ソロ・モーニア
通常 | 双極の継承者 |
---|
Illustrator:巌井崚
名前 | ソロ・モーニア |
---|---|
年齢 | 14歳 |
身分 | 真人の王子 |
- 2022年2月17日追加
- NEW ep.Ⅲマップ2(進行度1/NEW時点で175マス/累計270マス*1)課題曲「SQUAD-Phvntom-」クリアで入手。
- トランスフォームすることで「双極の継承者ソロ」へと名前とグラフィックが変化する。
聖女バテシバの正当なる子。
幾度なる実験で誰も信じる事が出来なくなった彼は、逃亡先で教育係と出会った事を機に人生が大きく変化していく──。
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
---|---|---|
1 | オーバージャッジ | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
include:共通スキル(NEW)
- オーバージャッジ【NEW】 [JUDGE+]
- 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。ジャッジメント【NEW】と比べて、上昇率+20%の代わりにMISS許容-10回となっている。
- PARADISE LOSTまでのオーバージャッジと同じ。
- NEWで追加されるトラックスキップ機能や判定タイミング音機能で他のスキルと似たような条件にすることが可能。これらを組み合わせることでPARADISE LOSTまでのスキルと似たようなゲージ上昇率、判定タイミング音、中断(強制終了)にすることができる。
- 判定タイミング音をATTACK以下に設定:パニッシュメント
- 判定タイミング音をJUSTICE以下に設定:ヴァーテックス・レイ
- トラックスキップをSSSに設定:ボーダージャッジ・SSS(達成不能で楽曲が中断されるため注意)
- NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
- GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
- スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
- CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「オーバージャッジ」から変更された。
効果 | |||
---|---|---|---|
ゲージ上昇UP (???.??%) MISS判定10回で強制終了 | |||
GRADE | 上昇率 | ||
▼ゲージ8本可能(220%) | |||
1 | 220.00% | ||
2 | 220.30% | ||
35 | 230.20% | ||
50 | 234.70% | ||
▲PARADISE LOST引継ぎ上限 | |||
68 | 240.10% | ||
102 | 250.10% | ||
▼ゲージ9本可能(260%) | |||
152 | 260.10% | ||
200~ | 269.70% | ||
推測データ | |||
n (1~100) | 219.70% +(n x 0.30%) | ||
シード+1 | 0.30% | ||
シード+5 | 1.50% | ||
n (101~200) | 229.70% +(n x 0.20%) | ||
シード+1 | +0.20% | ||
シード+5 | +1.00% |
開始時期 | 最大GRADE | 上昇率 | |
---|---|---|---|
NEW+ | 133 | 256.30% (8本) | |
NEW | 241 | 269.70% (9本) | |
~PARADISE× | 290 | ||
2022/9/29時点 |
- 登場時に入手期間が指定されていないマップで入手できるキャラ。
バージョン | マップ | キャラクター |
---|---|---|
NEW+ | maimaiでらっくす | どりー |
- カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
母さんは聖女と呼ばれていた。
真人でありながら成長する身体を持っていた母さんは奇跡の体現者と呼ばれ、真人を繁栄に導く“救世主”として今も崇められている。
でも、母さんが強いた恐怖による統治は、多くの憎しみを生み出し、母さんを世界を滅ぼす“大罪人”と呼ぶ者たちもあらわれた。
救世主であり大罪人。
そんな両極端な人が、僕の母さんだ。だけど、一度も会ったことはない。僕を産んでから直ぐに病気で亡くなってしまったからだ。
母さんは……どんな人だったんだろうな。今も生きていたなら、僕は幸せな生活を――
「――いっ、ぎあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
だが現実はこうだ。
毎日のように繰り返される実験。
成長する身体を持つ真人から生まれた子供も同様に、奇跡の体現者であるに違いない。そんな理由から、まだ小さかった僕は毎日のように実験を繰り返されていた。
来る日も来る日も来る日も……。
中でも特にきつかったのは、記憶の刷り込みだった。
普通の真人は、疑似記憶をかませられて生まれてくるらしいけど、僕の場合は違う。
頭に機械をつけられて、真人の歴史やら戦い方やら、あらゆるものを脳に無理やり詰めこまれた。
僕を苦しめていた奴らは、泣き叫ぶ僕を見ながら、僕が母さんの後を継ぐために必要なんだって、まるで自分に言い聞かせるように何度もつぶやいていたのを今でも覚えてる。
痛みが、僕の日常だった。
徹底的に管理され、自分で死を選ぶこともできない。
誰か……誰でもいい。
無限に続くこの地獄を、終わらせてくれ……。
地獄の終わりは、あっけないものだ。
母さんの子供がどこかにいるという情報をかぎつけた機械種に襲われて、僕がいた施設は破壊された。
それからは逃げることだけが日常。
居場所はコロコロと変わって、その度に反バテシバを唱える穏健派の奴らに狙われるようになっていった。
一体、僕が何をしたっていうんだ。
顔も知らない奴らの怒りのはけ口にされるなんて、もううんざりだよ。
そうしている内に、いつの間にか僕は誰かにとっての厄介者になっていた。勝手に担ぎ上げておきながら、いらなくなったら他の実験体たちみたいにゴミ同然の扱いをする。
こんな奴らを、どうやって信じろって言うんだよ。
もう、誰も信じない、信じるもんか……。
こんな生き方を死ぬまで続けていく、そう思った矢先のこと――ゴリツィアコロニーで、僕はあの人と出会ったんだ。
『私はソロ様の敵ではありません』
ゼファー・ニアルデ。
逃げて逃げて、やっと訪れた平穏。
そこで教育係として充てがわれたのが彼女だ。
彼女を初めて見た時、直感した。この人も僕と同じだって。
だから僕は彼女といるのが嫌じゃなかった。
むしろ……一緒にいたいとさえ。
そう思えたきっかけは、嵐の夜。
豪雨の中で鳴り響く雷が、実験の恐怖を呼び覚ます。
もう終わったはずのことだと頭では分かっているはずなのに、身体はどうしようもなく震えてしまう。
脂汗と涙がとめどなくあふれてきて、僕の見る世界はぐちゃぐちゃになっていく。
このまま自分が自分でなくなってしまうような感覚の中で、温かいものが僕に触れた。
「ソロ様、もう大丈夫ですよ。私が隣についていますからね」
いつの間にか、ゼファーに抱きしめられていた。
それを認識した途端、身体から力が抜けていく。
(あたた……かい?)
どうしてだろう。
とけていくような、浮いているような。
これは……なんなの?
「私がいつでも、貴方を支えます。だから、もう我慢しなくてもいいんですよ?」
僕はただ、ゼファーに身体を預け、その温かさを感じていた。
思えば、それこそが僕が求めていた“お母さん”だったのかもしれない。
ゴリツィアコロニーが襲撃された。
ゼファーとの穏やかな生活は終わりを迎え、僕らはカイナンの手引きで中枢都市オリンピアスコロニーに移送されることになった。
「ここが……母さんが暮らしていた場所……」
窓から見えた機械だらけの都市の風景は、寒気を感じさせる不気味さと、意志を感じられない無機質さで統制されていた。
人影なんてほとんど見えないし、いたとしてもどいつもこいつも似たような顔をして歩いている。本当にここで暮らしているのかさえ疑わしい。
そんなだから、そびえ立つ黒い構造体に表示されている「真人に繁栄を、帰還種に滅びを」なんてお題目が滑稽でしかなかった。
「寂しい場所ね……」
「ゼファーもそう思う? こんなの、滅んでないだけで死んでるのと変わらないよ……」
「大規模な侵攻作戦が控えているからな。気を引き締めねばならんのさ――さて、そろそろ見えてくる頃合いだな」
カイナンにそう言われ、僕たちの視界に入って来たのは、オリンピアスの中心に鎮座する巨大な黒い塊……機械仕掛けの城ヘライアだった。
「――ようこそ、オリンピアスへ。お出迎えできなくてごめんなさいね」
謁見の間で僕たちを出迎えてくれたのは、目を細めて笑いかけてくる女――聖女レア・エ・フラータ。
そして、不機嫌そうな態度を隠そうともせず、ずっと僕を睨みつけてくる男――宰相ヴォイドだった。
(なんだ、あいつ……ただ笑ってるだけのあの女も息苦しくなるけど、あいつはもっと……僕への悪意を隠そうともしていない……気持ち、悪い……っ)
悪意や敵意には何度も曝されてきたけど、あの男が向けてくる感情は今までに感じたことがない。別の何かと言ってもいいくらいだ。このまま目を合わせていたら、頭がおかしくなり……そうで……。
「今日からこのオリンピアスが、あなたたちの暮らす場所に――」
「……ソロ!?」
「あらあら、ソロはお疲れのようね? 今日はゆっくりと体を休めるといいわ」
「あ……お心遣い、ありがとうございます」
「では、部屋までは私が案内しよう。2人共、私の後に――」
「待て、そこの女。そう、お前だ」
「なんでしょうかヴォイド様」
「お前は後で私の部屋に来い」
「私……ですか?」
あの眼に宿るものの正体を、僕は知っているような気がする。
他者を自分に都合のいい道具としてしか見ていない、あれは……僕を厄介者扱いした奴らと同じ眼だった。
ヴォイドから嫌なものを感じた僕は、こっそりゼファーの後を追うことにした。
部屋から出て行く時に見えたゼファーの不安そうな表情が気になったのもあるけど、権力でゼファーを言いなりにしようとするその態度が、何より気にくわなかったんだ。
気付かれないように距離を取って通路から顔を出してみると、ちょうどゼファーがヴォイドの執務室に入っていく。
僕は慌てて部屋に向かう。そのまま扉にぴたりと耳をくっつけて会話を聞こうとして――
『い、痛……っ……やめ、て……』
飛び込んできたのは、ゼファーのうめき声。
その瞬間、僕の頭の中は真っ白になり、力一杯に扉を蹴りつけていた。
部屋に入ると、すぐ真横でゼファーが押さえつけられている光景が飛び込んでくる。
ゼファーは少しだけ驚くと、今にも消えてしまいそうなか細い声で言った。
「ソ、ソロ……」
「お前! 今すぐゼファーから離れろ!」
「貴様ァッ……!」
2人の間に割って入った僕は、全力でヴォイドを突き飛ばす。
「グゥ……ッ!」
「二度とゼファーに触れるんじゃない!」
「あっ……」
床に転がったヴォイドは無視して、僕はゼファーを連れて部屋を飛び出した。
部屋からは不快な声が延々と響いてくる。あんなふざけた奴に、ゼファーが傷つけられずに済んで本当によかった……。
――
――――
「クソッ……能無しのガキが……母上の血を引く優秀な私を……ただで済むと思うなよ……ッ!」
ソロに突き飛ばれたヴォイドは、誰に言うでもなく延々と恨み言を吐き続けていた。そして、ゆらりと立ち上がり、開け放たれたままの扉を睨みつけると、一層怒りを露わにする。
「指導者たる私にこそ、母上の寵愛が向けられるべきなのだ! それなのに……ッ!」
手当たり次第に物を蹴散らしていると、ふと壁に立てかけられた大きな母の肖像が視界に入る。すると、あれだけ怒りに震えていた身体はいつの間にか鳴りを潜め、普段の冷静さを取り戻していった。
「ああ、母上……母上……」
ヴォイドは陶酔しきった笑みを浮かべながら、愛おしそうに母の肖像に頬を擦りつける。
どれくらいの時間そうしていたのだろう。
「フゥ……」と吐息をこぼすと、ヴォイドは言った。
「ク、クク……ここは私の城だ、適当に理由をつけて奴を隔離してしまえばいいだけのこと。いや、むしろ、奴らを“また”けしかければ……」
「――まったく、不用心にも程があるな」
「ァァァ……? ふん、カイナンか。貴様を呼んだ覚えはないのだが?」
「たまたま近くを通りがかってみれば、亡者のような叫び声が聞こえてきたものでね」
「フン、わざわざ出張ってきて、何を……まさか、あの無能に当てがったのは貴様の差し金か?」
なんらかの思惑に気付いたヴォイドは、ぎろりとカイナンに鋭い眼差しを送る。
だが、当のカイナンは素知らぬ顔で受け流すのみ。
「憶測で物を語るのがお前の悪い癖だな。その執心が己の身を焼かないといいが」
「不敬だ! それ以上愚弄するならば、いくら貴様といえど処罰してくれる!」
「これはこれは……だが、これだけは覚えておいてほしい。己の欲求を満たすだけで威を振りかざそうとするなら、私も黙って見過ごすわけにはいかないと」
悠然と佇むカイナンが一瞬だけ見せた威圧感。
普段見せることのない男の本質に触れたような気がして、ヴォイドは気圧されてしまった。
「……チッ!」
「ああ、それともうひとつ。ゼファーを充てがったのは、“私”の意志ではないよ」
「何……?」
それだけを言い残して、カイナンは部屋を後にするのだった。
オリンピアスにも僕の居場所はない。
それはヴォイドとの件で嫌ってほど理解できた。
だから、少しでも早くこの状況から抜け出す方法を考える必要がある。
確か……エステルが言ってたはず。
何事も、まずは情報を集めることが先決だって。
今この場所がどんな状況に置かれているのか、それを調べるのには数日かかった。
オリンピアスの状況を大まかにまとめるとこうなる。
ひとつ、機械種との大規模な戦闘が近いこと。
ひとつ、人員を各地から手広く集めていること。
ひとつ、個々の練度にかなりの差が生まれてること。
今なら新兵を装って戦地に向かう飛行船に乗れば、脱出できるかもしれない。1人じゃ難しくても、僕らは2人だ。
「――僕はここから逃げる」
「えっ!?」
ゼファーの部屋にやって来た僕は真っ先に宣言した。
「どうして私にそんなことを言うの? もし私が誰かに告げ口したらって思わなかったの?」
「ゼファーはそんなことしない。僕には分かる」
ここに僕たちの居場所はない。それはきっとゼファーも感じてるはず。
だから、一緒に逃げてくれる……僕は勝手にそう思っていた。
「……どうしてソロに分かるの? 私はもう、自分が何者なのか分からないのに……」
「ゼファー?」
僕の前で苦しそうに言葉を吐き出す姿を見て、僕はなんて答えればいいか分からなかった。
僕が知っているゼファーは、優しくて、温かくて。
いたずらをしても笑って許してくれる。でも本当にいけないことをした時は、ちゃんと怒ってくれる……そんな人。
だから、僕の目の前で涙を流すことなんて、一度もなかった。
ずっと“強い”人だって思ってたんだ。
「私はこれから……どう、生きていけば……いいの……?」
こんな時、なんて答えてあげればいい?
かける言葉が見つからない。
どう励ましてあげれば、ゼファーは泣くのをやめてくれる? 刷り込まれた記憶にも、当然答えはない。
クソ……僕はなんて無力なんだ。
強くなりたい……もっと、強く……!
だったら、どうする?
……決まってるだろ。今僕にできることは……自分の言葉で、正直な気持ちをぶつけるしかないんだ。
「ゼファー、一緒に逃げよう! ゼファーにそんな顔をさせるオリンピアスなんかに、いつまでもいられるもんか!」
「え……でも……私なんか……」
「“でも”も“どうして”も関係ない!決めたんだ。僕が、いや、“俺”が! 必ずゼファーを連れ出すって! 置いてかない、ゼファーは俺のたった一人の、家族だから!」
お願いだから、俺の手を取ってくれ。
一緒にここを抜け出してほしい。
ゼファーは黙って俺の手を見つめると、やがて目尻の涙を拭い、手を取って笑ってくれた。
「ありがとう。私を家族と言ってくれて」
「当然だろ、ゼファーがいてくれたら、俺は他に何もいらないんだ」
繋いだこの手の温かさを、俺は絶対に忘れない。
そして、いつか必ず、ゼファーを護れる強い男に、なってやるんだ!
「ソロとゼファーが……逃亡しただとぉぉぉぉ!?クソアァァァッ!」
衛士から報告を受けたヴォイドは、怒りに任せるまま机に置かれている物を薙ぎ払った。
大陸中央部への侵攻作戦を隠れミノにしたソロの計画は、見事に成功したのである。
「動向は把握できているんだろうな!?」
「ま、まだ確定ではありませんが……エフェスコロニーからアルヴィール方面に航行予定のないエアロクラフトが向かったという情報が……」
「アルヴィールか……」
ヴォイドは親指の爪を噛みながら、何事かをつぶやくと、打開策を見出したのか右腕を高らかに振り上げた。
「アナトリアへ向かったロトに繋げ! 奴の部隊なら追いつけるだろう!」
「ハッ! 宰相閣下の仰せのままに!」
執務室を出ていく衛士を後目に、ヴォイドは再び爪を噛む。
「逃がさんぞ……母上の寵愛を受けるのは、この私だけだ! お前じゃないんだよ、ソロォォッ!」
――
――――
時を同じくして、カイナンの執務室を訪れる男がいた。
やたらと目を引く出で立ちに、主張の激しい髪型。およそ衛士とは思えぬその姿は、何処か旧人類の文明の名残を感じさせる。
男は大袈裟な身振りで敬礼すると、神妙な顔つきで言った。
「ヨアキム・イヤムル、只今到着いたしました~」
「全く……相変わらずだな。敬礼ぐらい最後までビシッとできないのか」
「ハハ、これが俺の持ち味ってヤツでしてねぇ」
「ふん……まぁいい」
「それで、生い先短いしがない傭兵の俺を、わざわざオリンピアスに呼んだってことは、旦那自ら俺の引退を祝ってくれるんですかね?」
「お前を呼び寄せたのは他でもない、何処にも属さぬお前にしか頼めないことがあるからだ」
「ハァ……少しは話に乗ってくださいよ旦那ぁ。ま、そんなことだろうとは思ってましたが。で、今度は俺に何をさせようっていうんですか?」
「オリンピアスから逃げ出した、とある人物を追ってもらいたい」
「とある人物ぅ……? その言い方からして、もうイヤな予感しかしませんね。降りてもいいですか?」
言うが早いか、ヨアキムは踵を返して扉へと向かう。
その行動すら予想の範疇なのか、カイナンは淡々と告げた。
「……そうか、残念だ。この依頼の報酬が、シラクスの快適な所領と自由階級の身分と引き換えに、と言ってもか?」
「それを先に言ってくださいよ旦那ぁ! このヨアキム・イヤムル、どんな依頼にも全力でお応えしましょう!」
胡乱げな態度は何処へやら、体の向きも態度も180度反転させて、ヨアキムは意気揚々と応じるのだった。
オリンピアスコロニーを離れてから数日。
俺たちはエフェスコロニーの東側に広がる砂漠地帯を進んでいた。追手とは未だに遭遇していない。
このまま順調に航行を続けられれば、北方領域には問題なく渡れるはずだ。
エアロクラフトに搭載されているナビゲーターは、砂漠地帯の北東にあるコロニーを示している。
「このマップが合ってるなら、もう少しでアルヴィールコロニーか」
「ええ。そこで補給できたら、後は北に向かうだけ。それにしても、こんなに上手くいくだなんて思いもしなかったわね。出来過ぎなくらいよ」
俺とゼファーは他にすることもなく、ただぼんやりと外の景色を眺めていた。
赤茶けた砂だらけの砂漠の向こうに、赤焼けた太陽が沈む。もうすぐ、夜が来る。
「この景色も、今日で見納めかしら……もっと見ていたかったわね」
「そんなに良いものか? ずっと砂漠で、俺はもう見飽きたよ」
そう言うと、ゼファーが急に俺の方を向いて、目を丸くしながら叫んだ。
「この良さが分からないの? ソロにはまだ自然の魅力は伝わらないのかしらね」
「はいはい、どうせお子様の俺には分からないよ」
「ふふ。きっと、それが分かる頃にはソロはもっと大きくなっているわね。その時が来るまで、私の耐用年数がもてばいいんだけど……」
「はあ? ゼファー……なんだよ急に……」
「この景色を見ていたら、少し寂しくなっちゃって」
目を伏せながら寂しそうに笑うゼファーを見て、俺は思わず口走ってしまった。
「そんなこと言うなよ。お、俺が……いるだろ……」
「じゃあ、約束してくれる? ソロが成長したら、またこの景色を一緒に見に来ようって」
「ああ、するよ、約束する。絶対に二人で、またここに来よう」
「ソロもそういうことが言えるようになって、私は嬉しいわ……さあ、そろそろ陽も暮れるし、寒くなる前に寝ましょうか」
コロコロと態度が変わるゼファーに、俺はどう答えていいか分からなくて、ぶっきらぼうに返す。
そのまま寝台に向かおうとすると、ゼファーに呼び止められる。
「ソロ……ありがとう」
「お、おう」
夕陽に照らされる中で微笑んでいたゼファーは、なんだか現実感がなくて、なんていうか、とても綺麗だった。
翌日。
船は無事にアルヴィールコロニーに到着した。
エアロクラフトをコロニーの外れにある岩陰の近くに泊めて街中へと向かう。
ゼファーはカイナンからの密命を受けているという話を相手によって使い分けながら、補給と物資の調達を進めていった。
完璧とまではいかなくても、これで北方領域に向かうには十分。追われているのを忘れそうになるくらい平和な旅路に感覚が麻痺してしまいがちだが、ここに長居はしていられない。
距離はできるだけ稼いでおいた方がいいからだ。
「ゼファー、そろそろ行こう」
「え、もう行くの? せっかくだからもう少し……」
「そのほんの少しの油断が命取りになるかもしれないだろ、だから――」
「その通りだぜぇ、お二人さん!」
「ッ!?」
なんの気配も感じさせずに、俺たちの背後にそいつはいた。俺は振り向き様、銃を取り出して相手に向け……ん?
「なんだ……お前?」
銃を向けられているにも関わらず、目の前に立っている男は、腰に下げた銃に手も伸ばさないでやけに派手な髪をいじっていた。
「おいおい、いきなりお前呼びだなんて失礼なヤツだなぁ、お前!」
「はあ? 言ってるそばから自分で使ってるだろ!」
聞いてるのか聞いてないのか、男は指をパチンとひと鳴らしして勝手に名乗り始めた。
「俺はしがない傭兵のヨアキムってもんだ。お前らがソロとゼファーだな? 俺は旦那の――」
こいつ……追手だ!
即座に、余裕をかましている男へ向かって引き金を引いた。
「あぶねえな! ここで死んじまったら俺の隠居生活がおじゃんになるところだったぜ!?」
……こ、この距離で、俺の「バラキエル」を避けるのか? 見た目とノリはふざけてるけど、想像以上にできる……!
「ソロ!? いくら街の外れでも、これじゃ人が来ちゃうわよ?」
「ごめん、ゼファー。でもこいつはどうにかしておかないと……!」
「おいおい、ずいぶん余裕かましてるなぁ。名前で呼び合ってたらよ、俺たちはここにいまぁーす!って、宣言してるようなもんだぜぇ? 緊張感のない奴らだなぁ!」
「お、お前にだけは言われたくない!」
クソッ、なんなんだあいつは!
ダラダラダラダラしゃべってばっかりで、何もしてこない。調子が狂う。
「まぁ落ち着けって。俺は怪しいもんじゃないぜ?俺はカイナンの旦那にお前さんたちを保護するよう頼まれてやってきたんだからなぁ」
「カ、カイナン様の?」
「そうだぜ、お嬢さん!」
ヨアキムは物陰に身を隠しながら、ひらひらと両手を振って無害さをアピールしてくる。
「いいか? 俺は別にドンパチやりにきたわけじゃない。今出てくからな! いいか、撃つんじゃないぞ?これはフリじゃないからな!?」
それからすぐにヨアキムが物陰から姿を現した。
「だからよ、大人しく俺と一緒にオリンピアスに帰ろうぜ?」
「あんな胸クソ悪いところに、戻るわけないだろ」
「お前さん、どうしてそうまでして逃げたがる?聖女様の忘れ形見なんだろ? 逃げ回るより好き勝手に生きられるんじゃないか?」
「だからだよ! あそこにいる奴らは、腹の中じゃ俺を利用するか、あわよくば殺そうと考えてる奴らしかいない。そんなところにいてたまるかよ!」
「なるほどなぁ。だが、こんな生活がいつまでも続けられると、本気で思ってんのか?」
「続けるさ。俺たちを誰も知らない場所に、いつかたどり着くまでな」
「へえ……?」
ヨアキムの態度が少し変わったような気がする。
さっきまでの軽口も消えて、まるで俺の意志を確かめているような……そんな雰囲気になっていた。
「あるかどうかも分からんものに全力を注ぐか……だが、分かってんのか? 自由に生きることの方が、遥かに難しいってことを」
「難しい?」
「“生きる”ってことは、その時点で既に戦いが始まってるんだよ。絶対に避けられねえ。それはお前が言う場所に行けたとしてもだ」
「そ、そんなこと……っ」
確かに……その通りかもしれない。
生きている限り、きっとそれは一生ついて回る……。真人に機械種や帰還種、環境だってそうだ。
隙を見せたら、簡単に飲み込まれるかもしれない。
ただ逃げてるだけじゃ、ダメなんだ。
「どうした、怖気づいて帰りたくなったか?カイナンの旦那を上手く使えば、逃げ回るよりも簡単に生きていけるかもしれないぜ?」
「俺は……帰らない」
「じゃあ、もしここで俺と戦うことになってもか?」
「戦う。戦ってやるよ……お前みたいなのが、何人現れてもなッ! 自分たちの居場所は、自分たちで作ってみせるッ!」
バラキエルを握る手に力を込める。
今ここで、こいつと刺し違いになったとしても、ゼファーの居場所だけは絶対に護るんだ!
「ハッハー、お前さん、今、俺と相討ちになってもいい、とか思っただろ?」
「ああ? だからなんだよ。戦うのか戦わないのか、どっちかハッキリしろよ!」
ヨアキムは急に押し黙る。
すると、ニヤリと口を釣り上げて笑ったかと思うと、「青い」とだけつぶやいた。
「青いねぇ、青い。実に青い! だが、その青さ、俺は嫌いじゃないぜ!」
「ハッ、なんだよそれ?」
「そのバカ正直に前しか見えてない感じ、最高にロックだ! 俺は決めたぜぇ! 旦那の依頼は無効!俺はお前らについていく!」
「ハァァ!?」
「自慢じゃないが俺は何度も戦場を渡り歩いてきた。腕は立つ、間違いない! 俺を護衛にしておけば、逃げられる可能性はグンと上がるってもんよぉ! しかも今なら料金は格安だ! もう雇うしかねえだろ!」
「……そこはタダじゃないのね」
「貰えるもんは貰う!」
俺たちの仲間になる? そう言ってるのかこいつは。
「なあ、お前になんのメリットがあるんだ。俺たちについて来るってことは、カイナンを、いや、真人全員を敵に回すってことなんだぞ?」
「なんだ、俺がいちゃそこのお嬢さんと愛の逃避行ができなくなるってか?」
「ばっ、別にそういうわけじゃ……っ!」
「なら決まりだろう! 乗るしかないぜ、俺という波にな!」
「クソ、調子が狂いっぱなしだ……コロコロ立場を変えて、結局お前は誰の味方なんだよ」
「当然! 俺は“俺”の味方だ!」
「ハハ、ったく、わけ分かんねえよ、それ……」
こいつが本当のことを言ってるのは、眼を見れば分かる。本気で俺たちについて来ようとしているんだ。
「ゼファー、いいかな?」
「構わないわ。貴方が信じた人なら間違いないもの」
「そうこなくっちゃな! 改めて名乗らせてもらうが俺はヨアキム・イヤムルだ」
「俺はソロ、ソロ・モーニアだ」
「私はゼファー・ニアルデよ」
「そうか、よろしくな、“ニアニア”!」
「ニア……何言ってんだお前?」
「どっちも名前に“ニア”が入っててちょうどいいだろ? てなわけで、よろしくな!」
差し出された手を取り、握手を交わす。
この瞬間から、俺たちの旅路にやたらとさわがしい奴が加わった。ペースは狂うし、さっきから横で変なあだ名をつけようとしてて、うるさくて仕方がない。
だけど……。
この感じ、俺は嫌いじゃなかった。