねぇが、お前はお前でしっかり休んどくんだぞ?」
「ん……あぁ」
「心ここにあらず、って感じだな」
ヨアキムはそう言うと、ベッドとは反対の方向へと歩き出す。
「どこ行くの、ヨアキム?」
「俺は俺のできる事をするまでよ。あー、そういやぁちょいと嬢ちゃんにも手伝ってもらいたいんだが、こっち来てくれるか?」
ヨアキムの提案にミスラは何かを感じたのか、閃いたように顔をパっと明るくさせる。そして、ソロの返事も待たずにヨアキムと共に部屋を後にするのだった。
「……」
2人がいなくなった事で、しんと静まり返る室内。
ゼファーの消え入りそうな吐息を聞くたびに、ソロは自身の胸が締めつけられていくような感覚を味わう。
「俺、ゼファーに負担かけてばっかりだな……何も気づいてやれなくて、ごめん……」
絞り出すようなその声は、微かに震えていた。
――
――――
幾ばくかの時が経った頃。
それは突如舞いこんできた。
『キミたちとの出会いを祝して、細やかながら会食の場を設けさせてもらったよ』
ダンディから手渡された招待状には、そう記されていたのだ。
4人は昇降機で会場となる中枢塔の高層階に向かう。
「……なあゼファー、部屋で休んでなくて本当に良かったのか? 時々うなされてたし……」
「大丈夫よ。お世話になったんだし、招待されたのに断るのも悪いじゃない?」
「ま、独りにするよか一緒に行動しといた方が良いしなぁ」
「……それもそうか」
「そろそろ着くよ! 料理って、何が出て来るんだろねー?」
やがて昇降機は、都市を一望できる程の高さで停止した。
「ハ! よく来てくれたね。さぁ、こちらへ」
ダンディとミカに迎え入れられ、一行は広間の中央に用意された大きな円形のテーブルへと通される。
それぞれ間隔をあけて席に着いたのを確認すると、ダンディは手を打ち鳴らした。
すると、部屋の隅の扉が開いたかと思えば、機械の兵たちが皿に盛りつけられた料理を次々と運んできたのだ。
「フフ、気に入ってくれると嬉しいわ」
「な、なんだこりゃ……?」
「アナタたちに振舞うのは、黄金時代の料理を再現したものなの」
テーブルに並べられたのは、およそ料理に使われるとは思えない色合いのギラギラとした代物。
もはやいつの時代のものを再現したのかさえ不明な有様だった。
「どうだい、美しいだろう? この料理は専用の区画で作らせた栄養素ペーストを噴射して固めたものでね。まあ、形はまだ改善する余地はあるけど、味は完璧のはずさ!」
「な、なあ……これ、本当に食べられるのか?」
「ど、どうなのかしら……」
「……」
「え、ヨアキム?」
ヨアキムは無言で皿をダンディにつき返す。
「あれ、食べないのかい?」
「いや、俺は遠慮しておくぜ。ちと食い気がしないもんで――」
「美味しそう! いただきま~す!」
「「「えっ??」」」
躊躇う3人にも構わず料理に手を伸ばすミスラ。
二度、三度と咀嚼すると、あっという間に飲みこんでしまった。
「うーん、ちょっと変わった味だけど、いけるよ」
そう言いながら次の皿に手をつける。難なく食べ進める姿を見て、ゼファーも意を決したのか、ひときわギラついた色の料理を頬張り――
「あっ、え、意外と……ん゛っ゛――――!?」
瞬間、ゼファーは身体を強張らせたまま、身じろぎひとつせず固まってしまった。
「あらあら、あまりの感動に言葉を忘れてしまったのかしら?」
「いや、あれはどう見たって不味い……」
「ハァ!? まさかケチをつける気? 躾のなってない餓鬼ねぇ! お行儀の悪い【規制音】共は、このアタクシ様が直々に【規制音】してあげるわッ!?」
ガタン、と広間に響いた物音。
一同の視線は、椅子を蹴飛ばし怒りに肩を震わせるミカへと注がれた。
静まり帰った広間に、不意にダンディの声がかかる。
「失礼、驚かせてしまったかな? ミカの代わりに謝罪しよう。彼女はボクよりアンティークな世代でね、気に入らない事があると直ぐカッとなってしまう。でも安心して、センシティブな発言はすべて彼女のプログラムが検閲してくれるから、目を覆うような暴言を吐いても、それがキミたちに伝わる事はない。とてもチャーミングだと思わないかい?」
荒れ狂うミカに誰もが動けずにいると、ダンディは仕切り直しでもするかのように手を打ち鳴らす。
「さてさて、みんな今度はお行儀よく――」
その時だった。
塔を揺るがす、激しい振動が巻き起こったのは。
会食は思わぬ形で中断された。
突如、中枢塔を襲った大規模な振動。
それは、コロニーを外界から遮断し、障壁の役割も持つ光学迷彩へと何かが衝突した事によるものだった。
「な、何が起きているんだ!?」
うねる大波のように一斉に押し寄せたアラートが、この状況が尋常ではないと物語っている。
「ダン! どうなってンのよッ!?」
「ま、待って、今管制システムで状況を確認するから……ゆ、揺らさないで……」
詰め寄るミカを片手で制しながら、ダンディは都市全体の状況を瞬時に把握する。
「襲撃者は機械種と真人の部隊だ!」
「……ま、まさか!?」
「まさか……ですってェェェッ!?」
思わず口をついて出たソロの言葉に、いち早く反応したのはミカだった。
ソロに駆け寄ると、ミカは取り出した銃をソロの頭へと突きつける。
「「「ソロッ!!」」」
「動くなァ!! このクソガキッ!!!」
離れて席につくミスラ、ゼファー、ヨアキムの3人に怒声を浴びせると、室内は静まり返った。
「知ってる事、洗いざらい吐きなさい! コイツの頭をブチ抜いて、脳みそン中【規制音】にされたくなかったらねェッ!」
いつ引き金を引いてもおかしくないミカの凶暴さを前に、ソロは淡々と、冷静に経緯を伝える。
それが、どれだけ自分を不利な状況に追いこむかを理解した上で。
「――フ、フフ、アハハハハッ!! そういう事。まさか、私たちが迎え入れた子が、こ~んな疫病神だったなんてねェッ!」
「おい、こんな事してる場合じゃないだろ!?俺たちも一緒に戦う、だから――!」
「うるっさいのよ」
――パン。
一切の躊躇なく、ミカは引き金を引いた。
「……ッ」
「餓鬼のくせして睨み返す度胸だけはあるのねェ?」
ソロの頬を、生暖かい血が伝い落ちる。
発射された弾丸は、ソロの頬を掠めて壁を穿っていたのだ。
「でもダメェ! 協力? 戦う? ふざけンじゃないわよ!」
ミカは嗤う。調律の狂った楽器のように、歪に、禍々しく。
「私の楽園に争い事を持ちこんでおいて、無事に出られると思ったら大間違いよ! ザンネンでした!」
怪しく嗤うミカは、待機していた機械兵に全員を拘束するよう指示を飛ばした。
「アンタたちの行先はもう決まってンのよ。この【規制音】供がッ! そうでしょう、ダン?」
「うん。せっかくお互いを深く理解できるチャンスだったのに……ボクは残念だよ」
「ったく、どんな掌返しだよ。勝手に受け入れといてよく言うぜ……」
ヨアキムは吐き捨てるように武器を投げ捨てる。
ミスラとゼファーも既に武装を解除され、兵たちに拘束されていた。
「ハ! イイ心掛けだね」
ダンディはその場でクルクルと回り、ステッキを高らかに掲げて宣言する。
「衛兵たち! 客人方をドックまでエスコートしてあげたまえ」
「ま、まだ間に合うはずよ! 私たちも――」
「ピィピィピィピィ煩いのよ、この【規制音】がッ!ほら、さっさと乗りなさい! 乗れよ!」
「や、離して――、んぐっ!?」
必死に抵抗するゼファーだったが、ミカの放った蹴りが腹部へ深々と突き刺さった。
「ゼファーッ!」
「あ~ら、ごめん遊ばせ? アタクシ様は手癖も足癖も悪いから、あんまり怒らせるととこの【規制音】の白い頭に、真っ赤なお花畑ができちゃうかもしれないわねェ?」
「ク……」
「こんな結末を迎えてしまったのはとても残念だ……でも、キミたちの尊い犠牲によってこのコロニーは護られる……では、良い旅を」
「クソッ、何が自由だ! 結局お前もあいつらと何も変わらない――」
ミカは口答えするソロを引きずって昇降機に乗り込んだ。
こうしている間にも塔の揺れは激しさを増し、戦火はすぐ側まで迫っている。
一行はダンディに見送られながら、広間を後にするのだった。
青き都市の至る所から爆煙が立ちこめる中、空中回廊をゆくミカと配下の兵によってソロたちはドックへと連行されようとしていた。
「アァ……私の楽園が……子供たちが……」
美しさを誇った楽園は見る影も無く荒れ果て、爆音に紛れて響く住人たちの悲鳴が、ミカのわずかな理性を容赦なく削り取っていく。
「もたもたするな! さっさと行きなさい!」
「ねえミカ、あの光景を見たでしょう? 貴女がこのコロニーのみんなを大切にしているのは分かるわ。だから……」
「ゥゥ……煩いッ! ウルサイウルサイウルサイ!アンタに何が分かるって言うのよ!?」
悪化していく惨状を目の当たりにするにつれて、ミカの言動は徐々に危うさを増しつつある。
だが、このままミカの思い通りにさせる訳にはいかない。後少しもすれば、ドックへと続くゲートの入口だ。中の状況が分からない以上、それまでに現状を打開する必要があった。
「これまでの苦労は私には分からないわ。でも、確かな事がひとつだけあるの、それは――」
ゼファーが何か言いかけたその時。
一行の遥か上空を、一条の閃光が駆け抜けていく。
光の奔流は瞬く間に中枢塔を貫き――塔を崩落へと導いた。次の瞬間、都市を照らしていた青い光が途絶えてしまったのだ。
「だ、ダンッ!?!?」
「今だ!」
ミカが激しく動揺したそのひと刹那、ヨアキムとミスラは周囲の機械兵たちから武器を強奪する。
そして、辺りの兵たちを蹴散らしながら、叫んだ。
「ソロ、こっちへ!」
「なっ!? 行かせる訳ないでしょうがァッ!?」
ようやく事態を把握したミカは、ソロを逃すまいと鎖の鞭を振るって襲いかかる。鉄の塊がソロの頭を捉えたその時、すぐ横から飛び掛かったゼファーによって遮られた。
「ソロは、私が護るわ!」
「この【規制音】が……邪魔するなァァァッ!!」
ミカが猛然とゼファーへ襲い掛かる。
いかに身体能力の高い真人といえど、機械種の前には到底及ばない。だが、ゼファーのソロを護りたい一心がそうさせるのか、ミカの攻撃を正面から受け止め食い下がったのだ。
「餓鬼をよこせッ! アタクシ様は、この都市を、子供たちを、護らなくちゃいけないンだよッ!!」
「貴女にも譲れないものがあるように、私にも絶対に譲れないものがある! 絶対に退かないわ!」
「アァァァッ! だったら、アンタからブチ【規制音】してやるよッ!」
3人が周りの機械兵と揉み合いになる中、ゼファーとミカは互いの信念をぶつけ合うように凄まじい剣幕で肉弾戦を展開する。
「ぐっ……なンなのよ……何故、退かない……ッ」
「私は、ソロを護るって誓ったの! ずっと傍で、見守り続けるって!」
「フン! 子をなせない真人が、何を母親面して!アタクシ様はッ! この街のみんなを護ってンのよ! 1人とたくさんじゃ、格が違うッ!!」
「護りたいって気持ちに、“1人”も“たくさん”も関係ないわ!」
小柄ではあるが機械の身体を持つミカを前にしても一歩も引かないゼファーが、渾身の一撃を放つ。
「ん――っ!? 硬っ……」
それは的確にミカの腹部を捉えたかに見えたが、多少ぐらついた程度で金属の身体はビクともしない。
痛めた拳をかばって数歩引き下がったゼファーに、高笑いしたミカが追い打ちをかける。
「いい加減、くたばれってンのよッ!」
「……ッ!」
形勢は傾きつつあった。不慣れな肉弾戦と未だ万全ではない体調。意志の力だけで奮戦していたゼファーだったが、時間が経てば経つほど力の差は顕著になり、押され始めていく――そして、バランスを崩した一瞬の隙を突いて、彼女の腹部に鎖が直撃した。
「――っかは……ッ」
深々とめり込んだ鎖は、ゼファーの内臓を激しく揺さぶり、痛みが意識を奪おうとする。
「イイ顔ねェ! オラ! もっと哭きなさい!」
続けてミカは、くの字に折れ曲がったゼファーの首を掴み、一気に宙へと吊り上げた。
「……っ、……ぎ……っ」
「アハハハハッ! 真人如きが、アタクシ様に敵う訳ないンだよッ! 逝けッ!!」
「――――うっ」
ミカが指に力をこめた矢先、腕を何かの液体が伝っていく。ソレは、黄金時代の料理を再現したものによく似た色で――
「ッ!?!?」
勢いよくミカの顔面に降り注いだ――!
「ンギァァァッ!?!?」
吐しゃ物に視界を塞がれ、驚きのあまりミカはゼファーを手放してしまう。
半狂乱の状態で鎖を振り回し続けるミカだったが、どうにか視界が開け、辺りを確認する。
ゼファーは、すぐ足元でうずくまったまま身動きが取れないでいた。
「見つけたァァッ! 死ねッ! 女ァァァッ!!」
鎖を叩きつけようと振りかぶったその時、ミカの視界の隅で何かが動く。
それは、ミトロンを構えたミスラとバラキエルの引き金を引くソロの姿で――
「ミトロン!」「バラキエルッ!」
解き放たれた2つの光がミカへと飛来する。
「ふざ、け――ンじゃ、な――」
巨大なうねりに飲みこまれ、ミカは回廊の下層へと落ちていくのだった。
「……うっ、ゲホッ、ゲホッ」
「大丈夫か、ゼファー!?」
「ソ、ソロ……私なら、大丈夫よ。それに、身体は痛いけど……なんでかしら、とてもスッキリしてるの」
身体の痛みなど気にせず、ソロを抱きしめる。
まるで、大切な我が子をどこへもやらないとでもいうように。
「おい、やめろって! は、恥ずかしいだろ!」
「ま、たまには良いんじゃねぇか?」
「そうそう、頑張ったご褒美だよね!」
ソロはゼファーの腕から逃れようともがくが、まるでビクともしない。
その力強さに驚き、今後ゼファーを本気で怒らせる事だけはやめておこうと心に誓うのだった。
――
――――
通路を警備していた機械兵を倒し、ソロたちは戦闘艇が格納されているドックまでたどりついた。
中での戦闘を警戒していたがドックの中はもぬけの殻で、全ての艦が戦闘に駆り出されているようだ。
「よし、今のうちに脱出を――」
だが、困難を突破したソロたちの前に新たな試練が立ち塞がろうとしていた。
開いたままのゲートに、戦闘艇が突入してきたのだ。
そして、ソロたちの行く手を阻むように船は着陸した。その船のフォルムは、ミスラが乗る船によく似ていて――
「クソ、機械種か!」
「クカカッ! ソロ・モーニアァァァッ!!」
ドック中に響き渡る声に、ソロたちは聞き覚えがあった。その声の主は戦闘艇から勢いよく跳躍し、一行の前に着地した。
膝をつき身体を丸めているにも関わらず、その存在感は他を圧倒する。
人の身体を優に超す巨体と、4本の鋼鉄の腕。
ただそこに在るだけで、絶望の二文字を抱かせるには十分すぎる程の存在。
機械種の将――アイザックが立ちはだかった。
「待ちわびたぞ、この刻を。あの時はよくも辛酸を舐めさせてくれたなァ!!」
「ハッ! お前なんかに構ってる時間は無いんだよ! バラキエルッ!」
「させぬわッ!」
構えたバラキエルの銃口に光が集まる。だが、即座に反応したアイザックの剛腕によって、ソロは身体ごと弾き飛ばされてしまった。
「ソロ!」
「…………ガハッ!」
アイザックはミスラたちの事など目もくれず、ソロの方へと歩き出す。
「――アイザック様お待ちください!」
すると、アイザックの後方から声がかかる。水色の髪を振り乱して現れたのは、ミスラの幼馴染であるニア・ユーディットだった。
「あ、ニアだ!」
「ミスラ、今あなたに構っている場合では」
「――ミツケタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!!」
不意に、ゲートの入口からつんざくような不快な音が響く。
ソロたちにとって確実に状況が悪い方向へと転がっていく中、更に状況を悪化させる者が乱入してきたのだ。
静まり返ったドック内。
音のした方へと視線を向けたゼファーは、小さな声でつぶやいた。
「ミカ……まだ生きて……」
空中回廊で死闘を繰り広げた機械種の女――ミカが、憤怒にまみれた表情で立っていたのだ。
彼女のドレスはボロボロに焼け焦げ、関節機構が露出し、フレームも所々露わになっている。そこに少女らしい面影など欠片もなく、ただ己の目的を果たさんとするナニかがあるだけだった。
「ソ……ロォォォォオオッ!!」
ミカが猛然と駆け出す。狙いは、真人の王子ソロ・モーニアただ一人。
「アタクシ様二寄コセェェェッ!!」
「――フンッ!」
ソロへと伸ばされたミカの手が届く事はなく、横から割って入ったアイザックに一瞬にしてあらぬ方向へと折り曲げられていた。
「――ッ!?」
「此奴は我が獲物ッ! 何人たりとて、邪魔などさせぬわッ!」
ソロたちを苦しめた機械種のミカも、より戦闘に特化した機体であるアイザックを相手にしては勝ち目はない。
「……ほう、よくよく見れば。私に交渉を持ちかけた機械種以外にも、まだ廃棄機体(ロストナンバー)が潜伏していたとはな」
「グッ、ギ……、ハナ、セェェェッ!」
「今は貴様なぞに構っている場合ではない、我が宿願を――」
その時、突如アイザックがドックの入口を振り仰ぐ。彼にしか知覚できない、何らかの音を捉えていたのだ。
ソレは、空を駆け一直線にこちらへと飛来している。
着弾点は、ニアの真後ろにある戦闘艇。
もはや退避もできなければ打開策をうち立てる余裕も
ない。
ならば、彼が今すべき事は――
「ぐ……ゲホッ、何が……起きた……?」
辺りが炎と煙で充満して視界が満足に効かない。
そんな中、ソロは頭を振って曖昧になった記憶の糸を手繰り寄せていく。
立て続けに現れた2体の機械種、ドックを襲った何者かの攻撃。そして――
「そうだ、皆はっ!?」
3人の名前を呼ぶと、すぐに返事があった。
ゼファーもミスラもヨアキムも、突然の爆発の中で奇跡的に事なきを得ていたのだ。
「おっしゃあ! 脱出するなら今しかねえ!」
「ええ、今のうちに行きましょう!」
「待って、ニアを探さなくちゃ!」
瓦礫の山に登ろうとするミスラに、ヨアキムは急いで引き止めた。
「あの譲ちゃんなら、きっと無事だ! 爆発の直前、あの機械種の大将が護ってたのを見たからな」
「おい、急ぐぞ!」
「あ……うん!」
ミスラの戦闘艇は、ドックの最奥に位置する場所に置かれていたお陰で被害を免れていた。
一行は後部ハッチから船に乗り込むと、離陸準備を進める。
「さすがに無傷ではなかったけど、これなら十分に飛べるわ!」
「またね、ニア」
「行け、ゼファー!」
「ええ――」
船は浮上し、開いたままの搬出口から外へと発つ。
疲労と安堵から皆が思わず笑みを浮かべたその間際、突如として船体に衝撃が走った。
「……っ!?」
何かが、高速でぶつかってきたのだ。
ソレは船の上を動き回り、金属が擦れ合うような不快な音を撒き散らしていく。そして、浮上で不安定になっている隙を見計らい、窓を突き破って侵入した。
不運にも、後方で座りこんでいたソロの前へと。
「ドコヘ、イクノ? ワ、アタ、シサマハ、ユルシテナイッ、ノニ……ッ!」
「嘘だろ……その状態でまだ生きてられるのか!?」
正体不明の何かは、顔以外のほとんどが焼け落ち、人としての面影を完全に捨て去ったミカだった。
「ソロ! 離れろ!」
ヨアキムとミスラが咄嗟に武器を構える。だが、ミカはソロが射線上に来るように動き、撃たせないよう立ち回ってみせた。
「ダイジ、デショウ?」
「チィッ!」
2人が駆け寄ろうとするも、時既に遅く。
ミカは半壊状態とは思えぬ素早さでソロの身体を抱きしめ、そして、ザラザラとノイズ混じりの声で囁いた。
「サァ゛、イキマショウ゛……ワ゛タシト、
イッショニ……」
次の瞬間、ミカはソロを抱えたまま船を飛び降りた。
ヨアキムとミスラがすぐに下方を確認したものの、ドックの入口は都市を覆う煙と炎に遮ぎられて何も見えない。
「畜生ォォッ! 俺とした事が、なんてザマだッ!」
ヨアキムの叫びが、虚しく船内に木霊した。
――
――――
ドックの中へ降り立ったミカは、腕の中で抵抗するソロを床に転がし、地面に組み伏せた。
頼みの綱のバラキエルは戦闘艇の中。そんな状態で虜囚のように両手を上げたまま拘束されては抗えようはずもない。
「ぐっ……は、離せ!」
「フ、フフ、ワタクシニ、アナタノ……コドモヲ、チョウダイ?」
「ふ、ふざけるな! お前の目的は、俺を機械種に引き渡す事だろ? それがなんで子供の話になる!」
「モウ、ワタクシ、ニハ……ナニモ、ナイ。ダンモ、コドモタチモ……! ダカラ、アナタ、ツカ……ッテ、コヲ……ウムノ……ヨ……」
「そんな事、できるわけない!」
「デキル、デキルワ……!」
鼻と鼻が擦れ合う程の距離で、ミカは言った。
「コロニィノ……ジンコウ、シキ、ウガ、ア、ァァレバ。ソレヲ、ワタクシノ、ナカニウメ、コンデ……」
飛躍する思考に、ソロは状況も忘れて問いかける。
「なんで、そうまでして拘るんだよ!? 何がお前をそうさせる! そんな事に、なんの意味が――」
「アル、ワ……アルノヨ……」
ミカはゆっくりと上体を起こす。
そして、壊れた方の腕を自身の腹部にあてがい、ゆっくりと上下させる。
まるで――腹に宿った子を、あやすように。
「ズット、ネガッテイタ。ワタクシハ、ウミタ、イ。ワタクシノ、ワタクシダケノ……コドモヲ……!」
「な……っ」
「イタミヲ、シリタイ……! ソノ、サキニアル、セカイヲ! ァ……アァ……! ソウヨ、ワタクシノ、イシキ……データヲ、アノオ、オンナニ――」
「――痛みなら、俺様が教えてあげるよ?」
――銃声が鳴り響いた。
「ァ、――――」
ミカの胸に空いた、大きな穴。
ミカは自身の身体に起きた異変を認識する間もなく、ソロの上に崩れ落ちた。
「どう、痛みは感じ――って、もう死んじゃった? あっは、まぁどーでもいいか♪」
「だ、誰だ!?」
ミカを押しやり、ソロは声のする方へ向き直る。
だが、舞い上がる煙のせいで誰の姿も視認できない。
ただ、やけに陽気な口笛が木霊するのみ。
「~~♪」
「クソ、出て来い!」
「――酷いなぁ、これじゃ感動の再会が台無しだよ」
「っ!」
耳朶をねぶるような声。
ソロは振り向き様、首筋に小さな痛みを感じた。
「ッ……な、にを……ッ!」
「おっと、威勢がイイねぇ。まぁ、しばらく俺様の腕の中でおやすみ?」
その言葉で、ソロは何らかの薬剤が投与された事に気づいたが、抗いようのない眠気に視界は虚ろになっていく。
そして、男の腕に抱かれながら、深い微睡の中へと沈んでいくのだった。
「お眠り、可愛い王子様~♪」
(歌が……きこえ、る……)
混濁する意識の中で薄っすらと映ったのは、深紅の髪を揺らす眼帯男の姿。
「今日は最っ高の一日だったねぇ、ソロくん?」
赤髪の眼帯男――ロトは、穏やかに眠る少年を宙に掲げて無邪気に嗤う。
まるで、大事な宝物を手にした子供のように。
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チュウニズムな名無し
582022年10月17日 11:39 ID:plqbhr95最初の都市はシステムに破壊され、相棒と築いた新たな都市は真人(ロト)に破壊された挙句ボロボロに破壊される...。
本人達が生きてる上に前向きだから重くなってないだけでミカとダンの境遇ってかなり悲惨だよな...
もうそっとしておいてやってくれ
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チュウニズムな名無し
562022年07月17日 06:49 ID:duu3nydi多少強引だったとはいえ招き入れたソロ達が原因で自分の築いた理想郷が滅茶苦茶にされた上に自身も破壊されたのは可哀想ではある...
あと通常グラからは想像つかないくらい素で凶暴な性格してるの好き。
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チュウニズムな名無し
542022年05月21日 14:18 ID:pcpu6bz3トランスフォームして使いたいけど覚悟がいるわ
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チュウニズムな名無し
532022年05月19日 23:35 ID:fe4ncjp5ソロ君ミスラにさらっとうらやまけしからん目に遭ってるやんけ
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チュウニズムな名無し
522022年05月11日 21:08 ID:h5nbuxygこのまま一年くらいランキング居てほしいわ
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チュウニズムな名無し
512022年05月09日 17:14 ID:iv0ghm0rまたランクインしてるのキャラスト並にしぶとくて草
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
482022年05月08日 18:18 ID:j7j0mgppキャラへ対して失礼で他キャラページにあるわけでもなく不要と感じたので、
>ただし絵面がアレな意味で難易度15+なので変更する際には充分に気を付けて下さい(戒め)。
の一文を削除しました。余計であればすみません。
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俺の股間もオーバージャッジ