【黒ウィズ】フェアリーコード Story4章 ~激突~
目次
登場人物
story 重なる響き
グレムリンは、空中を飛び回りながら機関銃を連射した。
飛来する弾丸の雨を、ミホロは軽やかに飛んでかわす。
彼女自身の運動性や反射神経の賜物ではない。彼女がまとう装甲――ハビィの計算と判断に、音を通じて直感的に従った結果だ。
ハビィの声――電子音が響く。現状況において最適な格闘マニューバが構築され、ミホロの身体に伝わっていく。
あとはそれに従うだけでいい。
右から行くと見せてフェイント。鋭く左から旋回しつつ接近。機関銃の銃身を弾きながら蹴りつける。
ハビィの装甲はー種の強化服だ。ミホロの動きは数倍のすばやさを、ミホロの力は数十倍の強さを発揮する。
グレムリンは翅音を展開して楯にした。強烈なー打が、翅音をギシギシ軋ませる。
グレムリンの翅音から、いびつな音が広がる。機械に干渉し、その電気信号を自在に操る音。グレムリンの得意技だ。
だが。
ミホロはさらに、怒涛の連撃を繰り出した。拳の雨が降り注ぎ、グレムリンの翅音に罅を入れていく。
こいつ――機械に心があるのかぁっ!?
電子音が響く。そうだ、と言うように。
続くミホロのー撃が、ついにグレムリンの翅音を打ち砕いた。
***
どこかの人間が、フェアリーコードを組み込んだ機械を作ったって!その機械が心を持って、妖精と戦っているって!
〈HEARTBEAT(ハートビート)〉――それがそいつかぁっ!
翅音を失い、地に落ちたグレムリンは、怒りに任せてがむしゃらに機関銃を連射する。
ハビィの電子音が鳴った。その思いを、ミホロは言葉に換える。
『機械の生み出す音だって、心から来たものなら、他の誰とも変わりはしない』――ハビィはそう言ってます!
『だから心の音色が響く!』
――そう。だからこそミホロは、ハビィと共に戦うことを決めたのだ。
フェアリーコードを組み込まれ、心を得たハビィ、自分の道を探して研究所を飛び出したハビィ。妖精に襲われるミホロを助けてくれたハビィ。
生まれたての心で、誰かを守ると決めたハビィ。ハビィがハビィであったから、その心、思いに胸を打たれたから、だからミホロも決めたのだ。
ハビィといっしょに戦うことを。見捨てられないものすべて、見捨てることなく助けることを。
ハビィが応える。外部装甲が展開し、ミホロの身体をさらした。展開した装甲に、ミホロは両手を当てる。
円盤状のパーツをスクラッチ。ハビィとミホロ、ふたりの心の音を刻む。確かな勝利につながる音を。
ミホロを襲う銃撃の雨は、広がる翅音に弾かれる。
ふたりの気持ちで、打ち砕く――!』
***
激しい音の衝撃が、グレムリンを押しつぶす。
動けない。動きようもない。ミホロとハビィ――重なり合ったふたりの音が、重石となって妖精を地に縛りつけている。
ミホロとハビィは、さらなる音を奏でた。ふたりの音がひとつになって、いくつもの音のミサイルを生み出していく。
無数の音のミサイルが、問答無用でグレムリンに着弾した。
到底、耐えきれるものではない。グレムリンは絶叫を上げて弾け散った。
すうっ、と道路に着地し、ー息。ハビィが労りの声を上げる。
うなずいて、ミホロは東京タワーに視線を向ける。
フェアリーコードの乱れが激しくなっていた。ミホロにそれを感じる力はないが、ハビィが感じたことなら、なんでもわかる。
そりゃそうだ、とばかりハビィ。
何より頼もしい装甲を再びまとい、ミホロは混沌の空へと舞い上がった。
story はちゃめちゃデビル
君たちは東京タワーを目指し、最短距離を突っ走っていた。
ルミスがギンを抱え、リレイも自前の翅音で飛ぶ。普通なら、生身の君では追いつけない。
そうはいかない、と君は首を横に振る。
困っている人を助ける。君の魔法は、そのためにある。だから、意地でもついていってみせる、と。
その思いにカードが応え、音を奏でた。その音が、君に〝魔法を使う〟力を与える。
君は風の魔法を使い、自分の身体を吹っ飛ばす。そうして跳躍と着地を繰り返し、どうにかルミスたちに追いすがった。
たとえ来たばかりの世界でも、危機に瀕しているなら、じっとしているなんてできないよ、と君は答えた。
そのとき。
上からディギィが降ってきた。
なんで上から、などと考えている暇はない。君は咄嵯に防御障壁を真上に展開。振り下ろされる斧を受け止めた。
障壁が、ー撃で砕け散る。斧はそのままルミスに迫った。
リレイの射撃。弾丸が斧に命中し、その軌道を逸らす。
加速するルミス、に向かうディギィ、の背中に君は立て続けに魔法を飛ばした。
魔法はことごとく斧に断ち割られるが、足を止めることには成功した。
ものすごく不満そうな顔をするディギィに、君とリレイは全力で攻撃を打ち込んだ。
***
BOSS:ティギィ
***
story2 広がる翅音
無造作な斧のー閃が衝撃波を巻き起こし、君とリレイに襲いかかる。
君たちは左右に散って回避した。衝撃波は道路を撃砕、まっぷたつにする。
君はいくつかの魔法をディギィに放った。
爆発する火球を飛ばして牽制。ディギィがヒョイとかわしたところへ、リレイの銃弾が飛んでいく。
ディギィの姿がかすんだ。残像すらまとうほどのジグザグ高速飛行で、銃弾すべてをかわしてり、リレイに迫る。
その眼前に、1枚のカードが躍った。
そう来るだろう、と思って使っておいた、時限式の罠魔法が発動。強烈な魔力がディギィを襲うが――
寸前、ディギィは斧の弦をかき鳴らした。音圧が詐裂してディギィの身体を吹き飛ばし、魔力の範囲の外に逃がす。
リレイが銃弾で追撃するも、ディギィは飛来する銃弾を連続で踏んでかわす。
君は驚いた。今の手で仕留められるとは思っていなかったが、まさか無傷で切り抜けるとは!
3回連続で弾丸を踏んでから、ディギィはニッと笑みを見せた。
高鳴りすぎて止まんなくなっちゃったくらい、でかくてー途で激しい音色!そうでなくっちゃ食べた気しない!だから!
ディギィが来る。弾丸のごとく。
高速飛行からの斬撃ー閃。君の防御障壁とリレイの短音が合わさり、辛うじてそのー撃を食い止める。
ぱちぱちと翅音で鍔迫り合いながら、リレイはハッと声を上げた。
***
ルミスは、慎重にギンを地面に降ろした。
そびえたつ塔――東京タワー。周囲の音は外れきり、異様な旋律を奏でている。
ギンは、苦しげにうめき、よろめいた。その背を、ルミスはあわてて支える。
ギンは微笑み、添えられたルミスの手にそっと触れた。
「これで、悲願が果たせる。」
音が弾けた。
ギンから。ギンの身体を中心に。嵐のような音があふれて、ルミスの身体を吹き飛ばした。
翅音を広げ、空中で体勢を整える。大きく見聞かれた夜空色の瞳に、目の前の光景が映り込んだ。
翅音。
広がっている。ギンの背から。世界を引き裂かんばかりの音の嵐を奏でて。
ギンは、あの紅い結晶を取り出した。
それは彼女の左手の上で歪み、変形し、笛の生えた楯のような形状を取った。
何が起きているのか。まるでわからず、茫然となるルミスに、ギンは、優しさと痛みの混じった瞳を向ける。
人間は、性悪よ。
story 暴走
その名は、ルミスも知っている。冬に現れ、雪を降らせるという、スコットランドに伝わる魔女妖精(ハグ)である。
だが、なぜ日本生まれの人間であるギンが、遠い異国の妖精の力を宿しているのか。いや、そもそも――
ギンは答えず、ふわりと宙に舞い上がる。
視線が向くのは、東京タワーの頂――フェアリーコードの乱れが最も激しい場所。
ギンが、フェアリーコードの乱れを止めるために来たのではないとすれば。音の塊を別の用途に使うとすれば、それは――
ルミスはフィドルを剣に変え、ー直線にギンヘと向かった。
対してギンは、そっと左手の楯をかざす。
激突。ルミスのー刀は、たやすく受け止められた。冷たく澄みきった音が響く。
邪魔をするなら、ここで手折(たお)るわ。あなたでも!
ギンの音が膨れ上がった。
空いた右手が、ルミスの胴に叩き込まれる。ルミスは咄嵯に翅音を割り込ませたが、その上から、凄まじい音の詐裂が走った。
声。
ルミスは、なすすべもなく宙を舞いながら、ちぎれかけた意識をどうにか保って、後ろを振り向く。
どういうわけか、リレイと魔法使い、それにディギィが、こちらに飛んでくるところだった。
ただ、この地のフェアリーコードが乱れたとき、その余波で、身体に音が宿ったの。ケラッハ・ヴェールと同種の音が。
言うなれば、半人半精ってところかしら。
早く止めなきゃ、世界が壊れるあなたの友達は、それを止めようとしたんでしょ!?
ギンは、憂えげに目を伏せた。尽きせぬ痛みに耐えかねたように。
それでも足りなくて、大きな被害が出たわ。地獄のような炎が、街全体に燃え広がった。今では、明暦の大火と呼ばれているんだったわね。
それが、これよ。
世界各地で集めに集めた音の塊。これなら彼らの代わりに穴を埋め、彼らを助けることができる。
あなたの友達は、それを防ぎたくて我が身を賭したんでしょうに!
なぜ、妖精だけが我が身を賭さねばならないの?なぜ、人間は何も知らず守られているだけなの?
あなたの言う通りよ――ルミス。妖精は世界を愛し、守ろうとする。でも人は違う。人は世界より自分が大事。
だから、人も、犠牲を払うべきなのよ。妖精だけに、辛い仕事を押しつけずに。
それだけ言い残して、ギンは真上に跳び上がった。
追いかけようとしたルミスが、空中で、ガクンとくずおれた。
そのまま力を失い、落下していく。