ゼファー・ニアルデ
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通常 | アンビバレンス |
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Illustrator:おぐち
名前 | ゼファー・ニアルデ |
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年齢 | 素体年齢22歳 |
職業 | 地上奪取派(イノベイター)の衛士 |
身分 | 銅騎士 |
- 2022年2月17日追加
- NEW ep.Ⅲマップ1(進行度1/NEW時点で105マス/累計105マス)課題曲「Qliphothgear」クリアで入手。
- トランスフォームすることで「ゼファー・ニアルデ/アンビバレンス」へと名前とグラフィックが変化する。
聖女バテシバ亡き世界に地上奪取派(イノベイター)の衛士として活動する『真人』。
"特別な存在"としてこの世界に産み落とされた彼女は、正当なバテシバの子の教育係として任される事になるのだが……?
スキル
- オーバージャッジ【NEW】 [JUDGE+]
- 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。ジャッジメント【NEW】と比べて、上昇率+20%の代わりにMISS許容-10回となっている。
- PARADISE LOSTまでのオーバージャッジと同じ。
- NEWで追加されるトラックスキップ機能や判定タイミング音機能で他のスキルと似たような条件にすることが可能。これらを組み合わせることでPARADISE LOSTまでのスキルと似たようなゲージ上昇率、判定タイミング音、中断(強制終了)にすることができる。
- 判定タイミング音をATTACK以下に設定:パニッシュメント
- 判定タイミング音をJUSTICE以下に設定:ヴァーテックス・レイ
- トラックスキップをSSSに設定:ボーダージャッジ・SSS(達成不能で楽曲が中断されるため注意)
- NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
- GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
- スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
- CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「オーバージャッジ」から変更された。
効果 | |||
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ゲージ上昇UP (???.??%) MISS判定10回で強制終了 | |||
GRADE | 上昇率 | ||
▼ゲージ8本可能(220%) | |||
1 | 220.00% | ||
2 | 220.30% | ||
35 | 230.20% | ||
50 | 234.70% | ||
▲PARADISE LOST引継ぎ上限 | |||
68 | 240.10% | ||
102 | 250.10% | ||
▼ゲージ9本可能(260%) | |||
152 | 260.10% | ||
200~ | 269.70% | ||
推測データ | |||
n (1~100) | 219.70% +(n x 0.30%) | ||
シード+1 | 0.30% | ||
シード+5 | 1.50% | ||
n (101~200) | 229.70% +(n x 0.20%) | ||
シード+1 | +0.20% | ||
シード+5 | +1.00% |
開始時期 | 最大GRADE | 上昇率 | |
---|---|---|---|
NEW+ | 133 | 256.30% (8本) | |
NEW | 241 | 269.70% (9本) | |
~PARADISE× | 290 | ||
2022/9/29時点 |
- 登場時に入手期間が指定されていないマップで入手できるキャラ。
バージョン | マップ | キャラクター |
---|---|---|
NEW+ | maimaiでらっくす | どりー |
- カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
人類亡きあとの地上に現れた『真人』と『帰還種』。地上を管理する機械種によって生み出された両者は、互いに歩み寄れないまま争い続けていた。
戦局は大方の予想を覆し真人の優勢で推移し、大陸中央部の制圧も時間の問題……かに思われたが、それは両者も予想だにしない形で途絶えることとなった。
真人を率いてきた聖女バテシバの――死によって。
レナ・イシュメイルが電子の楽園から帰還したことを発端として始まった戦いから15年。支配権を巡る争いは、新たな局面を迎えようとしていた。
私――ゼファー・ニアルデの一日は、悪夢の目覚めから始まる。
夢の内容は決まっていて、病的に白い肌をした少女が泣き叫んでいる姿をただ眺めているだけ。
顔は見えないし、何を言っているかも分からない。
いつからだろう。
その夢の内容が変化したのは。
それまでの夢は遠巻きに眺めているだけだったのに、少女との距離は縮まっていて、何を叫んでいるのかもいつの間にか理解できるようになっていた。
また、彼女はしっかりと私を見ていて――
「はぁ……はぁ……」
エアロクラフトの堅い寝台の上で、私は目を覚ました。汗まみれの額を手でぬぐって身体を起こし、窓の向こうの景色を眺める。
「よかった……今日も無事に朝を迎えられたのね」
オリンピアスコロニーを逃げ出して数日が経つのに、まだ一度も追手と出くわしていない。
「……ん……」
後ろでもぞもぞと動く気配を感じる。
ソロが寝がえりを打ったらしい。
「眠っていると、何処にでもいる男の子にしか見えないのにね……」
このままソロを連れて、何事もなく北の大地まで逃げられればいいけれど。
「……俺が……絶対に……護るんだ……」
「ふふ。私も絶対に、あなたを護ってみせるわ」
寝言を言うソロの真っ白な髪を、あやすように撫でつける。
そうよね、弱気になっちゃダメ。
私たちは、“2人で生きる”って決めたのだから。
私は真人の強硬派の武官であるカイナン様の手によって、この世界に生み出されたらしい。“らしい”というのはその頃の記憶だけがぽっかりと抜け落ちているからだ。
生まれた時から姿形が決まっている真人。
でも私の身体は他の真人とは違い、緩やかに成長を続けている。
この重たくなった身体が、何よりの証拠。
私は真人よ。その……はず。
私は一体、何者なのか。
今の私にそれを知る術はない。
カイナン様をいくら問いただしてみても、答えはいつも決まって「お前は特別なのだ」と誤魔化すだけ。
そんな言葉だけで、私の不安は取り除けないわ。
……私は知りたい。自分が生まれた意味を。
だけど、そんなモヤモヤとした気持ちを抱えたまま暮らしていたある日、カイナン様はこう言った。
「ゼファー、お前に仕事を頼みたい。ついて来い」
「仕事……ですか? 私にできることなんて、たかが知れていると思いますが……」
「ついて来いと言っている」
「分かりました」
カイナン様の庇護がなければ生きられない私に、もとより拒否権はなかった。
言われるがままついていった先は、先の大戦の際に私たちの先人が血と引き換えに取り戻した都市のひとつである辺境都市ゴリツィアコロニーを管理する領主エステル・ヤグルーシュ様の邸宅。
「お待ちしておりました。中へお入りください」
2人の衛士に迎えられた先は、豪奢な造りの部屋だった。
そこにいたのは領主エステル様と、うつむいている白髪の男の子。
「よく来てくれたわね、2人共」
「エステル、この少年が例の?」
「ええ」
穏やかな表情のまま、エステル様は告げた。
「このお方はソロ・モーニア。我ら真人を束ねし聖女バテシバ様が、この世に遺した奇跡の子です」
「バ、バテシバ様の子……?」
「ええ。それでカイナン、ゼファーにはもう仔細は伝えてあるのかしら?」
「まだだ」
「そう、では私から伝えましょう。カイナンの従者ゼファー・ニアルデよ、其方を只今をもってソロ様の教育係に任命する」
「は、はい……えっ!?」
私が……この方の教育係?
外の世界もろくに知らない私が教えられることなんて……。
「後のことはお前に一任する。くれぐれも粗相のないようにな」
「よろしくね、ゼファー」
「お、お待ちください、カイナン様、エステル様!なぜ私が……私よりももっと優秀なお方がいるのではないでしょうか?」
「いいえ。貴女以上の“適任者”はいないわ。何かあれば連絡をちょうだいね?」
その言葉だけを残して2人は去って行った。
「私が適任者なんて……何がなんだか……」
「――ねえ」
「ひゃっ!?」
突然の声に振り返る。
いつの間にか、ソロ様が私の服の裾を掴んでいた。
「あっ、失礼しました、ソロ様! 私はゼファー・ニア――」
「知ってる。ねえ、お前は僕の敵?」
ソロ様の真っすぐな視線に射抜かれ、私は息を飲んだ。紅色の瞳に宿る深い感情のうねり。
苦痛、悲しみ、諦念、そして、怒り。
あらゆる激情が混ざり合ったような、どこまでも深い赤。
幼い体の中に、どれほどの激情を秘めているのか、私には推し量ることができなかった。
「ねえ、どうなの?」
「私は――」
感情に飲み込まれないよう、心を強くもって見つめ返す。ここで目をそらしたら、もう二度と信頼してもらえないと、そう感じたから。
「ソロ様の敵ではありません」
「……そう。よろしく、ゼファー」
どれだけの時間が経ったのか。
ソロ様は表情を変えずに椅子に戻っていった。
おそらく……私はソロ様のお眼鏡に適ったらしい。
でも、私に教育係なんて、本当に務まるのかしら?
ソロ様の教育係になってから、私の日常は大きく変わっていった。口数の少ないソロ様とコミュニケーションを取るのはひと苦労。
服は脱ぎ散らかしたままだし、指摘してもそれは世話係がするものという態度を見せてくる。
自分のことすらまともにできない。
私も人のことは言えないけれど、ソロ様はそれに輪をかけて世間知らずだった。
「もう……まさかこんなに手を焼かされるなんて思わなかったわ……」
でも、正直に言うと、そんな日々が私は嫌いじゃなかった。
カイナン様の下でただ生きているだけだったあの頃に比べると、今の方が充実しているんだもの。
それに、私は信じていた。
私が真剣に向き合えば、いつかソロ様も私に心を開いてくれて、距離を縮められるんじゃないかって。
そんな目まぐるしく過ぎて行く日々は、きっかけひとつで形を変えた。
それは、とある夜に嵐がやってきた日のことだ。
激しい雷雨に目を覚ました私は、ソロ様のことが心配になって寝所へと向かった。すると、微かな物音に気付いて扉を叩く。でも返事はない。
「ソロ様!? 失礼します……!」
灯りをつけて部屋を見渡してみると、ソロ様はベッドではなく部屋の隅っこにうずくまって泣きじゃくっていた。
「ソロ様!? 大丈夫ですか、ソロ様!?」
「ぁ……ぐすっ……ゼファァァ……」
顔を上げたソロ様は、泣いていた。
そこにはいつものぶっきらぼうな態度はなく、私を問い詰めるような鋭い視線もない。
目の前にいるのは、何かに怖がる歳相応の幼い男の子だった。
「ソロ様、もう大丈夫ですよ。私がついていますからね」
壊れものに触れるように優しく抱きとめると、小さな手の感触が背中に伝わってくる。必死に私を求めてもがくその姿を見て――私は心の中に強く湧き上がってくる何かを感じた。
私はこの子を――護りたい。
何があったのかは分からないけれど、それでも、私が、私だけはこの子の味方にならなくちゃって、そう思えたの。
――それからの日々は、あっという間に過ぎていった。
私はエステル様に謁見し、ソロ様の衛士になることを志願した。
そして、あの嵐の夜以来、ソロは私が「様」付けで呼ぶのを嫌うようになり、少しずつ感情を表に出せるように。
そんな私たちの関係は、エステル様が言うには姉弟のようでもあり、親子のようにも見えるらしい。
その言葉に、私は自分の生きる意味を見いだせたような気がした。
ソロが13歳になった頃、ゴリツィアは何者かからの襲撃を受けた。エステル様のお陰で私たちは命拾いしたものの、邸宅は焼け落ち、ゴリツィアの地を離れざるを得なくなってしまった。
「ここにも……僕の居場所はなかったんだ……」
「ソロ……」
悲痛な表情を見せるソロを、私はただ抱き寄せることしかできなかった。
襲撃事件の後、私たちはカイナン様に連れられて機械都市オリンピアスコロニーへ向かうことになった。ソロの身の安全を考えれば、そこで保護するのが一番……でも何故か、不安を感じずにはいられない。
「――ようこそ、オリンピアスへ。お出迎えできなくてごめんなさいね」
私たちを出迎えてくれたのは、聖女バテシバ様の後継者になった聖女レア様。彼女もバテシバ様が遺した子供たちの1人だった。
「今日からこのオリンピアスが、あなたたちの暮らす場所に――」
レア様の視線がソロに向けられる。
さっきまではなんともなかったのに、ソロは見るからに憔悴していた。
「……ソロ!?」
「あらあら、ソロはお疲れのようね? 今日はゆっくりと体を休めるといいわ」
「あ……お心遣い、ありがとうございます」
「では、部屋までは私が案内しよう。2人共、私の後に――」
「待て、そこの女。そう、お前だ」
カイナン様の言葉を遮り私を指さしてきたのは、レア様の隣でずっとソロを睨んでいる男――宰相ヴォイド。
ソロと同じ白髪に赤紫色の瞳を持つ男だった。
「なんでしょうかヴォイド様」
「お前は後で私の部屋に来い」
「私……ですか?」
「行くぞ、ゼファー。ソロ様をそのままにしておく気か?」
「あ……レア様、ヴォイド様、失礼いたします」
会釈して謁見室を退室し、ソロを寝室まで送り届けた後、私はヴォイド様が待つ部屋に向かった。
「ヴォイド様、ゼファー只今参りました」
「入れ」
「失礼いたします」
扉を閉めて振り返ると、さっきまで部屋の中央にいたはずのヴォイド様が――すぐ目の前に。
「っえ?」
咄嗟に身構える。
けれど、それよりも早く私の両腕は扉に押さえつけられていた。
吐息を感じる距離まで密着され、抵抗すらできない。
「や、止めてください、ヴォイド様――ひっ!」
乱れた髪の間から見えたのは、寒気を覚える程の激しい感情に満ちた瞳だった。
「何故だ……何故あいつなのだ……」
「いや、何を言って……」
「私にも母上の寵愛を受ける権利がある!だというのに! この私が! あんな役にも立たぬ小僧にぃぃ!!」
「い、痛……っ……やめ、て……」
「あいつはどうやってお前を手籠めにした。いや、お前が“たらしこんだ”のか? クソァッ! その顔もその声も! 今すぐ私の物にしてやるからなッ!!他でもない、この私の物にだッ!」
「――あっ!」
熱を感じた。
見れば、生暖かい吐息をこぼしながら、首筋にべっとりと舌が這いずっている。
助けを呼ばなくちゃいけないのに、恐怖と嫌悪感で声を出せない。
いや……怖い……ソロ……たすけ――
その瞬間、激しい音が室内に響いた。
視線を横に向けると、そこには息を切らせながらヴォイドを睨みつけるソロが立っていた。
「ソ、ソロ……」
「お前! 今すぐゼファーから離れろ!」
「貴様ァッ……!」
ソロは私とヴォイドの間に割って入り、力一杯にヴォイドを突き飛ばす。
「グゥ……ッ!」
「二度とゼファーに触れるんじゃない!」
「あっ……」
ソロに手を引かれながら、私は部屋を後にした。
「アァァァァッ! 母上ェェェッ!」
背後から聞こえてくるヴォイドの甲高い声。それは、壊れた機械のように何度も何度もソロへの恨み言を垂れ流し続けていた。
ヴォイドの部屋から逃げ出した私たちは、無事にソロの部屋まで戻ることができた。
「ありがとう、ソロ……」
「ゼファー、怪我してない?」
「ええ、大丈夫、大丈夫よ……」
ソロの顔を見て安心したせいか、私は急に力が入らなくなって床にへたりこんでしまう。
「ゼファー!? やっぱりどこか……」
「ううん、ただ疲れただけだから……」
「でも、そんな顔されたら心配になる」
「ソロ……」
「手が震えてる。僕にはこれぐらいしかしてあげられないけど……ゼファーが怖くなくなるまでずっと一緒にいるから」
ソロなりの優しさが、今の私にはたまらなく心地よかった。
……あの男は、私たちにどうしてあそこまでこだわるのだろう。あの男は一体何を知っているのか、私は知らなくちゃいけない。
もしかしたら、そこにこの身体の秘密が隠されているのかも……。
翌日、私はカイナン様の下に向かった。
「――カイナン様、教えてください。私とソロと、あのヴォイドという男について」
「ふむ……私はヴォイドという男を見誤っていたようだ。ここまでなりふり構わない奴だとはな」
「では……教えて下さるのですか?」
カイナン様は長く沈黙した後、重い口を開いた。
「止むをえまい。ここにいれば、いずれあの男がばらすのも時間の問題だろうしな」
「あ、ありがとうございます!」
「だが、この真実はお前にとっていい話ではないだろう。それでもお前には真実を知る覚悟があるか?」
カイナン様の問いに、私はゆっくりと頷く。
「ここが安息の地ではないと分かった以上、私は知らなくてはいけないのです。あの子を、あらゆる危険から護るためにも!」
「そうか、仕方がない……その想いに応えよう」
カイナン様は私が受け止められるように、少しずつ疑問への答えをくれた。
病没したバテシバ様を復活させるためにとられた措置のひとつ――その結果として、私は生まれた。
本来であれば、私はバテシバ様を迎え入れるための器に過ぎなかったのだ。
バテシバ様から取り出した生体情報と記憶を私の身体に上書きすることで、バテシバ様を蘇らせようとした……。
「私は……バテシバ様の……クローン、ということですか?」
伏せられていた真実の大きさに、“私”という存在そのものが、ぐにゃりと揺らいでいく。
「案ずるな、措置は結果的に失敗に終わった。バテシバ様の生体情報がお前の身体を構成してはいるが意識は全くの別物だ。そして、どの素体もバテシバ様を完全に再現するには至らなかった」
「どの……? 私以外にもいるのですか?」
「多くの素体は破棄されたが、私が知る限り今も生きているのはお前とレアだけだ。レアが聖女として担ぎ上げられたのは、レアに指導者の素質があっただけにすぎん」
「では……もしレア様の身に何か起きれば、次は私が……」
「それは誰にも分からんさ。あの男も黙ってはいないだろうしな。さて、話はここまでだ。お前はもう休め」
「あ……かしこまりました……」
身体の震えを抑えこんで、私はどうにか自分の部屋まで戻ってくることができた。
「私は、予備として生かされているだけにすぎない……」
ベッドに身を預け、1人つぶやく。
私には、真人が生まれながらに持つ使命や疑似記憶すらない。ただ、帰還種のように身体が成長する異質な存在……。
そこで私はようやく理解した。
かつてエステル様が私にかけた言葉の本当の意味を。
「ああ……だから私は“適任者”だったのね……」
ヴォイドとの一件以来、ソロの様子がおかしい。
ソロは時折、人の感情を敏感に察知しているかのような素振りを見せることがある。
もしかして、ヴォイドから向けられた憎悪に何かを感じ取っていたのかもしれない。
「こんな時、私が本当の母親だったら、ソロに寄り添うことができたのかしらね……」
物思いに耽っていると、ふと扉を開く音がした。
「ゼファー、まだ起きてる?」
「ソロ? こんな時間にどうしたの?」
「ずっと考えてたことを、ゼファーに話しておきたくて」
ソロはベッドに腰掛け、単刀直入とばかりに言い放った。
「僕はここから逃げる」
「えっ!?」
まるで散歩にでも出掛けるような、そんな軽い口ぶりで。だけど、それが冗談じゃないことはソロの真剣な眼差しを見れば分かる。
「どうして私にそんなことを言うの? もし私が誰かに告げ口したらって思わなかったの?」
「ゼファーはそんなことしない。僕には分かる」
自信に満ちたソロの答えに、私は思わず口走っていた。
「……どうしてソロに分かるの? 私はもう、自分が何者なのか分からないのに……っ」
「ゼファー?」
私はただの入れ物。私が私であることを、私自身が信じてあげられない。分からない。あふれてくる涙を止められない。
「私はこれから……どう、生きていけば……いいの……?」
ああ、教育係が聞いて呆れるわ。
こんなみっともない姿を、ソロにさらけ出してしまうなんて……。きっと愛想を尽かされてしまう。
でも、ソロがくれた言葉は、私が思っていたものとは違っていた。
「ゼファー、一緒に逃げよう! ゼファーにそんな顔をさせるオリンピアスなんかに、いつまでもいられるもんか!」
「え……でも……私なんか……」
「“でも”も“どうして”も関係ない!決めたんだ。僕が、いや、“俺”が! 必ずゼファーを連れ出すって! 置いてかない、ゼファーは俺のたった1人の、家族だから!」
手が差し伸べられる。
初めて会った時は、あんなに小さかったのに。
気付かないうちに、こんなに大きくなっていたなんて……。
私はソロの手を強く握りしめて、笑った。
「ありがとう。私を家族と言ってくれて」
「当然だろ!」
この日、私たちは誓い合った。
オリンピアスコロニーから逃げ出し、この世界を2人だけで生き抜いていくことを。
ソロが立てた脱走計画。
それは、戦地に向かう揚陸艇に兵士として紛れ込むことだった。
オリンピアスは今、機械種が敷いた防衛網への侵攻作戦を進めている最中で、頻繁に大型の輸送艇が出入りしている。
そこに兵士として潜り込めればこちらのもの。
後は逃げた先で別の船を調達してしまえばいい。
逃亡する場所も既に決まっている。環境の修復を終えてから誰にも支配されていないという北方領域がゴール地点だった。
そこまでたどり着ければ、私たちを縛るものはもう何もない。
――計画実行の日は直ぐにやってきた。
私たちは兵士の姿に扮して、アルヴィールコロニーを目指す揚陸艇に乗り込んだ。船は難なく出発し、補給のために立ち寄ったエフェスコロニーで無事に揚陸艇を離れることができた。
ここまでは順調に進んでいる。
あとは別の船を調達できれば――
「お前たち、そこで何をしている!」
「っ!」
背後からかけられた声に振り返ると、そこには都市を巡回していると思われる衛士がいた。
相手は1人。
でもここで騒ぎ立てられるわけにはいかない。
「所属と階級を言え。答えられないのならば――」
「……っ」
衛士が銃に手をかけた。
私は、咄嗟に銃に手を伸ばそうとしたソロを制する。
こうなったら、腹を括るしかない――!
「……我々は聖女レア様配下の武官、カイナン様の密命を受けて行動している。ゴリツィアコロニーを襲撃し北方に逃走したテロリストを追っている最中だ」
「テロリスト? そんな情報は聞いていないぞ。貴様ら、やはり……」
「…………っ」
だ、ダメよゼファー、ここは堂々と対応するのよ!
「……待て、まあ無理もない。まだ犯人の素性も特定ができていないのだからな。ましてや、辺境都市で起こった事件の話となれば尚更だろう」
「ほう……ではこちらで確認させてもらおう」
「良いのか? モタモタしている間にもテロリストの逃亡を許してしまうぞ? それはカイナン様にとって都合の悪いこととなろう。もう一度言うが、我々は今、急いでいるのだ」
「ふむ……」
衛士は渋い顔をして私たちを睨んでいる。
ここで怯んだら負けよ。この話が本当だって信じ込ませなくちゃいけないんだから……!
「やはりこちらで改めて確認させて……」
「――それなら問題ありませんよ」
衛士が口を開こうとした矢先に、どこからともなく男の声がした。
「貴様、何者だ?」
「失礼、俺は南方方面軍指揮官サルゴン閣下の配下のナディン」
衛士の前に姿を現したのは、黒髪に褐色肌をしたナディンという男だった。
男は穏やかな口調で衛士に語り掛ける。
「あの2人は俺に協力してもらってましてね。ここに閣下からの正式な書状もありますが、確認しますか?」
これ見よがしに提示された書状を前に、衛士は黙って見ていたかと思うと、やがて銃から手を離した。
「そうか、疑ってしまってすまなかったな」
「ハハ、気にしないでください。むしろ、疑ってかかる方が衛士として優秀な証ですよ」
そのまま幾つか言葉を交わすと、衛士の男は去って行った。
……私たち、難を逃れたの……かしら。
「なんだったのかしら……」
「ゼファー、今は先を急ごう」
「え、ええ……」
私たちもその場を後にし、近くの発着場で小型の飛行艇――エアロクラフトを見つけ、無事にエフェスコロニーを離れることができた。
レーダーを見ても私たちを追いかけてくる反応は見られない。
「……これでひと安心ね……あら?」
「ゼファー、こっち来てみろよ!」
さっきまで横にいたソロは、いつの間にかエアロクラフトから見える景色を眺めていた。
ソロに急かされて、私は船を自動操縦に切り替えて窓に向かう。
「わ……綺麗……」
それは、初めて見る都市の光景だった。
陽の光に照らされた無機質な構造体の群れと、都市をぐるりと囲む防壁。そして、果てしなく広がり続ける緑の大地。
あまりのスケールに、私は言葉も忘れて見入ってしまった。
私たちの存在も不安も、すべてがちっぽけなものに思えてしまう……それだけの力が、この広大な景色にはあった。
この先に何が待ち受けているかは分からない。
北の地が本当に平和であるかも不明。
それでも……私とソロの2人でなら、どんな困難にも立ち向かっていけると、私は信じる。
「行こう、北方領域へ!」
明るく希望に満ちたソロの笑顔。
歳相応に笑う姿を見て、私は心の中でそっと誓った。
その光を、その想いを、二度と奪わせないと。
私たちの脱走計画は驚くほどあっけなく成功してしまった。不安が完全になくなったわけではないけど、あの地から逃れられたことを喜びたい。
航行を始めて間もなくすると、陽も沈み始め、景色も次第に殺風景なものになっていく。
ソロはずっと気を張りつめていたせいか、あれから直ぐに眠ってしまった。きっと頑張りすぎたのね……。
そのせいかしら、1人でコクピットにいると、4人乗りの船なのにどことなく寂しさが募ってくる。
「私も疲れてるのかもしれないわね……少し休もうかしら」
寝室と呼ぶには無理がある狭い部屋。
そこには、後でとってつけたようなサイズの合わない寝台の上にうずくまるソロがいた。
「ソロ、起きてたのね……?」
ソロは答えてくれない。
薄暗い室内で分からなかったけれど、ソロの身体は震えていた。
「大丈夫?」
「あ……ゼファー……」
すがるような視線を感じる。
なんだかんだで、不安で仕方がないのね。
「隣、座らせてもらうわね」
「ちょ……ゼファー、何して……」
「分かる? 私の身体も震えてるでしょ? 私だって本当は怖いの。でもね、私もソロも独りじゃないわ。私たちは2人で生きるの。1人は無理でも、2人ならきっとなんとかなるわ。そうでしょう?」
「……ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
ソロの頭をそっと撫でた後、私たちは互いに身を寄せ合うように眠りについた。
――
――――
私は、何もかもが不安定な、霧だらけの空間で目を覚ました。足場も霧で見えず、方向感覚も何処かおかしい。
「これ……もしかして夢なのかしら」
でも、夢の割にはやけに感覚がはっきりしている。
すると、何処からかすすり泣くような声が聞こえてきた。
「まさか!?」
私は声のする方へ走った。
声が少しずつ大きくなっていく。
やがて、その声がソロのものではなく、女の子の声だと分かるようになった。
いつの間にか私の前には女の子がいた。
霧で輪郭はぼやけているけれど、その女の子はうつむいたままの姿勢で、泣きじゃくっている。
「ぁ……うぅ、ぁぁああ……」
声を荒げているわけでもないのに、声のトーンだけがどんどん大きくなっていく。気付けば女の子は泣くのをやめて何かを口走っていた。
「……して……、私、だけ……」
視線を、逸らせない。
それどころか、身体が一切動かない。
音もなく、女の子がゆるりと立ち上がった。
顔は白い髪で隠れていてよく見えない。でも、やけに細い身体が病的なまでに白いことだけは分かる。
「どう、して……私だけ……嫌……」
「ぁ、ぅ……っ!?」
……声が、出ない!?
ゆっくりと近づいてくる。女。真っ白い、女が。
離れているのに、女の声だけはっきりと頭に響く。
這いずるように、舐め回すように。
何度も、何度も……!
「……どう、して……私、だけ……嫌よ……嫌……私だけ死ぬなんて……嫌……!」
バッ! と女が顔をあげる。目が合った。
いえ、正確には、“目の形に陥没した赤い穴”と。
そこから真っ赤な涙がぶくぶくこぼれてくる。
逸らせない。瞬きもできない!
「……ふ、ふふ……みんな……みん、みんな……し……ね……死ね…………シネ……死ね!」
ひたひたと近づいてくる。顔のない女が! 嫌!来ないで! あ……あぁぁ……! びちゃびちゃびちゃびちゃうるさい! 嫌! 私の……中に、入ってこないで! 嫌!嫌!嫌ぁぁぁ!
女と、また目が合った。
『早く……“こっち”に……いらっしゃい……?』
「――ア″ァァァァァァァァッッッッ!!!!!」
「ゼファー!?!? ど、どうしたんだよ!!」
「来る! 女が来るの! 真っ白い女が!」
「ここには俺たちしかいない! 落ち着け! 頼むから! 俺の声を聞いてくれ! ゼファーってば!!」
「…………ぁ……ソ、ソロ……?」
「ああ、俺だ。もう大丈夫だから。だから、もう怖がらなくていいんだよ」
「あ……ぁぁ……」
ソロが私を強く抱きしめた。
爪が食い込むくらいに強く。強く。
まるで、私を誰からも奪わせないとでも言うように。
夢に見たあの女の顔が蘇る。
口元に沈殿した赤い涙は、歪な三日月を描いていた。