【黒ウィズ】フェアリーコード3 Story
フェアリーコード3 Story0
目次
story
世界が。
静かだった。息を潜めているように――いや、息すらも凍てついたように。
ひとかけらの音もなく、無限の静寂に沈むだけ。
そのなかで。
面白い音をしているな。
彼女は言った。ささやくように。それすら静寂のー部のように。
この世のものではないようだ。
その言葉が、自分たちのことを指しているのだとわかって。
君とウィズは、ようやく我に返った。
そうだ。君たちは、この異界の人間ではない。異界からの訪問者――クエス=アリアスの魔導去だ。
だが、なぜ。いつの間に来ていた……?
君は、何者にゃ?
ウィズが尋ねた。それで君も、ようやく気づいた。
目の前にいる女が――この場を覆う静寂のー部としか思えなかった彼女が、見知らぬ誰かであることに。
切れ長の目が、君を見た。
淡く色づいた唇が、ひとひらの名をそっと押し出すようにつぶやく。
……スニェグーラチカ。
Zグゲェッ!
無粋な叫びが、無限の静寂を引き裂いた。
歪な音の鎧をまとった怪物――暴走妖精が、横合いから突然すっ飛んできて、君たちの間を横切っていく。
それを追って飛んできた、見覚えのある少女たちも。
ブレイクよ!
あ、ルミちゃん横。
横?
目が合った。
どうも、と君はあいさつした。
は???
ルミスは、何やってんだおまえみたいな顔で固まった。
あ、ルミちゃん前!
前?あ、こら逃げるな!
ルミスがフリーズした隙に、暴走妖精が翅音を広げて飛び立とうと――
する直前、あの女が、暴走妖精の肩に手を置いていた。
凍(き)えろ。
ばきり。
雪の積もりすぎた枝が折れるような音を立て、暴走妖精は動きを止めた。
いや。その場のすべての音もろとも、凍てついていた。
これって――
凍りついた暴走妖精は、突然、吹雪のごとく粉々に砕け散った。
きゃっ――
実際、吹雪そのものとしか思えない雪混じりの冷風が吹きつけてきて、君たちは思わず腕で顔をかばう。
吹雪は、すぐに止んだ。
腕をどけると、路地にはもう女の姿はなく――暴走から解放された妖精の音が、ふわふわ浮いているだけだった。
何、今の……?あの人がやったの?
彼女も妖精……雪の精とか、そういうのかにゃ?
かもね。日本産なら、ユキオンナってやつかも。
雪女……雪女かあ……うーん。あの人の音、どっかで聞いたことあるような気がするんだけど――
それより――
ルミスは君たちの方を向いて、あきれたような顔を見せた。
いつもいつも、唐突に来るわね、あなたたち。テングダオシのとき以来だから、これで4度目?
テングダオシ?なんにゃ、それ。
え?こないだ、いっしょに止めたでしょ。
そんなのいたっけ?と君は首をかしげる。そもそも、この異界に来たのは3度目のはずだ。
え、じゃあ、あのときのあなたたち、何?
何って言われてもにゃあ……。
エリエリといっしょにいたじゃない。
いや、知らんにゃ。誰にゃそれ。
ルミスとウィズが、ともに「?」な音色を出しまくっているのを聞きながら、君は、この手の異界で使える琴肩の言葉を口にした。
とりあえず、ファミレス行かない?と。
あらすじ
気持ちが音に、音が力になる異界。
またしてもその地に足を踏み入れた「君」は、不思議な女性と出会う。
雪の精、スニェグーラチカ。
あらゆる音を打ち消す力を持つ彼女は、
前の戦いでわずかに感情を取り戻したユリカを狙っていた。